突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第23話 ミッション2

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第23話 ミッション2



 「お久〜」

事件から数日後、暫くは警察の監視や、御影さんの慰問なんかも続いたが、とりあえずようやく解放された。
引っ越せと言われた家だが、とりあえず引っ越しは終わった。
引っ越しの場所は事件が発生した部屋の隣だけどな!

大城
 「常葉! お前最近トラブル多すぎねぇか!?」

夏川
 「おお死んでしまうとは情けないにはならないんだからね!」

そして、こうして無事出勤出来た訳だが。
早速俺は同僚たちに取り囲まれた。

紅理朱
 「常葉さん、災難だったわね……強盗なんて」


 「ん〜、まぁでも終わった事だし、こうやって五体無事だからなぁ」

強盗……世間では、爆弾を使った押し入り強盗事件だと報道された。
一般には外国の事件みたいに思われているが、これは当然真実じゃない。
情報統制、特にこの国はPKM関連の事件に神経質で、なるべく公にしたくないのだ。
当然俺も口外は禁止されているし、一般人が真相を知ることは一生ないだろう。


 「とりあえず常葉茂、本日より仕事再開します!」



***



美柑
 「引っ越しも無事終わりましたね〜」

保美香
 「まぁ隣ですし、間取りも同じですからねぇ」

わたくしたちは先ほど、完全に引っ越しは終了した。
間取りが同じなので、寸分の狂いもなく同じ場所に家財を配置して、違和感は殆どなくなった。

セローラ
 「いやはや、引っ越しとはご苦労ですねぇ〜」

隣に引っ越したという事は、近隣住民も殆ど変わらないという事。
セローラは相変わらず茜の背後からそのおっぱいを鷲づかみにしていた。


 「セローラ……そろそろ怒るよ?」

セローラ
 「う〜、そう言われてもこの至福の感覚は止められない〜」


 「○ガールと○ァンダム、どっちがいい?」

セローラ
 「○黙の戦艦!?」

とりあえず、茜はセローラの手首を捻った。
最近セローラ撃退法がアグレッシブになった気がしますわね。

保美香
 (だんな様といい茜といい、やはり様子がおかしい? 未来の出来事を予知してみせた、だんな様も分かりやすく不自然ですが、茜も……)

セローラ
 「グワーッ!? 手首がー!?」

保美香
 「折れてはいないでしょう? 茜も少しは手加減してあげなさいな」

わたくしは悶絶して床をゴロゴロするセローラを介抱すると、改めて茜を観察する。

伊吹
 「茜ちゃん〜、気になる〜?」

伊吹がわたくしの視線に気が付いたみたいだ。
多分一番聡明な伊吹が気付かない筈はないと思うけれど。

保美香
 「茜……変わりましたわよね?」

伊吹
 「そうだね〜、でも、どんな茜ちゃんでも、別に良いんじゃないかな〜」

それはそうかもしれないけど、やはりわたくしは不安です。
茜とだんな様が同じ日におかしくなったのなら、わたくしは二人にどうして差し上げれば良いのでしょう?
もしわたくしの至らなさであの二人がいつも通りでいられなくなったのなら、わたくしは申し訳がない。

伊吹
 「それより気になるのは〜、茂君を狙う組織だね〜」

保美香
 「……そんなふしだらな事を考えた首謀者は必ず八つ裂きにしてくれますわ!」

襲撃犯は全て捕まえられた。
今はだんな様の証言を検証して、組織の拠点を調査している段階だ。
これといってめぼしい話がないという事は、やはり氷山の一角なんでしょうか?

美柑
 「まぁ平穏が一番ですよ」


 「ん……その通り」

保美香
 「……その通りですわね」



***



真莉愛
 「で、どうだったの?」

愛紗
 「シェルターの方は発見できました、山頂の方でヘリポートらしきものも発見されたようです」

街からほんの10数キロ、普通の山道沿いに常葉さんを襲った組織の拠点があるという。
なぜ常葉さんがその事を知っているのか?
タイムリーパー、もしそれが本当なら彼の重要性は更に跳ね上がる。
ともかく、今はこの国で暗躍する組織を一つづつ潰していくしかない。


 「公安が今、施設に突入したみたい……強烈なジャミングがかかってるね」

ミカルゲの白はノートパソコンを叩きながら、現場の情報をナビゲートする。

真莉愛
 「ジャミングって……大丈夫なの?」


 「少し厳しいかも、自衛隊にも協力してもらった方が良い」

真莉愛
 「また防衛省に迷惑かけることになるか」

私はガラケーを取り出し、相手のアドレスを電話帳から探す。
この世界は一見平和だけど、その内実は常に水面下の危険を秘めている。
今回摘発した組織の規模は計り知れない。
警察が主導して、公安や対PKM戦も想定して私たち対策部もかり出された。
もし成功すれば、史上最大の摘発になるのは間違いないわね。

愛紗
 「組織はPKMを使用するでしょうか?」

真莉愛
 「どうかしら? そこまで愚かでないなら使わないんじゃないかしら」

寧ろ相手の組織の規模を考えるなら、既にもぬけの殻と考えるべきだろう。
電撃戦を本来なら仕掛けるべきだったのに、国家というのは腰が重い。
証拠を持ち去る時間を充分与えてしまった可能性がある。

真莉愛
 「もしもし長官? ええ、仕事の方だけど……」

私は自分の直接の上司に連絡を入れた。
直接防衛相の方に連絡を入れても良いんだけど、筋は通すべきでしょうね。



***



紅理朱
 「常葉さん、いつもお弁当美味しそうですね」


 「ん? ああ……保美香は料理の天才だからな」

お昼時、いつものように端の方で昼飯を食べていると、上戸さんがお弁当を持って対面席に座った。
今日の弁当はスペイン料理だったが、メインはシーフードパエリア。
上戸さんは興味深そうに見ていたが、本人のお弁当はステレオタイプの物だった。


 (……PKMが憎い、か)

俺は上戸さんを見ながらあの戦争の結果を思い出す。
今の上戸さん、PKMが好きじゃないだけで、そこまで憎悪は抱いていないはずだ。
決して銃を構えて、憎しみで撃つ人に見えない。
でも……あの戦争はこの人をそんな風に変えてしまった。

紅理朱
 「? 私の顔に何かついてます?」


 「いや、なんでもない」

俺はそう言って目をそらす。
すると、いつものようにカップ麺を持って大城がやってきた。

大城
 「相変わらず美味そうだな〜!」


 「やらんぞ」

大城
 「あ〜あ、俺も味噌汁を作ってくれる人が欲しいなぁ」

夏川
 「ならばPKMなんて如何? 探してみれば必ず良い子はいると思うけど?」

続いて夏川もコンビニ弁当を携えてやってきた。
大城と夏川はそのまま俺の横に座る。

紅理朱
 「夏川さんってPKMの何がそんなに良いんですか?」

夏川
 「おやお? 上戸さんは否定派?」

紅理朱
 「……肯定派じゃないのは確かです」

やっぱり上戸さんはPKMが嫌いみたいだ。
それでも彼女はPKMを食わず嫌いしているだけだ。


 「夏川もオススメする前に、ホストになって見ろよ」

夏川
 「痛いところ突くね〜、そりゃ一生を掛けてもいいってPKMに出会えれば即ホストになるつもりだけど、基本的には見る専なんで」

大城
 「なんだそれ?」

夏川
 「ほら、電車好きでも乗るのが好きな人、見るのが好きな人、操縦するのが好きな人っているでしょ?」

夏川の熱弁は続く。
アイツは俺を上回るPKM愛好家だ、特にPKMの最新情報は全て把握していると思っていい。


 「そうだ、夏川。PKMの不穏な情報ってないか?」

夏川
 「え? 不穏な情報? そうだね……中国の重慶の方でなんかストライキが起きてるみたいなんだけど、そこにPKMが関わっているっていう情報が入ってるけど」


 (重慶って……たしかPKMによるテロが最初に起きた場所!)

俺はその時絶賛木人形(デク)狩りに遭って居たので、聞いた話だが強力なポケモンが重慶のコンビナートを火の海にしたらしい。


 (ディアルガ、もしかしてこれが戦争の切欠か?)

俺は時の結晶に語りかけると、ディアルガは直ぐに答えた。

ディアルガ
 『それは前兆ではあるけど、直接のトリガーじゃない、例え今から重慶に行って止めたとしても戦争は発生するよ』


 (そうか……)

冷静に考えてPKM連合の拠点は東京だ。
たしか、首謀者は……グリナだったか?


 (御影さんに聞いてみるか)

実はPKM連合の代表のグリナはグラエナだという事を知っている程度。
実際どこに住んでいて、普段何をしているのか。

ディアルガ
 『グリナは間違いなく戦争の核だ……それだけに厄介だよ』


 (なら決まりだな……ミッション2はグリナを止める!)



***



ザワザワ、ザワザワ。

クルマユ
 「……にゅ?」

PKM収容所はなんだかいつもより騒然としている気がした。
私は毛布を被り直し談話室の脇で、状況を静観する。

クルマユ
 「なんか、変だね……」

PKM収容所はそれこそ、十人十色、個性も性格も違いすぎる。
それは重々承知なんだけど、今日はいつもより騒々しい。

クチート
 「だから言ってるでしょう!? このままじゃどうにもなんないって!」

ホーホー
 「だからって暴れたって……どうにもならないよぉ……」

シシコ
 「懲罰房に行くのは勘弁したいよ」

……議題自体は大体いつも同じ。
早くホストを見つけて外に出る事と、懲罰房の話。
少し前にビークインのお姉さんが懲罰房に移されて、まだ戻ってきてないってお話しだし、皆恐れている。
ビークインのお話しはやや脚色されて収容所で噂されている気がするけど、なにかとんでもない事をしたのはたしか何だよね。

クルマユ
 (私は保護責任者とかどうでも良いかなぁ〜……ここ快適だし〜)

もぞもぞと毛布に包まると喧噪からは耳を背ける。
目下最大の関心は今日の晩ご飯だ。



***




 「ん〜! お風呂最高〜♪」

今日も一日の終わり、私はゆっくりお風呂に浸かりながら日々の疲れを癒やした。

ほむら
 「杏上がるの遅ぇんだよ! 何十分入ってんだ!?」


 「私の心は○包だからね!」

なんて言ってみるが、入浴剤というのは良いものだ。
ついつい参考書を読みながら長風呂しちゃった♪

ほむら
 「どけ! 次オレなんだから!」

ほむらは私を乱暴に退けると浴室に入って扉を閉めた。


 「……いつもより機嫌悪いわね」

私はミックスジュースの紙パックを冷蔵庫から取り出すと、箱の側面に取り付けられたストローで吸いながらリビングに行く。


 「組織の摘発、不発で終わったからイライラ溜まってるのよ」

リビングでは相変わらず隅で御影石に座ってノートパソコンを弄くる白がいた。
そう言えば、私だけお留守番だったけど、犯罪組織の拠点に突入したんだっけ。


 「なんの収穫もなしって訳じゃないんでしょ?」


 「研究者は大喜びだったけど、斬った張ったないとほむらは期待外れだったみたい」


 「白は何しているの?」

私はいつもノートパソコンを弄くる白が気になって画面を横から覗き込む。
んが……全く見えない。
コイツ……覗き見防止フィルム貼ってるわね……。


 「とても興味深い物は見つかった……ポケモンの能力を制御する方法」

白は指を止め、にやりと笑った。


 「ポケモンの能力を制御する?」


 「例の組織はまだ大きなフロア程のサイズになる装置だったけど、改良すれば例え伝説のポケモンでも人間相当に力を制限出来るわ……理論的には私もこの御影石から解放される」

白はミカルゲというポケモンで、岩に魂を縛られたゴーストポケモンだ。
ある意味でその60キロ近くある岩は身体の一部だと言える。
でもそれは煩わしい物でもあるのかも知れない。


 「PKMと人間の性能差が、確執を生んでいるのは本当よね」


 「もしこれを携帯できるサイズに改良出来れば、伝説のポケモンだって普通に人間生活に溶け込めるわ」

伝説のポケモンは得てして、強力な力を有している。
グラードンやカイオーガ等、いるだけで迷惑の代表例だろう。
勿論そんな強力なPKMが身近にいたら当然人間は怖れる。
PKMと人間の融和には最も危惧する物だ。


 「所で、愛紗と真莉愛は?」


 「マスターたちなら書斎だと思うけど……」

真莉愛
 「杏〜、そのプロポーションを見せびらかすのは辞めて欲しいわねぇ〜」

ふと話を変えた瞬間、書斎から真莉愛が出てきた。
真莉愛は風呂上りの私のラフな格好を見て眉間に皺を寄せる。


 「真莉愛も人間にしては中々だけど、まだまだねぇ」

真莉愛
 「PKMの肉体って本当に羨ましいわ……はぁ」

愛紗
 「でもセクハラは犯罪です」

真莉愛の後ろから愛紗も現れる。
その胸元には幾つか書類が握られていた。

真莉愛
 「申し訳ないけど、お使いお願いね」

愛紗
 「イエス、マイマスター」

愛紗はそう言ってお辞儀すると、その姿勢のまま闇の中へと吸い込まれた。
あの空間移動便利そうよねぇ。
欠点は昼間だと使う場所が制限されることだけど。


 「書類仕事ご苦労ね」

真莉愛
 「PKM収容所で騒ぎがあってね……管理体制が強まるかも」

真莉愛はそう言うと疲れた顔でソファーにドサッと倒れた。
騒ぎ……相当ソフトに言っている気がするけど、もしかしたら暴動のレベルだったのかも。
既に世界のPKMは10000を越え、そして国内でももうすぐ1000を越えようとしている。
既に国内の収容所は限界で、聞いた話では既に収容所を2つ作っているらしいけど、それも今年中に間に合うものじゃないという事。
増え続ければ、必然的に施設にずっと閉じ込められたPKMの不満は高まるに決まっている。
早々になんとかしないと本当にとんでもない事になりかねない。

ブーブーブー!

真莉愛のガラケーがけたたましく鳴る。
ウンザリ気味の真莉愛は携帯を耳に当てた。

真莉愛
 「はい御影です……は? またぁ!?」


 「え? 何?」

突然真莉愛は跳ね起きると、携帯に向かって怒鳴った。


 「PKM顕現の予兆捕捉……今日だけで20件目」

白がノートパソコンを裏返して画面を見せる。
因みに日本全国だと100件目だそうだ。
この20件は、この近隣地区だけである。

真莉愛
 「白! フォローお願い! 直ぐ出るわ!」


 「イエス、マイマスター」

急に慌ただしくなったわね。
バタバタし始めると、丁度ほむらがお風呂から上がってくる。

ほむら
 「あれ? 緊急出動か?」

真莉愛
 「杏とほむらは家で待機!」


 「はいはい、いってらっしゃい〜」



***




 「……グラエナ、グリナ」

俺は一応ネットでグリナについて調べてみた。
しかしやはり簡単には見つける事は出来ないようだ。
噂になっていたりはしてないかとも思ったが、やはり見つからない。


 (やっぱり御影さんに聞くしかないか)

とはいえ、俺は既に御影さんには何回か電話を掛けているのだが、今の所応答がない。
恐らく仕事に忙殺されている物と思うが、その検討はついている。


 (PKMの顕現率の急上昇……)

元々増加傾向のある顕現率だったが、俺の誕生日からその出現率が跳ね上がっているみたいなんだ。
少なくとも戦争開始時にはPKMの数は国内で1万にも昇る。
今はその過渡期にあたる筈だ。
となると、自力で辿り着くしかないか……。

俺はノートパソコンの置いてある机の後ろに倒れ込む。
俺の後ろにはベッドがあり、毎日保美香が綺麗にしてくれているお陰かふんわりとしている。


 (ディアルガ、お前はなにか知らないのか?)

ディアルガ
 『完全に把握している訳じゃないんだよね……そっちに顕現することも出来ないし』

時を司るポケモンであるディアルガだが、その力は完璧な物ではない。
例えば、まだこの世界は神話級のポケモンが顕現出来る状態ではないらしく、無為やりこの世界に介入は出来ないらしい。
そして過去や未来を操ると言っても、観測範囲には限界がある。

ディアルガ
 『タイムパラドックスは常に起きている、それらから派生するパラレルワールド全ての事象を観測するほどの能力は無いんだよね』

要するに、自分の見てきた経験してきた事象なら説明出来るが、既に事象を一つ改変した現在の事は起きるまで把握出来ないという訳だ。
パルキアならそう言う多元並列的な観測が得意らしいが、いない者の力は借りられないしな。


 (そう言えば、この時の結晶……本当にただお前と俺を繋ぐだけのアイテムって訳じゃねぇだろ)

俺は時の結晶を見る。
時の結晶はぱっと見ではブルーダイヤモンドのような宝石で、大きさは掌で覆える程度の大きさだ。
時々自立的明滅しているようで、特に俺に反応しているみたいだ。

ディアルガ
 『凄いなぁ、言わなきゃ絶対気付かないと思ったのに』


 (知られるとまずいもんなのか?)

ディアルガ
 『そう言うわけじゃないけど、まぁ基本的な役割は普段使っている通りお互いを繋ぐ機能、これを元に必要があれば君をサルベージする』

ふむ、この辺りは流石時の神様だよな。
俺が死のうがお構いなしに、生きてる時間からサルベージするんだから。
とはいえ、さっき言った通り多元並列の観測が苦手なディアルガは必ず観測するための座標点が必要になる。

ディアルガ
 『それでもう一つある能力は……所謂緊急回避ボム?』


 (え!? 何それ、爆発するの!?)

俺はいきなり出てきた予想外の言葉にビックリしてしまう。

ディアルガ
 『可能な限り使う事態になって欲しくない物だけど、時の結晶の力を爆縮させると、人一人位なら時空から抹消できるよ』


 「いや! 怖すぎるわ!」

保美香
 「ど、どうしましただんな様!?」

思わず声に出してしまい、驚いた保美香は俺の部屋に踏み込んでくる。
少し前に事件があった性か、保美香は警戒心を顕わにして周囲を見渡す。


 「いや、独り言だから……すまん」

保美香
 「だんな様……もし何かお困りなのでしたらわたくしは必ずお力になりますわ」

保美香は本当に心苦しそうにしてそう言った。
きっと保美香は俺や茜に気が付いている、だから自分で解決出来ない事に苦しんでいる。


 「大丈夫、時が来れば必ず力を借りるさ、ただ今はまだ待っていて欲しい」

保美香
 「……畏まりました、それではお休みなさいませ」


 「ああ、お休み」

保美香はそう言って恭しく頭を下げると、ドアを静かに閉めた。
俺はノートパソコン電源を落とし、部屋を消灯するとそのまま眠りにつく。



***



翌日、俺は結局御影さんと連絡も取れないまま、いつも通りの日常を送るしかなかった。


 「ぬー、まずい、実にまずい」

仕事場で頬を突きながら俺は愚痴った。
今は労働時間前、皆自由にしている。
俺の後ろでは相変わらずインターネットサーフィンしている夏川、隣の大城はのんびりパンを食っている。
それ以外を見ても、いつも通りで悩んでいるのは俺だけだな。


 (少なく見積もっても後1週間……何としてもグリナの国会占拠を阻止しなければならない)

とはいえ、いざ一人のPKMを捜せと言われても、まずどこに住んでいるのかも分からないのにどうすりゃいいんだ?


 「はぁ〜〜〜」

思わず大きな溜息が出てしまう。

紅恋
 「なんや、常葉けったいな溜息ついて」


 「紅恋さん?」

随分珍しい事に派遣社員の紅恋さんが声を掛けてきた。
普段そこまで話す事ない相手なんだけどな。
しかし当の紅恋さんは大変興味深そうに聞いてきた。

紅恋
 「ほんで何悩んでるんや?」


 「人を捜しているんですよ……いや、正確にはPKMなんだけどさ」

つか、これ紅恋さんに喋っても良いのかな?
当の紅恋さんは人捜しと聞くと、顎に手を当てて考え始めた。

紅恋
 「腕の良い情報屋を知っとるで、良かったら名前を聞かせてくれんか?」

情報屋?
急に顔色を変えた紅恋さんが少し怪しいが、しかし頼れる相手がいないなら頼ってみるか?


 「グラエナのPKMで名前をグリナ」

紅恋
 「グリナか……分かった、聞いといたるわ!」

紅恋さんはそう言うと、自分の席に戻っていった。
……果たしてグリナというPKMは何者なんだろう?
どういう覚悟があれば、全人類に宣戦布告を出来る?
どうすれば1000万の住民を虐殺出来る?


 (必ず止める……そんな悲劇を許す訳にはいかない!)



***



紅恋
 「常葉! 例の人捜し、情報屋に聞いといたで!」

紅恋さんが情報を持ってきたのは3日後の事だった。
個人では到底無理な速度でその情報はもたらされたのだ。

紅恋
 「そのグリナっちゅう子な……一体常葉とどういう関係なん?」


 「どう言うって……お互い会った事もありませんよ」

これは本当だ。
出来ることなら面と向かって話したかったが、人間に憎悪を抱くPKM連合にノコノコ乗り込んだら、即晒し首だったからな。
お陰で、俺一人では答えにたどり着けなかった訳だが。
顔を知っている伊吹たちも、それはあくまで未来の話だからなぁ。

紅恋
 「グリナちゃんな……確かにこの街に住んでる……いや、住んでいたわ」


 「過去形? 引っ越したんですか?」

紅恋
 「いや、正確やない。もうこの世におらんのや」


 「なっ!?」

死んでいる?
そんな筈はない! グリナはPKM連合の代表として人類に戦争を仕掛けるんだぞ!?


 (ディアルガ!? もしかしてこれがタイムパラドックスか!?)

ディアルガ
 『いや、これは並大抵では変えられる筈がない! 運命の大分起点だ! まだ私はβの世界線は観測していない!』

ディアルガはあるがまましか観測できない。
逆に言えば、世界線が分岐して戦争が起きない世界に移れば、それが分かる。


 (つまりまだ俺たちは戦争が起きる世界線にいるという事……)

だが、それなら何故グリナが死んでいる?
もしかしてグリナは戦争のキーではないのか?
だとすると、グリナの役割を担うPKMが現れる可能性が高い!

紅恋
 「一応住所は教えたるわ」

紅蓮さんは住所を書き記した紙切れを俺に手渡すと、陰鬱気味に席へと戻っていく。


 (くそ……どうやらミッション2は1より遥かに高難易度みたいだな)

俺は貰った紙を懐に収めると、会社の窓から見えると外の風景が見えた。
どことなく冬型気圧の曇り空、都心は今年木枯らし一号が吹くかどうかという時期に、水面下では何が起きているのか?
ただ、俺はまるで世界に嘲笑われているのような感覚を覚える。


 (兎に角……一度住所には行ってみよう)



***



紅恋さんの見つけてくれた住所は予想外に、近くではあった。
仕事終わりに住所の近くに行って見ると、小さな住宅街の一角で、街の裏には工場街がある。
その一角、電柱の傍には献花がしてあった。


 「ここでグリナは死んだのか?」

ディアルガ
 『それにしても妙だね、グリナは間違いなく大分起点の核になる人物の筈なのに、そんな簡単に変更できるのかな?』

本来ならグリナを止めれば、戦争は起こらないと思っていた。
だが、その止める対象がいないのに、世界崩壊への運命線は何も変わっていない。
はっきり言って、これから何が起きるのか全く分からない。

俺は掌を強く握りこんだ。
この理不尽に対して俺はどうすればいい?

老人
 「……もしかして、慰問ですかな?」


 「え? あの……おじいさんは?」

俺が献花された電柱の前に立っていると、腰の曲がった温和そうなお爺さんが気になったのか声をかけてくる。
お爺さんはまず献花の前で両手を合わせると、俺と向き合う。

お爺さん
 「ここで、殺人事件がありましてね……グリナは、犯人の凶刃に……」

お爺さんは悔しそうに拳を振るわせる。
その顔は止められなかった者の顔だった。


 「もしかして……保護責任者だったのですか?」

お爺さん
 「ええ、とても気立てもの良い、良い子でした……」

やはり……、もし目の前なんかでそんな事があれば無念でしかないだろう。
PKMは性質的に命名者に対して絶対服従だ、基本能力でも人間に劣ることはまずないのだし、まず真っ先に盾になるだろう。


 (幾つか気になる事はあるが……これ以上はここにいても無意味か)

俺は献花の前で合掌すると、老人に会釈をしてその場から立ち去った。


 (グリナは凶刃に倒れた……笑えないよな)

ディアルガ
 『2重で笑えないよ、グリナは普通のポケモン娘とは違う。アレも英雄としての気質と力がある。○ールドヒーローズに呼ばれてもいい格だよ』


 (頑張れ○ッドマン!)

普通今なら聖杯戦争に英霊として呼ばれる位ならともかくADKとはな……古いぜ。
等とディアルガの妙にノリの良いところとか評価しつつも、俺も生まれる前のネタに突っ込んでしまう。

ディアルガ
 『兎に角だ、これで何が起きるか本当に分からないよ』


 (本当にどう対応すればいいんだよ……)

とはいえ、気になっているのはソレが事件として報道もされていないという事。
それ自体は水面下での情報統制なのかも知れないが、夏川でも掴んでいなかったってなると……。
こういう時、最も頼れる筈の存在である御影さんが一切連絡が付かないっていうのが痛い。
今は爆発的にPKMが増えている時期だからフルタイムで休む暇がないのだろう。
それこそゲートは時間も選ばず出現するから、御影さんも寝る暇があるのか心配だ。
特に年内に死亡フラグ立っているだけに、判断力の低下は致命的の筈だし。

等と御影さんの事を心配しながらも、俺はこれから起きる確定した未来を覆す方法に頭を悩ました。
そうやって知恵熱を出しそうなほど頭を使いながら駅に向かっていると……。


 「……マジでか」

俺は足を止める。
目の前ではゲートが反時計回りに回っているかのように見えた。
ゲート……そう目の前でPKM出現の予兆がでている訳だ。


 「これもタイムパラドックスか?」

ディアルガ
 『変動しても未来には大した影響のないイベントだね』

……という事は、ゲートから出てくる物は直接俺には関係ないということか。
とりあえず俺はスマホを取り出すと国民の義務を果たす事にする。
ゲート発見者は不用意に近寄らず警察に連絡を、毎日テレビで聞く言葉になったなぁ。



***



華凛
 「ダーリン?」

私は仕事終わりにスマホを確認すると、ダーリンがラインで帰りが少し遅くなると発言をしている事に気がついた。
同様に確認した凪も顔を顰めている。


 「可能なら、常に同伴して御身を護りたい所だが……一人でいる時間が長いのは危惧すべきだな」

華凛
 「一度目の襲撃があった以上、2度3度あると思うべき、か」

私はおっぱいを両手で持ち上げて、アジャストするとダーリンの心配に頭を振った。
私はダーリンの現在地が比較的近い事に気が付き、迎えに行くことを提案する。

華凛
 「護衛は必要だな?」


 「当然だ、騎士が護れない等と言ったら本末転倒だからな」

凪のやつ、今でこそ剣も鎧もないことに対する違和感は拭えたようだが、気質は然程変わっていないな。
まぁ私ほど肩の力を抜く必要もないだろうが、意気込みすぎて空回りしないか心配だ。


 「二人とも、夜道は気を付けるのよぉ?」


 「心配ない、私たちはPKMだ」


 「そのPKMでも、近くで死んだのよ? 凶刃に襲われてね……」

店長の言葉に私は少し衝撃を覚える。
殺せば死ぬのは当然だが、実際に現地で殺人事件が起きているという事は、それだけ衝撃的だった。
晃店長も既に店仕舞いを始めながら心配そうに店の奥で仕事する家族を見ている。


 「あの子たちにはなるべく2人以上で行動するようにさせているけど、何が起きるか分からないからね」

華凛
 「ふ、筋骨隆々の店長を見て、辻斬り人も喜んで選びはしないよ」

店長はプロの格闘家並の体格をしている。
これを見て店の子に手を出した客は見たこともない。
まぁポケにゃんのご主人様たちは、純粋に倫理観を守れている大人が多いのもあるが。
私の軽い冗談を聞くと、晃店長も少しだけ頬を綻ばせる。


 「当然よ、絶対に家族には手を出させたりなんてしないんだから!」

華凛
 (当然……当然だな)

私も同様に反芻した。
もうカゲツのような悲劇は二度とご免だ。
だからこそ絶対にダーリンを護ってみせる。
11月21日のような襲撃は絶対に許さない。


 「では、今日はお疲れ様でした」


 「12月から忙しくなると思うけど、来月もよろしくね?」

華凛
 「……冬コミももうすぐか」

私は改めて暦を見て、残り日数を危惧する。
冬コミ用コスプレの制作は遅れており、今年中にレイヤーデビュー出来るか少し不安なのだ。
だが、冬コミは今の私の最大の目的でもある。
この華凛には夢がある! その目的のためにはまずはダーリンの確保だ!



***




 「紅葉が見頃なのも後少しで終わりか」

俺は警察に通報してから15分後、ゲートを警察に任せると帰り道についた。
途中、ふと目に飛び込んでくる紅葉の紅。
ライトアップされた夜景は美しく、同時にもう間もなくこれが奪われるという現実にノイローゼが出そうだ。
実際茜がどれだけ苦心してきたのか少しだけだが理解した。


 (アイツは本当に俺のために尽くして、そして身を粉にして俺を助けようとしたんだな……)

その結果、茜があんな風に暗い子になってしまったって言うんなら、俺は絶対に茜を光の差す道へ戻す!
初めて出会った頃の茜は家の外にも出られないほど弱く臆病な子であった。
それでも少しずつ明るさを得て、そしてしっかりとした成長も見せていたんだ……それが理不尽に奪われて良いわけがない。
幸せは自分の事も考えないといけない、他人のために尽くしばかりでは、独り善がりだ。

ディアルガ
 『なんて言うか、君は強くなったね……王が出会わなければ、君は既に自殺していた程だったのに』

……その点は自覚している。
茜がいなければ、俺はもっとやさぐれていただろう。
人生に楽しい事なんてなかった、理不尽な現実社会に打ちのめされて、夢も希望もなかった。
誰かのために頑張ろうなんて、全く考えもしなかった。

でも、今は違う。
俺は茜を救いたい、茜だけじゃない。
皆を救いたいんだ、誰かが理不尽な犠牲者になるなんて真っ平ご免だ。

華凛
 「ダーリン♪」

突然聞き慣れた猫なで声が聞こえた。
俺は声の方を振り向くと。

ムギュ!


 「ふごぉ!?」

顔面を柔らかく暖かい物が覆う。
この規格外に大きくて柔らかくて暖かい物は!


 「こら、それでは茂さんが窒息するだろうが」

華凛
 「ちぇ、仕方がない」

凪に注意されると、華凛は渋々離れた。
かなりの身長差があるが、流石はPKMか……余裕でおっぱい押し当ててきたな。
俺は改めて呼吸のありがたみを思い出すと、二人を見た。


 「二人とも仕事終わりか」


 「ええ、茂さんが近くにいると分かったので」

華凛
 「まぁダーリンのガードも兼ねてな」

華凛はそう言うと今度は腕に抱きついてきた。
少し歩きにくいが、華凛が満足そうなので止めない。


 「11月21日のような事があった以上、茂さんが一人でいるのは不安だ」

華凛
 「うむ……、どうやらダーリンを狙う馬鹿どもは手段も選ばん奴らのようだからな」


 (……二人はそこを気にしているのか)

俺も警戒はしているが、優先度は高くない。
と言うのも、戦争が始まってからあの組織に手を出されてはいないからだ。
諦めたとも思えないが……とりあえず歴史が証明しているしな。

……等と二人に説明しても、反応は狂人の理解だよな。
タイムリープしてきたから分かると言っても、それを証明は出来ないし、俺自身正確な未来が分からない訳だしな。
例え0.000001%でも不確定なら、俺の家族は全力で心配するはずだ。
それが嬉しいし、同時に不安でもあるのだが。


 (結果的に、皆死んでいく……あんな巫山戯た未来なんて絶対ぶち壊す!)


……しかしそれは、時の神の力を借りても、容易な事ではない。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第23話 ミッション2 完

第24話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/21(火) 16:58 )