第21話 世界の終わり
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第21話 世界の終わり
既に誰も住まない荒廃した住宅街。
駅からも15分程の割合立地の良いところだったが……。
茂
「……あの頃のまま、か」
俺は自分の家に踏み込むと、リビングを見渡した。
玄関のドアが吹き飛んでいたり、ベランダのガラスが割れているが、何もかも無くなったという訳ではないようだ。
特にキッチンのテーブルには誕生日のその時のまま保存されている。
茂
「叶うならもう一度ここからあの生活を再開したかった……でも、それも叶わないんだな」
保美香
「危険すぎます……それに、失った物は二度と帰ってきません……」
華凛
「ふっ、幸運と言うべきか冬コミ用に用意していたコスチュームは無事のようだ」
華凛は一度自分の部屋を見てきたようだ。
その顔は苦笑を浮かべている。
華凛
「……最も、肝心の冬コミが無くなってしまえばな……」
華凛の心には今も冬コミへの羨望があったのだろう。
彼女は一番この異世界での生活をエンジョイしていた。
それが、明日への希望であり、生きる活力。
それだけに、最も戦争なんてくだらないと思っているのは華凛かもしれない。
身の丈に似合わない大太刀も本来なら不要な物の筈だ。
凪
「メイド服……そう言えばポケにゃんは?」
華凛
「分からんが、晃店長が戦争に是正するはずはない」
凪
「ああ、その通りだが……それ故に危険だ」
メイドコスプレ喫茶ポケにゃん、そこの店長である金剛寺晃の事を俺は良く知らない。
でも華凛たちがある意味で俺以上に全幅の信頼を寄せているのは知っている。
無事を祈るしかないが、あの人は多くのPKMを保護する人だ。
その両者の絆を切り裂くことは出来ないだろう。
茂
「ポケにゃん……寄ってみるか?」
美柑
「そうですね、二人とも心配でしょう?」
保美香
「ですが、今からだと帰りは夜になってしまうかもしれませんよ」
凪
「私が飛んで見てこよう、私ならひとっ飛びだからな」
凪はそう言うとベランダで翼を広げて飛び立った。
本当は凪だって心配なはずだ。
凪は年長者だから、我慢してしまう。
鬱憤も溜め込み易いし、たまには単独行動も必要だろう。
保美香
「これ以上ここに用はないでしょう……早くシェルターに帰りましょう」
茂
「分かった」
俺は最後に自分の部屋を見た。
俺の部屋にはベッドと着替え、そしてノートパソコンがあるだけ。
そのどれも今は必要ない……か。
俺たちは刻一刻と日が沈む中、急ぐように家を出た。
***
マンションのエントランスを抜けて、道路側に出ると屋根伝いに誰かが接近してきた。
敵か味方か分からない内は、迷わず美柑と保美香が盾のように俺の前に立ち塞がる。
民家の屋根を跳躍しながら接近してきたのは見覚えのある姿だった。
ほむら
「テメェら……生きてやがったのか!?」
それは、御影さんと共に暮らすPKM、ゴウカザルのほむらさんだった。
アレからほむらさんにも色々あったのだろう、服装は白いタンクトップ一枚とボロボロのジーンズだけ。
冬場にも関わらず恐るべき薄着だが、炎タイプのポケモンだからこそだろう。
茂
「ほむらさん! 良かった、無事だったんですね!」
ほむら
「なんで……!」
茂
「え?」
それは俺とは対照的だった。
俺は相手の無事を喜んだ。
一方で相手を俺を怨嗟の目で見ている。
両腕に徐々に熱が高まり、陽炎が生まれる。
ほむら
「なんでテメェは生き残ってんだよぉ−!!?」
その瞬間、ほむらさんの両腕が爆炎に爆ぜた!
熱風がファンヒーターのように俺たちにまで届く。
保美香たちは一層警戒心を顕わにした。
ほむらさんのその顔は、強い怒りと哀しみが浮かんでいた。
保美香
「警告です、その炎を止めなさい!」
ほむら
「なんでテメェらはそうやってのうのうと生きてやがる!? オレ達がこんだけ苦労した……、全てが無駄になったてのに!」
泣いている、憤怒を湛えながら泣いているのだ。
ほむらさんの炎は最高潮に達する。
ほむら
「うわぁぁぁぁあ!!!」
美柑
「キングシールド!」
ほむらさんが全身から炎を爆ぜる!
それはオーバーヒートか、熱波がこちらまで襲いかかり美柑が俺の前でキングシールドを使う。
保美香
「警告はしました、よ!」
保美香は熱波から顔を守りながら、パワージェムを放つ。
数発拡散させたその一撃がほむらさんの腹部を捉えた。
ほむら
「ガハッ!?」
保美香は殺気を込めてはいない。
だから威力を弱めて、その変わり避けにくいパワージェムを放った。
ほむらさんは腹の中の物をリバースしながら手を地面につくように倒れる。
火は一気に燻った。
ほむら
「ちくしょう……チクショウ!」
華凛
「やれやれ……何があった? 訳も分からず襲われてもこっちは何もしてやれん」
華凛はすかさず屋根の上のほむらさんを抱きかかえると、俺たちの前に降ろした。
既にほむらさんから戦意は感じられない。
茂
「何があった? この1ヶ月の間に」
ほむら
「……最悪だった、戦争が始まって人間とポケモンが殺し合った。真莉愛と愛紗はそれを止めるために奔走したんだ……」
茂
「御影さんは……?」
ほむら
「死んだ、愛紗を庇って、その愛紗も一緒に」
保美香
「っ! そう、ですか……」
死んだ?
御影さんが死んだだと?
俺は一瞬その言葉を疑ったが、ほむらさんは冗談を言える人じゃないことを思い出す。
ほむら
「真莉愛はお前たち人間に撃たれて死んだんだ! オレは人間が憎い!」
茂
「他の皆は? 杏は?」
ほむら
「……知らない、愛紗は真莉愛と一緒に死んだし、杏はアンタを探すって消えた。皆一家離散さ……」
華凛
「ち……戦争とはそういう物とはいえ、胸くそ悪いな」
美柑
「貴方にとってボクたちは嫉妬の対象かもしれません。でも貴方のような被害者を貴方自身が増やして貴方は満足なんですか!?」
ほむら
「うく……わかんないんだよ、オレ馬鹿だから皆がいなくなって、ひとりぼっちになって……」
茂
「……俺には死んだ御影さん達には冥福を祈ることしか出来ない。それでも俺は残された人達まで不幸にしてはいけないと思う」
俺はほむらさんの手を握った。
ほむらさんは泣きじゃくりながら、不思議そうに顔を上げた。
茂
「この手を焼きたければ焼けば良い。それでも俺はほむらさんを絶対見捨てない!」
ほむら
「な、なんで……アンタが」
華凛
「ダーリンは筋金入りのお人好しだよ、少なくとも手が届く範囲なら絶対見捨てない」
見ると、華凛も保美香も笑っている。
俺がこうするって事を彼女たちは理解していたのだろう。
少なくとも俺はほむらさんを救う事は出来ると思う。
なら、涙に頬を濡らすより笑う方が良い!
茂
「俺たちと一緒に行こう。そうすれば少なくとも杏は俺を捜しているんだろう? 必ず再会出来るさ」
ほむら
「お、オレを? オレガサツだし、馬鹿だぜ?」
保美香
「諦めなさい、だんな様はこういう時が一番強いですから」
俺はほむらさんの腕を引っ張って立ち上がらせた。
ほむらさんは背は低いが筋肉質でがっしりした体格をしている。
だが、その内面は言うほど強くはないようだ。
俺は半ば無意識にほむらさんの頭を撫でた。
ほむら
「ん……よせよ、恥ずかしい」
茂
「すまん、つい条件反射で撫でてしまった」
どうも対応が茜に対する物に近くなってしまう。
PKMと言っても、子供みたいな子は意外と多いせいか、不安そうな子にはつい撫でてしまうんだよな。
茂
「ほむらさん、一緒に行こうぜ!」
ほむら
「! ああ、分かった、アンタについて行こう!」
ようやく笑ってくれた。
ほむらさんは快活に笑う方が良い。
さて、後はこれ以上誰かに遭遇しないように帰らんと。
茂
「よし、それじゃシェルターにさっさと――」
その瞬間だった。
美柑
「銃口!? 皆伏せて!」
ガガガガガ!
咄嗟に美柑が反応すると、キングシールドで銃撃を防ぐ。
気が付けば、音もなく無機質なターミネーターのようなロボットが建物の影から現れた。
華凛
「ち! あの時の怪物ロボか!? まさかこの周辺に潜んでいたとはな!」
恐らくこの周辺には、他にも人類側の兵器が潜んでいるのだろう。
以前の空爆の際、少なくとも100体以上は爆弾以外の物が投下されていたようだし、隠密行動中だったのかもしれない。
ほむら
「ち……! うざってぇんだよ!」
ほむらさんは両手から炎を吹き上げ、炎をロボットにぶつけた。
炎はロボットに絡みつき、火だるまにする……しかし。
ロボット
「冷却開始」
華凛
「ち! 相変わらず巫山戯ている程頑丈だな!」
確か華凛と美柑は一度戦ったんだったな
ならアレの驚異も充分分かるか。
保美香
「構っていたら埒があきませんわ! 撤退しますわよ!」
美柑
「殿はボクが!」
俺たちはロボットとは反対側に一目散に逃げる。
美柑は一番後ろでロボットに警戒しながら盾を構える。
ほむら
「オレも後ろは任せろ! 金属なら必ず融解点はあるはずだ!」
併走していたほむらさんは足を止める。
そう言って美柑と共にロボットに対峙した。
茂
「お前たち!」
美柑
「主殿、ボクは主殿の安心安全だ。任せてくれ!」
美柑はそう言うと、ロボットに向かっていった。
俺は二人の安全を信じて走る。
***
美柑
「あのロボとの交戦経験は?」
ほむら
「一度だけな、出鱈目に硬いが動きは重い、それにいくら何でも燃やされながら動くことは出来ないみたいだしな」
成る程、やはりロボットも鋼タイプのような物、ボクよりほむらさんのような炎タイプの方が相性が良いのだろう。
ほむら
「ウーララララ! 火炎放射を喰らえ!」
ほむらさんは両腕から再び火炎放射をロボに放つ。
ロボは素早く動くのが苦手なのは以前の戦いで分かっている。
ボクはなるべく射角から逃れながら接近し、ロボットの後ろから。
美柑
「タァァァ!」
ボクは剣の柄を強く握った。
ロボットの頭部から正中線に聖なる剣で切り裂く!
ロボ
「異常、発、生」
ドォォン!
赤熱した鋼の身体は熱に強くとも無敵ではない。
強度は脆くなり、熱が加えられた状態なら一大刀で倒せる!
ロボはそのまま爆発、撃破した。
ほむら
「おし! 楽勝!」
美柑
「ふぅ……思ったより相性が良いようですね」
ボクは前衛で戦うことしか出来ない不器用なポケモンだ。
だから、効率よくサポートしてくれる相方はそれだけでありがたい。
美柑
「さて、早く主殿に追いつかないと……」
タァン!
特徴的な音、その瞬間腹部が猛烈に熱かった。
熱い? 気が付けばボクの腹部から血が噴いていた。
美柑
「う……あ」
ほむら
「な……ギルガルド娘!?」
ボクはその痛みに倒れる。
後ろから撃たれた?
ロボは倒したはず。
二体目がいた? 違う……ロボの火砲は重機関銃……喰らえば即死だ。
この砲は弱い、対人用?
?
「CP4000オーバー、これ程の大物じゃ対PKM兵器でも苦戦は免れないか」
朦朧とする意識の中、後ろから全身を黒いコンバットスーツで覆った集団が現れた。
ボクを撃ったであろう対人用アサルトライフルが見える。
ほむら
「テメェらよくも!」
ほむらさんが吼える。
だが、集団は動じない。
?
「CP2013、強力だけど予想範囲のゴウカザルね」
美柑
(やばい……意識が、もう……)
***
凪
「……この辺りは被害も大きいな」
私は家からポケにゃんへと急ぐ中、上空から街の様子を俯瞰する。
空を飛べば必然と目立つため、普段は必要以上には飛ばないが、今回は急ぎでもある。
目の前にポケにゃんが見えると、私は店先に着地した。
凪
「すいません! 誰かいますか!?」
私はポケにゃんの正面玄関から中に入る。
中は相当に荒れているが、辛うじて倒壊は免れている感じか。
幸い爆撃には遭わなかったのか、木造住宅にも関わらず原型を留めているのは幸運か。
凪
「誰もいないのか?」
私は厨房の方に向かうも気配はない。
そのまま生活スペースの方に向かうが。
?
「凪お姉ちゃん?」
声がした。
生活スペースの奥から顔を覗かせたのはジグザグマの希望(のぞみ)だった。
凪
「希望! 良かった……無事だったんだな、皆は?」
希望は私を見つけると大粒の涙で泣きじゃくった。
そしてそれまでに何があったのか希望は吐露し始める。
希望
「ひっく! 何処に行っていたの凪お姉ちゃん! お姉ちゃん居なくなってから大変だったんだよ!?」
凪
「希望……」
希望
「お姉ちゃんが居なくなってから戦争が起きて……私たちはPKM連合側に行かず、新しい街に疎開したの……でも私たちはPKMだから受け入れて貰えなくて……それどころか皆捕まっちゃったの……私だけがママ達に助けられて……!」
凪
「そんな事が……」
晃店長の事だから、絶対に戦争には加担しないとは思ったが、しかしやはりこの戦争は両者の共存を許さないと言うのか。
凪
「兎に角、希望だけでも無事で良かった……その時一緒にいなかったことは本当に済まない!」
理不尽は何処まで続く?
私はどれだけ理不尽な目に遭ってもいい、でも希望のように戦う力もない子供に課せられるのは許せない。
凪
「晃店長達は私が責任を持って取り返す! 希望はもう泣く必要はない」
希望
「……お姉ちゃん」
凪
「とりあえず疎開先は何処だ?」
その時だ、私が剣の柄に手を掛けたその時。
ガシャーーン!
凪
「なんだ!?」
突然店舗側からガラスの割れる音がした。
それと同時に白い煙が店内に充満し始める。
凪
「催涙弾!? 不味い! 希望を守らないと!」
私は突然の事に戸惑う希望に覆い被さるように飛びかかる。
直後、翼に激痛が走った。
ズキュン!
凪
「くあ!?」
希望
「凪お姉ちゃん!?」
私は翼のダメージに呻き声を上げてしまうが、希望は無事だった。
痛みより、私はそれに安堵した。
凪
「よ、良かった……」
私は希望の無事を確認すると、震える腕で、剣を抜いた。
ズカズカと、私たちを襲撃した一団が現れる。
全身を特殊部隊風の真っ黒なコンバットスーツで覆い、赤いレーザーポインターが白煙中から私を狙う。
?
「CP4200……通常ピジョットの倍近くか、大物だな」
凪
「な、何者だ!」
意識が朦朧とする。
翼がやられた程度で?
?
「神経毒を打ち込まれて、まだ喋れるのか」
凪
「毒……?」
ガシャン!
気が付けば、剣を落としていた。
身体に力が入らない、立っているだけでも難しくなってきた。
希望
「あ……ああ」
?
「CP120、ジグザグマにしても弱小ね」
レーザーポインターが希望向かう。
私はただ怒りだけが燃えるが、身体は急激に冷えていく。
凪
(く、そ……! こんなところ、で……!)
***
茂
「はぁ、はぁ! 美柑は無事か?」
華凛
「あのロボ一体程度なら問題ない筈だが」
保美香
「兎に角シェルターに急ぎましょう、彼女達はご主人様よりは頑丈で強いですわ」
兎に角走って逃げて、もうすぐシェルターといった所まで来た。
俺は完全に息を切らしていたが、保美香達は普通に呼吸しており、改めてレベルの違いを思い知らされるな。
それは逆説的に美柑達を信じろと言うことでもある。
茂
「それにしても凪さんも遅いな」
華凛
「……中にポケにゃんの店員達が居たのかもな、積もる話だってあるだろう」
茂
「それが遅れている原因なら良いんだけど」
どうしたってやはり不安は募る。
美柑が殿を務める原因になった、人類軍の放った対PKM兵器。
アレが一体だけならば、華凛の言う通り問題ないかもしれない。
でも、悪い予感ってのはどれだけでも沸いてくる。
保美香
「まぁ、常識的に考えても複数で現れたなら、戦術的撤退くらいしますわよ」
華凛
「そうだな、そもそも倒すために残ったんじゃない、キリの良いところで逃げているだろう」
茂
「……そうだな」
オレに必要なのはやっぱり家族を信じることだろうか。
ここ最近の政情不安やっぱりネガティブな事考えすぎる。
保美香
「見てください、もう日が沈んできましたわ」
華凛
「まずいな、夜になるとこの辺りは暗闇だぞ」
インフラが止まってからというもの、当然街灯は機能しない。
ましてシェルターがあるのは都市から離れた山の中だ。
急がないと、帰れなくなってしまう。
茂
「よし! もう少し頑張るか!」
保美香
「それでこそですわ、だんな様」
俺たちは荷物を担ぎ直すとシェルターへと急ぐ。
だが……。
***
茂
「嘘……だろ?」
シェルターからは光が不気味に明滅していた。
その異変に気が付いたのは人工の光に安堵した時だった。
不自然な光、胸騒ぎがしながらシェルターへと急ぐと、ようやくその異常を理解した。
茂
「茜! 伊吹! セローラ!?」
シェルターは外郭が完全に破壊されて、中の光が外に完全に洩れている。
外がこれだけの被害なら、中も相当の物だ。
戦闘の跡がまざまざと部屋の中に刻まれ、天井に内蔵されたLEDライトが生き残ったのが逆に不自然なくらいだ。
華凛
「! セローラ!」
部屋の奥、華凛は地面に倒れたセローラを発見する。
俺たちは急いで駆け寄るとセローラは血塗れだった。
セローラ
「み、皆さん……ドジッちゃいました……♪」
保美香
「喋らないで! 急いで治療を!」
セローラは虫の息だ。
襲われてまだそれ程時間が経っていないのかもしれない。
保美香は医療キットを持ってくると直ぐに手当を始める。
セローラ
「ご、ご主人様……茜ちゃん達は無事、だよ」
茂
「セローラ、もういい休め」
セローラ
「駄目です……私はもう……それより茜ちゃんを……」
華凛
「……セローラ、お前何に気付いた?」
セローラ
「この世界の意味……私たちは集められ……た」
その言葉を最後にセローラは動かなくなった。
保美香は一度セローラから手を離すと首を横に振る。
華凛
「この世界の意味だと?」
茂
「そんな事どうでもいい……! なんでセローラが……!」
保美香はセローラの目をそっと閉じさせた。
セローラの命が終わりを告げたんだ。
華凛
「様子から見て、まだそれ程時間が経っていないな……弔い位はしてやるさ」
華凛は立ち上がると、腰の大太刀を差し直す。
その顔には微笑が浮かぶが、その内面には激しい怒りが見え隠れする。
保美香
「華凛!」
華凛
「保美香はダーリンを護れ、私はこのような狼藉働く者を許しはしない!」
華凛はそう言うと夜の闇に飛び出した。
保美香
「華凛め……血が昇って」
茂
「保美香、ここにはセローラしかいない。ということは伊吹も茜と一緒に逃げているはずだ。アイツらなら何処に逃げる?」
保美香
「襲われた相手が分かりませんが……暗くなって来た事を考えると……」
俺はセローラに手を合わせながら、茜の安否を心配した。
それと同時に俺だって怒りはある。
だが、怒っただけでどうにかなるなんて思っちゃいない。
まずは茜たちと合流して、そこからどうするか考えないと。
茂
(世界の意味? 集められた? 集めたってPKMたちの事か?)
セローラが最後に言った言葉。
一体セローラは何を知ってしまったんだ?
そして世界の意味ってなんだ?
***
伊吹
「はぁ……はぁ。撒いたかな〜?」
茜
「多分……それより大丈夫?」
アタシたちは夕方襲撃を受けた。
のんびり皆の帰りを待っていたら、突然特殊部隊風の人達に襲われた。
セローラが相手を誘導している隙にアタシたちその場から逃げ出し、闇夜と山の地形を利用して逃げ出した。
私は肩に触れる、痛みが走り手が真っ赤に染まっている。
伊吹
「あはは〜、参ったなぁ〜」
私はぬめぬめした粘液で出血を止めると同時にばい菌の侵入を防いでいる。
とはいえ、失った血は戻らない。
伊吹
「茜ちゃん無事みたいだね〜」
茜
「うん」
伊吹
(それにしても弱ったなぁ、帰り時間って茂君達が帰ってくる時間と被ったかも)
アタシの心配する所は茂君達にまで危害が及ぶこと。
向こうの方が戦力は上だと思うけど、相手は得体のしれない連中だった。
多分人類軍、だけど正規軍かは少し怪しいかも。
どちらかと言えば、茂君を拉致したあの謎の組織が近いかも。
もし予想が合っているなら、多分勝ち目はない。
相手はこっちに対して完全対策していると思った方が良い。
目的はやっぱり茂君?
でも、アタシは何となく違う気がする。
伊吹
「茜ちゃん……教えて〜、茂君ってなに〜?」
茜
「知ってどうするの?」
茜ちゃんの反応、それにアタシはニヤリと笑った。
やっぱり茜ちゃんは知っている。
伊吹
「それじゃ貴方何者〜? 茂君をどうする気〜?」
アタシは何か、確信を得始めている。
あの日……11月21日全てが壊れたあの日には意味がある。
茜ちゃんが変わったのも多分あの日だ。
茜
「……この世界は地獄……それでも歩みを止めるわけにはいかない。この先知れば多分伊吹は助からないよ」
伊吹
「あはは〜、茜ちゃんって脅し文句が言えたんだね〜」
茜
「……ご主人様、常葉茂は主人公。そして私は……」
***
日が明けた。
結局飛び出していった華凛は戻ってこないし、ポケにゃんに行った凪さんも、美柑とほむらさんも戻らない。
セローラを申し訳程度に弔って、墓を作ると山を登った。
そして山の上で俺たちは二人を発見する。
茂
「茜……伊吹」
茜
「ご主人様……」
伊吹
「茂……君」
俺たちが発見した時には伊吹は両肩真っ赤に染めていた。
茂
「伊吹! 大丈夫か!?」
俺は急いで伊吹の元に向かうと伊吹を抱きかかえた。
伊吹はか細い声言った。
伊吹
「アタシは幸せだったよ……茂君の傍にいれて幸せ〜」
茂
「伊吹……」
朝日が昇る。
伊吹の温和な笑みが明るく照らされている。
伊吹
「茂君が居れば〜、不幸だって逃げるさ〜」
そう言って伊吹の身体から力が無くなった。
伊吹は最後まで笑顔だった。
彼女はいつもなるべく笑顔でいようとする。
誰か一人でも不幸顔なら、それは不幸になるからとどんな時でも笑顔を絶やさなかった。
茂
「伊吹ィ……伊吹ーーー!!」
***
日が昇ると同時期……人類軍の一大反攻作戦を開始されようとしていた。
東京お台場、有明海より上陸を開始したそれにPKM連合は驚愕する。
シキジカ
「何アレ……!?」
オーベム
「大きい……100メートル以上はある!?」
人類軍が最も恐れたのはPKMの持つ特殊な能力。
肉体能力も様々で一つの攻略法だけではPKMの拠点を落とすのは容易ではない。
だからこそ様々なタイプの対PKM用アンドロイドも開発したが、それだけでは対応出来ない。
そこで秘密裏に人類軍が開発したのが対PKM戦略機動兵器。
水陸両用、頭頂高120メートル、全長1キロメートルにも及ぶその空母並みの巨体がビル並みの大きさの脚を踏みならし、今虐殺を開始しようとしている!
***
保美香
「だんな様……これからどうしましょう?」
太陽が昇った。
伊吹の墓も作り、俺はただ、虚無感に呆然とした。
昨日まで辛いなりにも笑って、過ごしてきた。
それなのにたった一日で俺の目の前には茜と保美香しかいない。
俺は何処で間違えた?
どうすれば死んだ彼女達に顔向け出来る?
伊吹なら笑えって言うのかな?
セローラもきっとこんな俺を茶化すんだろうな。
でも、俺だってもう限界だよ。
親しい奴らが目の前で死んで、それでも気丈で居られるほど強くない。
華凛のように激情で復讐にいける力もない。
弱い……俺はあまりにも弱すぎる。
どうしてこんなに弱い俺が生き残っているんだ?
茜
「ご主人様、ここの居たら辛さに押し潰される……もう行こう」
茂
「行くって何処に? 何処に安住の地はある? 何処に行ったらお前らが傷付かない世界があるのか!?」
茜
「ご主人様……」
保美香
「だんな様、この世界はそういう運命の下にあるのかもしれません。ですが……それでもわたくし達は生きているのです」
分かってる……分かっているんだよ。
結局歯を食いしばって最後まで生きるしかない。
保美香
「旅でもしましょうか? 宛もない旅」
茜
「旅……」
茂
「そうだな……、もうそうするくらいしか残ってないか」
俺は墓前から立ち上がる。
この地は呪われている。
せめて、それなら旅でも何でもしてやろうじゃないか。
茂
「皆、もう行くよ……」
北風が吹いた。
新しく住める場所を見つけることは難しい。
この時期の野宿は凍死の恐れもある。
結局生きるための戦いだ。
***
ダダダダダダ!
銃撃戦、しかしそこに人の姿が見当たらない。
対PKM用アンドロイドにその支援用の空挺ドローンが、PKMを逐次抹殺するようにプログラムされている。
PKM達は逃げ惑い、交戦する者もいるが、アンドロイド達はただ冷徹にその職務を遂行していく。
その中に……俺たちは飛び込みざるを得なかった。
保美香
「だんな様! こちらへ!」
茜
「……凄い数がいる!」
茂
「くそ! 戦争戦争! そんなに相手が憎いのかよ!?」
俺は吼える事しか出来なかった。
乱戦の中を俺たちは駆け抜ける。
保美香
「まさか街に降りたら速攻で戦場に遭遇するなんて想定外でしたわ!?」
茂
「人類側もそれだけ本気なんだろう!?」
如何せん情報が手に入らなければ、戦闘を回避して進むなんて不可能だ。
特に軍隊の動きなんて俺たちが逐次把握出来る訳もないし、とりあえず安全圏まで逃げるしかない!
茂
(しかし妙だな……敵はどこから湧いてきた?)
俺は戦場を走りながら疑問に思ったことがある。
まるで俺たちは初めから囲まれた状態で戦場に巻き込まれたみたいなんだ。
多分、多面的に人類軍は兵力を展開している。
それに引っかかってPKM連合はてんてこ舞いになっているようだ。
人間の俺が勢力下を突っ走っているのに、俺を止める奴はいない。
保美香
「ち! 邪魔するなぁ!」
保美香は空中にパワージェムを放つと、数機のドローンが打ち落とされた。
地上型のロボットの方は鈍重なだけマシだが、空中を飛び交うドローンは俺には驚異的だ。
こんな状態なのに保美香の気遣いに抜かりがない。
茜
「こっち!」
茜は道を曲がる。
細い小道は人一人がやっとで、その先に抜けるとなんとか戦場の外に出たようだった。
茂
「ここは……?」
都市部は法もなくなれば、迷路のような物だ。
ただコンクリートジャングルが乱雑に立ち並ぶこの街は全てを把握するのは難しい。
そして、安心はそう簡単には出来ない。
?
「なっ!? 包囲網が突破された!?」
茂
「人間か!?」
目の前には全身を特殊部隊風のコンバットスーツに覆った二人組が驚いた。
慌てて銃口を向けようとするが、そこは人間である。
保美香
「遅い!」
保美香は素早く踏み込むと首元に触手をねじ込んだ。
保美香はウツロイドだから神経毒のスペシャリストだ、その気になれば都合よく洗脳だって出来る。
?
「あがが……身体が……!」
?
「まさか……常葉さん?」
茂
「! アンタなんで俺を知っている!?」
俺の名前を言ったのは女の方だった。
保美香がゴーグル付きのヘルメットを剥ぎ取ると、そこに現れたのは。
茂
「嘘だろ……? 上戸さん!?」
そこに居たのは俺と同じ職場で働いていた上戸紅理朱、その人だった。
紅理朱
「く……貴方はまだPKMなんかと一緒にいるのですか!?」
茂
「上戸さんこそなんで! そんなにPKMを憎む!?」
上戸さんは保美香に毒を流されて首から下は動かない。
もう片方の男は怯えた様子で何も喋らなかった。
紅理朱
「ええ! 憎いですよ! 元々PKMなんて信用していませんでしたけど! 私の両親はPKM連合に殺されたんですよ! 民族浄化で!」
茂
「っ!?」
民族浄化、開戦当初PKM連合は東京を拠点にしていた。
その場ではPKM連合はあくまでも穏便に占領政策を進めていたが、人類側は空母打撃軍を用いて攻撃、これに対して報復としてPKM連合は民族浄化と称して関東1000万の住民を虐殺したのだ。
正確な被害は分からないが、相当数の住民が疎開することが間に合わなかったと言われていた。
紅理朱
「どうしてPKMは私たちの世界を犯すの!? PKMはこの世界から出ていけ!」
茂
「っ! 上戸さん! PKMはその全てが悪じゃない。俺たちのように共存を望むPKMだって一杯いる!」
上戸さんにあるのは深い憎しみ。
PKMに対する怨念そのものだ。
俺だってセローラや伊吹を殺した奴は憎い。
でも、それをその種全体まで憎しみを広げれば、それはもうエゴでしかない。
保美香
「だんな様、急いで離脱しましょう。兵士が二人だけの筈がありません」
茂
「く……上戸さん! 俺たちは道を踏み間違えたのは事実だよ! それでもその怨念の意味を考えてくれ! PKMじゃない! 目の前の相手をだ!」
紅理朱
「目の前の相手……!?」
茜
「……」
突然茜が、上戸さんに思いっきり顔を近づける。
上戸さんはビックリしていたが、茜はお構いなしだ。
紅理朱
「な……なに?」
茜
「……悪意はあるけど、悪党じゃない」
顔を離すとそう呟いた。
どうやら目を見て、相手の危険度を図ったようだ。
茂
「保美香、毒はどれ位持つ?」
保美香
「30分ほど」
茂
「襲われたら大変だ、5分で解けるようにしてくれ、銃さえ奪えば大丈夫だろう」
俺はそう言ってアサルトライフルを拾う。
予想外に重いが、女性の上戸さんがこれを扱うって事は、それなりの戦闘訓練を受けていた考えるべきか。
保美香
「畏まりましただんな様」
恭しく頭を垂れると、再び触手を差し込む。
毒をある程度抜き取ったのだろう。
俺たちは急いでその場から離れようとすると。
紅理朱
「待ちなさい! 逃げるなら北よ……東京方面は得体のしれない超兵器が運用されているらしいわ」
茂
「上戸さん?」
紅理朱
「私の憎しみは消えない……でも、貴方には恨みがないもの」
上戸さんはそう言うと少し哀しそうだった。
天涯孤独の辛さが、PKMの憎悪なら俺はその間違いを正す努力をしたい。
だが、今は無理か。
茂
「ありがとう上戸さん! また一緒に仕事が出来りゃ良いな!」
俺はそう言うと進路を北に向けて逃走する。
………。
紅理朱
(常葉さん……全然変わってなかった、私何やってるんだろう)
常葉さんたちが逃げていく中、私は呆然と1カ月間を思い出した。
元々PKMの事は好きじゃなかった。
徹底的に嫌いになったのは戦争からだけど、もし戦争がなければどうだったのだろう?
(茂
「く……上戸さん! 俺たちは道を踏み間違えたのは事実だよ! それでもその怨念の意味を考えてくれ! PKMじゃない! 目の前の相手をだ!」)
紅理朱
(目の前の相手を……)
あの時イーブイの少女は私の目を見た。
大きな目は純心で、心を奪われそうな程美しかった。
あの時私は本当に撃てただろうか?
相手の事を考えたとき、私は撃てるだろうか?
***
茂
「何じゃありゃ……!?」
都市部を離れて山を登っていくと、俺たちは太平洋方面にとんでもない物が現れていた事にようやく気がついた。
茜
「○ームズフォート?」
茂
「うん! ACファン的にはそう答えちゃうよね! てか、人類の工業力パネェ!?」
それは全長1キロメートルにも及ぶ、史上最大級の戦略機動兵器だ。
それは見方を変えれば、戦車と言えるかもしれないし、空母だと言うことも出来るだろうか?
街を蹂躙し、PKM連合を拠点ごと葬り去る攻撃力を有しているのは間違いない。
保美香
「……あんな物を持ち出されたら、PKM連合では一溜まりもありませんわね」
茂
「嫌な形でだが、戦争は終わるか?」
茜
「……終わらない、いえ……終われない」
茂
「茜?」
気が付くと茜が震えていることに気が付いた。
俺はそっと茜の手を握ると、茜の体がビクッと震えた。
茜
「くる……ダメ!」
茂
「どうしたんだ茜!?」
それはあまりにも不自然だったかもしれない。
突然空に特大の大きな穴が空いたのだ。
それは今や知らない者はいない、ゲートだ。
ただ……その大きさが尋常ではない。
茜はゲートの出現を感じていたのか?
保美香
「大きい!? 以前イベルタルが出現した時も城一つ分の大きさのゲートだったけど、これは首都圏レベル!?」
茜
「あ……ああ、だめ、世界が終末へと近づく!」
あまりにも大きすぎるゲートからは有象無象のポケモンたちが降り注いだ。
その中には以前見た覚えのある者もいた。
茂
「あの時のイベルタル!?」
間違いない、俺たちがこの世界に来る切欠となったゲートから出現したのと同一のイベルタルが巨大兵器の方へと降っていく。
イベルタルだけじゃない……そこには大地を隆起させ天変地異を起こすグラードン、天を焼き大地に稲妻を走らせるレシラムゼクロム、多くの伝説のポケモンまで集結していた。
保美香
「これはどういうこと!? 劣勢のPKM連合に力でも貸すというの!?」
茜
「違う……この可能性世界線が終末を迎えるということ……」
茂
「どういうことだ!? 茜! お前は何を知っている!?」
保美香
「は!? 危ないだんな様!」
突如、空中で無数のポケモンの群れに襲撃された爆撃機がこちらに向かって墜落してくる。
その様はまるで○ピュタか○ウシカにでも出てきそうな有様だ。
保美香が俺たちの手を引っ張ってその場から離れると、目の前には爆撃機は墜落した。
爆撃機を落としたポケモンは炎上する爆撃機の上に立っている。
その姿は生命の木を頭に生やしたかのような妙齢の女性だった。
茂
(なんだ? 見覚えがある? 何処で?)
俺はその女性に妙な思いを抱いてしまう。
恐らくゼルネアスのポケモン娘、その顔はどこか憂鬱気味だった。
直後、爆撃機からゼルネアス娘に銃撃が飛び交う。
爆撃機が格納していたのは爆弾ではなく、ロボット軍団だった。
保美香
「ち! だんな様離れて!」
ロボット
「PKMの危険度測定、unknownのCP31540と判定、危険」
茂
「CP3万ってレイドボスかなんかかあの子!?」
ゼルネアス娘
「命なき者に命を……」
俺の突っ込みも他所に、ゼルネアス娘の角が極彩色に光る。
ジオコントロールだろうか?
なお、断じてG・オコントロールではない、決してGオ何故動かん!? 動けGオ! する技ではない。
ロボット
「異常発生、敵の分類、特定不能」
ゼルネアス娘
「命を持つと言うことは、死を迎えることが出来るということ……生に祝福を、死に静寂を……」
ロボット
「エラー、エラー! 機能停止……」
ゼルネアス娘が何をしたのか分からないが、ロボットたちが一斉に機能を停止した。
つまりロボットの命を絶ったのか?
或いは命を与えるという辺り○ムラー的に戦うのが嫌だ的な?
もはや戦闘なんて言えないレベルの圧勝をしたゼルネアス娘はこちらを俯瞰して一瞥した。
ゼルネアス娘
「神々の王よ、約束の時です」
茂
「神々の王? ゼウス?」
ゼルネアス娘はそれだけ言うと再び戦場に飛び立った。
それが誰に対して呟いたのかは分からない。
一般的に神々の王と呼ばれるのはギリシャ神話に登場する全能神ゼウスが有名だ。
他にもオーディンなんかも神々の王と呼ばれる事があるか。
いずれにせよ暗号的だが、約束の時とも言っていたが。
茜
「分かってる……分かってるけど……!」
茂
「茜?」
保美香
「!? まだです! 敵が!」
爆撃機の裏から新手のロボット軍団が現れる。
中には飛行可能なジェットパックを装備したロボットまでいた。
保美香
「く! だんな様はわたくしが護ります!」
保美香は意を決してロボット軍団に飛びかかる。
ロボット軍団は一斉に保美香を攻撃する。
保美香
「ああああああ! 貴様らにー!」
ロボットたちは保美香の決死の戦いに傷付き、破壊されるが、しかしそれは保美香も傷付いていく。
茂
「止めろ! 逃げろ保美香!」
ダァン!
茂
「がっ!?」
それは流れ弾だった。
俺は足を撃たれ、その場に転ぶ。
その時俯いた茜の顔が見えた。
茂
(茜? その顔は……?)
それは悲壮感と覚悟を決めた顔だった。
茜
「ご主人様……御免なさい。私は全ての元凶……ただ幸せを求めてしまったから」
茂
「な、なにを……?」
気が付くと、茜から光の粒子が溢れ始めた。
いや、違う……茜に呼応するように世界が真っ白に染まっていく。
気が付けば茜以外がこの世界から消滅した。
俺の体も消えていく中で、最後に茜の顔が見えた。
まるで天を仰ぐように涙をこぼして。
茜
「私は諦めない……必ず奇跡を見つけ出す」
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第21話 世界の終わり 完
第22話に続く。