突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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突ポ娘 special
SP02

#2




 「はっ!」

茜の放った最後の一射は硬い甲殻に守られた大蟹の甲羅を貫通する。
大蟹は泡を吹いてそのまま倒れた。



フーパ
 「これで4人とも第1ステージクリアか」


 「皆何とかクリアだな」

俺はフーパの魔王城で皆の戦いを観戦していた。
最後にボスを倒したのは茜だった。
本来ゲームの得意な茜が苦戦したのも勿論原因はある。

ジラーチ
 「それじゃクリアした4人のおさらいね」

茜 LV6 クラス:ヒーラー
装備:ボウガン(ランク1)
   ビキニアーマー(ランク1)

保美香 LV8 クラス:シーフ
装備:ナイフ(ランク2)
   レザースーツ(ランク2)

美柑 LV7 クラス:ファイター
装備:双剣(ランク2)
   毛皮のコート(ランク1)

伊吹 LV9 クラス:ハンター
装備:鉄の槍(ランク1)
   スケイルアーマー(ランク1)




 「なぁ……ふと思ったんだが、職業ってなんの意味があるんだ?」

ジラーチ
 「クラス固有の特性の発動、例えば」

ジラーチの説明はざっくりとしたものだが意味は分かった。
まず保美香だが、シーフの特性はアイテムドロップ率2倍、これのお陰で最も資金が潤沢で装備ランクが高いのはシーフの恩恵らしい。
美柑のファイターは最もシンプルな白兵戦時の攻撃力上昇、伊吹のハンターは生物系モンスターへの与ダメアップとこの両者は戦闘面に優れる。
そして茜が最も遅くなった理由がヒーラーであること、特性は回復効果のアップと確率で状態異常の回復。
保美香と違い装備面での更新もそんなに直ぐには不可能で、茜自体低レベルクリアもテクニックで補った形だ。


 「しかし全員レベルバラバラ、意外なのは伊吹が一番レベル高いことか」

フーパ
 「あのおっぱい魔神、来るもの全てなぎ倒していたからなぁ〜」

伊吹はゲームの中だと性格変わるのか、結構好戦的だった。
まぁ現実では虫も殺せないような奴でも、ゲームの中じゃ容赦なく厳選厨と化すなんて普通だから、そんなものかもなぁ。

ジラーチ
 「全員第2ステージに上げるね」

フーパ
 「とりあえず今日はここまでだな、第2ステージ用に新たな客を呼ばないといけないし、進行フラグはしっかり管理頼むぜ?」

ジラーチ
 「任せて、拠点を新設するからそこに集めるわ」


 「……俺に手伝える事ってあるか?」

俺は忙しそうに歩き回る二人にそれを聞くと二人は真顔で見返してくる。

フーパ
 「あっはっは! 一応茂君はゲストなんだぜ!? 手伝うって寧ろこっちがもてなす側なのに!」

ジラーチ
 「どうしてもっていうなら、一緒にいて欲しい……」

そうか、二人にとっては俺はゲストなんだったな。
ある意味では茜たちもゲスト、そしてフーパはそのゲストを更に増やすつもりのようだ。
とはいえ俺もこんな子供たちの歓待を受けるのは少しだけ気が躊躇われる。
本来なら素直に歓待されるべきでも、大人としてはなるべく見守ってあげたい。

フーパ
 「まぁ茂君にゲームの手伝いって言ったら演出くらいだよな」

ジラーチ
 「一応囚われの王子様という設定だし」

フーパ
 「そういう意味じゃ茂君には最上階のあの部屋にいてもらう方が良いか?」


 「あの部屋?」

フーパはゆっくりと歩き出すと兎に角上に進んでいく。
普通囚われるとしたら塔ってのが鉄板だが、この城には塔はないようだ。
そして最上階に案内された俺は部屋へと招かれる。


 「へぇ、王様とかが使ってた部屋かな、シンプルだけど結構広いね」

フーパ
 「まぁそうなんだけど、アタシこの部屋嫌い何だよね」

フーパ何故かそう言うと頭を掻いて不機嫌さを現した。
俺には普通に清潔でよく手入れされた部屋だと思うが……。

フーパ
 「やっぱり茂君は正常だな、アタシはここにいると狂っちまいそうだ……他にもこの城にはそんな部屋が何室かある……詳しいことは知らないし知りたくもないけど、この城は外観ほど綺麗じゃないと思うよ」


 「外観ほど綺麗じゃない……?」

全くもってよく分からんな。
俺はベッドに寝転がる。
ベッドはとても良質で俺を包み込んでくれる良いものだ


 「よっと、よく分からんがとりあえず良い部屋って事は分かった」

俺はベッドから立ち上がると改めて周囲を見渡す。
調度品はやや寂しいが、内装はそこそこ凝っている。
ただ机がポツンと一つあり、書斎にしてはこじんまりしているな。


 「それにしても予想していたが、やっぱり1日では終わらない訳か」

フーパ
 「まぁ折角開いたゲームパーティーだからね、最後にはどんちゃん騒ぎにしたいじゃん?」

俺は事実上フーパに誘拐された訳だが、それほど気にはしていない。
もう拉致とか今更な気もするし、なによりこのガキンチョどもが心配だ。

フーパ
 「あーあ、なんかお腹空いてきちゃった」


 「空いてきたって……ここって調理場とか食材はある訳?」

フーパ
 「それならほらここに!」

フーパはそう言うとリングから食材を出してきた。
こいつの能力って改めて万能過ぎるだろう。
しかしこれをされると当然の疑問が湧く。


 「その能力使えば、初めから食べられる物出せば良いんじゃないのか」

しかしフーパは不満垂れる。

フーパ
 「やだやだー! 暖かいご飯が食べたい! 人の温もりを感じたーい!」

そう言ってフーパはジタバタする。
やれやれ、やんちゃでワガママなお嬢様だな。


 「しょうがない料理は得意じゃないんだが……ん?」

ふと、俺は足下を見た。
足下には鈴が落ちていたのだ。
俺はそれを拾うと、なぜこんな所に落ちていたのか不思議に思う。


 「何だろこれ、呼び鈴かな?」

フーパ
 「ねぇご飯〜!」


 「ああもう、分かった分かった! 調理場に案内頼むぜ?」

俺は鈴を近くの机に置くと、フーパの開けたリングに通る。



***



美柑
 「暑い……なんで寒冷地帯の次は砂漠地帯なの?」


 「美柑の格好じゃ無理ないね」

私たちはボスを倒すと、突然目の前に砂漠のコテージ村が現れた。
そして中に入ると、皆と再会したのだ。
今は酒場で再会を喜んでいる。

保美香
 「兎に角全員無事で良かったですわ」

伊吹
 「それにしても〜、この先は何が起きるんだろうね〜」

私たちはこの拠点に入ると出られなくなった。
なんでも準備中と言われて、進めないのだ。
恐らくだけど、まだこのゲームは未完成なのかも知れない。
そんな突貫工事で創られたゲームに投入されるなんて予想外だよね。

美柑
 「もうやだ……なんでボクばっかりこんな目に……」


 「とりあえず美柑が壊れそうだし、装備更新しよう?」

美柑が装備しているのは毛皮のコート。
恐らく寒さ耐性が高い装備で、逆に暑さ耐性は最悪だろう。
そんな状態であれば、へばるのも仕方がない。

保美香
 「まぁ要らない物を売れば充分装備更新は出来るでしょう」

伊吹
 「でも、装備の変更は茜も必要だと思う〜」

美柑
 「? あ、日焼けですか……紫外線キツそうですもんね〜」

保美香
 「違うでしょう。多分ゲームだから日焼けはしないと思うわ」

伊吹
 「うん、重要なのは寒暖差、砂漠って夜は寒いんだよ?」

……確かに夜間行動を想定すると、私のビキニアーマーじゃ凍えちゃう。
なるほど、見た目も恥ずかしいし交換が必要ね。



***



フーパ
 「30点以下じゃな」


 「しょうがねぇだろ、これが男の料理なんだよ」

殆ど料理をしない俺は普段保美香に完全任せっきりであり、はっきり言って真面に作れる料理の方が少ない。
とりあえずフーパの出した食材で出来そうなのは野菜炒めで、それを出すとあからさまに不満を述べたのはフーパだった。
そりゃ自分の料理のレベルも自覚はしている。
はっきり言ってこれを求められたらどうしようもない。

ジラーチ
 「でも暖かい料理……こんなのって初めて」

シェイミ
 「ハグハグ! あたしはお兄の料理好きだよ!」

ジラーチは余程それまでの生活事情は悲惨だったのか、泣きながら食べていた。
また草タイプの性かシェイミは特に気にせず一番ガツガツ食べている。
とりあえずこの二人見ていたら料理頑張って勉強しようとは思うわな。
特にジラーチには本当に美味しい料理を食べさせてあげたい。
しかし……。


 「私は食べ物を初めて戴きましたので、基準が分かりませんが主観的には美味しいと思いますわ」


 「なぁフーパ、ここに来て初めて見る奴がいるんだが」

フーパ
 「マギアナだ、アタシとジラーチ、そしてシェイミとマギアナの4匹でこのパーティーは開いたんだ」

マギアナ
 「初めまして茂様、マギアナと申します。地下を探索していたもので挨拶が遅れたことをお詫び致します」

マギアナと言う少女はそう言うととても礼儀正しく頭を下げた。
マギアナ……それはエリファスという技術士が創り出した人造のポケモン、その胸部にソウルハートというコアを埋め込むことで活動する人造ポケモンだ。
そのポケモン娘は一言で言うならお姫様か。
500年の歳月のためか、色褪せた灰色のドレスに身を包み、その所作は気品を感じる。
身長は135センチ程度で、この中で一番身長高いか、そして胸はこの中では大きい、それでも茜にも及ばない程度であるが、ロリ巨乳に分類されるのかな。

シェイミ
 「ハグハグ! お兄おかわり!」


 「おかわりと来たか! 待ってろ追加で作るわ」

気が付くとシェイミは既に皿を空っぽにしていた。
自分で言うのも難だが、あまり褒められた味じゃないと思うが、シェイミが気に入ってくれたなら幸いだ。

マギアナ
 「茂様……いえご主人様とお呼びさせていただきます。私も何か手伝わせていただけないでしょうか?」

……何というか、マギアナってやっぱり箱入り娘なんだろうなぁ。
元々ワンオフしか存在しない幻のポケモン、元々は煌びやかな彩色が施されたマキナだそうだが、それも500年という年月が塗料を劣化差せて、鋼の表面を剥き出しにしている。
エリファスという技術士はなぜマギアナ……正確にはソウルハートを生み出したのかは謎だ。
ゲーム内の説明では気持ち、思考、体調を感じる能力を有しており、とても献身的なポケモンだという。
劇中でもピントのずれた骨董品お姫様っぷりだったが、まぁ流石に同一のポケモンではあるまい。
実質マギアナはそのボディが本体ではなく、ソウルハートが本体な訳でポケモン娘も同様なのか気になるな。
なお、本家では眠る時や悲しい時はモンスターボールに変形する訳だが、これは流石にポケモン娘では出来まい……多分。
可変機構は男の浪漫、ある意味マギアナはスーパーなロボットなのかも。


 「なら、洗い物手伝って貰おうか」

マギアナ
 「畏まりました」

俺は厨房で野菜を切り分けると、隣でマギアナは楽しそうに使い終わった物を水洗いしていく。
俺は少し気になったことを幾つかマギアナぶつけてみた。


 「やっぱりマギアナって500歳になるのか?」

マギアナ
 「肉体年齢としてはそうなのかも知れませんが、心は永遠の14歳と自負します」

一応製造500年と言うのは否定しないんだな。
現実なら16世紀前後、平賀源内もびっくりの鋼鉄製機械仕掛け人形とかボディ単体で見てもすげースペックだよなぁ。
まぁポケモンの世界の500年前は現代より技術が進んでそうであるが。
精神的には14歳というのも、ソウルハートの不滅性を現しているのかね。
確かにこのロリ巨乳をお婆ちゃん扱いするのは無理があるし、本人の言うとおり子供として扱うべきか。

マギアナ
 「洗い物完了致しました、次は如何致しましょう?」


 「ん〜、後は炒めるだけでこれはフライパン一つで出来るからなぁ」

そう言えば、この城って結構謎だわ。
厨房はもっと古くさいのかと思えば、IH内蔵コンロだし、洗面台の浄水機能もあるし、冷蔵庫の存在から電力も通っているらしい。
そりゃ現代のヴィクトリア宮殿も大阪城も電気通っているとはいえ、ファンタジー感はあんまりないな。


 「じゃ、先にご飯食べてきな、本格的には晩ご飯から手伝ってもらおう」

マギアナ
 「畏まりましたご主人様、では失礼します」

マギアナはそう言うと元の席に着席した。
そして俺は野菜を炒めながら、皆の様子を見る。
ただ黙々と食べるジラーチ、フーパとシェイミはワイワイ盛り上がって、マギアナはそれを微笑ましく見守っている。


 (子供たちだけのゲームパーティか)

ここに大人は俺しかいない。
フーパはなぜ、この四人で今回の事件を引き起こしたのか。
なぜ俺を巻き込んだのか。
プレイヤー側を茜たちに設定し、ジラーチがゲームを作って、フーパは魔王を演じる。
シェイミとマギアナも参加者である以上何らかの理由があって参加したのだろう。
特にフーパとジラーチはこの事件の主犯と言える。
それだけに二人にはなんだか暗い影がある。
はっきり言うと放っておけない。
本来俺は拉致られた被害者な訳だが、今の俺は保護者のつもりでいる。
拉致られたとかもう、そういう不幸ネタには馴れた。
そして俺の目の前にはどういう訳か一筋縄ではいかない事情持ちばかり現れやがる。
はっきり言ってうんざりだが、見捨てるつもりはない。
何か問題が起きれば、大人が彼女たちを助けるべきだが、ここに大人は俺しかいない以上、俺がやるしかないからな。


 「ほい! おかわりお待たせ!」

シェイミ
 「ワッフー!」

俺は更に野菜炒めを盛ると、シェイミは手を叩いて喜んだ。
ワッフーって風の○ロノアかよと突っ込みたいが、もうかなり過去のゲームなんだよな、シェイミが分かるか怪しいんで止めとく。



***



美柑
 「耐暑装備に変えるだけで大分違いますねぇ」


 「皆が集めた売却専用アイテムかき集めたら結構余ったね」

私たちは野外の露天で装備の更新を行った。
私と美柑は中東風の布の服に変更し、保美香と伊吹は装備のグレードアップを行った。

美柑
 「それにしてもやっぱりゲームなんですね、如何にも防御力低そうなのに、更新した方が数値上がるなんて」

保美香
 「まぁゲームのお陰で、現実的な問題は大分無視されて幸いですけど」

例えばアイテムだ。
本来集めれば集めるほど重量が増すが、アイテムに重量の概念はない。
これだけで薬草や、夜間活動用のホットドリンクは大量に確保できる。
欠点があるとすれば、やはり肉体性能が現実より低い事か。
他にもジョブごとに装備できる範囲が異なるらしい。
例えば私は弓系、鞭、杖が装備可能。
保美香だとナイフや重くない剣なら装備できるみたい。
白兵戦向きの美柑は剣を二刀流できる他、盾や斧、ハンマーも装備できるみたい。
そして伊吹は槍の他に弓、笛、大剣とやや変わったラインナップが装備できるみたい。

伊吹
 「それにしても〜、気になるのはどうしてアタシたちを選んだんだろうねぇ〜」

保美香
 「その点ではだんな様も巻き込まれたようですし……わたくしたちにゲームをプレイさせる張本人たちは何者なんでしょう?」

……その問いに正確に答えられる者はいない。
ただ、皆ある程度感じているみたいだけど、明確な悪意は感じられないのだ。
私たちに恨みがあるなら、もっと絶望的なクソゲーに放り込めばいい。
だがここまでのゲームは高難易度だけど、解法を見つければ突破できる絶妙な難易度で、純粋に楽しんで貰うために用意したようにしか思えない。


 「感覚的には自作のTRPGに近いかも」

美柑
 「つまり茜みたいなヘビーゲーマーが、でも友達も居なくてナードな感じで、一緒に遊びたくて無理矢理参加させた?」

保美香
 「それだとまるっきり子供のお遊びですわね」

伊吹
 「でも……もしかしたら正解かも〜」

私もそう思う。
如何にも子供が、力はあるけど友達が居ない。
だから遊び友達を求めて私たちを自作のゲームに巻き込んだ感じだ。
でも……それならどうして私たちの前に顔を表さないのか気になるが、今は答え合わせの段階じゃないか。

保美香
 「まぁ今の問題はこの村に閉じ込められているという事でしょう?」

伊吹
 「多分だけど〜、時間が鍵じゃないかなぁ〜」


 「私もそう思う。多分このゲーム完成してない。だから完成するまで足止めだと思う」

美柑
 「見切り発車ですか……巻き込まれる側は堪ったものじゃないですよ」

美柑の意見も最もだ。
だがこちらはゲスト側故に現状を打破することは出来ない。
一応モニターされているみたいだから、ホスト側も気にしてると思うけど。

伊吹
 「まぁ〜、ここは進行フラグのテンプレ的に〜、宿に一泊するべきかな〜」

……他にすることもないし、伊吹の意見は全員賛成した。
私たちは宿に入るのだった。



***




 「ふんふんふーん♪ 野菜はたっぷりゆっくり煮込んで〜♪」

夜、俺はカレーを作っている。
カレーは俺が最も得意とする料理……と言ってもカレーを作れない奴なんて余程の事がない限りいないとは思うが。
味付けは野菜をたっぷり鍋でじっくり煮込む、30分位中火で蓋をして煮込めばオーケーだ。


 「なんだかとっても美味しそうでしゅ」

マギアナ
 「私もお手伝い出来て嬉しいですわ」

手伝って貰ったって言ってもマギアナに協力して貰ったのは野菜剥きくらいだ。
これが結構一人だと大変だからな、マギアナと二人ですれば大量の野菜も楽なもんだ。


 「カレーってどんな料理なのかドキドキでしゅ」

……さてさっきから俺の隣でミカン箱を台座にして眺めているちびっ子がいるが、こいつは新キャラじゃない、シェイミだ。
明らかに見た目も性格も違っているが、別人じゃない、間違いなくシェイミである。
さて今更シェイミを持っていないお方も多いだろうし、シェイミについておさらいだ。
まず昼間のシェイミはスカイフォルムという形態であり、現在の姿はランドフォルムという。
普段の形態はこのランドフォルムが基本である。
実はシェイミ、とても珍しいことにフォルムチェンジすることで体長も体重も変化するのである。
ランドフォルムの時にグラデシアの花に触れることで身体も大きくなり、性格も快活なスカイフォルムに変化できるが、日が沈むとランドフォルムに戻ってしまう。
このランドフォルム形態のシェイミはフーパやジラーチよりも小さく、小学生低学年レベルのちびっ子になってしまった。
性格の方も大人しい感じになり、さながら小動物。


 「さて、そろそろルーの投入だな」

俺が用意したのは固形ルーの王道○ーモンドである。
ここはちみっ子ばかりという事で甘口であり、更に蜂蜜でマイルドにしてある。
欠点はカレーの辛さが薄まり過ぎる恐れがあることだが、食材は長めに煮込むことで野菜と肉のブイヨンが出ているので味は問題ない。
後は火を消してルーを入れるだけ、○ウス食品の本気見せて見せて貰いますよ!
因みにルーだが、フーパに頼んだら簡単に出してくれた。
改めてフーパってランプの魔神みたいだよな。
見た目もインド〜中東風だしな。

シェイミ
 「ふわぁ〜、段々色が変わってきたでしゅ」

マギアナ
 「凄い、魔法みたいです」

いいえ、自然科学の粋です。
カレーを初めて見るちみっ子たちは透明だった鍋が段々黄色く染まり、水の粘度が変化してきた事をまるで魔法のように喜ぶが、俺からしたらポケモンの方が余程魔法である。


 「後は弱火で煮込んだら完成だ。マギアナ、フーパとジラーチを呼んできてくれ」

マギアナ
 「畏まりましたご主人様」



***



フーパ
 「ふふふ……何ゆえ藻掻き生きるのか? 滅びこそ我が喜び。死に逝く者こそ美しい。さぁ、我が腕の中で息絶えるがよい!」

ジラーチ
 「パクリ乙」

私は地下の作戦司令室と書かれた部屋でゲームを制作していた。
フーパは暇なのか後ろでひたすら自分の登場時のセリフを考えていたようだが、中々良案は出ないようだ。

フーパ
 「うーん、それじゃ……命……夢……希望……何処から来て、何処へ行く? そんな物は……この私が破壊する!!」

ジラーチ
 「夢とか希望……それ私たちが捨てたら何が残るの? 私は絶対捨てない……」

フーパ
 「アタシだって捨てないよ、夢と希望があるから楽しいんだもんな!」

……フーパも色々考えているが、やっぱりラスボスって難しいよね。
そもそも私たちはそれぞれ何らかの不幸を背負っている。
私の場合は孤独かな。
私は千年の内僅か7日だけこの世に生きられる。
ただし、それが幸せとは限らない。
私を見つけた者たちはどいつもこいつも胸くそ悪い奴らだった。
自分の幸運を望むばかりとは限らず、他人の不幸を願う者、自ら王になりたいがために何万人もの人格をねじ曲げる願いをした者もいる。
そしてそんなクソどもは私の幸せなんて1回も願ってくれた奴はいない。
こんなんで何回も休眠と覚醒を繰り返し、私は絶望的な生を謳歌した。

ジラーチ
 (だからこそ、ポケモン娘になって、フーパと出会って、自分の幸せは自分で手にすることを決めた)

他人が誰も私の幸せを願ってくれないなら、私が幸せを勝ち取るしかないのだ。
何故なら私は自分の願いを叶える事は出来ない。
ポケモン娘になって、もう過去のように休眠に入る事はなくなり、千年彗星もなければ、現実改変クラスの力を引き出す事は出来ない。
それでも小さな願い程度なら蓄えられた力でなんとか可能だ。

マギアナ
 「失礼致します、ご主人様が晩ご飯の用意が出来たと、お二人をお呼びです」

フーパ
 「おー、飯だ飯ー!」

作戦司令室でゲームの制作をしているとマギアナが入室してくる。
フーパはリングで空間を繋ぐと、キッチンにショートカットした。
私は一旦作業を終えると席を立つ。

マギアナ
 「お疲れのようですね、何か手伝えますか?」

マギアナは私の感情でも読んだのかそんな事を言うが、マギアナに手伝える事は多くない。
マギアナは製造理由もあるのかも知れないけど、人を全く疑わないし、献身的過ぎる。
もうポケモン娘化したことで無機から有機へと変質した以上、ソウルハートも変質したと思われるが、この一切邪気のない心はマギアナならではだ。

ジラーチ
 「別に良いわ……それよりご飯でしょ?」

リングの向こうからは妙に食欲をそそる匂いが司令室まで漂っている。
私たちはリングを通ると、それぞれの席に着席した。
既にフーパは食べているが、私たちは茂お兄ちゃんの挙動に注目する。


 「それじゃ皆さん、手を合わせていただきます」


「「「いただきます(でしゅ)」」」

私は目の前のスプーンを手に取ると、怪しい色をした食べ物を掬う。
少し躊躇われる色だが、フーパは美味しそうに食べている。

シェイミ
 「美味しいでしゅ、流石お兄たまでしゅ」

マギアナ
 「初めて食べますが、とても美味しいです。美味しい物を食べると心が幸せになるって本当だったんですね」


 「そうか! 喜んでくれれば幸いだ!」

ジラーチ
 「美味しい……」

私も皆の様子を見て口に運んだ。
少し辛さがあるけど、なんだか甘くも感じる味でとても美味しかった。
何よりもマギアナじゃないけど、心が満たされる気がして幸せに感じる。
こういう小さな幸せでいい、私が求めた幸せってここにあるのかも。

フーパ
 「おっかわりー!」


 「もう食ったのか? 待ってろすぐ盛ってやるから」

茂お兄ちゃんはフーパの皿を手に取ると、鍋の方に向かう。
私はその後ろ姿を見ながら、更に食べて行く。

シェイミ
 「? ジラーチ泣いてるでしゅ、大丈夫でしゅか?」

ジラーチ
 「え? 私泣いてるの?」

私は気が付かなかったが、目元に触れると確かに涙が出ていた。
でもこれは痛いからとか辛いから出た涙じゃない。

マギアナ
 「ふふ、人は嬉しい時に出る涙もあるそうですね、私もいつか流してみたい物です」

マギアナは私の心を読んだのだろう。
私が哀しい気持ちじゃないと知って、微笑ましく笑っている。

シェイミ
 「どういう事でしゅ?」

マギアナ
 「それは……」

ジラーチ
 「っ!」

私はマギアナにそれ以上喋るなと無言の圧力を掛けた。
もし私の感情を暴露するなら破滅の願いでお前を殺す……それ位の気を放つとマギアナはそっと口を塞ぐ。

マギアナ
 「なんでもありません。カレーライスがこんなに美味しいとは思わなかった物で」

マギアナの悪い所はああやって当たり前に人の感情を読んでしまう所だ。
私は涙を拭くと、ニヤニヤ笑うフーパが目に入った。
フーパも私の感情を理解しているから、敢えて何も言わずニヤニヤしているのだろう。
むかつくけど、茶化さなかったから私も無視しておく。


 「ほい! カレーライス追加!」

フーパ
 「ヒャッハー!」

フーパは私と違って単純でいい、美味しい物には手を叩いて喜び、不味い料理には遠慮なく文句を垂れる。
私にはそこまで感情的になるのは無理だった。


 「ん? どうしたジラーチ、目が赤いぞ?」

ジラーチ
 「は、はぁ!? 私を視姦して楽しいの!? この変態! そうやって私に劣情をぶちまけるの? 全く救いのないエロ猿ね!」


 「ちょ、心配しただけなのに、なんで罵倒されないといけない訳!? 不幸だ……」

私はつい気付いて欲しくなくて、罵倒をしてしまう。
マギアナはやはり笑っているが、もう気にしない。
さっさとカレーなる物を食べ終えると、席を立った。

ジラーチ
 「ご馳走様、作業に戻るわ」


 「お、おう……無理すんなよ」



***



ジラーチ
 「……後もう少しで完成」

私はステージ2の追い込みにかかっていた。
後はバグらないかチェックして、マスターアップするだけ。
ステージ3は想定では最速で4日はかかるという組み方をしている。
その間に今度は出来る限りステージ3を完成させないといけない。


 「お疲れ、作業の方はどうだ?」

後ろを振り返ると茂お兄ちゃんがいた。
誰から場所を聞いたのか、何か飲み物を持ってきたみたいだった。

ジラーチ
 「丁度終わった所、マスターアップしたら眠るわ」


 「改めてジラーチだけで作っているって凄いな。あ、これコーンポタージュなんだが、大丈夫か?」

ジラーチ
 「?」

茂お兄ちゃんがついでくれたのは妙に良い匂いのする黄色い飲み物だった。
湯気も立っており、コーンが浮かんでいる。

ジラーチ
 「利尿剤とか興奮剤入ってたり……」


 「いや俺そんな鬼畜じゃないから!」

分かっている……ただ素直になれないだけ。
私はカップに注がれたそれをゆっくり口に含む。

ジラーチ
 「美味しい……その、ありがとう」

仄かに香るコーンの甘みと塩味、私は口から湯気を吐き出して一息つく。


 「他の皆じゃ手伝えないのか?」

ジラーチ
 「無理ね、これは私の願いの力を応用しているから他の子には不可能よ」

一応原案であるフーパの願いをベースには開発している。
シェイミとマギアナは巻き込んだと言う方が正解だからやることがないのは仕方ない。
フーパの良いところであり、悪いところであるのは、ああやって無差別に集める所よね。

ジラーチ
 「ご馳走様、温かい物をありがとう」


 「……お、幸せのリングが出来てる」

ジラーチ
 「え?」

茂お兄ちゃんは飲み終えたカップの底を見てそう言った。
カップの底にはコーンのカスが残っている。
それはカップの淵に出来たリングだ。
まるで天使の輪っかみたいだった。


 「ま、都市伝説みたいな物だけどな……それが綺麗に現れると幸運が訪れるんだとさ」

ジラーチ
 「馬鹿馬鹿しい……願い事ポケモンの前で幸せなんて」

……そんな風に馬鹿にしてしまうけど、占いというものは嫌いじゃない。
ただ、不幸体質が身についているためイマイチ幸運の結果が信用出来ないだけだ。
そんな私を見て茂お兄ちゃんは私の頭を撫でた。


 「俺もどっちかというと不幸の方が多いからな、でもジラーチ、願わなければ叶わない事もあるだろう?」

ジラーチ
 「……汚い手で……いえ、やっぱりなんでもない」

私は暫く茂お兄ちゃんに身を委ねた。
やがてマスターアップが終わると、茂お兄ちゃんは手を離した。


 「さて……洗い物して俺も寝るかね」

ジラーチ
 「ねぇ……今日は一緒に寝ていい?」


 「なんだ? 一人は寂しいならフーパとかマギアナでも……」

ジラーチ
 「っ! ……そうよね、私なんて要らないものね……茂には私なんて邪魔なだけ」


 「ちょ! 邪魔とか思ってるわけねぇだろ! 分かったよ……最上階で寝るから先に行ってろ」

茂お兄ちゃんはそう言うと司令室を出て行った。



#3に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/04(土) 09:13 )