第19話 崩壊した世界
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第19話 崩壊した世界
茂
「戦争……人間とPKMの対立、か」
組織によって幽閉されていた2週間、そこから脱出した俺たちは俺を救出しにやってきた保美香たちと合流した。
だが、何もかもがシャットダウンされた閉鎖環境では、まるで浦島効果のように、世界の急変についていけなかった。
ルザミーネ
「現在は戦局は膠着しているみたいだけど、戦場はかなり広がっているわね」
保美香と協力して、自身の身の保身と引き換えに力を貸してくれたらしいルザミーネさんはざっくりと現状を説明してくれる。
ルザミーネさんの正体やセローラの進化など、お互い知らない情報を統合した俺たちはこれからどうするかを協議する。
ルザミーネ
「当初米軍と自衛隊がPKM連合と激突するも、人類側の敗北。更に穏健派だったPKM連合はそれを報復理由として民族浄化を行ったの……今や、関東地域に人間が残っているかどうか……」
伊吹
「ん〜、やっぱり分かんないんだよね〜」
伊吹はずっと頭を悩ませていた。
ウチで一番の俊才はどうしても、納得のいかない部分があるらしい。
伊吹
「都合が良すぎるんだよね〜、どこから蜂起するだけの戦力を集めたの〜? いや、そもそも蜂起するだけの理由があるPKMがどうして放置されたの〜?」
保美香
「我々も疑問には思っていましたわ、PKM連合の確固たる意志は、唐突に根付くものじゃない」
華凛
「自治権の獲得、独立戦争と来たからな」
セローラ
「確かに、元皇帝陛下もあの戦争を引き起こすには並大抵の覚悟では出来ませんよねぇ」
華凛は両腕を組んで押し黙る。
かつて、多くのポケモンを未曾有の大戦に巻き込んだ張本人に、決して軽い覚悟で皇帝になった訳ではない。
セローラの言は皮肉が利いているが、華凛は素直にそれを受け入れるしかない。
華凛は今なお、あの戦争に巻き込んだ全ての人民に対して贖罪の意志を持っている。
伊吹
「一度話も聞いてみたいかも〜」
伊吹としては、やはりPKM連合は気になるのだろう。
ルザミーネさん曰くPKM連合には謎が多いと言う。
正直、全ての人類に対し宣戦布告をするという、その意図は俺も知りたい。
確かに生半可な方法では漂流するだけのPKMを独立した国家の民には出来ないだろう。
ルザミーネ
「PKM連合は現在こそ主流はこの日本だけど、大陸の方やアメリカでも叛旗する動きもあるわ……でも、無謀と言えば無謀ね」
保美香
「わたくしたちPKMの身体は、純粋なポケモンの身体に比べると脆弱ですからね……本気で物量戦に持ち込まれたら連合は一溜まりもないでしょう」
美柑
「とりあえずPKMなら受け入れてくれそうですし、連合に挨拶だけでもしますか?」
茂
「……やっぱり俺行ったら捕まるかな?」
全員
「「「絶対に行かせません!」」」
全員ハモったな。
まぁ当然だろうが、やっぱり俺はお留守番か。
茂
「気を付けてな、味方とは限らん相手なんだから」
保美香
「それじゃ、残るのは茜とセローラとわたくしですかね」
伊吹
「アタシと美柑と凪と華凛で行くんだね〜」
凪
「うむ、この面子ならある程度荒事になっても問題ないだろう」
世界は昔ほど安全ではなくなった。
己の身は己で守るしかない。
茂
「出来ることなら一度家まで戻りたかったが」
保美香
「我慢してください、あの辺りはPKM連合の勢力下、だんな様がいたら黙ってはいませんわ」
分かってる、分かってんだよな……。
自分には力が無い。
どうしたって、俺は皆の負担になってしまう。
美柑
「それじゃ、早く行きましょうか!」
***
全員合流してからは、隠れ潜める場所が必要だった。
インフラが機能を失い、周辺の住民は疎開してしまい、まともな生活は送れなかった。
だが、唯一こんな孤立した中でライフラインを維持できる場所があった。
それは、捕らえられた秘密基地だ。
山の麓には、隠しシェルターのように、各種独立した機能を備えた部屋があった。
恐らく組織に属する研究員や兵士が緊急時に使うシェルターだったのだろう。
危険は承知ではあったが、ここを利用する事で暫くは過ごす事が出来るだろう。
伊吹
「PKM連合〜、どんな組織なのかな〜?」
アタシたちは隠れ家を出ると、廃墟と化したコンクリートジャングルへと向かう。
かつては駅を中心に栄えた、普通の街だった。
取り立てて観光スポットもなく、経済の要所でもない。
だけど、そんなところにまで戦火は及び、今では朽ちた街並みだけがそこに佇んでいる。
美柑
「やっぱり不気味ですね」
凪
「死んだ街だからな」
人のいなくなった街がなぜゴーストタウンと言うのかが分かる。
この独特の不気味さは確かに幽霊が似合うかもしれない。
華凛
「この辺りはまだ綺麗なものだ……奥地はもっと悲惨なのだろう?」
伊吹
「東京沿岸地域は特に〜、艦砲射撃されて悲惨みたいだよ〜」
日米両軍は、駆逐艦や空母すら運用し、制圧に掛かった。
それによりかつての首都は崩壊、PKM連合は最初の拠点である霞ヶ関周辺を失った。
だが、それがPKM連合に決定的な打撃を与えたには至らなかったのが最悪だ。
太平洋艦隊はPKM連合の反撃に遭い、壊滅したのだ。
空を飛び、海を渡るPKMに対して駆逐艦や空母は巨大過ぎた。
PKM連合は空部一隻を鹵獲したという噂もあるけど、兎に角既存の戦法で勝てる相手ではなかったということ。
とはいえ、物量戦になればPKM連合に勝ち目はない。
PKM連合は今は地盤固めの時機だ。
PKM連合の目的はあくまでも自治権の獲得。
土地を奪い取っても、そこに根付けなければ自治もない。
美柑
「あっ、見えてきましたよ」
美柑が遠くを指差す。僅かに霞む空の向こうに瓦礫の山がある。
いや、正確にはただの瓦礫じゃない。
PKM連合の拠点で、現地にある物を片っ端からかき集めて出来た瓦礫の要塞だ。
その威容は大きく、ギザのピラミッドを思わせる。
凪
「改めて、戦争があったのだと実感させられるな……」
凪は憂鬱そうにそう言った。
この戦争の規模は、まだまだ中世的な戦い方をしていた凪たちの世界とは違う。
文字通り行き過ぎた科学がPKMに対して牙を剥き、そしてPKMもその力を持ってそれを制した。
その結果がこれなら憂鬱になっても仕方がないよ。
?
「この辺りじゃ見ないPKMだな?」
瓦礫の山に近づくと、一人の女のPKMが話しかけてきた。
大きく口裂け女のようにパックリ開いた口、草タイプのように見えるその姿はマスキッパかな?
マスキッパは瓦礫に腰掛けていたが、アタシたちを見て不審そうに寄ってきた。
美柑
「あの、PKM連合の代表はあの瓦礫の山にいるのでしょうか?」
マスキッパ
「代表? グリナさんなら、いつもの所にいると思うが……」
伊吹
(ふーん、グリナって言うんだ〜)
このマスキッパ、思ったより口が軽いのかな?
ここで色々聞いても良いかも。
伊吹
「この規模のエリアだと〜、連合の人数はどれ位なんですか〜?」
マスキッパ
「ゆっくりなしゃべり方する女だな……このエリアだと大体100人位かな? 全体だと2000人位」
伊吹
(成る程〜、ということは戦力は分散しているんだ。少ない人数で無理に領土を拡大したんだね)
日本の人口は1億を超える、東京に絞ってもその人口は1300万人、それをたった2000人のPKMで運営することは不可能だろう。
民族浄化までして得た地は、結局のところPKM連合には運用しきれていないんだろうね。
華凛
「それで、グリナ氏は今どこに?」
マスキッパ
「ああ……それなら」
***
マスキッパに説明された場所は、瓦礫の山から少し離れた場所だった。
そこは小山の上で、決して見晴らしが良いわけではないが、僅かばかり辺りを見渡せる場所だった。
そこは元々公園だったのだろうか、ベンチもあり、比較的戦火には巻き込まれていないようだ。
そして目的としていた女性はベンチにも腰掛けず、ただ眼下の光景を眺めていた。
凪
「貴方が、グリナ氏か?」
アタシたちは静かに後ろから近づくと、声を掛けた。
女性はゆっくりと此方に振り返る。
グリナ
「いかにも、何の要件か?」
女性は映像で見た姿とは同じであるが、雰囲気が何か違うようだった。
黒い尻尾、服装も黒が好みなのか、何かの毛皮のコートを着ていた。
そして頭の上に生えるイヌ科を思わせる耳、グラエナのPKMのようだった。
グリナ氏は凛とした大人の女性だった。
目つきは鋭く、肉食獣を思わせるが、映像で見たような力強さはなく、憂いをもった瞳だった。
伊吹
「初めまして〜、伊吹です〜」
美柑
「美柑と申します」
凪
「凪です」
華凛
「華凛だ」
まずは此方から礼節を見せなければいけないだろう。
一人一人挨拶をすると、まずは軽く雑談のような話から進めようかな。
伊吹
「いつもここにいると聞いたんですけど〜、この場所には何かあるんですか〜?」
グリナ
「何もないさ……ただ眺めているだけだ」
グリナ氏はただ、街並みを見下ろしているだけだ。
そこに何かがあるのは確かなんだろうけど、流石に話してはくれないか。
グリナ
「君たち、初めて見るな……どこから来たのだ?」
伊吹
「うふふ〜、どこかな〜? アタシたちはどこから来たのかな〜?」
グリナ
「……まぁいい。それで、雑談しに来た訳ではないのだろう?」
グリナ氏は決して間抜けな女ではないだろう。
PKM連合の盟主であるグリナ氏が、アタシたちの目的にある程度予測しているかも。
華凛
「……単刀直入に言おう、なぜ戦争を起こした?」
グリナ
「ふふ、簡単だよ。PKMの楽園を作る……そのためには生け贄が必要なのだよ」
凪
「生け贄だと?」
美柑
「そのために1千万にも及ぶ人間を生け贄に捧げたと言うんですか!?」
はっきり言って、アタシたちは誰一人PKM連合の目的には賛同していない。
はっきり言って、その動機に対しては非難しているのだ。
しかしグリナ氏はどこ吹く風と微笑を浮かべる。
恐らく慣れたのだろう、このような陳腐な非難では彼女に波風は起きない。
グリナ
「PKMと人間はまだ、相容れる段階ではなかった。距離が必要だ」
凪
「なぜそう思う! PKMと人間はわかり合えるだろう!?」
グリナ
「……少なくとも、全ての人間が我々を受け入れてくれはしない」
華凛
「そのために、無関係な者まで巻き込んだのか……そこにはPKM連合に賛同しない無関係なPKMもいたはずだ」
グリナ
「そうだろうな……だからこそ血を流すのだ、百年後さえも見据えて」
美柑
(この人……!)
伊吹
(強い意志力、政治家向きだね〜……だけど)
はっきり言ってアタシはもう起きてしまった事を強く言及しても意味がないと思う。
かつての華凛がそうだったように、確固たる意志が出来た者には言葉だけでは通用しない。
伊吹
「随分過激派みたいだけど〜、その割には哀しい目だね〜」
グリナ
「なに……?」
伊吹
「ここまで大きな戦争にする気はなかったんじゃない?」
グリナ
「馬鹿を言え、私は人類に対して宣戦を布告した……私自ら戦端を開いたのだぞ?」
伊吹
「でも〜、止まれなくなった〜? 自分自身でさえ〜、暴走を理解しているのに〜、止められなかった〜?」
グリナ
「私は……、この戦争を……」
グリナ氏の言葉が澱む。
やはり間違いない、この人は華凛と同じだ。
決して非情の人ではない、冷酷さで情を覆おうとしているだけだ。
伊吹
「哀しいねぇ〜、誰でも良い、貴方を止めてくれる人がいたら、こんな戦争なんてなかったろうに〜」
グリナ
「勝手な事を……ん?」
ふと、アタシたちは上を見上げた。
空は晴天、だけどその青空を不穏な影が横切った。
グリナ
「まさか……!?」
グリナ氏が顔を青くした。
それもそのはず、遥か上空を飛ぶ航空機は真上を通過すると何かを落としていく。
それは空中で飛散して、街に大量の爆弾を落とすクラスター弾であり、街に無数の爆炎が立ち上る。
美柑
「くっ!? こんな昼間に爆撃!?」
グリナ
「人類軍め……! それ程に我々が憎いか!」
グリナ氏は激しい憎しみを抱くと、落下防止柵を跳び、見晴台から飛び降りた。
既に空には10機以上の爆撃機が編隊を組んで上空を通過する。
凪
「くそ! 巫山戯た真似を!」
美柑
「憎しみに怨念返ししても、そこには憎悪しか生まれないのに……!」
街があっという間に火に染まる。
PKMたちも爆撃に対抗できるポケモンは少ない。
静な街が、嘘のような速さで地獄に変わった瞬間だった。
***
茂
「傷付いた〜、制御コンピュータ〜、遥かに遠い〜、夢を抱きつつ〜」
セローラ
「ああっ、突然ご主人様が訳の分からない歌を歌い始めてる!」
保美香
「突然どうしたのかしら?」
茜
「まさか……○タンド使いの攻撃?」
茂
「失敬な、たまにはネタでスタートしても良いじゃない!」
いきなり歌っただけで、この反応だから向こう側とは違うよなぁ。
気分も鬱だから、歌いたくなっただけなのに。
茂
「Go for break out、Go for break out、ここはコリドー、駆け抜けろ 駆け破れ〜ナイト〜!」
セローラ
「ご主人様が歌ってみたは無理があると思います!」
保美香
「それよりもキングなのに歌詞ではナイトとはどういう事?」
茂
「総スカン、やんなるぜ」
俺ははぁ……と溜息をつくと、窓の外を見た。
ここはシェルターだから、厳密には窓ではないが、擬似的に窓の役割をする壁面モニターが外の風景を映す。
伊吹達は上手くやっているだろうか。
PKM連合自体信用できる組織かどうかも分からないうちは、どうしても警戒してしまう。
もし伊吹達を強制的に捕まえて、兵士にするような組織なら、俺は絶対に許さない。
組織のあり方はともかく、俺の願いは無事に全員が帰ってくる事だ。
茂
「そう言えば、ルザミーネさんも出て行ったけど、何やってるんだろうな」
茜
「そもそもあの人信用できるの?」
保美香
「利害が一致する上では、信用出来ますわ」
利害の一致か。
俺は今のルザミーネさんとの関係を考えると、必ずしも利害の一致があるかは疑問に思う。
向こうは自身を脅かす組織の排除と自衛のために保美香たちを利用した。
だが、彼女自身一側面だけでは計れない。
特に結局彼女も組織というしがらみの中で生きるなら、この辺りが潮時なのかもしれない。
茂
(敵対は……したくないな)
例えルザミーネさんの目的が俺の監視だったとはいえ、同じアパートの住民とそんな険悪な関係にはなりたくない。
保美香
「まぁルザミーネさんが帰ってこなくてもわたくしは構いませんが」
セローラ
「冷たいですね」
保美香
「スパイの類いを信用しろという方が無理がありますわよ」
保美香の俺への安全保障はかなり厳格だ。
少しでも俺に害意をもたらす存在には容赦しないし、そういう意味では頼れる。
一方で同じ俺への安全保障で、全く別の解法を見せようとするのは茜だ。
はっきり言って今の茜は異質過ぎる。
それでも俺に対する想いは変わったようには感じられないが、まるで今までの積み重ねが無かった事にされたかのように、無表情で物静かな娘に戻ってしまった。
茂
(まるで出会ったばかりの頃のような、誰とも関わりたくないと思っていた頃の茜……か)
そんな茜が、徐々に人間的に成長して、感情も現すようになって行ったのは間違いなく良い傾向だったと思う。
それなのに……なぜ振り出しに戻ったのか?
茜
「……何か?」
茂
「いや、なんでもない」
茜は俺の視線に気付き、振り返る。
俺は正直どうしていいか分からず言葉を濁した。
保美香
「それにしても、やはりシェルター生活は億劫ですわね」
セローラ
「え? 私は結構快適だと思いますけど、お洗濯も全自動ですし」
保美香
「やることがなさ過ぎて、億劫なのですわ」
そう言うと保美香は溜息をついた。
このシェルターは殆どのことを全自動で行ってくれる。
掃除も洗濯も機械任せ、食料だって備蓄なら機械が最適に調理して出してしまう。
それが保美香にはたいそう不満なようだ。
一方でセローラは可能な限り働きたくないというタイプ。
働いていないと落ち着かない保美香とは対極だな。
セローラ
「まぁしいて言うなら娯楽がないのが不満ですね」
茂
「確かに、俺もその点は退屈過ぎるな」
基本的にシェルターだから仕方ないが、テレビはないし(あっても放送自体見れないだろうが)、娯楽グッズは存在しない。
街の方に行けば、何か見つかるかもしれないが、色々危険だからな。
保美香
「そう言えば、セローラは貴方のご主人を探さなくて良いのですか?」
セローラ
「え? ご主人様ならここに」
そう言って俺を指すセローラだが、保美香が言っているのはそうじゃない。
茂
「百代絵梨花さん、探さないのかって事だよ」
セローラはその名前を聞くと手を叩いた。
どうやら忘れていたらしく、その忠誠心の無さには逆に感心するな。
セローラ
「まぁ、探すって言っても、何処に疎開したかも分からないし、無事かどうかも……」
茂
「確かに、このご時世では見つけるのは難しいよな」
セローラ
「それに……私、受け入れて貰えるでしょうか?」
それは、シャンデラになった自分の身体を見て、憂鬱そうに言った。
セローラにとって進化は望んだ事じゃない、無理矢理進化させられただけで、今のセローラが百代さんに受け入れられるか心配なのだろう。
いや、それ以前にPKMであること自体負い目に感じているのかも。
茂
「まぁ戦争が終わるまでは、何が出来るでもないからな」
茜
「戦争、終わるのかな……?」
セローラ
「お? どうしたの茜ちゃん?」
茜
「互いを憎しみ、殺し合う戦争に終わりなんてあるのかな……」
保美香
「終わりますわ、そう信じなければいけません」
茂
「あまりネガティブに考えるな、最悪を想定しても何も変わらない」
はっきり明確に茜が変わったと思う部分は、このネガティブさだろう。
今までの茜はどちらかというとポジティブな方だった。
今では常に最悪のパターンばかり考えている気がする。
戦争の終わりが、どちらかの絶滅しかなかったとしても、必ずしも両者がそれを望んでいるとは限らない。
いつ終わるかも分からないが、いつか終わると信じることは大切だろう。
茂
「いかんな、よし! 茜、外に出るぞ!」
茜
「ご主人様?」
茂
「少し汗でもかけば悪い思考も消えるだろう! あと真面目な話身体が衰えて敵わん!」
正直幽閉されていた状態からずっと動いていない性で、筋肉が衰えている気がする。
このままでは典型的な30代を迎えそうで、少し怖い。
セローラ
「ああん! ご主人様ったら、それならベッドの上でよがりまくりますから、一杯腰振ってくだされば、幾らでも汗を掛けますわ♪」
茜
「それなら私でも幾らでも協力出来ます」
保美香
「あなた達……わたくしも混ぜなさい!」
茂
「もうやだ……このHENTAIたち」
セローラの無茶振り発言、久し振りだよ。
最近なんだかんだで大人しくなっていたから、もうやらなくなったと思ったらこれだよ。
セローラ
「さぁ! レッツ! 裸のお付き合い!」
茂
「大○南拳! ぬーん!」
俺はセローラの頭部に全力でチョップを打ち込む。
セローラはチョップ一発で轟沈だった。
セローラ
「さぁこいどん、ぎゅ……う……!」
うむ、最後までネタを仕込んできたか。
茂
「全く、身体を動かそうってだけなのに」
茜
「……残念」
保美香
「相変わらず、鉄壁ですわね……種の保存をしようと考えるのが自然な筈ですのに」
茂
「何とでも言え」
俺はそう言うとシェルターの外に出る。
外は今日も快晴で、寒いのがネックだがいい時間帯だった。
この辺りは山間部だし、滅多にPKMも近寄らないから安全だろう。
茂
「さーて、まずは山をダッシュでも……ん?」
俺は山の頂上を目指し、ダッシュする手前で空を見上げた。
空には一筋の飛行機雲が伸びている。
飛行機雲? それを訝しむ俺はその筋の先を見た。
その直後、飛行機雲の先、PKM連合が拠点にしている街から爆炎が昇った!
茂
「なっ!? ば、爆撃!?」
それは爆撃機の出す飛行機雲だった。
数機の爆撃機は上空を飛び、街に爆弾を落とす。
爆弾は空中で無数の小型爆弾に分解されると、あちこち爆発する。
確か条約で禁止されているクラスター爆弾とかいう奴じゃないか!
茂
「くそ! あそこには伊吹達もいるんだぞ!?」
俺は慌てて街へ向かおうとしたが、その手を後ろから捕まれる。
保美香
「何をする気ですのだんな様!?」
茂
「決まってんだろ! 皆を助ける!」
保美香
「落ち着いて下さい! だんな様が街に向かった所でなんにもなりません! 爆撃をだんな様に止められますか!?」
茂
「く……!」
その通りだ、俺には爆撃を止める力なんてない。
今も爆撃機は街のPKMを殲滅するために爆弾を落としている。
俺が今行った所で被害者になるのがオチなんて見え透いている。
茂
「それでも……! もう嫌なんだよ! 見えない場所で皆が傷付くのはウンザリだ!」
茜
「ご主人様、伊吹達なら帰ってくるわ、彼女たちは強いもの」
茂
「茜……」
茜はそっと俺の手を握った。
彼女の心配した瞳、俺の沸騰しそうな怒りを冷ましてくる。
セローラ
「痛た……、私たちは無事を祈りましょう? ご主人様が全てを背負う必要はないんです」
茂
「……っ」
俺は力無く、手を項垂れさせた。
どうして戦争するのか。
なぜわかり合えないのか……俺は絶望しか許されないのか。
茂
(無力……今だけは憎い、力の無い俺自身が)
やがて、爆撃機は爆弾を落とし終えて、去って行く。
代わりに何機か別の機体が飛来すると、何かを投下した。
それは爆弾ではなかった。
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第19話 崩壊した世界 完
第20話に続く。