SP15
#15
ジラーチ
「いよいよラストバトルよ、皆打ち合わせを始めるわ」
最終日朝、俺たちは城の大広間に集まった。
茂
「打ち合わせ、俺が参加しても構わないのか?」
フーパ
「いいよ、というか囚われの王子様って役柄あるからね、茂君は」
そう言えば、忘れていたけど俺のゲーム上の役割って、王子様なんだよな。
ジラーチ
「戦うのは当初の予定通りフーパのみ、マギアナとシェイミは邪魔をしないように待機」
マギアナ
「畏まりました」
シェイミ
「分かったぜ!」
当初の予定ではジラーチとマギアナも再生怪人よろしく、中ボス担当だったが、結果的に調整の末、二人は参加しないことになった。
ジラーチ
「戦いはこの城をゲーム空間に今から変更するわ、これは最後にここで宴会をするためね」
茂
「ということは、魔王城らしく場の雰囲気もチェンジか」
フーパ
「おうさ! 格好良いぞ!」
ジラーチ
「……それじゃ、世界を書き換えるから」
ジラーチは願いの力を媒介に世界を変更する。
ジラーチの軽い動作で真っ白な城は真逆の黒い城に変化する。
薄暗い、光を効率よく取り入れることを重視していたあの城と違い、松明の光がなければ、真っ暗闇だ。
フーパ
「ここがラストバトルの舞台。魔王場であり、玉座の間」
シェイミ
「うぅ〜、なんだか不気味!」
茂
「シェイミがランドフォルムに戻らないってことは、ゲーム世界って事なんだな」
俺は自分の身体を見るが、変化が見当たらない。
俺が不思議そうにしていると、ジラーチは突っ込む。
ジラーチ
「茂お兄ちゃんはゲームキャラに設定してないから、この世界でも生身よ。正確には私もだけど」
俺はゲームの世界での生身という物を確かめるが、何が違うのか良く分からん。
ジラーチ
「……バッグヤードに行くわ、フーパが倒されたら玉座の間に出るわ」
ジラーチは玉座の間の裏側に進むと、そこは意外にも普通の部屋だった。
ご丁寧にソファーまであり、ここで休んでいろって事か。
茂
「さてと……それじゃ茜たちの到着を待つか」
俺はソファーに腰掛けると、茜たちの事を考える。
ゲームとはいえ、ここまで茜たちは不可解なまま戦いに投入されてしまった。
果たしてフーパの事を許せるだろうか。
そしてフーパは大丈夫だろうか。
俺は今回もただ、皆を見守るしかない……。
***
茜
「ここが正真正銘のラストダンジョン?」
世紀末世界をクリアした私たちは、いつもの祝辞を受け、そして遂に最終世界の辿り着いた。
暗黒大陸に聳える魔王場、それは禍々しさを備えた場所、正にラストダンジョンといった趣だ。
保美香
「もうすぐだんな様に会えるのですね」
伊吹
「茂君元気にしているかな〜?」
華凛
「ゲームの景品だというのなら、ダーリンの身は心配いらないだろう」
凪
「だが、それは敵を信用出来る場合に限るぞ」
美柑
「……兎に角無事を信じるしかありませんね」
私たちはそれぞれ意思を確認すると、魔王城へと突入する。
まず迎えたのは巨大なステンドグラスの間、そのステンドグラスにも禍禍しい絵が描かれており、いつなにが起きるか分からない。
ミノタウロス
「ブモーーー!」
保美香
「おっと、まずは門番といったところかしら?」
ステンドグラスの大広間、そこにたった一匹で現れたのは牛頭の大男。
身長は250センチはある大巨漢で、筋骨隆々の身体で巨大なバトルアックスを構える。
如何にも一撃の重そうなモンスターで、門番とした風情がある。
しかし恐怖はない、もう私たちはこの程度では止まらない強さを得ている。
美柑
「速攻で行きますよ!?」
美柑は開幕ミノタウロスに斬りかかる、ミノタウロスはよけることもなく切り裂かれるが、持ち前のタフネスで耐える。
ミノタウロス
「ブモーーー!」
ミノタウロスの反撃、美柑は直撃を受けて吹き飛ばされる。
大ダメージだが、経戦可能だ。
保美香
「今更単発攻撃かしら!」
続いて保美香がミノタウロスの側面から斬りかかる、更にその反対側から華凛が刀を振り下ろす!
ミノタウロス
「ブモーーー!?」
ミノタウロスが悲鳴を上げて倒れる。
美柑
「痛た……攻撃力だけならボス級でしたね」
伊吹
「徒党を組まれると〜、不意の事故死が怖いねぇ〜」
ミノタウロスの耐久力はなんとか1ターンで倒せる耐久力だったが、攻撃は確定2発で美柑が倒されるレベル、保美香や私だと一撃で危なかったかも。
茜
「どうせ後は宝の持ち腐れ、ここは皆全力で切り抜けよう」
私は残りのアイテムを確認して、皆にそう言う。
皆もそれは分かっているから、抱えたままクリアは意味がないのでそれに同意した。
私たちは早々に大広間を抜けた。
***
フーパ
(祭りの終わり……か)
アタシは玉座の間で目を瞑りながら、これまでの事を考える。
思えば、最初にこのゲームを考えた時はもっと軽い気持ちだった。
皆とゲームで楽しみたいって想いは、徐々にスケールが大きくなり、こんな世界を用意するに至ってしまった。
茂君を攫ったのも誤算だったなぁ……。
茂君はアタシたちにとって想定外な程魅力的な人だった。
マギアナがソウルハートをもってその人柄を認め、シェイミがその花をもって感謝を示し、ジラーチはその一生の願いを茂君の為に願う。
そしてアタシにとっても、茂君は徐々に大きくなってしまった。
アタシはある役目があるから、決して茂君と同じ道は歩めない。
そして茂君がある存在に見初められた特別な存在であることも問題だ。
それでも好きになるって、結局は止められないんだなって何百年も生きてるのに、今更気付くなんてね。
フーパ
「ふふっ、どうして後悔する相手を召喚しちゃったかなぁ」
思わず苦笑してしまう。
茂君に恋なんて絶対しないと思ってた、でも人の温もりはあまりにも暖かく、孤独で冷たいアタシたちには抗える物じゃなかった。
孤独が嫌だったのは間違いない、それでも好きになる男は選べるつもりだった。
結局は所詮自分も生娘に過ぎなかったということ、恋をしたことがないから制御の仕方も分からなかった。
でも、もういい……アタシは意地悪ポケモン、元から愛される資格はない。
それならそれで、意地悪ポケモンとして最後までラスボスしてやる。
フーパ
(さぁ……早く来なよ)
***
魔王城はとても広大だった。
多くの強大なモンスターたちが立ちはだかり、そして最高の装備を集める。
そして遂に私たちは魔王城最深部であり、最上階へと辿り着く。
もはやモンスターの気配はなく、ただ真っ暗闇が広がる。
凪
「不気味だな……」
美柑
「いかにもって感じですね……」
保美香
「恐らくラスボス戦……皆さんもう後戻りは出来ませんよ?」
茜
「逃がさん……お前たちだけはって訳だね」
華凛
「逃げられはせんよ……この○ディオの世界からは、かもしれんぞ?」
私は少し和ませるように茶化したら、意外にも華凛も茶化してくる。
思ったより皆、精神的には余裕があるのかも。
私は安心すると、歩を暗闇の中へと進める。
ボッ!
歩を進めると道の両脇に灯が点る。
更に歩を進めると徐々に飛行機の誘導灯のように灯は道を描き、否応にも緊張感が増す。
そしてある程度先へと進むと、灯は急速に点っていき、その周囲を照らし出す。
そして薄暗い闇の中に玉座に座る少女を確認した。
フーパ
「ようこそ勇者たち、私が魔王フーパだ」
伊吹
「フーパ〜? やっぱり幻のポケモン〜?」
魔王フーパは見た目こそ小さな子供だ。
肌は黒く小麦色で、服装は何処かアジアン調、そして両腕に黄色いリングをクルクルと回している。
おでこにもリングのような模様があり、何らかの意味があると推測できる。
凪
「茂さんは無事なのか!?」
フーパ
「当然だ、大切な客人だからな。だが貴様らが彼と再会することはない」
保美香
「一つ答えないさい」
保美香がフーパを睨む。
その真剣な眼差しにフーパは真剣な顔を見せた。
フーパ
「何かな? 答えられることなら答えよう」
保美香
「何回だんな様と犯ったんですの!? だんな様のセックスの射精量は!?」
思わず全員がずっこけかけた。
保美香らしいけど、ずっと気にしてたんだね。
最初の世界でご主人様は知らない幼女に裸で跨がられている映像を見せられた。
私たちは騎乗位だと判断したが、半信半疑であった。
フーパ
「ふ……あはははっ! そうだね……! 彼は凄いよ! もう毎日バコバコしてくるもんだから何人も腰が立たない位さ! もう子宮突き上げられる快感って言ったら……」
美柑
「は、破廉恥ですよ!? 何考えているんですか!?」
フーパ
「ン〜? じゃあ君は求められて拒否出来るかな? 精液を顔にぶっかけられて我慢出来るかな〜?」
魔王フーパは嫌らしく笑うと、美柑は行為を意識してか顔を真っ赤にした。
一方妄想逞しい凪はもう頭から蒸気を吹き飛ばしそうな勢いだ。
茂
「フーパ……。貴様ぁ……いい加減にしろ!」
茜
「ご主人様!?」
突然玉座の間の裏側からご主人様が姿を現す。
その顔には憤怒を写してフーパに迫った。
茂
「お前ら! フーパが言ったことは全部デタラメ! 信じるなよ!?」
フーパ
「ちょ、茂君、君が出てきたらイベント順番おかしくなる!」
ジラーチ
「だったらフーパこそ、余計な事口にして進行おかしくしないで」
ご主人様の後ろから現れたのはまたも見たことのないポケモンで、フーパを冷たい目で見ていた。
伊吹
「その声〜……もしかしてパンパカパーンの娘〜?」
ジラーチ
「パンパカパーン、ご名答。ジラーチです」
保美香
「ジラーチ? 確か願い事ポケモンの?」
ジラーチというポケモンも小さな少女だった。
黄色い髪をして、耳には短冊のようなピアスがあり、服は祭礼服のような真っ白な物だった。
これまで出会った4人、全員が私より小さな少女。
彼女たちが首謀者?
フーパ
「コホン! 茂君の予期せぬ乱入でシーケンスブレイクしちまったが、それは仕方がない。だがラストバトルは甘くないぜ!」
フーパは構える。
私たちは武器を構えた。
フーパ
「さぁ見せてやるぜ! ラスボスの力!」
フーパは両腕のリングを腕から飛ばすと、一つが消える。
そしてもう片方は自らの手前で浮いている。
ドスッ!
茜
「くっ!?」
突然真横から殴られた!?
私は殴られた方向を見ると、そこには大きなリングが浮かんでいた。
そしてそこから巨大な腕が生えていた。
フーパ
「ガンガン行くぜ!」
伊吹
「気をつけて〜! フーパはオールレンジから攻撃してくる〜!」
保美香
「ち! 厄介ですわね!」
リングは再び消える。
今度は何処から現れる!?
私たちは攻撃の方向を警戒しながら、フーパへの攻撃を試みる。
しかしフーパの攻撃は想定を上回る。
フーパ
「こんなことも出来るんだぜ!」
それは真上に発生したリングだ。
超巨大なそれは真上を見上げた時には降ってきた。
木造船、それは正しく逆さまになった木造船だった。
それが私たちを押し潰す。
ガシャァァァン!
茂
「おいおい!? 室内でやる攻撃か!?」
ジラーチ
「危ない、フーパ、そういう攻撃禁止」
フーパ
「はぁ!? 強力な全体攻撃はラスボスの基本だぜ!?」
ジラーチ
「茂お兄ちゃんに怪我させたら承知しないんだから」
美柑
「くぅ〜……向こうは余裕か」
私たちは木造船が虚空に消えるとゆっくりと立ち上がる。
流石はラスボスか……桁違いに強いみたい。
茜
「皆回復を!」
私は直ぐさま全員がリカバリー出来る回復を行う。
兎に角、やられないように気をつけないと。
華凛
「流石は魔王……しかし、ダーリンの前で情けない姿は見せられんな!」
華凛が構える。
フーパをキッと睨むと、瞬時に飛び込み居合いを放つ。
フーパは全く動かず、その場で棒立ちするがフーパは笑い、華凛は苦虫を噛む表情を見せる。
フーパ
「効かんなぁ〜! 何故効かぬか分かるまい!」
華凛
「ちぃ! またあのふざけた防御能力か!」
保美香
「それなら連続でぶち込むまで!」
保美香も追撃する。
その俊敏さで、フーパの後ろから斬りかかりようやくダメージが通った。
茜
「美柑、皆にバフアイテム使っていって!」
美柑
「りょーかい! 流石に回復で手一杯ですもんね!」
そろそろフーパが再攻撃してくるはず、その前に状態を好転させないと、フーパには絶対に勝てない。
私はアイテム使用からの待機時間を待ちながら、周囲を警戒する。
フーパの攻撃は予測不能、どこから来るか分からない。
フーパ
「さて、お次はこういうのはどうだ!?」
フーパが見せるその動作は全くもって意味不明、しかし突如として攻撃は迫る。
茜
「下っ!?」
それは足下に発生したリングから大きな拳が飛び出す。
私は咄嗟に飛び退いてそれを回避すると、フーパは意外そうな顔で私を見た。
フーパ
(野生の勘か? それとも……?)
茂
(フーパの攻撃はあくまでもゲームのルールに則った物だ、一定のルールがあるがそこに人間的な意思は介入する、アイツらならそのセンスでフーパの思考を見切るかもしれないな)
フーパ
「……ま、逃げ場がなければ意味ねぇってな!」
フーパが自分の目の前のリングに両腕を突っ込むと、無数の槍がフーパ前方を無差別に襲う。
茜
「ここで回復……!」
私は全体攻撃の後には必ず回復する。
フーパもその行動には若干面倒くさそうに私を見る。
しかし、余計な思考時間を与えるのは危険だ。
まずは保美香、後ろで全体攻撃から難を逃れ即座に攻撃する。
保美香
「はぁぁ!」
フーパ
「ち!? 後ろは卑怯だろ!」
保美香はバフの乗った保美香の一撃に顔を顰める。
防御を一撃で砕かれて、その後攻撃は確実に通るからだ。
華凛
「一刀!」
フーパ
「くそぉ! 魔王舐めんなぁ!」
フーパは反撃と、闇の波動を放った。
恐らく悪の波動に当たる攻撃、それは全方位に波状攻撃する。
保美香
「きゃぁぁ!?」
華凛
「くぅぅ!?」
伊吹
「フーパの攻撃パターンが変わった〜!? 皆気をつけて〜!」
美柑
「気をつけてと言われても……兎に角焦らずやるだけですよ!」
私たちは兎に角少しずつバフを重ねて、経戦能力を上げながら、少しずつダメージを増やしていく。
だけど、フーパも流石に攻撃が苛烈、更に一定ダメージを無効化するバリアの性でこの長期戦は厳しい物になるだろう。
フーパ
「あーははは! さぁさぁどんどん行くぜ!?」
***
茂
「フーパのやつ、楽しそうだな」
俺は少し離れた場所でこのラストバトルを見守るが、両者に悲壮感はない。
茜たちは負けないという闘志を瞳に宿らせ、フーパもそれを楽しそうに笑って受けている。
ジラーチ
「フーパはね、私も詳細は知らないけど、かなり強いポケモンで伝説のポケモンでさえ、おいそれとは手を出せないポケモンだったらしいわ。だからフーパは一度も本気で戦った事がない。このゲームの世界でならば全力で戦える……だから嬉しいの」
幻のポケモンは少なからず高い種族値を持つ、その中でもフーパは強大な力があると言える。
なるほど、だからこのゲーム世界を用意したのか。
このゲーム世界でならば、パラメータを弄くれば対等の力で全力で戦える。
アイツは純粋に、ポケモンバトルをしたかったんだろうな。
ジラーチ
「……?」
茂
「どうしたんだ、ジラーチ?」
突然、ジラーチが不思議そうに周囲を窺った。
俺は周囲を見るが、特段変な様子はない。
ジラーチ
「何か気配を感じた気がしたのだけど……気のせいみたい」
茂
「気配? マギアナとシェイミが覗いてるのか?」
ジラーチ
「あり得るけれど……何か違ったような」
何か……ジラーチは不安そうだ。
もしかしてバグか?
ここはゲーム世界、全てジラーチが作った世界だ、どんな不具合が隠れているか分からない。
フーパ
「ち……! よくもまぁここまで強くなりやがったな」
気が付けば、フーパが追い込まれている。
茜たちもボロボロだが、もう戦いは最終局面に向かっている。
茂
「何かやばい感じ?」
ジラーチ
「……分からない。でもなんだか嫌な予感がするの、デバックにミスがあったのかしら……?」
不安そうに胸を抑えるジラーチ、俺はジラーチとフーパを見比べてどうするべきか考える。
茂
「フーパ! なんかやばいみたいだぞ! 早く終わらせた方がいいかもしれない!」
フーパ
「やばい? それって……?」
茂
「―――ッ!?」
それは、フーパの後ろからだった。
一体こんな事を誰が予測できるものだろうか?
ゲーム空間が歪む、それは無理矢理空間を圧縮し、こじ開けたのだ。
茜
「なに……? これも演出?」
華凛
「だとしても、なんだこの禍々しさは……」
それは薄い紫色の手だった。
ゲーム空間に無理矢理穴を開けて何かが迫り出してくる。
それは全容も分からぬまま、ゆっくりと掌をフーパに向けたのだ。
その瞬間――!
ジラーチ
「危ないフーパ!!」
それはジラーチ以外誰も反応出来なかった。
誰もが呆然とそれを見ていた中、危機感が働いたのはジラーチだけだったのだ。
ドン!
ジラーチがフーパを体当たりで押しのける、その瞬間『シャドーボール』がジラーチを襲った。
フーパ
「―――え?」
それはフーパにとってどう見えたのだろう。
ジラーチはフーパを庇って、宙を舞い、ドサリとその場に倒れたのだ。
フーパ
「じ、ジラーチ!!!?」
凪
「き、気をつけろ! くるぞ!」
フーパが涙を流してジラーチの名を呼ぶ中、ジラーチを攻撃したその正体を知る。
それは三本の指しかない腕、細くともどこか筋肉質な姿、冷酷な瞳をもち、地に足を付けることもなくゆらりと宙を浮かびながら、ゲーム空間に現れた。
茂
「ミュウツー……なのか?」
ミュウツー
「これはこれは、俺を封印する空間に綻びが生まれたと思ったら、随分面白い所に出たな」
ミュウツーは周囲を見渡すと、足下に転がるジラーチに気が付く。
ミュウツーは擬人化しているが、それは中途半端でかなりポケモン寄り、巨大な尻尾もあり殆ど原種のミュウツーのパーツが多く使われているのが分かる。
本来は性別不明だが、男のような印象を受ける。
ミュウツー
「なんだこのゴミは? ふん」
ミュウツーはジラーチをゴミだと言い放ち、それを蹴り飛ばす。
俺はジラーチを受け止めると、ミュウツーを睨んだ。
こいつは一体何者だ? どうしてこんな事を平然と出来る?
ジラーチ
「う……あ? お、にいちゃん?」
茂
「だ、大丈夫かジラーチ!」
美柑
「主殿、退いてください!」
茜
「今回復を!」
美柑は俺の腕を引くと、皆は俺を護るようにミュウツーの前に立った。
その間に茜はジラーチに回復アイテムを使う。
しかし……それはジラーチには効果がなかった。
茜
「な、なんで?」
ジラーチ
「ふふ、私は生身。ゲームのキャラじゃないもの、ゲームの中の現象はゲームの中だけの効果だもの……」
茂
「くそ! ふざけんな! どっか治療できる物は!?」
ミュウツー
「ふ……、随分そのゴミを後生大事にするものだ、放っておけばそのうち死ぬというのに」
華凛
「命を愚弄するか……!」
フーパ
「うふ……あーはっは!」
それは突然だった。
まるで自我を崩壊させたように狂った笑いをあげるフーパにミュウツーは眉間に皺を寄せた。
そして俺はフーパがすでにリングから奇妙な壺を取り出している事に気がついた。
フーパ
「ジラーチはアタシの希望だ、アイツがいなけりゃなんの意味もねぇ……なら、テメェらにその代償を払わせてやる!」
それは戒めの壺と呼ばれる物、それに触れたフーパは壺から噴き出す闇に包まれると、凄まじい気配を周囲に放ち、真の姿を現す!
フーパ
「我は魔神フーパ、もうウンザリだ、全て破壊してやる!」
そこにいたのは妙齢の長身女性の姿だった。
僅かに子供の姿の名残は残すが、身長は180センチ近くまで伸び、金髪が腰まで長く伸びる。
胸元も大きくかなりの巨乳、小麦色の肌からそれが平時ならさぞ魅力的な女性だったろう。
だが……今はただ恐怖しかない。
ミュウツー
「なんだこの不快感!?」
ミュウツーは掌に何かを込める。
それは『サイコブレイク』、強力な念動力の塊がフーパに放たれる。
しかしフーパはつまらなさそうにそれを指先で弾いた。
茂
「魔神フーパは悪タイプ、エスパー技は効かない」
ミュウツー
「ち! ならば『ミラクルアイ』で!」
ミュウツーはミラクルアイで、悪タイプの無効化を封じる。
だが、フーパはウンザリしたように上からミュウツーを見下している。
ミュウツーの放つ邪悪な気配、それをどうでもいいかのような威圧感で上から押し潰すフーパは紛れもなく魔王そのものだ。
フーパ
「詰まらん。こんなくだらない奴に私は全てを奪われたのか」
ミュウツー
「ほざけぇ!!」
再び放たれるミュウツーのサイコブレイク。
それはフーパを正確に狙うが、そのエネルギーはミュウツーの体内で炸裂した。
ミュウツー
「がはぁ!?」
ミュウツーは何が起きたのか分かっていない。
本当の戦いにおいて相手を知らないこと程恐ろしい物はない、これはその結果だ。
フーパは6つのリングの1つを正面に展開すると、サイコブレイクはリングに吸い込まれミュウツーの内部で展開されたのだ。
今や、ミュウツーは内臓をぐちゃぐちゃにされて、血を吐き、地面に倒れた。
フーパ
「さっさと自己再生しろよゴミが、そうじゃなきゃ殺しがいがねぇだろう」
ミュウツー
「……!」
ミュウツーは立ち上がった。
恐るべき生命力でダメージを修復したのだろう。
だが力量差は歴然だ。
フーパ
「そろそろ私から行くぞ」
その瞬間フーパが姿を消す。
それはミュウツーの周囲に6つのリングが展開すると、無数の腕がミュウツーの身体を掴み、その握力で骨まで砕き、引きちぎる。
伊吹
「ひ、ひどい……」
それは凄惨な光景だ。
声にならない絶叫の悲鳴を上げてミュウツーは身体を仰け反らせるが、すでに四肢も尻尾も引きちぎられて、惨めに倒れた。
ミュウツー
「あ……あ…」
フーパ
「貴様がなんでアレ報いだ……憐れだよ」
ミュウツー
「何故……それほどの力があるポケモンがこんな所にいるのだ……そんな事奴らが許すはずが、ない」
フーパ
「……そうだね、もう遊びは終わりだよ」
フーパは両腕を広げると、ミュウツーの身体をリングが蝕み始める。
ミュウツーが食い散らかされ、完全にこの世界から消滅するのは1分も掛からなかったろう。
俺たちは誰も動くことは出来なかった。
だがフーパは俺たちに向き直ると同様に威圧感を向けた。
フーパ
「ジラーチ……もう全部おしまいだ、だから最後くらい、全部ぶっ壊しておしまいだぁ!」
茂
「待て! フーパ! 魔神の心に囚われるな! お前は本当にそれを望むのか!?」
その瞬間、俺の頬が熱くなった。
それはフーパがリングから投げたナイフで、俺の頬をかすめて、頬から血が流れたのだ。
フーパ
「煩いよ、茂君……! なんなら君から殺そうか!?」
保美香
「貴様……だんな様に手を出してタダで済むと思っているんでしょうね!?」
美柑
「悪いですが、お前がどれだけ強かろうが、関係ない! 主殿に危害を加えるなら容赦はしない!」
皆が激昂する。
俺はこの事態を最悪だと思った。
フーパは解き放たれし姿になると、もうそれは暴走しているのと変わらない。
まして今はジラーチ失ったという絶望感で全てを……自分自身さえ破滅させようとしている。
それは狂気でしかない、このゲームには不要な感情だ。
そして茜たちもフーパに憎しみを向け始めている。
最悪だ、どうして最後にこうなったんだ?
ジラーチ
「う……く? お兄ちゃん、泣いてるの?」
茂
「教えてくれジラーチ……一体何を間違えた? なんでアイツらが憎しみで戦わないといけない!?」
俺はフーパたちを見た。
茜たちがフーパに向かうが、もうフーパはゲームのキャラとは言えない。
容赦のない攻撃で茜たちは倒れていく。
茂
「くそ……せめてゲームの中じゃなけりゃ」
ジラーチ
「……いえ、ゲームの身体の方が勝算はあるわ、そしてこうなったからにはシステムを解放する……」
ジラーチは弱った身体を動かして、何かを虚空に描く。
フーパ
「貧弱……貧弱貧弱! 弱敵だな!」
フーパは6本の腕をまるで独立した武器のように扱い、茜たちは一気に窮地にたたされた。
そしてフーパはトドメだというように大きなリングを開くと大砲の砲塔を向けた。
フーパ
「さようなら」
ドォォン!!!
失神してしまいそうな爆音、俺はそれでもなんとか耐えて茜たちを見るが、茜たちは煙に包まれ姿が見えない。
ジラーチ
「……なんとか間に合った」
茂
「え?」
煙から現れたのはマギアナだ、ただ普通のマギアナじゃない。
巨大なパワードスーツに身を包んだFAマギアナが、茜たちを護るようにその身を犠牲に耐えたのだ。
保美香
「くぅ? 貴方は……マギアナ!?」
マギアナ
「ご無事ですか、みなさん?」
凪
「そんな事より! 君こそ大丈夫なのか!?」
マギアナはその体からスパークをあげている。
だがマギアナはニコッと優しく微笑んだ。
マギアナ
「大丈夫、頑丈なのが取り柄ですから♪」
フーパ
「マギアナ……お前も私の邪魔するの?」
マギアナ
「今のフーパさんは全然変です! どうしたんですか? こんなのっておかしいです」
フーパ
「煩い……悪意も知らないまま無邪気に育った箱入り娘が!」
フーパがマギアナに攻撃を向ける。
だが、それは空気を切り裂く風の一撃がフーパを襲う。
シェイミ
「フーパお姉! 悪は許さん! だよ!」
フーパ
「シェイミまで……?」
なんとシェイミまでもが参戦する。
シェイミはスカイフォルムでフーパを上から臨む。
マギアナもパワードスーツをパージすると、ドレス姿でフーパと対峙する。
マギアナ
「皆さん、ジラーチさんがシステムを解放し、全員参戦可能です、皆さんでフーパを止めましょう」
凪
「いいのか? 仲間じゃないのか?」
マギアナ
「仲間です、そして家族でもあります。だから今のフーパは止めないといけない」
?
「カッカッカッ! よぅ言った!」
茂
「後ろから?」
それは更なる参戦者だった。
後ろから現れたのは龍神として茜の前に現れたレックウザの鐃背。
そしてその横にメイド服姿の少女が付き従う。
悠和
「フーパさん、貴方には最後の役目があります、それ放棄すると言うのなら!」
シェイミの前座としてた戦ったシルヴァディの悠和、風の剣はフーパに向けられた。
フーパ
「ち!」
フーパはリングからミサイルを放った!
それは悠和たちを狙う!
?
「アンタたち! やぁっておしまい!」
それはフーパの横だ。
ある一団がフーパのミサイルを狙撃する。
ディン
「おーし! 狙撃成功!」
ツェン
「見てられないよね〜、お頭のピンチなんだから」
それはスナイパーライフルを構えたツンベアーのディンとユキノオーのツェン。
そしてその指揮を執るのはアマージョだ。
アマージョ
「なんてザマだいフーパ? それでアタシを導くとかチャンチャラおかしいよ!」
フーパ
「ふふふ……アーハッハ! 結局全部私の敵か! それでいい! 私は所詮悪でしかない! 封印されるしかなかった化け物! 化け物らしくやってやろう!」
フーパの周りには敵であれ味方であれ、フーパを止めるために多くのポケモンが集まった。
それでもフーパは狂気的に笑う。
フーパ
「最終ラウンドだ!」
#16に続く。