第25話 黒幕を追いかけろ
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第25話 黒幕を追いかけろ
ディアルガ
「パンパカパーン、突然ですが累計50話達成でーす」
茂
「とりあえず100話まで折り返しか……てそんなに話は続かんだろ!」
後正確には累計66話であって、本当に突然だな!
俺は二人っきりの真っ白な世界で思わず突っ込む。
ディアルガのボケの才能は中々高いな、少しはウチの家族にも欲しいもんだ。
俺がボケても乗ってくれる奴が殆どいないのって結構寂しいんだぜ?
セローラでさえも稀にスルーしてくるし、突っ込みに長けているのも美柑位だからな。
ディアルガ
「さて、本編に戻ろうか」
茂
「うむ、とりあえずグリナちゃんを救うのが次の目標だな」
アセリナが残してくれた情報はグリナちゃんの死亡時刻。
アセリナがこの世界を変えたいと願うほど狂ったのは間違いなく妹の死が原因だ。
ならば、グリナちゃんの死を回避出来れば、必然的にアセリナが国会を占拠する理由はなくなる。
ディアルガ
「でも、気になるのは黒幕だよね」
茂
「芭蕉扇……ヤレユータンなのか?」
ヤレユータンはエスパータイプだし、集団催眠やテレポートも可能かもしれない。
だが、気になる言葉も残していた。
茂
「約束されし神々の黄昏……」
ディアルガ
「第一章神々の黄昏」
茂
「クソゲーの方じゃねぇーか! 綺麗ダナーの方も神々の黄昏って言うぞ!」
ディアルガ
「まぁ神キャラが戦えば、そう言うタグが付くのもやむなしだよね」
つーか、話が脱線しているし!
茂
「まさかとは思うが……神々の黄昏ってあの伝説のポケモンオールスターしちまったあの時の事か?」
ディアルガ
「単なる言葉の綾じゃない? そんな超次の出来事を認識出来るポケモンなんているのかな?」
茂
「まぁ随分饒舌家だったみたいだし、考えるだけ無駄なのかもな」
言葉全てに意味があるとは限らない。
特にアレだけよく喋る奴は、中二病的な言葉を挟まずにはいられない物。
ディアルガ
(でも気になる……神々の黄昏のために戦争を起こしたとすると、神々の王の存在を知っている事になる……でもそれは王への造反そのもの……そんな神がいるの?)
茂
「しかしグリナちゃんを救うのは当然だが、問題は黒幕だな」
ディアルガ
「そうだね、黒幕の言を信じるなら、重要なのは独立国家建国ではなく、戦争って事になる」
まさか、建国の方は建前だとは驚いた。
しかしそうなると、浄化作戦も人類側を挑発する手段に過ぎないという事か?
重要なのが、あの泥沼の戦況だとすると……アセリナの指導力は無理には要らないという事か。
茂
「アセリナは少なくとも黒幕と接触している……直接遭遇できれば叩くことも出来るんだが」
問題はここまで臭いすら出さなかった黒幕の隠密性。
果たしてグリナちゃんを救った時、世界線はどう変わる?
ディアルガ
「とりあえず黒幕とっ捕まえるまでに何ループするか、賭けてみない?」
茂
「嫌な言い方するな……それ俺が失敗しまくるみたいじゃないか」
ディアルガ
「いや、実際黒幕とのイタチごっこは間違いないと思うよ」
であろうな……。
黒幕が何者か分からんウチはずっと後手に回るのだけは確かだ。
ディアルガ
「さて……それじゃ23日に送れば良いかな?」
茂
「いや、22日の深夜1時頃で頼む」
ディアルガ
「そりゃ構わないけど……何故?」
茂
「それはな……」
***
意識が唐突に入れ替わる感覚。
タイムリープは記憶だけを移動させる故に、過去の俺が上書きされる。
そして目の前には真っ暗な街並み……そして御影さんが寒そうに防寒着に包まれながら缶コーヒーを手で転がしている。
真莉愛
「お疲れ様、常葉さん」
お疲れ様……つまり俺の取り調べが終わったと言うこと。
振り返ればそこには警察署がある。
つまり襲撃事件直後まで戻ってきた訳だ。
御影さんは缶コーヒー1つを俺に投げてくる。
俺は缶のラベルも見ずに。
茂
「このくだらない世界に」
真莉愛
「ちょ!? それ、私が言いたかったのに!?」
うむ、○OSSだからな、結構前の記憶だが覚えているもんだ。
俺は冷えた身体を温めるようにブラックコーヒーを喉に流し込むと御影さんの傍に寄る。
真莉愛
「貴方の言うとおり襲撃が起きた……結果論では組織の一つを摘発出来そうだけど……やっぱり疑問よね」
茂
「序でにもう一つ未来を予言しますよ。23日20時頃、グリナちゃんが危ない」
真莉愛
「グリナちゃん? もしかしてグラエナ姉妹のグリナちゃん?」
茂
「……それじゃ、ホテルまで行きましょうか」
伝える事は伝えた。
今日を逃すとこれ以降御影さんとは連絡がつかない。
つまり、最も確実な方法論で言えば、この人を利用するのが一番だ。
無論俺も助けに行くが、最も重要なのは黒幕を捕まえる事。
真莉愛
「あ、待って常葉君! ホテルの場所知っているの!?」
御影さんは情報を精査しながら俺を追ってくる。
明日グリナちゃんに脅威が襲いかかる。
それを御影さんに教えられただけでも意味はあるはずだ。
***
ホテルで皆と一泊した俺は、次の日献花されていた場所までやってくる。
茂
「ここでグリナちゃんは命を落とした……」
?
「お姉ちゃん待ってー!」
俺はふとその声の方向を振り向く。
そこにいたのは幼い姿のグラエナ娘だ。
アセリナ
「グリナ! お前はもうグラエナなんだぞ。大人の仲間入りしたのだからしっかりしろ!」
グリナ
「うぅ……ごめんなさい」
アセリナとグリナ、アセリナは厳格な姉として妹に振る舞っているようだ。
傍目から見ればまだまだ子供といった感じのグリナちゃん、だが姉妹の仲は良さそうだ。
ディアルガ
『仲良し姉妹の連携パワーで悪漢なんて一捻りだろうに』
ディアルガは茶化すようにそう言った。
確かに、特に姉の方はかなり強いみたいだし、追い返す事は可能だったはずだ。
茂
「PKMが人間を傷付ければ厳しく罰せられる……それを怖れたとしても命を失うよりはマシの筈だしな」
だが、現実にあの幼いグラエナ娘は命を落としてしまったのだ。
悲しい現実だが、それは変えられる。
何故なら俺がここにいるのだから。
茂
「さて……様子見もここまでにして新居への引っ越しを進めんとな」
吹っ飛んだ家の隣とはいえ、引っ越しは引っ越しだ。
最も今日のところは警察の家宅捜索でなんも出来んが。
茂
「にしても……あの二人はどこに行くんだろうな?」
ディアルガ
『ついて行けば分かるんじゃない?』
茂
「そんな事したら姉の方に殺される気がする」
姉の方は結構気性も怖い。
きっとストーキングがバレたら頭蓋を噛み砕かれるだろう。
茂
「1時間前に張り込めば、嫌でも事件に遭遇するだろう」
俺は家族のいるホテルへと踵を返す。
茂
「そうだ……そう言えばここからだと、あそこが近かったな」
***
カランカラン♪
小気味よいカウベルの音、そして中ではジャズ調の曲が流れている。
団子
「ご主人様、お帰りなさいませにゃ」
ニャスパーの団子ちゃんが来客の接待をしてくれる。
とりあえずニャスパーの性か目だけが笑っていないため、凄まじく不気味な接待だな。
晃
「あらぁ? 常葉ちゃんじゃないの〜?」
席に案内される前にキッチンから店長の金剛寺が現れた。
金剛寺店長は俺に聞きたい事があるようだ。
晃
「事件に巻き込まれたって、凪ちゃんが言っていたけど、大丈夫なの?」
茂
「それはもう解決しましたので、明後日位から二人も出られると思います」
晃
「そう? 無理はしないでね? 凪ちゃんも華凛ちゃんも貴方の事とっても心配していたわよ」
ううむ、まぁいくら死んでもタイムリープ可能なチート状態なんだが、信用してもらえる訳ないもんな。
茜以外は俺の命は一つだし、凄い心配しているのは分かる。
だが、俺は止まれない……ディアルガとの約束もあるが、それ以上に皆の悲劇を止めたい。
団子
「あの、お席にご案内しますにゃ」
茂
「ああ、お願い」
店は相変わらずの盛況っぷりだ。
店内のメイドさんたちも忙しそうに働いている。
星火
「あ、ダーリンさんじゃん!」
茂
「あの時の生首か! ていうかダーリンさんって?」
星火
「華凛ちゃんが貴方の事ダーリンって自慢するから、すっかりダーリンさんってここじゃ言われてるよ」
ぬふ……アレ結構恥ずかしいんだけど、華凛の奴所構わず使ってるのか。
ダーリンさんって微妙に他人行儀なのもなんか恥ずかしい。
星火
「それでホテルでは、ばっこんばっこんやってるの?」
茂
「いや、泊まってるのラブホじゃねーから!」
星火は俺の反論に「えー」と漏らすが、華凛の奴普段どんな話しているんだ?
平気で猥談してそうで、今度徹底的に追及する必要があるかも知れん。
星火
「華凛ちゃんなら絶対ベッドの上で跳ねまくると思うんだけどなぁ〜」
茂
「隠語の隠し方が下手! つかウチは健全だ!」
希望
「あの〜、そろそろ席に……」
いい加減漫才染みてきたところに、小っさいながらしっかり者の希望(のぞみ)ちゃんが、星火を止めるとようやく席に着ける。
それにしてもこの店突っ込みが少なそうだな。
ずっと傍にいた団子ちゃんは表情も変えずにじっとしていたし、星火がボケ始めたら普段どうしているんだろう。
晃
「星火、ちょっとこっちに来なさい」
星火
「あ……お仕置き確定だ……orz」
流石に客商売、調子に乗りすぎるとお仕置きがあるらしい。
星火は見た目からがっくりしながらキッチンへ向かう姿は哀愁が漂う。
一方で俺はメニュー表を渡され、団子ちゃんはじっとそれを見つめた。
相変わらず表情も変えないが、この子もエスパータイプなんだよな。
茂
「なぁ団子ちゃんって、テレパシーとか、テレポートとか出来るのか?」
団子
「……念動力は得意、でも操るのは苦手にゃ」
団子ちゃんはそう言うと閉じた猫耳を動かした。
ニャスパーの念動力は耳から放出するらしく、耳を垂れさせて閉じるのは力を制御するためだそうだ。
そういう意味では、黒幕の超能力は下手をすればナツメに匹敵するのか?
そう言えば、サーナイトも本気を出すと小型のブラックホールを生み出す力を発揮するとか図鑑にあったよな。
流石にどんだけ小さくとも重力崩壊を起こさせられたら、太陽系が消えるから、絶対に本気にならないで頂きたいものだ。
そういう意味では目下黒幕の正体に一番近そうなヤレユータンは、知恵の高さが象徴だが、エスパーとしては未来予知に長けている。
果たして黒幕の正体は何者だ?
なにゆえ戦争を望むのか。
茂
「とりあえずコーヒーで」
団子
「畏まりましたにゃ」
団子ちゃんはメニュー表を手に持つと、そのままキッチンに向かう。
キッチンでは首なし星火がお説教中のようだ。
ここの皆は実に平和だな。
ある意味華凛たちを安心して任せられる。
だから、この辺りで殺人なんて絶対に起こさせない。
茂
(絶対にあの姉妹を哀しませない、それは未来のアセリナとの約束だ)
団子
「コーヒーお待たせしましたにゃ、それと店長がこれをって……」
茂
「えらく早いな……て、メッセージカード?」
俺は頼んで直ぐくらいに思っていたのだが、団子ちゃんはトレイにコーヒーとショートケーキ、そしてメッセージカードを添えていた。
俺はそのメッセージカードを読む。
『まずは星火ちゃんが、粗相をしたお詫び。そしてこれは、貴方が何かを隠しているみたいだけど言えない貴方への、頑張ってって応援よ』
茂
(店長……)
ディアルガ
『泣かせるねぇ』
メッセージカードには達筆で綺麗な文字でそう書かれていた。
俺はそういう事ならと、ショートケーキを有り難く受け取った。
そして俺は益々グリナちゃんを助ける闘志を燃やす。
グリナちゃんを助けたら……次は黒幕だ。
絶対に正体を突き詰めてやる!
***
11月23日夜10時。
俺は献花のされることになる電灯が見える場所で隠れるように、息を潜めた。
しかしまぁ、この街はいつから陰謀が飛び交う魔都になっちまったんだろうな。
2日前にはウチが爆破され、そして今日は殺人事件が起きる。
ディアルガ
『そのうち第二の○華町なんて言われるんじゃない?』
茂
(あの町は訳あり物件が多すぎて、外伝で皮肉られたろ! あんな恐ろしい町に住みたくないわ!)
ディアルガ
『まぁ殆ど名探偵少年に明るみされただけなんだけどね』
いずれにしても世界一警部が忙しく働く町であろう。
……冗談みたいだが、しかし妙に思わんでもない。
俺、いや茜か……、つまり俺達の周りは異常な事が発生しやすいように思える。
ディアルガ
『特異点の崩壊かな?』
茂
(お前でも知らんのか?)
ディアルガ
『一神教のような全知全能神じゃないんでね、茜様の意向を考えたら、不自然だしね』
確かに、茜が求めているのは平穏だ。
決して、世紀末じゃない。
まぁ世紀末を求めているのは黒幕と、一部の人類位だろうが。
それでも、事件発生率は徐々に上がっている。
始めは本当に誰にも迷惑をかけない範囲で、しかし気が付けば見えない人々が陰謀に利用されている。
ディアルガ
『おっと、無駄話が過ぎた。来たよ』
茂
「……!」
俺は電柱の周囲を見る。
オレンジ色の手編みマフラー巻いた少女は俯いたまま一人道を歩いている。
グリナちゃん、アセリナの妹でこの日命を落とす少女。
見た目は同じ種族だけにアセリナそっくりだが、2頭身は小さい分、黒い茜みたいだ。
艶のある黒髪に所々灰色のメッシュが入っており、大人と子供の中間のように思える。
あと5年すれば、姉同様美人さんになるだろうと、想像出来るな。
さて……とはいえここは工場街に近く、夜になると極端に視界が悪い。
グリナちゃんが電灯に近寄る辺りでグリナちゃんは不意に後ろを振り返った。
グリナ
「……え?」
悪漢
「うへへへ……!」
それは、マスクで素顔を隠したあからさまに怪しい男だった。
左手には包丁を握っており、グリナちゃんに近寄る。
グリナ
「あ……こ、来ないで……」
悪漢
「メケメケメケメケ……!」
ディアルガ
『キチガイだ!』
茂
「待てぇい!」
俺は極めて大声を出して暗闇から現れる。
二人は俺の方を見た。
悪漢
「ケヒ?」
グリナ
「だ、だれ……?」
茂
「もう大丈夫だ……何故って?」
俺は光の中に歩んでいく。
茂
「俺が来たからだ!」
ディアルガ
『ある意味人生で一度は言いたいセリフだよねぇ』
ディアルガに茶化されるが、ここに求められるのはヒーローであること意外にもう一つある。
アセリナ
「グリナ!」
グリナ
「お、お姉ちゃん!」
俺の大声に気が付いたアセリナが慌てたように走って現れた。
グリナちゃんはアセリナに気が付くと、慌ててその豊満な胸に飛びついた。
俺は背中から予め用意していた木刀を抜いて、悪漢に構える。
悪漢
「しゃ……シャラーッ!」
茂
「チェストーッ!」
悪漢は一心不乱に包丁を振り回して襲ってくる。
マスクでよく分からないが、涎垂らして目がイっているのが分かった。
とはいえ素人だ、こっちは化け物みてぇな奴らと剣戟してきた事もある。
少なくとも何度も戦ったヤミラミのクリストに比べたら雑魚だ。
だから俺はその頭部に木刀を叩き込んだ!
悪漢
「ぱわっ!?」
直後、悪漢が一瞬闇に包まれた。
見覚えのある物に、とりあえず俺の忠告は役だったかと確信する。
真莉愛
「……常葉さんの言うとおりって事かしら……とはいえ謹慎中の筈では?」
愛紗
「悪漢、鎮圧成功の様です」
悪漢の後ろから現れたのは黒スーツにグラサンという割といつも通りの御影さんと黒ドレス姿で寒くないのか心配になる愛紗ちゃんだった。
愛紗ちゃんの暴徒鎮圧能力は高いよな。
茂
「命が掛かっていたんで」
真莉愛
「謹慎は貴方の身の安全を守るため何ですがね?」
二人は悪漢に近寄ると、マスクを剥がした。
序でに俺もその顔を見るが、なんてことのない普通のおじさんのようだが?
真莉愛
「兎に角、警察に通報ね」
御影さんはガラケーを取り出すと、警察に連絡を始める。
一方でアセリナたちが近寄ってきた。
アセリナ
「よく分からないが、妹を助けて頂きありがとう」
グリナ
「あの、おじさん……」
茂
「誰がおじさんだ! 俺はおにいさんだ!」
グリナ
「ご、ごめんなさい!」
思わぬおじさん発言に流石に少し声を荒げてしまった。
そんな見た目老けてるのかなぁと心配してしまう。
グリナ
「あの、ありがとうございますっ!」
茂
「ん……危ない人も多いからな、気を付けてな」
そう言って俺はグリナちゃんの頭を優しく撫でる。
グリナ
「あぅ……」
グリナちゃんはぽぅ……と頬赤くすると、耳が下手れて気持ちよさそうにしている。
一方で俺はグリナちゃんの上質な毛並みを見事に思う。
ディアルガ
『君のナデナデは魔法だね』
茂
(小さい子を見ると無意識にやってしまう)
そのうちセクハラで訴えられそうで怖い。
幸いか、特に撫でられるのを嫌う人物にはまだ遭遇していない。
グリナちゃんも尻尾を振っており、もう少し撫でて欲しいようだ。
アセリナ
「グリナ! 甘えるな!」
グリナ
「はうぅ!? ご、ごめんなさいお姉ちゃん!」
厳格な姉の方は甘えた犬のような姿を見せるグリナに一喝した。
グラエナというのはつくづく集団性と厳格な階級制度を感じさせる。
そういう所に犬ではなくオオカミのそれを感じたのかも。
なんて思ったが……気のせいかアセリナも顔を上気させていた。
グリナ
「お姉ちゃんもしてほしいの?」
アセリナ
「ばっ!? 馬鹿なこと言うな!」
ディアルガ
『私もナデナデして欲しいけどなー』
満更でもないらしい。
ごめん、やっぱりワンコだわ。
真莉愛
「盛り上がってる所申し訳ないけど、もう暗いから二人は早く帰りなさい、愛紗はガードをお願い」
愛紗
「イエス、マイマスター」
グラエナ姉妹は改めて頭を下げると、そのまま手を繋いで帰って行く。
愛紗さんは闇に潜ると、もう誰にも視認できない。
夜ならば至る所に潜める愛紗さんは無敵に近いか。
茂
(厳格なのは姉としての威厳だろうけど、失ってからじゃ何も残らない。これからも仲良し姉妹であって欲しいものだ)
真莉愛
「それで常葉さん……2度目の未来予知、本当にタイムリープしているのね」
茂
「今なら信じて貰えるでしょうね」
真莉愛さんは何を思っているだろう。
俺の身の心配か、それとも未来への不安か。
それでも俺はこのお人好しを利用する。
それが最もこのクソッタレな世界から脱出するのに近いはずだから。
茂
「もう間もなくこの世界はPKMで溢れ、PKMたちは武力で独立国家建国と、戦争を勃発させます」
真莉愛
「まさか……なんて陳腐よね。いいわ! それでお姉さんに何を求めているの?」
茂
「まだ全て掴んでいるわけじゃない……でも戦争を望んでいるのはいつも大きな芭蕉扇で顔を隠した超能力者……恐らくエスパーポケモン」
真莉愛
「それが黒幕って訳?」
俺はコクリと頷く。
分かっているのは、アセリナを利用してその実力と指導力でPKM連合を統率しようとしていたこと。
そして、目的は建国ではなく戦争だと言うこと。
未だ戦争の目的が不明瞭だが、少なくともこれで黒幕はアセリナを利用する事は不可能の筈だ。
妹を理不尽に殺された現代社会への恨みがアセリナの動機だった以上、もうアセリナが性急に改革を進める理由はない。
ゆくゆく政治の道へ進むかも知れないが、それはPKM法の改正を待つより他ないだろう。
真莉愛
「戦争……そんな絶対に止めないといけない」
茂
「そう思うなら、東京は狙われています。黒幕は関東1000万人虐殺も辞さない」
御影さんからすれば、衝撃的だろう。
だが俺は何度もその歴史に直面してきた。
今ようやく最大の難関であったアセリナを名実とも止める事に成功した。
ディアルガ
『まぁその点はミッション2、クリアーだね』
茂
(そしてミッション3……)
ディアルガ
『黒幕を押さえろ……だね!』
しかしそれは、どうすれば叶うのか……。
黒幕は極端なほど、その姿を誰にも見せていない。
直接交渉したアセリナでさえも、芭蕉扇しか見ていないのだ。
本当に○F団の十傑集みたいな奴だったら嫌だなぁ。
真莉愛
「……もし何か分かったら絶対に教えて、これ……ウチの情報担当をしている白のメールアドレス、ここにメールしてくれたら絶対に動くから」
そう言って御影さんは俺のスマホにそのアドレスを送ってきた。
これは今までは得られなかった御影さんへのホットラインか。
着実に一歩進んだはずだ。
この一歩を何度でも繰り返せば良い……!
茂
「しかこのおじさん何者ですかね?」
真莉愛
「警察の取り調べに正確に答えてくれると良いけど」
俺は今も眠る悪漢を改めてみる。
いかにもキチガイって感じだったが、精神異常者ならとっくの昔に精神病院に入院していると思うが、突発的にしては狂気染みている。
というか、包丁持っていた時点で殺す気満々だよな。
しかし、この殺す気というのが問題だ。
無差別なのか、グリナちゃんを狙っていたのかで大きく異なる。
もし狙っていたなら……殺人まで含めて黒幕の思惑だと言うことになる。
***
黒幕は闇の中から一部始終見ていた。
茂……その男の事を全く知らなかった訳ではない。
ただ取るに足らない無能な人間だとは思っている。
しかしどうして……何故この場に現れたのか?
得体の知れない力に驚異を感じながら、しかし黒幕にとってこれは手段の一つに過ぎない。
?
「思わぬ横やりに失敗してしまいましたか。アセリナは実に良い働きをするだけに少し勿体ないですが、まぁ替えは利くでしょう……それよりはPKM収容所の方へ力を注ぎますか」
黒幕は再び闇へと消えた。
一方でPKM収容所では。
***
クルマユ
「……?」
今日も収容所内は安全だ。
暖かい部屋に御飯、ここはヘブンでしょうか?
だけど全てが丸く収まらないのも現実らしい。
クチート
「だから言ってるでしょう!? このままじゃどうにもなんないって!」
ホーホー
「だからって暴れたって……どうにもならないよぉ……」
シシコ
「懲罰房に行くのは勘弁したいよ」
今日も今日とて、熱心な議論が交わされているようだ。
早く外に出たい子達にとってはここは檻でしかない。
とはいえ私は思うのですよ、檻の中に自分を見いだせば、その檻もまたより大きな檻に囲まれている。
自由と言うのはある意味であり得ない。
マリル
「ねぇ、クルマユちゃんはどんなご主人様がいい?」
割と私と仲良しのマリル(草食だから?)ちゃんは、温和で大人しく暴れるが嫌いな子だ。
マリル種は力持ちな子も要る一方でこうやって草食系で大人しい子もいる。
クルマユ
「そだねー、寝る場所と御飯くれる人なら誰でも良い……あと命令しない人」
マリル
「ク、クルマユちゃんらしいね……。私は雑巾扱いしない人が良いなぁ」
クルマユ
「……風評被害じゃないの?」
マリルは雑巾の臭いがすると、一部で言われているらしい。
実際のところ、毎日お風呂に入ってるマリルちゃんからはそんな臭いはしないけど……。
マリル
「それにしても、あの二人、最近喧嘩が多くなってるね」
クルマユ
「全く迷惑な物です」
クチートとホーホーはそれなりにこの収容所では先輩に当たる。
それだけに何時までも現れない保護責任者に苛立ちを覚えているのは分かる。
でも同時に懲罰房行きも嫌だ。
収容所で噂のビークインは二度と外には出られない罰を受けていると、皆には特に怖れられている。
実際はどうだか、分からないけど職員が流布した噂じゃなさそうだし。
クルマユ
「まぁ愛想の良いマリルちゃんなら直ぐにでも見つかる気がするけどなぁ」
まぁ私はこっちの方が気楽で良いですが。
こうして毛布に包まって、ただ惰性を過ごす……至福ではありませんか。
ゴンベ
「うぅ……お腹空いた〜、クルマユの繭って美味しいのかなぁ?」
クルマユ
「!!?」
ある意味で私の天敵、そして収容所内では暴食の罪で怖れられているゴンベが現れる。
こいつも大体食ってるか寝ているだけで、今は少しお腹を空かしているらしい。
以前毛布ごと食われかけた事を忘れはしない。
ゴンベの望むご主人様は間違いなくたらふく食わせてくれる人だろうね。
そんな食費払い続けられる金持ちが、この子を選ぶか疑問だけど。
ゴンベ
「そう言えば、さっき見慣れないPKMがいた気が〜」
マリル
「新入りさんかな?」
ゴンベ
「なんだか美味しそうな扇をもったPKMだった〜」
クルマユ
「ヤレユータン?」
扇と言えばヤレユータン。
でもヤレユータンのPKMなんて見た覚えがない。
新入りなら説明もあると思うけど。
マリル
「もうすぐ消灯時間だから、お部屋に戻ろう?」
クルマユ
「面倒い〜、おぶって〜」
気が付けば徐々に談話室から人が捌けている。
消灯時間にここにいたら怒られる。
私は同室に住んでいるマリルちゃんに頼った。
マリル
「わ、私じゃ無理だよ〜!」
クルマユ
「引きずって良いから〜」
マリル
「そんな酷いこと出来ないよぉ〜!」
改めて良い子なマリルちゃんである。
クルマユ
「しかし我々は知る由もなかった……これは惨劇の始まりだという事を」
マリル
「惨劇って何!? クルマユちゃん!?」
それはもう○ウス・オブ・ザ・デッド、もとい○ンビリベンジ的な意味で。
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第25話 黒幕を追いかけろ 完
第26話に続く。