SP07
#7
フーパに誘拐されて、なんだかんだで10日が過ぎた。
茜たちはまだステージ3、ここまで到着するのはまだまだ先のようだ。
俺はというと、城の探索をしていた。
前回の地下探索からこの城に興味を持つと、色々な部屋を見ていたのだ。
どうやら結構な先住民がいたのか、部屋ごとに違う内装の区画も大分あり、そういう意味では不気味な生活感がこの城には残っている。
茂
「battle room……」
地下1階、作戦司令室の傍にそう書かれた扉がある。
俺は興味深く扉を開くと、円形の空間が広がっていた。
茂
「……戦闘訓練場……てところか?」
コロッセウムを思わせる円形のリングは所々地面が焼け焦げている。
余程激しい戦いを行ったのだろう、それは素人にも分かる物だった。
茂
「……? 中央に何か落ちている」
俺は訓練場の中央へと歩み寄った。
そこには一冊の手記らしき本が落ちていた。
茂
「パルキア城での思い出……日記帳か?」
俺は手記の表紙に書かれた手書きの文字を読むが、恐らくパルキア城っていうのはこの城の事か?
パルキア……空間の神と伝えられるシンオウ神話に登場する伝説のポケモン。
タイトルがこの城の事なら、この城はパルキアを祀っているのか、あるいはパルキアが創った城なのか。
いずれにしろこれも遺物だと思われる。
パラリと1ページ目を開くと。
『10月2日
この日、パルキアさんに出会った。
パルキアさんに世界について問われ、俺は答えた。
そして、俺はパルキア城に連れていかれた。
そこで俺は軟禁されるが、パルキアさんはとても優しい笑顔で俺に笑いかけてくれた。
ここから、俺のパルキア城での生活が始まる…』
茂
「年度が不明だが……最近だとすると杏と出会った頃だって言うのか?」
内容は実に淡白で、まるで書類みたいに無機質な文章だ。
だが、そこにこの著者のシンプルな想いが、書き殴られているのだ。
茂
「軟禁ね……ある意味で今の俺と同じじゃないか」
1ページ目ではパルキアさんとやらが、俺にはただのサイコ野郎にしか映らないが、この著者にはどう映ったんだろう。
俺自身はこの生活が嫌いじゃない。
時々フーパが信じられなくなるが、それでもジラーチやマギアナ、それにシェイミも……皆大切な奴らだ。
茂
(そう言えば以前御影さんにも言われたっけ)
俺が誰かを助けるのに、なんの打算も持たない。
助けてと言われれば、助けてしまう。
スーパーヒーローにはなれないが、実際その通りなんだろうな。
俺は日記を更にぱらぱらとめくると、84日目、12月25日で終わっている。
茂
(近年で完全一致しているのは201X年か……)
俺は10月2日から12月25日までが84日の年度をスマホで探すと今年だった。
つまりこの日記、未来のことを書いている?
いや……違うな、俺が逆に未来に飛んできた……正確には未来からフーパが現代に持ち込んだ?
いずれにせよ、日記をこれ以上見るのも申し訳ないし、俺は畳むとその場に戻した。
***
美柑
「島だ〜! 上陸!」
ステージ3は海だらけだ。
久し振りに見た陸地は、流石に海ばかりで辟易していた皆を喜ばせた。
早速一番目に上陸したのは美柑、皆はやれやれと島に上陸していく。
茜
「無人島、かな」
上陸した島は中央に山を聳える、樹林で覆われた島だ。
そこに人がいそうな気配はない。
とはいえ、久々の上陸に喜ぶのは私も同じだ。
華凛
「一応調べるのだろう?」
保美香
「そうですね……重要アイテムがあったりするかもしれませんし」
海を航海して数日、今まで見てきたのは猫の額ほどの小さな島ばかり。
そんな中初めて見つけた大きな島だった。
とりあえず島の中心、山を目指すべきだろう。
島の中心へと向かう道、密林を黙々と進む中、私たちは敵を倒しながら進む。
島の中は敵も獣系も多く、伊吹は大活躍だが、物語に一向に進展がないことに皆焦っている。
このエリアのクリア条件はまだよく分かっていない。
一応モンスターの増加原因を突き止めて、それを食い止める訳だけど……未だ何も分かっていない訳だ。
凪
「まるで進んでいるか分からないと言うのは不安と苦痛が伴うものだな」
茜
「これじゃゲー霧だよ」
せめて何かイベントが発生すれば、気も紛らわせるだろうけど、無駄に広いフィールドマップに、変化のない世界。
皆の精神的疲労はもう限界かもしれない。
伊吹
「う〜、なんか宝箱があるよ〜?」
伊吹は遠くを凝視すると、妙に目立つ紅い宝箱を見つけた。
私たちは駆け寄ると、それは私くらいなら入れそうな箱だった。
保美香
「私の出番ですか」
保美香はシーフの特性により宝箱を安全に開けられる。
これはゲームのため、普通に開けるだけだが、罠なら勝手に壊れるようだ。
保美香
「……何も仕掛けられていませんわね」
ゆっくり開かれる宝箱、皆が覗き込むと中には紙が入っていた。
勿論ただの紙じゃない。
伊吹
「宝の地図〜?」
そこにあったのは、何処かの島の地図。
少なくともここじゃないようだ。
茜
「ミニマップじゃ分からないし、全体マップだとアバウト過ぎる」
……結局何を意味する地図かも分からないが、私たちはそれをしまう。
?
「やーやー! そこの君たち!」
美柑
「え!? NPC!?」
地図を手に入れると、連動していたのか森の奥から太った男性が近づいてくる。
その背中には大きなリュックが背負われており、商人を思わせる。
太った男性
「ここで会ったのも何かの縁! 何か買っていかないか!?」
保美香
「確かにアイテム生成も出来るようになったとはいえ消耗品は……て高っ!?」
太った男性の掲示したメニューを見て、保美香は絶句した。
消耗品の値段が定価の3倍はするのだ。
それを見て太った男性はニヤニヤ細目で笑いながら。
太った男性
「この辺りには町なんてないし、流通も限りあるから当然でしょ?」
保美香
「むむむ……こいつ、○キータじゃないのかしら」
華凛
「誰だ○キータって……実際必要な物は買うべきだろう、序でに売れる物は売れば良い」
華凛がそう言うと、渋々保美香も納得した。
とりあえず売却アイテムは売って、必要な物は揃えよう。
凪
「ちょっと待て……この地図というのは?」
凪が画面をスクロールさせると、一番下に地図という物があった。
異様に高いが地図と言えば、さっき手に入れた謎の地図だ。
太った男性
「それはこの周辺海域の地図だよ、持ってないなら買うべきだね」
茜
「つまりミドルマップってこと? 確かにミニマップじゃ役に立たないし、全体マップじゃ細かい地形が分からない」
華凛
「確かに必要そうだな……」
保美香
「……何か嫌な予感がしますが、背に腹はかえられないですわね」
結果、私たちは地図を購入することにした。
それによりミニマップはもう一段階大きな海図に変更可能となった。
太った男性
「毎度あり〜♪ 」
会計を終えると、太った男性は再び森の中に消えていった。
とりあえず海図はこの島も含めて周囲の諸島が分かりやすい。
これで当てもなく彷徨うこともなくなるだろうか。
伊吹
「……ねぇ、さっきの商人って一度っきりかな〜?」
ふと、聡明な伊吹はそこに気が付いた。
実は私も少し気になっていたんだけど。
茜
「あの地図……買わないとゲーム進行に支障出るよね」
凪
「確かに積みではないが、海を永遠彷徨う危険もあったな」
伊吹
「不当な値段〜、ほぼ攻略に必須な地図〜……しかも買い物は一度だけ〜?」
美柑
「……嫌な予感がしますねぇ」
その嫌な予感、それはある意味で正しかった。
私たちは海図を元に近くの諸島に行くことになるのだが、そこで見た物は……。
***
保美香
『あの○キータもどき! わたくしを計りましたわねぇ!!』
モニターした画面の向こうで項垂れるように発狂する保美香、それを俺とジラーチは作戦司令室で眺めていた。
ジラーチ
「怪しいって気付いた時点で警戒していれば良かったのにね」
茂
「いや、直ぐ近くに一通りの施設が揃った拠点置いてるお前も鬼だよ」
茜たちがいるのはステージ3の丁度中央、そこには村レベルではあるが、武器屋からアイテム屋、宿屋と一式揃っている。
しかも勿論適正値段でだ。
ところで保美香の奴、○剣2プレイしてたんか、俺も猫目な所とか露骨にそのイメージだったけど、これは計ったなと思われても仕方がない。
茂
「地図も30分の1の値段で売ってるとか、ぼったくり過ぎる」
ジラーチ
「引っかかる方が悪い、てか最近のゲームって親切過ぎるんだよね」
確かに今時あんな悪徳商人が出てくるゲームなんてないよな。
○キータでも1.5倍で売るのに、3倍ときた。
間違いなくコイキングを500円で売ってくる本家より酷いな。
茂
「それで、あの宝箱の地図って何なんだ?」
ジラーチ
「勿論意味ある地図よ、まぁネタバレで何の地図かはお楽しみにね」
ジラーチは黙々とステージ4を制作中のようだ。
ステージ4は現代的なビルなんかが建ち並ぶ世紀末世界。
というか、いきなり世界観無視するのな!
まぁ突っ込んでも仕方がないが、雲海がないのは残念である。
とりあえず茜たちはこれからゲームの攻略に取りかかる訳だ。
ジラーチ
「……全くフーパの奴、唐突にゲストを呼んでくるから登録するのに面倒だってのに」
茂
「ゲストって言えば、なんで凪と華凛まで巻き込んだ?」
ジラーチ
「知らないわよ……一応言っておくけど、あなたが拉致される前……つまり私たちの計画の実行前からあの6人はフーパが選んでいたのよ」
茂
「つまり初期の6人……何故だ?」
ジラーチ
「……フーパに聞いて、教えて貰えればだけど」
ジラーチはそれっきり制作に集中して答えてくれなくなった。
フーパが遊びたいのは分かるが、そのために俺と俺の家族たちを巻き込んだのは何故かが分からない。
あの世界のPKMは世界で1000人を越えているという。
ならば、俺たちでなくてもよかった筈だ。
だが、フーパたちは俺たちを選んだ。
少なくともそこには、何か意思があるだろう。
***
マギアナ
「……」
私は今、一人の女性をじっと見ている。
その人は私より大分身長が高い、私が135センチだから170センチ位だろうか?
長い白髪に後頭部からポニーテールが伸びている?
瞳も銀色で、口元には牙がある。
後はとても大きなお胸をしていらっしゃいますね。
?
「あ、あの、私になにか?」
相手はこちらの目線に戸惑っている。
心拍数は少し上昇しているけど許容値、健康状態も良好。
マギアナ
「申し遅れました、私マギアナと申します」
?
「私は悠和(はるか)と言います」
私が丁寧に会釈すると彼女も同じように会釈した。
私はこの時点でこの人が悪いポケモンじゃないと確信する。
マギアナ
「初めて聞くポケモンです、ハルカというポケモン名素敵です♪」
悠和
「あ、いえ……個体名はシルヴァディと言います」
マギアナ
「あら? そうでしたの……どちらにしろ初めて聞く名前ですわ」
悠和
「私もマギアナというポケモンは初めて見ました」
マギアナ
「あら、そうでしたか? 私500年間小さな場所で過ごしていたもので、箱入り娘と申すのでしょうか? とにかくそんな物でして」
悠和
「ごひゃ……!?」
あら? 悠和さんは随分驚かれたようですわね。
私なんてジラーチさんに比べれば子供同然、500歳なんてまだまだ若造のつもりでしたけれど……もしかして違うのでしょうか?
マギアナ
「悠和さんは何歳なのですか?」
悠和
「15歳です」
マギアナ
「あらあら、まだ生まれたてなのでしょうか? それにしては大きく発育の良いようで」
フーパ
「そこの天然骨董品娘、誰もがお前のように不変の機械系ポケモンと思うな」
マギアナ
「あら、そういうものですの? それは知りませんでした」
突然、フーパはリングから現れて、私に新しいことを教えてくれる。
フーパが私をこのゲームに呼んでくれてから、私は新しいことを一杯知りましたわ。
ご主人様には美味しい御飯の味を教えて貰い、シェイミには花の種類や意味を、ジラーチには社交性を、そしてフーパにはそれ以外の全てを。
悠和
「貴女……、どうして私をパルキア城に?」
フーパ
「正確にはここはレプリカ城で、お嬢さんが過ごした城とは微妙に違うぜ?」
悠和さんはフーパの呼んだゲストのようだ。
それにしてもパルキア城? パルキア……お父様の工房にあった絵本で見た気がします。
たしか空間の神と呼ばれるポケモンでしたか。
なるほど、ここは凄いポケモンのお城なんですね。
フーパ
「そんで、悠和の現状だけどさ……マギアナ、ちょっと席離して貰える?」
マギアナ
「? 畏まりました」
私はよく分からないが、フーパは私に聞かれたくない会話をしたいらしい。
私にはそれを拒否する権利もないし、フーパに逆らう意味もない。
ただ、私は悠和さんを見ると笑顔を向けた、向こうも気付いたのか戸惑いながらも手を振ってくれる。
マギアナ
「もう少し悠和さんとお話したいですので、終わったら教えてくださいね?」
フーパ
「分かった分かった、まぁマギアナにも後で用があるからな」
フーパがリングを広げ、空間が庭園に繋がる。
私は空間を渡り、庭園に辿り着くと最後に二人に会釈した。
***
あたしはマギアナを庭園で待機させると、目の前のシルヴァディ、悠和と対峙した。
悠和は少しこれまでのゲストとは事情が異なる相手だ。
場合によっては戦闘もあり得る、ゲームの中じゃないなら簡単に負けるつもりはないが、そもそも戦う気もない。
フーパ
「オーバーフロー……とでも言えば良いのかな? お前の生きた世界線って結構多いけど、その中でシルヴァディにまで進化出来た世界線はそう多くない……その中でもお前は特殊って言うか、Δ(デルタ)の世界線とでも言う場所からやってきたわけだ」
悠和
「Δの世界線とは?」
フーパ
「可能性世界線……常に世界はαとβのように変動するが、その中でも特殊な世界線がΔ……今の状況ではぶっちゃけお前が帰っても世界の摂理に消されるだけだ」
悠和
「まだあの世界は混沌するの……?」
悠和が生きる世界線はどれもハードな様子だが、とりわけ今回の世界線の悠和はうんざりした様子だった。
恐らく自分の事よりも大切な人のことで頭がいっぱい……てところかな。
フーパ
「まぁ、悠和に一番幸運なのは雫の保持者は今も元気だよ、あのジャリボーイが定理解決するまで、のんびり待ってな」
悠和
「聖様……また無茶をするんじゃ」
フーパ
「あまりアレを使うのは関心しないけど、無茶はしても無理はしないと思うよ。悠和が考えているより遥かに強い。例え摂理が牙を剥いても摂理に立ち向かう子だ、そういう辺りがジャリボーイなんだが」
あたしもおいそれと口に出来ないのだが雫の所持者として転生し、数多の世界線を救うも多くのΔの世界線を生み続ける、オーバーフローの原因を作った直接の原因。
本来なら大罪とも言うべき存在だが、恐ろしいことにアルセウスさえもねじ伏せちまった。
今では安定しているし、特に問題はなさそうだが数多の世界の崩壊の原因でもある。
何よりまだジャリンコなのがあたし的には頂けない。
ジャリボーイは強いと言っても無謀だ。
それを全部成功させた世界線があるからこそ、この悠和も存在しているが、そこまですべての世界線でその無謀が通った訳じゃない。
失敗した世界線であのジャリボーイに何があったか……おぞましすぎて吐き気がする。
フーパ
「とりあえずはだ、悠和に出来ることは何もない。あのジャリボーイも結局なんとかしちゃう運命を持ってるんだろ、なら再会まで楽にしていればいい」
そうは言う物の、悠和の顔は暗い。
こいつ、あのジャリボーイにベタ惚れしているなぁ。
罪深いぜジャリボーイ……こんな可愛い子ちゃんを心配させるなんて。
フーパ
「で、愛しのジャリボーイ君とはもうヤッたの? パイズリフェラご奉仕位してるだろ?」
私は敢えて、ここで猥談をぶち込む。
予想通り、悠和は顔を真っ赤にして首を横にぶんぶん振った。
うむ、予想通りの処女だな、清楚ぶりやがって!
悠和
「そ、その……あの方が望んでくれるなら勿論本番までしますが……」
フーパ
「まぁないな! あの朴念神じゃ! だからジャリボーイ君なんだ!」
悠和は更に真っ赤になって耳まで紅い、とりあえず暗い顔よりは良いだろう。
あのジャリボーイ君は、色々と危険だ。
関わったら皆恋患いしてしまうのに、アレがジャリボーイな性で皆苦労しちまう。
少なくともあたしはそんな面倒は御免だね。
その点茂君は好みだ、口では童貞を貫く程度に論理感を持っているが、肉体関係さえ持ってしまえば、子供を孕むまではそんなに遠くないだろう。
茂君の場合、問題はラスボスがいるという事なんだが、あたしも流石にアレは怖い。
フーパ
「猥談はここまで、そんで悠和に期待したいのはこっち何だが」
あたしは一枚の書類を悠和に渡した。
悠和
「ボス役……ですか」
フーパ
「あくまでもゲームの中での話だよ、皆でキャラを演じる」
悠和
「あの……演劇は初めてで、演じる自信がないんですけど」
……まぁあたしも魔王演じる自信はあんまりないんだけどな。
まぁステータス調整とかはこっちでするし、TRPGでキャラになりきる感覚だが。
フーパ
「難しく考える必要はないぜ、ただ世界観を楽しめば良い」
悠和
「自分から楽しむというのが苦手で……」
ああ、懐き進化勢って依存性あるよな。
そうじゃなきゃ懐かないし、懐くって依存するって事だもんな。
そういう意味ではシルヴァディって、主を独占したがるサイコパスになりやすいんだけど、奇跡的なまでに無欲なもんだ。
どうせこいつも、傍にいられればなんでも良いとか考えているんだろうな。
その癖ジャリボーイファーストで、なんでもなんとかするのがジャリボーイのためと思っている。
そういう意味では世界から弾かれた原因は地味にこの女にもあるのかも。
まぁ三海がokで、悠和がoutなのは憐れとしか言いようがないが。
今ジャリボーイがいるのは相当ややこしい世界線だ。
正確に言うならこの悠和がいるべき世界線のジャリボーイだが。
、どういう訳だが限りなく近く、そして遠い世界同士が重なってしまったらしく、多く存在がオーバーフローしてしまった。
フーパ
「まぁあたしに言えるのは時を待て、それだけだね」
あたしはそう言うとゲートを繋ぎ、リングをマギアナの目の前に展開する。
マギアナ
「あら、もうよろしいのですか?」
マギアナは相も変わらず天然の顔だ。
きっと暇なので花でも愛でてたといった所だろうか?
リングが開いた事からマギアナも話が終わったと考え、部屋に入ってくる。
あたしはリングを閉じるとマギアナの要件を進める。
フーパ
「マギアナ、例のプランの試作機が完成したからテストするぞ」
マギアナ
「まぁ〜、私も遂に鉄屑になっちゃうのですね!」
悠和
「て、鉄屑!?」
理由を知らない悠和が驚くが鉄屑と言っても○ルトアイゼンだけどな。
あたしは面倒なんで三人を覆う大きさのリングを出すと、荒野に現出させた。
荒野にはマギアナ用の装備試製一号が置いてある。
フーパ
「マギアナ、装着するぞ?」
マギアナ
「ドキドキします……!」
マギアナのフルアーマー計画、その試作一号機。
それはまだ塗装すらされていない状態だが、丁度灰色姫ともいうべきマギアナにマッチしている。
あたしはサイコキネシスでマギアナの装備を持ち上げるとマギアナに装備させていく。
これは個人で装備できる重量じゃない。
普通なら自重で潰されてしまう。
少なくとも普通なら立ち上がることさえ不可能だ。
マギアナ
「お、重たくて動けません〜」
マギアナも当然、装備しただけで動けなくなって悲鳴を上げた。
悠和
「助けないと!」
悠和は慌てたようにマギアナを助けようとするが、あたしは悠和の足をリングで消して進めなくする。
フーパ
「ソウルハートに意識を集中しろ、それを身体と認識するんだ!」
マギアナ
「意識を……集中……」
マギアナがゆっくり目を閉じると、装備から光が漏れ出した。
それはソウルハートと同じピンクの光。
悠和
「なに? マギアナさんになにか変化が?」
キュイイイ……!
駆動音が聞こえた。
マギアナがゆっくりと立ち上がる。
マギアナのソウルハートが追加装備を身体だと認識したのだ。
動力源の一切ないマギアナを生物らしく振る舞わせるこの世界でたった一つの人工魂ソウルハート……ならば逆説的に、この荒技も可能なのだ。
マギアナ
「……凄いです、皆さんを見下ろしています!」
マギアナの驚きも元もだ。
フル装備時は全長180センチ、身長が40センチも上がっている。
装備は全体的にマギアナの増加装甲であり、機動性の鈍重さは否めない。
マギアナも身体を動かしながら、調子を確かめているが、問題はなさそうだ。
マギアナ
「ステークもヒートホーンもクレイモアもありません……」
悠和
「……何を言ってるの?」
フーパ
「そんなにアルトになりたいのか」
まずガッカリするがステークがないな所が天然のマギアナらしい。
演習試験はこれからやるがそんな漢の装備が試作段階で出てくる訳がない。
マギアナ
「わぁ〜、悠和さんが軽々持ち上げられます」
マギアナの装備のベースはパワーローダーだから、当然力も物凄い。
あたしは悠和に足を返すとマギアナは両手で軽々と悠和を抱っこして見せた。
悠和
「マギアナさん、身体大丈夫なんですか?」
マギアナ
「……オールグリーン、特に問題ありませんが?」
くく……いまいちマギアナと悠和の会話が噛み合っていないのが面白いな。
悠和はそんな異物を取り込んで大丈夫か、心配しているのだが、マギアナはコンディションチェックだと思っている。
まぁ良くも悪くも二人は全く異なる人生だろう。
マギアナは制作理由不明で、彼女はなんの命令もインプットされていなかった。
お父様の死後、風化する工房の前で、ポケモン達と永い時を過ごした骨董品の人造ポケモン。
一方でUBを打倒するために、タイプ:フルとなるべく創られたシルヴァディ、その目的も果たせず凍結され、拘束具でタイプ:ヌルとなり幽閉されて別の意味で考えることを否定された遙和。
その短い人生は、それでも彼女の優しさを形成する一助になったであろうと想像される人造ポケモン。
片や500年、片や15年。
片や人のいない自然の悠久で、片やポケモンのいない人の夢の中で刹那の時間を。
片や完全なる美を求めた金属の躰を、片や神をも越えるため様々なポケモンの細胞を。
共に分類は人造ポケモン。
だが片や悠久の無機質、片や刹那の有機質。
二人は違いすぎて見てて飽きないな。
フーパ
「マギアナ、仮想敵出すから悠和を降ろしてやれ」
マギアナ
「あ、私としたことが……ごめんなさい!」
悠和
「いえ、気にしないで……」
マギアナは丁寧に悠和を降ろすと、あたしは荒野の遙か向こうに仮想敵を出現させた。
そしてマギアナに武器を転送する。
マギアナ
「……無骨です」
マギアナが嫌がったのはまず右手の大型ライフル。
対物ライフルで、直撃ならコンクリート製のビルを倒壊させる威力もあるんだけどな、まぁ見た目に美がないのは認める。
そして左手にはレーザーブレード、厚さ30ミリの鉄板なら一瞬で切り裂くオーバーテックだ。
更に肩に誘導ミサイルと、見た目の無骨さは凄まじいな。
キュゥゥゥ……!
マギアナはそれでも愚痴で済ますと、全身のブースターを吹かした。
鈍重、実際2トンの重さもある全備重量だが、マギアナがフルブーストすると、マギアナの身体が宙に浮いてかっ飛んだ。
***
マギアナ
「凄いです……時速400キロで飛んでます!」
私は初めてなのに自分の身体の動かし方が完璧に分かる。
ブースターをすべて後ろに向ければ、これだけのスピードを出せる。
下に向ければ、数メートルではあるが飛び上がることも出来るだろう。
私は正面を見定めた。
FCSに相対距離が算出される。
直後。
バタタタタ!
マギアナ
「ツッ!?」
私は咄嗟に防御、銃弾が装甲に弾かれた。
システムチェックするがオールグリーン。
私は防御しながら誘導ミサイルを放った。
肩部六連装誘導ミサイルが上空で孤を描くと、仮想敵に向かい爆散する。
仮想敵の一掃に成功した。
だが、新たな敵がスポーンしたようだ。
私はすかさず正面の敵を右手のライフルを撃つ。
撃ち抜かれた敵は胴体に大きな穴を開けて爆散する。
***
フーパ
「おお! これぞ漢の浪漫! 茂君にも後で録画見せないと!」
悠和
「………」
フーパさんはとても楽しそうだ。
マギアナさんも全く嫌そうではなかった。
二人とも私は悪い人じゃないのは分かる。
フーパさんは特に突然世界に弾かれた私を保護してくれた。
世界に弾かれる現象は過去にもあり、前回は私と聖様以外が弾かれた。
今度は私だった訳だけど、私には聖様の無事を祈るしかない。
フーパさんは大丈夫だと言うけど、やっぱ心配だ。
フーパ
「人生は楽しんだやつが勝ちなのよ!」
悠和
「?」
フーパさんはリングから戦場を俯瞰して観戦し、興奮しており、こちらに対して言ったのかまでは分からない。
それでも彼女は語り出す。
フーパ
「悲観するより楽観する方が楽しい! バッドエンドよりハッピーエンドの方が楽しい! だからあたしは馬鹿やって盛大に笑う!」
悠和
「私も馬鹿やって盛大に笑えるでしょうか……」
フーパ
「踊る阿呆に見る阿呆! 誰だって笑えるさ!」
悠和
「踊る阿呆に見る阿呆……それなら私でも出来るかな」
フーパさんは見た目こそ10歳位の少女、でもその中身はきっと私より年上だろう。
私より遥かに視野は広く、だからこそ笑っていられる。
ごめんなさい、私は少しだけこの世界を楽しんでみようかと思います。
#8に続く。