突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 special
SP11

#11



ダダダダ! ドォォン!

飛び交う銃声、燃え上がる硝煙。


 「仲間を感じろ! ここは戦場だぞ!」

保美香
 「最近茜が○ンダムネタまで扱ってきましたわね〜!」

私たちがいるのはステージ4、世紀末世界。
既に文明は崩壊し、死したビル群がそのまま朽ちた世界。
私たちは今……全力で逃げている。

マギアナ
 「射撃は苦手なんですが、四の五の言ってられませんか!」

今、全力で逃げなければならないのは、女の子のような何かからだ。
世界を探索していた私たちは、突然上空で雲を引く、謎の機動兵器と遭遇。
一見するとパワードスーツだが、あまりにもゴツくて、制作者の美的感覚を疑うとは保美香の言だ。


 「なんなんだ、あの理不尽存在は!?」

華凛
 「こういう時、いくら走っても疲れないって言うのは便利だな!」

兎に角逃げる、逃げるったら逃げる!
相手は理不尽なバリアでこっちの攻撃を完全に無効化。
更に理不尽な攻撃力、機動性で蹂躙してくる。

アマージョ
 「あんたたち! やーっておしまい!」

ツンベアー&ユキノオー
 「「アラホラサッサー!」」

ドシュウウウ!

突然、逃げる方向に一団がいた。
それらは号令をかけると、その肩に担いだバズーカ砲を機動兵器に砲撃する!

マギアナ
 「ッ!? 迎撃!」

放たれたバズーカ砲は2発、機動兵器は左腕に装備された三連ガトリングでロケット弾を迎撃するが、全ては間に合わず一発が被弾する。

美柑
 「うわ!? 流石にアレなら……!」

爆炎に飲まれた機動兵器、しかし私は見た。
爆炎の中から現れるその機動兵器を。

セローラ
 「目標健在! ダメージ無し!」

ボーロン
 「アー、肉眼でバリアを確認、ですねー」

アマージョ
 「ち……化け物め!」


 「あの人たち……!? セローラ?」

私たちは機動兵器を砲撃した一団に見覚えのある顔を見つけた。
それはかつて、同じ城でメイドとして働き、そして今は1階の絵梨花の家でヘルパーとして働くセローラだった。

セローラ
 「このプレッシャーは!? 下がっていろ茜!」

美柑
 「ニュータイプのなり損ないは粛清される……じゃなくて! どうすれば!?」

後方には機動兵器、前方には以前戦ったツンベアーを含む一団。
後ろは論外にしても前方の一団が味方とは限らない。
私たちがどうすればいいのか、考えていると最初にアクションを見せたのは機動兵器の方だ。

マギアナ
 「エネルギー切れ? 一時帰投します」

機動兵器はまだ無傷にも関わらず、何故か踵を返し、飛び去ってしまった。
ブースターを吹かせて、轟音を出して消える機動兵器がいなくなると
その場には静寂が訪れた。

伊吹
 「とりあえず助かった〜……かな?」

正直それは微妙かな……。
一応セローラが笑顔で手を振っているけども、それ以外の面子はこちらを警戒している。

アマージョ
 「そちらの代表者は誰だい?」


 「代表者……て、いないよね?」

保美香
 「でも誰と話せばいいか分からないのは面倒ですわね……私が代理を務めますわ!」

保美香はそう言うと相手の一団に歩み出す。
相手の代表、アマージョと思われる女性も前に出る。

アマージョ
 「アタシたちはあの怪物……マギアナを倒すため召喚されたプレイヤーたち、アンタたちもそうなんだろう?」

保美香
 「厳密には少し違いますが、打倒という意味ではその通りですわ」

マギアナ、聞いたことのない名前だ。
相当珍しいポケモンだと言うなら、もしかしたらシェイミ同様このステージのラスボスかもしれない。

アマージョ
 「なら……とりあえず敵じゃないみたいだねぇ」

保美香
 「味方とも限りませんが」

保美香が挑発すると、アマージョは目つきを悪くして保美香を睨んだ。
一方保美香は平常そのもの、保美香の悪い癖だけどああやって相手を推し量るのはどうなのか。

アマージョ
 「良いねぇ、利害の一致……それだけの関係で充分さ」

保美香
 「その通りですわね」

「ついてきな」相手のリーダーは踵を返すと、それに従うようにセローラたちも撤収する。
私たちはその後ろをついて行きながら保美香に質問する。


 「あの対応は不味いんじゃ?」

保美香
 「ただのNPCなら気にも留めませんが、プレイヤーだと言うなら必ずしも味方とは限りませんよ?」

美柑
 「確かに怪しいですけど、わざわざ印象を悪くする方向で対応するなんて……」

華凛
 「だが、敵か味方か……はっきりさせた方が良い。寝首を掻かれるのは御免だからな」

伊吹
 「……哀しいことだけど〜、利害の一致なら〜、相手の様子を測りやすいもんね〜」

皆の意見は若干揉めていた。
私も性善説を説く訳じゃないけど、それならセローラが信用できないか考える。
セローラは不誠実で、不真面目。
いつも私の胸を隙あらば弄って、メイド長に叱られる毎日だった。
でも、彼女は善人か悪人かで言えば、善人だと思う。
好きな人にはずっと一途で、普段ふざけているようで、芯はしっかりしていたりする。
セローラが悪人に与する未来はどうしても想像出来ない。
彼女は自分の義に反するなら、例え神が相手でも反逆するだろう。
そういう苛烈さも内に秘めた少女なのだ。



***




 「なんかスゲーマニアックな連中集めたな」

フーパ
 「ケヒヒ♪ 最高にカオスな連中だろう?」

いつも通り作戦司令室、そこで茜たちをモニターしながら、俺はセローラたちの方に注目する。
特にあの男……ボーマンを。


 (あの野郎の事を詳しく知る訳じゃないが……信用できるのか?)

かつて、俺に呪いをかけ、そしてニアが初めて仕留めた相手。
少なくとも、戦術眼や戦闘能力は帝国軍の中でもかなり優秀な方だろう……だが性格は最悪だ。
アイツが素直にゲームのルールに従うのか?
本当に信用できるのか……俺はそこが不安だ。

ジラーチ
 「この世界では二組のチームでマギアナを打倒しないといけない。まぁ今のままじゃ全員がかりでも返り討ちだけどね」


 「マギアナといえば、なんだありゃ? 凄いゴツくなってたぞ?」

フーパ
 「格好良いだろう? FAマギアナだぜ!」

マギアナが戦うことは事前に知っていた。
しかし、まさかフルアーマー化しているなんて知らなかった。
装備が何となく○ーマード・コアみたいだけど、バリアの描写は○ジマ粒子か? そうなると○クスト○Cみたいだ。

ジラーチ
 「一応説明すると、この崩壊世界はあるマザーコンピュータの暴走で人類が滅んだ世界ってイメージなの」


 「○ーミネーターみたいだな」

ジラーチもそのイメージでコクリと頷く。
ジラーチは画面を操作すると、マギアナが画面に映し出される。

ジラーチ
 「マギアナは正にそのマザーコンピュータそのもの、マギアナと戦うアマージョ一味は正にレジスタンスね」

フーパ
 「マギアナが倒れれば、全てのコンピュータが停止する。晴れて文明の極致たちは滅び去り、人類は再び歩み出す……て筋書きだ」


 「壮大すぎるだろ! もう魔王より怖い!」

ジラーチ
 「……そしてステージ4がクリアされると、ファイナルステージ……つまり魔王戦」

ジラーチはそう言うと少し寂しそうだった。
同様にフーパもどこか物悲しい。
こいつらにとって、それは祭りの終わりを意味している。
祭りが終われば、俺たちは元の生活に帰り、こいつらも普段の生活に戻らないといけない。
本来俺たちが交わる運命はなかったはず。
それでもこうやって俺たちとフーパたちは出会ってしまった。


 「……よし! 今日の晩飯は何が食べたい!?」

ジラーチ
 「何突然……でも、そうね」

フーパ
 「とりあえず満漢全席!」


 「無茶振り! 一人で作ってたら1日で終わらんだろ!」

ジラーチ
 「お、オムライスが食べたい……わ」

ジラーチは何が恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしながらオムライスを所望した。
それなら俺でも作れそうだが、一体ジラーチは何を遠慮しているんだ?
俺がそうやって不思議そうに首を傾げていると、フーパが一言加えた。

フーパ
 「序でにオムライスには、旗を立ててな!」

ジラーチ
 「そ、そんなのいらないわよ!? お、お子様ランチなんて……」

ああ、そうかお子様ランチ。
ジラーチはお子様ランチを食べたいらしい、しかしそんな如何にもお子様の食べ物を望む事に抵抗があるようだ。


 「OK! 最高のオムライスを作ってやるぜ!」

俺はそう言うと、作戦司令室を出て、厨房へと向かう。



***



フーパ
 「……オムライスか」

ジラーチ
 「悪い?」

フーパ
 「いいじゃん。何を食べるのも初めてなんだ、なら思い出にしようぜ」

茂の居なくなった作戦司令室でジラーチは暗い顔をモニターに写した。

ジラーチ
 「思い出か……そうよね、思い出位しか残らないものね……」

ジラーチはこの祭りの終わりがもう直ぐ近くなのを知って、自嘲気味に言った。
オムライスを食べたいって言うのも、子供らしい振る舞いを体験したかっただけ。
本当は思い出なら何でもいい。
不味い料理も美味しい料理も、見た目が酷い料理だってジラーチにとっては初めてばかり。
そう……思い出にはそうやって色んな経験を記録していく。
だから少しだけ嫌になった。

フーパ
 「今のジラーチの気持ち答えてやる。ゲームとか祭りとかどうでも良くて、茂君となんの因果にも縛られない世界に逃げたい」

ジラーチ
 「……っ!?」

フーパの言葉は多少解釈は違うが、ジラーチの代弁だった。
ジラーチは怖いのだ、あと何回こうやって思い出を刻めるか分からない。
どんなワガママなら許されるか分からない。
でも……そのワガママをジラーチ自身が許せそうにない。
最初は軽いワガママでも、それを許せば次はもっと大きなワガママを、そうやってワガママを繰り返せば最後にはとんでもない事になるかもしれない。

フーパ
 「あたしは別にいいぜ、もう殆どゲームは完成しているし、ジラーチが茂君誘拐して、誰も知り合いの居ない世界で幸せになれよ」

ジラーチ
 「……そんな事許される訳ない」

フーパはジラーチが本当にそれを望むなら、今すぐにでもゲートを開いて二人を別の世界に逃がしていいと思っている。
茂君は絶対にジラーチを幸せにしてくれるし、きっと茂君の傍にいればジラーチも普通の子供になれる。
ジラーチが幸せを手に入れられるなら、神の怒りに触れても構わないと思った。
フーパにとってジラーチは、大切な親友だ。
ジラーチとは似た境遇にあるフーパは、同時に自分ならどうかとも考えたが、その考えは直ぐに捨てる。

フーパ
 (あたしはどの道幸せになんて辿り着けない……だから幸せはあたしの分もジラーチが享受すればいい)



***



華凛
 「……(¬_¬)ジー」

セローラ
 「……(*_*;」

アマージョ一味のアジト、そこで私たちは今後の打ち合わせをしていた。
その中で当然華凛も気になるのはセローラだろう。
勿論キッサ将軍の私兵にも興味があるようだが、やはり興味はセローラより薄いようだ。

保美香
 「つまりあのマギアナを倒せば、全てのUNIXコンピュータは停止する訳ですわね」

ツンベアー
 「その通りっすが……アイツの馬鹿みたいな戦闘力は知れたでしょう? 並の方法では無理っす」

伊吹
 「でもゲームなら〜、何らかの攻略方法があるはずだよね〜」

ユキノオー
 「それなんですけど、方法は2つあるんす」


 「二つもあるのか?」

ツンベアー
 「こいつを見てくれ……」

ツンベアーは机に大きな地図を広げる。

ツンベアー
 「街の中心、ここがこのアジトの場所っす。そしてここから北へ10km、ここに龍神が住む塔があるんす。この龍神ならばマギアナとも戦えるという話ですが、問題はこの塔を攻略し、龍神を倒さなければ力を貸してはくれないということ」

美柑
 「もう一つは?」

ツンベアー
 「奴のバリアを物理的に破壊するため、核廃棄場からプルトニウムを奪取するっす」

そのどちらか、いやどちらでも攻略は可能なのだろう。
だが、問題はどちらを行くか。
龍神の力を借りるには相応の実力を求められ、核廃棄場はマギアナ側の攻撃を凌がなければならない。

アマージョ
 「アタシたちは胡散臭い龍神よりは、核廃棄場を襲撃するよ」


 「じゃあ私たちは龍神の方だね」

はっきり言ってどっちが楽かは分からない。
龍神の塔の方は未知すぎるし、強大なボスも倒さないといけないだろう。
一方で核廃棄場襲撃はマギアナ側のどれだけの罠があるか分からない。
勿論マギアナ自身の襲撃も想定される。

アマージョ
 「それじゃ! 早速行動開始だ!」

アマージョが立ち上がると、それぞれが立ち上がり用意を始める。
普段よりずっと大人しいセローラに華凛も機会をみたのか話しかける。

華凛
 「どこかで会ったことはないか?」

セローラ
 「な、ななな何の事でしょうか!?」

華凛
 「その瞳……見覚えがある気が」


 「覚えてないのは無理ないけど、お城に仕えるメイドだよ」

セローラ
 「はわわ茜ちゃん! 今はネタバレ的な意味でこの出会いは扱いが難しいの!」

華凛
 「なんだかよく分からんが、それならばノータッチでいよう」

華凛は何かを察したのか、そう言うと用意に向かった。
流石に皇帝陛下に見られていたとあっては、緊張していたのかセローラは半ベソをかいていた。

セローラ
 「うわ〜ん! 茜ちゃんおっぱい揉ませて〜!」

そう言って正面から胸を揉んでくるセローラに私は拳を握る。
セローラは平時に比べたら大人しいのは華凛がいたから、でも華凛が居なくなればいつも通り過ぎる。


 「殴るよ? グーで殴るから」

セローラ
 「ああ! 茜ちゃんのおっぱいペロペロしたい! その願望叶うならグーパン上等!」

ヒュ! カツン!

直後、セローラの顔の脇を刀が通り抜けて壁に刺さる。

華凛
 「おっと済まない。手が滑った……当てるつもりだったのだがな?」

セローラ
 「ひいい!? 思いっきり脅されてる!?」

久し振りに、華凛が冷酷な目で笑っていた。
華凛はSかMかで言えばS。
たまに私にも嗜虐心を働かせて、私の初めてを奪おうとしたこともあった。
今でもたまに私をからかってくる。
セローラほどふざけていないが、今は完全にスイッチ入っていた。

華凛
 「ふふ、茜の胸は柔らかかったろう? 茜はゆっくり指をめり込ませ揉むと感じるんだ、お前は知らないだろう……ただ独りよがりに揉んでいる貴様は二流!」

ガガーン! そんな効果音が似合う感じでセローラは仰け反った。
ていうか、人の性感帯を暴露しないで。

セローラ
 「た、確かに私一度も茜をイかせた事ない……」

華凛
 「ふふふ……茜は私のものさ、誰よりも茜の気持ちいいを知っているのだからな」


 「っ!」

私は思わず華凛の足の裏を蹴る。
華凛は腰をくの字に曲げて、痛がる。
ゲームの中だから実際にはダメージ0だが、華凛からしたら意外だったのだろう。


 「……馬鹿ばっか」



***




 「おーし! これでどうじゃ!」

俺は何回もの試行錯誤の末、遂に満足のいくオムライスを完成させた。

フーパ
 「見た目だけなら60点だな」


 「ぐふ!? フーパ!?」

突然後ろから覗いていたのはフーパだった。
完成を予見してか、リングを通ってこちらの完成を待っていたようだ。
とりあえず見た目で駄目だしされるとこっちは結構凹むんだよなぁ。

フーパ
 「焼きむらあるし、盛り方下手!」


 「もう良いもん! 味さえ良ければいい! 見た目は気にしない!」

俺はオムライスをテーブルに並べ始める。
フーパもそれ以上は追求せず、リングからシェイミとジラーチを呼び寄せる。

ジラーチ
 「もう晩ご飯?」

ジラーチもラスダンの最終調整に入ったようで、やや気怠い顔持ちだ。
ゆっくりいつもの席に座るとオムライスを見た。

ジラーチ
 「アレ……ない?」


 「ん? あ……これな!」

俺はすっかり忘れていたが、ジラーチの顔を見て思い出す。
ジラーチのオムライスに旗を立てると、ジラーチは顔を真っ赤にする。

ジラーチ
 「ち、違うんだから! 勘違いしないでよね! 旗がついてて嬉しいって思ったりしてないんだから!?」

シェイミ
 「可愛いでしゅ♪ シェイミも欲しいでしゅ」


 「はいは〜い」

俺はシェイミのオムライスにも旗をさす。
たったそれだけなんだが、シェイミはとても喜んだ。

ジラーチ
 「うぅ〜」

ジラーチはやはり気恥ずかしさが勝つらしい。
しかし大きな瞳を煌めかせる姿は、まさにお子様ランチに憧れた子供のそれだ。


 「それじゃ、皆頂きます」

フーパ
 「ヒャッハー! 頂きまーす!」

我先に、相変わらずハイテンションにフーパはオムライスにスプーンを突き刺した。

シェイミ
 「はむ! とっても美味しいでしゅ♪」

うむ、味は問題ないな!
見た目は妥協! でも味が問題なければ胃に入れば同じよ!
まぁ……マギアナがスゲーレベルアップ早いから、マギアナとは天と地の差が生まれてるけどな。

ジラーチ
 「美味しい……」

ジラーチも頬を膨らませ、顔を綻ばせる。
なんだかんだでオムライスを楽しんでいるみたいで俺も嬉しくなる。


 (……そう言えば俺って気が付いたら料理の腕上がったよな……それって何度も料理をしたからってこと)

そう、最初は料理本を片手にノウハウを覚えて、今は応用も出来る。
それはもうここでの生活が長いことを意味している。


 (保美香もびっくりするだろうな……俺の家事スキルがレベルアップしてるんだから)

俺は家族に会えない寂しさを少しだけ感じる。
まぁ一応茜たちの状況は作戦司令室で確認出来るんだが、向こうは俺の状況知らないもんな。
……やっぱり会いたいよな。

フーパ
 「ねぇねぇ! おかわりないの!?」


 「失敗作ならあるけど……」

俺は包む途中で卵が破けたオムライスを指した。
フーパはリングに手を突っ込むと、その出来損ないオムライスを取り出す。

フーパ
 「構わないって! 愛情は三つ星シェフの味を超えるよ!」

愛情って言葉を使われると俺は照れくさかった。
フーパの普段の天真爛漫さは、もう馴染みつつある。
シェイミの高低差のあるテンションも、ジラーチの大人子供っぷりも、マギアナのおっとり天然お姫様も俺にとって皆家族だと言える。

ジラーチ
 「むふ、幸せ……」

ジラーチはぼそっとそう呟くと目を細めて笑っていた。
見ればシェイミもフーパも笑っている。
このがきんちょどもを笑わせているのは俺ってことか。
そしてそれに喜びを感じているっていうのは、もうこれが普通になったんだな。



***



……食後、皿洗いもあって、遅くなった俺は風呂場にやってきた。
深夜帯で皆が寝静まる時間、大きすぎる風呂で寛ぐのは至福だと言える。


 「はぁ〜生き返る〜」

お湯に肩まで浸かり、日々の疲れを癒やすのはもう主夫の発想だよな。
ていうか、気が付いたら皆の御飯作って、掃除して……もう完全にお父さんじゃないか。


 (絵梨花さんも妊娠しているし……もっと早い人なら幼稚園児くらいかな?)

俺の年齢は23歳……もしかしたら子供がいてもおかしくない年齢だ。
時々思うのは、俺は親としてやっていけるのか。
フーパたちを見ていると、俺は自然と親の気持ちになってしまう。
やっぱりゲーム内とはいえフーパたちが戦うのは心苦しい。
シェイミが戦う姿は俺の方が苦しかった。
それでもシェイミが帰ってきたら一杯褒めないと、そう思った。


 「ま、結婚する相手を決める前から子供のこと考えるのは気が早いよな」

ジラーチ
 「子供欲しいの?」


 「分からん、親としての自信もないし、結婚して上手くやれるか疑問だからな。それでも子供を見ていると可愛いと思うんだ」

ジラーチ
 「そう……」


 「ん? ていうか……ジラーチ!?」

俺は気が付くと後ろにいたジラーチに驚いた。
この城の浴室ってかなり広いから、蒸気で奥が見えづらいんだよな。
たまにシェイミやフーパとブッキングする事があるが、あの二人は全く気にしないのに対してジラーチは違う。
俺はやばいと思った、これ絶対ジラーチにぶっ飛ばされると、そう思ったが……。


 「ジラーチ……怒ってない?」

ジラーチ
 「なぜ怒らないといけないの?」


 「ジラーチって、なんかいつも破廉恥な時って怒ってるイメージが」

ジラーチ
 「あ、あれは……茂お兄ちゃんが他の子にエッチなことしようとするから……」

ジラーチは気恥ずかしそうに湯船に顔を沈める。
もしかして自分がされる分には良いって事?
かなり都合の良い解釈だが、実際そうじゃなきゃこの反応は納得できない。

ジラーチ
 「も、もしも……子供が欲しいって言うなら、産んであげるわよ」


 「……はい?」

俺はジラーチの言葉にポカンとした。
だが、ジラーチは大真面目だ。

ジラーチ
 「し、茂が私に願いを望めば……叶うの! だからわ、私が茂の子供産むって言ってるの!」

ジラーチは顔を真っ赤にしていた。
それはもしかしたらお湯に浸かりすぎて体温が上がっているためかも知れない。
一方で俺もあまりにも直球な言葉に真っ赤になってしまう。


 「ば、馬鹿……、お前みたいな子供を孕ませたら、それこそ俺は最低のロリコン野郎だよ」

ジラーチ
 「なら大人の私を願って……多分貴方が理想の私を本気で願えば、どんな姿にもなれると思う……」

ジラーチは願い事ポケモン、その力は願いを叶えるというが、自分の願いを叶えることは出来ない。
そして願いはその規模によってジラーチにかける負担が変わる。
もし大人の体や子供を望めば、本当に叶うかもしれないが、ジラーチは大丈夫だろうか?
きっと大丈夫じゃない……大きな願いを叶えれば再び千年眠りにつく……だがポケモン娘になったジラーチにその冬眠が出来るか分からない。
それこそ願いの反動で死ぬかも知れないのだ。
俺には怖くてジラーチの力は使えない。

フーパ
 「ジラーチさぁ、そう言うときはこう言うんだよ! 貴方の熱い肉棒私のお○んこに突っ込んで!」


 「フーパ!? てかその発言アウトー!」

突然リングから素っ裸のフーパが風呂場にダイブしてくる。
当然湯船に大波がたち、水しぶきが降る。
フーパはケタケタ笑っているが、俺はフーパの頭を叩いた。


 「普通に入れ、普通に!」

フーパ
 「ぱぎゅう……暴力反対」

フーパは俺の拳骨を痛そうに頭を抑えて涙を溜めた。

ジラーチ
 「フーパ余計な口出ししないで……」

フーパ
 「え〜? 面倒くさい! だってあと数日で俺たちお別れだ。そんなまどろっこしいやり方じゃ、子供なんて作れないぜ!」

言い方はアレだが、あと数日……その言葉に俺は喩えようのない寂しさを感じた。
フーパは散々言っていた言葉、祭りの終わり。
それはもうすぐそこまで迫っている。
フーパが急かすように、何かを成し遂げたいならもう時間がないんだ。

ジラーチ
 「別に良い……どうせ私は茂お兄ちゃんの特別にはなれないもの」

フーパ
 「ジラーチ! 望まなければ何も手に入らない! アタシたちはだから手に入れるために誓ったろう! お前が願いを放棄してどうする!?」

ジラーチ
 「ひぐ……ひっく! わ、私だって望むわよ……でも結局いつも駄目じゃない! 私なんて結局使い捨ての便利なオモチャでしかないのよ!」

フーパ
 「ッ!!」

あまりにも白熱して、俺は言葉を挟めないでいると、フーパは突然リングを開いた。
それはジラーチを吸い込み、そして俺も吸い込む。

フーパ
 「目障りだ! 弱虫ポケモンにヘタレ野郎!」



***




 「うおおお!?」

フーパのあんな八つ当たりは初めてだった。
というかフーパが怒った姿が初めてというべきか。
俺は気が付くといつも眠っているベッドに転送されていた。
そして同じように転送されていたジラーチは俺が覆い被さるように、ベッドに横たわっている。


 「うお!? 隠せ!」

俺は一瞬その裸体を見てしまい慌ててそっぽを向いてシーツをジラーチに被せる。

ジラーチ
 「……御免なさい、変な話聞かせちゃって……今衣服をテレポートさせるから」

ジラーチはそう言うと自分と俺に、服を着た状態で転送する。
ジラーチは泣いていた。
俺は二人の言葉を思い出す。


 「ジラーチ、俺はお前を便利なオモチャなんて思ってないからな、そんな被害妄想は棄てちまえ!」

ジラーチ
 「……でも、事実よ。今まで何人も私に身勝手な願いばかり押し付けて、用済みになった私は眠りにつく……その繰り返し」

今のジラーチは何を言ってもネガティブに解釈してしまっている。
きっと、フーパと喧嘩してしまった性で、昔を思い出したんだろう。
そりゃ誰だって、ジラーチを望むならそれだけの願いがあるはずだ。
俺のように逆にジラーチから現れた無欲な人間の方が珍しいんだろう。
いや違う……俺は無欲じゃない。
こうしてジラーチと一緒にいたいと願っている。
俺はそう思うとジラーチを抱きしめた。

ジラーチ
 「し、茂お兄ちゃん!?」

ジラーチは驚いたように体を跳ねさせるが、俺が強く抱きしめて動けないとみると、やがて素直に受け入れた。


 「一つだけ分かったわ、俺はお前が好きだ」

ジラーチ
 「そ、それって……」


 「勿論フーパもシェイミもマギアナも好きだ、皆家族だと思っている」

ジラーチ
 「そ、そう……そう、よね」

残念ながら俺はヘタレ野郎だろう。
ここで愛の告白ならキスでもして、ジラーチの操を奪うべきかもしれない。
でも俺にはまだそれは無理だ。
ジラーチをやっぱり恋することは出来ない、もう家族愛になってしまったんだから。

ジラーチ
 「ねぇお願い……このまま一緒に朝まで眠って」


 「……分かった」

ジラーチは穏やかだった。
俺の胸に抱きついて、穏やかな寝息を立てる。
ジラーチが求めているものは複雑で俺には分からない。
一見父性を求めているように思えて、俺を異性として捉えている節がある。
でも今は子供のように安らかなのだ。
これが恋人の前ならドキドキして眠れないだろう。



***



フーパ
 「……くそ」

アタシは湯船に浸かりながらジラーチと茂君を思い出した。
ジラーチが自分を便利な使い捨てのオモチャだと言った事はかなり頭にきた。
私も便利なマシン扱いをされたことがある。
かつてゲートを自由自在に扱えるアタシは創造神にも匹敵する便利なポケモンだった。
だからこそ、アタシは悪用されないように、幽閉され、本来の姿さえ奪われた。
アタシは別に幽閉されたことも、力を奪われたことも気にはしてない。
ただ気にしたのは、アタシを使う人間やポケモンの事だった。
アタシは便利だと皆言ってくれた、アタシは嬉しかった。
でもある時気がついたんだ……皆が欲しいのはゲートの操作能力であって、アタシじゃないということ。

絶望って、結構近くにあるんだよね……アタシが必要ない存在だと気付いた時には、アタシは危険なポケモン扱いされ、魔神としての力を奪われ、あるポケモンによって人間から隔離され、幽閉された。
やがて長い年月が経って……アタシが人化すると、幽閉は解かれた。
いや、もしかしたら初めから鍵なんて掛かっておらず、アタシが引き籠もっていただけなのかも知れない。

アタシは久し振りに外の世界に出ると、ジラーチと出会った。
ジラーチの心は荒んでいて、人間に悪意さえ持っている気がした。
その心はアタシと同じ孤独を有するポケモンだった。
だからアタシたちは傷を舐め合った。
アタシはジラーチに命令して、ジラーチの望む自分の存在価値を新たに与え、アタシはジラーチにフーパとしてのアタシを頼って貰う。
びっくりするほど、アタシたちは馬が合った。
やがて、似たような境遇のポケモンを集め、この祭りを企画した。
楽しい祭りのはずのなのに、アタシはイラついている。

フーパ
 「いっそアタシが無理矢理茂君のペニスをジラーチの子宮とリングで繋いじゃえば茂君だって観念するはず……」

そこまで言って、自分が嫌になった。
それはあまりにも二人の人格を無視した非道な行為だ。
確かにアタシの力なら、二人が眠っている間にリングを上手く扱えば、セックスさせることは可能……でも、それってあの二人を悲しませる気がしてならない。
自分は本物の悪党にはなりたくない。
何よりジラーチが泣くのは一番辛い。

フーパ
 「……どうすれば良かったんだよ……誰も教えてなんてくれなかった、親友の幸せってどうすれば良いんだよ」

アタシは結局、ジラーチに何をしてやればいいのだろう。

フーパ
 (なんでだろう……ジラーチの幸せには茂君が必須だと思ったのに、なんで茂君の事考えたら罪悪感が生まれるの?)

それはまるで自分が茂君を求めてしまっている気がした。
でもそれは否定する、しないといけない。
祭りの終わり……それは別れだ。
アタシは知っている……茂君が何者なのか。



#12に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/04(土) 09:19 )