突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第29話 新しい家族

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第29話 新しい家族



 「……ん?」

俺は目を覚ますと、まず見えたのは明るい天井だった。
次に俺は自分の状態を確認する。
とりあえず暖かいな……何故かと思えば毛布に包まれていたからだ。
よくよく状況を見回すと、そこは自分の部屋だと気が付いた。


 「……身体に異常はなさそうだな」

俺はパルキアに襲われて殺されかけた。
だが、ジラーチと永遠が助けてくれた事を思い出す。
しかし大泣きして謝る永遠を最後に記憶がない。


 「死に戻りしたわけじゃ、ないみたいだな」

俺はゆっくりと腰を上げると、ベッドから降りる。
そして部屋の扉を開けてリビングに出ると。


 「! ご主人様、大丈夫?」

扉の音に真っ先に気が付いた茜は俺に駆け寄ると、心配そうに抱きついてきた。


 「とりあえずはな」

俺は茜の頭を撫でて、周囲を伺うとキッチンに皆集まっているようだ。
その中には永遠の姿もあった。

永遠
 「あ、茂君……」

永遠は俺を見ると、とてもバツの悪そうな顔をした。
もしかしてまだ俺のことで責任感じてんのか?


 「永遠、ありがとうな家まで運んでくれて。治療したのも永遠だろ?」

パルキアの奴は内蔵破壊をしてきやがった。
恐らく助からないダメージだったと思うが、こうも何事もないと普通の治療ではないことが俺でも分かる。
とすれば、治療法から推察して永遠がやったとしか思えない。

保美香
 「だんな様、この子に粗方の事情は聞きましたわ」

美柑
 「まさか、主殿の命を狙ってくるなど……!」

美柑は怒りを顕わにすると拳を握り締める。
他の皆も俺を心配する者、憤慨する者と様々だ。


 「永遠、パルキアは俺が死ねばお前の罪が雪がれると言っていたぞ、ありゃどういうことだ?」

永遠
 「神堕ち……私たち神様がそれをすることを禁忌としているの、そして神堕ちの条件が名を貰うこと」


 「名の契約、て所か」

永遠は深刻な顔で頷く。
名前が与える拘束力はこれまで散々目にしてきた。
もう永遠はその名前の呪いに囚われているという事か。

永遠
 「でも名の呪縛は名付け親が死ねば、解除されるの……パルキアはそれを知って、貴方に襲いかかったの……」


 「俺が死ねば、永遠って名前に意味が無くなる訳か……だが、わからんのは何故それだけで、パルキアはあそこまで必死になれる?」

永遠
 「異端者……私はもう異端者って言ってね、神様の世界では存在してはならないの。だからパルキアは私の異端者という証を取り消すために、馬鹿をやったのよ」

異端者……俺にはそれがどういう意味を持つかは測りかねるが、永遠の深刻な顔からは、それだけやばいという事が窺い知れる。


 「神の世界に帰ったら、どうなるんだ?」

永遠
 「多分アルセウスに存在を消される。その上で新しいディアルガを生み出すだろうね」

消される……か。
永遠はもはやどうして良いのか分からないという風に首を振った。
ようするに永遠も俺たちと同じようにノーフューチャーって訳か。


 「もう一度確認するが、俺が死ねばお前が助かるんだな?」

俺の言葉に、皆が立ち上がる。
俺は手を前に突き出して、皆を制止させると。


 「勘違いするなよ、自殺とかむざむざ殺される気はねぇよ」


 「茂さん……頼むから御自愛を」

伊吹
 「茂君だと〜、何をするか時々分からないからねぇ〜」

保美香
 「ですがだんな様の一連の不可解な行動がやっと合点いきました。まさかディアルガが関与していたとはですわ」


 「皆悪いな、永遠に口止めされてたんだ。まぁでもそれももう終わりだから改めて紹介するぜ。我が家の新しい家族、永遠だ」

永遠
 「家族? 私が?」

永遠は驚いたように自分を指差した。
俺は改めて皆の顔を見渡す。


 「お前たち、家族の危機ってのはどう解決する?」

華凛
 「家族一丸になって、だろう?」

華凛は笑みを浮かべながら腕を組んで、胸を持ち上げる。
俺は微笑を浮かべながら頷いた。


 「そうだ! 永遠はもう俺たちの家族! ならそれを護るのが俺たちだ!」

保美香
 「しかし神が相手ですか」

華凛
 「この私に誰一人臆さず挑んだのはどこのどいつだ? 今更神がなんだ、なら神さえも倒すまで」


 「ああ、相手が強大だから退く等ありえん。ましてそれが家族の命ならな……!」


 「永遠……ここはもう貴方の家、だから遠慮することはない」

永遠
 「茜様……っ」

永遠はその言葉に泣き出してしまう。
茜もまぁ、自分がそのナンバー1だってのに、よくまぁおくびにも出さず、永遠を受け入れたもんだ。


 「部屋に空きってあったっけ?」

保美香
 「残念ながら満杯ですわ」


 「ま、仕方ないわな……永遠は俺の部屋使え、俺はリビングで寝る」

永遠
 「そんな! 私こそリビングで良いよ!」


 「子供が遠慮すんな。俺はリビングで寝るのに慣れてるから大丈夫だよ」

一人っきりだった頃は、面倒くさくてベッドを使わない事も多かった。
茜が来てからはベッドは茜に使わせていたし、特段困るほどでもない。

保美香
 「うふふ……ここはだんな様の部屋を誰かが一緒に使えば良いのですわ……!」

突然保美香は怪しげな笑みを浮かべて提案する。


 「二段ベッド買えば、確かにいけるか」

俺の部屋は書斎用だから、皆の部屋より狭い。
流石にベッドを2つ入れると、クローゼットが開けられなくなるから、ここは二段ベッドが妥当だろう。

保美香
 「ただし! ここは公平を期すためくじ引きで部屋割りを変えますわよ!」

ダンッ! 大きな音を立てて保美香は内側の見えない筒を置いた。
筒には合わせて7本の棒が入っている。

保美香
 「この中に先端の赤い棒が一本あります、それを引いた者がだんな様の部屋の使用権を得る、そして引いた物と入れ替わるように永遠にはその部屋に入って貰いますわ」

華凛
 「成る程面白い……! 私はこう見えても強運だ」


 「お前の特性はプレッシャーだろ」


 「………」

伊吹
 「寧ろ本物の強運は茜ちゃんだよね」

美柑
 「兎にも角にも、これなら皆納得もいくでしょう」

永遠
 「うん……いざ、尋常に!」

全員(俺以外)が棒を掴む。
そして全員が一斉に引くと、先端が赤かったのは!


 「私……」

美柑
 「ですよねー」

保美香
 「く……やはり運命には勝てないのか!」

なんて言うか、本当に茜はどうでもいいところで強運発揮するよな。
神々の王だから下々とは違うって事なのか、正しく神の恩恵だろうな。


 「ベッドは明日にでも見てくるとして、模様替えも明日にしてしまおう」

保美香
 「そうですわね、今からですと日付が変わってしまいますわ」

おっと、そう言えば時間を見ていなかった。
よく見ると既に10時だ。
と言うことは4時間は眠っていたのか?


 「むぅ……そう言えば晩飯は?」

俺は忘れた頃に自分が空腹だったことを思い出す。
保美香は一度立ち上がると、台所へと向かう。

保美香
 「ちゃんと御座いますわ、少しお待ちを」

そう言って台所で用意する音がすると、暫くして良い匂いがする。
味噌汁の匂い……と言うことは今日は和食か。


 「そう言えば、永遠……俺を助けてくれたジラーチは?」

永遠
 「あの子なら直ぐに何処かへとテレポートしてしまったわ」

そうか、かなり柄の悪いジラーチだったが、一応礼をすべきと思ったんだがな。
まぁでも助けてくれたって事は、なにか俺たちのことを知っているのかも。
そうなると、多分何処かで再会するだろう。



***



ガコン!

雪の降る寒い夜。
自動販売機から熱々の缶が出てくると私はそれを手に取った。

ジラーチ
 「ホッと一息丸ごとコーンポタージュ」

マギアナ
 「本当に好きですねー」

そう言って私の缶を見たのはマギアナだ。
マギアナはお汁粉缶を買っていた。
私は気にせず、プルタブを開けるとそれを飲む。
身体が温まるが、味は少し微妙。

ジラーチ
 「お兄ちゃんにもう一度コーンポタージュ作って欲しいなぁ」

私は初めてコーンポタージュを飲んだときの気持ちを思い出す。
最初はイメージカラーと合った事と、ちょっとした都市伝説で気に入っただけだ。
それから色んな世界を巡ってきたけど、あの味には出会えなかった。
それでも、まさかこの世界にやってこられるとは思っていなかった。

マギアナ
 「やはり封印は既に機能してないんでしょうか?」

ジラーチ
 「それならお兄ちゃんが記憶を取り戻すはずよ、それがないって事はイレギュラーでしょうね」

しかし神々の王やアルセウスの意図が分からないわね。
神々の王には元々会ったことないけれど、イーブイに転生してまで何をしたいのかしら?
今の王にははっきり言って力はない。
元から何考えているのか意味不明だったけど、今は今で別の意味で分からないわ。
でも、純粋に茂お兄ちゃんを想っている事は私にも分かる。
後の問題はアルセウス。
実力的にはナンバー2だけど、実際に神々を纏めて動かしているのは間違いなくアイツだ。
性格は計算高い皮肉屋、少々不可解な奴だけど、仕事は実直真面目だと聞く。
しかし何故ディアルガをここまで放置しておいて、いきなりパルキアを嗾けた?
しかし下手をすれば王の逆鱗に触れかねない危険な方法だ。
そして、私たちを封印指定した直々の本人がここに来て、封印を弱めたって事。

マギアナ
 「フーパさんは全て知っているのでしょうか?」

ジラーチ
 「恐らく全てとはいかないでしょうね……とはいえ、フーパはまだこっちに来れないみたいだし、当面はこっちの生活を満喫するしかないわね」

マギアナ
 「フーパさんが、こっちに用意していた別荘を使って良いとのことです、そちらに参りましょう」

私たちは夜の街を進む。
この雪は明日まで降るのかしら?
私はどっちかというと夏のポケモンだから、寒いのは好きじゃないんだけど。



***




 「ねぇ……ご主人様」


 「なんだ?」

夜、俺に部屋のベッドを使う茜は真っ暗な部屋で俺に話しかけてきた。
俺は床に敷いた布団に横たわりながら返事をする。


 「今まで永遠と一緒に戦っていたのよね」


 「まぁ、そうだな」

ここまで来るのには本当に苦労した。
訳の分かんない組織に掠われて、戦争は起きるし、神々が降臨して世界が終わる……無茶苦茶ったらありゃしない。
それでもちょっとずつ世界線を動かし、もう少しで茜が安心して暮らせる世界に辿り着くはずだ。
だけど……その最後に待ってるのが、やっぱり神様って事なのかな?
スリーパーの言っていた神様の正体は未だに分からない。
更に永遠を救う為に俺の命を狙うパルキア。
永遠の奴は「あの馬鹿ひん剥いて、生まれてきた事後悔させてやる」と息巻いていた。
永遠はそんな救いを求めていないってのが皮肉だよな。


 「私は弱くて情けない……でももう迷わない。ご主人様も永遠も絶対に護ります」

……それ茜の強い意志決定だ。
今まで茜は臆病で、どこか悲観的だった。
きっと救いの見えない世界に絶望ばかりが積もった性だろう。
だが、今は違う……永遠を護ると言った。
それはつまり……神と戦うということ。


 「イーブイ娘として、か?」


 「はい、私は非力なイーブイだけど、もう弱いイーブイである自分は止めます」

いつになくはっきりとした言葉。
俺は嬉しくなって笑う。
コイツがここまでやる気を出したら、もう何にも負ける気がしないな。



***



保美香
 「……口惜しいですが、永遠に任せるのが最良ですわね」

それは朝のことだった。
一人増えた家族を交えながら、朝飯を食いつつ、問題を提起したのは美柑だった。

美柑
 「もう主殿が明確な目的あって狙われている以上ガードは必須です」

伊吹
 「とは言っても相手は空間の神〜、並大抵の方法では護れないよ〜?」

全くだ、前回はいきなりパルキアの空間にご招待されてしまったからな。
空間の神というだけあって、多分皆の護衛も殆どパルキアには無意味だろう。
そんな訳で、俺を護れるのは唯一空間の神に対抗できる時の神永遠だ。

永遠
 「……そうだね、私が一緒にいたらパルキアも手が出しづらいだろうし、私が護るよ」


 「冗談抜きに命を狙われている以上、皆に従うよ」

俺は仕事用の鞄を持って、後は家を出るだけだ。
パルキアが何時襲ってくるかも分からない以上、ここは永遠に全て任せるしかない。

永遠
 「それじゃ、もう行く?」


 「まだ少し早いが、まぁ出ても良いだろう」

永遠
 「それじゃ」

永遠がパチンと指を鳴らしたその瞬間、俺の景色が変わった。
そこが何処か……確認すると、仕事場じゃねぇか!

永遠
 「ふふ、時の神様の力を見たかい? こういう事も出来るんだよ?」

流石永遠だな……と言いたいところだが、俺は永遠の頭に拳骨を落とす。

永遠
 「ふえっ!? ど、どうしたの茂君!?」


 「やるなら事前に言え! あと結局タイムカード切るため戻らねぇといけねぇんだよ!」

俺はそう言うとオフィスを出て、自分の出社票を取って入り直す。
時刻7時55分、こんな時間に到着してどーすんだっつーの!

永遠
 「ご、御免なさい……」


 「ああもうしゃあねぇ! 今日の仕事さっさと終わらせて明日の分までやっちまうぞ!」

永遠
 (そういう所が社畜なんだろうなぁ……)

俺は自分のパソコンにかじりつくと、早速仕事を始めた。
案の定15分後くらいには、出社してくる上司たちや同僚が、驚きながらやってくる。
常葉、お前徹夜じゃないだろうな!? とか言われたが、タイムカード見りゃ分かるだろう!
なお、永遠は気が付いたら消えてた。
まぁどうせ近くにいるんだろうが、時間を自由にできる神様、もしかしたらそもそも現時間帯に存在しないのかも。



***



永遠
 「……どの面下げてやってきたのかしら?」

冷たい風が強く吹くビルの屋上、茂君が襲われても直ぐに助けにいけるギリギリの場所で、私は後ろに出現した少女に言った。

パルキア
 「ディアルガ……どうしても今の在り方を止められないのかい?」

パルキアは戦意もなく、ただ俯いたままあくまでも私を説得するつもりらしい。

永遠
 「神堕ち? 異端者? そんな事はもうどうでもいい! 私は茂君を全力で護る! あの人たちが私を家族だと言ってくれた! だから!」

私は後ろを振り返る。
パルキアは辛そうな顔を滲ませていた。
パルキアと私は家族としてとても仲が良かった。
ただ性格は真逆で、彼女は優しく大人しい良く出来た子。
一方で私はワガママで我が強い悪い子だと言われている。
私はそんな悪評を気にしたことはないけど、パルキアはいつも自分の事のように悔しがっていた。

永遠
 「アンタに悪意がないのは分かってる……でも、この世は勧善懲悪だけでは出来てないんだよね」

パルキアが茂君を殺したいのは、あくまで私を助けるため。
でも、それは私の望みとは正反対。
だから私は全力でパルキアをぶっ飛ばす!

パルキア
 「ねぇ! もう一度神の世界に帰ろうよ! きっとちゃんと事情を話せば、アルセウスも許してくれるよ!」

永遠
 「パルキア……アルセウスは情で動くことはないよ」

アルセウスはなにゆえ完璧だと言われるのか、それは己がすべき事を全く迷い無く実行するシンプルさにある。
きっと今帰れば、なんの感情も抱くことなく、ひっそりと私を消すだろう。
パルキアも心の何処かでそれを分かっているから、言い返してこない。
優しいというのは、言い返せば意志薄弱だという事。
パルキアは本当に優しい、だからアルセウスの求めに応え続けた。
体の良い便利屋、それがパルキアの実態だ。
私はそれが嫌で仕方がなかった。
王さえ成し得なかった事を私がやれば、アルセウスも私を認めざるを得ないだろうと思って始めたこの計画。
気が付けばどっちが助けようとしているのか分からなくなっちゃった。
私が茂君を助けて、茂君が私を助けてくれる。
私にはこの関係が居心地良すぎる。

パルキア
 「……やっぱりボクは君を助けたい!」

永遠
 「余計なお世話よ! もう何が来たって私は絶対戦い抜いて、生き残ってやるんだから!」

パルキア
 「君はそれでいいかもしれない……でも、ボクには君しかいないんだよ……」

永遠
 「っ!? なによそれ?」

パルキア
 「ボクだって感情はある、意思もある。だから分かる……ボクが信用できるのは君しかいないんだ……」

永遠
 「……!」

神々の中でも私たちは浮いていた。
それは幼い姿にも現れて、周りには必ずしも気を許せない神々ばかり。
パルキアは孤独だと言っている。
私はそれにどうしても言い返せなかった。
きっと私は不幸じゃない、本当に不幸なのはパルキアの方だと認めている。

パルキア
 「明日正午……お互いの決着をつけよう」

永遠
 「……分かった、でもアンタだからって私は容赦しないわよ」

パルキアはそれを最後に空間に歪みを作り、そこに侵入する。
最後に……本当に最後に彼女は笑っていた。
彼女が完全に消えると私は泣いてしまう。

永遠
 「なんでよ……! なんでアンタとこんな関係にならないといけないのよ!」

私は一人になると、この理不尽な現実に不満を爆発させた。

永遠
 「誰が大切な家族と戦う事を喜ぶってのよ!? なんなのよ! こんな運命クソくらえ!」

私は弱い、ちょっとしたことでよく泣いてしまう。
だけど、こんなに泣いたことは本当にない。
明日……きっと本気で戦う事になる。
アイツはそれこそ、もう私を助けるために形振り構わないだろう。
でも、本当に茂君を殺せば全てが丸く収まるって信じてるの?
私にはアルセウスを信用できない。
アイツには何かがある。

永遠
 「パルキアが死んだら、絶対アイツは許さない!」

アルセウス、アイツの目論見を見抜くまでは、絶対に足掻いてやる!



***




 「……!」

私は屋上にいた。
今の私は弱いから、強くならないといけない。
そのためにメンタルだけじゃなくフィジカルも鍛えないといけない。
美柑や凪にも手伝って貰って、トレーニングをしているけど、今は休憩時間で、保美香が持ってきてくれた昼食で一息ついていた時だった。

パルキア
 「突然の来訪お許しください王よ」


 「……」

空間が歪み、果てしなく引き延ばされた世界から私以外が取り除かれると、目の前には片膝をついて頭を垂れるパルキアが現れた。


 「その狼藉、赦す。それでこのような方法で接触したのは?」

私は冷徹にパルキアを見下すと、パルキアは更に頭を落とし意見を陳情する。

パルキア
 「明日ディアルガと決闘を致します。どうか王には手を出さないで頂きたい」


 「それは……ご主人様を殺すため?」

パルキアの肩がピクリと動く。
元々この子がご主人様の命を狙っている事は知っている。
だからと言って私にはこの場で彼女を断罪することは出来ない。


 「パルキア……貴方もう終わってるかもしれないわよ?」

終わっている、つまりパルキアが異端者として認定されることを意味している。
永遠の為に尽くした行為も、結局は世界の法則をかき乱したという結果からは変わりがない。


 「今の私は王ではありません。ですが今の貴方が異端者だと言うのは分かります」

パルキア
 「……それでも、彼女だけは助けたいんです!」

私は半ば脅すように言ったのに、パルキアは気丈に振る舞った。
アルセウスが嗾けた事は分かっている。
アルセウスは今まで数多くの異端者を粛清してきた。
だけど、自ら二人もイレギュラー化させるなんてどういうこと?


 「決闘に関与は致しません……でも」

パルキア
 「でも? なんでしょうか?」


 「……パルキア、彼女の名前を言ってみなさい」

パルキア
 「そ、それは……」

パルキアは言えない、いや認められない。
私が生み出したこの世界のルール、名の呪縛。
正直何故このルールを設定したのかは、今じゃよく覚えていない。
王でしかなかった頃の私に思い出は無く、イーブイに転生してからの思い出の方が一杯詰まっている。
元々最初の異端者は間違いなく私なんだろう。
きっとアルセウスも私がイレギュラーだという事は気が付いてる。
それでも私が王だから、神々は何も言わない。
本当なら、ちょっとした小さな命の一生を全うしたら、ただの神に戻るはずだった。
それが気が付いたら、ご主人様の為に一生を使っても、尽くしきれない。


 「言えないなら……貴方は永遠には勝てない」

パルキア
 「その名を認めたら……ボクの中の彼女が消えてしまいそうで怖い!」

パルキアはきっと永遠を認められない。
認める事が彼女の敗北だから。
だけど名前を持った永遠はきっと強い。

パルキア
 「王よ、失礼致しました」

パルキアは膝を突いた姿勢のまま姿を消すと、空間は元通りになる。


 「さて……それじゃもう一度再開するか」


 「……はい」

私は立ち上がる。
汗を流して、強くなるためトレーニングを続ける。
皆も協力してくれているんだから、今度こそ答えを出さないと。

保美香
 「茜、怪我はしないようにね」


 「……」(コクリ)

美柑
 「よぉし、次はもっと厳しく行きますからね!」

私は凪と美柑の前に立つと、二人は構える。
まず突撃してきたのは美柑、美柑は武器を持っていないけど、徒手空拳でも強い。
当然今の私より遥かに強く、美柑は拳を軽く握って右ストレートを放つ。
私はそれを見切って頭を引っ込めて回避すると同時に、脇腹を蹴る。

美柑
 「くっ!?」

美柑は左腕でガードするが、いくら私が小柄でも全体重をかけた蹴りに顔を歪めた。


 「はぁ!」

次に来たのは凪、凪も武器は持っていない。
この現代日本では銃刀法違反もあり、いつも武器を所持するわけにはいかず、凪も真剣にトレーニングしている。
凪は軽やかでしなやかな身体を活かし、空中で回転しながら蹴りを放ってきた。
やや大振りな動きをした後だから、私は両腕でガードせざるを得ない。


 「くっ!?」

しかし上からの攻撃だから、ダメージがガード越しから来る。
私は衝撃を地面に受け流しながら、地面を転がって難を逃れる。

美柑
 「相変わらず動体視力がいい」


 「格闘ゲームのセンスはこういう所でも活きるのだな」

私自身あまり気にしたことがなかったけど、今回分かったのは目の良さだった。
格闘ゲームのフレーム単位が見える程度の能力だったけど、それは相手の動きを誰よりよく観察して対応できる能力だった。
私は立ち上がると、空手の型のように構えた。

美柑
 「アレですよ……自分から攻めない、あくまでカウンター狙い、多分本気で狙ってもカウンター合わせられますよ」

美柑が大分ウンザリしているけど、私に攻めるだけの力が無いだけ。
それに戦術において美柑は私とは比べものにならない程多くの選択肢がある。
一方で私はこれしかない。

美柑
 「しょうが無い! 戦術変えますか!」

再び美柑は突っ込んでくる。
猪の攻め方だけど美柑は馬鹿じゃない。
手をみると軽く握っている。
それは強く握るか、解くか見分けなければならない。

美柑
 「はぁ!」


 「抜き手!」

美柑は右手を抜き手で顔面を狙ってくる。
当たれば失明確実なんだけど、当たらないとタカを括ったらしい。
美柑の強さであり、恐ろしさはその外道戦術も辞さない所だ。
私は瞬間的に見切って頭を動かしてそれをかわして、カウンターを合わせる。
しかし直ぐに止めた。
私は美柑の左手に着目し、私の服を掴みにくるそれを膝蹴りで防いだ。
だが、美柑の攻めはそこで終わらない。

美柑
 「上手いけど非力!」

美柑は膝蹴りもお構いなしショルダータックルをしてくる。
当然体重の軽い私がそれを耐えられる訳も無く、美柑は私の後ろ頭を抜き手で放った右手で掴んでくる。

美柑
 「とったぁ!」

美柑の頭突き、私たちは足を絡ませて転びながら地面側の私に美柑は頭突きを合わせる。


 「!?」

やられた! そう思った刹那、私たちの身体が突然持ち上げられる。

保美香
 「茜にそんなマジになっちゃうなんて、情けないですわね」

保美香だった。
保美香は美柑の首根っこを掴み、攻撃を阻止する。
私は地面に落ちると大の字で倒れた。

美柑
 「そうは言いますけど、茜さんめっちゃ回避力高いですよ……投げも駆使しないと本気で当たる気がしない」


 「確かに徒手空拳だけだと、茜はかなり強いな……ただ問題はポケモンとして強いかだが……」

私たちは一切ポケモンとしての技を使っていない。
凪は使わなかったからここまで戦えたとも言っている。


 「分かってる……ポケモンとしては弱い」

それこそ技を使えば、凪や美柑になんて敵うはずがない。
それでも私は派手な技を持ってないから、こうやってフィジカルを鍛えるしかない。

伊吹
 「悔しかったら〜、上げてみろ〜、ベンチプレス200キロ〜♪ 茜ちゃんはまずバンプアップも必要かもねぇ」

突如屋上に上がってくる伊吹は砂袋を何袋も抱えてやってきた。

伊吹
 「アタシも参加するから〜、皆で頑張ろう〜♪」

保美香
 「私たちはアメで簡単に強くなれる訳じゃないですからね」


 「というかドーピングで強くなるのはどうなんだ?」

アメで強くなれるゲームの中の私たちは羨ましくもある。
でも、それがなくても強くなるしかない……。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第29話 新しい家族 完

第30話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/29(水) 16:33 )