突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第30話 神様

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第30話 神様


正午、私の前にパルキアは現れた。

永遠
 「時間通り……相変わらず真面目な子ね」

パルキア
 「……受けてくれてありがとう。常葉茂は君なくては護れない、逆を言うとこれが最も最短距離だからね」

昨日パルキアと出会った場所、戦うには狭いビルの屋上だけど彼女は空間を弄くり、無限の地平線をその場に広げた。

永遠
 「隠れる場所もなし、逃げ場もなし、正に完全決着式には丁度良いわね」

私は地面を足で叩くと、コンクリートの質感ではない事に気がつく。
成る程、実際には全く別の空間を現実世界に似せて上書きしたわけか。

パルキア
 「君はボクの全てだ……だから何があってもボクだけは君を!」

永遠
 「あのね? 自分の心配しなさいよ? これに失敗したらアンタ、アルセウスに……」

そこで、パルキアは気配を変えた。
私は口をつぐみ、ただ両手を組んで構える。

パルキア
 「後悔はしたくないから……いくよ!」

パルキアが両手を振るう。
その瞬間私の周りで空間の小爆発が起きる。
それも一つや二つじゃないわね……100発はあるかしら?
だけど私は微動だにしない。

永遠
 「無駄無駄ぁ……知るがいい、時間を司るとは世界を支配することだと言うことを!」

パルキア
 「相変わらず悪役が似合うね」

パルキアが苦笑する。
パルキアからすれば牽制といった所だろう。
私の周囲は時の流れが違う、言ってみれば時の障壁が小爆発を受け止めたのだ。

永遠
 「時よ!」

私は今度は反撃をさせてもらう。
周囲の時を鈍化させると、ラスターカノンでパルキアの正面を貫く。

永遠
 「掛かったわね!」

更に私はパルキアの周囲六方向からラスターカノンでパルキアを貫いた!
しかしパルキアもそこは流石空間の神、時間を正常化させると何事もなかったようにその場に立っている。

パルキア
 「悪いけど、そういう賢しい手には乗らないよ」

パルキアは恐らく別の空間に退避したのだろう、攻撃したのは虚像だ。
改めてお互いの攻撃が全く通じない!

永遠
 「……だから嫌なのよね、絶対泥仕合確定だもの」

パルキア
 「王やアルセウスはボクたちを一方が有利になるようには創っていない、元からこの展開は読んでいたよ」

永遠
 「……?」

パルキアの態度、何か妙じゃないか私は疑問符を立てる。
本当に些細な違和感だけど、この子は本当に勝つ気があるのか?

パルキア
 「はぁ!」

永遠
 「く……考えてる場合じゃないわね!」

パルキアの猛攻は続く、空間を切り裂く無数の斬撃、私は時間を鈍化させて、それを正確に捌く、それと同時に龍の波動をパルキアに放つも、猪口才に空間を飛び回り的を絞らせない。

永遠
 (本気で決着がつく気がしないわね)

お互い防御性能が高すぎることが原因だけど、時を加速させようが鈍化させようが彼女には通じないし、彼女の攻撃も遅すぎて当たらない。
終わらないのが終わりみたいになってきたわね。
どっちが勝つかと言うより、どっちが負けるかが焦点かしら。

永遠
 「かなり危険だけど!」

私はパルキアの前まで踏み込む、神速の踏み込みにパルキアが反応しきれない。
私はパルキアの顎に拳を当てて打ち上げる!
俗に言うタイガーアパカッ!
虚を突かれたパルキアの身体が跳ね上がる。
しかし私もパルキアに後ろから攻撃を受けていた。

永遠
 (この!? 見えない攻撃を仕込んでたわけ!?)

ここがパルキアが生み出した空間である以上、チート行為も思うがままだ。

パルキアは口から血を吐き、私は片膝をつく。

パルキア
 「らしくないね、相打ち覚悟なんて」

永遠
 「付き合ってらんないのよ……アンタとの戦いは!」

ダメージは互角……いや、少し私有利かしら?
なんだかんだでパルキアの頭部を捉えた、あの反撃がなければ意識を奪えたはず。

パルキア
 「空間の神と時間の神がぶつかれば、あらゆる能力が無意味になる」

永遠
 「どこの○想転生よっ!」

しかしまぁ言い得て妙よね。
結局子供染みた殴り合いでしか早期解決は望めない。

永遠
 「なんか嫌な予感もするしね……いいわ、さっさとアンタ倒して茂君と楽しいランチにするんだから!」

パルキア
 「……ふ」

永遠
 「笑った? 何がおかしいのよ!?」

パルキア
 「なんでもない……よ!」

パルキアが空間を跳躍する。
それは全周囲から無数の拳打を呼び、私は防戦一方ながらそれを冷静に捌いた。
顔を出したら、そこに一撃ぶち込む。
私は確固たる意思で、パルキアの攻撃を耐え忍ぶ。

パルキア
 「はぁ!」

パルキアが私の斜め後ろから姿を現す!
私は咄嗟に対空攻撃を合わせるが、瞬時にそれがやばいと理解した。
中〜遠距離戦ならお互いの攻撃はまず当たらない。
だから私は時の咆哮のような大技は使わなかった。
それは彼女も一緒のはず、だったが……!

パルキア
 「あくう、せつだん!」

亜空切断、パルキアの必殺技。
右手に超圧縮された空間エネルギーが、私の目の前を切り裂いた。

私は咄嗟に身を引いて回避するが、目の前の空間は切り裂かれ溶けたチーズのようになってしまう。
結界がぐらつく……もう一撃加えればこの空間そのものが崩壊するだろう。
パルキア決死の一撃に私は冷や汗を流した。

パルキア
 「流石に容易くは当たらないか」

永遠
 「当たったら死んでたかもね」

パルキア
 「大丈夫、君は死なないよ」

パルキアはニコリと笑うが、あの一撃は私の時の障壁では防ぎきれない。
多分ダメージの回復に全能力を使わないと間に合わないだろう。
つまり喰らったら負けか。

パルキア
 「波動弾っ!」

永遠
 「ち! 龍の波動!」

お互いの攻撃が相殺しあう。
この戦い、想定通りの熾烈さであると言えよう。
お互いの攻撃が相殺し、爆風の最中その中央で私たちは拳を交える。
ただのシンプルな殴り合い、ここで一方が真面目に格闘技を習得していたら結果も違ったのだろうが、所詮は素人の殴り合い、お互いの拳がクリーンヒットする。

永遠
 「かは……この!」

パルキア
 「く……やぁぁ!」

クロスカウンター、お互いの右ストレートが顔面を捉えた。
お互い顔面を真っ赤に染めて、地面に倒れる。
PKMって半分は人間だから原種ほど頑丈じゃないんだよね……。
特に私の鋼要素なんて割と飾りだし。

パルキア
 「はぁ、はぁ……!」

パルキアも肩で息している。
当然か、体格が小さい分私よりスタミナがない。
まぁ私もダメージで運動能力が低下してるんだけど。

パルキア
 「ま、負けない……!」

パルキアが息を切らしながらも立ち上がる。
私も負けじと立ち上がろうとするが、上がらない!?

永遠
 (やば……!?)

私の方が大きい分体重が重いからか、同じダメージでも身体が重く感じる。
先に立ち上がったパルキアが右手を振り上げる。
亜空切断、あの必殺技で決めるつもりだ!

永遠
 (動け動け動け!)

私は必死に身体に指令を送るも動けない。
お互いの技に私たちは回復封じを持っている。
これにより、お互いのチート回復能力は封じられておりそれがここで効いてきた。
私は時間を鈍化させようが加速させようが動けない身体ではパルキアの動きを目に刻むことしか出来ない。

永遠
 (負けるの……? 茂君も護れずに?)

パルキア
 「あ」

パルキアの口が動く。

パルキア
 「く」

永遠
 (動け!)

パルキア
 「う」

永遠
 (負けたくない!)

パルキア
 「せ」

永遠
 (茂君を護るんだ!)

パルキア
 「つ」

何故これだけ願っても想っても、現実はなにも応えないのか。
すでに限界に近い肉体は、神々の戦いには脆弱。
着々と迫る絶望に、私はどうしようもなかった。

パルキア
 「だ」

私は目を瞑る。
それは怯えかもしれない。
ただ刻一刻と迫る死期を怖れるように。

パルキア
 「ん!」

パルキアの亜空切断が私を切り裂く。
その技の本質はあらゆる次元を等しく切り裂く刃。
私の時の力さえ彼女には無意味。

永遠
 (ごめん……茂君……)

その時だった。


 『永遠! wake up the hero! 立ち上がれー!』

永遠
 「!」

その瞬間、私は歯を食いしばった!
時間は正常に作動し、勝利を確信したパルキアを目の前に見る。

パルキア
 「やった……?」

永遠
 「アアアアアアアアア!」

私は吼える。
歯を食いしばり、亜空切断を耐えた私はその至近距離で時の咆哮を放つ!

パルキア
 「そんなっ!?」

絶対にあり得ないそのタイミングでの反撃に、パルキアは無防備だった。
亜空切断で弱った結界に時の爆縮が時空崩壊を起こし、パルキアの結界は崩壊した。

風が吹く……冷たい北風が私の頬を撫でた。

永遠
 (勝ったのかな……? それとも相打ち?)

依然私の身体は動かない。
だが次第に回復封じの効果が薄まると、私は呼吸毎に身体能力を活性化させていく。
時の力で自然治癒をブーストさせ、短時間で復帰した。
私は未だ復帰しないパルキアの胸ぐらを掴む。
時の咆哮を直に受けた代償は、パルキアをここまで弱らせてしまった。

永遠
 「パルキア! しっかりなさい! 死ぬなんて許さないんだから!」

パルキア
 「う……はは? 負けたんだね……ボク」

永遠
 「そうよ、アンタの負け」

あの時、何故茂君の声が聞こえたのか。
あの声がなければ私は耐えられなかった。
正に奇跡の勝利だった。

パルキア
 「君に一つ謝りたい……」

永遠
 「は? 何よ突然」

パルキア
 「ある組織に協力を申し出された……常葉茂を殺す役目を……!」

永遠
 「っ!?」

その時、私は茂君のいるオフィスを見るが、そこに茂君の姿がない。
私はその意味を今理解した。
パルキアは決死の覚悟とはなにか違うように感じ、薄々違和感には気が付いていた。
つまり自分は陽動だったんだ。

パルキア
 「ボクは何があっても君に生きて欲しかった……だから……!」

永遠
 「この!」

私は手を上げる。
この怒りを彼女にぶつけるために。
だけど、その手は突然見たこともない程真っ白な細い腕に抑えられた。


 「あら、いけない」

それは、本来そこに存在してはいけないポケモンだった。

パルキア
 「ギラ……ティナ?」

ギラティナ、私たち三姉妹の末女。
彼女は神の序列には含まれない。
アルセウスによって直々に封印され、本来ならこの世界にいては良い存在じゃない。
それが、怪しげに笑いながらパルキアを後ろから抱擁する。

ギラティナ
 「駄目よ、姉妹仲良く、でしょ?」

ギラティナの赤い瞳は魔性だ。
それが私を見捉えると、彼女は再び微笑んだ。

ギラティナ
 「ディアルガお姉ちゃん、この戦いは私が引き取るわ」

そう言って彼女は超常の世界へとパルキアを引きずり込む!

永遠
 「パルキア!」

ギラティナ
 「あはは♪ アリーヴェデルチ!」

ボロボロのパルキアをギラティナはいとも容易く己の封印されし世界に引きずり込んだ。
私が手を差し伸べるには遅く、パルキアへと伸ばした手が虚空を切る。

永遠
 「ギラティナ……アイツまで現れるなんて……!」

元々は神の序列として生み出されたギラティナは私たちとは三つ子だった。
長女の私、次女のパルキア、三女のギラティナ。
ギラティナとは生まれて直ぐに引き離され、彼女が神の番外になったことは後で知った。
彼女の封鎖世界はアルセウスが掛けた厳重な封印でだれも入った事は無い。
当然中で彼女がどんな生活をしていたのか、一体何が起きているのか私には分からない。
だけど、私は拳を握った。
ある組織がパルキアに協力を申し出た。
そして、組織が茂君の殺害を代行する。
組織とギラティナ……それを結びつけるのは不自然だろうか?
そして、スリーパーの言っていた神様。

永遠
 「ギラティナ……まさかアンタが神様なの?」



***



前略、お母さんお元気ですか?
俺は愉快な家族たちと一緒に今日も頑張ってます。
頑張ってると言えば、最近家族が増えました。
いつか紹介したいと思います。
まぁそれはそうとお母さん……今絶賛大ピンチです。

テロリスト
 「てめぇら動くなぁ!」


 (おいおい……いつからここはテロリストの潜伏する無法地帯になったんだよ)

突然オフィスに突入してきたのは中東風の布で顔を覆った集団だった。
見えている限りで7名、全員が改造カスタム銃を所持している。
こんな集団がどうやってここまできたのか謎だが、それよりも大ピンチなのは。

テロリスト
 「そこの死んだ魚のような目の男! お前だ! こい!」


 (なんでよりにもよって俺な訳!?)

普通人質ならか弱い女性が定番だろうに!
なんて言えるわけもないが、テロリストは俺の後ろから銃に頭を突きつけると、随分手早く俺の両腕を縛ってきやがる。
あまりにも手際が良い……つーか、ここで確信した。
こいつら初めから俺狙いだわ。
多分家で狙うより、オフィスで狙う方が安全と判断しやがったな!?

テロリスト
 「てめぇら! 死にたくなければ頭を下げな! ヒャッハ−!」

銃弾がばらまかれる正午のオフィス。
俺は時の結晶にエマージェンシーを伝えるも、永遠は助けに来てくれない。
アイツなんのためのガードだよ!
と心の中で突っ込むも、状況展開は早く、オフィスを出る前に俺は黒い袋に包まれてしまう。
所謂典型的な人質だよな……俺。
まぁ相手の狙いはなんとなく予想は付いているんだが。

俺は俵か何かみたいに乱暴に抱えられると、痛みに耐えながら状況判断をする。
分かっていることは、抵抗しなきゃこいつらは何もしない。
あの組織は俺を使ってゲートを支配したいらしいからな。


 「ご苦労」


 (女の声?)

聞き馴染みのない声だった。
強いて言うとルザミーネさんを思い出すが違う。
ルザミーネさんは11月のあの日以来姿を消した。
管理人に聞くと、すでに契約を解除していたらしく引っ越したのかもしれないが……普通に死んでいる可能性も否定できないよな。

女の声
 「御免なさいね、色男……もう少し辛抱して頂戴」


 (色男って俺のことか?)

俺の体が誰かに引き渡されると、急に痛みがなくなった。
と言うか、車の後部座席だろうか? 何も見えないため分からないが車のエンジン音が震動になって伝わる。
これが電気自動車なら音も震動もないから、意味不明だったろうな。


 (それにしてもバケツリレー方式で俺を誘拐っすか)

あのテロリストたちは今頃変装を終えて、すでに街中に消えているのだろうな。
そして俺はこの後もバケツになってリレーされ続けるのか。


 「おーい、お前はあの組織の関係者な訳?」

俺は幸い口は塞がれて無かったので、声を出した。
予想外だったろうなのは、女性の方だろうな。

女性
 「あら? 剛毅ね、今の状況分かってると思っていたけど」


 「やっぱり初めから俺狙いか」

女性
 「すでに一度狙われているから? 余裕ね?」


 「まぁね、俺を殺せない理由ってのがあるみたいだからな」

フフッと女性が笑う。
なんとなくだが、やっぱりルザミーネさんに似ているかも。

女性
 「私の名前はヒガナ、まぁ数ある偽名の一つだけどね」


 「偽名かよ……それで、組織はなんでしょうか? フリーメイソン? それとも300人委員会? 黄金の夜明け? 鷲の翼かな?」

ヒガナ
 「ご想像にお任せするわ」

……当たっている、つまりそういうことかね?
あの組織……壊滅させた訳じゃないとはいえ、どんだけしつこいのよ。
いや、ある意味それだけ俺の価値があるってことなんだろうな。
実際に価値があるのは俺じゃなくて茜だと思うが、まぁ相手からは分からんわな。
そして相手がまだ分かっていないのは時の結晶だろう。
俺は今もエマージェンシーを送ってるが、相変わらず応答してくれない所見ると、間違いなくパルキアと戦っているのだろう。
俺は永遠の心配をするが、永遠を信じている。
永遠ならきっと勝つだろう、それを信じるのも名の呪縛を与えた俺の役目だと思う。

ヒガナ
 「さぁて、そろそろお別れかな?」


 「え? 次のリレー?」

クスクス、女性の笑い声が聞こえてきた。
やっぱりかなり滑稽なのかな?

ヒガナ
 「貴方の前向きさ、嫌いじゃないわ……運命とやらに抗いなさい」

……なんとなくだが、この人敵って感じがしないな。
もしかして組織の犬とは少し違うんだろうか?
車が不意に止まる。
つまり積荷の輸送であろう。
再び俺は大柄な男と思しき腕に抱えられて、ドサッと放り投げれた。


 「痛ぇ……これだから男は乱暴」


 「うふふ、貴方も男でしょ?」


 「女の声?」

ヒガナとは違う女の声。
不意に黒い袋から俺は出された。
キョロキョロ周囲を伺うと、ジェラルミンか何かで覆われたトラックの荷台のようだった。
俺の目の前には一人の少女が座っている。

少女
 「はじめまして、エムリットのPKMよ」


 「エムリット……準伝かよ」

俺は驚いた、目の前にいる小さな少女はエムリットだと言ったのだ。
黄色い瞳、ピンクの髪がふわりと左右に延びている。
額と二本枝分かれした尻尾の先には赤い宝石のようなものもある。
まず間違いなくエムリットで合っているのだろう。

俺は両手両足を縛られた状態だが、エムリット相手に油断は出来ない。

エムリット
 「とりあえず君にはスリーパーが世話になったね」


 「は? スリーパーだと?」

エムリット
 「スリーパーの奴、私の力を借りただけの癖に傲慢だったでしょ? 挙げ句べらべら余計な事喋るんだから」

俺はその言葉に嫌な予感が当てはまっていく。
スリーパーの言う神様、神々の黄昏を待つ者は天界にいるとは限らない。


 「お前が……神様、なのか?」

エムリット
 「イエース、アイ ドゥ!」

エムリットは余程活発な性格なのか、イントネーションの雑な英語でそうだと言っている。
こいつが……こんな小さな子があの大虐殺を目論んだと?

エムリット
 「あー、そういう悪意ってちょっと辛いんだよね〜」

エムリットは困ったように首を傾げる。
そう言えばエムリットは感情ポケモン。
感情に敏感で、それ故に感情に影響されやすいという。


 「分からねぇ……なんであんな大虐殺を目論むんだ」

エムリット
 「え? 何の事?」

エムリットは本当に分からないという風に俺の顔を覗き込む。
妙に大きな瞳が、俺の目の前まで迫った。


 「お前はまだ知らないかもしれないが……戦争では関東の住民1000万人が死んだんだぞ……それだけじゃないPKMだって大勢……!」

エムリット
 「あー、そういう可能性世界線? まぁでもさぁ、それは運命って奴じゃない?」

駄目だ……エムリットはその大きな意味を全く理解していない!
コイツは1000万人の怨嗟の感情に耐えられるのか?
俺一人の悪意にさえ敏感に感じる奴が、その意味を分かっているのか?


 (しかし分からん……組織と戦争は全く線では繋がっていなかった筈だ)

俺が組織に囚われる中、脱出できたのは戦争があったからだ。
つまり戦争がなければ、組織はずっと俺を幽閉し続けたろう。
それがどうして、戦争を起こそうとした黒幕と一緒になってる?
世界線が変わった事で、関係に変化が現れた……と言う事か?

エムリット
 「一つ勘違いしないで欲しいのは、神々の黄昏を前提に生贄なんて必要ないってこと、それでも犠牲が出るのは運命だよ」


 「分からねぇ! 茜を苦しめてまで神々の黄昏を起こすのはなんでだ!?」

エムリット
 「叫ばないで! ……痛みばかりに泣いて、本当の意味を理解してないよ……」


 「本当の意味……だと!?」

その時だった、ベコン! ベコンと天井が凹みはじめた。

エムリット
 「あ〜、まぁエサ撒いたんだから来るのは想定内だけど、これPKMが暴れてもへっちゃらな対PKM護送車なんだけどなぁ」

エムリットもその光景に思わず苦笑い。
そして一番デカい音を響かせて、天井に穴が空くと光が俺を照らした。


 「とあー! ○イダーキック!」

穴から飛び込んだのはこれまた小さな幼女だった。
大きな目、頭から生えた水玉のような触覚、そこから祭儀服のような物を着た小さな少女がエムリットに蹴りを放つ。

エムリット
 「とりあえず聞いてあげる! 誰だ!?」

幼女
 「ふ……天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ……ウチの名は……!」

ジラーチ
 「マナフィ、先にお兄ちゃんを確保」

天井から顔を見せたのは見覚えのあるジラーチだった。
マナフィはビシッと敬礼をすると俺の拘束を解いていく。


 「お前、あの時のやさぐれたジラーチだよな?」

ジラーチ
 「アンタ……会っていきなりそれか−!」

どうやら地雷を踏んだらしく、ジラーチがいきなり襲ってくる!
ジラーチは容赦なく俺の頭に噛みついてきた。


 「いだだだ!? 落ち着いてくださいジラーチさん!? ちょっと言葉が過ぎましたけどこれは如何な物です!?」

ジラーチ
 「茂〜! 心配したんだからー!」

俺はジラーチを引き剥がすと立ち上がった。
俺の半分くらいの身長の幼女たちが対立するのは非常にシュールだな。

エムリット
 「いや〜、予想以上の大物が釣れちゃったかも」

マナフィ
 「ふふふ! ウチは正義の味方や! せやから悪い子はいてこますでぇ!」


 「関西弁?」

PKMなのに関西弁、非常にシュールだ。
つーか、なんで異世界に関西弁が存在するんだよってのが野暮か。
俺って世界の補正で知らない言語は自動的に標準語になるんだが、そういう意味ではコイツは普通に関西弁使ってるのか?

ジラーチ
 「あっちはマナフィに任せるとして茂、永遠が大ピンチなの……力を貸すから貴方の声を届けて」

ジラーチは俺の両手を握ると時の結晶が輝き出す。
永遠がピンチだと……?
俺は時の結晶に意識を集中すると、永遠の姿が見えた気がした。


 「永遠! wake up the hero 立ち上がれ−!」

マナフィ
 「○ボルゲイーン!」

エムリット
 「捏造技は駄目なのです!」

俺の声は永遠に届いただろうか?
意識をマナフィたちに向けると、相変わらず幼女が戯れているようにしか見えない。

ジラーチ
 「さて……それじゃそろそろ、車を止める!」

ジラーチは容赦なくドライバー席をぶん殴る。
コメットパンチだろうか、特徴的な金属音で壁が凹んだ。
その直後車は蛇行運転を行い、衝撃と共に止まる。

エムリット
 「あっちゃ〜! まぁいいか、お母さんの方が成功してたら無理に茂君はいらないし」

エムリットは浮遊すると、天井の穴から空へと消えていった。
衝撃で開いたトラックの荷台側の扉から外を見ると、山道を走っていたようだ。

とりあえず俺は一息つく。
なんかやばかったが、結果的には幼女たちに助けられたのか。
しかし、エムリットは俺に執着をしていなかった。
複数のプランの中で一つだけが成功すればいい、そういう事だろうか?

マナフィ
 「んふふ〜、アンタが噂の茂君かぁ〜♪」

マナフィは俺の腰の抱きつくとニコニコしていた。
なんか、特別子供っぽいっていうか、特撮好きの男の子みたいだな。

マナフィ
 「ねぇ茂君! ウチとセックスして!」


 「ぶっ!?」

マナフィは目をキラキラさせると、俺のズボンのファスナーに手をかけた!
この子、俺の精子が狙いか!?

マナフィ
 「いや〜、ウチってオスかメスか分からんやん? せやから相手はいつもメタモンやん? ウチ! 折角女性器あるんやし試したい!」


 「君言ってることが色々アウト−!」

ジラーチ
 「はぁ……止めておきなさい、茂のは大きすぎてマナフィの股が裂けちゃうわ」


 「ちょ!? ジラーチさんなんで俺の大きさ知ってるの!?」

マナフィ
 「何それ!? 凄い楽しみ!」

マナフィは更に目を輝かせて、俺のファスナーを下ろしに掛かるが、俺は全力で阻止する。
そのうち呆れたジラーチが、マナフィの頭を叩いた。

ジラーチ
 「おい淫乱ポケモン、アンタがスペシャルで呼ばれなかった理由はソレだぞ」

マナフィ
 「いや〜、ウチにも孤独要素あるさかい……共通点はあったんやけどなぁ〜」


 (何言ってんだこいつら?)

マナフィは底なしの明るさで頭に瘤を作りながらも笑っていた。
兎に角明るい、その明るさには何か暗い影でもあるのか。
俺の精子を狙う理由は本当に淫乱だからなのか?
というか、茜でも十分アウトなのにそれ以上のロリ相手は絵面的にやばすぎる!


 「それにしても何故このタイミングで狙われたのか」

ジラーチ
 「さぁね……ただ分かるのはこれは挑発よ」

マナフィ
 「う!? ハートスワップが使えなくなるやつか!」

ジラーチは不機嫌さを顕わにするが無視して話す。

ジラーチ
 「神々の黄昏……そのために重要なキーだと茂は指定されてるみたい」


 「茜じゃなくて俺なのか?」

神々の黄昏、それは王のための儀式だとスリーパーは言った。
俺は未だにその言葉の意味が分からないが、エムリットは本当の意味があるという。
やはり終局的には茜が中心にあるはずだが……まるで茜に試練を与えてるかのようだ。

やがて、しばらくその場で呆然としていると永遠が飛んできた。

永遠
 「茂君! 御免なさい! 遅れた!」


 「お陰で昼飯食いそびれたぞ」

永遠
 「それ! 私も!」

お互い腹ぺこなのか、どっちともつかず腹の音が鳴った。
拉致られた際、スマホも会社に置いてきたし、助けも呼べないから途方に暮れてたが、やっと帰れるか。
だが、ジラーチは永遠の前に出るとあることを追求した。

ジラーチ
 「パルキアはどうしたの?」

永遠はそれを聞くと暗い顔をした。
それは最悪の結果を意味しているのか?

永遠
 「ギラティナが現れて……連れ去ったの」


 「ギラティナだと!?」

俺はその時エムリットの言葉を思い出した。
お母さんの方が成功してたら無理に茂君はいらない……。


 (お母さんってまさかギラティナか!?)

だとすると何故パルキアを攫った?
奴らはパルキアと俺を天秤にかけた訳だ。

永遠
 「……とりあえず帰ろう?」

永遠は心配そうに俺を手を掴んだ。
確かに、とりあえず帰らないとな。
俺はジラーチたちを見る。


 「ジラーチ、お前も来るか?」

ジラーチ
 「……折角だけど遠慮するわ、私たちも仲間と合流する必要があるし」

マナフィ
 「えー、ご招待上がりたかったわー」

マナフィは招待されたいようだが、ジラーチはマナフィの腕を掴むと行くぞと促す。


 「ジラーチ! 2回も助けてくれてありがとうな!」

俺はなるべく笑顔でそう言うと、ジラーチは頬を真っ赤に染めた。
そのまま照れを隠すように後ろを向くと、ぼそっと呟いた。

ジラーチ
 「と、当然のことをしたまでよ」

永遠
 「それじゃ、行くよ」

永遠は俺と共にあの街へと帰る。
神様の正体、そしてギラティナ。
僅かだが……俺はこの戦いのエンディングが近い……そんな気がした。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第30話 神様 完

第31話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/30(木) 15:38 )