第31話 ファイナルミッション
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第31話 ファイナルミッション
茂
「ただいまー」
俺は永遠の力を借りて家へと帰ってきた。
家の中に入ると、バタバタと慌ただしく足音が聞こえてくる。
保美香
「だ、だんな様! ご無事だったのですね!」
茂
「あー、やっぱり警察から連絡あった? 心配かけたな」
美柑
「まぁ確かに警察から連絡は来ましたけど……」
ん? なんだか皆の様子がおかしい。
まるで他にもなにか問題がある様子だが?
茜
「ついさっき……こんな物が届きました」
そう言って、茜が差しだしたのは一通の手紙だった。
俺はその手紙を見ると、そこには何も書かれておらず訝しむ。
しかし直ぐに手紙からホログラムが展開された。
そのホログラムに映る女性に永遠は狼狽する。
永遠
「ギラティナ!?」
茂
「なんだと?」
ホログラムの女性は、どこか永遠やパルキアに似ている所もあるが、身長は測る物がないため分からない物の、7等身の身体からは高そうだ。
赤い瞳、スラッと伸びた銀髪、驚くほど綺麗で真っ白な肌と、ある意味でこれ程人間離れした美人は見たことがない。
頭には金の冠を被り、服装はギラティナをイメージするガイコツのような模様のロングコート、その格好からスタイルは予想しづらいが大きいとみた。
ギラティナ
『あー、本日は晴天なりー、アーテステス。どうも初めまして、こんな手紙を送ってご免ね? ギラティナと言います、気軽にティナとでも呼んでくれたら嬉しいかな?』
ギラティナはホログラム上でそう名乗ると、永遠の顔は更に険しくなる。
皆の顔も不穏であり、何かしらこの後に嫌な予感を感じさせた。
ギラティナ
『まぁ、私も君たちと仲良くしたいって訳じゃないから、単刀直入に言うけど、世界を滅ぼします』
茂
「なんだと?」
世界を滅ぼすだと?
俺はそれが可能なのか、考えるがもし俺の想定通りなら可能と考えるべきか。
組織とPKM連合が融合しているのなら、その戦力は本気で世界を滅ぼせるだろう。
更にギラティナ……伝説のポケモンの目的は間違いなく神々の黄昏。
ギラティナ
『大言壮語に聞こえるかもしれないけど、私たちは本気よ? 常葉茂と……えーと、茜だっけ? 今から送る座標の場所に来なさい』
そう言ってホログラムは女性から、グーグルアースのような立体地図に切り替わる。
ギラティナ
『もしあなた達が48時間以内に来ない場合、私たちは最終戦争を開始します。あなた達に対する指定は特にはないわ、ただ来なさい……あ、それとパルキアは預かってます』
永遠
「……く!」
永遠はパルキアという言葉に強く反応する。
その顔には怒りの感情が映っている。
ギラティナ
『それじゃ、君たちが来るのを待ってるよ♪』
それっきりホログラムの映像は終わった。
俺はこの一連の映像の意味を考える。
48時間のタイムリミット、相手の指定は特になし、そして座標の指定だ。
これは明らかにギラティナたちの挑戦状。
ギラティナの目的は間違いなく神々の黄昏。
そのためには本当に最終戦争ってのをやりかねない……いや、やるんだろうな。
茂
「この事警察には……」
保美香
「一応それは考えましたが……内容が内容だけに」
それがまぁ正解だよな。
もし想定通りの戦力があるのなら、国家のレベルでは到底対処出来ないだろう。
なら、それは俺たちだけで対処した方がいいように思う。
茂
「皆、俺は今まで永遠と一緒に最悪の未来を変えるために戦ってきた。そしてそれは茜を救う戦いだった」
茜
「!」
伊吹
「茜ちゃんを……?」
茂
「茜は神々の王という存在で、俺にも良くは分からんが、この世界を滅ぼす役目があるらしい。だが、茜はそんな事を望んじゃいない!」
茜
「ご主人様……」
茂
「皆……ファイナルミッションだ! 俺に力を貸してくれ! 俺は世界を救う、それは家族の平穏を護るため!」
保美香
「……全くだんな様ったら、畏まりました全力で尽くさせていただきますわ」
美柑
「ボクには世界を救うとか、そういう難しい事はよく分かりません。けれどもボクは主殿の安心安全です! 任せてください!」
伊吹
「神々の王……茜ちゃんが〜……でもそれは関係ないよね〜、茜ちゃんは茜ちゃんだものね〜!」
凪
「なんとなく理解していたが、やっと合点がいった……力を貸しましょう!」
華凛
「ふ……戦争か、本当にどいつもこいつも飽きないな。まぁいい良い女とはダーリンに尽くすものだ」
永遠
「茂君……ファイナルミッション承認!」
皆は一斉に頷くと、俺に対しその意思を教えてくれる。
皆そこには不安ではなく、俺に力を貸してくれる心がある。
俺には力が無い、でも……皆がいれば戦える!
茜
「ご主人様……私はもう絶望なんてしません。この世界に希望はあると信じて戦います……!」
茂
「茜……」
俺たちは運命には負けない。
必ず勝って帰ってこよう。
***
ギラティナ
「それで、首尾は?」
私は王たちを待つ中で、ある女性の話を聞いていた。
彼女はかつてリーリエと呼ばれていた筈、今はヒガナという名前を名乗っているけど、本名は私も知らない。
彼女は今組織の連絡役を任せている。
ヒガナ
「使用できるICBMは1200発、地球全土を焦土に変えられるわね」
ギラティナ
「ふーん、凄いね」
組織、それは時に鷲の一族、黄金の夜明け、300人委員会、フリーメイソン、それらの名で呼ばれるが、実際には一つの組織であり、そしてその組織に正式な名前はない。
それこそがあらゆる組織にも隠蔽された正体。
その力はあらゆる機関に根ざしており、それを裏で操る。
正に世界の支配者たちの組織。
もっとも、そんなお偉いさんたちはもういないんだけどね、まぁ私がやったんだけどさ。
という訳で実質組織は私が乗っ取った。
ギラティナ
「それにしてもヒガナもよくまぁ世界を滅ぼそうって相手に力を貸してくれるね」
ヒガナ
「ふふ、私は貴方みたいな目の子が好きなのよ」
そう言うこのグラマラスボディな彼女だが、見た目は20代位に見えるが、実際には分からないけど倍は生きているだろう。
そういう意味では、人間ってのは本当に個性豊かよね。
それに対して神ってのは退屈な物だわ。
決められたスケールで神様のお望み通りに形になってる。
ギラティナ
「全く、私たちってなんのために生まれたんだろうね……」
私はそう言うと、目の前の巨大なシリンダー容器の表面に触れる。
シリンダーの中には深緑色の培養液が入っており、その中にはパルキアが浮かんでいる。
***
保美香
「ふんふーん♪」
お肉屋さん
「よっ! 保美香ちゃん! 今日はどうするんだい!?」
わたくしは今日もいつものように商店街に訪れる。
わたくしはこういった人の営みが大好きだ。
その中に自らを置くこと、それは原種のウツロイドには決して不可能な事だった。
だからこそ、これが如何に尊いかを知っている。
保美香
「今日は特別な日ですの、この店の最上級は?」
お肉屋さん
「それなら、A5ランク神戸牛サーロイン、上ハラミなんてどうだい!?」
保美香
「ふむ……では1キロくださいな」
お肉屋さん
「ヒャッハー! 毎度ありー! 今日は本当に気前が良いねぇー!」
お肉屋さんは吹っ掛けたつもりだろうが、まさかの買いに狂喜乱舞した。
世界の命運をかけるのならば、この程度は安いと言えるでしょう。
保美香
(世界を滅ぼすというのなら、わたくしはこのかけがえのない世界を護ります……それは、ウツロイドの望む理想郷……だんな様のため、わたくしのため!)
***
美柑
「や! はぁ!」
ボクは屋上で最終決戦の為の調整を行っていた。
右手には剣の半身ギル、左手には盾の半身ガルド。
ボクは剣を振るい、型を確認し、その意識を研ぎ澄ます。
振るわれる度、風は切り裂かれ、ボクの一撃はより鋭利になる。
美柑
(ボクは戦うことでしか自分を表現できない……だからこそ、ボクは主殿の剣となり、盾となる!)
ブォン!
正中線に剣を強く振るうと、風が舞い上がり木の葉が舞う。
冷たい風も、燃えるような意思を持つボクを冷ますには至らない。
美柑
(でも……こんな不器用なボクだって、やりたいことは一杯ある)
また主殿と旅行に行きたい、色んな所を旅したい、そして世界を巡りたい。
ボクの目標は世界を徒歩で一周するアースマラソンを達成すること。
この広く大きな世界には、不思議と未知に満たされている。
それに触れ、そして喜びを見いだす。
美柑
(そのためにも……ボクは戦う!)
***
子供たち
「あ、お姉ちゃんだ〜!」
伊吹
「皆〜! 車には気を付けてね〜!」
子供たち
「は〜い!」
アタシは他の皆とは違って、取り立てて特別なことはしていない。
いつものように散歩をして、その傍らで通る人達と顔を合わす。
なんだかんだでここに来て半年、随分近隣の人達とは顔見知りになった。
さっきの子供たちも小学生低学年かな、いつも元気に手を振って挨拶してくれる。
この街は今日もこうやって、当たり前の毎日が過ぎている。
アタシは争うことは好きじゃない、いや本当の意味でそれが好きなんて誰もいないんじゃないかな。
それでも、主義や思想が異なれば、そこに争いは生まれる。
アタシはそんなエゴからあの子供たちのような人たちを助けたい。
茂君、茜ちゃん、皆……抱える物も違うかもしれないけど、アタシはお姉ちゃんだもの。
伊吹
(皆のために、アタシも頑張るよ)
***
晃
「明日出られない?」
凪
「うむ、本当に申し訳ない!」
私はポケにゃんでヒカル店長に明日は仕事に出られない事を伝えると、店長はやはり困ったように顔を顰める。
仕方がないとはいえ、事情など伝えられる訳も無く私はただ申し訳なかった。
しかし店長は、そんな私に気が付くと。
晃
「凪ちゃん、何があっての私は貴方の味方よ。頑張って来なさい!」
ヒカル店長は私の事情なんて知るはずはない。
それでも、私の様子から何かを察して、ただエールを送ってくれる。
希望
「お姉ちゃん、また帰ってくるよね?」
団子
「凪お姉ちゃんがいないと寂しいにゃ」
照
「凪ちゃんはもう家族のようなもの」
流花
「うん……大切な仲間だよ」
星火
「もし人手が足りないなら、私も協力するよ−!」
皆私の前に集まると、私を家族と慕ってくれる。
遥か異国から来た身、そんな私を優しく迎えてくれた店長たちに私は涙が出そうになる。
しかし泣くわけにはいかない。
凪
(私はこの力無き仲間たちの剣となろう……今一度神話の乙女として!)
***
太ったオタク
「うーむ、同志よ、どう思う?」
痩せ細ったオタク
「今日も我らの女神華凛殿は美しい……しかし何か憂いを感じますな」
華凛
「! どうしたご主人ども? 私を見て」
この店で働いて気が付いたら3カ月、私がいると必ずやってくるこのオタクたちとも大分親しくなったなと思う。
それでも彼らは相変わらず私が目の前に来ると、顔を紅くしてきょどるのだから可笑しくて笑ってしまう。
太ったオタク
「い、いえ! そ、それより冬コミの方はどうですかな!?」
痩せ細ったオタク
「我らカメラ小僧、是非そのお姿を撮りたく!」
華凛
「ふふ、任せておけ、最高の3日間を見せてやろう」
実際、冬コミ用衣装は佳境に入っている。
これ以上何もなければ間に合うだろう。
12月29日から31日の3日間、私もこの日を目指して頑張ってきた。
華凛
(それを戦争だなんだと無粋な事をしてくれる!)
***
永遠
「……」
?
「浮かない顔だね」
永遠
「!」
私は誰もいないビルの上でこれからの事を考えていた。
すると突然後ろから声が聞こえ、振り返るとそこには魔法少女のような姿をした少女がいた。
永遠
「……て、フーパじゃないの、何その格好」
フーパ
「ふふふ、今回は魔法少女にしてみました!」
そう言ってステッキでキメポーズするフーパ。
私は相変わらずおちゃらけたその姿に呆れる。
フーパ
「あんまり、重たい顔してても意味ないよ」
フーパはそう言うとリングを空高く投げた。
投げられたリングは大きく広がると、ある少女たちをこの場に召喚する。
ジラーチ
「久し振りね、フーパ」
シェイミ
「ヤッホー! 遅い到着だね!」
マギアナ
「私知ってます。重役出勤という物ですね!」
マナフィ
「これで全員勢揃いやね」
リングから現れたのはいずれも幼女と呼べるような幼い姿の子たち。
しかしそれらは神に匹敵する力を持った者たちだ。
フーパ
「アタシたち5人も最終決戦に参加させていただくよ」
永遠
「いいの? あなた達にはメリットなんて無いでしょうに」
フーパ
「同じ男を愛した女なら……分かるだろ?」
フーパがそう言うと、私は茂君の顔を思い出してしまう。
愛した男か……でも、それは釣り合わない恋慕よね。
フーパ
「何か問題でも?」
永遠
「いえ……」
フーパ
「何を躊躇う!? 奪いとれ! 今は悪魔が微笑む時代なんだ!」
ジラーチ
「悪魔は貴方だけよ」
マナフィ
「その程度で、永遠の心が動くかぁ!」
ネタに走るも総スカン食らうフーパ。
決めるところでは格好良く決める癖に、普段は本当におちゃらけてるんだから。
永遠
「ふふ……勝つわ。そして絶対にパルキアを取り戻す!」
私の決意に少女たちは一丸となって頷く。
ギラティナ……私たちは絶対に負けない!
***
茜
「ご主人様」
茂
「なんだ、茜?」
俺たちは、明日に備えて英気を養っていた。
今は家には誰もいない。
まぁ程なく皆帰ってくるだろうが、それまでは二人でお留守番だった。
茜
「……私は神々の王としての記憶を全て受け継いでいます」
神々の王、茜の真の姿。
しかし今の茜は王ではない。
あくまでも王の記憶を引き継いだイーブイ娘に過ぎない。
茜
「ですが王の記憶はあまりにもちっぽけなんです……数多の世界を生み出し、そして滅ぼしたにも関わらずそこには何も思い出がない」
それは、まるで怖れるかのようだった。
王は生きるという事に何も感じない、その空虚さを怖れているのだろう。
茜
「私がいつか王に戻る日はくる……でも、私はイーブイ娘の茜、茜として生きたい……王の心に刻みたい!」
俺は無言で茜の体を抱き寄せた。
茜は俺の胸で静かに震えている。
茜
「どうして王は私を創ったんでしょう……? 私は王の為の肉体でしかない……のに!」
茂
「少なくとも神々の王は空虚でもなきゃ、完璧な奴でもなかったって事だろ?」
茜は驚いたように顔を見上げる。
自分が王であることを知った時、茜のあの絶望顔は今でも忘れられない。
でも、それはある感情を透かして見せていた。
茂
「ただ孤独で……寂しかったんだと思う……だから茜を創って存在格を落とした」
神々の頂点たる王の神堕ち、この俺の戦いはある意味でそれが発端だったんだな。
茜は王であるという自覚が、自らを孤独な檻へと閉じ込めた。
それにも気付かず孤独な戦いを続けた茜には結局世界を救えはしなかった。
茂
「なぜポケモンは進化する? 俺は思うに王は茜へと進化したいんじゃないかな」
それは力で見れば明確な弱体化だろう。
だけど強くなることが進化じゃない、適応することが進化だ。
王にとって世界は脆すぎて、茜の存在格が丁度良かったんだと思う。
茜
「私への進化……それじゃ、この想いも進化?」
俺は茜じゃないから、完全に王の人格ってのは分からない。
でも茜ならその僅かな意味も理解できるだろう。
茜
「これが進化……だったら尚更護りたい、この掛け替えのない想いも!」
茂
「ギラティナの真意が俺には分からん。だが俺は戦うよ、お前と一緒にな!」
***
茂
「皆、時間だ」
ギラティナが掲示したタイムリミットは残り10時間を切った。
俺はそれまでに様々な事が去来しながら、未来へと想いを馳せる。
たった一人の、それこそどこにでもいるような未来に夢も希望もない男だった俺を、何故茜は選んでくれたのだろう。
しかしそれは、俺をここまで頑張らせた動力源だろう。
保美香
「だんな様、宜しければ訓示を」
茂
「訓示か、俺が皆に言えることは一つ。死ぬな! 必ず帰ってくるぞ!」
俺の壮大な歴史改変の戦いも元を辿れば結局皆と平穏な生活を取り戻したいという事だ。
だから俺たちは勝ことが目的じゃない。
皆で元の生活に戻ること、それが真の勝利だ。
美柑
「了解っ!」
華凛
「ま、一度捨てた身、今更拘る気もないが、ダーリンの願いならば」
伊吹
「命が一番大事〜、だからね〜」
永遠
「……それじゃ、目的地に跳ぶよ!」
永遠がその力を発動させると、胸部のダイアモンドが輝く。
その瞬間、俺たちは全く違う場所に跳んでいた。
***
凪
「? 森の中?」
茂
「座標は?」
永遠
「いきなり踏み込んだら、流石に皆も危険だと思ったから、目的地から南500メートルって所かな?」
冬の日本、室内の暖かさから、外の寒さに晒され身震いしながら周囲を伺う。
まだ日が落ちる時間ではないため、そこまで暗くはないがそれでも見通しは悪いな。
茜
「あっち」
茜が何かを指差した。
それは白い建造物?
俺たちはそれに近寄ると、そこがギラティナが指定した場所だと理解した。
凪
「人が巡回しているな?」
白い建物の傍、物々しいライフルを腰に構えて巡回する兵士が2人が見える。
顔は見えないが、俺はそのライフルに見覚えがある。
茂
(人類軍が装備していた?)
すでに通り過ぎたが、戦争のあった世界線で、PKM連合に対抗する人類軍は巡回する今の兵士のような装備をしていた。
と言うことは、人類軍の装備は殆ど組織の提供って所か。
茜
「……!」
茜は迷わず飛び込んだ。
茂
「ちょ!? 茜!? 早い、早いよ!?」
たまに茜は凄まじい積極さを見せることがあるが、今回も迷うことがなかった。
兵士A
「PKM!?」
茜
「はっ!」
茜にパワーはない。
だけども、敏捷性や動体反応は家族内でも高く評価されている。
兵士の銃を素早く下げさせ、独楽のように回転しながら兵士の一人の頭部を蹴り倒す。
兵士B
「き、奇襲だと!? 試作機どもはまだか!?」
茜
「!」
そうこうしている間に茜は二人の兵士を沈黙させた。
パワーがないと言っても、そこはPKM、戦闘技術をどこで学んだのか、人の身程度ならものの数ではないのだろう。
保美香
「全く茜は……少しは作戦を練りなさいかしら?」
凪
「まぁ特訓の成果も出たといった所か」
巡回している兵士は2人だけだったようだな。
とりあえず安全が確保されたため、俺は建物の前に進んだ。
建物は一見、廃墟された古い建物のように見える。
だが、それは外観だけだろう、赤茶にそまった建物の壁や、絡まった足草も偽装に過ぎない。
華凛
「見た目は小さな建物だな」
茂
「どうせ地下に凄いダンジョンでも築かれているんだろ?」
あの組織なら、俺が捕まっていた場所ほどじゃないにしても地下ダンジョンになっている可能性はある。
如何にPKMでも兵器満載のあのダンジョンは容易じゃない。
特にPKMの力を無効化するあのエリアがあるとすれば、永遠でも子供同然になる可能性が高い。
最も、ギラティナ自身にも影響する可能性が高いあの装置が配置されているかは怪しいが。
永遠
「っ! 中から何か来るよ!?」
増援、それにしてはその足音は少ない。
ガション、ガション!
明らかに人とは異なる金属的な足音。
それらが遅いのは走らないためじゃない、走れないんだ。
ロボット
「PKMを発見、迎撃」
茂
「皆気をつけろ! 奴は出鱈目に頑丈だぞ!」
それは戦争の世界線でも最も活躍したであろう対PKM兵器だった。
対物ガトリングを片手に持ち、赤い大きなカメラレンズが俺たちをターゲッティングする。
1体でも極めて厄介な奴が3体か!?
?
「ふーん、頑丈ねぇ……でもそれって身体を真っ二つにされても機能するわけ?」
美柑
「上!?」
俺たちが真上を見上げるとそこには浅黒い肌色の幼女が金のリングの淵に座っていた。
ロボット
「ピガガ……!?」
ロボットの一体の胴体が突然切断された。
それは金のリングがロボットの身体を輪切りにしたからだ。
防御力を無視した攻撃、それは……!
茂
「フーパ!?」
フーパ
「あはは♪ 久し振りだね……て、分かるわけ無いか」
フーパはリングを戻すと、クルクルと回転させる。
フーパの金のリングは限定的ながら異相次元空間を繋ぐ能力がある。
それを攻撃的に扱えば、正に攻勢ポータルであり、ロボットの身体は異相次元と現実の狭間で切断を繰り返し、ボロボロに破壊された。
フーパ
「頑丈ってだけじゃ、こんなものか」
あっという間、ロボットたちは滅茶苦茶に破壊されてもはや原型を留めていなかった。
「よっと」、かけ声をかけて地面に降り立ったフーパはニコっと笑う。
茂
「お前、力を貸してくれるのか?」
俺は何故かフーパにデジャビュを感じながら、そう聞いた。
しかし何故だか、俺は彼女を信用している。
フーパ
「当然さ、君に貸しもあるしね」
永遠
「今は悪魔が微笑む時代じゃないの?」
フーパ
「うぉい!? 今ここでそれ言う!?」
永遠はジト目でフーパを睨むと、フーパはオーバーリアクションで返した。
茜
「ご主人様……敵の増援はないみたいです」
茂
「……それじゃ、ギラティナの計画を止めに行くか!」
俺は突如、助けに現れたフーパも加え、建物へと侵入する。
フーパ
「あ、そうだ。茂君、これ」
フーパは突然俺に見たこともない琥珀色の石を渡してきた。
茂
「これは?」
フーパ
「時の結晶と一緒に持っていて……、君の力も多分必要だから」
フーパはそう言うと、皆にも何かを渡していった。
やがて、建物の奥へと進んでいくと、そこは洋風の館の中だった。
伊吹
「外観からは想像できなかったねぇ〜」
凪
「しかし妙だな……静かすぎる?」
俺たちは警戒しながら洋館の中を進む。
すると、彼女は現れた。
ギラティナ
「ふふ、良く来たわね……歓迎するわ」
ギラティナだ、立体映像で見た姿と全く同じで、俺たちの前に現れた。
俺たちは当然ギラティナに警戒するが、彼女は取り合おうとはしなかった。
永遠
「パルキアはどこ?」
ギラティナ
「さぁね、勝てたら返してあげる」
永遠
「!」
永遠が時を加速させて飛び出す。
しかしギラティナは怪しく微笑むと、永遠はギラティナの前で突然消え去った。
茂
「なっ!?」
ギラティナ
「気の早いことだ、君たちもバトルフィールドにご招待♪」
それは黒いゲートだ。
漆黒のゲートが俺以外を包み込む。
保美香
「くっ!? 罠!?」
茜
「ご主人様……!」
黒いゲートは俺以外を残らず吸い込んだ。
俺だけは吸い込まれずギラティナと対峙する。
ギラティナ
「君は少し話が通じそうだね?」
茂
「目的はなんだ? 最終戦争? 神々の黄昏? 何かが違うよな?」
俺は冷静に事態を判断する。
目の前のギラティナの目的、少なくとも家族は無事だろう。
ギラティナ
「思ったより冷静なんだね」
茂
「バトルフィールドだと言うなら、茜たちは戦っているんだろう? なら心配はいらん」
正々堂々相手をするというなら、アイツらが負けるとは思えんしな。
それより寧ろ問題は俺の方だ。
茂
「お前のやり方はこれまで通ってきた世界線と比べても回りくどすぎる」
最終戦争を起こすのが目的なら挑戦状なんていらない。
神々の黄昏を起こすにしても、ギラティナが出張る必要性がない。
それどころか逆に茜は奮起し、永遠やフーパのような仲間も増えた。
ギラティナ
「それで、君の結論は?」
茂
「まだ分からん。前提として神々の黄昏の意味を理解していないんだから」
そもそも神々の黄昏とは一体なんなのか?
これまでは単純に伝説のポケモン総集合イベント位にしか考えていなかった。
俺たちが止めたいのは、その先の世界の終わりだ。
茜が神々の王へと覚醒して、この世界を塵一つ残さず消滅させる真っ白な世界。
あの終わった世界を止める為に俺たちは戦った。
だが、ギラティナは分からない。
これまでの相手とは異質で、その目的が知れないのだ。
ギラティナ
「まぁとりあえずお茶にでもしようか。アグノム用意して」
アグノム
「はい」
どこからかエムリットに似た青い少女が飛来する。
アグノムと呼ばれた少女はその場に次々と食台やシート、グラスなどを用意した。
アグノム
「ダージリンですが、宜しいでしょうか?」
アグノムは一通り用意を終えると白い陶磁器のポッドを手に持ち、一言聞いてきた。
茂
「構わない」
俺は流石に状況に戸惑うが、ギラティナは既に着席して紅茶を嗜んでいる。
アグノムは一礼すると、紅茶を熱々のティーカップに注いでくれた。
茂
「あ、ありがとう」
アグノムはそれを終えると、静かに後ろに下がった。
第一印象はエムリットに似た物を覚えたが、性格は活発なエムリットとは違い物静かで感情を表に出さない感じか。
青い髪はクールさの表れか、メイド服でも着ていれば様になりそうだな。
アグノム
「……メイド服が好み?」
茂
「なっ!?」
ギラティナ
「こら、お客人の心を読まない」
アグノムは意思ポケモン、感情に強く左右されるエムリットとは違い、彼女が左右されるのは意思力。
そのためなのか、読心能力があるらしいな。
茂
(やれやれ、余計なことは考えられんか)
俺は黙って紅茶を頂くことにした。
ギラティナ
「意外と軽率だね、毒入りとか考えないの?」
茂
「ここで毒入りならお前の策士っぷりを評価するわ」
何か理由がない限りギラティナに俺が勝つ方法はない。
つまり俺をさっさと始末したいなら、今頃のんびりティータイムにする必要はないんだよな。
そしてそれはエムリットの行動でもなんとなく分かった。
こいつらは俺を憎いとか殺したいっては思ってない。
多分、試しているんだろうな。
ギラティナ
「この紅茶を嗜みながら、少し昔話でもしようか……」
俺はギラティナと小さなテーブルを挟んで、対話する。
その傍ら、俺は時の結晶と謎の琥珀石を握りこんで、皆の心配をした。
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第31話 ファイナルミッション 完
第32話に続く。