突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 special
SP09

#9




 「……森が開けてきた?」

キラーマンティスを倒した後、私たちは森の奥へと進んでいた。
しかし、それも直ぐに終わりを見せ、何やら開けた場所に辿り着く。

保美香
 「何でしょう……祠でしょうか?」

森の開けた場所、そこは島の中でも高い場所にあるらしく、島を一望出来る。
恐らく祭壇なのだろうが、中央には奇妙な形の岩が建っていた。

老人
 「ほっほ、ここ海の安全を祀る祭壇じゃった」

美柑
 「後ろ? お爺さん?」

突然後ろの脇道から人の良さそうなお爺さんが現れた。
お爺さんは祠の前に立つとゆっくり語り出す。

老人
 「この海は永いこと、穏やかな海じゃった……しかしある時、この祭壇に奉じられて物が盗まれたのじゃ……それからというもの、海は荒れ、魔物が跋扈するようになった」

お爺さんは祭壇を少し進むと、海の先を示す。

老人
 「見ろ、あの厚い雲の中……あそこには小さな孤島があり、古い城がある」

お爺さんの指差した方向には、確かに海面から上空まで大きな雲が渦巻いている。
その先には恐らく私たちが手に入れた地図の示す孤島があるのだろう。

老人
 「盗まれた宝は今や、あの雲の向こう、その孤島の古びた城にあるという」


 「なるほど、それを取り返せばこのステージはクリアと見るべきだな」

保美香
 「ですが船は大破、よしんば新たな船を手にれても嵐と海竜を相手にしなければいけませんわ」

海竜……アレは今の私たちで勝てるのだろうか?
また、そんな私たちでその先にいるボスたちに勝てるのか……不安は募る。
しかし、老人は私たちに新たな道を示す。

老人
 「実はこの辺りには海底洞窟がある……その洞窟は多くの島に繋がっているという……無論あの雲の向こうの孤島にも、しかし海底洞窟には強力な魔物が数多くいて、誰も近寄れん」

華凛
 「なるほど、海底洞窟か」

老人
 「お主たち、見たところ力がある。どうか力を貸してくれぬか?」


 「それが目的だからね」

私がそう言うと、老人は頷いた。

老人
 「ありがとう旅の人、ワシはここでお主たちを回復しよう。必要ならアイテムも売ろう」

そう言うと、老人は私たちを回復する。
同時にここが一時的に拠点になるようだ。
私たちは必要な消耗品を補充すると、海底洞窟へ急いだ。



***



フーパ
 「進め進め者ども、邪魔な敵を蹴散らせ、進め敵の城へ、オゴレス倒すのだ〜♪」


 「YOU LOSE」

ジラーチ
 「煩い、アンタたち……!」

作戦司令室には幾つものモニターがある。
そこでジラーチはゲームを作成しながらもう一方で茜たちをモニタリングしている訳だ。
だが、その多くのモニターには未使用のものも多い。
そこでフーパは○ァミコンを取り出すと、ゲームを始めたのだ。
とりあえず○コスカウォーズをやるが、開始5分程度で○レイ王が死んだな。
まぁ一応○コスカウォーズもRPGといえるかもしれんな。

フーパ
 「よーし、次は○インドシーカーしちゃうぞ〜」


 「いや、そこは○をみるひとをだな」

ジラーチ
 「このクソゲーマイスターどもが……!」

ジラーチはゲームを制作しながらイライラを募らせる。
そりゃゲーム制作の傍らでクソゲーをプレイされたら気が気じゃないよな。
自分の作ったゲームがクソゲーにならないように繊細に調整を入れて、やっとマスターアップする、それがクソゲーだったら……そう考えるとストレスで禿げそうだよな。
実際ジラーチも正にそういう心境だ。
既に第4ステージの制作は殆ど終わっている。
NPCの挙動にバグがないかチェックして、ジラーチの作業は今が一番辛いと言えよう。

ジラーチ
 「とりあえず二人とも……出ていけーっ!」

ジラーチは超能力を使うと、俺たちは外に放り出された。
とりあえず天と地が逆さまになって、俺は庭園に放り出されたようだ。
ドサッと草っ原に倒れこむと、俺はゆっくりと腰を上げて起き上がる。
とりあえず草原に座り込むと、隣でフーパは顔を地面に突っ伏してくの字に倒れていた。
そのまま横に転がると、フーパは大の字になって寝転ぶ。

フーパ
 「ははは! 怒らせちゃったな」


 「流石にふざけすぎたか……」

俺は頭を掻いて、少し反省する。
フーパは大笑いしているが、ジラーチの気持ちを考えると少しやり過ぎた。

フーパ
 「いいのいいの! ジラーチはアレ位強引にいかないと、勝手に根を詰めすぎて、ぶっ倒れるんだから」

今回の悪ふざけも一応フーパの立案だ。
俺から見てもジラーチのオーバーワークは見て取れる。
だから少し休憩でもとって貰いたいんだが。

フーパ
 「ははは……あーあ、なんともいかないね」

フーパはひとしきり笑うと、その目線を空に真っ直ぐ向ける。
俺はそんなフーパを見ていると、フーパが俺の視線に気が付いた。

フーパ
 「あれ? どうしたんだい茂君、もしかして欲情した?」


 「いやしないから! 俺はロリコンじゃないから!」

俺はそう否定すると、フーパはクスリと笑って起き上がる。
そのまま俺の体に抱きつくと、その細い指を俺の首元に這わせた。

フーパ
 「本当に? ふふ……顔紅いよ」

やばい、俺はゆっくりと這わせる指から離れられない。
フーパが見た目通りの子供じゃないのはなんとなく分かる。
恐らく俺より年上なのは確か。
しかし頬を紅潮させ、ゆっくりと絡みつくフーパは妖艶で、俺は動けなかった。
こういうのが、魅了されるって事だろうか、フーパは首元で熱い吐息を当てながら呟いた。

フーパ
 「本当の姿なら……受け入れてくれたかな……?」


 「っ」

不意に、フーパの身体が俺から離れた。
俺から距離をとり、草っ原に座り込むと口に手を当ててクスクスと笑う。

フーパ
 「あはは、何? 茂君本気にした?」

一瞬だけ、フーパは大人の顔を見せたが、直ぐに子供らしい顔に戻っていた。
俺は少しだけ戸惑っている。
フーパが俺に見せたのは単にからかっただけなのか?
本当のフーパ……それは今の姿が仮初め、戒められし姿。
そして解き放たれし姿がフーパには存在する筈。

フーパ
 「あーあ、茂君ってば顔真っ赤にして……やっぱり変態さん」


 「悪かったな……少しだけ変態性は自覚する」

フーパの妖艶さに充てられたのは事実、俺自身に普通のロリは範囲外だと思うが、フーパのように自分の武器を分かっているロリは別らしい。
だが、結局はフーパの方から諦めた。
フーパは再び草原に寝転がると、そっと喋りだす。

フーパ
 「茂君にはさ、ジラーチと一緒にいて欲しいんだよね」


 「ジラーチと?」

フーパ
 「ジラーチって、ほら、茂君の事好きだと思うんだよ? けど性格的にアレだし、きっとジラーチからは欲しいとか絶対言わないからさ……」

確かに、ジラーチは結局のところ、自分が本当に欲しいもの、本当にしたいことを求めているようには思えない。
その点ではフーパが正解だ、しかし俺はそれは何かが違う。


 「仮に、俺がジラーチの傍にいてやるとして、その時フーパは何処にいるんだ?」

フーパ
 「それは……」

フーパが口を淀ませた。
やはりフーパはジラーチの幸せを本当に願っている優しい奴だ。
でも俺はそのためにフーパが寂しい思いをするなら黙っていられない。


 「お前の幸せにお前がいないなら、ジラーチも俺も不幸と変わらない」

フーパ
 「なんだよ……卑怯じゃん、そう言うこと言われたらあたし……」


 「逆に聞くが、なぜフーパは俺と距離をとりたがる?」

それはもしかしたら気のせいなのかもしれないくらい些細な事だ。
何となく感じるフーパとの距離感。
それはジラーチやマギアナ、シェイミ……アイツらが踏み込んでくる距離感とは全く違う。
ジラーチが思いっきり傍にいたいという距離感なら、フーパはギリギリ惹かれ合わない距離を選んでいるようにさえ思える。
果たしてフーパが気にするその距離とは何を意味する?

フーパ
 「怖いんだよ……君のこと本気で好きになるのが……あたしたちは所詮仮初めの出会い、祭りが終われば別れる定め……」


 「でも、別れがあるからってそれが最後じゃない。別れの後には出会いもあるし、再会だって用意できるだろう!」

少しだけ怒鳴ってしまったかもしれない。
フーパが傍若無人に振る舞うのは、もしかしたら必要以上に親しくならないためなのか。
だが、それでフーパは救われるのか?
俺はここにいる4人のちびっ子たちにはそれぞれ何らかの問題を抱えている奴らだと思う。
フーパもまた、自己犠牲とでも言うべき、問題を抱えているんじゃないか?

フーパ
 「茂君にはジャリンコになって欲しくないな……」


 「どういう意味だ?」

フーパ
 「愛するって……罪深いって事さ」

それでも、フーパはそっと俺の服の裾を掴んだ。
俺はフーパの小さな手を掴み返す。
フーパの手に少しだけ力が籠もる。

フーパ
 (好きになっても何も残らない……なのにどうしようもなく好きになってしまう……最悪の感情だよ……)



***



大蛸
 「シュシュ〜!」

海底洞窟を進む私たち一行。
私たちは海底洞窟の最奥で道を塞ぐボスと対面していた。
相手は全長10メートルはあるかという大蛸で、足全てが独立したライフと攻撃を持つ強敵である。


 「せぇの!」

私は予めこの洞窟で有効であろうアイテムを大量生成していた。
『電撃玉』、中威力の雷属性攻撃を敵全体に与える消耗アイテムだ。


 「私も行くぞ! サンダーボルト!」

凪が放った魔法も中威力の雷魔法、電撃玉はこの魔法をアイテム化した物だといえるかも。

大蛸
 「シュシュ〜!」

電撃に苦しむ蛸、それでも触腕を振るって攻撃してくる。

華凛
 「ふん! グロテスクな」

華凛はすかさずインターラプトして鞘で蛸の攻撃を弾いた。
侍の特性で一定確率で通常攻撃を無効化する。

美柑
 「とどめ!」

道中、偶然道に迷った結果手には入った雷神の剣は美柑が装備して、この洞窟で猛威を振るっている。
この洞窟は海洋系モンスターがメインで、弱点も雷属性が多い。
それ故に高い攻撃力を持つ美柑との相性はよく、大蛸に致命の一撃を与えてみせる。

大蛸
 「シュ〜」

大蛸はぐったりと動かなくなる。
倒し損ねた触腕も一斉にブレイクダウン、いよいよ海底洞窟も終わりである。

保美香
 「アイテムに頼ったゴリ押しでしたわね」

華凛
 「まぁ兵法の通りではあるな」

戦闘に参加していない保美香と伊吹も合流すると、一旦そこで休憩をする。

伊吹
 「さて〜、これからどうする〜?」


 「どうするって……後は古城に突入するだけでは?」


 「多分だけど、この海底洞窟、かなりお宝あると思う」

RPGの基本だけど、ダンジョンのアイテムは全回収。
だけど、この海底洞窟は広大過ぎる。
全く違う島の出口に出たり、中にはそういった船では絶対に侵入できない島まである始末。
そういう所に強力なレア装備がある可能性は高いと思う。

美柑
 「取らなければクリア不能でもないと思いますけど」

伊吹
 「まぁ〜、このゲームやり込まなくてもクリア出来るようにはなっている感じだよね〜」

保美香
 「○QVの賢者の石みたいなのがあったら壊れですけどね」

華凛
 「……よく分からんが、そう言うのは終盤で手に入るんじゃないか?」

伊吹
 「たまにあるんだよね〜、中盤で最強アクセあったり……○リオRPGの○ーフティーバッジとか」

まぁ確かに海って貴重品多いイメージあるよね。
頑張って探せばそれなりの物もあるかも。


 「でも、私としては早くご主人様に会いたい」

それが私の結論。
なんだかんだでもうご主人様と離ればなれになって何日過ぎた?
ゲーム内時間が必ずしも現実の時間と同じじゃないのは異世界移動で理解している。
しかし主観時間からすれば、ご主人様に対する恋しさはもう相当の物だ。
それは当然皆も同じだろう。
普段は顔に見せない保美香でも、その顔には不安を見せ、意外に脆い華凛は既に涙を浮かべている。


 「そうだな……茂さんの奪還こそ最優先! 悠長にはしてられないぞ皆!」

華凛
 「一々仕切るな凪、皆言わないでも分かっている」

私たちは頷いた。
私たちをゲームの世界に巻き込んだ黒幕、その目的は未だ一切見えない。
でも、魔王の元にご主人様がいることは確実だ。
黒幕はゲームをクリアさせるためにご主人様を利用していると考えるべき、そのため私たちにはなるべく急がないといけない。


 「いくよ……!」

美柑
 「はい、このままこのステージもクリアしちゃいましょう!」



***



ジラーチ
 『もうすぐ来るわ、私から言える事は頑張ってね、これしか言えないわ』

シェイミ
 「うん! 大丈夫! あたしはやれるよ! 悠和お姉だっているんだもん!」

あたしはいよいよ最後の役目みたい。
フーパに言われて、このステージの大ボスを任された。
一応負けるのが仕事だけど、頑張りたいよね。
そして茂お兄や、悠和お姉に一杯褒められたい!

シェイミ
 「時間は充分昼! やぁってやるぜ!」



***




 「……合ってるかな?」

海底洞窟を抜けると空が見えた。
洞窟の出口は断崖の傍にあったらしく、私たちは外壁のらせん階段を登るとやがて、古びた城が見えてきた。
既に手入れも久しく行われていない、時間の経過の中で朽ちた城という雰囲気だった。

保美香
 「誰かいますわ!」

保美香が指差すと、古城の入口に一人の女性が立っていた。
長身の女性、白髪でポニーテールの女性だ。
格好は黒い鎧だが、漆黒の騎士団だろうか?
少なくとも、華凛たちと戦ったときはフルフェイスメットで顔を隠していたが、今回は隠していない。
とりあえず……巨乳だ!

美柑
 「くっ……! おっぱいこそが正義なのか?」

悠和
 「ようこそ、この先に貴女方が求めている物はあります……しかし貴女方がそこに到達することはありません」

華凛
 「ふん、こういう時はこう言うんだろう? テンプレ乙」

恐らく漆黒の鎧の下は純白のポケモンなのだろう。
華凛とは違う美しさが相手からは感じられる。

悠和
 「漆黒の騎士団悠和……参ります!」

悠和……そう名乗る少女は抜刀するように空気中に何かを掴んでいた。

美柑
 「? なにか陽炎が……?」

悠和
 「はぁ!」


 「ち! はぁ!」

こちらが相手の武器の正体を探っている間にも相手はこちらに襲いかかってくる。
凪はなにか気付いたらしく、前面に出て悠和の攻撃を弾く。
一瞬、火花がその刀身を照らした気がした。

伊吹
 「もしかして、○王鉄槌(○トライク・エア)的な〜!?」

伊吹が驚く、しかし凪はそれの正体が分かるのだろう。
まず矢面でその様子を冷静に観察した。


 「エアスラッシュか……私のと同様の性質があるらしいな」

美柑
 「! 言われてみれば似てる……!」

それは確か私も見覚えがある。
華凛と凪の決戦で見た技……そこから刀身だけが抜き取られたような感覚だ。
だが、どうしてこの世界でポケモンの技が使える?
それともなにか違うのか?

悠和
 「私もゲームのアバターだそうです。ですから本来の技は使えません……その代わり!」

悠和の雰囲気が変わった!
見た目には変化がないが、確かに何かが変わったと分かる。

美柑
 「兎に角! 行くぞ!」

美柑が悠和に斬りかかる!
しかし悠和は見えない剣でそれを弾く!
だが、次の瞬間美柑の身体が燃え上がった!

美柑
 「うわぁぁ!?」


 「!? 風の剣ではないのか!?」

伊吹
 「気をつけて〜! そいつバリアチェンジの性質がある〜!」

速攻で言い当てられた、それに悠和は驚いたように後ろに退いた。
まさか2撃目でそれを当てられたのは相手にとっても予想外なんだろう。
だけど、伊吹は普段トロいけど、頭は誰よりも良い。
この世界では反射神経は脳の伝達速度と同じ、この世界では伊吹はトロくない。

悠和
 「驚きました……この世界で私に与えられた性質は万能変化……弱点属性以外で攻撃すれば先ほどのように反撃します」

華凛
 「なるほど、ということは属性剣を装備した美柑は不利、か」


 「というより、どうすれば相手の属性が分かるんだろう」

一応アイテムには相手の詳細が分かるアイテムはある。
だけど、使っている間にもバリアチェンジは行われる。
これは慎重の戦わないと、こちらのダメージばかりが溜まってしまう。

伊吹
 「皆堪えて〜……アタシが答えを導いて見せる〜!」

伊吹は前衛メンバーじゃない。
でも後衛でも会話には参加出来る。
伊吹のロジック解決力は並じゃない、この頼もしい発言も彼女の謙虚な自信から出た物。


 「美柑、回復するね」

美柑
 「すいません茜さん」

私たちはとりあえず防御に専念する。
その後も悠和は攻撃を出してくるし、その度に属性が変わっているのが分かる。
相手の属性は攻撃を受ける度に、見えない剣からエフェクトが迸る。
それは炎だったり雷だったり、氷だったり。

何回攻撃を受けたか、それでも私たちは堪える。
そして数巡、我慢したその時。

伊吹
 「! 美柑攻撃〜!」

美柑
 「っ! はぁ!」

悠和
 「なっ!? くうう!?」

バチバチバチ!

保美香
 「クリーンヒットですわ! 大ダメージ!」

悠和に美柑の雷神の剣が文字通り大ダメージを与えた。
だが、その一撃で相手が倒せる訳じゃない。
しかし、伊吹は続けて叫ぶ。

伊吹
 「凪〜! 風魔法〜!」


 「了解! エアロボム!」

空気の爆発、風属性の中級魔法が悠和を襲う。
既にバリアチェンジ済みなのに悠和の身体は宙を舞い、吹き飛ばされた。

悠和
 「な、なぜ……急に攻撃が……?」

伊吹
 「最初は〜、seed解析から必要かなと思ったけど〜、実際には簡単だったね〜」


 「どういうことだ?」

伊吹
 「ループしてたの〜、炎、氷、雷、風、炎って〜……だったら、後は簡単だよね〜?」

それはごく単純なルールだった。
それさえ分かれば、私たちだって戦える。
そしてそれに驚いていたのは悠和だ。
彼女も自分の仕様は知らなかったんだろう、自由に変化出来るのだったらそれは高度な性格の読み合いになる。
だけどこれはゲームだ、そこまで高度な事は要求しないだろう。
だからこうやって弱点を突ける。

悠和
 「く……まだ私は!」

悠和が立ち上がる。
私は敵とは言え、相手に同情した。
この戦いは憎しみとか、そういう感情で行う物じゃない。
ただお互いがそういう役割にあるだけ。
だからこそ、この戦いに私は同情した。


 「貴女に恨みはないけど、負けられないから」

私は氷結玉を投げる。
すると、周囲の空気を凍らせ、悠和は中程度の威力の氷攻撃に晒される。

悠和
 「あああああ!?」

悠和が崩れた。
バリアチェンジを主体とする関係でHP自体は低いらしい。
そのまま立ち上がる事はなかった。

悠和
 「……ごめんシェイミちゃん」


 「……え?」

悠和というポケモンの身体が光の粒子に融けていく。
それはあっという間に人の輪郭を失わせて、光の粒子は風に紛れて消え去った。

保美香
 「シェイミ……まさか幻のポケモンの?」

伊吹
 「幻のポケモン〜……そんな大物まで参加して〜」

私たちは一箇所に集まると、回復を行う。
この先に待ち構えるだろう最後のボス。
さっきのポケモンの言葉通りの意味なら、この先にいるのはシェイミ。



***



シェイミ
 「お前たちが悠和お姉を……ッ!」

城の最奥、そこに一匹のポケモンがいた。
紅いスカーフを巻き、頭をまるで草原のように茂らせた小さなポケモン。
シェイミ……そう言われるポケモンだった。


 「子供……? こんな子供がボスだと言うのか?」

凪からすればこれは戦いにくい相手だろう。
大の大男相手なら、雄叫びを上げて修羅のように戦える凪でも、子供相手には戦意も落ちる。
それを見て保美香は「はぁ……」とため息をついて前に出た。

保美香
 「凪は後ろで見ているかしら、こういうのはゲームでもキツいでしょう?」

華凛
 「では、私と茜、保美香美柑が戦闘メンバーだな」

美柑
 「まぁ……躊躇ってたら何時まで経ってもゲームクリア出来ませんからね」


 「ん」

私たちは全員構えた。
相手は見た目も華奢な120センチ程度の身長の女の子。
だが幻のポケモンであり、そしてこのエリアの最終ボス。
決して侮る訳には行かない。

シェイミ
 「悠和お姉……アタシに勇気を頂戴……うおおお!」

シェイミは頭部から生える翼を広げると、空に飛んだ。
天井は既に崩落しており、天守閣であるこの場所は狭いが空は確保されている。


 「とりあえず先制攻撃」

私はボウガンを構えると、空を飛ぶシェイミを打つ。
しかし、シェイミは手を払うと無造作に矢を弾き返した。
私たちは驚愕する、彼女は凄まじい風圧の鎧を纏っているのだ。

華凛
 「これは……まさか凪の暴風白兵戦モードか!?」


 「違う……恐らくだが防御特化だ! だが厄介極まりないぞ!」

シェイミ
 「くらえ! はぁぁぁぁ!」

空気の刃が無尽蔵に生成され、その場を荒らし回る。
それは回避不能の全体攻撃、私たちは必死に堪えてダメージを抑える。

シェイミ
 「はぁ!」

更に2回攻撃! シェイミは地上に降りると保美香にキックを放つ。

保美香
 「くぅ……! 回復優先ですわね!」

保美香は自分に回復アイテムを使って堪える。
しかしこの隙に華凛と美柑がシェイミに斬りかかる。
しかしシェイミはその場から動かず驚異の防御力を見せた!

まずは美柑の攻撃がシェイミを襲う!
しかし風圧が美柑の攻撃を打ち消す。
そのダメージは0!

美柑
 「嘘っ!? ノーダメージ!?」

華凛
 「く……はぁ!」

続いて華凛が刀を両手で持ち、シェイミに斬りかかる。

シェイミ
 「くっ!」

だが、華凛の攻撃さえも風圧は押しのけようとする、しかし遂に風圧を打ち破り華凛は小ダメージを与えるに留まった。

華凛
 「通った……が、ふざけているほど硬いな」

シェイミ
 「ふ!」

シェイミは再び飛び上がる。
そしてまた風圧を纏った。

伊吹
 「多分あのバリア〜……300ダメージくらい肩代わりしているみたいだね〜」



***




 「おいおい……○OF5の○ブソリュートディフェンスかよ」

ジラーチ
 「2回行動、全体攻撃、毎ターン張り直しの300ダメ打ち消し……正に壁ボスでしょ?」

俺はジラーチと一緒に最終決戦を見ているのだが、シェイミのボス性能はエグいな。
回復手間取ると永久にダメージを与えられずジリ貧になるかも。

ジラーチ
 「まぁ弱点に気付くか次第で難易度は変わるね」


 「弱点か……問題は気付くかだな」

ジラーチ
 「さて……固定観念に囚われたら勝てないよ」

ふふふ……ジラーチは怪しく笑う。
俺は腕を組み、皆の戦いを見守った。



***




 「とりあえず、なにか有効打を見つけないと」

私たちはまともなダメージを与えられないシェイミにダメージを与える方法を模索する。

美柑
 「シェイミなら氷が弱点じゃないですか?」


 「ならその辺りを……」

伊吹
 「火炎玉! シェイミの弱点は炎だと思う〜!」

「え?」私は慌ててアイテムの使用をキャンセルした。
そうか、冷静に考えて氷はスカイシェイミの致命的弱点、だけどこの世界では違う。
ゲームの世界では保美香が水に弱くないように、伊吹が氷に弱くない。
シェイミは『風』だから弱点は『炎』という事になる。

美柑
 「そうか……ボクのダメージが低いのも風は雷に強いから!」


 「とりあえず……これで!」

私は赤い炎のマークのボールを投げつける!
火炎玉はシェイミの目の前で爆発する。
シェイミは風圧を吹き飛ばされ、怯む。
その隙を華凛は見逃さない。

華凛
 「はぁ!」

華凛はシェイミを斬る。
シェイミは悲鳴を上げて後ろに下がる。
ゲームの中だからダメージで済むが、子供を攻撃するのは華凛でも少なからず精神的に来るだろう。

シェイミ
 「く……負けない!」

風圧を纏い、全体に真空波を飛ばす攻撃をシェイミは繰り出す。
私は次の攻撃を見据えて待機した。

シェイミ
 「てやぁぁ!」

シェイミは更にキック攻撃を繰り出す。
対象は美柑、美柑は防御してダメージを減らす。
その隙に私は美柑に回復アイテムを使った。

保美香
 「なるほど……一気に行きますわよ!」

保美香も火炎玉を投げる、それは爆発してシェイミの風圧を吹き飛ばす。

シェイミ
 「ウアァッ!? うぅ……」

美柑
 「……弱った子供に攻撃するのは辛いけど……勘弁してよ!」

美柑はシェイミに斬りかかる。
更に後ろから華凛も襲いかかった。

二人の攻撃が同時の炸裂、シェイミは膝を地面について倒れた。

シェイミ
 「う……あ……は、るか……おね、え」

シェイミは涙を流し、口から涎を垂らしながら、うわごとのようになにかを呟いた。
そのままシェイミの身体が光に変わる。

シェイミ
 (あたし……上手く演技出来たかなぁ……下手な演技じゃなかったかな……?)


 「……!」

ふと、消えるシェイミと目が合った。
一瞬だけどシェイミは笑っていたように思う……だがそれを確認するまもなくシェイミは悠和同様に消え去ってしまう。

保美香
 「ゲームとはいえ、良い気分じゃないですわね」

華凛
 「同感だ、敵ならば斬るが、子供を斬るのは気持ち悪い」

何せ、ダメージの度に悲鳴を上げて喘ぐのだから、余程のサディストでもないとあんなのは堪えられない。
でも、私は何となくシェイミは満足していた気がする。


 (最後に笑ってたもん……きっと満足していたんだ)

私はシェイミの消えた場所に落ちた赤い宝石を拾った。
それは手の中で輝くと、島を取り囲んだ嵐を消し去る。
それは海が平穏を取り戻した証だった。



#10に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/04(土) 09:18 )