突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第35話 神々の黄昏

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第35話 神々の黄昏


カリン
 「こっちで良いんだな!?」

研究所襲撃、フーパとジラーチの誘導により私たちは地下へと進んでいく。

フーパ
 「警報が五月蝿いったらありゃしないね!」

研究所区画に入ると、雰囲気はがらりと変わり清潔感のあるのっぺりとした白いタイルがつなぎ目なく敷き詰められた空間に変わった。
今は警告ランプが点滅して五月蝿い上に辺りは真っ赤に染まっている。

華凛
 「構わん、突き進むぞ」

私は先頭を走りながら最深部を目指す。
しかしそうやって幾つかの隔壁じみたドアをくぐり抜けると、不意に目の前に敵対するPKMが現れた。

エンニュート
 「なんでこっちにくるかねぇ〜……面倒くさいったらありゃしない」

キノガッサ
 「無駄口叩くな、敵の殲滅が任務だ」

パルシェン
 「……」


華凛
 (あのキノガッサ……気のせいか?)

目の前に現れたのはそれぞれエンニュート娘、キノガッサ娘、パルシェン娘だった。
その中にいたキノガッサ娘に何故かデジャビュを覚えるが、一体どういうことか?


 「邪魔立てするならば斬るぞ!」

エンニュート
 「あら、怖い」

マナフィ
 「なんや、あのねーちゃん、からかってんのか?」

ジラーチ
 「気を付けた方がいいわよ、手練れに間違いはない」

ジラーチは相手の強さを推測して、警告を与える。
私も同意見だ、単純に測ってもかなりの強さだろうな。

エンニュート
 「とりあえず自己紹介、エンニュートのナンバー02」

キノガッサ
 「キノガッサ、ナンバー06」

パルシェン
 「パルシェン、ナンバー05よ」

華凛
 「相変わらず無機質な名前ばかりか、アブソルの華凛……だ!」

私は一瞬で駆ける!
しかし即キノガッサ娘が反応し、前に出た!

キノガッサ
 「くらえ、マッハパンチ!」

キノガッサ娘は小柄、その拳の実効リーチはおよそ150センチだろう。
しかし特殊な身体の構造をしたキノガッサ娘の実際の射程は……!

キィン!

私は瞬時に鞘で逸らす。
キノガッサ娘は驚いた顔をした。

華凛
 「悪いな、初見殺しに引っかかってやれんで!」

キノガッサ娘の実効リーチは3メートル、私は刀を含めても実効リーチは精々2メートル、かなり不利だ。
しかしどういう訳か、デジャビュが対処法を教えてくれた。
私は瞬時に懐に踏み込むと、柄で腹部を殴打する。

キノガッサ
 「くっ!?」

パルシェン
 「援護するわ!」

エンニュート
 「さってと、適当に暴れるか!」

パルシェンがそのPKMには大きな甲殻を閉じると全方位にトゲキャノンを放つ。
私はキノガッサへの追撃を断念して後ろにステップする。

ジラーチ
 「とりあえずパルシェンから……!」

フーパ
 「無粋な真似は止めようぜ?」

ジラーチはサイコキネシスで援護をしようとするが、それをフーパが止める。
フーパはマナフィを見ると、コクリと頷いた。
するとマナフィが飛び出す!

マナフィ
 「頭が高けぇぞオラー!!」

パルシェン
 「!!??」

突然のヤクザスラングにパルシェンが強く反応を示した。

マナフィ
 「このウチが海(シマ)を統べるマナフィと知っての狼藉か!?」

パルシェン
 「わ、わたしはっ、そ、そうじゃ……!?」

突然しどろもどろと化すパルシェン娘。
水タイプ同士何かあるんだろうか?

マナフィ
 「もはや問答無用! 成敗やで!」

フーパ
 「デーンデーンデーン! デデデ、デデデ、デーデーデー!」

パルシェン
 「ヒィ!? 処刑用BGM!?」

パルシェンはフーパのボイスパーカッションにビビりまくり、更に殻に閉じこもる。
マナフィはもはやパルシェンの目の前にまで来ると。

マナフィ
 「パルシェン、自分の殻をウチやぶるんや! もっと熱くなるんやー!」

パルシェン
 「はわわ……!?」

マナフィ
 「言うこと聞かん子は……ウルトラバックドロップ!」

マナフィは殻に閉じこもったパルシェンをそのまま持ち上げて後ろに落とす。

華凛
 「おお! あれは伝説の格闘王KENJIの技!」


 「というかもはや暴君だな! 敵が困惑しているぞ!」

キノガッサ
 「まさかハジケリスト……? 本当に存在した?」

華凛
 「順応している奴もいるようだがな」

意外に堅物そうなキノガッサが反応する。
エンニュートの方は面倒くさそうに首を振った。


 「とりあえず相手を替えろ、お前とキノガッサでは相性が悪い」

華凛
 「道理だな、逆に凪は相性がいいか」

相手からすれば凪はパルシェンに任せたかっただろうが、そのパルシェンは既にパニック状態に陥っており役にたちそうに無い。
結果的にダブルバトルになったな。

華凛
 「まぁそういう訳で、選手交代!」

エンニュート
 「どっちにしても、やるしかないか!」

エンニュートは小器用な奴だ。
炎と毒を掌から分泌し、素早い身のこなしから必殺の一撃を狙ってくる。

エンニュートは直ぐにこちらの動きに警戒し態勢を低くして構える。
私は遠距離の間合いから大太刀を振るう。

華凛
 「辻斬り、二の式、船斬り!」

全力の一刀、悪の力を解放して飛ぶ斬撃としたそれは地を這ってエンニュートを襲う。

エンニュート
 「へぇ! 器用な技ね! はぁ!」

エンニュートは飛び上がると、ヘドロ爆弾を投下してくる。
私は素早く、前に進み攻撃を掻い潜りエンニュートに接近戦を挑む。

エンニュート
 「強気ね!」

華凛
 「守るのは性に合わんのでな!」

エンニュートの着地を狙い、私は刀を振るう。
エンニュートはそれもしなやかな身体で回避しながら、炎を手から放つ。
炎は地面に落ちると、弾けて周囲を燃やす。

華凛
 「ち、弾ける炎か!」

エンニュート
 「動きが止まったわね!」

炎に動きを制約され、一方でエンニュートは有利な地形をその場に生み出す。
エンニュートの左手に強い臭気を感じる、分泌液が出ていた。
私は咄嗟に鞘でガードするが、エンニュートは突き出した左手でそれを……砕く!

華凛
 (鉄製の鞘をいとも簡単に……やれやれ、鞘もあっての大業物だというのに……!)

私は刀と鞘を捨て、エンニュートとの超接近戦に入った。
この至近距離では刀は邪魔にしかならん。

エンニュート
 「あは! いいわね、確実に力を削がれている!」

エンニュートの瞳は時折は虫類のように収縮する。
その顔は毒タイプらしい酷薄さであった。
だが、だからこそ奴は悪タイプを知らない。
なにゆえ悪などと断じられなければならないのか、私はそれを身をもって奴に教える!

エンニュート
 「燃えろ!」

エンニュートの掌に炎が集まりつ、周囲に燐が広がる。
私は微笑を浮かべた。
エンニュートはそれに気が付くと不可解な顔を浮かべた。

エンニュート
 「この状態で一体……?」

突如、エンニュートは上を見上げる。
キラキラと光るそれは地面へと落ちる。
私はその時既に、エンニュートの両腕を後ろで縛って地面に組み伏した。

エンニュート
 「……なっ!?」

華凛
 「これが『不意打ち』だ、アブソル種の代名詞だぞ? 初めてか?」

カランカランと落ちたのは、鞘だった。
私は戦いながら刀を踏んで、てこの原理で鞘を打ち上げたのだ。
注意を引くならなんでも良かったが、これが悪タイプだ。

華凛
 「勝つためには何でもする、ある意味でそれが悪タイプだよ」

エンニュート
 「痛た! やってらんないわね! 降参、降参よ!」

エンニュートは降参すると全身から力を抜く。
見ると、キノガッサも凪に破れており、結果的に私が最後になったようだ。
私はエンニュートの拘束を外すと立ち上がる。

エンニュート
 「元々主を失った時点で、ギラティナへの忠誠もないし、乗り気じゃなかったのよねぇ」

キノガッサ
 「私たちは今の組織には居場所はない……負けた以上、好きにしろ」

パルシェン
 「はわわ……」

ボロボロの役二名も既に戦意はない。

フーパ
 「よし! 後は研究施設を潰すだけだな!」

フーパはそう言うと意気揚々と先へと進む。
私は一度刀を見た。

華凛
 「カゲツ……さようなら、私の戦いは今日で終わりにするよ」

私は壊れた鞘と共に刀を放棄するとフーパの後ろを追った。
まだ少しだけ戦士であろう、その後は普通の女で充分だ。



***



マナフィ
 「イヤー!」

クラッシュ! マナフィが跳び蹴りで研究所の大きなガラスを蹴り砕くと、白衣の研究者達が恐慌の声を上げる。

研究者
 「アイエエエ!?」

フーパ
 「全員一カ所に集まれ! 一名でも足りない場合全員射殺する!」

ジラーチ
 「どこのテロリストよ!」

華凛
 「○イハード的な?」

遂に研究所の核へと到達した私たちは大した迎撃もなく、周囲を見渡す。
研究員は10名以上、研究所は乱雑で大きなカプセルから、小さいけど意味の分からない物まである。

研究員F
 「ま、まさか本当に!?」

華凛
 「その声、お前が謎の研究員Fか」

私が睨むとすくみ上がったのは毛根の後退した冴えない40代位の男だった。
ナイスミドルとはほど遠い、研究者らしい出で立ち。
私は研究者Fに近づくと。

研究者F
 「た、助けて……」

華凛
 「お前は一度でもその言葉を聞いてやった事があるのか? あのロズレイドを助けようとは思わなかったのか?」

研究者F
 「う……うはははは! 装置起動!」

華凛
 「!?」

研究者Fが何かのスイッチを押すと、急に身体が重くなる。
見ると、凪たちも様子に戸惑っていた。

研究者F
 「ははは! 対PKM用の結界はどうだ!? 貴様らPKMとて能力はこの部屋では使えんぞ!?」

さっきまでとは豹変、狂気的に笑う研究員F。
Fは下卑た笑みを浮かべると。

研究者F
 「ぐふふ……限定的とはいえCP34000、その秘密が今……ぶべら!?」

私は容赦なくFに裏拳を叩き込む。

華凛
 「ふむ、確かに弱体化しているな、本来なら顔面砕いていた筈だ」

研究者F
 「ば、ばばばば、馬鹿な!? 今のお前は弱々しいPKMの筈だぞ!?」

華凛
 「だからと言って見るからに虚弱なお前に負ける道理はないぞ?」

私は容赦なくFの顔面を殴り飛ばした。

研究者F
 「ごでりば!?」

研究者Fは辺りを散らかし、口から血を吐いて気絶する。

華凛
 「悪いが、容赦なく研究所は破壊させて貰うぞ!」



***



タタタタ……ガシャン!


 「ご主人様!」


 「茜たち……」

ギラティナ
 「やぁ、ようこそ」

メインルームで待つ俺たちは遂に茜たちと出会う。
今場にいるのは茜、保美香、美柑、伊吹、永遠とパルキアの6人。
早速息巻いたのは永遠だ。

永遠
 「ギラティナー! アンタだけは絶対許さないんだから!」

ギラティナ
 「そんな有り体な台詞吐いても動じないよ、今更許しを請うなんてする気無いし」


 (やっぱりギラティナの奴、死ぬ気じゃないだろうな……?)

俺は敢えて今もギラティナの斜め後ろに立っている。
この最後の戦いを見届けるために、俺は両者の間に移動する。


 「教えてギラティナ……貴方の真意を」

ギラティナ
 「王よ、貴方は素直に覚醒すればいい。どのみち滅びは必定、早いか遅いかの差でしかない」

保美香
 「だとしても、滅びを貴方に決定させる権利なんてありませんわ!」

滅び……俺はその光景を何度も見てきた。
家族達は自然とそれを否定する。
そうだ、それでいい。
滅びを決定する権利なんて誰にもない、だからこそ俺たちは全力で抗う。

パルキア
 「ギラティナ、命令したのはアルセウスかい?」

ギラティナ
 「さぁ? 誰かなんてどうでも良くない?」


 (ギラティナは答えない……か)

寧ろ会話する気がないのかもしれない。
俺からしても決してギラティナはわかり合えない相手ではないと思う。
だからこそ情を持ちたくないのだろう。

ギラティナ
 「御託はもういい……、はじめようか、最終バトル!」

ギラティナの背後から異なる空間への穴が開く。
そこから溢れ出るエネルギーをギラティナは全身に浴びる。
家族達は警戒しながら構えた。

エムリット
 「お母さんを援護するよ!」

アグノム
 「……行きます」

ユクシー?
 「もう少し躍って貰いましょう」

ギラティナの傍からエムリットとアグノムが現れる。
更にその脇には糸目の少女が連なった。
恐らくユクシー、三つ子かと思うほど三人並ぶとそっくりだな。

伊吹
 「貴方が何故この世界を壊すことに執着するのか〜……アタシには分からない……でも〜、アタシは抗うよ〜! 」

美柑
 「終わらせます! 不必要なんですよ! 貴方のやり方は反発を産むだけです!」

保美香
 「世界から争いがなくなることはないでしょう、でもわたくしは求めません、だんな様の為にも、排除致しますわ!」

パルキア
 「ボクたちは本来ここにいていい存在じゃない、もうこんなの止めよう?」

永遠
 「絶対に辿り着いてみせる……終わりのない世界線!」


 「私は諦めません……そう決めたから」

今……それぞれが想いを胸に秘めて、最後の戦いを繰り広げる!

ギラティナ
 「ハッハッハ! まずは小手先から行こうか!」

ギラティナはそう言うと開けた空間に飛び込む。
シャドーダイブ、ギラティナの代名詞と言える技を発動させたのだろう。

エムリット
 「そらそらぁ! 行くよ−!」

しかし、消えたギラティナだけが相手ではない。
エムリット達もまた、攻撃に参加する。

永遠
 「パルキア……ギラティナの力ブーストされてたわよね?」

パルキア
 「うん……正規の力以外を感じた……けど、今は!」

パルキアは空間を切り裂く。
するとエムリットが地に落ちた。

エムリット
 「うんぎゃ!?」

ユクシー
 「アンタ馬鹿? 神相手に無警戒なのよ」

慌てた様子もなくフォローするユクシー、エムリットはユクシーの手を掴むと立ち上がる。
一方でアグノムは空中を高速機動しながら、保美香たちと打ち合っていた。

保美香
 「パワージェム!」

アグノム
 「は……!」

保美香の放つパワージェムをサイコキネシスで粉砕するアグノム、しかし後ろから美柑が飛びかかる。

美柑
 「子供と戦うのは気が引けるけど!」

美柑は爪を立て、アグノムを切り裂きに行く。
シャドークロー、アグノムはすかさず防御態勢を取る。

ユクシー
 「アグノムに手を出させるか!」

すかさずカットに入ったユクシーは美柑を後ろから何気ないサマーソルトキックで打ち落とす。

美柑
 「ぐっ!? この技!?」

何気ないキック、しかしそれがただのサマーソルトキックな訳がない。
ユクシーは『イカサマ』したのだ、イカサマーだけに。
ブレードフォルムの美柑は大ダメージを受けて直ぐには立ち上がれない。

アグノム
 「ありがとう……姉さん」

エムリット
 「なんか私と対応が違うわね?」

ユクシー
 「大切な妹ですもの、当然よ」

対応の格差を愚痴るエムリット、ユクシーはさも当然というようにアグノムを庇う。

アグノム
 「姉さん、皆さん意思力は本物です……」

エムリット
 「感情もビンッビン!」

永遠
 「ギラティナ! 三下に任せて高みの見物!? 出てきなさいよ!?」

ギラティナ
 「では、お言葉に甘えて」

ギラティナは永遠の背後から現れると、禍禍しい腕が永遠を捉える。

ギラティナ
 「シャドーダイブ!」

それはただの奇襲技ではない。
そもそもゴーストタイプの技であり、ギラティナは永遠の身体をすり抜ける!

永遠
 「がは!?」

パルキア
 「ディアルガ!?」

永遠が血を吐いた。
自らを霊体と化して、永遠の魂か何かに攻撃したのだろう。
派手ではないが、伝説らしい技だ。

パルキア
 「この! その空間を拒絶する!」

パルキアがギラティナを特別な結界で覆う。
ギラティナは六角柱の結界に閉じ込められるも、その顔は未だ笑みを消しはしない。

ギラティナ
 「最終戦第二幕……!」

ユクシー
 「! やるわよ?」

エムリット
 「このために生まれたんだからね……」

アグノム
 「はい、命を捧げましょう……」

突然エムリットたちは永遠とパルキアの上空を旋回し始める。

永遠
 「い、一体何を?」

パルキア
 「ディアルガ、今は回復に務めて!」

パルキアは永遠の心配でその場を離れようとしない。
今回はそれが仇となる。
三人は回転の速度を上げると、その体から赤い糸を放出した。
それは紡がれ紐となり、やがて鎖となる。


 「お前ら離れろ! それは楔だ!」

ギラティナ
 「もう遅い!」

赤い鎖と化したそれは永遠とパルキアに巻き付くと、拘束する。
同時に三人は力尽きて地面に落ちる。

永遠
 「くっ!? 身体の自由が!?」

パルキア
 「うご、かない……!」

遺伝子の鎖、エムリット達の命を用いて使う、シンオウ伝説への決定的道具。
しかし代償としてエムリット達はもう戦える力を残していない。
そしてパルキアが築いた結界もただ無常に霧散した。


 「三人とも……!」

俺はアグノムの身体を抱きかかえる。

アグノム
 「茂さん……?」


 「無事か? なんて危険なことを……」

アグノムは虫の息だが無事だ、他の二人も死んじゃいない。

アグノム
 「お母さん、御免なさい……まだ死にたくないって思った……!」


 「それでいい、死ぬ必要なんてない」

アグノム
 「茂さん聞いてください、私たちは人間爆弾なんです、初めから神を殺すためだけに造られた爆弾……それが私たち」


 「なんだと……永遠達への切り札としての爆弾……?」

俺はその言葉に震えが止まらない。
ギラティナは初めからアグノム達を使い捨てに?
いや、違う……そう信じたい。
ギラティナがアグノム達を道具として見ていたとは思いたくない。
死ぬことが仕事なんて、そんな巫山戯たことが許されてたまるか!

ギラティナ
 「最終戦第三幕……さぁ、主力二人を失ってどこまでやれる? 小さき者ども」

ギラティナは遂に茜たちと対峙する。
美柑はよろよろと立ち上がり闘志を燃やし、伊吹や保美香さえも怖れは見せていない。
そして茜は、神ではなく一人のポケモン娘としてギラティナを見捉えた!


 「永遠、お前たち大丈夫なのか?」

永遠
 「動かない、だけ、で……なんとか、ね……!」

パルキア
 「でも、なんだか呼吸がキツい……」

エムリット
 「ふふ……命払ったんだ、神殺し、機能してくれないと、割に合わないよ……!」

ユクシー
 「まぁ……生贄が九死に一生を得てしまったけどね」

俺は三人を抱えるとなるべく安全な場所に避難させる。

美柑
 「誰が小さいですか! 小さいは希少価値なんですよ!」

伊吹
 「その小さいじゃないと思うよ〜?」


 「たく……こんな時にアイツらは……」

俺はこの状況でも、全く動じないアイツらに苦笑する。
アグノムの言う通り意思力は完璧だ。
だが、その意思力はギラティナとて変わらない。

保美香
 「追い詰められているのは貴方かしら」


 「負けない……!」

ギラティナ
 「ははっ、大したものだ……でもね!」

ギラティナが手を真横に突き出す!
ギラティナの手は今やの異世界にあり、現実には肘までしかない。
しかしそれは全く別の穴から保美香と伊吹を殴り倒す。

保美香
 「かは!?」

伊吹
 「くぅ!?」

突然の奇襲攻撃に苦しむ二人をギラティナは笑う。
決して重い一撃ではないが、ギラティナは確実に皆の体力を削っていた。

ギラティナ
 「あはは! どうしたの? その程度?」

ギラティナの亜空間殺法は皆を苦しめる。
しかしその中でただ一人茜だけが。

パシ!

真横から突き出した拳、茜はただギラティナを直視してその拳を受け止める。


 「私はもう負けない……負けるのは飽きたし、もううんざり」

ギラティナ
 「……くっ!?」

ギラティナは手を引くが、茜は離さない。
ただ強くギラティナの拳を握る。


 「いい加減にして……! もう沢山なのよ!」

茜がギラティナの開けた穴に飛び込む!
その直後、茜はギラティナの腕ごと真横に出現する。
ギラティナは目線を横に向ける……が、遅い!

ギラティナ
 「くぅっ!?」

茜は既に回し蹴りをギラティナに叩き込んでいた。
茜は憤怒とも違うその怒りの顔でギラティナを睨む。

ギラティナ
 「流石だよ……これに対応するか」


 「1フレ見えれば問題ない、問題はそれに身体が反応するか、それだけ」

茜は強くなった。
もうただの非力な少女ではない、彼女は自分の力では戦っている。
だが、ギラティナもそんな簡単に終わる奴じゃない。

ギラティナ
 「ならば、行こうか!」

ギラティナは茜に格闘戦を挑む。
茜は冷静にやや後ろ斜めに構える。


 「PKMの身体はゴーストタイプでも、完全な霊体ではない。だけど私にゴースト技は効かないし、貴方にノーマル技は効かない」

ギラティナ
 「だが! この肉体は人間のそれに近い! だから!」

パシ!

ギラティナの右ストレート、それを返しの手で掴み茜は捻りを入れながらただ後ろに引いた。
しかしそれはギラティナの身体が天と地を逆にした。
ギラティナの身体が地面に叩きつけられる!

ギラティナ
 「ぐ!? 今の投げられていなかったら腕折られてたわね……!」


 「私達の戦いは結局人間性能の戦い、それならイーブイ娘の私でも戦えるわ」

茜はいつの間にか戦闘技術を身につけ、能力に頼らず戦うだけの力を得ている。
ことPKMとしてではなく、人間としてみれば茜は軽量ながら強い。

ギラティナ
 「ふふ……お見事、確かに私も人間性能はそこまででもないか」

保美香
 「すごいわ、茜が押しているかしら」

伊吹
 「が、頑張れ〜! 茜ちゃ〜ん!」

美柑
 「くぅ……ここは茜さんに任せるしか」

全員ダメージはある。
この中で今戦えるのは茜だけか。


 「茜! 勝て!」

俺は叫ぶ。
茜はそれに応える。


 「はぁ!」

ギラティナ
 「舐めるな!」

ギラティナは後ろに下がると亜空間へと消える。
直後、ギラティナは茜の真後ろから蹴りを放つ。
茜は咄嗟にガードするが、体重の軽い茜は簡単に飛ばされる。


 「くっ!? また消えた?」

ギラティナはその特性を最大限に活かし始めた。
それは攻撃するときだけ外に出て、即時中に入る。
この方法でギラティナは茜の反撃を封じている。

ギラティナ
 「はは! シャドーダイブは通じなくてもさ! これにどこまで対応出来る!?」


 「う……くっ!?」

変幻自在な動き、その人間を越えた能力は極めて予測しづらい。
だが茜は中腰の姿勢で構え、冷静にその動きを捌く。


 (落ち着いて……見切る、動きを見るんじゃない……殺気を感じる!)

ギラティナの攻撃、真上からの強襲!
しかし、茜は上を行く!


 「取った!」

茜は足を振り上げ、真上を蹴り上げる。
それはギラティナの顔面を捉えた!

ギラティナ
 「か……は!?」

ギラティナが血を吐いた。
そのまま数メートル後ろに転がり落ちる。

保美香
 「やった……?」

美柑
 「茜さんが勝った……!」


 「はぁ、はぁ……!」

茜もその決定的な一撃を与えるまでに受けたダメージは小さくない。
むしろその小さな身体でよく耐えたものだ。

ギラティナ
 「ふふふ……まさか、あれさえ見切るのか……ただのイーブイの身体で……!」

ギラティナはフラフラと立ち上がるが、腰に力が入っていない。
そのまま近くの制御盤にもたれ掛かり、茜を見る。

ギラティナ
 「この短絡的な勝負には君たちの勝ちだ……でもさ、私の目的を忘れてない?」

伊吹
 「もく、てき……?」


 「は!? 誰かギラティナを止めろ!」

ギラティナは制御盤にもたれ掛かったんじゃない。
制御盤に何かを打ち込んでいる!

ギラティナ
 「さぁどうする? 1200発のICBMの発射シーケンスは起動した!」


 「っ!?」

ギラティナ
 「最終戦争は今始まる……! さぁどう止める!?」

ゴゴゴゴゴゴ!

施設が揺れ出す。
その揺れは地震とは違う。
まさか!? ここにミサイルがあるってのか!?

永遠
 「くそ……私とアンタなら……!」

パルキア
 「無理だ……身体が思うように動かないんだ……!」


 「くそ!? 万事休すか!? 一体どうすれば……」

アグノム
 「神々の黄昏……」

アグノムは俺の腕の中でそう呟く。
アグノムは目を瞑りながら何かを思って語り出す。

アグノム
 「神々ならば、この災厄を止められる……だけどそれには王の承認が必要なの……」


 「でも、それでは……!」

アグノム
 「ねぇ貴方にとって神とは何?」


 「神?」

アグノムは何を言っている?
今更神の定義?
そこに答えがあるのか……?


 「あ……あ……!」



***



アルセウス
 「如何致しますか? 王よ」


 「……アルセウス?」

気が付けば私は真っ白な空間にアルセウスと一緒にいた。
アルセウスはその豊満な胸を持ち上げ、私の意見を待っている。
私はどうすればいい……?
このままではご主人様達と築いて来たことが全て無駄になる。

アルセウス
 「また諦めますか? まぁそれも運命」


 「わた、しは……」

頭が混乱する、声が枯れて息がし辛い。
アルセウスの顔が幾つにも分身して見える。
あの皮肉たっぷりの顔さえも、今の私には正確に読み取れない。


 「ご、しゅ、じん……さま」



***




 「そうか! まさかお前たちの目的は!?」

アグノム
 「……そう、それが神々の黄昏の真相」

俺はなぜアグノムが神とは何か説いたのか、その意味を理解した。
そうだ、永遠を見て、パルキアを見て、そして茜を見て俺は何を思った?


 「茜! 呼べ! だが世界を否定するな!」


 「っ!? ご主人様……?」

俺はその時、茜の目の前で微笑む長身の白い女を見た気がした。
そうだ……神なんてのはなんの意味もないんだ!


 「お前が王だとしても、お前は茜だ! 永遠もギラティナも! ただ力があるだけの人間だろうが!」


 「! 王が命ずる……世界を解き放つ……!」

その瞬間だった。
茜がそう呟いた時、神々が目の前に顕現する。

アルセウス
 「承認致しました、してご命令は?」


 「全ミサイルを消去せよ」

アルセウス
 「畏まりました」

アルセウスと思しき長身の白い美女は茜に深々と敬礼。


 「……最後に、神の座を解散します」

アルセウス
 「それは、全ての神を野に降ろすと?」


 「違う……人間になるの」

アルセウス
 「成る程、畏まりました」

アルセウスはそう言うと現れた神々がその場から消えていく。

アルセウス
 「パルキア、ディアルガも働いて貰いましょう」

アルセウスがそう言うと、永遠達を縛った紅い鎖が溶けるように消えた。
急に顔色を回復させた永遠たちは立ち上がる。

パルキア
 「身体が……?」

永遠
 「アルセウス……話は後だ!」

永遠はそう言うと、直ぐにその場から消える。
そしてそれを追うようにパルキアも消えた。

アルセウス
 「ふふ……ポンコツ神にしては上出来です、それでは」

そしてアルセウスも消えた。



***



……その日12月24日、世界中の核ミサイルが発射されるという未曾有の事態に人類は遭遇した。
しかしその被害は0だった。
それは突如現れた強大な力を持つPKMたちがそれを悉く無力化したのだ。
全ての核を無力化したPKMたちはその後、その姿を見た物はいない。


そう、少なくともこの家以外では。


フーパ
 「えーそれでは、祝勝会始めたいと思いまーす」


 「……狭い」

パルキア
 「あ、それなら空間広げましょうか?」

保美香
 「はぁ……流石に疲れましたが、お料理完成しましたわ!」

今、俺の家には家族の他にあの戦いに参加した者もいた。
フーパやジラーチ、それにパルキアも。


 「ご主人様……私は結果を出しました」


 「……そうだな、少なくともこの世界は間違っていないと俺も思う」

俺はこの場にはいないギラティナの事を思い出す。
ギラティナはパーティーへの参加は拒否し、何処かへと消えた。
その時アイツとは少しだけ会合したのだ。



***




 「……神なんていうのは幻想だ、神々の黄昏とはその幻想に終止符を打つこと……そうだな?」

ギラティナ
 「さて、私も首謀者ではないのでね……真相まではなんとも」


 「だが、結果としてこの世界は滅びなかった……神々の黄昏は終わった」

今まで神と人間、それを皆区別していた。
神でさえも区別している。
首謀者は茜の失敗の原因に気が付いていたのだろう。
そして利用した、自らをこの世界に顕現するため。
それは神全員が神堕ちするということ。
今や神の座はなくなり、各々もどこかに消えたが、この世界に根付いている。


 「最後に……お前はどこへ行く?」

ギラティナ
 「……そうだね、適当に放浪でもしてみるさ」


 「あの三人は?」

ギラティナ
 「皆良い子たちだからね……さて、どうしたものか」

ギラティナはアグノム達を連れては行かないようだ。
自分とは違い、せめて光の世界で生きて欲しいということか?


 「……最後だ、これやるから元気にしてろよ」

俺はそう言うと、缶コーヒーをギラティナに渡した。
ギラティナは缶を見ると、微笑を浮かべる。

ギラティナ
 「クリスマスプレゼント?」


 「そう思ってくれても構わんが」

ギラティナ
 「いいや、ありがとう……君と出会えて本当に良かった」

ギラティナはそう言うと空間に開けられた穴へと消える。
俺はすっかり暗くなった夜空を見上げた。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第35話 神々の黄昏 完

エピローグに続く。


KaZuKiNa ( 2019/06/04(火) 15:51 )