第27話 戦争の起こらなかった世界線の顛末
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第27話 戦争の起こらなかった世界線の顛末
茂
「茜……大丈夫か?」
全てが終わった。
第3次世界を引き起こす黒幕であるスリーパーが死に、約束のXデーを切り抜けた。
でも、永遠(とわ)は言う、この世界の未来は変わっていないと。
茜
「うん……心配掛けて御免なさい」
12月……それは色々ありすぎたな。
スリーパーが切欠で茜がぶっ倒れると、俺たちは慌てて茜を連れ返した。
幸い医者の言ではストレスとの事。
それ以外だとクルマユは親友のマリルちゃんを取り戻したようだが、問題は満載だ。
まずはPKM収容所、現在も復旧中で第二収容所の建設も続行しているらしいが、PKMまで総出で復旧に出ているらしい。
幸いなのは、抑圧の溜まっていたPKM達にとっては自分たちの住み家を戻すことにやり甲斐を感じている事だ。
しかし問題はそのPKMだ。
1000人近くのPKM全てが帰ってきた訳じゃない。
スリーパーは各所に分散させてPKMを隠したらしく、そのPKMの半数が未だ見つからない。
スリーパーが死んだことで、洗脳も解けた筈だが日本のPKMを狙う組織も多く、諦める必要もあるのかも知れない。
しかし御影さんは「諦めないわよ」と言葉を残して今も捜索中のようだ。
ハニーさんは再びPKM収容所に戻った。
でも彼女の心証も変わったようで、今は収容所職員の手伝いをしているらしい。
***
クルマユ
「おお〜、寒い寒い」
PKM収容所は現在工事中である。
ついでだからと拡張工事までしてやがりますが、とりあえず自分の寝床くらいどうにかすることになった。
ホーホー
「コラー! そっちじゃねぇつってんだろ!」
クチート
「五月蝿いわね! アンタそっち持ちなさいよ!」
マリル
「あの二人……自主的に帰ってきたけど、相変わらず喧嘩しているね」
頭を引っぱたいてでも取り返したマリルちゃんは私と同じように外に設置されたストーブの前で暖まった。
これから日本は真冬を迎えるから、工事は重要な部分から急いで行われた。
ホーホーとクチートは暴動の主犯格だったが、戻ってきた所を見ると、別に収容所が嫌いではないみたいだね。
やっぱりスリーパーに躍らされたっていうのが正しいのかな?
あの二人なんてケロッとした顔で帰ってきたし、そもそもマリルちゃんも事件の事を覚えていない。
キテルグマ
「班長ー、これどこに運べば良いんすかー?」
口喧しく喧嘩しながらせっせと工事するホーホーたちを余所に、収容所で一番の力持ちのキテルグマねーさんは角材を両肩に10本も抱えている。
直接施工を頼まれた工事のプロ達もドン引きだけど、規格外のパワーで働くから、重宝はされているようだ。
ハニー
「皆さん! 御飯ですよー♪」
PKM収容所でも怖れられた懲罰房のビークインだが、今ではPKM収容所の先生として働いている。
本人の希望もあり、今ではとても充実した顔で働いている。
クルマユ
「この匂い……豚汁ですな〜」
マリル
「行こう、クルマユちゃん」
私は毛布でもぞもぞしながら向かうので非常に進むのが遅い。
そもそもクルマユは殆ど動かず進化エネルギーを貯めるポケモンだしねぇ。
そんな訳だから御飯は大抵最後だけど、マリルちゃんは気にせず私の歩行スピードを合わせてくれる。
ハニーさんは料理も上手で、この炊き出しは大好評で、我先にとPKMも人間も集まった。
ハニー
「はい、クルマユちゃん、マリルちゃん」
クルマユ
「ありがとです」
おにぎりと豚汁、私とマリルちゃんは少し離れた場所で食べ始めた。
マリル
「ハニーさんってとってもいい人だね、お母さんみたい」
クルマユ
「まぁPKMも波瀾万丈、情欲ドロドロの時代があったのですよ」
マリル
「えええ〜、そ、それって〜!?」
マリルちゃんはどうせ殆ど経験ないだろうに、妄想ない交ぜにしながらハニーさんのエロッエロの姿をイメージしているらしい。
残念ながら健全な関係で終わったが、ハニーさん絶対あの人にホの字だよね。
工事の人達もデレッデレだし、ハニーさんすっかり明るくなって人妻感出てるもんね。
気のせいか、ちゃんとした人が不安定な幼いPKMの先生役なって、モラルも改善した気がする。
キテルグマねーさんも問題児のホーホーとクチートもハニーさんには素直に従うし、良い傾向だよね。
マリル
「でもゴンベちゃんが帰ってきてないんだよね……」
マリルちゃんはそう言うと暗い顔で俯いた。
あの暴食の罪のゴンベは未だ見つからないらしい。
あの子の事だからちゃっかり生き残ってるだろうけど、いないとそれはそれで寂しいか。
クルマユ
「豚汁冷めちゃうよ」
マリル
「うん……」
ズズ……、豚汁を美味しく頂きながら私は考えを言う。
クルマユ
「まぁアレです。ホーホーやクチートだって自主的に帰ってきた。一方で自主的に出ていった子もいるんじゃないですか? 結局私たちは考える生き物、後悔しない生き方をするだけですよ」
マリル
「クルマユちゃん、時々哲学を語り始めるよね」
***
大城
「あー暇」
紫音
「お兄さん、大変だね〜」
俺はこの可愛い子ちゃん、紫音ちゃんを助けて肋骨を折ってしまった。
その上検査したら左足までひび入ってたし、入院生活は殊の外長くなった。
幸運なのは、紫音ちゃんが定期的に遊びに来てくれることか。
なんでも紫音ちゃんのご主人様も同じ病院に入院生活しているらしい。
紫音
「まー、ウチのご主人様はもうすぐ退院だけどね、そしたらお別れかな?」
大城
「おお……あんまりだぁ」
紫音
「あはは♪ まぁお兄さん面白いから、暇があったら来てあげるよ! 溜まってるならヌいてあげてもいいよ?」
大城
「マジで!?」
紫音
「手で5万、口で20万ね」
大城
「金取るんかーい!?」
紫音ちゃんはそんな俺をからかってケタケタ笑っている。
はぁ……ラブコメ展開期待してたんだけど、やっぱり友達以上恋人未満だな……こりゃ。
そろそろ真面目に結婚も考えないとなー。
***
仕事終わりの時間、私はキッチンでヒカル店長と談話していた。
晃
「それで、コスプレの方はどうなの〜?」
華凛
「なんとか間に合いそうだが……しかし上手く着こなせるか……」
既に12月に入り、冬コミはもう目の前となった。
私は時に徹夜をしながらコスチュームを作り、成りきるための練習もしている。
だが、やはり初めてというには自信が上手く持てない物だ。
凪
「お前にしては弱気だな」
幾つものトレイを運んできた凪は私を見てそう言う。
そう言うコイツは最初はメイド服に躊躇いを持っていたのに、今では普通に過ごせるようになったな。
不器用な奴だとは思うが、順応力は中々高い奴だ。
最初は翼が邪魔でテーブル蹴散らすわ、転ぶわとんでもないポンコツだったが、今ではそう言う問題も起きなくなってる。
案外心の余裕は凪の方があるのかも知れないな。
晃
「凪ちゃんはコスプレしないの?」
凪
「まさか! そんな恥ずかしい事出来る訳がない!」
華凛
(ポケにゃんの仕事は恥ずかしくないのか……?)
私も流石に自分の趣味に凪を巻き込むつもりはない。
とはいえ、凪もプロポーションは相当良い。
翼人系辺りのコスプレさせればかなり再現度が良さそうだが。
晃
「それじゃ、凪ちゃんは将来の夢とかある?」
華凛
「どうせコイツのことだ、お嫁さんだろう」
凪
「わ、悪いか! そうだよ! お嫁さんだっ!」
凪は言い当てられると顔を真っ赤にして喚いた。
なんというか、純情で分かりやすい奴だからな、酔うといつも将来設計を語り出すし。
凪
「しかしだ……私は先生になってみたい」
晃
「あら? 学校の先生?」
凪はコクリと頷く。
そうか、学校の先生か。
PKMの我々では今は難しいが、凪ならばいつか夢を叶えるだろうな。
凪
「華凛はどうなんだ?」
華凛
「私はやりたいことが多すぎる……ダーリンのお嫁になりたいのも事実だが、それとして趣味を仕事に出来ればとも思う」
私は結構欲張りだからな、まぁ人生長いんだから一つ一つ叶えていくさ。
希望
「ホールの清掃終わりました」
晃
「あらそう、それじゃ二人もそろそろ帰りなさい」
華凛
「了解した」
凪
「それじゃ、お先に上がります」
私たちはそう言うと、脱衣室に向かう。
思えば、この世界に来てもう4カ月か……意外と速いものだな。
***
保美香
「ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴るー」
美柑
「もうすぐクリスマスですね」
伊吹
「ねぇ皆知ってる〜? クリスマスって好きな人と二人っきりで過ごすんだって〜」
美柑
「え? アベックを撲殺する日だと聞きましたけど?」
保美香
「そもそもキリストの聖誕祭が起源では?」
なんて皆バラバラの価値観を抱えているが、当然その日の意味は理解している。
ただまぁ……その好きな人と二人っきりって言うの、無理ゲーですわね?
わたくしとしても特別な日くらい、だんな様と二人っきりで過ごしたいとは思いますが、それは皆同じでしょう。
結局出し抜くには不可能に近い。
それならば楽しいクリスマスパーティーを開きたいですわ。
美柑
「ボク達ってまだ全然日本の行事体験してないですよね」
伊吹
「クリスマスが終わったら大晦日〜、その後はお正月だね〜」
保美香
「我々にとってそう言った行事は全て初めてですからね、だんな様と共に過ごせば何度もやってきますわ」
わたくし達の生活がたった1年で終わるとは思っていない。
何年もだんな様と過ごすだろう。
伊吹
「それにしても〜、不安なのは茂君と茜ちゃんだよね〜」
伊吹がそう言うと、美柑も顔を暗くした。
茜はストレスで倒れてから元気がない。
一方でだんな様は最近の神懸かりには不安もある。
まるで二人して遠い世界にでも行ってしまいそうで、疎外感さえ感じてしまう。
この感情は嫉妬なのでしょうか?
美柑
「ボクは二人を信じます。信じるに値する二人です」
保美香
「そうですね、信じるより他ないでしょう」
伊吹
「……うん、あの二人が何かある時〜、それを助けるのが家族だしねぇ〜」
12月……木枯らし一号も吹かなかったこの日本で、着実に世界は変わってきた。
今や日本にいるPKMは1万を越えて、世界にはどれだけいるのかも分からない。
だけど増え続けるPKMは必ずしも良いことばかりではない。
だんな様が人知れず何かと戦い、茜は何かに苦しめられている。
わたくし達にはなにも分からない。
それでも信じるしかないのだから。
***
茂
「平和だな」
永遠
『そうだね、それが却って不気味だけど』
壮大な戦いも終わって1週間、俺は仕事に打ち込みながらそう愚痴った。
隣にいるはずの大城はまだ入院生活中だし、もはや俺の愚痴を聞いているのも永遠だけだ。
アレから茜も日常生活に復帰したが、イマイチ元気がない。
まぁ理由は分かっているんだが、それを解決するにはどうすれば良いのか分からない。
それでも俺は絶対に茜を救う、それは皆を救うことでもあるはずだ。
茂
「とはいえ……スリーパーの言う神様ってのは誰だ?」
恐らくそいつが諸悪の根源だ。
なにゆえ茜を絶望させるような真似をするのか。
神々の黄昏……それがその黒幕の目的なのか。
そしてそれがなんで茜のための儀式となるんだ?
今の茜はあまりにも痛々しい。
夏川
「ふんふん〜♪ あ、この子可愛い、こっちも良いなぁ」
後ろで夏川が何やらぼやいている。
コイツ仕事さぼってPKM情報漁ってやがるな。
まぁ、俺も本調子ではないのだが。
最近出社率が落ちていた訳で、普段の2倍働かないといけない。
茂
「ち……上等だ、昼までに仕事を終わらせてやらぁ!」
俺はそう言うとパソコンにかじりつく。
カタタタタタ、俺のタイピングスピードは会社一だ、その音がオフィスに響く。
タイプ音自体、このオフィスでは珍しくないが、この高速タイピングは珍しいだろう。
男社員
「今日の常葉、はりきってんなぁ」
女性社員
「大城さんもしばらく出られないし、その性かしら?」
永遠
『だってさ、真面目さん』
茂
(自分のためだ、言わせておけ)
永遠
『それにしてもプログラマーって退屈だねぇ』
茂
(そうも言ってられんぞ、俺のメインってバグ取りだし)
永遠は未来から俺のことを見ているみたいだが、退屈なのだろうか。
まぁ普段はずっと黙っているし、夜とかどうしてんだろうな。
永遠
『光の中に揺れてる〜、孤独な微笑み〜』
茂
(ちょっとまて、何いきなり歌い出してんの!?)
永遠
『いや茂君が退屈しないように』
だからってなんで○リア永遠になんだよ。
その歌の歌詞はやる気が上がる系じゃねぇぞ。
永遠
『○ァイナルカウントダウンとかの方が良かった?』
茂
(そっちの方が燃えるけど、洋楽かよ)
永遠の抑えているジャンルってイマイチ分からん。
そもそも永遠の好き嫌いって知らないんだよな。
茂
(永遠ってどういう事が好きなんだ?)
永遠
『唄うのは好きだよ、前にロック系の曲歌った時誤ってシャウトの代わりに時の咆哮だしちゃって、ロック系歌うの禁止されたけど』
茂
(物騒な奴め! お前って一人カラオケしてそうだよな)
永遠
『酷い! カラオケなんて行ったこともないよ!?』
……そうきたか、いつかディアルガをカラオケに連れて行ってやりたいな。
茂
「連れて行く?」
俺はふと、あることを思い出す。
いや、厳密にはもうその思い出は別の世界線の出来事になっているんだが。
茂
「……よし、そうだな、これが良い」
永遠
『何が?』
俺はある目的を持つと、一気に仕事を進める。
今日はなるべく早く仕事を終えよう。
そしてさっさと帰る!
***
茂
「ただいま〜」
その日、俺は急いで家に帰ると今日もいつものように茜がお出迎えしてくれる。
茜
「お帰りなさい、ご主人様」
しかし、やはり気持ち元気がない。
きっと明確に問題が解決しない限り、茜の心は晴れないんだろうが、それでも俺は何かしてやりたい。
茂
「茜、晩飯の後、お前に勝負を挑む!」
茜
「え? ご主人様?」
茜は訳も分からず戸惑っている。
俺はそんな茜の頭を強めに撫でた。
………。
そして晩飯の後、俺は久し振りにゲーム機を取り出す。
プレイするのは○トリートファイターU!
茂
「折角だから俺は○イルを使うぜ!」
茜
「じゃあ○ュウで」
美柑
「今日は主殿どうしたんでしょう?」
凪
「茜相手に格ゲーで勝負するなんて無謀だぞ?」
必然的にギャラリーは俺の負けを確信してやがるな。
まぁそりゃ茜はプロゲーマークラスの実力者だ。
e スポーツで賞金稼げるレベルだからな。
とりあえず俺はまず後ろを押してソニックブームの態勢の入る。
当然その戦術を理解している茜は絶妙な間合いを取ってくる。
俺は距離を見切りギリギリの場所で強キックを放つが、その際入力に強パンチをずらして入れる!
すると、突然○ュウは○イルのジュードースルーが決まってしまう!
茜
「!?」
茂
「ふはは! 見たか茜! コレが真空投げだ!」
美柑
「汚ぇ!?」
保美香
「だんな様、勝つためとはいえ卑怯な……」
茂
「馬鹿め! 勝てばいいんだ! 何を使おうが勝ち残りゃあな!」
茜
「……!」
茂
「茜! 俺の名前を言ってみろぉ!」
茜
「茂様です」
茂
「そこはネタだから真面目に答えなくていい!」
そのまま調子にのった俺は茜の○ュウを倒してしまう。
まぁ対処法はヨガリセットのみのバグ技だからなぁ。
ただまぁ、ここまで本当にネタだ。
茂
「茜、お前は確かに強い。だがお前より強い奴なんてごまんといる! だから明日! ゲーセンに修行にいくぞ!」
明日日曜日、俺は以前茜が○野TRFに行きたいと言っていた事を思い出す。
茜はゲームが好きだ。
それも本気で打ち込む位ビデオゲームを愛している。
だからゲームをしている時位はきっと茜も気が晴れるんじゃないかと思った。
茜
「ご主人様……」
茂
「明日朝一から出発するぞ!」
茜は驚いた顔をするが、少しだけ嬉しそうな顔をすると頷いた。
華凛
「ふむ、その口実を作るためにバグ技まで使ったのか」
茂
「普通のゲームだとまず勝てないからな」
冗談抜きに1フレ見えている茜相手に格ゲーは分が悪過ぎる。
それでも、俺は勝たねばならないのだ。
茜をその気にさせなければ意味がないから。
茜
「世界大会に優勝できる位強くなります……!」
美柑
「まだ強くなる気ですか……」
伊吹
「茜ちゃんはゲームが大好きだからねぇ」
茜はやる気を見せて、尻尾を強く振る。
流石に皆呆れ気味だが、好きなことをするって案外重要だと思う。
俺も茜程ヘビーじゃないがビデオゲームは好きだ。
気分転換、それだけでも少しは心が軽くなるように。
保美香
「皆さん、お風呂が沸きましたよ」
華凛
「では、一番風呂は私が頂こう」
伊吹
「私はスパに行きたいなぁ」
お風呂大好きの伊吹はやっぱり大きなお風呂に憧れるだろう。
今はスパは結構充実してるから、そのうち連れて行ってやるか。
美柑
「ボクもまた旅行に行きたいですねぇ」
旅好きの美柑としては旅行が希望らしい。
今年は難しいが、新年辺りに温泉旅行って言うのも悪くないか?
凪
「皆行きたいところが多いんだな」
茂
「凪は行きたいところあるのか?」
凪
「知床……とか?」
保美香
「ピンポイントですわね……」
凪は雄大な自然が好きなのか?
保美香も苦笑しているが、こうやって旅行プランを温めるのも悪くないな。
ふと、茜を見ると茜は口元を緩ませて。
茜
「ありがとうございます……ご主人様」
セローラ
「良いですなぁ、因みに私はラブホを希望します!」
保美香
「また出ましたわね!? ラブホですって!? わたくしも連れて行ってくださいませ!」
伊吹
「アタシも〜♪」
美柑
「破廉恥です!」
どこから沸いてきたかのか、相変わらず神出鬼没のセローラ。
急に猥談になってドッタンバッタンしてきた。
とりあえず俺はセローラの首根っこを捕まえると。
セローラ
「はえ? どうしましたご主人様?」
茂
「ぶっ殺すと心の中で決めたとき、その時既に行動は終わっているんだ!」
そう言ってセローラの首を捻る!
セローラ
「ぶっ殺したなら使っていい!?」
変な悲鳴を上げて動かなくなるセローラ。
とりあえず五月蝿い奴は沈黙させたな。
保美香
「段々セローラが憐れに思えてきましたわ……」
保美香はぶっ倒れたセローラを介抱するが、冷静に考えて口喧しく嫌っているのも保美香だが、一番心配しているのも保美香だよな。
調子にのらなければそんなに悪い奴じゃないんだが、誰かセローラを止めて欲しい。
***
永遠
「皆楽しそうだな……」
楽しそうに旅行計画を話し合ってるのを見て私は羨ましく思う。
私はまだ顕現出来ないし、表だって茂君と付き合ってもいいだろうか。
出来ることなら、私もその旅行に加わりたい。
でもそれを私が叶えても良いのだろうか?
?
「ディアルガ……こんな所にいたの?」
突然、後ろに一人の少女が顕現する。
その少女はパールホワイトの髪をショートヘアで整え、身長は私より一回り小さい。
胸は豊満な方でその胸部には真珠が煌めく。
パルキアは、ボーイッシュな格好の綺麗な少女だ。
パルキアは空間を安定させると、その場に着地する。
あらゆる次元に干渉し、渡る空間の神であるパルキアだからこの終わった世界にやってこれたのだろう。
永遠
「何の用?」
パルキア
「こんな終わった世界になんの価値があるの?」
パルキアは私と同じ日に生まれた、いわば姉妹。
だけど性格は私とは違い、無駄なことを嫌う。
パルキアはこの世界を無駄な価値だと言ったが、私はそう思わない。
永遠
「私はまだこの世界を諦めてはいない……」
パルキア
「……分からないよ。この世界になんの思い入れがあるの? 王がただ感傷に浸るだけの世界なのに」
永遠
「貴方には理解出来ないでしょうね……ただの感傷としか感じないなら」
私はパルキアを睨みつけると、パルキアは困ったように黙った。
双子の姉妹と言ったように、パルキアも精神的には未熟で弱い。
それでも素直で従順だからアルセウスにも信頼されている。
少なくとも問題児の私とは違う優等生だ。
パルキア
「世界には寿命が定められている……それは同じ世界でもパラレルワールドの数だけあって違うけど、少なくとも終わるのは世界に与えられた宿命なんだ」
ディアルガ
「じゃあなぜ世界線は変動するの? なぜ一方通行じゃないの? 私は戦うわ……そんなふざけた約束なんてクソくらえ!」
パルキア
「……このままじゃ君が異端者になってしまう! ボクは君を異端者にしたくない!」
パルキアはそう叫ぶ。
だけど悪いけど、アルセウスはとっくに私を異端者と決めつけているに決まっている!
永遠
「異端者は消されるんだっけ? そして新しい私が生み出される……」
神の右席にはアルセウスが座し、その玉座の前で決められた数のポケモン達が並ぶ。
その中に同じポケモンはいない。
王にとって都合の悪い神は異端者として処分される。
そしてそこには新たな神が生み出されて補充される。
だからこそ、神々は王に対して絶対の忠誠を誓っている。
それに陰りが生まれれば、消されるだけなんだから。
パルキアはそれが心配で溜まらないらしい。
大粒の涙を見せて、身体を震わせる。
永遠
「……私の名前は永遠、もし消されても忘れるんじゃないわよ?」
パルキア
「とわ……!? 君は! 名を誰に頂いた!? 神堕ちする気か!?」
……茂君には説明しなかったけど、名の呪縛は王が定めた絶対の法則。
私はもう茂君に逆らうことは出来ないし、忠誠の優先度も変化している。
そう、だから私は初めから異端者だ。
それでもいい、神からただのポケモンに堕ちても、それが幸せならば堕天する。
パルキア
「そんな……ディアルガが異端者だなんて……!」
永遠
「それでも連れ帰る? 異端者を?」
パルキア
「馬鹿……! なんでいっつも逆らってばかり! 従順であれば何も問題はないのに!」
永遠
「それじゃ、運命の奴隷よ……なにゆえ神々の王は私たちに感情を与えた? 考える力を与えた?」
神々の王自体が既に異端者と化した今、正常なのはアルセウス位かもしれない。
私は考えたから、ここにいる。
感情があるから意地になれる。
パルキア
「ディアルガ……見なかったことにする」
パルキアは再び空間に穴を開けて消えていった。
パルキアは優しすぎる、きっと誰にもこの事を言わないだろう。
その優しさが、私とは180度違うのが問題だ。
永遠
(私はもう永遠なの……アルセウスに消される覚悟位は出来てる……それでも私は足跡を残した)
永遠という名前だけは絶対に消えない。
茂君の中で残り続ける。
私はここで茂君のサポートをするだけ。
茂君が茜様を救えばそれでいい……。
***
茂
「俺の武器を知ってるか〜♪」
美柑
「モップ!」
華凛
「柱時計!」
保美香
「コショウ!」
伊吹
「今日も事件だ〜♪」
茜
「○イナマイト〜刑事〜」
凪
「逮捕してやる!」
うむ、いきなりで悪いが家族全員でネタを披露した。
今時○イナマイト刑事置いてるゲーセンもそうはないだろうがな!
という訳で今日は日曜日ということで俺たちは家族全員でゲーセンに向かっていた。
流石に茜ご希望の場所ではないが、近くでそこそこ大きいアミューズメントパークを目指していた。
保美香
「それにしてもゲームセンターですか」
茜
「楽しみ」
茂
「皆好きに遊んでいいぞ、金ならあるからな」
というか、普段から倹約しているから寧ろ余裕がある。
国から給付されるPKM管理保証金もあり、海外旅行だって出来る位は貯まってたり。
という訳で、この人数で遊び尽くしても問題はないのだ。
美柑
「着きましたね! さぁって何からしようかな!」
美柑は結構アミューズメント系が好きだから、こういう場所も慣れている。
真っ先に店の中に入ると、続々と俺たちも入っていった。
保美香
「あ、ポッ拳がありますわ」
ポケモンの格闘ゲームポッ拳。
そこには多くのポケモンがゲーム上で戦っている。
しかしそれを見た茜は。
茜
「まだプレイアブルにならない……」
結構気にしてる?
まぁピカチュウと違ってイーブイがメインに選ばれることは少ないからなぁ。
スマブラも新キャラはガオガエンだし。
保美香
「それよりもこのセローラ鬱陶しいですわね」
華凛
「メイド長をハメ殺すとはセローラの癖に生意気な」
茂
「お前らシャンデラのことをセローラって言うの止めろ!」
丁度今、シャンデラがマニューラを近寄らせず完封していた。
ガンシューティングキャラのシャンデラは勝つときは一方的な試合になることが多いからな。
俺たちはポッ拳を余所にゲームセンターを進む。
凪
「シューティングゲームか、難しいのかな?」
茂
「反射神経良い凪ならやれるんじゃない?」
丁度、凪が選んだのはダラ外、シンクロ40連が効いているなら爽快感抜群だが。
凪は早速1クレジット入れると、適当にレバーを操作して感覚を掴む。
凪
「これで攻撃?」
しかし凪が押したのはボンバーだ!
ブラックホールボンバーが容赦なく雑魚敵を吸う!
凪
「え? あれ? え?」
茂
「落ち着け凪!」
凪
「あーもう! 操作しにくい!」
凪は初めて触るアーケード筐体に悪戦苦闘していた。
コントローラー派にはレトロゲームは難しいからな。
今ではアーケード向けでも家庭用のようなコントローラーがあったりするし、独自のデバイスの場合も多い。
それでも凪はなんとか一面をクリアした。
凪
「ふぅ……少し慣れた」
なんだかんだで1面でミスる事も無く、ゾーンBに移行。
プレイも安定してきた。
茂
「他の皆は?」
俺は家族を探しに他の場所へと向かうことにした。
***
華凛
「はぁ!」
ダァン!
俺はパンチングマシーンで遊ぶ華凛を発見した。
華凛は結構攻撃種族値が高いから、パンチの衝撃が凄い。
茂
「俺のパンチを受けて見ろ!」
華凛
「ダーリン? このゲームシンプルでいいな」
茂
「まぁゲーセンの常連だしな」
大体どこに行っても置いてある○ニックブラストマン。
華凛は軽々と隕石を破壊した。
華凛
「壊さないように調整するのは面倒だがな」
茂
「手加減してたのか」
やっぱり旧ゲーはPKMは想定してないからな。
俺は華凛のプレイを見終えると、再び別の場所へ移動した。
***
保美香
「どうも今時のゲームは操作がややこしいですわね」
茂
「そう言って○GO遊ぶのはどうなの?」
保美香
「……簡単ですけど大味ですわ」
茂
「限りなくクソゲーに近いからな」
F○GOは極めて簡単操作だ。
だが、それ故に単調さが目立つ。
少なくともキャラ好きでなければオススメ出来ん。
茂
「茜はどこだ?」
俺茜を探して歩き回る。
茜は対戦型のゲームコーナーにいた。
プレイしているのは○ァンパイアセイヴァーか。
茂
「茜が選んだのはタマネギ頭か」
茜は○プコン系の格闘ゲームには慣れている。
特に○ュウに近いプレイングで戦える○ミトリは見た目に反して使いやすい。
茜のキャラ選はイマイチ謎だが。
しかし流石茜であり、コンピュータ相手とはいえ初見であるにも関わらず、殆どパーフェクトで勝っている。
茂
「茜凄いな」
茜
「格闘ゲームは慣れるとキャラの性能差を人間性能で覆せるから楽しい」
茂
「しかなんでタマネギ頭?」
茜
「ムキムキで強そうだから」
そういう基準で選んでんのか。
その割には○ンギエフを選んだ茜をあまり見た覚えがない。
茜のセンスは本当によく分からんな。
と、そうやって消化試合進めていると、不意に乱入者が現れる。
茂
「茜のプレイを見てか?」
乱入された茜は相手のキャラ選を待っている。
相手は迷わず選んだのは。
茂
「○クトルかよ!?」
茜
「ゴリラみたいなのは好きじゃない」
茜の美的センスはそこなのな。
それだと○レックスは茜的にはどうなんだろう?
しかしよりにもよって最弱キャラの○クトルを選ぶとは、まさか相当の凄腕か?
俺は初めて見る茜の家族以外との戦いを見守る事になる。
緊張の1戦、まずキャラ対策を知らない茜は慎重に立ち回る。
一方で相手はいきなり攻撃してきた!
遠距離からの強キック、茜は冷静にガードする。
そしてそすかさず反撃!
茜
「? なにか変」
茜の攻撃がクリーンヒットして、そのまま茜はラッシュをかける。
相手はガードもせずにボコボコにされた。
茂
「なんだ? 初心者か?」
俺は思わず乱入者が気になり、対戦台の方を覗いた。
するとそこには凄い美少女がプレイしているではないか。
しかもよくよく聞くと、攻撃のたびにかけ声をあげたり、ダメージに悲鳴をあげたりしている。
茂
(なんだなんだ? 随分浮世離れした子だな)
プレイしている少女は恐らくPKMなのだろう。
身長は135センチくらいの小柄、しかしそれに似合わぬロリ巨乳で、茜ほどのインパクトはないが、銀髪のロングヘアと赤い瞳は西洋のお人形を思わせる。
服装もくすんだ灰色のドレスで、まだこの世界に来たばかりのPKMなのかもしれない。
?
「あら? もう負けてしまいました?」
気が付くと、茜は既に3本先取して、ゲームを終わらせていた。
?
「こんなにお強い方って、どんな方なのでしょう?」
少女は立ち上がると、こちらにやってくる。
そこで俺と少女は目を合わせた。
?
「まぁ! まぁまぁ! なんという偶然でしょう!」
茂
「?」
少女は俺を見るととても驚いていた。
ご丁寧に手を口に当てて、喜怒哀楽をはっきりさせた驚き方は茜とは対称的だ。
?
「あの、私のことは?」
茂
「え? いや……初めてだと思うけど」
こんな可愛い子忘れるとは思えん。
というかPKMだろう? 知り合いになるチャンスがまずないと思うんだが。
?
「成る程……やはりそうですか」
少女は何かを確認したようだが、俺にはさっぱり分からん。
だが、少女は一度頷くと、物腰柔らかに、そして礼儀正しく自己紹介をした。
?
「初めまして、私はマギアナと申します」
茜
「マギアナ?」
茜が反応してマギアナを見る。
俺はまさかの幻のポケモンとの遭遇に心底驚いた。
しかし本人も茜を見て驚いていた。
マギアナ
「まぁ凄く強いお方はどなたかと思えば、貴方でしたのね!」
茜
「……」
マギアナと違い茜は静かにマギアナを見る。
神々の王としてマギアナを見ているのか、気持ち視線が強い。
茜
「……初めまして、茜です」
マギアナ
「はい、こちらこそマギアナです♪」
茜は軽く会釈すると、マギアナも大袈裟にお嬢様のように挨拶した。
全く正反対、それにしたってマギアナさえも今は顕現するのか。
茂
(永遠、やっぱりゲートが大きくなっているのか?)
俺は時の結晶を握って、永遠に話しかける。
しかし……永遠が出ない。
茂
(永遠? どうした永遠!?)
永遠
『ご、ご免茂君! ちょっと寝てた!』
俺が焦りを見せると、慌てたように永遠が応じた。
なんだ、寝ていただけか。
ということは、あの終わった世界でも眠ることは出来るんだな。
永遠
『それよりもマギアナか……珍しいね』
茂
(幻のポケモンって神々とは関係あるのか?)
永遠
『殆どの子はないよ、ジラーチとか、フーパ、後はマナフィ位かな?』
ふぅん、以外と幻は珍しいというだけか。
冷静に考えると愛紗さんも幻のポケモンダークライだが、一般ポケモンと大差ない。
どうも神という単語に敏感になってしまっている。
もしマギアナが黒幕だったらと一瞬考えてしまったことが情けないぜ。
マギアナは楽しそうに茜と一杯お喋りしており、そこには微塵も悪意なんてない。
マギアナ
「それでご主人様は……あ」
茂
「おいおい、俺は君の主人じゃないぞ」
マギアナも自然に出てきた言葉に直ぐに改めた。
それにしても俺がご主人様に見えたって……どういうことだ?
マギアナ
「ご、ごめんなさい……まだお名前を」
茂
「ふ、俺の名前は鳳凰院!」
マギアナ
「え!?」
茂
「すまん、アレは嘘だ。常葉茂」
マギアナは俺の名を聞くと何故かホッとしていた。
マギアナ
「びっくりしました……そんなはずはないのに」
茂
「あれ? それじゃマギアナは俺の名前を初めから知っていたのか?」
マギアナはギクッとした。
そのあからさまで隠せない表情は実に子供っぽいが、そこに茜が補足する。
茜
「マギアナはソウルハートで、対象の思考を読むことが可能」
マギアナ
「そうです! 分かっちゃったんです!」
そうか、そう言えばマギアナはそういう機能を有したポケモンだったな。
茂
「そうそう! 確かフルマーマーマギアナは圧巻だったな!」
茜
「ご主人様?」
茂
「……あれ? フルマーマーなんて、俺どこで見たっけ?」
だが、スーパーロボットのような巨大なマギアナが俺の脳裏には浮かんでいた。
しかそんな物を見た覚えはない。
じゃあなんの記憶だ?
マギアナ
「あ、あの! 私もう行かないといけませんので!」
マギアナはドレスの裾を持つと、優雅に頭を下げて、足早にその場を去って行った。
茂
「なんか既視感はあるのに、答えが出てこないって……変だよな」
茜
「デジャビュ?」
そうなんだろうが、それじゃマギアナを何故か見覚えのあるってどういうことだ?
俺は訝しんでいると、マギアナと入れ違うように見慣れた顔がやってきた。
真莉愛
「あら? 常葉さん奇遇ね」
茂
「御影さん、アミューズメントパークで出会うなんて、仕事ですか?」
真莉愛
「そうなの、見慣れないPKMが彷徨っているって聞いて、もしかしたら行方不明のPKMじゃないかって」
御影さんは未だスリーパーに連れ去られたPKMを探しているようだ。
茜
「多分関係ない」
真莉愛
「え? それはどういう?」
茂
「マギアナがいたのは事実ですけど、行方不明って感じではなかったですよ」
真莉愛
「マギアナ? まだ未確認のPKMじゃない! 何処に行ったの!?」
俺たちは出口を指す。
真莉愛
「もう! 珍しいPKMは悪い組織に狙われやすいのに!」
御影さんは慌てた様子でゲーセンを後にした。
茂
「相変わらず休む間もなし……だな」
茜
「マギアナ……この世界で一体何の用があるんでしょう」
そう言えば、割と慌てた様子でマギアナもゲームセンターを出て行ったが、御影さんが知らなかったって事は、まだ来たばっかりという事になる。
……やっぱりマギアナ、なんか怪しい気がする。
まぁ縁があるならまた会うだろう。
今は神様の正体を探るのが先だからな。
茂
「茜、そう言えばああいうのはやったことないよな?」
俺はレトロゲームの中でもそこそこ珍しい物を発見する。
○カツキ電光戦記、俺も良くは知らん。
茜
「色物しかいない?」
茂
「いないな」
茜は興味深そうにその筐体へ向かう。
さて、一体誰選ぶんだろうな。
茂
「て……戦車かよ!?」
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第27話 戦争の起こらなかった世界線の顛末 完
第28話に続く。