突然始まるポケモン娘と○○○する物語





小説トップ
第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第26話 トキワは緑、永遠の色

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第26話 トキワは緑、永遠の色



 「大城、今日は見舞い行くからな」

大城
 「は? 何言ってんのお前?」

グラエナ姉妹を救ってから特に動きはなかった。
もう一度グリナちゃんが狙われる危険性もあったが、流石に御影さんのガードが効いたか、結局何もなかった。
それは当然黒幕も尻尾一つ見せていないという事だが。
そんな中いよいよ戦争前日にまで来てしまう。
とりあえず俺は今日は大城がPKMを庇って入院することを知っているので、一応報告しておいた。
助ける事も出来るだろうが、出会いを無くしてしまうのは無粋だろう。
よって、遠慮無く事故ってこい!

大城
 「今日の常葉変だな……」

大城はそう言うと、サイフだけ持って会社を出ていく。
今日に限り大城はいつもは行かない街の中心に行ってしまう。
そして俺は弁当を持って休憩所に向かった。

夏川
 「あ、常葉ー! えらいことなったぞ!」


 「重慶コンビナートの炎上か?」

夏川は休憩前に一度、最新情報を洗う癖がある。
俺は見なくても分かるが、夏川にとっては当然初なので、これ程驚いているのだろう。

夏川
 「そ、そうそう! 遂にストライキに火が付いたんだ!」

中国重慶でストライキは長く続いていた。
それに初めからPKMが関わっていたのかは分からないが、かなり強力なPKMが暴走したのは間違いない。
世界全体からPKMの心証が下がったのは間違いないが、それでも致命的じゃない。
重慶の方は情状酌量の余地もあるようだし、直接人類に宣戦布告する黒幕が一番やばい。
これを黒幕一人の問題にまで落とせば、勝手に黒幕が自滅するんだが。


 (ん? そう言えば……黒幕はどこから兵隊持ってきてるんだ?)

戦争開始時点で全国にいるPKMは推定1万人、とはいえ野良は争奪戦、PKM連合1000人規模を纏めて集めるには不安定すぎる。
どうやればその1000人を集める?
もし俺が黒幕なら……手っ取り早く野良のPKMを大量に確保出来るのは……!


 「PKM収容所か!?」

夏川
 「え? 突然どうしたの?」


 「夏川、PKM収容所って確か1000人位収容出来るんだよな?」

夏川
 「正確には1000人で、実際には過剰収容していると思うけど……」

どちらにせよ、戦争当初のPKM連合の戦力規模は充分賄える!
俺は急いでメールソフトを開き、白というPKMに御影さん宛のメールを送った。



***




 「マスター、常葉氏からメールです」

真莉愛
 「何かしら……え?」

激化する対策部の仕事、加速度的に増えるPKMを警察や自衛隊まで総動員しているが、どう考えても人の数が足りない。
それでも私は常葉さんに協力すると言った。
だから、その内容を見て驚く。

真莉愛
 「PKM収容所に気を付けろ? 狙われているって言うの?」


 「収容所内、現在は正常……いえ、イエローアラート、最近頻発してますね」

PKM収容所もいつも問題なしという訳ではない。
可能な限りPKM達に快適に過ごして貰えるように配慮はしているが、それでも狭い世界に不満を持つ者もいる。
特にここ最近はPKM同士が喧嘩するなんて報告もある。
1000人以上がいる収容所自体過剰収容しているのに、それが更に?

真莉愛
 「悪夢なんて状態じゃないわよ……」

私は急いでPKM収容所に車を走らせる。


 「PKM収容所内の監視データ、繋いでおきます」

真莉愛
 「何か異常があれば、すぐ教えて」

常葉さんがいうPKMの独立、そして人類への宣戦布告、それらが真実であるならば、確かに最も危険なのは収容所かもしれない。
常葉さんのメールは、収容所に気を付けろ、何か変化はないかという物だった。
ここ最近の不満の爆発、それ自体が実は煽動された物の可能性もある。
陰謀論染みているが、既に未来予知を2回成功させ、それをタイムリープという常葉さんの言葉を無視は出来ない。


 「? 今、何か?」

車の後部座席でノートパソコンを叩く白が顔を顰めた。
私はミラーで後ろを確認して白に聞く。

真莉愛
 「何かあったの?」


 「一瞬映像に乱れが、多分通信のラグだと思いますけど」

何か一大事になれば、向こう側から緊急信号を放つ筈だ。
今の所それがないという事は収容所の職員だけで対処可能なのだろう。
だが……こんな事人間に想定しろと言うのか。
私は収容所で現実を知る。



***




 「これって……?」

真莉愛
 「あ……あ」

収容所の白い外観は無残な物だった。
あらゆるガラスは破壊され、そして人の気配がしない。


 「……やられた、映像を改竄されてる」

白は今も施設内の映像をジャックしているはずだ。
しかし明らかに見えている景色との違いに気付き無念さを現している。
私は急いで職員室に向かった。


職員室には約20人の職員が常駐している。

真莉愛
 「この施設の惨状はなに!? 誰か答えなさい!」

職員は皆、何も見えていないのか目を虚ろにして立っていたり、パソコンの前に座って静止している。

職員
 「運営において、異常なし……異常なし」


 「!」

白は職員の様子を見て、あやしい光を放った。
その上で頭部をひっぱたく!

職員
 「うえ!? あれ……御影さん!?」

真莉愛
 「警報発令……、館内のシステムチェック」

職員
 「あ、は……はい! お前ら仕事だ!」

その言葉に、急に意識を取り戻した職員達は一斉に動き出す。
先ほどまでとは打って変わって機敏な動き。


 「洗脳されてた……かなり高度な集団催眠だと思います」

真莉愛
 「黒幕はエスパータイプ、改めてその力を抜かったわ」

恐らく収容所のPKMは既に全員連れ去られたのだろう。
黒幕の兵隊として使うために。
そのために偽装は完璧だったという事か。

真莉愛
 「常葉さんに連絡しないと!」



***



連絡が入ったのは夜8時の事だった。
予想通り入院騒ぎになった大城の見舞いも終わらせた後、俺はその連絡を受けて急いで収容所に向かうことになる。
とはいえ収容所の場所は秘匿されているし、簡単には近寄れない場所にある。
結局PKM対策部の人の協力を得て、収容所に着いたのは深夜を回ろうかという時間だった。


 「……やられたか」

俺は施設の無残な破壊っぷりに頭を抱える。
とはいえ、黒幕の目的から、兵隊をどこから集めていたかは正解だったみたいだな。
PKM連合の大部分はこの収容所のPKMか。


 「御影さん! 全て連れ去られましたか?」

俺は施設入り口に重苦しい顔で立っていた御影さんに走り寄る。

真莉愛
 「一人だけ、クルマユだけが連れ去られなかったわ」


 「クルマユ?」

クルマユ
 「チーっす」

御影さんから数メートル離れた所で、被災者のように毛布を頭から被った少女が手を挙げた。
……何というか現代風にデフォルメされたクルマユがジト目で俺を見ている。
なんでこの子だけ無事だったんだ?


 「君、一体この収容所で何があったんだ?」

クルマユ
 「まぁアレですよ、ポケモンも不満が爆発する時はあるというか」

真莉愛
 「状況把握だけど、いつものように喧嘩が始まったと思ったら何故か全員が興奮状態で暴徒化したそうよ」

クルマユ
 「そうなのです、大人しいマリルちゃんまでおかしくなっちまったのです」

真莉愛
 「で、この子はそれさえ「めんどい」で押し切って無事だったの」


 「4文字−!」

やる気の無さが無事を保証したのか。
ということは黒幕の洗脳には何か条件がある?
少なくとも洗脳できるならもっと無差別にすることもありえるはずだ。
例えば、アセリナもグリナちゃんごと洗脳すれば良かった筈だ。
でもそれが出来ないのは、洗脳に高度な思考能力を与えられないという事が考えられる。
これなら、PKMの指導者として欲しているアセリナが洗脳されていない事に合点がいく。
他にも、洗脳には保護責任者付きが選ばれていない事になにか関係があるのかも知れない。

真莉愛
 「……それとね、常葉さんに会いたいって子が、懲罰房にいるの」


 「俺に?」

真莉愛さんは施設の奥へと先導してくれる。
俺はその後ろを着いていく。
PKM収容所は大きく分けて、居住スペースと、教育スペース、そして懲罰房に分類される。
居住スペースと教育スペースとは独立して、PKMが怖れて近寄らない懲罰房。
その一番最奥で俺は彼女と再会した。

ハニー
 「お久しぶりです……常葉さん」


 「ハニーさん!」

懲罰房の最奥、小さな独房で一人だけ佇むのはかつてDV被害を受けたビークインのハニーさんだった。
懲罰房には小さな覗き窓しかない、だけど俺はドアを開けて中に入った。
ハニーさんは俺の姿を直に見ると涙を一筋零した。

真莉愛
 「彼女は既に懲罰房で過ごす必要はなかったのだけど、自分が犯した罪を受け入れ、ずっとここにいたの」

たった一人のご主人様のために、全てを敵に回したハニーさんも、その矛盾には気が付いていた。
だからこそ、今はまだ戒めの時だと考えていたのだろう。
きっと今も名の呪縛は有効だ。
あの赤城に命令されれば、ハニーさんは何をするか分からない。
それを嫌って、隠者のようになったんだろうな。

ハニー
 「常葉さん、今外で何が起きているのでしょうか?」


 「……明日PKM連合が旗揚げと同時に人類に宣戦布告をして、東京を占拠します」

ハニーさんはそれを聞くと、口元に手を当てた。

ハニー
 「そう……だからあの人はここに来たのね」


 「あの人?」

ハニー
 「今から少し前にあった出来事を話します……」



***



ハニー
 「なんだか騒がしい?」

それは、収容所で暴動が起きている時間だった。

カツン、カツン。

床を叩く足音が懲罰房に響く。
それと同時に懲罰房の鍵が解錠される音が響く。
異常事態だとは理解できたが、私は動じなかった。
ただ、足音は私の房の前で止まった。


 「ハニーさんですね?」

ハニー
 「どなたでしょうか?」

その人は覗き窓から顔を覗かせるが、時折なにか振って顔を隠す。
ただ、その視線はなにか赤城様を思わせる目だった。


 「貴方のご主人をお救いしたくありませんか?」

ハニー
 「ご主人様を?」

私は目を細めた。
ブブブと私の裾の虫たちが警戒を強める。


 「この世界は歪んでいると思いませんか? 貴方にはこの新世界を導く女王になって頂きたい」

ハニー
 「私が女王?」

その人は目を細めた。
喜んでいるとしたら歪んだ瞳だ。


 「そうです! 貴方が女王になれば、ご主人もお喜びになるでしょう!」

ハニー
 「……」

今分かった。
この人の目が赤城様と同じだと思った理由。
目的のために利己的になれる人だ。
それはとても危険だ。
この人は吐き気を催す邪悪その者だ。

ハニー
 「私は女王にはなりません……そして!」

私はその人の目線を睨みつける。
その際、虫を一匹裾から出した。

ハニー
 「貴方は私の大切な物を奪う! どうしてもというならそれ相応の対価を払って貰います!」

私は一斉に虫たち解放する。
狭い独房はあっという間に私の巣になる。


 「いいのですか? 今のままでは一生ご主人とは再会できない」

ハニー
 「貴方に私の心の傷を理解できるのなら……そのような下らない妄言も出なかったでしょうに……」


 「残念ですよ……貴方のその力があれば、女王に相応しいと思ったのですが」

覗き窓からその人は姿を消した。
私は虫たちを裾に戻す。
最初の一匹を除いて。



***




 「……それじゃ奴はハニーさん狙いだったのか」

ディアルガ
 『アセリナが駄目だから、次はハニーか。現金な奴だね』

だが、ハニーさんは明確に黒幕を見ている。
黒幕が欲しいのはPKMを統率できる指導者だ、それは恐らく洗脳した兵士では限界があるからだろう。
なるべく自らの意思でPKM連合に入る方が黒幕にも都合がいい。

ハニー
 「あの人には私の虫があるフェロモンを付着しました……私の虫ならばその存在を追えるでしょう」

ハニーさんは俺の何かを見透かしているのだろうか?

ハニー
 「……常葉さんは私の時もそうでした……きっと皆を救わないと納得しないんですね……けれどその世界は尊く儚い……そして護りたい世界」

真莉愛
 「そうね……全く一般人の癖に難しいこと抱えちゃって」

御影さんが手を組んで笑う。
ハニーさんは俺の手を取ると、跪いた。

ハニー
 「貴方の護りたい世界を私にも護らせてください……」



***



黒幕はハニーさんの攻撃に気が付いているだろうか?
ハニーさんが決して人間やPKMでは知覚できないフェロモンを黒幕に付着したと言った。
そして俺たちは今その黒幕を探しに車で東京に向かっている。
恐らく後12時間も時間の猶予はないのだろう。
御影さんの車の後ろには白ちゃんの他に、ハニーさんとクルマユも乗っていた。

真莉愛
 「そう! 東京、特に国会議事堂周辺に警戒を!」

御影さんは頻繁にガラケーで電話を繰り返していた。
俺は万が一のために家族に一報を入れている。
可能なら現地で合流する予定だ。


 「ハニーさん、探知は可能ですか?」

ハニー
 「半径20km圏内に入れば感知可能なのですが……今は」

ハニーさんは定期的に夜空に虫を放ち、様子を見ている。
もうすぐ日が昇る。
急がなければ、黒幕は洗脳したPKM達を用いて挙兵するだろう。



***



保美香
 「だんな様ったら、家に帰って来たと思ったら直ぐに出かけて……」

伊吹
 「あはは〜言葉の割には嬉しそうだねぇ〜」


 「ご主人様……」

ご主人様から連絡を受けたのは午前5時の事だった。
今は東京に向かっていると言う。
私たちにも力を貸して欲しいと連絡があり、保美香は愚痴を溢しながらも嬉しそうに御飯の用意をしていた。
既に家族全員スタンバイ状態で、何時でも出発可能だ。
でもまだ電車もないし、朝ご飯を抜いては力も出ないと保美香が朝ご飯を強要。
ご主人様が御飯を抜いた事だけは怒っているみたい。

華凛
 「ふ、それにしてもダーリンは一体何と戦っているんだろうな」

美柑
 「なんなんでしょう、主殿最近主人公してますよね〜」

伊吹
 「それってアタシたちが地味になったってこと〜?」

セローラ
 「大丈夫ですよ、元々出番少ない子もいる訳ですし」

保美香
 「て! なんで貴方が紛れ込んでいるんですか!?」

気が付いたら家族じゃない子が混じっている。
セローラはすかさず私の後ろに回ると胸を揉んでくる。

セローラ
 「いやぁ〜、夜這いにチャレンジしてみようと思ったら皆起きているって言うね〜」


 「セローラ、汚い顔を近づけるな」

セローラ
 「いや〜ん! 最近の茜ちゃん怖〜い!」


 「貴様は死ね」

セローラ
 「ちにゃ!?」

私は無造作にセローラの手首を捻る。
すると骨の軋む音と同時にセローラが悶絶した。


 「しかし学ばない奴だな」

保美香
 「あーもう! 朝ごはん一人分多く作らないといけませんわ!」

そう言っても結局セローラ分も用意する保美香。
私はとりあえずセローラを足蹴りしながら。


 「豚めが死んだぞ」

セローラ
 「なんで魔女ッ子になった……シャイセ!」



***



日が明けた。
東京の朝はつくづく早い。
伊達に一都市に1000万もの人間が集まる街じゃないな。
しかしその街がもうすぐ炎で包まれようとしている。

クルマユ
 「ミッションインポッシブル染みてきました」


 「現実は非情だな」

ハニー
 「東京23区全てに虫を放ちました。後は見つけられるかどうか」

真莉愛
 「下手をすれば都内にいない可能性もある訳ね」

兎に角、時間がない。
以前黒幕が動き出したのは13時頃、だがこの時間は簡単に変動すると思われる。

真莉愛
 「それらしい姿を見つけたら、皆探しているんだから必ず見つけるわよ」


 (ディアルガ、お前からはなにか分からないのか?)

ディアルガ
 『パルキアならともかく、私はそう言うのは苦手なんだよね』

やっぱり駄目か、まぁ宛にはしてないが。

ディアルガ
 『今失礼な事考えた?』


 (いいや、これっぽっちも)

クルマユ
 「ねぇ……一つ気になったんだけどさ」

突然クルマユが手を上げた。
一番やる気がなさそうで、なんで付いてきたのか分からんクルマユだが、仲間を助けたいという思い位あるのだろう。

クルマユ
 「暴動起こして出ていっちゃった皆はどこに隠れているの? 1000人もいたんでしょ?」


 「そう言えば、楽に隠せる人数じゃないよな」

山に隠れるにしても空撮技術の高い現代で1000人を隠すのは無理がある。
当然今も山には空撮ドローン飛び交っているだろう。

真莉愛
 「集団テレポートが出来るのなら、どこか大きな倉庫になんかでも潜んでいるのかもね」

クルマユ
 「マリルちゃん……無事だと良いけど」

クルマユも心配する相手がいるなら絶対に助けてやる。
黒幕がどんな理由で戦争を望むのかなんて知らないが、それで他人を巻き込むのは許せない。

ハニー
 「常葉さん、貴方はどうしてそんなに強いんですか?」


 「さぁ? でも護りたい物がある時って、人は強くなるんじゃないですかね」

俺もなんでここまで頑張っているのか正直分からん。
多分根底には茜がいるんだと思うんだけど、結果的にはそれを取り巻くものを護らなければ、茜を真の意味で救うことが出来ないと理解した。
でもそれだけじゃないな、きっと俺が満足できないからだ。
関わってしまった皆を、まるでビジネスライクのようには扱いたくない。

ハニー
 「常葉さんのポケモンになれた娘たちが羨ましいです」

クルマユ
 「ラブだね」

真莉愛
 「愛は罪よねぇ」

二人が茶化すと、ハニーさんは顔を真っ赤にした。
人生というの何があるか分からない。
ハニーさんにとって運は悪かったかもしれないが、そのお陰で今がある。
ハニーさんが望むなら、きっとこれからも良い関係でいられるさ。

ハニー
 「! 皆さん発見しました!」


 「黒幕……散々引っかき回しやがって! 覚悟しやがれ!」

ハニーさんの虫が遂に黒幕を見つけた。
そしてそれはこの戦いの最終決戦になるだろう。

ハニー
 「案内します!」

ハニーさんは走り出す。
俺たちはそれを追った。

ハニー
 「え? 近いの?」

ハニーさんが見つけた場所は近くのビルを指していた。
そこは貸しビルのようで、俺たちは入り口に集まると皆顔を合わせる。

真莉愛
 「私が先行するわ!」

真莉愛さんは、懐から銃を取り出すと貸しビルの階段を昇る。
俺たちはその後ろから階段を昇った。
貸しビルの4階、壁もなく柱だけが立った大部屋に突入すると俺たちは遂に黒幕と顔を合わせる。


 「ほぅ、この場所に気が付きましたか」

真莉愛
 「動かないで! 貴方には国家転覆の容疑があります!」

真莉愛さんは両手で銃を持つと黒幕に向ける。
黒幕は大きな芭蕉扇を振り上げるとその顔はついに晒された。


 「初めまして、私はスリーパーのPKM!」

それは大きな鼻と左手に持たれたリングを吊した振り子、間違いなくスリーパーだ。
身長は180位で、原種よりかなり大きい男のPKMだ。


 「テメェがアセリナとハニーさんを利用した黒幕か」

スリーパー
 「常葉茂ですか……イチイチ私の前に姿を現す厄介なゴミですね!」

ハニー
 「貴方の狂った野望、それを許すわけにはいきません!」

クルマユ
 「皆を返して……!」

ハニーさんはスカートの裾から虫たちを出し、クルマユもまた非力ながら闘志を見せる。
しかしスリーパーは表情を崩さない。
むしろ喜んでさえいる?

スリーパー
 「はははは! 私は嬉しいですよ! 特に常葉茂! お前は一番のイレギュラーだからな!」

ゴゴゴゴゴ!

突然ビルが揺れ出した。
それは地震のようで何かが違う。

スリーパー
 「私は君たちを消すためにこの場所で待っていたのだよ! 一網打尽にするためにな!」

真莉愛
 「まさか!? ビルが崩壊する!?」

震動、それに耐えかねた天井が崩落する。


 「ち!?」

俺は舌打ちした。
何せノーコンテニュークリア出来ると思っていたからな。
そんなに甘くなかったかと舌打ちしたのだ。


 「その時間を巻き戻す!」

次の瞬間、俺はスリーパーを指差した状態だった。
震動は止み、天井の崩落は阻止されている。

スリーパー
 「何故だ!? 何故読まれた!?」

ディアルガ
 『コンテニュー1回ね』

ディアルガは勝ち誇ったように言う。
前にした賭けの事だろうな。
俺は掌に包み込む時の結晶を握り混む。


 (アレは俺が賭けに乗っていないから無効だ)

さて、時間を巻き戻しやり直した俺は先にハニーさんに貸しビルの上階を探らせた上で突入した。
上階には爆弾が設置されており、ハニーさんの虫がそれを解除したのだ。
狼狽するスリーパーに俺はにやりと笑う。


 「相手が勝ち誇ったとき、そいつは既に敗北している!」

スリーパー
 「く! 常葉茂! 貴様の仕業か!?」


 「YESYESYES!」

いかにも、事前にそうさせたのは俺自身。
奴は俺がディアルガと結託している事なんて知らない。
つまり無限コンテニュー出来る俺がこいつに最終的に負ける理由はない。
どんな手を使おうが、必ず最後には勝つ!

スリーパー
 「くそ! 出てこいお前たち!」

スリーパーは目を光らせると、その場に10数人、PKMが出現する。
その中にはクルマユが見覚えのある人物もいるようで。

クルマユ
 「マリルちゃん!」

マリル
 「敵、排除」

スリーパー
 「お前たち! そいつらの足止めをしろ!」

スリーパーはそう言うと階段を昇る。


 「逃がすか!」

俺はそれを追って上へと向かう。

真莉愛
 「常葉さん無理はしないで!」

ハニー
 「こっちを片づけたら直ぐに向かいますので!」

PKMたちは洗脳されているようで、目は虚ろで機械のようだ。
ハニーさんに任せればきっと大丈夫だと思うが、俺はスリーパーを逃がすつもりはない。

上階へと進むと、スリーパーは同じような大部屋で足を止めてブツブツ喋っていた。

スリーパー
 「か、神よ……約束されし神々の黄昏、必ずや……!」


 「何が神だ! お前はここで終わりだ! 戦争なんて絶対に起こさせない!」

俺がたった一人で対峙すると、スリーパーは右手に持った芭蕉扇でその顔を隠した。

スリーパー
 「う……ふふふ、かくなる上は私自らお前を殺す!」

保美香
 「ほう? 誰を殺すと?」

華凛
 「面白いジョークだな」

美柑
 「悪・即・斬!」

ディアルガ
 『コンテニュー2回目』


 (俺は用心深いんだ、保険だよ)

俺はもう一度時の結晶を使い、歴史を修正した。
本来の歴史より少し早くこちらに到着した家族達はスリーパーを取り囲んでいる。

スリーパー
 「馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? 私より先にお前たちがここに潜伏している! あり得ないじゃないか!?」


 「茂さんはそういう人だ、不思議だがな」

伊吹
 「でも〜、そのお陰で〜、こうやって対応出来るんだし〜」


 「終わりです……」


 「チェックメイト、だな?」

スリーパー
 「う、おおおおお! 死ねぇ常葉茂−ッ!」

スリーパーはその手から強力なサイケ光線を放った。
俺はそれを避けると同時に、保美香がスリーパーに触手を突き刺す。

スリーパー
 「くか!?」

保美香
 「お前は死ぬべき存在だが、コールするのはだんな様よ。精々恐怖しなさい」

保美香の神経毒に冒されたスリーパーは振り子と扇子を地面に落とすと痙攣を始めた。

スリーパー
 「う、動かない……足も腕も動かない!」


 「教えろスリーパー、なぜ戦争を求める? 神々の黄昏とはなんだ?」

スリーパー
 「う……た、助けて神様……」

俺はスリーパーに顔を近づけ、なるべく高圧的に質問するが、スリーパーは俺を見ていない。
ただ神に命乞いをしている。

華凛
 「おかしな奴だ、宗教にでも嵌まったのか?」

スリーパー
 「しゅ、宗教ではない……いるのだ神は……! 神々の王へと捧げる儀式……それ、が!?」

直後、スリーパーの身体が強力なサイコキネシスの膜によって包まれた瞬間首がねじ切られた。
俺たちはその光景に戦慄するが、俺と茜だけが全く違う反応だった。


 「神々の王へと捧げる……?」


 (どういうことだ!? 茜の正体を知らない様子だったが、神々の王への儀式だと!?)

ディアルガ
 『馬鹿な……そんな計画聞いた事がない! 第一これは茜様の求める物ではない!』

最も憤慨していたのはディアルガだ。
ディアルガも神の一柱、当然茜への忠誠を誓う存在だ。
その当人の茜が最も困惑して、手を地面につけた。

美柑
 「い、いきなり首が!?」


 「茜! 大丈夫か?」


 「ご、ご主人様……わ、わたし……!」

茜は震えながら涙を流す。
それは自分の知らない所で、このような不本意な事をされていた怒りだろうか、哀しみだろうか。
兎に角俺は茜の身体を抱き寄せると、安心させるように頭を撫でた。

ディアルガ
 『常葉君、一度こっちに来て、話がある』


 (俺も話がある)



***



時の結晶を使用すると俺は真っ白な世界にいた。
ここには俺とディアルガしか存在しない。
ディアルガは随分重苦しい表情を見せたが、とりあえず言葉を見つけたようでそれを出す。

ディアルガ
 「えと、まずはミッション3、クリアだね」


 「嬉しい半分、複雑だけどな」

その理由はお互い分かっているだろう。
俺は単刀直入に聞く。


 「神々に造反者がいるのか?」

ディアルガ
 「分からない……そんな素振りをしてた奴なんて一人もいないし」


 「だが、奴は言った。神々の王へと捧げる儀式だと」

ディアルガは俺の追求に泣きそうな顔をしている。
見た目に反して中身が子供のディアルガはまだ精神的には弱い。
俺も苛めたくなんてない、だが……この事件は既に常世の話ではなくなっている気がしてならない。

ディアルガ
 「ご、御免なさい……わ、わたしが……ちゃんとしてたら……」


 「泣くなディアルガ、茜でさえ知る由もなかったんだぞ……そんなのお前にもどうすることも出来るわけがない」

ディアルガ
 「でも……私が茂君をここまで嗾けた! 私があの世界線を救えるって安易に思ったから!」


 「救えるっ! 諦めるな! 俺たちは救うって誓ったろ!」

ディアルガは酷く弱気だ。
それこそ茜を救うことを諦めそうになっている。
スリーパーを抹殺した何かも分からない中、そして出てくる禁断のワード、弱気になるのも分からなくないが、俺は諦めない!

ディアルガ
 「ねぇ……見て茂君、この世界何もないでしょ?」

ディアルガは両手を広げて、世界に手を差し出す。
だけどこの終わった世界には何もない、真っ白だ。

ディアルガ
 「戦争も阻止した……それなのにこの世界は何も変わらない……王は、茜様は世界を滅ぼしたんだ……もうどうすれば良いのかな? 何をすれば世界を救えるの? 茜様は救えるの?」

依然結末は終わりを差しているこの世界。
この真っ白な世界はどれだけ俺たちが世界線を動かそうと変えられない不変。
それはつまり茜が世界に未だ絶望している証だ。

ディアルガ
 「私怖いよ……! 誰かが王を裏切っているとしたら……私!」

俺はディアルガを抱きしめた。
ディアルガは驚いた顔をした後、大粒の涙で泣いてしまう。

ディアルガ
 「うえぇぇん! 皆、皆良い子なんだ! パルキアだって王のために尽くしている! 不器用だけど真面目なイベルタルやゼルネアスだってそういう子じゃない! ソルガレオだって! ルナアーラだって! 皆悪者じゃない!」

ディアルガはきっと皆愛しているんだ。
きっとディアルガにとって神々は家族のような物。
そしてその家族に疑いが出た、辛いだろう。
愛する者が裏切り者だった時が一番辛い。
今ディアルガはどうしようもない状態だった。


 「泣くなディアルガ、俺がいる。お前だけで戦うな、俺が絶対一緒にいる!」

ディアルガ
 「うぅ、うん。ねぇ……茂君、全てが解決したら私のお願い聞いてくれる約束覚えてる?」


 「確か終わってから報酬全受けってことだったよな」

ディアルガは俺の胸元でコクリと頷く。
しかしディアルガの望みってなんだろう?
ディアルガは泣き止むと静かに言った。

ディアルガ
 「全てが終わった時、私が今のままでいられる自信がないから、一つだけ先に言うね」


 「ああ」

ディアルガ
 「私に、名前を下さい」

ディアルガは俺の体から少し離れると、真剣な面持ちでそう言った。
ポケモン娘にとって名前は……。


 「わかった」

俺は逡巡したが、ディアルガの望みを叶えることにする。
例えこれからディアルガを名前の呪縛に填めてしまうとしても、それがディアルガの望みなら俺が否定するわけにはいかない。


 「クレイジーダイヤモンド!」

ディアルガ
 「ドラドラドラ! なかなか、君らしい良い名前を付けたね。でもねー、もう少しだけ、良い名前を私が付けてあげようか? うむ、それではどんな名前にしようかな?」

すっごいご不満らしいな。
グレイトォな名前だと思うんだが、姓名判断士のネタまで使って拒否るとは。


 「それじゃ永遠(とわ)でどうだ?」

ディアルガ
 「永遠か……うん、それが私の名前だね……私は今から永遠だ」

どうやら受け入れてくれたらしい。
永遠は自分の名前を何度か口にすると嬉しそうに微笑んだ。

永遠
 「茂君……!」

そして永遠は俺に顔を近づけ、その唇を重ねた。


 「お、お前……!?」

流石に不意打ちすぎて戸惑ってしまう。
永遠という名前を貰った性か急に積極的になったな。

永遠
 「茂君、誓いのキスだよ。私は本気で茂君を信じるから!」


 「……当たり前だ! 俺の方が大人なんだから、お前だって泣かせやしない!」

永遠
 「うん! それじゃ元の時間に送るね」


 「ああ、絶対に世界を救う……誰が相手でも!」

永遠の力によって俺は再び元の時間へと帰っていく。
果たしてこの先には何がある?



***



永遠
 「永遠……か」

茂君を元の時間に送ると、再び私はひとりぼっちになっていた。
でも、今は一人の気がしない。

永遠
 「常葉永遠……ときはえいえん……か」

彼が意識したのかは分からない。
でも常葉はその常に咲かした葉を意味する名。
それは即ち永遠……私である。
しばしば長生きした木が時を現すという。
彼は時の旅人として、ある意味その名に刻まれていたのかも知れない。

永遠
 「トキワは緑、永遠の色」



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第26話 トキワは緑、永遠の色 完

第27話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/23(木) 17:42 )