突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 サイドストーリー
恋人の章 陽だまりの中で少女は佇む。

恋人 2.369810%
・大城道理は病院である一人のPKMに一目惚れする。
しかしその子には秘密があった。
いつも病院の庭のベンチに佇む少女、気が付けば退院も迫っている。
果たして大城の恋の行方は?

突ポ娘 サイドストーリーズ
恋人の章 陽だまりの中で彼女は佇む



大城
 「あー暇だなー」

俺の名は大城道理(おおきどうり)、12月のある日ある女の子を庇って足を骨折、今も寂しく年末を過ごす独り身の男だ。
最近は紫音ちゃんもめっきり来ないし、本当に暇を持て余している。
おまけにお見舞いに来てくれるのも常葉位で、夏川の野郎は全く来やがらねぇし。

大城
 「何か退屈凌ぎはねぇかな」

俺はふと病室の窓を見る。
良い天気だなー。



***



大城
 「面倒だけど、外に出てみたぜ」

と言っても、病院の敷地内だが。
俺は松葉杖をついて院内の庭を散歩した。
まぁ真面目な話、こんなクソ寒い冬に庭を出歩く奴はいないよな。

大城
 (しかしまぁ太陽が程よく暖かいな)

俺は面倒な松葉杖をなんとか扱いながら、庭を進む。
改めてスローライフだなぁと思う、いつも仕事に追われてこんな事考える暇も無かったよ。


 「ここが好きですか?」

大城
 「……は?」

俺は突然横から女の子の声が聞こえ、振り返った。


 「私は、好きです……」

そこに居たのは緑色の髪をした少女だった。
パジャマの上からストールを被っているが、ほっそりとした姿から病弱なイメージもある。
ただ美しい緑色の髪がスラッと腰まで伸びて、かなりの美人のようだ。

大城
 「君、病院が好きなの?」

少女
 「え?」

少女が俺に気が付くと、大きな目を更に見開いた。
つか、気付いていなかったのかよ……俺そんなに存在感薄いのか……?

少女
 「えと……あの」

大城
 「俺は大城道理、隣座っていい?」

少女
 「どうぞ」

少女は少し横にずれると俺は隣に座った。

大城
 「おー、ここ陽が当たって気持ちいいなぁ」

少女
 「はい、私お日様の香りが大好きなんです」

成る程、少女の好きって病院の事じゃなくて、日差しの当たるこの場所のことか。

少女
 「この陽だまりのベンチ、ここが好きなんです」

大城
 「確かに、気持ちよくて眠くなっちまう……好きになるのも分かるぜ」

少女
 「クスクス、眠ってしまったら風邪を引いちゃいますよ?」

少女はそう言うと手を口に当てて笑った。
流石に少し間抜けだったかな?

大城
 「さて、俺はもう行くわ。君も風邪を引かないようにな」

少女
 「はい、ご機嫌よう」

俺は杖を強く握って立ち上がると、病室に向かう。
途中振り返ると少女は未だベンチに座っている。

大城
 (それにしてもあんな可愛い子も入院してたんだな、名前聞くの忘れてた)

俺は少しだけ、あんな可愛い子と出会えたことを嬉しく思う。
もしかしたら、また明日もあそこに行ったら会えるかな?
俺はそんな淡い期待をしながら、病室のベッドに戻るのだった。



***



次の日、同じ時間にその場所へ行くと今日も彼女はベンチに座っていた。

大城
 「よっ、隣いいかな?」

少女
 「大城さん」

少女は俺に気が付くと微笑んでくれた。
少女は少しズレると俺はそこに滑り込む。

大城
 「そう言えば、昨日聞き忘れていたけど、君の名は?」

少女
 「奏(かなで)と言います」

大城
 「奏ちゃんか……良い名前だな」


 「そんな……」

奏ちゃんは名前を褒められると照れてしまう。
うーむ、臭かったかな?
俺は頭を掻くが、少女は楽しいのか笑っている。


 「大城さんって社会人なんですよね?」

大城
 「まぁね、所謂頭脳労働。奏ちゃんは高校生位かな?」


 「私は……PKMだから」

大城
 「あ、そうだったのか……」

少女は一見すると殆ど人間と区別がつかない。
強いて言うと不自然なほど美しいエメラルドグリーンの髪位だが、俺にはPKMとは分からなかった。


 「メロエッタというポケモンのPKM、それが私なんです……」

大城
 「そうだったのか……」


 「大城さん、働くってどんな感じなんでしょうか?」

大城
 「そうだな、俺にはただ生活をするだけ……そのための行為、今まではそう思ってた」


 「思ってた? 過去形?」

大城
 「俺、ずっと誰かのために頑張ろうと思わなかったんだよな、でも同僚に誰かのためにめっちゃ頑張れる奴がいるんだよ……俺は羨ましいって思ってな」

ああ、この前常葉の奴茜ちゃんと仲睦まじく見舞いに来たとき流石にちょっと嫉妬したっけ。
だけど俺もあんな風に頑張れる相手がいるなら、世界が変わるのかな。


 「素敵ですね……誰かのために頑張れるなんて……私もそうなれたら……」

奏ちゃんはそう言うと俯いた。
それにしてもどうして働くって事を聞いてきたんだろう?


 「ラーラララ、ラ、ラーラ、ラ、ラーラララン、ラララッラン♪」

奏ちゃんは静かに歌い出す。
それは聞いたことのない歌で、静かに世界を音で満たしていくようだ。

大城
 「良い歌だね」


 「……ありがとう御座います」

奏ちゃんは空を見上げた。
陽光が奏ちゃんを照らすと、キラキラと輝いて見えた。

大城
 (やべ! 可愛すぎて顔に出たか!?)

俺は慌てて紅くなった顔を隠す。
奏ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

大城
 「あ、そ、そろそろ戻らないと!」


 「あ、大城さん……その」

大城
 「え、なに?」

奏ちゃんが汐らしく俺の服の裾を引っ張る。
俺は振り返ると、彼女は少し哀しそうに。


 「また……明日も来てくれますか?」

大城
 「ああ! 勿論だとも!」



……そして、それからも俺と奏ちゃんは何度もここで会った。
奏ちゃんはいつも陽だまりの中で佇み、その姿はとても美しい。
俺は次第に愛おしくなり、会う事も多くなった。
しかし、それもいつかは終わりを告げる。




 「退院ですか」

大城
 「ああ、骨もようやくくっついたし、先生もギプスはずして良いってさ」

俺はそう言ってピョンピョンジャンプする。
もうすっかりこんな動きをしても大丈夫になった。
結局丸々1カ月、仕事を離れたんだよな。
暫くは皆に迷惑かけるかも。

大城
 「奏ちゃんはいつになったら退院なんだ?」


 「私は……きっと、すぐです。直ぐに出られると思います」

大城
 「……そうか」

彼女は一瞬暗く俯いたが、直ぐに元気な顔を見せてくれた。
実を言うと、奏ちゃんがなんで病院に入院しているか、知らないんだよな。
それどころか病棟も知らない。
それでも俺はいつものように相手に深くは関わらなかった。
それが俺であり、俺はそうやって誰とも一定以上の関係になろうとはしなかった。

大城
 「今までありがとう、入院生活を楽しくしてくれたのは間違いなく奏ちゃんだよ」


 「私こそ……」

俺はなるべく奏ちゃんに笑顔を見せた。
だけど奏ちゃんはやっぱり寂しそう何だよな。

大城
 「この後、荷物纏めて帰るんだ」


 「そう、ですか……」

大城
 「……それだけ、じゃあな」

俺はやっぱり寂しいと思いながらも帰り支度のために病室に戻る。
最後は……振り返らなかった。



***



大城
 (……何だろう、こうぽっかりと穴の空いた感じ)

俺は久し振りに家に帰ると、そのまま無造作に布団に倒れ込んで天井をじっと眺めた。
俺は一人暮らしだから家は本当に最低限で小さな家に住んでいる。
それこそ病院の個室より狭いんじゃないかって寝室で俺は懐かしい匂いを感じながら眠りについた。

大城
 (寒い……寒いんだよな)

1月末の寒さは堪える。
あの陽だまりの暖かさが忘れられない。
でも……陽だまりの中ではいつも彼女がいて、そんな彼女が忘れられない。

大城
 「ラーラララ、ラ、ラーラ、ラ、ラーラララン、ラララッラン……」

ふと、彼女の歌を俺は口ずさんだ。



***



ザァァァ……!

次の日、俺の仕事は明日からという事で、一人寂しくしていた。
今日はまるで俺の心証をそのまま表現しているかのような雨だった。
雨自体は強くはないけど、それでも冬の雨はキツいよなぁ。
そんな事を考えながら、俺は傘を差して久し振りの街を出歩く。
気が付けば、PKMが学校に行くこととか労働することが認められたらしく、今では街でPKMを見かけることも珍しくはなくなっている。

大城
 「病院……」

ふと、病院の前に足を止める。
そこは俺が入院していた病院ではなかったが、どうしてもその中を見てしまった。
ふと……俺は脳裏に彼女の姿が映る。

大城
 「……まさか、な!」

俺は駆けた。
あの子が入院する病院に!
我武者羅に走って、びしょ濡れになりながら、息を切らして目当ての病院に到着する。

大城
 「外れてくれよ!」

俺は嫌な予感を益々増大させながら、病院の奥へと向かう。
雨が強く降りしきる庭、たった一つの白いベンチに……彼女はいた。

大城
 「奏……何やってんだよ!?」

俺の声にびしょ濡れの彼女はゆっくりと振り向いた。


 「良かった……ここにいたら、貴方と会えた」

彼女はそう言うと優しく微笑んだ。
その顔は死にそうなほど白く、でも嬉しそうだった。
兎に角俺は彼女の身体を抱き留めると、急いで院内に入った。
びしょびしょの二人に驚いた看護士たちが俺たちの周りに集まると、俺はすっかり冷たくなった奏ちゃんを看護士に渡す。

大城
 「奏ちゃんをお願いします!」

しかし奏ちゃんは俺の裾を握った。
とても寂しそうに、行かないでと訴えている気がした。

大城
 「あの、奏ちゃんの病室、ついて行って良いですか?」

医師
 「……失礼じゃが彼女との関係は?」

突然腰の曲がった老人の医師が近寄ってくる。
もしかして奏ちゃんの担当医だろうか?

大城
 「その……友人……いえ、好きなんです! 彼女を愛してるんです!」


 「大城……さん!」

医師
 「ほほ、若いもんは大胆じゃの〜、良かろうワシは藤(フジ)、メロエッタちゃんの専属医じゃ」

大城
 「専属医?」

担当医じゃなくて専属医、俺はその言葉に猛烈に嫌な予感を覚えた。


 「まぁここではなんじゃ、ついてくると良い」

老人は重たい足取りで、病院の中を進むと突然頭にタオルが押し付けられる。


 「ほら、早く頭拭きなさい!」


 「ほっほ、菊子ちゃんか」

菊子ちゃんと言うのは身長が高く目つきの鋭い医者だった。
かなりのスタイルの良い美人のようだが、性格はキツそうだな。

菊子
 「産婦人科の紫苑菊子(しおんきくこ)です。さっさとしないと風邪引くわよ!?」

大城
 「す、すいません……!」

俺は急いで頭を拭くと、紫苑さんはタオルを引ったくる。
藤先生もそれを見てから再び歩き出した。


 「因みに、メロエッタちゃんが何故入院しているか、知ってるのかの?」

大城
 「いいえ……重い病気なんですか?」


 「やっぱり話してないか……メロエッタちゃんめ」

藤先生はそう言って首を左右に振ると、ゆっくり語り出す。
俺はその言葉を一つ一つしっかり耳に入れる。


 「メロエッタちゃんはとても身体が弱く病弱じゃ、それこそフォルムチェンジできんほどに」

大城
 「フォルムチェンジ?」


 「なんでもボイスフォルムとステップフォルムの二つの姿を持つらしいが、彼女は常にボイスフォルムの状態にある」

大城
 「その、原因は?」


 「原因不明……PKMだけが持ち、現代医学では治療不可能の病じゃ」

大城
 「そん、な」

病……何らかの病気とは思っていたけど、まさ不治の病だなんて思ってなかった。
俺は絶望しそうになるが、しかし彼女がまだ生きてることに希望を抱く。

大城
 「所で奏ちゃんには保護責任者は?」


 「ほっほ、おらんよ。まぁ謎の病持ちを欲しがる人間もおらんて」

大城
 「そんな言い方……なら、俺がなります! 彼女の保護責任者に!」


 「純愛野郎じゃのう……まぁ焦らず、メロエッタちゃんと話すが良い」

気が付くと、PKMメロエッタと書かれたネームプレートの部屋に到着する。


 「大城さん……!」

大城
 「奏ちゃん!」

俺は新しい服に着替えた奏ちゃんを見つけると、直ぐに駆け寄った。
奏ちゃんはベッドで嬉しそうに微笑んでくれる。


 「私……嬉しいです。好きって言ってくれて、貴方に愛してるって言われて……」

大城
 「俺は陽だまりの中の君が大好きだったんだよ、キラキラ輝いてて、そこらのアイドルよりずっと綺麗で可愛くて!」


 「ほっほ、のろけおるなぁ、メロエッタちゃん、気分はどうかの?」

俺は藤先生に突っ込まれて、気恥ずかしさに顔を真っ赤にした。


 「今は……凄く気分が良いです」


 「じゃが、体力の限界じゃろう?」

奏ちゃんの身体は細い、いや細すぎる。
抱きかかえた時、あんなに軽いとは思わなかった。
それだけ彼女が虚弱なのだと分かる。
まさかとは思ったが、雨でもお構いなしに同じ場所にいるとは思わなかった。

大城
 「奏ちゃん……お願いだ! 俺に君の保護責任者にさせてくれ!」


 「! でも、私なんか……」

大城
 「迷惑だなんて思わない! 俺は君と結婚したい!」


 「! あれ……涙が」

奏ちゃんは俺の熱い想いを受けて、涙をこぼした。
でもそれは哀しくてこぼした涙じゃない。


 「私も、大城さんのことが……ううん、道理さんの事愛してます……!」

大城
 「奏ちゃん……」


 「もし私のことを妻にしてくれるなら、呼び捨てにして」

大城
 「ッ! 奏! 絶対離さないぞ!」

俺は奏の身体を抱きしめる。
奏は細すぎる位だけど、その柔らかい身体から暖かい鼓動を感じる。
それは陽だまりの暖かさだった。



……その日俺は保護責任者になった。
奏を妻として娶り、奏の希望で退院することになった。
その際、藤先生は奏の持ち物を持ってきた。


 「彼女が顕現したのは病院の庭での、これがその時の持ち物じゃ」

まず、目に入ったのは真っ黒な服、普通の洋服じゃなくてアイドルが着るかのようなセクシーな物だった。
そして不思議な形をしたインカム。


 「一応医者として忠告じゃが、インカムは絶対につけちゃ駄目じゃぞ」


 「……はい」


 「それと、異変があったら直ぐに連絡するように!」

大城
 「はい、お世話になります」

俺は奏をお姫様抱っこのように抱えると、病院を出て行く。
気がつけば空は晴れて、俺たちは金色に光る雲の隙間から差した日差しを見た。
俺は陽だまりに祝福された、新たなる出発のように思えた。
こうして奏との同棲生活は始まる。



***



夏川
 「大城ー!? 謀ったな!? PKM保護責任者になったそうじゃないか!?」


 「おー、夏川より先とはな」

紅恋
 「意外やな〜」

紅理朱
 「……退院おめでとうより先にそっちの追求はどうなんですか?」

久し振りに出社すると、懐かしのメンバーが出迎えてくれる。
俺は今、凄い充実している。
なんとなく常葉が明るくなった理由が分かった。
常葉は俺と違って、誰かのために本気になれる、だから人望があって人を引きつける奴だ。
一方で俺は友達は多いが親友は殆どいない。
どんな奴とも浅く付き合って、深くは関わらない日和見野郎だった。
でも今なら奏のためにどこまでも頑張れる気がする。


 「それでどんな子?」

大城
 「ふふふ、そんなに嫁が見たいか!? ならば!」

俺はスマホの待ち受け画面を見せる。
そこには奏の姿がある。


 「おー、幻のポケモン、メロエッタか?」

夏川
 「か、可愛い……! リア充爆発しろ!」

紅理朱
 「なんだか儚そうな子ですね」

俺の嫁に興味を抱いた仲間たちが見せて見せてと押し寄せてきた。
俺は照れながらも嫁のことを説明した。
こうして充実の生活は始まる。
いつもは如何に手を抜くか考えていたが、今日に限り非常に疲れて真っ直ぐ家に帰った。
しかし愛する妻のために働く事がこれ程充実するとはな!




 「お帰りなさい、道理さん」

大城
 「ただいまー、てー、何やってんの?」

家に帰ると奏は包丁を持って台所に立っていた。
奏は照れくさそうに頬を赤く染めると。


 「ほら、俺の味噌汁を作ってくれってあるじゃないですか、だからお味噌汁を……」

見ると、それ程上手ではないが確かに鍋には味噌汁が炊かれている。
俺はそれを見ると感動し、奏を後ろから抱きしめた!


 「きゃ!? あ、危ないですよ道理さん」

大城
 「ありがとう! すげぇ感動した!」


 「そ、その……もしかしてしたいのかも知れないですけど、料理しながらは流石に……」

一瞬何を言っているのか分からなかったが、奏は恥ずかしそうにお尻を俺の股間に擦りつける。
俺は意味を理解し、頭を沸騰させた。

大城
 「いや違う! そりゃ嫁がエプロンつけていたら欲情だってするけど、そこまで節操なしじゃない!?」

俺は慌てて否定するが、奏は顔を真っ赤にしながら、手を頬に当てると満更でもないという風に。


 「その、裸エプロンじゃなくて御免なさい」

……その瞬間、俺の理性は多分ぷっつんした。

大城
 「今日は絶対寝かせないからなぁー!?」

俺はヒャッホイとテンションを上げながら、部屋の奥に向かう。
1ルームの狭い家は二人だとかなり手狭だ。
寝るときも食うときも身を寄せ合って暮らすしかない。

大城
 「そうだ、引っ越すならどういう所が良い?」


 「引っ越しですか? そうですね……」

元々、結婚するなら引っ越すつもりだった。
ここは男一人が住むには丁度良いが、二人では狭すぎる。
これからを考えるとマイホームも欲しくなるが、ローンがなぁ。


 「暖かい日差しのある場所、が良いです」

大城
 「奏は陽だまりが好きだからな」

彼女ほど陽だまりに佇むのが似合う子はいないと思う。
なら、そういう物件を探してみよう!


 「ラーララランラン、ラン、ラーララ、ラララーラ、ラララーラ♪」

俺は着換えながら、彼女が楽しそうに歌いながら料理を作るのをじっと見ていた。
今の奏はとても楽しそうだ、いっそ治らないなら、俺は一生を彼女に捧げたい!



***




 「ここが新居ですか……」

大城
 「前よりは良いだろ、自然光も良く取り入れられているし、1階だから階段の心配もない」


 「ふふ、階段も登れないほど虚弱じゃないです」

彼女はそう言うと怒ったような笑ったような顔をする。
とりあえず気に入って貰えたようだ。


 「でも、少し狭いですかね」

大城
 「まぁ二人ならこれで充分じゃないか」

俺も予算があるわけじゃないから、そこまで選べる選択肢はなかった。
だけど奏は首を振る、丁度お腹の辺りを擦りながら。


 「三人、です」

大城
 「マジで?」


 「まだ検査まではしてませんけど」

奏の生理周期は止まったらしく、本人も授かったと思ったようだ。
時は3月、冬が終わり春が来た。
俺たちは病院へと向かった。



***



菊子
 「妊娠、してますね」

大城
 「ほ、本当に!」

菊子
 「ただ……子供が母親に与える影響が計り知れません、まして母体が出産に耐えられるか……」

大城
 「あ……」

産婦人科の紫苑先生は、藤先生から頂いたカルテを見ながら冷静に判断をしている。
奏は本来母親になるには身体が弱すぎる。
それさえも原因不明の病だというのは周知の事実だ。
紫苑先生は出産は危険だという。


 「私は……産みたいです、道理さんの赤ちゃん」

菊子
 「医師としては止めたいけど、そればっかりはね……。いいわ、なら私も全力でサポートしてあげる!」

奏は終始とても大切そうにお腹を擦ってた。
時折歌って、赤ちゃんに想いを馳せて優しく微笑む。
俺はそんな家族を少しでも助けるため我武者羅に仕事に打ち込んだ。
そして月日は春から夏へ、夏から秋……そして冬を迎えた。



***



大城
 「奏!? 大丈夫なのか!?」

妊娠10カ月目、奏のお腹は大きくなり、時折呻き声を上げるようになった。
妊娠までは病院で過ごすことも多くなり、クリスマスも病院で過ごす事になった。
そして新年を迎えようとする大晦日に、その日はやってきた。


 「かなり危険な状態じゃ」

菊子
 「帝王切開が、最もリスクは少ないでしょう」

奏のために尽くしてくれた医師たちも、この年の瀬に全力で力を貸してくれてる。
手術台に載った奏、その顔は今にも遠いところに行ってしまうかのようだった。
俺はただ、彼女の手を握りしめる。



手術には俺も立ち会った。
終始世話になった菊子先生が主導し、奏に麻酔を打つ。
大きな腹を裂き、子宮を開いた。

菊子
 「赤ちゃん……こんな大きく!」

菊子さんの腕は素晴らしい。
奏は既に意識を失っており、子供は静かに菊子さんに取り出された。

菊子
 「抱いてあげてください、貴方の子よ?」

血塗れの赤ちゃん、まだ小さくしわくちゃで。
初めて触れる空気に驚いて、初めてその声を上げる。

赤ちゃん
 「オギャァ! オギャア!」

菊子
 「母体が依然危険なことも忘れるな! 脈拍は!」

菊子さんはその後もテキパキと仕事を熟した。
そして奏が目を覚ましたのは次の日。
俺は赤ちゃんを抱きかかえて、奏の病室に向かう。




 「生まれた……んですね」

大城
 「ああ、大きな子だぞ」

赤ちゃんは女の子だった。
母親に似ており、現段階では人間なのかPKMなのかは分からない。
ただ俺からしたらどっちだって良い。
奏は赤ちゃんを優しく抱き留めると、微笑む。
赤ちゃんはすやすや寝息を立てた。


 「産まれてきてくれて、ありがとう……。ラーラララ、ララーラ、ラーララ……」

奏は窓から入った光に照らされるとまるで聖母のように見えた。
陽だまりに祝福され、奏は優しく歌った。


 「ありがとう、琴音(ことね)」

大城
 「大城琴音か、奏が精一杯考えたもんな」

子供の名前は二人で一杯考えた。
男の子なら俺が、女の子なら奏がと事前に決めていたのだ。


 「なんだか……疲れ、て」

大城
 「奏?」

ふいに、彼女の身体から力が失せた。
ゆっくりと目を閉じて、そのまま動かなくなる。
俺は何度も声をかけるが、彼女は反応しない。

琴音
 「おんぎゃあ! おんぎゃあ!」

大城
 「ほら、琴音もお母さん寂しいって言ってるぞー!?」


 「……」

奏は……動かない。
まるでここまでが運命で、それをやり遂げたかのようで。
陽だまりは……ただ、彼女に降り注いだ。



突ポ娘 サイドストーリーズ
恋人の章 陽だまりの中で少女は佇む end

KaZuKiNa ( 2019/07/06(土) 19:03 )