SP01
茂
「新型VRゲーム体験会ねぇ?」
茜
「真莉愛がくれたの」
昨今、VR技術の革新は目まぐるしい。
後数年以内には巨大な市場を築くと言う予想もあり、とりわけゲーム業界はVR技術の導入に積極的だと言えるだろう。
今回は家庭用ではなくアミューズメントストア向け新型VR体験とある。
茜が持っていたチケットは4枚、ウチは7人いるから3人体験できないな。
凪
「私はゲームにそれほど興味もないし、ポケにゃんのバイトがあるから遠慮するよ」
華凛
「私もゲームの体験よりバイトが優先だな。ダーリン達で楽しんでくると良い」
茂
「なら、俺も見てるだけで良い、茜たちで楽しめ」
『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』
新型VR体験会は近くのアミューズメントストアで開催された。
件のVRゲームは卵状のカプセルの中で体験するらしい。
話題も相当なのか、頭上に設置されたモニターには、5k相当の美麗なグラフィックで描かれた世界が映し出されている。
見物客の数は凄まじく、カプセルの前には凄まじい数が集まっている。
幸い今回はチケット制で、時間が来れば遊ぶことが可能らしい。
茂
「結構設置面積取るよな」
カプセルは可能な限り小型化しているのだろう。
しかしそれでもダンスホールとして使用できる大きなフロアに12台しか設置できない。
昨今ゲーム機の大型化もあり、設置できる店舗は限られそうだ。
茜
「順番きた」
保美香
「さて、新型と言っても現を抜かせる出来なのかしら?」
美柑
「とりあえず楽しみましょうよ!」
伊吹
「そうだねぇ、楽しまなきゃ損だもんね」
『special 神秘の世界と魔神と呼ばれたポケモン娘』
保美香
「……ここは?」
カプセルの中に入った後、係員から僅かなレクチャーを受けた。
シートベルトを装着して(転倒防止らしい)、ヘルメット型ヘッドマウントディスプレイを装着すると、そこには雄大な景色が広がっていた。
保美香
「現実はここまで美しいかしら? 5kというのも存外無駄な解像度ですわね」
とりあえず、わたくしは身体を動かす。
固定しているはずの腰も含めて、ゲームの中のわたくしは自由自在だ。
ただ、触手が動かない、普通の人間を想定しているからPKMの特有の特徴は再現不可能ということか。
よく見ると、自身の服装もまるで違う、皮のレザージャケットにぼてぼてしい革靴。
テンガロンハットでもあれば西部劇の雰囲気だが、世界間はどちらかというとファンタジーのようだ。
丁度上空をドラゴンが飛んでいく。
某狩猟ゲーム的な感じなのかしら?
保美香
「とりあえず皆を探しましょうか」
わたくしは腰に刺さったサバイバルナイフを掌でくるりと回転させるとホルスターに納める。
一般人ならゲームの中で俺強ぇできるかもしれないが、私からすればゲームの身体は貧弱も良いところ。
まぁPKMがプレイすることなんて想定している訳ないですからね。
とはいえ係員も気前よく入れていくれたものだ。
産業的にはPKMも市場になるという予想なんでしょうがね。
保美香
「しかし……ここは何所で皆はどこにいるんでしょうね?」
ぱっと見の世界感は美しいの一言、丈の短い草原になだらかな丘。
とりあえずUIの使い方が分からない。
保美香
「自分で探すよりゲームの得意な茜辺りに探してもらうかしら」
***
伊吹
「ふわわ〜、すごーい」
アタシは火山地帯にいた。
ゲームの中なのに感じるのは強い熱気と硫黄の臭い。
それは多分ヘルメット型ヘッドマウントディスプレイから脳に直接そういう情報を流していると推測出来る。
或いは軽い催眠状態と言えるのだろうか?
現実ではカプセルの中にいるはずだが、アタシにはゲームの中しか認識できない。
そして実際、ゲームの中ではマップデータを想像するだけで視界の右上にミニマップが配置された。
現実の身体は多分殆ど動いていないと思う、新型というのは脳波コントロールを前提としたVRゲームみたい。
でもそうなると……。
伊吹
「あっはっは〜! 身体軽〜い!」
とりあえず走り回ってみる。
アタシは耐熱性の高そうなスケイルアーマーに身を包んでいるが、身体は重いどころか軽い。
思考力が直接的に操作デバイスに直結されているから、現実では出来ない動きを堪能できる。
伊吹
「今のゲームって〜、本当に何にでもなれるんだね〜」
それは普通の女子高生として恋愛することも、勇者として魔王を倒すこともゲームでは自由自在。
今のアタシは差し詰め冒険者って感じかな?
背中の大きな槍はアタシには不似合いだけど、ゲームの中ではこういう物だろう。
伊吹
「えーと、皆の現在地は〜」
アタシはミニマップから全体マップに切り替える。
ワールドマップを開くと、この世界は5つのリージョンに分けられているのが分かる。
まず中央に草原のリージョン、その周囲を取り囲む火山、氷雪地帯、海と密林、砂漠の5つだ。
どうやら皆バラバラの場所にいるらしく、とりあえず保美香と合流しようかな。
***
美柑
「うう……寒い」
ボクがゲームの中に入ると、氷雪地帯だった。
ボク自身は毛皮のコートを着ているにも関わらず、寒さは凄まじい。
周囲にはマンモスみたいな動物がのんびり闊歩しており、それほど危険はなさそうだ。
美柑
「それにしてもどうしてボクが双剣装備なんだろう……」
流石にゲームの世界には剣のギルと盾のガルドは持ち込めないらしく、その代わり配されたのは剣二本、これじゃニダンギルだよ。
剣と盾は本来一心同体、向こうにも魂があるようにボクの一部を成している。
それも流石にゲームの世界では再現できないらしく、あくまでボクは人間の戦士って感じみたい。
本来ギルガルドは寒さに強いのに、ゲームの中では普通に寒くて、違う身体なんだと実感する。
とりあえず暖かい場所に移動しよう。
現在はまだ未実装のようだが、本来は拠点をベースに各リージョンをワープできるみたいだが、現在の様子では不可能のようだ。
つまり自力で移動するしかないみたい。
幸いゲームの中のボクは身体も軽く、走っても疲れない。
色んな部分がゲームらしくご都合主義のようだ。
美柑
「とりあえず草原に移動すれば、皆も集合するかな?」
***
茜
「すごい」
ゲームの中に入ると、私は素直に感動した。
まず私の目の前には美しい砂浜と白波が映し出される。
レトロゲームの中の美麗さも綺麗だけど、最新ゲームの美麗さはレベルが違う。
今の私はビキニアーマーにボウガン使いらしい、足下に当たる波は冷たく気持ちいい。
一応私は尻尾と耳確認してみると、どちらも機能しなかった。
つまりゲーム世界ではイーブイではなく、人間として機能しているみたい。
お陰で若干敏捷性に問題があるが、とりあえずハンターにはなれそうだ。
茜
「……皆草原に移動している?」
この手のゲームならサーバーが別じゃない限り、基本的に位置が分かるもの。
全体マップに顔アイコンで誰がどこにいるのか分かる、だから私は草原に移動することにした。
***
茂
「アイツら楽しんでいるかな?」
俺は少し離れた場所で、ディスプレイから被験者のゲーム映像を見ていた。
ゲームの中では本人がそのままゲームに抽出されるらしく、茜のロリ巨乳を強調するビキニアーマーは何所のエロゲーだよって感じだな。
実際若干不自然には見えるが、茜の胸が縦揺れを起こす度に一部から歓声が上がった。
本当は伊吹の方がデカいんだが、伊吹はスケイルアーマーだから揺れないもんなぁ。
美柑はラインこそでないが、それでも巨乳なら分かる毛皮のフードだけにもったいない。
一方で保美香は大して動こうともせず、近場のモンスターを狩っている。
アーケード向けにしては、動きがないというかロケテ版にして未完成の部分が多いのかな?
?
「ゲームってのは楽しまないと損だもんね、勿論アタシも君もね」
茂
「え?」
後ろだった。
俺の後ろには小さな少女がいた。
身長は130位、一見するとコスプレした少女のように見えたが違う、PKMだ。
手に持ったフラフープで使うには小さなリングを片方の手でクルクルと回して、もう片方ではリングを手で固定している。
ただし、そのリングが何なのかは俺には判断出来なかった。
ただ固定されたリングの向こうは薄暗いホールを映してはいなかった。
そこには雄大な草原が映し出されている。
?
「さぁ盛大に楽しもうじゃないか! これはゲーム! アタシたちが主催するポケモンたちの大パーティー!」
リングが大きく広がった。
周りの人間は異変に気付いていないのか!?
俺は周囲を伺うが、ゲームの熱気に飲まれて誰も異変に気付かない。
茂
「お、まえ、は!?」
俺の存在が不安定になる。
謎のPKMが手に持つリングは俺を飲み込む大きさにまで成長して、俺を……飲み込んだ。
***
保美香
「ッ!? 今、何が?」
突然わたくしは頭痛に襲われた。
視界もぶれて、立ち眩みに襲われるが、直ぐに正常化した。
保美香
「やれやれ……ポケモン娘が3D酔いでしょうか? あれって人間だけの現象じゃないのかしら?」
それにしてももうどれ位時間が経ったかしら?
試遊時間は僅か10分の筈だけど、いつまで経ってもゲームが終わらない。
というか、疲れたからゲームからログアウトしたいんだけど、何故か出来なかった。
流石のわたくしも馬鹿ではないから、ゲームの仕様は少し理解してきた。
だから、メニューからゲーム終了を呼び出したんだけど、反応無し。
保美香
「……閉じ込められました?」
はっきり言って気付くのに遅かったかしら。
状況は.○uckとか○AOじみてきたわね。
純粋にバグかもしれないが、現実の身体はピクリとも動かないし、係員に異常を伝えるすべもない。
?
『パンパカパーン、これよりゲームの説明始めまーす』
保美香
「空?」
それは頭上だった。
立体ディスプレイのように空中にはバストアップで映し出された少女らしきシルエットが映し出される。
?
『貴女方には、魔王を討伐して頂きます、魔王はこの世界の何処かにおり、魔王を倒さない限り貴女方のゲームは終わりません、それでは健闘を祈ります』
保美香
「仕様……の訳がないですわよね?」
シルエットは少女のようだったが、真相は分からない。
しかし如何にもテンプレで頭の悪い条件が出ましたわね。
魔王打倒とは、もう使い古されてカビ臭いネタですわ。
?
『追伸、細かいゲーム仕様はNPCに聞いてください、皆さんはジョブとレベルの確認は忘れずに』
保美香
「ジョブにレベル?」
私は視界の下に表示された情報を確認する。
***
?
「あーはっは! ジラーチ、もうちょっと演技しろよ! 素人臭すぎて笑いが止まらねぇ!」
さっのパンパカパーンからゲームの説明をしていたのはジラーチと呼ばれる幻のポケモンだった。
ジラーチは顔を真っ赤にすると、俺の隣で大笑いする自称魔王を睨みつける。
ジラーチ
「煩いフーパ、文句があるならフーパがやってよ」
フーパ
「いやさ、魔王が語り部になるってのはないでしょ? 魔王ってのはぽっと出ってのがテンプレだぜ? なぁ茂君?」
茂
「……俺を攫ってどうする気だよ?」
俺の前には二人の少女がいる。
どちらも見た目は幼く、フーパと呼ばれる少女はボーイッシュでやんちゃな感じ。
一方でジラーチは物静かで大人しい感じの少女だ。
はっきり言って物騒さとか欠片もない。
どちらかというと子供が遊びたくて壮大なゲームを開いた感じなんだよなぁ。
フーパ
「そりゃゲームには動機がいるでしょ? 囚われの王子様がいれば彼女たちもテンションアップ間違いなし!」
ケラケラ俺の胸元に抱きついて笑う姿はやっぱり悪意なんてないな。
寧ろ魔王というよりただのいたずら者。
フーパが持つ性そのものだろうか。
茂
「でも、俺がここにいるって向こうは知らないんじゃないか?」
ジラーチ
「それもそうだね、どうするの?」
フーパ
「ん〜、よしジラーチ服を脱げ」
ジラーチ
「……は?」
言ってる意味が分からない。
だがフーパは遠慮もせず脱ぎだした。
体型も見事に小学生でエロくないが、流石に見ないように俺は目を塞いだ。
フーパ
「御免ね茂君? ちょっと拘束するからね」
そう言うと、目元に何か掛けられた。
恐らく目隠し、そして両手両足が拘束される。
一体何する気かさっぱり分からないが、誰かが俺の腰に跨がってきた。
ジラーチ
「……これで良いの?」
フーパ
「オーケー、アングルはここでいいか」
***
フーパ
『パンパカパーン! 報告でーす! こちらをご覧下さい!』
茜
「……?」
突然、追加インフォメーションがあるらしい。
頭上にはまたも映像が映し出される。
そこには裸の少女が誰かに跨がっている。
しかしその様子はどう見ても騎乗位セックス、なぜそんなものを見せるのか……その意味は直ぐに分かった。
フーパ
『今囚われの王子様が種付けしている最中でーっす。自分もして欲しいって人は頑張って魔王倒してね?』
直後映像が終わった。
私はボウガンをその場に落としてしまう。
茜
「ご主人様と種付けセックス……?」
***
保美香
「うおー! くあー! ざっけんなー! わたくしもして欲しいに決まってますわ! というかだんな様はなぜあんな少女に騎乗位で!?」
***
美柑
「……魔王死すべし、慈悲はない」
***
伊吹
「あはは〜、茂君童貞卒業おめでとう?」
***
全員思いは様々だが、動機は完成した。
***
茂
「ちょっとまて!? なんで報酬が俺の精子なんだよ!?」
ジラーチ
「……フーパ、どうせなら貴女が跨がれば良いじゃない、どうして私なの?」
皆を煽る映像が終わるとてんやわんやだった。
既に俺の拘束もとかれ、ジラーチは服を着ている。
しかし顔は真っ赤で、やはりああいうAV紛いのことをされるのは恥ずかしいのだろうか。
勿論実際にはやっていないが、やってる風に見せるのはやり過ぎだろう。
未だ服も着ずにきゃっきゃと笑うフーパに俺は拳骨を見舞う。
フーパ
「グキュ!? な、何するんだよ!」
茂
「やって良いことと悪いことがある、知らない子でも悪いことをするなら怒るぞ?」
フーパ
「う……」
流石に他人を出汁に使った事をフーパも罪悪感はあるらしく黙った。
やはり精神年齢も子供らしく、無邪気に残酷な所が子供らしい。
だが、フーパは涙目で震えると。
フーパ
「うわーん! フェラでお礼しようと思ったのに茂君の馬鹿ー! ジラーチ孕ませてやるー!」
そう言うとリングの中に逃げ込んだ。
リングはフーパが消えると消滅してしまった。
その場に残された俺とジラーチは呆然とそれを見送った。
ジラーチ
「こんな子供でも孕ませたい?」
茂
「そこではいと答えると俺の社会生命が終わる!」
ジラーチ
「茂さんが願うなら幼女を孕ませてもいい世界を作ってあげるけど」
茂
「ジラーチとはいえ、そんな事出来るのか?」
ジラーチは願い事ポケモン。
千年に一度だけ、7日間だけこの世に目を覚ます。
その力はどんな願いさえも叶えるという。
だが、その力をそんな事に使っても良いのか……しかしジラーチは。
ジラーチ
「大きなお願いだと難しいけど、この世界を創ったのは私だよ?」
茂
「え? 創った?」
ジラーチが言ったことは真実だ。
彼女の話によると、今回の事件の計画を持ち出したのはフーパらしい。
なんでも自分たちも楽しく遊びたいと、それに同意したのがジラーチな訳で、フーパが世界を繋ぎ、ジラーチがその能力でこの世界を生み出した。
他にも何人か参加しているらしいが、まぁそれは追々登場するだろう。
事実上この世界の大半を作り出したのはジラーチと言える。
ジラーチ
「来て、少し案内するわ」
俺はジラーチの後ろをついて行くと、光を感じる。
城のテラスに出たらしく、まずは青空が広がった。
ジラーチ
「ここはフーパが見つけたんだけど、参考に私が再現したの、美しいよね」
城の下には庭園が広がる。
庭園には色とりどり花が咲いている。
そのどれもが手入れがしっかりして、優秀なガーデナーが手入れしたんだろうと分かる。
茂
「この庭園は?」
ジラーチ
「再現、こういう城があって、その時間を切り取ったの……だからこの庭園もあくまでレプリカ」
茂
「レプリカ、か……それでもこの城はきっと愛されたんですね、でなければこんな綺麗な花は咲きませんよ」
?
「だよねぇ! 君もそう思ってくれて嬉しい!」
茂
「うおっ!?」
突然下から一人の少女が飛び上がってきた。
俺は後ろに倒れそうになるが、何とか踏みとどまり少女を見る。
草色の髪、そして白い翼が頭部から生えて飛んでいる。
ジラーチ
「シェイミ、お客様をビックリさせないの」
シェイミ
「あは! ごめんごめんお兄! あたしシェイミ! この計画の参加者の一人!」
茂
「ああ、俺は常葉茂……よろしく」
この子もフーパやジラーチと同じく幼いな、紅いスカーフを巻いてフーパとは別のタイプの快活な少女だ。
しかしどうしてこの計画はなぜ子供たちばかりで行っているのだろう
?
主犯者はフーパだが、子供ばかりで構成されている。
だからこそ無邪気でゲームを楽しんでいるだろう。
だけど子供だからこそ危うい感じもするんだよな。
シェイミ
「お兄は花は好き?」
茂
「嫌いじゃないけど、好きでもないな。都会に住んでいるとあんまり触れ合う機会なんてないし」
それを聞くとシェイミはシュンとする。
どうやらコミュニケーション失敗らしい。
とはいえ別に綺麗な花が嫌いじゃないの事実だ。
ただ好きって言える程知識はないんだよな。
常葉茂
「良かったら花のこと教えてくれないか?」
シェイミはそれを聞くと再び目を輝かせた。
シェイミ
「うん! 一杯教えてあげる!」
***
保美香
「あーもう、鬱陶しい!」
わたくしは迫り来る狼の群れをサバイバルナイフで捌いていく。
魔王を倒せ、さすればだんな様の精子が頂ける。
そうあってはわたくしも頑張らざるを得ない。
現在わたくしのレベルは7。
ジョブがシーフだというのが気に入らないが、今の所は一人でも問題ない。
レベルが上がるごとに私の身体能力も上昇しているらしく、徐々に敵を倒すのも楽になる。
詳しいことはNPCという事だが、そのNPCはどこにいるのやら。
保美香
「飛べないって不便ですわね」
普段上から探す癖があるため、一々大地を歩いて探すのは億劫だ。
とはいえNPCを見つけないと魔王の居場所も分からない。
当然これがゲームならば、ボスなんかも配置しているはず。
保美香
「大体この世界広すぎですわ! おまけにゲームの仕様が変わったのか、自然に敵がスポーンするようになっているし」
倒した敵はゲーム的な演出で消滅する。
経験値を手に入れて、ドロップ品を集めている段階だ。
流石に今の所は生肉とか薬草位しか手に入らないし、わたくしも戦闘に飽き飽きしている。
保美香
「それにしてもだんな様に少女趣味なんてあったのかしら?」
今更冷静になって考えてみるけど、茜でも伊吹でもアウトだっただんな様の性癖は謎である。
少女が裸で跨がっていれば、誰だって子作り中と思うし、実際私もそう思った。
でも冷静に考えたらあれって凄い自演臭いのよね。
そもそもだんな様が魔王に捕まったというのも怪しい、だんな様はゲームに参加していないし、敵の目的も一切不明だ。
何せパンパカパーンなどとふざけた連中だけに愉快犯にも思える。
とはいえだんな様を寝取ろう等と考えているなら、笑止千万。
保美香
「愛なき孕ませセックス等レイプと同じ! やはり愛を語り合いながら挿入する方が断然気持ちいいに決まっていますわ!」
……なんて不満を爆発させるが、流石にそろそろ一人では厳しいかしら。
というか未だにマップの出し方が分からない。
ステータスの確認方法やメニューを開く方法は分かったけど、マップだけ分からない。
何せボタン操作じゃないだけに手当たり次第という訳にはいかない。
これの性でNPCを見つけられないようなものですわよね。
保美香
「やはり水のある方角を目指すべきですか」
わたくしはとりあえず人がいるとしたら水場の近くではないか、そう思いそちらに向かう。
やがて、山陰から風車が見えた。
ビンゴらしい、隠れ里のような雰囲気だが、滝の周囲に里が形成されている。
***
村人A
「装備は持っているだけじゃ意味がない、装備しないといけないんだぜ?」
村人B
「危なくなったら回復じゃ、アイテムはすぐ使えるようショートカットキーにせっとしておくといいぞ」
保美香
「チュートリアル村ですわね」
村にたどり着いたわたくしは片っ端から声を掛けると、皆面白いようにゲームの説明をしてくれた。
何気に私も知らなかったのはショートカットキー、とりあえず薬草をセットしておくと便利だった。
ついでにこのゲーム、お金が貰えないと思ったら、ドロップ品を売却して稼ぐ仕様らしく、ガラクタでも纏めて売ればそれなりに稼げた。
とりあえずわたくしが装備できるものは粗方一新出来て、パワーアップに成功する。
結構序盤だけにお金は余る位ですわね。
保美香
「とはいえゲーム進行関連は誰に聞けば良いのかしら?」
わたくしは周囲を見渡す。
村の一番奥には大きな建物がある。
保美香
「やはり村長かしら」
わたくしはある確信を持つと、坂道を登って村の奥へと向かう。
大きな建物の入口には大きな杖を持った小さな老人がいた。
如何にもファンタジーな世界にいそうな奇抜な民族衣装に身を包んだ老人だった。
村長
「ああ〜、困った困った」
保美香
「一体どうしたのですか?」
村長
「交易路として利用している街道に魔獣が現れたのじゃ、あやつの性でこの村は孤立しておる……どうか旅のお方、魔獣を撃退してはくれませんか?」
とりあえずテンプレきたわね。
ようは魔獣を倒せばこのステージはクリア、次に進めるという事で良いのかしら?
保美香
「その魔獣討伐、慎んでお受け致しましょう」
わたくしはそう言うと出発する。
とりあえず道沿いを進めば、件の魔獣には出会えるかしら。
それにしても魔獣という辺りがなんというか大雑把ね。
まぁゲームではいつも戦闘中名前が表示されるのって便利よね。
SLGなら索敵しないと名称も分からないわ、命中率も不安定なんてあったりするけど。
RPGなら魔獣で充分か。
保美香
「さて……さっさとこんなゲームクリアして、だんな様の精子を戴かなくては!」
里山からなだらか丘にかけて進み、ロケーションは移り変わる。
丘陵地帯を中心に高低差のある中央部、その奥には湖があり、湖側は勾配も安定して街道を進みやすい。
わたくしはなるべくモンスターを無視しながら街道を進むと、やがて小川を挟んだ森の中へと入っていった。
保美香
「思ったより遠いですわねぇ……」
このゲーム、少し厄介な点がある。
一つは身体能力の低下だけど、もう一つが理不尽なダメージ判定。
ある程度テクニックで回避は可能だけど、どうしてもダメージを受けるゲーム性の都合上、回復アイテムを頻繁に使う必要がある。
メリットとしてはいくら走っても疲れない事とか、そもそもダメージで動けなくなったりしない事か。
現実ならずっと走り続ければ疲れるし、ダメージが数値に表れる事はない。
一方でこの世界はHPが1でもあればピンピンしていられる。
死な安を地でいく世界だ。
やがて森は開け、街道は山を登る。
山と言ってもなだらかな山で所々自生した桜並木が美しい街道だ。
山の中腹、巨大なクリスタルが地面から生えた場所で私は異変に気が付く。
保美香
(視線……?)
それは主犯か、モンスターか。
私は注意深く道を進むと何かが高速で視界の中を動く。
やがて、クリスタルの前まで進むとそれはわたくしの道に立ち塞がった。
魔獣
「グルルルルァァァ!」
魔獣は一言で言えば黒い猫だ。
最も大きさはドラゴン級はある猫だが、唸り声を上げると魔獣はわたくしに飛びかかってくる。
保美香
「回避は無理!」
魔獣の俊敏性は凄まじくスピード勝負では歯が立たない。
だからわたくしはガードを選択した。
確実に食らうけど理不尽にダメージを半減してくれるガード、わたくしは吹き飛ばされながらも体勢を整えて魔獣を見捉える。
保美香
(それにしても最初のボスでこれって……結構難易度高いかしら?)
わたくしはこの状況が好ましくない。
わたくし一人だと、回復と攻撃が同時に出来ない。
なのに相手は攻撃力と高スピードを両立した単発重視のモンスター。
複数なら攻撃を散らせるけど、タイマンだとかなり厳しめのボスだ。
保美香
「ああもう! いきなりこれってクソゲーなのかしら!?」
わたくしはナイフ片手に斬りかかるが、当たらない。
魔獣の回避力は高く、わたくしは非常に大ピンチである。
元々好きなゲームならともかく、それほど数はやり込んでいないため、ゲーム適性は高い方じゃない。
それでもわたくしはこれをゲームとして捉え、考察してみる。
明らかに最初のボスにしてはやり過ぎな敵、普通に考えれば何らかの抜け穴があるはず。
わたくしはアイテム欄を漁った。
すると、割と謎アイテムを大量に持っていることに気付く。
生肉だ、回復量はまるでなく、薬草もドロップするのに何の意味があるのか全く謎のアイテム。
保美香
「こうなりゃ試して見るまでですわ!」
わたくしは生肉を選択すると放り投げる。
魔獣
「! グルァ!」
魔獣は生肉に反応してわたくしを無視して生肉に飛びかかる。
やった! 予想通りギミック対応ね!
わたくしはチャンスと背中からナイフを突き刺す。
魔獣は悲鳴を上げるが、流石にその程度では仕留めきれない。
とはいえ、正攻法ではあからさまに強すぎるボスは、やっぱりシステムを理解すれば最初のボスだと分かる。
生肉を投げて、攻撃するの繰り返しで魔獣は攻撃さえしてこない。
そのまま生肉を10個程消費する事で、魔獣は遂に力尽きた。
保美香
「はぁ……とはいえ疲れましたわ」
ジラーチ
『パンパカパーン、ステージ1クリアおめでとう。その魔獣はレベルを上げるだけでは倒すことの出来ないボス、よく弱点に気付いたね。ご褒美に一つ良いこと教えてあげる。常葉茂は童貞よ』
***
茂
「ちょっと待てや、そのカミングアウトは少し切ないんだが」
ジラーチ
「でも事実でしょ? 何所の馬の骨に寝取られたか気が気じゃない人達にはこれでも嬉しい情報だと思うけど」
ジラーチちゃんはもう少し子供らしければなぁ。
フーパやシェイミに比べると、些か大人ぶっている。
もう少し子供らしければ愛らしいんだけど、やっぱり進行担当だから多少緊張もあるのかな。
茂
「どうしてジラーチが進行担当なんだ?」
ジラーチ
「こんな地味な仕事やりたい子が他にいなかったから」
あ……やべ、この子2人組作って系で必ずボッチになるタイプだわ。
多分面倒ごとは全部引き受けて損しているタイプだろう。
ジラーチ
「なに? 突然頭撫でて」
俺は無性にジラーチの頭部を撫でたくなった。
ボッチの気持ちは少しだけ分かる、俺も学生時代どっちかというとボッチだったからな。
多分ジラーチが大人びているのもそう言う理由だろう。
最初に持った大人しそうなイメージは恐らく間違っていない。
茂
「ジラーチは頑張ってるから甘えても良いんだぞ?」
ジラーチ
「何それ……変態? ロリコンなんて最低ね……でも、どうしてもっていうなら……膝枕する権利くらい……与えるわ」
ジラーチは口調の割には口元を隠して顔を真っ赤にしていた。
俺はジラーチに膝枕をしてあげるとジラーチは特に抵抗もせず、素直に寝転んだ。
茂
「男の身体って少し硬いから不安だけど、痛くはないか?」
ジラーチ
「ううん、大丈夫……硬いの平気」
段々ジラーチの目がとろんとしてきた。
俺がジラーチの頭を優しく撫でるとジラーチは可愛い悲鳴を上げながら意識を惑わせる。
茂
(やっぱり子供だな……茜より更に一回り幼い)
正真正銘のロリっ子。
なぜこんな壮大なゲームを築いて、そして俺たちを巻き込んだ?
ゲームに参加している奴らなら茜たちだけでも充分なはず、俺に対して何の害意もなく人畜無害な奴ら。
純粋にゲームを楽しみたいにしても、どうして魔王側でこの世界を作ったのだろう。
フーパ
「ふひひ、どうジラーチは気に入った? 今なら睡眠姦できるぜ?」
気が付いたらリングからフーパが半身を出して笑っていた。
俺はとりあえず拳骨を放つ。
フーパ
「痛い! 暴力反対!」
茂
「だったらジラーチの意見を無視した事を言うな、フーパ、お前はもう少し他人に優しくなれ」
イタズラ好きな所は実にフーパらしいが、それに嫌々せず従うジラーチは見てて辛い。
おそらくフーパは気にもしていないんじゃないだろうか、ジラーチが何でも言うこと聞いてくれる理由なんて。
俺は何となく理解した、ジラーチにとってフーパは大切な友達なんだろう。
一方でフーパにとってはどうだろう、流石に便利な道具なんては思ってないと思うが、ちゃんと友達と思っているだろうか。
ジラーチ
「ん……フーパの馬鹿ぁ……んん」
茂
「寝言で馬鹿にされたな」
フーパ
「……まぁジラーチには一杯迷惑かけたし、その分だけ幸せにしてあげたいもん」
フーパはこの世界に足を降ろすと俺の肩に寄りかかった。
茂
「お前も大人しくしていれば愛らしいのにな」
俺はそう言うとフーパの頭を撫でる。
フーパは抵抗しないし、甘えたように喉を鳴らす。
根本的にやはりフーパも子供である。
元気盛りで、やや俺でも身に余るが、そんな少女たちがなぜ魔王になろうと思ったのだろう。
茂
「なぁフーパ、どうしてお前は魔王になったんだ?」
フーパ
「誰かが、悪役やらないと劇は成り立たないじゃん? だからあたしが悪役になれば……誰も不満、なん、て……」
茂
「フーパ……やれやれ。まだお昼前だってのに」
フーパも俺の肩に寄りかかったまま眠ってしまう。
それにしても悪役がいなければ成り立たない。
自分が悪役を演じれば、誰にも不満は生まれないか。
茂
「お前、悪役は似合わんな」
俺は二人の頭を優しく撫でる。
もしかすると俺を攫ったのは子供たちだけでは不安だったからか?
俺に何が出来るか分からんが、こいつらに少しだけ協力してやるか。
#2に続く。