第20話 戦争
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第20話 戦争
伊吹
「大変大変〜!」
アタシたちは火の海と化した街の中にいた。
理由は単純にPKMの救助が目的であったが、被害は増えるばかり。
一番の問題は爆発の衝撃波だけど、二次的にあちこちで火災が起きている。
アタシは『雨乞い』で周囲に雨を降らせたが、鎮火は容易ではない。
PKM
「助けてー!」
小さなPKMが倒壊した残骸に下半身が取られていた。
美柑はすかさずその小さなPKMの元に行くと、力業で残骸を破壊して救出する。
美柑
「早く安全な場所に避難を!」
伊吹
(地獄絵図……! それでもグリナさんは戦うというの?)
今は思想は関係ない、皆が救助に専念している。
だが、爆弾の次に落とされたのは異質な物だった。
ガシャン! ガシャン!
それは最初、空挺部隊かと思った。
大きなパラシュートを開き、地面近くでパラシュートを切り離して地面に着地する。
だが、その重厚な音は人のそれじゃない。
華凛
「なんだ? こいつらは!?」
皆、それに驚愕した。
ソレは重厚なパワードスーツか人型ロボットか分からない物なのだ。
だが、赤く光るモノアイがアタシたちを見捉える。
シルバーメタリックなボディは明確に敵だと分かる。
メカ
「PKMヲ検出、排除シマス」
美柑
「排除!?」
ソレは極めて機械的な発音で排除と言った。
直後、ソレらはアタシたちに両腕のガトリングガンを斉射してきた。
美柑
「くう!?」
美柑は慌ててキングシールドで防いだが、逃げ遅れたPKMたちが次々と犠牲になっていく。
アタシにはただ物陰に隠れるしかなかった。
電気を放つPKM
「くそー! 機械風情にー!」
大きな黄色い耳に赤いほっぺのPKMは全身から電撃を放つと、メカの1機に10万ボルト放つ。
しかしメカは瞬時に攻撃を認識すると、何かを噴出し、電撃を防ぐ。
メカ
「優先排除対象ト認定」
メカ達の銃口が電撃を放ったPKMに一斉に向いた。
電気を放つPKM
「ひっ……アバ!?」
一瞬だった、無慈悲なほど一瞬でピカチュウかライチュウと思われるPKMがミンチにされた。
美柑
「止めろ貴様らー!」
凪
「いかん! 美柑!」
次々と殺されていく様に美柑が激昂を抑えられる訳がなかった。
正義感の強い美柑は虐殺を容認する訳がない。
だが正体不明の敵であり、凪が制止する。
メカ
「排除」
しかしこちらの対応などお構いなし、メカの次の対象は美柑だった。
凪
「ち! 暴風!」
凪は慌ててフォローに入る。
暴風はメカのダメージにはなりそうにないが、銃口ぶれさせる事には成功、ガトリングは明後日の方向に撃ち、その隙に美柑は懐に踏み込む。
美柑
「はぁ!」
ガコォン!
美柑の聖なる剣がメカの頭部を変形させた。
だが、美柑の力を持ってしてもメカを一撃で粉砕するには至らない。
美柑
「らぁぁぁ!」
美柑のアイアンヘッド! メカの1機は遂に煙を噴いて倒れた。
だが、まだ1機だ、目の前にはまだ2機いるのだ。
それ以外にも無数のメカが街に降下してるはず。
急がなければ、この辺りからPKMが絶滅してしまう!
伊吹
「流星群! どうか効いて〜!」
アタシは流星群を放ち、空から無数の隕石がメカ達に降り注ぐ。
メカ達は流星群に潰され、2機ともスクラップになる。
伊吹
「はぁ、はぁ〜! 倒せた〜?」
華凛
「ああ、大丈夫そうだな」
アタシは流星群の反動で息を切らす中、物陰から様子を見ると無数のクレーターの中スクラップになった3機を見て、ホッとした。
華凛
「それにしてもなんだこいつらは? ロボット兵団は実用化していたのか?」
伊吹
「アニメみたいで信じられないけど、現実に見ると信じちゃうね〜」
その性能は驚異的だった。
奇襲のような形とはいえ、その周囲に夥しく並ぶ死体の数々はこの3機がやったとは。
伊吹
「電撃を弾いていたけど、アレは何だったんだろう……」
凪
「何かを噴射していたが……」
アタシはメカの周囲を探すと、メカに付着した粉状の物に気がつく。
伊吹
「金属粉? もしかしてこれで電撃を吸着したの?」
電気の性質は通電しやすい方向に向かう。
通電しやすい金属粉が膜となって防御したのかな?
しかしそうだとすると、このメカには多くのPKMに対する対策が施されている事になる。
一体いつの間にこんな凄いテクノロジーの兵器が生まれたのか。
少なくとも一朝一夕の兵器とは思えない。
美柑
「はぁ、はぁ。まだ戦闘の音がしますよ」
凪
「気持ちは分かるが落ち着け、興奮しすぎだ」
美柑
「自分の悪い癖ですね。反省します」
兎に角まずは安全の確保、助かった人達もなるべく一カ所に集めないと。
伊吹
(それにしても……やっぱり変だよ……この戦争、何かがおかしい)
このような兵器が実在した事は驚きだ。
でもその技術はどこから手に入れたの?
人類側には戦争を早期に決着できるだけの力があるんじゃないだろうか?
にも関わらず、本気で潰しにきた感じがしない。
……はっきり言ってこんなに胸くそ悪い事はないけど、ある結論がアタシの中で定まった。
伊吹
(PKMのポテンシャルを利用して兵器産業が軍用機の実証テストをしている?)
嫌な答えだ。
それでも、この中途半端に延びた戦争はまるでお互いが致命傷にならないように傷をコントロールしているように思う。
この戦争には誰かが得をしている者の思惑が見え隠れする。
伊吹
(嫌だね……こんな悪いことばかりに頭を使いたくないよ……)
出来ることなら、平和な事に頭は使いたい。
でも、この時代は全く別のことばかり考えさせられる。
凪
「誰かー! 生き残りがいるなら安全な場所まで避難するんだ!」
華凛
「それにしても爆撃機か……人類の生み出した罪そのものだな」
美柑
「本当の罪は無差別爆撃をする人間の心ですよ……」
伊吹
(罪を探せば、いくらでもある……でも、それを重ねるのは何故なの?)
***
グリナ
「負傷者は奥に! 動ける者は引き続き警戒を!」
戦闘の完全な終了は結局夕刻までかかってしまった。
アタシたちは巻き込まれる形ながら、負傷者を運び、戦闘に参加しながらこの時までこの街にいた。
改めて、戦争の壮絶さを思い知らされながら鎮火も終わった街並みを見て、黄昏れる。
華凛
「はぁ……白い肌も、煤けては女が立たないな……」
華凛は結構綺麗好きだから、身だしなみは特に気を付けている。
流石に戦闘中まで、気を遣う余裕はなかったのか、煤けた身体にウンザリしていた。
一方で凪は今も気丈に、アレコレ走り回っている。
彼女はやっぱり体育会系なのだろう、年下の面倒見は特にいい。
グリナ
「君たち、急に戦闘に巻き込まれたというのに、よく頑張ってくれた。代表として深く感謝する」
美柑
「別に良いですよ、ボク達は自分の正義に従っただけですから」
伊吹
「そういう事なんで〜、そろそろ帰らせていただきま〜す」
このままだと、きっとなんだかんだでPKM連合に入れられちゃうだろうからさっさと退散しないと。
何より絶対茂君が心配している。
早く安心させてあげないと。
伊吹
「それじゃ、オタッシャデ〜!」
***
グリナ
「……」
私はあの奇妙な四人組の背中を見ながら、見送った。
不思議な四人だった。
確固たる意思がある、決して扇動に煽られるタイプじゃない。
あれ程の傑物が何処に隠れていたのか?
?
「行ってしまいましたな、よろしかったので?」
私の後ろ、暗い物陰から全てを観察していた存在が声を掛けてきた。
その姿は暗闇に隠れ、見えているのは口元を隠す大きな扇子、芭蕉扇のみ。
グリナ
「ああ、構わん」
?
「幹部級の待遇を与えてもいい傑物でしたが」
グリナ
「だからこそだ、英雄は相容れぬ……例え組織に編入出来ても、組織は割れるだろう」
?
「成る程、結構です。PKM連合はこれからも大きくなります。今は船頭は一人でいい」
PKM連合、その組織のトップは私だ。
だが、この組織には黒幕がいる。
それがコイツだ。
奴は見えない顔を歪ませて、事の推移に悦を浮かべる。
この私にPKM連合を築く力を授け、奴は決して表舞台には出てこない。
真のトップがいるとすれば間違いなく奴がトップ。
その諸葛孔明のような扇子を優雅に揺らしながら奴は闇の中へと消えていく。
グリナ
(……私は英雄たり得るか? いや……英雄になるのだ、今更退けるか)
***
美柑
「ただいま帰りましたー!」
茂
「○ークブリーカー! 死ねぇ!」
俺は帰ってきたばかりの美柑を思いっきりハグする。
美柑は顔を真っ赤にしたが、抵抗はなかった。
美柑
「は、はわわ〜!? み、皆が見ています!」
セローラ
「美柑は○ニワ幻人でメイドロボだった?」
華凛
「ダーリン! 私も○ークブリーカーだ!」
伊吹
「あ、それじゃアタシも〜、○グネットパワープラース〜!」
華凛
「○グネットパワー! マイナース!」
茂
「○ロスボンバーッ!?」
俺は心配の余り、一番目の前の美柑を思いっきり抱くと、調子に乗った華凛と伊吹が両脇から抱きついてくる。
ううむ、二人合わせて200センチオーバーの爆乳にサンドイッチされるのは至福……ではなく!
セローラ
「ええい! ムラムラする真似をするな! キャスト・オフ!」
茂
「止めろ馬鹿! 流石に脱ぐのは不味い!」
茜
「ご主人様を困らせるなら」
セローラ
「こきゃ!?」
茜はすかさず調子に乗って服を脱ぎ出すセローラの後ろに回るとヘッドロックした。
プロのような早業で茜はセローラを無力化すると、ようやく俺たちは落ち着いた。
茂
「皆無事で良かった……心配したんだからな!」
伊吹
「ごめんなさ〜い」
凪
「すみません」
茂
「……兎に角、無事で良かった」
皆大きな怪我もないようだし、一先ずそこには安心する。
だが、戦争の根源が取り除かれない限り俺は戦地に赴く彼女たちに気を揉まないといけないのか。
華凛
「まぁアレだ。このままでは良い女が廃る、とりあえず風呂だ。ダーリン一緒に入ろう?」
茂
「ダメ、それを許したら全員と同じ事しないといけなくなる!」
華凛
「残念」
華凛は適当に上着を脱ぐと、脱衣所に向かっていく。
せめて脱衣所で脱げと言いたいが、煤けた姿に彼女たちの心配が勝ってしまう。
茂
「それで、PKM連合は?」
伊吹
「……彼女たちの正義は分かったけど、そこに道義があるかは〜……」
伊吹は珍しく言葉を濁した。
正直答えたそれが、その通りなら少なくとも味方ではないか。
俺自身、この戦争にはどっちにも味方したくはないが、やはり中立でいるのが一番そうだな。
伊吹
「……アタシの主観だけど〜、この戦争裏があるよ〜、きっと〜」
茂
「裏?」
伊吹
「PKM連合もなにか裏がある気がするし〜、人類軍ははっきり黒幕の存在を感じるよ〜」
黒幕、その言葉に嫌な感じはするものの、しかしそれが戦争の原因ならば取り除けば終わるのかと考えてしまう。
しかし直ぐに否定した、見え透いた陰謀論だとしても、俺にそれをどうにかする力なんてない。
俺は無力な普通の人間に過ぎないんだから。
***
茂
「うーん……」
夜、俺は外に出て空を見上げていた。
既に暦では12月のはず、空気は冷たく肌を突き刺すが、灯りの無くなった世界からは、満天の星空を見せてくれた。
茂
「今日は北斗七星がよく見える、その脇の星までも……」
保美香
「だんな様、北斗七星は夏の星座ですわ」
伊吹
「今見えているのは〜、冬の大三角だねぇ〜」
……やれやれ、相変わらずこっちじゃボケも許されないな。
勿論死兆星など見えてたまるか、な訳だが。
茜
「ご主人様、風邪を引くから中に入った方がいい」
茂
「……そうだな」
俺も流石に真冬の夜は寒い。
世界から文明が消えたかのような世界は、このまま新年を迎えるのか。
そこまでに俺たちは生き残れるか?
茂
(……生き残るためにはどうするべきか)
俺は暖かいシェルターの中へと戻る。
シェルター生活を始めて1週間、俺たちは今後を考えないといけない。
***
セローラ
「つまりシェルターの備蓄では今月が限界?」
保美香
「そう言うことになりますわね……まぁ直ぐに無くなるわけではありませんが」
茂
「とりあえずボーキサイトの確保だな」
華凛
「燃料と鋼材と弾薬もな!」
美柑
「あの、ボク達は艦○ではないのでそう言うのは必要ないのでは……」
久し振りに美柑に突っ込まれたな。
流石に今回ボケるのはここまでだな。
俺は真面目に話を聞きながら備蓄を見る。
茂
「アレであと何日だ?」
俺はシェルターの奥にしまわれた備蓄を見ながら保美香に聞いた。
保美香
「全部使い切るのに1カ月間、それより早くお米は無くなりますわね」
むぅ、そんなに悠長にはしていられないってことか。
備蓄は少なくとも段ボールで10箱ほど、元々長期間過ごす事は想定外だったのかもしれないが、これは深刻に考えないとな。
凪
「水の確保も必要だな」
保美香
「出来ることなら洗剤なども」
茂
「となると……街へ行くしかないな」
こればっかりは全員なんとも出来ない。
生き残るためには多くのものが必要だろう。
美柑
「で、誰が行くんですか? 前回と同じ?」
保美香
「わたくしが行きましょう。だんな様の護衛は……」
茂
「今回は俺も行くぜ!」
セローラ
「ご主人様が行くなら私もー」
保美香
「……冗談は止めてください。危険です」
保美香は余程頭が痛いのか、頭を抱えてしまう。
例によって俺の安全第一って事なんだが、今回は俺も言わせて貰おう!
茂
「なら、全力で護衛を願う!」
華凛
「保美香、連合の勢力圏から離れた場所なら問題ないだろう」
伊吹
「まっ、主人の意向に沿うのが、ポケモンだしねぇ〜」
保美香
「……はぁ。全力を尽くしますわ」
保美香は皆の様子を見て折れた。
俺としてもこのままずっと籠の鳥状態では不味いと思っている。
少なくとも安全な場所の把握は必須だろう。
保美香
「でしたら留守を任せるのは」
***
セローラ
「ぶー、お留守番だってさー」
伊吹
「あはは〜、しょうが無い〜」
茜
「……」
アタシ達は残念ながらお留守番。
元々動きの鈍くさいアタシは特に向いていないけど、不和を起こしやすいセローラや、今どう判断していいか分からない茜もお留守番だ。
セローラも缶詰生活に嫌気が差しているみたいだけど、茜はその点には文句も言う様子が無い。
てっきり茂君についていくかと思えば、ここで大人しくしている。
伊吹
「ねぇ、茜は茂君が好き〜?」
茜
「好きです。愛しています」
伊吹
「なら〜、ついて行きたく無かったの〜?」
茜はそれを聞くと元から無表情な顔に更に影を落とした。
ついて行きたくなかった訳じゃないみたいだね。
茜
「私は邪魔になるから……」
セローラ
「まぁお陰でおっぱい揉み放題なんだけどね〜」
そう言ってさり気なく茜の背中から手を回すセローラ。
茜は不愉快さも見せずにその手を捻った。
それこそ、コキャっと折るかのように。
セローラ
「ギャース!?」
***
茂
「……おお、懐かしや」
街は何処も戦争の爪痕で崩壊しているが、それでも実に1カ月振りに街へ降り立ったのだ。
見慣れた街並みのその傷跡を見るのは悲しいが、俺はその街から必要な物を探す。
茂
「定番はスーパーマーケットなんかだが」
保美香
「食料量販店などは既に略奪済みではないでしょうか?」
華凛
「PKM連合とて、兵站の確保は必須だろうからな」
まぁそりゃそんな安直な所は真っ先に狙われるに決まっているか。
となると、俺は周囲を見渡す。
そして俺はある施設跡を発見した。
茂
「……駅か」
既に崩壊して久しくもあるが、俺はその威容に吸い込まれるように向かった。
***
茂
「うーむ、ホームは無残」
崩壊したホームの構内は二階建てだったようだが、崩落しており空が望める。
高架下はそんな駅の残骸に踏み潰される形になってしまったようだ。
凪
「こんな所になにかあるのですか」
華凛
「ふーむ、ここは地下があるのか?」
茂
「あぁ、そう言えば地下街があったっけ」
駅には地上駅と地下鉄を結ぶ場所もある。
地下は相当に暗いが、僅かに光りが見えた。
茂
「電源がまだ死んでいない?」
既に非常電源も落ちているかと思われたが、僅かに闇から零れた光は電源の物だった。
インフラの崩壊で、そういった物は全て死んだと思っていたが……案外最低限は保てるという事か。
そういや、案外電源落としていたらゲーム機の電力とか残ってたりするしな。
美柑
「うーん、ボクは大丈夫ですけど、地下の暗さは危険じゃないですか?」
保美香
「非常電源が機能しているなら明るさは確保出来るかもしれませんが」
茂
「ふふふ〜、そう思ってだな」
俺は災害時に構内に必ず設置されている物から手持ちのライトを複数拝借していた。
ライトは乾電池で動くから、こういう未曾有の大災害時でも使えて安心だな。
茂
「皆、警戒してな」
俺は懐中電灯をそれぞれに渡すと、ライトを暗闇に翳し、俺はゆっくり暗闇の地下へと進んでいく。
保美香
「足下、お気をつけて」
保美香は俺の脇、後ろから横を警戒しながら言う。
後ろに凪、更に保美香の反対側に華凛、闇に強い美柑は前を先行している。
茂
「この陣形を○ンペリアルクロスという!」
凪
「と、突然何を?」
茂
「……何でもない」
誰もネタには突っ込んでくれないんだよなぁ。
俺はライトを操作して、道を照らしながら愚痴る。
美柑
「! 前方!」
美柑が光の先を指差す。
俺はその先に光を向ける。
華凛
「これは……死体、か?」
それは道の中央に瓦礫と共に横たわった姿だった。
小さな子供のようだったが、それは人間なのかPKMなのか判然としないが、仏様に違いはない。
真っ先に死体の元に向かった美柑は、その場に座り込み手を合わせた。
ゴーストポケモンの中でもかなり特殊な位置にいるギルガルド娘に由来するのか、美柑は高潔で魂を冒涜することを許さない。
それは誰よりも死を平等に捉えられるからこそ、せめてもの冥福を祈るのだろう。
華凛
「爆撃に巻き込まれたか……憐れだな、冥福を祈ろう」
華凛は周囲の様子を窺うと同じように手を合わせる。
茂
「俺も手を合わせよう」
この場には線香もないが、せめてこれがこの子のためになれば思う。
手を合わせる横で、ふと美柑は語り出す。
美柑
「……以前セローラと死に対して話した事があります。彼女は魂を喰らうポケモン、ボクは魂を祀るポケモン……でもそのどちらにもゴーストポケモンでは魂をあるべき場所に還す事は出来ない……」
セローラは魂が色で見えると言っていた。
生態としてセローラは魂を燃料にするシャンデラ、美柑はどう思ったのだろう?
ただ、美柑は悲しそうに手を合わせて目を閉じる。
美柑は立ち上がったのは最後だった。
茂
「……この先、地下アーケードみたいだな」
保美香
「崩落の危険性もありますわね」
凪
「必要な物が手に入るなら、さっさと手に入れて出よう」
俺たちは瓦礫を避けながら進んでいく。
子供の遺体を越えてから、新たな遺体は見えないが、瓦礫の下に何があるのか分からない。
不気味な雰囲気に自然と口数も減り、やがてようやく利用できそうな場所を見つけた。
茂
「ドラッグストアだ」
俺は某大手のドラッグストアを発見する。
ここも爆撃の影響か、崩落している場所もあるが、目の前に転がっていた水の入ったペットボトルを拾った。
茂
「おし、消費期限も大丈夫そうだな」
凪
「奥に保存食になりそうな物もあったぞ!」
凪は某薬品メーカーの健康機能性食品を持ってきた。
フルーツ味を選んだ辺りに俺は舌打ちするが、ここはどうやら豊作のようだ。
保美香
「流石ドラッグストア、洗剤も豊富ですわね」
保美香は目当ての品だった洗剤を選んでいるようだった。
華凛
「ふ、こんな物もあったぞ」
華凛はレジの方に行ったのか、お札を握っていた。
華凛
「今じゃ、ケツ拭く紙にもなりはしないのに!」
そう言って一万円札や千円札をその場にばらまく。
茂
「時代は再び、暴力が支配する時代になった!」
保美香
「お二人とも遊んでないで! ケツ拭く紙ならそこにトイレットペーパーが並んでいますわ!」
美柑
「皆さんお尻を連発しないでください……(赤面)」
保美香も変態のため、ケツという言葉に全く動じないが、変態ではない美柑は赤面していた。
凪
「アナル……大きいのが?」
一方で妄想の変態である凪は既にトリップしているようだ。
というか、アナルセックス想像してます?
茂
「コホン! 必要な物は持てるだけ持って戻るぞ!」
俺はとりあえず黒い稲妻をポケットにねじ込み、袋になりそうな物を探す。
レジで埃を被ったポリ袋は丁度良さそうだが……。
美柑
「ゴミ袋……使えそうですね」
茂
「そっちの方が良いな」
俺はレジ袋より大容量のゴミ袋に必要な物を詰め込んでいく。
保美香
「……生鮮食品は諦めるしかありませんわね」
茂
「ドラッグストアには流石にないだろうしな」
地下街にも生鮮食品を扱う店はあるかもしれないが、恐らく空調が止まってはダメだろうしな。
茂
「……道の奥、上階に繋がっているかな?」
俺は大きくなったゴミ袋を抱えながら更に道の奥を見る。
遥か先だが、光りが零れていた気がした。
保美香
「出口が複数あることは充分考えられますわね」
凪
「とりあえず地上に出よう。暗闇はやはり落ち着かない」
流石に暗闇に目も慣れてきたとは言っても、空気も澱んで落ち着かない。
気持ち足早く俺たちは光を目指した。
***
地上に出ると、冷気は急に襲ってきた。
両手に荷物を持った俺たちは警戒しながら地上を見渡す。
地下と違って地上はPKMがいる可能性もある。
半放棄地とはいえ、この周辺はPKM連合の勢力下なのだから。
茂
「この周辺……」
俺は地上に出ると見覚えのある場所だった。
高層ビルの成れに果てが遠くに見える。
この辺りは俺たちがかつて生活していたエリアだ。
景観は既に大きく変わっていたが、俺は無意識に道を進んだ。
美柑
「主殿?」
俺は30分も歩くと、遂にそこに辿り着いた。
茂
「遂に……我が家」
保美香
「外観は然程変わってませんね……襲撃された時からそのままでしょうか?」
それは長く、と言ってもまだ半年に満たない程度だが皆で住んでいたマンションだ。
戦争の爪痕はここまでは届かなかったのか、比較的綺麗に保存されている。
俺たちの家は?
俺は外観から自室を探した。
美柑
「ドアは取り外されていますね」
華凛
「警察の現場検証も終わった後のようだな」
茂
「そうか……あれからそんな事があったのか」
ここから拉致されて1カ月、世界は信じられない程変化していた。
もはやここは終の住処にはならない。
ただ、それでも俺はマンションの階段を登った。
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第20話 戦争 完
第21話に続く。