第32話 それぞれの戦い その1
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第32話 それぞれの戦い その1
茜
「……!」
ギラティナの発生させた異相次元へのゲート、それは一瞬のことで私を見たことのない場所へと誘った。
?
「ち……なんでぇこっちはイーブイ娘かよ、外れじゃねぇか」
私はまだ状況も理解する間もなく、その殺気に構えた。
10メートルほど離れた場所には2人のPKMがいた。
まず悪態ずいたのは赤いボクシンググローブにカリフラワーみたいな不思議なヘアーが特徴的なPKMだった。
恐らくエビワラーだよね。
?
「我々の仕事は目の前の敵を倒すこと、相手をえり好みするな」
もう片方異様に細めの女性は、花と融合したようなどこか特殊な姿をしていた。
こっちはフラージェス? そのまま足を揃えれば巨大な一本の花にも見えるかもしれないわね。
エビワラー
「ち……まぁ運がなかったと思ってくれや」
エビワラーはグローブを打ち合わせると、鋭い目線を私に向ける。
私は二人を見て……自然体で息を吐く。
茜
「……はぁぁ」
エビワラー
「ああ? 何やってんだ?」
大丈夫、敵じゃない。
私は身体の中の力を徐々に解放させる。
神々の力の一端を少しだけ解放すれば、この場を切り抜けるのは容易だろう。
フラージェス
「! なんだこの数値は!?」
エビワラー
「どうした39!?」
39……彼女の名前かな、フラージェスは右目の側に妙な機械をつけており、それから何かを確認しているみたい。
フラージェス
「CPが加速度的に上がっている!」
エビワラー
「何!? 幾つなんだ!?」
フラージェス
「1万!? くそ! 旧式では1万までしか計測できん! 1万以上だ!」
エビワラー
「1万だとっ!? そりゃ何かの間違いだぜ! どんなすげぇイーブイでも精々2000位の筈だぜ!?」
エビワラーは激しく狼狽する。
フラージェスの方に比べて落ち着きがない様子だ。
茜
「……ナインエボルブーストは使わない、それでも勝つわ」
エビワラー
「く!? ほざけぇ!」
フラージェス
「まて! 迂闊に手を出すな!?」
エビワラーは両拳を顎の辺りに合わせ、真っ直ぐ突っ込んでくる。
私は躊躇わずクロスレンジに持ち込んだ。
エビワラー
「俺のパンチは岩をも砕く! テメェのその優面潰してやらぁ!」
エビワラーの右ストレート、マッハに迫る強打。
しかし私はそれを正確に見切ると拳の内側に入った。
茜
「はっ!」
エビワラー
「がふっ!?」
私はエビワラーの顎を足で打ち抜くと、エビワラーが真上に舞った。
如何に強力な技があっても、当てられないなら大砲も豆鉄砲も変わらない。
エビワラー側も完全に顎を晒した所に来た蹴りにガードも間に合わず、目が飛び出す衝撃だったろう。
クリティカルヒット、本家的に言えば急所に当たった……かな。
ズシャァ!
エビワラーが糸の切れた人形のように地面に倒れるとそのまま動かなくなる。
残り一人、私はフラージェスを睨みつける。
フラージェス
「く、くそ!? こんなの聞いていないぞ!?」
茜
「やる気が無いなら邪魔しないで」
フラージェス
「違う! そうじゃない!」
茜
「?」
意味が分からないまま、突然フラージェスの後ろの隔壁がせり上がった。
そこから現れたのは……!
?
「……!」
フラージェス
「アイツらは敵味方なん――」
フラージェスが私を無視してでも振り返る相手は、一瞬のうちにフラージェスの身体を上下に真っ二つに切り裂いた。
問答無用、かつその俊敏な動きを放ったのは両手をカマにした虫ポケモンのPKMだった。
フラージェス
「がは……ストライクは、まだ実践運用出来るダークポケモン、じゃ……がは!?」
茜
「ダークポケモン!?」
ストライク娘はまるで生き物の目をしていない。
私はそこにおぞましいほどの怨念めいた物を感じた。
ダークストライクは、動く物にはお構いなしなのかフラージェスはそのままトドメを刺された。
茜
「……く」
私は直ぐにでも動けるように構える。
ダークストライクには感情のような物が全く感じられない。
これは戦いにおいて、とても相手しづらい。
私のように接近戦しか出来ないポケモンは、相手の感情を読んで先読みで戦う能力が必要となる。
でもダークストライクはそれがない、言ってみれば適当に戦っている感じだ。
ダークストライク
「!」
ダークストライクが私のすり足に反応して超スピードで突っ込んでくる。
その必殺の鎌をランダムに振るい、私は紙一重でかわす。
しかし完全には避けられない、服が切り裂かれ、頬に一筋の血が垂れ落ちる。
茜
「く……!」
出鱈目だけど全てが必殺の攻撃に私は攻勢に出られない。
つぶらな瞳で相手の攻撃も下げたけど効果はなさそうだし、これ程やりづらい相手はいない。
ダークストライク
「!」
茜
「はぁ!」
ダークストライクが動く、しかし動き自体は私の方が速い。
私は背中から相手の懐に電光石火でぶつかった。
体重面で負けているが、それでも全力でぶつかれば相手の攻撃をよろけさせることは可能だ。
ダークストライク
「!!」
だが、ダークストライクはお構いなしだ。
痛みすら感じていないのか、上体が後ろに仰け反っているにもかかわらず、鎌を出鱈目に振る。
しかしそんな状態で放った攻撃は本来のスピードの半分以下だ。
私は相手の右腕を極めながら倒れ込み、首元に噛みつく。
ダークストライク
「!」
悲鳴すら上げないダークストライクは、押し倒されようがお構いなしだ。
封じられた右腕を考慮もせずに左腕で私を切り裂こうとするが、私は身を捻って避ける。
ダークストライクは自分の右腕を切り落とした!
ダークストライク
「……」
片腕を自ら切り落としたにも関わらず、ダークストライクは無表情に立ち上がった。
茜
「……通常、私にはこれと言って派手な技はない、でもお膳立ては終わったわ」
私の技は電光石火、噛みつく、つぶらな瞳。
ダークストライク
「!」
茜
「これが私の最大の技! とっておき!」
ダークストライクが真っ正面から突っ込む、私はそれにカウンターを合わせ、正拳突きをダークストライクの心臓に打ち込む!
とっておきは全ての技を使う必要があるけど、私の技を必殺級にしてくれる。
ダークストライクは派手に吹き飛ぶと、地面を4回転した。
通常ならオーバーキルのダメージの筈だ。
打ち込んだ場所も心臓、破裂している怖れもある。
ダークストライク
「……!」
だけど、ダークストライクはまるでゾンビのように立ち上がった。
私は、その光景に絶望めいた物を覚える。
茜
「本当に息の根を止めないといけないの?」
私はエビワラーを殺してはいない。
出来ることなら誰も殺したくない。
だけど、死ぬまで止まらない相手がいたならば、私は殺すしかない。
茜
(本当に、それしかないの……?)
私は拳を震わせた。
既に動きが大分鈍ってきたダークストライクに対応するのは容易になってきた。
後は意識を刈り取るだけ……なのにそれが出来ない。
デッド・オア・アライブ……その瞬間、私は懐に熱い物を感じた。
それは戦いの前にフーパが渡してきた琥珀色の石、たしか共鳴石と呼ばれていた筈。
それが強く熱を持って輝いているのだ!
茜
「ご主人様? そう……やれば良いのね!」
私は共鳴石を握った。
共鳴石からご主人様の熱が伝わった気がする。
茜
「共鳴(バースト)! ナインエボルブブースト!」
私はその全身に強大な力を駆け巡らせる。
ピーピーピー!
亡骸となったフラージェスが装備していたスカウターのような装置から激しい警告音のような物が聞こえる。
今の私の力は、正直自分自身分からない。
ただダークストライクの動きがスローモーションに見えたことは分かった。
私はそれをも越える神速で、ダークストライクの顔面にとっておきを畳み込む!
ダークストライク
「!?」
ダークストライクから完全に動く気配が消えたのを理解すると、私の中から力が急に失せた。
見ると、共鳴石は輝きを失っているのだ。
茜
「……勝ちました、ご主人様」
私は隔壁の向こうを睨む。
きっと皆も戦っているんだろう、早く合流しないと。
***
茂
「……く!?」
ギラティナ
「どうしたんだい?」
茂
「……いや、何でも無い」
俺は突然手の中が燃えるような熱さに苛まれ、驚いたがそれは一瞬で終わった。
なぜか分からんが、茜の気配を感じた気がする。
ギラティナ
「私の昔話……まぁ聞いても面白くはないと思うけどね」
茂
「聞かせてくれ」
ギラティナは紅茶のカップをソーサーに置くと、目を閉じゆっくりと語り出す。
***
保美香
「ふぅ……やっと片づきましたわね」
メラルバ
「れ、レベルが違いすぎる……ぼあ!?」
奇妙な悲鳴ですが、決して爆発はさせていないので悪しからず。
襲ってきたのはメラルバにジュゴン娘。
とりあえずジュゴン娘から仕留めると、メラルバも仕留めることに成功した。
保美香
「一応聞いてあげますけど、ギラティナはどこにいますの?」
メラルバ
「へ! 俺は口が硬いんだ……な、なんだ口が勝手に!?」
わたくしは既にメラルバにある毒素を送り込んでいた。
今やメラルバはわたくしの意のままだ
保美香
「既に貴方の脳神経は掌握済みですわ……貴方の意思とは関係なく口を開きますの」
メラルバ
「ぎ、ギラティナがいるのは、メインルーム」
保美香
「メインルーム、ですか?」
メラルバ
「そうだ、奴はそこから最終戦争のための準備を行う……!」
保美香
「最終戦争、本気なのですね」
メラルバ
「何故だ!? 何故口が勝手に!?」
保美香
「言ったでしょう? 口を割るのは簡単だと……では処刑を開始しましょうか?」
メラルバ
「う、うおおお! ぶっ殺してやる!」
直後だった。
メラルバが襲いかかってくる瞬間、メラルバに影がかかった。
メラルバが上を覗くと。
ズシィィィン!
メラルバ
「がもす!?」
メラルバはプチっと大きな何かに踏み潰される。
それは体長2メートルを越える巨大なカビゴン娘。
大地を揺るがすほどの衝撃で、地面に着地したのだ。
保美香
「? この子……どこかで?」
憐れにも踏み潰されたメラルバを余所にわたくしはその巨漢娘に疑問を覚える。
カビゴン
「……」
?
『ふふふ! 素晴らしいだろう! その子はダークカビゴン! ゴンベ娘を進化させ、今や最強のダークポケモンの一体だ!』
どこからか、知らない男性の声が聞こえた。
わたくしは周囲を探すと、そこかしこにスピーカーがあることが分かる。
保美香
「ゴンベ娘……まさか!?」
わたくしはかつて助けたゴンベ娘を思い出す。
そう言えば、似た特徴を感じたがまさかこんないかがわしい組織にいるなど!
保美香
「因みに一応聞きますけど貴方誰ですの!?」
?
『ふふふ! 私は謎の研究者Tだ! ゆけダークカビゴンよ!』
ダークカビゴン
「!」
ドシン、ドシン! と、大地を揺るがしながらカビゴン娘は無言のままわたくしに突撃してくる。
さながら暴走列車と形容すべきそれは、何者にも止められない。
保美香
「とりあえず、止まりなさい!」
私はカビゴン娘の頭上を飛び越え、その隙に頸動脈に触手を突き刺して脳を掌握する。
研究員T
『ダークカビゴン! ダークエンド!』
カビゴン
「!」
ダークエンド、カビゴン娘はその体から圧倒的な闇のオーラを放ってわたくしを宙に吹き飛ばす。
その直後、カビゴン娘のぶちかましがわたくしを捉えた。
400キロを越える巨体のぶちかましは大横綱のそれと同じ意味を持っている。
そんな一撃にわたくしが耐えられる訳も無く、わたくしは10メートル以上も吹き飛ばされてしまう。
保美香
(く……毒が効かない? まさか……免疫の特性で?)
カビゴンの中には免疫という毒の効かない種もいる。
だけど毒と一言に言っても色んな種類があり、わたくしが扱うのは神経毒、ウイルス毒や酸性毒とは異なる。
脳内に毒を打ち込まれてなお、効かないなら恐るべきポケモンの神秘ですわね。
マギアナ
「大丈夫ですか? 加勢致します」
保美香
「? 貴方は?」
突然、わたくしに手を差し伸べたのは色褪せた灰色のドレスに身を包んだ少女だった。
マギアナ
「マギアナと申します。義を見てせざるは勇なきなりと存じます」
つまり助けると……まだ相手のことが分からないがこの加勢は素直に有り難い。
保美香
「動きを止めますわ!」
わたくしは立ち上がるとカビゴン娘に対峙する。
少女は横に立ち、援護する構えだ。
マギアナ
「いきます! フルールカノン!」
わたくしはマギアナの援護射撃を余所に一気にカビゴン娘の懐に飛び込む。
フルールカノンはピンクのオーラが爆炎のように広がりカビゴンの動きを阻害する。
本来ならその一撃で倒していそうな攻撃だが、カビゴン娘の耐久力は凄まじい。
保美香
「くっ!? いくら免疫でも! 許容量は存在するはず!」
わたくしはカビゴン娘の後ろにしがみつくと、再び頸動脈に神経毒を打ち込む!
研究者T
『は、早くふるい落とせ! ダークカビゴン!』
ダークカビゴン
「!」
保美香
「ははっ! 暴れん坊ですわね……!」
しかしわたくしは振り下ろされない。
カビゴン娘は巨体が災いして、手が後ろに届かないのだ。
研究者T
『やむを得ん! もう一度ダークエンド!』
保美香
「く!?」
もう一度あの技を喰らえば今度は命がないかも知れない。
しかし! わたくしはこの子を助けてみせる!
保美香
「何!? 懐が!」
それは熱さだった。
懐に忍ばせていたフーパに渡された琥珀色の石が燃えている。
それは熱さと同時にだんな様の熱がわたくしの全身を駆け巡る!
ダークカビゴン
「!」
カビゴン娘がダークエンドを放とうとしている、しかしわたくしは無意識に叫んだ。
保美香
「力をお貸しくださいだんな様!」
わたくしはその瞬間、大きな力が全身を駆け巡るのを感じる。
マギアナ
「手助けしますわ!」
マギアナの手助け、更にわたくしのブーストされた力がカビゴン娘の免疫を越える!
ダークカビゴン
「か……び……?」
それは生きた声だった。
カビゴン娘は暴れるのを止めるとズシンとその場に腰掛ける。
カビゴン娘
「うぅ……お腹が空いて力が出ないよぉ」
研究員T
『ば、馬鹿な!? リライブしたというのか!?』
保美香
「はぁ、はぁ……! これでカビゴン娘はもう大丈夫なのかしら?」
カビゴン娘
「あ、あの時のお姉ちゃんだ〜♪」
カビゴン娘は戦っている時の記憶はないのかわたくしに気が付くと、嬉しそうに抱きつかれた。
力の反動か、全身を巡る力が失せると倦怠感に襲われて、カビゴン娘の厚い抱擁から逃れられない。
カビゴン娘
「所でここ何処〜?」
マギアナ
「悪の秘密結社のアジトですわ! 知ってます? アジトって必ず地下にあるんですよ!」
それは特撮の話ではないだろうか……?
最近その限りじゃないし、○ジトシリーズでは毎回地下だけど。
保美香
「マギアナ、貴方に頼ってばかりで申し訳ありませんが、カビゴン娘をお願いしますわ」
マギアナ
「それは構いませんが、貴方は?」
わたくしは隔壁の向こうを見る。
さっき、石から感じたのは間違いなくだんな様の気配だった。
一刻も速くだんな様と合流しなければ!
***
ギラティナ
「私が生まれたのは……多分300年は前かな? まぁ神の一生からすれば大した時間じゃないんだけどね」
茂
「……」
ギラティナはゆっくりと語り出す。
その表情からは様々な感情を感じた。
ギラティナ
「長女のディアルガ、次女のパルキア、そして末女の私……三つ子だったわ。私たちが生まれた時は、新たな神が生み出されたのは久しくて、皆初々しかった……」
ギラティナが語り出すと、その顔にはまだ嬉しさのような物が見える。
だけど、徐々にその顔は暗く俯いていった。
赤い紅茶にはそんな彼女の顔が映っている。
ギラティナ
「ある日、私はアルセウスに呼ばれた。それは私が神の席から除外されるという結果だった……私は訳が分からなかった……何をした訳でも無い、ただ理不尽にいらない子だと宣言されたんだ……」
ギラティナの昔話は続く。
それは現代に向かって……。
***
美柑
「……く? 主殿? ここは?」
ボクは突然黒いゲートに飲み込まれると、全く知らない場所に出た。
そこはドーム状のエリアで、無骨なバトルフィールドのように思える。
?
「この馬鹿! 間抜け! すっとこどっこい!」
美柑
「?」
突然聞こえる罵声に振り返ると、2人のPKMが近くにいた。
罵声を浴びせるのは紫色の耳と髪の毛をした猫っぽいPKM、恐らくレパルダス娘かな?
そして罵声を受けていたのはイカのような触手が上に生えたPKM、カラマネロ男?
カラマネロ
「うう〜ん! き・も・ち・い・い!」
美柑
「な、なにこれ?」
レパルダス
「おや、敵が来たようだよ」
カラマネロ
「おぉう……貴方の罵声は大変気持ちよく力が湧いてくるんですがねぇ」
美柑
「へ、変態だー!?」
レパルダス
「あれ……バークアウトなんだけどね」
カラマネロ
「ぬふふ〜! まずは歓迎致しましょう! 私はカラマネロ! 命名コードは48!」
レパルダス
「レパルダスだ、コードは09」
美柑
「ボクは美柑です……」
マナフィ
「そしてウチが真打ち! マナフィやで!」
美柑
「誰!?」
突然後ろから現れる関西弁の幼女。
幼女はマナフィと名乗り、私の傍に立つ。
マナフィ
「ウチは味方やで、世界を救うヒーローや!」
カラマネロ
「ヒロインではなく?」
随分不思議な少女だったが、ボクも手練れ2人を相手にするのは厄介だ、ここは助力願おうか。
カラマネロ
「まぁ飛び入り結構結構! まずはぁ! ぬぅん!」
気持ち悪いカラマネロは突然その二の腕を膨れ上がらせる。
そしてゆっくりとボクに迫ると、その拳を地面に叩きつけた!
美柑
「馬鹿力!?」
カラマネロは地面を破砕させて、その破片で攻撃してきた!
カラマネロ
「私はデメリットのある技を使えば使うほど強くなるあまのじゃく!」
美柑
「っ!?」
カラマネロ
「さぁ! お次は!」
ボクは相手の動きを見て、咄嗟にキングシールドを使用する。
相手の攻撃は地獄突き、馬鹿力で攻撃の上がった状態で喰らうのはまずい!
カラマネロ
「ふはは! 更に力が漲る−!」
美柑
(しまった!?)
キングシールドに触れた者は攻撃力が吸い取られる。
だが天の邪鬼のカラマネロには逆効果だ!
マナフィ
「なら、こういうのはどないや? ハートスワップ!」
カラマネロ
「ぬぅ!? 力が吸い取られるぅ〜!?」
マナフィはカラマネロとステータス変化を入れ替える。
弱体化したわけではないがカラマネロは一気に弱くなったろう。
カラマネロ
「なんの! ひっくり返す!」
カラマネロがちゃぶ台をひっくり返すような動作をするとマナフィの能力変化が逆転する!
マナフィ
「ハートスワップ!」
今度は能力ダウンが押し付けられた!
レパルダス
「……お前ら、遊んでるのか−!」
カラマネロも巻き込んでのバークアウトがボクたちを襲う。
流石に不毛すぎる押し付け合いに切れたようだ。
カラマネロ
「もう〜、何するんですか〜? 懐き度が下がりますよ〜?」
レパルダス
「お前に懐かれて誰が嬉しいものか!」
美柑
(漫才みたいだけど、恐らく前衛がカラマネロ、後衛がレパルダスかな? なら!)
ボクは真っ先にレパルダスに向かう!
レパルダスも咄嗟に気付き、迎撃に移る……が!
レパルダス
「アタシから狙いに来たか!」
レパルダスはボクに向かって悪の波動を放ってくる。
しかしボクは構わず弾く!
美柑
「やはり直接攻撃は非力みたいですね!」
レパルダス
「!?」
ボクはまだシールドフォルムのままだ。
恐らくサポーターのレパルダスでは抜群でもこちらを抑える力はない!
美柑
「接近戦は得意ですか!?」
ボクはシャドークローでレパルダスを攻撃する。
しかし流石に俊敏でレパルダスは屈んでそれを回避した。
とはいえボクもこの一手で沈められるなんて思ってない。
カラマネロ
「レパルダス−! 今助けますぞ−!?」
マナフィ
「そうは問屋が!」
マナフィは空中キックで鈍足のカラマネロの背中を蹴り倒す。
マナフィ
「卸さんで!」
カラマネロ
「お、おのれぇ……!」
カラマネロは前のめりに倒れ、恨めしそうにマナフィを睨みつける。
とりあえずあの変態はマナフィに任せよう。
ボクはその間にレパルダスを仕留める!
レパルダス
「ち……アンタ結構冷徹なタイプかい?」
美柑
「そうだとは思いますが、なにか?」
ボクは聖なる剣を振るうが、レパルダスはスウェーで回避。
どうしたってスピードでは負ける、だからこそ詰め方を考える。
美柑
(相手にまだ、余裕がある……それは勝ち筋を残しているということ)
ボクは冷徹だろう、実際こうやって勝つための思考を進めている。
それは相手に容赦をしないということでもある。
でも……ボクは主殿のため、それを絶対に遂行しないといけないんだ!
レパルダス
「はっ!」
レパルダスがその柔らかい身体を活かし、ボクの攻撃を巧みに避け、ブリッジから身体を一回転させる。
レパルダス
「ふ!」
レパルダスが笑ったのをボクは見逃さない。
直後、倒立状態のレパルダスの踵が振り下ろされる。
ガキィン!
レパルダス
「!?」
金属を叩く音、レパルダスはその異質な感覚に驚愕している。
美柑
「イカサマですか? シールドフォルムじゃ大した攻撃じゃないですね?」
ボクは既に読んでシールドフォルムに移っていた。
不安定なレパルダスの態勢、ボクはそこにアイアンヘッドをぶち込む!
レパルダス
「かはっ……!?」
カラマネロ
「なっ!? レパルダスー!」
マナフィ
「こっちもトドメ行くでー!」
マナフィは飛び上がる。
マナフィ
「アクアァ……ブレイク!」
マナフィは水を全身に纏い、全身でカラマネロに突撃。
カラマネロはダメージも蓄積していたのか、そのまま立ち上がらなかった。
カラマネロ
「……わ、我々の負けか……」
レパルダス
「くそ……馬鹿力め……肋骨何本かやられたか……」
美柑
「……ふぅ、無事勝てましたか」
マナフィ
「……や、なんか気配がもう一つあるん?」
美柑
「え……?」
ボクはその瞬間、何かが目線を横切ったのを感じた。
しかし、それでは反応が遅すぎた。
ドカァ!
美柑
「かはぁ!?」
突然頭部が炎を纏った蹴りにやられた。
ボクは意識が落ちかける中、何にやられたのかを確認する。
そこにいたのは、全身から火を噴くバシャーモの姿だった。
だけど、そこからは普通の気配が感じられない。
この違和感は一体?
カラマネロ
「い、いかん! 奴はダークバシャーモ! 奴は見境がないぞ!?」
ダークバシャーモ
「!」
バシャーモが急に動き出す。
そこには殺意のような物を感じない、しかしおぞましい程の憎悪を感じる。
まるで魂が汚れたかのような、恐ろしさを覚えた。
マナフィ
「ちょ……速!?」
レパルダス
「か、加速だ……! ダークバシャーモはダーク進行度は薄いからダーク技は使えん……しかし、長引けば長引くほど厄介だぞ……!」
美柑
「く……そ」
ボクはなんとか立ち上がるが、ソードフォルムで受けたのが不味かった。
今はマナフィがバシャーモに襲われているが、マナフィはタイプ有利にも関わらず防戦一方だ。
兎に角バシャーモの動きが速い、マナフィが手を出そうにも全てカウンターを取られそうな状態だ。
美柑
「ぼ、ボクが相手だ! こっちに来い!」
ボクは盾を構えて、バシャーモの気を引く。
バシャーモはこちらに振り返ると、凄まじいスピードで踏み込んできた。
ガキィン!
美柑
「くぅ!?」
ボクはその真っ直ぐの蹴りをキングシールドで防ぐ。
これでバシャーモの攻撃を吸い取ったが……!
美柑
「うわぁっ!?」
防いだと思ったその瞬間、バシャーモは飛び上がり後ろ斜めからブレイズキックを放ってくる!
爆炎に吹き飛ばされ、ボクは再び地面を舐める。
美柑
(スピードの次元が違いすぎる……ガードが間に合わないなんて!)
マナフィより遅いボクではそもそもこの次元の違うラッシュを凌ぐことさえ難しい。
しかもこっちのキングシールドも無視して関係なく攻撃にくるんだから余計に厄介だ。
とりわけ厄介なのが、全身に纏った炎だ。
どんな技も炎を付与して襲ってくるから、相性は最悪だ。
カラマネロ
「おお……く! トリックルーム!」
ダークバシャーモ
「!」
動けず、その場に寝転がるカラマネロがトリックルームを使うと、このバトルフィールド内のルールが上書きされた。
しかしその迂闊な行動にバシャーモは見逃さない。
ダークバシャーモは飛び上がると、フレアドライブをカラマネロにぶち込んだ!
カラマネロ
「がはっ!?」
血を吐くカラマネロ、しかしボクは立ち上がると走り出す!
美柑
「うおおお!」
ボクはバシャーモにシールドを叩きつける!
バシャーモは吹き飛ばされ、距離を離す。
美柑
「どうして? 助けてくれるんですか?」
カラマネロ
「ふ、ふふ……勝利者は君たちだ、敗者側が汚すのは美しくないな……」
美柑
「!」
カラマネロはこの戦いに礼を持っている。
ボクはその心意気に感服した。
美柑
「いくぞ、バシャーモ!」
バシャーモ
「!」
今やボクとバシャーモの速度差は逆転している。
どんどん遅くなるバシャーモに、ボクは一気に距離を詰めると乱打戦に持ち込む。
美柑
(ボクはまだ至らない! 一人では勝てない! だけど世界はこうやって何人にも助けられて成り立っているんだ!)
ボクは剣と盾を握りこむ!
その時、懐に忍ばせた琥珀色の石が激しく発光し、熱を発した。
美柑
(この感じ主殿!? そうだ、主殿の力も、ボクを支えてくれる!)
ボクはその熱を受け入れた。
すると体中に力が巡る。
美柑
「終わりだぁ!」
ボクは力を全て剣に集中させる。
そしてボクはその力は全てバシャーモに叩きつける!
それは肉ではなく、魂を斬る!
バシャーモ
「う……あ!」
バシャーモがうめきをあげて倒れた。
美柑
「はぁ……はぁ!」
マナフィ
「ちょ、大丈夫?」
美柑
「ええ、大丈夫、まだ終わりじゃないから」
ボクはあの不思議な感覚が抜けると虚脱感で倒れそうになる。
でもまだ倒れてはいけない、主殿の安心を守り安全を守るんだからこんな所ではへこたれない。
美柑
「カラマネロさん、ありがとう御座います」
ボクはカラマネロさんの元に向かうと礼をした。
レパルダス
「……ま、アタシたちも死にたくないし、行きなよ」
レパルダスは隔壁の向こうを指差した。
ボクはその方向へと走り出す。
***
ギラティナ
「アルセウスは私を破れた世界に閉じ込めた……私はそこでずっと永い時を過ごしたのさ」
茂
「……それが今に至るまでか?」
ギラティナはコクリと頷く。
それがおおよそ300年程、本人は大した時間じゃないと言うが、俺にはそうは思えない。
孤独に押し潰されそうで、きっと辛かったのだろう。
ギラティナ
「アグノム、紅茶のお代わりを、茂君にも」
アグノム
「畏まりました」
アグノムはティーポッドを持つと、そっとカップに注いでいく。
茂
「ありがとう」
アグノム
「いえ……あの、よろしければクッキーなども」
アグノムはそう言うとクッキーの入ったバスケットをテーブルに出す。
こりゃ本格的にお茶会なってきたな。
茂
「ん、一枚失礼」
俺はアグノムが用意してくれたクッキーを頂くと、市販ではない独特の味や食感を感じる。
茂
「これ作ったのは?」
アグノム
「私ですが……?」
茂
「いい腕してるな」
俺はそう言って褒めると、彼女は顔を紅くしてその場を離れてしまう。
ギラティナ
「うちの子口説くのはやめて欲しいかな?」
茂
「そ、そんなつもりはないぞ!?」
ははは、とギラティナは苦笑する。
俺たちは熱々の紅茶に口をつける。
ギラティナ
「破れた世界には色んな物があったね……でも生物は私しかいなかった」
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第32話 それぞれの戦い その1 完
第33話に続く。