第18話 異変 Side保美香
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第18話 異変 Side保美香
ルザミーネ
「皆、改めて常葉茂奪還作戦を説明するわよ」
だんな様が捕らえられて1週間が経過していた。
それまでわたくしたちは、ただ遊んでいた訳じゃない。
確実に救出するための策を練り、そして装備を用意した。
今こそわたくしたちはだんな様を取り返す時だ。
ルザミーネ
「まずは地図の確認だけど、衛星写真と国土地理院の地図を使って説明するわ。まず敵の所在地だけど、どちらでも確認できないわね……でも、良く確認すると、あるはずべき物が衛星写真にはないのが分かるわ」
それは本来地図に記載されるべきエリアが、衛星写真では見当たらない部分。
即ち山頂周辺に、何らかの手が入っている事が分かる。
ルザミーネ
「恐らくだけど、目標の場所は山自体が要塞化されていると想定されているわ。攻略にはかなり苦労しそうだけど、私にはあなた達を信用するしかないわね」
凪
「当然だな、荒事は私たちの出番だ」
華凛
「ふっ、私は良い女だからな。華麗に切り抜けるさ」
ルザミーネ
「頼もしいわね。それで作戦に使う足だけど」
保美香
「外に止まっているジープですか?」
ルザミーネがわざわざ用意した車はアメリカ軍でもお馴染みのジープだった。
確かにジープならオフロードの走破性能も問題ないかもしれない。
だが、ルザミーネはチッチッチと指を振る。
ルザミーネ
「ただのジープな訳ないでしょ、核ミサイルの爆破に巻き込まれても大破せず、走行可能なスペシャルな改造ジープよ!」
華凛
「……それで用意にこんな時間がかかったのか」
ルザミーネ
「それはもう手配には苦労したわよ。ペンタゴンに掛け合ったり……」
アメリカ軍中枢のペンタゴンと来ましたか。
やはりルザミーネさんはただのエージェントではありませんわね。
それこそこれ程の巨大な組織が相手ならば、ここまで本気の用意をするとは感服しますわ。
ルザミーネ
「……こうなれば、私も最後まで付き合うわよ。ならやるなら徹底的にでしょ?」
凪
「お見事、ルザミーネには驚かされるな」
華凛
「それで、あの改造ジープで乗り込めるのか?」
ルザミーネ
「耐熱温度は1200度で12時間耐えられるし、ガラスは耐熱防弾完璧なフィルター加工を施してあるわ。タイヤも対戦車地雷でも壊れない代物、正にモンスターカー、走る要塞よ!」
保美香
「並のPKMでは歯が立たないですわね」
この仕様なら、私でも走行を阻止するのは難しいでしょう。
一体1台でどれ程のお値段の代物なのかしら?
いずれにせよ、心強いですわ。
ルザミーネ
「ふふふ……こうなれば戦争よ」
ルザミーネは一体何を考えているのか、怪しく笑う。
やるからには妥協を許さないのだろうけど、結構サディスティックな人なのかしら?
ルザミーネ
「他に質問がなければ出撃するわよ!」
***
ブゥゥゥゥ!
改造ジープは高い排気量で突き進む。
改造ジープに乗り込んだわたくしたちは、街を出て山道を走るが迎撃はなかった。
ルザミーネ
「……静かね」
保美香
「ええ、以前は迎撃されましたのに」
華凛
「ミサイルごときでは止められないと理解したからではないか?」
凪
「単純に日の出ているうちに目立つことは出来ないと言うのは?」
華凛と凪の説はどちらもあり得ますわね。
いずれにしても、この静かさは不気味であり何もないとは思えない。
とはいえこちらはどんな用意さえも突破する怪物を用意した。
ルザミーネ
「突っ込むわよ!」
ルザミーネさんはハンドルを切るとジープは山の急斜面を走り出す。
トルクがかなりあるのか、ジープは山を快速で登り、あらゆる物を蹴散らした。
ドォン! ドォン!
改造ジープの周辺で何かが爆発する。
それは予想通り、迎撃として用意された機雷であろう。
だが、核爆発にさえ耐えるこの改造ジープにはまるで通用しない。
ルザミーネ
「ガンホー! 無駄無駄ぁ!」
凪
「て、テンション高いな!」
ルザミーネは最高にハイになって、改造ジープを爆走させるが、その分ジープの揺れは最悪だった。
後部座席にしがみつく凪は苦笑いを浮かべ、その隣の華凛は重たそうに胸を持ち上げて不機嫌そうに目を瞑っていた。
保美香
「この分なら山頂周辺まで向かうのは簡単そうですわね」
ルザミーネ
「当然よ! PKMでも簡単に止められると思わないことよ!?」
山は中腹辺りまで走っただろうか、それまで迎撃には何度か引っかかった物の今の所はPKMは出てこない。
だが、そうやって快速で突き進む改造ジープの前に一人の女性が現れた。
ルザミーネ
「死にたくなければそこを退きなさい!」
当然ルザミーネさんはアクセルを緩める事はない。
改造ジープの前に現れた女性は当たる瞬間ニヤリと笑った気がした。
そして改造ジープは女性を轢くように突き抜ける。
ルザミーネ
「やったのかしら!?」
保美香
「いえ、上ですわ!」
女性は当たる瞬間、跳んで改造ジープの天井に取りついた。
その動きは間違いなくPKMだろう、ただ一瞬では種族までは分からない。
180センチ近くのスラッとした細身の女性で、全身を真っ黒なレオタードで固めていた。
一瞬、尻尾が見えた気がしたけれど。
華凛
「火か……炎タイプのようだ」
ルザミーネさんは「え?」とバックミラーを見る。
フロントからは分からないが炎が側面のガラスから噴いているのが見えた。
中は耐熱は完璧らしく、本気で熱は感じない。
ルザミーネ
「強化セラミックの車体は単純な炎が効くものですか!」
直後、フロントガラスから女性は上から顔を覗かせた!
女性は随分整った綺麗な顔立ちしている、しかしその瞳は紫で、目を細めると瞳孔がは虫類のように収縮した!
女性
「炎に強いのね、でもこれならば?」
女性はフロントガラスに手を添えた、その手からは何かが分泌されている。
ルザミーネ
「一体何を!?」
保美香
(炎? は虫類染みた瞳に、痩躯な身体……?)
「不味い! 相手はエンニュートよ!」
華凛
「エンニュート? 何者だ?」
ルザミーネ
「え……2000度の熱でも融解しないフロントガラスが溶けて……?」
エンニュート
「あっはっは! 私に『腐食』できない物はない!」
女の声が気密性を破られたジープの中に響く。
直後その腐食に使った右手から火が噴き出した。
エンニュートはその両手から炎を噴き出す事が出来る。
鋼をも溶かす腐食の特性と、その炎の力は厄介な相手だ。
保美香
「やらせるわけがないでしょう!」
エンニュート
「ハハハ! 少し遅いっ!」
炎が内部に吹きこぼれる。
わたくしは空いた穴にパワージェムをぶち込み、なんとか脱出の機は手に入れる。
そのまま、車を飛び出ると車は暴走し、木にぶつかって止まる。
エンニュートは地面に低く構えて舌を舐めずった。
エンニュート
「そこのお前……たしかウツロイドだったか? 災厄とも呼ばれるウルトラビーストと戦うことになるとはな」
保美香
「生憎ですが、わたくしは災厄と言えるほどの事をした覚えはありませんわ。本来一族は臆病ですのよ」
この相手、恐らくだけど同じ世界の存在のようですわね。
数奇な縁ですが、同じ世界に辿り着いたのですか。
保美香
わたくしは保美香、この世界での名前を言いなさい」
エンニュート
「ナンバー02、詰まらない名前だろ? まぁ私らPKMは家畜みたいなものさ」
エンニュート……02のその目は自虐的だ。
恐らく組織にロクな目に合っていないのでしょう。
もしだんな様に拾われれば、きっとだんな様は彼女も救うのでしょうね。
ですが、その可能性を憂いてはいけない。
保美香
「精々死なないように」
02
「ハ! どっちが!」
02は手を背中に回すと、ダガーナイフを取り出した。
そして彼女は、その体を躍らせる。
02は上からその刃を振り翳した。
凪
「保美香!」
保美香
「!」
私は触手を展開し、02の身体を拘束する。
本来はこういう使い方はしないが、今回はそういう出し惜しみはしない。
02
「チッ!? 触手だと!? 擬態していたのか!」
保美香
「慈悲はいりませんわね?」
わたくしは02の身体を吊り上げると、パワージェムの姿勢に入る。
保美香
「さようなら」
02
「巫山戯るな!」
02は身体が拘束されても抵抗を続ける。
口を大きく広げると、彼女は火炎放射を放つ。
保美香
「……く、其方こそ舐めるなっ!」
私は火炎放射の直撃を受けるも、パワージェムをぶち込む。
02
「ガハッ!? 避けもせず……?」
わたくしは炎には強い。
恐らく02はわたくしのタイプも知らないのでしょう。
わたくしには炎も毒も通じない、だからこそ最も余計な被害なく倒すにはこれが最善だった。
02は喀血し、触手に抵抗する力が失せると、わたくしは02を地面に降ろした。
02
「ハ……、トドメは、差さないのかい?」
保美香
「死にたいのならば、そこに1週間もいれば、勝手に死ねるでしょう。そんな者に構っていられるほど暇ではありませんので」
02
「分からないね……アンタが何故、災厄と呼ばれたのか……」
保美香
「さぁ? それはわたくしにも分かりませんわ」
わたくしは焦げた衣服を見るが、着替えは用意していない。
仕方なく、02を無視して改造ジープ向かう。
保美香
「ルザミーネ、これまだ使えますの!?」
ルザミーネ
「え、えぇ……大丈夫と思うわ」
ルザミーネは戦闘が終わると、ジープの中を調べる。
どうやら、あの程度では簡単には壊れないようですわね。
凪
「その、ダメージは大丈夫なのか?」
凪は心配そうに駆け寄るが、わたくしは特殊防御力が最も優れているので、大したダメージではない。
寧ろ衣類の替えを用意しなかったの失念していましたわ。
華凛
「02だったか、追ってこないか?」
保美香
「回復したらありえますが、まぁ大丈夫でしょう」
わたくしは前部座席に乗り込むと、若干の焦げた臭いを感じる。
ルザミーネは操縦席に乗り込むと、改造ジープを動かした。
華凛
「中も頑丈なんだな」
ルザミーネ
「運が良かったわ、もう少し炎が長く放たれていたら駄目だったかも」
改造ジープは若干の問題はあるが、とりあえず山を走る。
気が付けば、山の上部でると、急に視界は良くなる。
ここからだと、下の街並みが見える。
華凛
「ほお、中々風光明媚……? なんだ、街の様子がおかしい?」
華凛がサイド窓ガラスから景色を見る、しかしその景色は異様だった。
凪
「なんだ? 街が燃えている……?」
ルザミーネ
「え? 燃えて……て、なんで!?」
それは、確かに炎だった。
つい数時間前までいた街が燃えている。
改造ジープは慌てて、急停止する。
車を出て、街を一望すると、あちこちで火の手が上がっているのだ。
まるで重慶でのPKMの暴動がここまで飛び火したかのように……。
ルザミーネ
「一体何が起きたってのよ!?」
ルザミーネさんは慌てて、特注したであろう特殊な端末を操作して、情報を調べる。
ルザミーネ
「……え? 通常国会にPKMが乱入?」
保美香
「一体、何が起きていますの?」
ルザミーネ
「訳分からないわよ……こんなの」
ルザミーネさんは一人端末から情報を仕入れるも、あまりの事態に大きく頭を振った。
一体どんな情報があったのか分からないが、ルザミーネさんはゆっくり話し出す。
ルザミーネ
「約300人余りのPKMが一斉に蜂起を開始、先んじて今から2時間前……一匹のPKMが国会に乱入し、声明を出したわ」
華凛
「声明だと? それとこの事態にどんな関係が?」
ルザミーネ
「我々PKMは冬の時代を乗り越え、自治権獲得を目指し、全人類に対し宣戦を布告する……だそうよ」
凪
「なっ!? たかが数百のPKMで独立戦争を仕掛けたというのか!?」
凪の驚きは最もだ、それだけにルザミーネさんも頭を振って悩ませている。
PKMの力は凄まじいが、しかし全人類に宣戦布告をしたとしても、その影響力はテロのレベルに過ぎないだろう。
結局数の暴力に飲み込まれるのが目に見えている。
いや、それよりも最悪なのはそれに巻き込まれる善良な一般市民とそのような争いを求めていないPKMたちだ。
保美香
(あの街には紫音もいるのよ……あの子が戦争を求めるとは思えない!)
ルザミーネ
「何かがおかしいわよ……! 都合が良すぎる!」
凪
「都合が良い? どういう意味だ?」
ルザミーネ
「PKMが武装蜂起したって事はまず、日米安保を盾にアメリカが鎮圧に来るわね、恐らく名目は人道支援としてロシアや中国系も日本に入ってくるわね」
保美香
「それって……つまり」
ルザミーネさんは深刻そうに頷いた。
ルザミーネさんが言っているのは、日本がPKMを求める国家群の絶好の狩り場になったという事だ。
ルザミーネ
「早速、駐在している米軍が動き出したかしら? 日本は食い止められなかったか」
華凛
「……ダーリンを救う。これだけは完遂する所存だが、ダーリンになんて説明すればいいんだ」
華凛も呆れて物も言えないのだろう、いつもの余裕のある佇まいとは異なっている。
だが、華凛の言う通りだんな様をお救いするのは絶対だ。
保美香
「……行きましょう、わたくしたちがすべき事をもう一度思い出すのです」
凪
「……まだ動揺が抜けん。しかし騎士としての本懐は外せないか」
凪などは人道の観点から迷わず火の海と化した街に急行して、争いを止めたいだろう。
わたくしだって、せめて無関係のPKM位救いに行きたい。
だが、優先順位を履き違えるな、わたくし達は既に一度だんな様の奪還を失敗している。
今度こそ失敗しない、必ず救うのだ。
***
一方で正に火中にいたのは。
真莉愛
「一体、一体何が起きてるの!?」
私はここ一週間、異常事態に遭遇していた。
まず最初に起きた異変は、茂さんが行方を眩ました事。
いや、アレは眩ましたなんてレベルじゃない、ドア一つが消し飛ぶテロがあったのだ。
恐らくPKMごと拉致された……でも問題はそれが始まりに過ぎなかった。
それ程の異常事態にも関わらず、街は眠ったように静かで、警察が出動したのは翌日の事だった。
失踪したのは茂さんを含め茜、保美香、美柑、伊吹、凪、華凛の7名と百代さんをホストとするセローラの計8名。
この最悪の事態は想像しなかった訳ではない。
特に茂さんの場合、異世界からの生還者であり、それを求める研究機関は多い。
だが、問題は更に山積みだった。
茂さんが失踪してからの一週間にPKMが1000人近くも現れたのだ。
しかも、この街だけで……だ。
全国レベルでなら優に10000を超えているかもしれない。
まるで茂さんの危機に呼応するかのように、大量同時顕現に私たちは只管忙殺された。
元々、茂さんは私たちPKM対策管理部も重点マーク対象だった。
彼の近くで不自然なほどゲートから顕現する確率が高い事は、既に分かっていたのだ。
当然組織の運用費も限られ、人員に限界のある私たちに膨大に膨れ上がるPKMを適切に処理することは不可能だった。
そんな中、最初の最悪の一報が送られたのは12時間前の事だった。
***
真莉愛
「PKM管理収容所で暴動!?」
場所の秘匿された収容所は、PKMの教育も目指す場所で、そこはかつて廃棄された村を再開発した場所だ。
管理に宛がわれたのは20名程のメンバー。
PKMに対して数は少ないが、PKM達は個性はともかく一様に従順で温和しいので問題はなかった。
管理に携わるメンバーも殆ど、自身を守る装備は無く、突然始まった暴動に巻き込まれ為す術がなかった。
真莉愛
「……もぬけの殻」
車を急行させ、PKM管理収容所に辿り着いた時には、管理メンバーは怯えて隠れていた。
私はPKM達が普段住んでいる場所を目指すが見事にもぬけの殻だったのだ。
真莉愛
「凄い暴れたのね……」
収容所は寮を改装したもので、寮の1階は談話室になっているが、内装はズタズタでガラスは割られ、暴動という言葉がこれ程似つかわしい事はない。
丁度中国重慶でヒードランの暴走により、コンビナートが火の海と化した事を思い出しながら、同じ事が何故こうも重なるのか疑問に思う。
ガサリ。
真莉愛
「誰か残っているの!?」
突然談話室の片隅で本に押し潰された下で何かがもぞもぞ動く。
私は警戒しながら、本を退けていく。
もし人間に対して強い害意がある存在なら、私自身危険だからだ。
だが、ある程度本を退かすと、そこから出てきたのは毛布被ったPKMだった。
クルマユ
「お腹空いた……」
真莉愛
「あっ、貴方あの時の失礼なクルマユ!?」
それは以前、PKMの拉致を狙っていた組織に拉致されかけたクルマユだった。
彼女だけは暴動に参加するのも面倒だったかのよう、もぞもぞ毛布に包まったまま、暴動の嵐が過ぎ去るのを待っていたようだ。
真莉愛
「クルマユ、一体何があったの?」
クルマユ
「飯」
真莉愛
「○ロリーメイトで我慢しなさい」
クルマユ
「ち、フルーツ味じゃないのか」
とりあえず話しが通じないので、懐に忍ばせていた○ロリーメイトチョコ味を渡すと、彼女は渋々頬張った。
非常に注文の多いPKMだが、貴重な証人なのだ。
真莉愛
「で、ここで何があったの?」
クルマユはモグモグ○ロリーメイトを飲み込むと、手をペロリと舐めて話した。
クルマユ
「始まりは誰が最初か分からないけど、何時まで経っても外に出られない不満を誰かが零した。私はいつもの事だと流したんだけど、今日は何かおかしくて、誰かがその不満に呼応して、あっという間に暴動に変わっていた」
真莉愛
「施設に幽閉されている不満から始まったの?」
なんだかんだでここでのPKMは行動に制限がかけられている。
それに不満を持つのは当然だけど、クルマユの様子を見るとやはりおかしかったようだ。
クルマユ
「私としてはここでの生活って快適だから外より良いと思うけど、他の子も変だったんだよね……よく分からないけど暴れるような子じゃない子が急に暴れ出したり……」
真莉愛
「貴方はどうしようとも思わなかったの?」
クルマユ
「……めんどい。だから参加しなかった」
真莉愛
「四文字……」
クルマユに何か異常はなかったのか、気になるけどとりあえず話した感じ異常は感じられない。
真莉愛
「はぁ……それにしてもこれ、どうするのよ?」
PKM収容所は第3収容所までが現在建設中であった。
元々加速度的に増えていたPKMに対して既存の箱では保たない事は分かっており来年までには第2収容所が完成する予定だったが。
真莉愛
「第一収容所がこの様だと、追加収容は不可能ね……ていうか暴動起こしたPKMはどこに行ったのかしら?」
私は携帯を取り出すと、本部に連絡を入れた。
はっきり言ってこれは最大級の異常事態なのは間違いない。
それこそ災害クラスの惨事が起きることも想定しないといけないかもしれない。
それだけは絶対に避けないと。
真莉愛
「とりあえずクルマユ、移動するわよ」
クルマユ
「面倒〜……運んで〜」
真莉愛
「面倒なのは貴方の方よ……」
私は呆れながら、クルマユを背負うと彼女をマイカーの後部座席に座らせて、私は車を動かす。
それは今から10時間前の事……。
***
今から2時間前、最悪の事態が起きた。
真莉愛
「何? もう一度言って!」
その日、間違いなく史上最悪の一日に間違いはなかっただろう。
私の電話は一日中鳴り止まず、愛紗から電話が掛かったのは昼過ぎの頃だった。
愛紗
『あ、あの! ですから今国会にPKMが乱入して!』
真莉愛
「国会!?」
クルマユ
「ん〜、テレビ」
アレから8時間、クルマユを後部座席に載せたまま、私は只管事態解決に奔走していて、テレビなんて見ている暇はなかった。
私は慌てて車に備え付けられた1セグテレビをつける。
その小さな車用テレビに映し出されたのは……。
PKM
『我々PKMが何故、人間によって虐げられなければいけないのか!? 我々は立たねばならない! PKMによる自治権の獲得! PKMのユートピア! PKMの真の自由を獲得するために! 全人類に対して宣戦を布告する! これは冬の時代を乗り越える独立戦争である!』
真莉愛
「……は?」
突然占拠された国会議事堂。
抵抗したであろう警備官達は地面に伏せされ、動かない。
恐れ戦いた議員たちが次々と議事堂内から逃げていくのが映されていた。
クルマユ
「何言ってんのコイツ?」
クルマユはイマイチ事態を理解していないようだった。
正直私だって頭がおかしくなりそうだ。
真莉愛
「狂人? それとも本気で独立戦争を?」
それは正しく狂人の戯れ言だと思う。
だけど議長席に立つPKMは本気だった。
テレビの中央に映るPKMには見覚えがない。
黒い鬣のようなボサボサ毛、大きな犬のような尻尾が目立つ。
直後、仕事用のガラケーがけたたましく鳴った。
私は直ぐに電話に出ると、管理部の本部長からだった。
本部長
『御影! 大変な事になったぞ! 都心がPKMに制圧された!』
真莉愛
「はぁ!? 本部は無事なんですか!?」
本部長
『今の所被害はない! だが直ぐにやばくなるぞ!』
対策管理部の本部があるのは霞ヶ関だ。
国会議事堂が占拠されたなると、相当数のPKMが一斉蜂起した可能性が高い。
そしてそこから巡り出される最悪の結果は……!
本部長
『米軍が事態の鎮圧に動き出した! 日本も自衛隊に暴動の鎮圧を命令した! このままじゃ都心が火の海になるぞ!』
真莉愛
「火の海! それで……私に連絡したというのは?」
本部長
『全てのPKMが独立を希望している訳じゃないはずだ! 可能な限り無関係なPKMを保護してくれ!』
真莉愛
「この期に及んで……了解!」
本部長も中々のお人好しね。
この事態にまだPKMの事を心配している。
そうだ、クルマユのようにそれとは無関係のPKMが今日本中に溢れている。
だけど、一般人に取ってPKMはそれだけで危険なテロリストと同義になったのだ。
真莉愛
「愛紗聞こえている!? 皆引き連れて家を出て! そこはいるだけでもう危険よ!」
愛紗
『それが、杏がいないんです! 連絡もつかないし何かあったんじゃ!?』
真莉愛
「杏が!? 兎に角あなた達も身を守って!」
事態はどこまで混沌を深めるのか。
ここが火の海になるまで後100分……。
***
最悪の一日、それは様々な場所で波紋を巻き起こす。
それはメイド喫茶ポケにゃんでも。
ザワザワ! ザワザワ!
晃
「……偉いことになったわね」
ポケにゃんの店長金剛寺晃はテレビで事態を知った。
PKMによる自治権の獲得、独立戦争。
日本ではあまりにも聞き馴染みのない言葉だけど、PKMを危険な存在だと思わせるには充分だった。
希望
「……こんなのって」
希望(のぞみ)は胸を抑えて、その事態に不安を募らせる。
不安に胸が張り裂けそうなのは、他の皆も一緒だ。
同様に店に訪れていたお客たちもざわついてしまう。
晃
(華凛ちゃん達が失踪して、今度はPKMによる宣戦布告?)
何かがおかしい、でもそれがなんなのかが全く分からない。
だけど、晃はこんなときでも何をすべきか理解している。
晃
「ご主人様の皆様! ご心配なく! 我々ポケにゃんの一同はご主人様方とより良い関係を築いていきますので!」
希望
「っ! 私たちは皆さんのメイドですっ! 一杯ご奉仕させてくださいませ!」
団子
「そうだにゃ、ポケにゃんはご主人様に最高のサービスでもてなすにゃ」
不意に、生首が宙を舞う。
星火が自分の頭部を高く投げたのだ。
星火
「……おーし、上等じゃん! 戦争がなんだ! 私たちはメイドだー!」
流花
「そ、そうね……私たちがご主人様達を不安にさせる訳には……」
照
「そのためにはより一層のご奉仕が必要……」
PKMたちの様子に、最初は不安そうだったお客たちも徐々に不安を消していった。
晃
「ふふ、とはいえ皆さんにはお詫びとしてコーヒーを無料で配らせて頂くわ♪」
晃にとってこの店は全てだ。
理想だと言ってもいい。
人間とPKMが調和して、居心地の良い空間を生み出す。
それを簡単に破壊されてたまるか、晃の覚悟は重い。
太ったオタク
「それにしてもやっぱり華凛殿や凪殿がいないポケにゃんは寂しいですな……」
痩せ細ったオタク
「華凛殿は必ず帰ってくる! そう信ずるのです同志よ!」
晃
(そうね……私も信じるわ。あの子たちが必ず帰ってくるって)
***
紫音
「ご主人様、なんだか外が騒がしいみたい」
チョロネコの紫音は病院にいた。
リンゴをナイフで剥いて、外で何が起きているのかも知らなかったが、ベッドに横たわるご主人様の笑顔に喜んだ。
ご主人様は今快方に向かっており、あと少しで退院だった。
紫音
「また、ご主人様一緒にお散歩したい」
ご主人様もコクリと頷いてくれた。
紫音にとってみれば、この世界はそんな悪いものでもない。
愛おしい者と一緒にいられるなら何処でもいいのかもしれない。
しかし、病室の外で看護士たちが紫音を見て噂する。
看護士A
「あの子PKMでしょ? 大丈夫なのかしら?」
看護士B
「あんな子でも、独立を希望するのかしら?」
看護士C
「怖いわねぇ……院内にPKMを入れるべきじゃないんじゃないかしら」
紫音
(なんだろう……いつもと雰囲気が違う? この違和感は何?)
***
ダダダダダダ!
凪
「ち!? どうやって突破する!?」
山の山頂近くは正しく戦術要塞そのものだった。
山の斜面に偽装された入口を発見するも無数のセントリーガンが弾幕を張り近づけない。
華凛
「ち……PKMといえど、重機関銃の直撃は死を意味するからな」
保美香
「セントリーガンは見えている限り4機、ただアサルトライフルで弾幕に加わる兵士が入口の奥に見えますわ」
さながら秘密基地。
相手の総戦力が分からないまま、無理をして突破するつもりはない。
保美香
「まずはセントリーガンの排除からですかね」
私はパワージェムのため、力を溜める。
見えているセントリーガンは入口の上部につけられた二つと、入口の両脇に2つ。
当たばThe war for Earthのように一発で生首○ンダムになってしまいますから、慎重に破壊しませんと。
保美香
「弾幕に負ける威力では駄目……特大の巨大な物で! パワージェム!」
私は普段より数倍力を溜め込み、特大のパワージェム生み出し、それはさながら巨大な琥珀の輝きを放つ。
私はそれをセントリーガンの一つに放った!
パワージェムはセントリーガンの弾幕に晒され破砕するも、大きなその欠片は減速することなくセントリーガンの砲身を砕く。
ドォォン!
玉詰まりしたセントリーガンの1機が爆発を起こす。
華凛
「辻斬り二の式、船斬り……連打!!」
続いて、華凛が飛ぶ斬撃を連続で放つ。
一発一発ではセントリーガンから放たれる重い一撃に相殺されてしまう。
しかし渾身の一撃が、弾幕をすり抜けセントリーガンの一つを切り裂いた。
これで2機!
兵士A
「クソ! 破られるのも時間の問題だぞ!?」
兵士B
「メーデーメーデー! 救援を! 救援を!」
後ろの兵士2人が慌てている様子が分かる。
凪
「援軍など呼ばせるか!」
一気に2機のセントリーガンが潰れ、弾幕が半分になると凪も一気に弾幕を掻い潜り入口に飛び込む。
兵士A
「うわぁぁぁ!? パワーが違いすぎるぅ!?」
兵士B
「くそぉ! 身体をズタズタにしてくれる!」
凪
「踏み込みが足りん!」
凪は剣の腹で兵士二人の首を殴打して、一撃で失神させた。
そのまま凪はセントリーガンの裏側からその二つを破壊して、その場での戦闘を終了させた。
凪
「まぁPKMが出てこないなら、こんなものか」
凪は数度剣を振るうと、鞘に納める。
ルザミーネ
「……戦闘、終わったのね?」
ルザミーネさんは戦闘が終わると、その場に伏せていた状態から頭を上げる。
ここから先はもう改造ジープでは進めないため、ルザミーネさんの仕事は終了したと言える。
華凛
「さてと、これでようやく中に侵入出来るわけか」
保美香
「気を引き締めませんとね」
わたくし達はぞろぞろと気絶した兵士達の横を通り過ぎ、入口の奥を見定める。
薄暗い、こんな場所にだんな様が幽閉されているのか?
ルザミーネ
「ちょっと皆ー! 不用心に進まないの!」
一番後ろで最も警戒感を顕わにしたのはルザミーネさんだった。
ルザミーネさんはこういう時最も慎重で頼りになる。
ふと、そこでルザミーネさんは屈み、兵士の肩に装備されたトランシーバーを握った。
トランシーバー
『坑道を爆破する! ギリギリまで引きつけろ!』
ルザミーネ
「……やばい」
トランシーバーがけたたましく叫び声が聞こえた。
全員が顔を青くする中、坑道内に震動が響く。
ルザミーネ
「総員退避ー!」
ドドドド! ドォォォン!
ルザミーネの号令と同時に外に飛び出す私たち、爆破の衝撃で飛び散る噴煙に吹き飛ばされた。
保美香
「けほ……煙が!」
華凛
「先達の意見はちゃんと聞くべきだな……危うく生き埋めだった」
凪
「けほけほ! で、入口がこれ一つって事はないよな?」
ルザミーネ
「まぁ、恐らく入口は複数あると思うべきね……じゃなきゃ中の人が生き埋めになるわけだし」
ブゥゥゥゥ……!
保美香
「けほけほっ! なんの音ですか?」
華凛
「上か……?」
ルザミーネ
「B-29爆撃機? て……嘘でしょぉぉ!?」
キィィィィン!
それは爆撃機だった。
爆撃機が何かを落とす。
わたくしたちは兎に角走る。
途中で改造ジープが見え、改造ジープに飛び込んだその直後。
チュドォォォォン!!
その日、キノコ雲が観測された。
爆撃機が落としたのは小型の核爆弾だった。
保美香
「流石核爆発にも耐える改造ジープ……見事耐えましたわね」
ルザミーネ
「本当に核爆弾が使用されるなんて想定してないわよ」
私たちは爆風で逆さまに横転した改造ジープの中でなんとか無事やり過ごす。
外では一気に温度が上がり、火災が発生していた。
時機に雨が来るわね。
凪
「痛た……本当の化け物は、ああいう兵器を生み出す人間の方だと思うよ」
山肌の一角が剥き出しになったが、それだけの恐ろしい所業をするポケモンは少ないだろう。
真に恐ろしいのは人間というのは同意ですね。
ルザミーネ
「暫くここで火が止むのを待つべきね……放射能対策まではしてないってのに……」
結局1時間後、雨が降って火は鎮火された。
その後、新たな入口を捜索したが、入口の多くはダミーとして多くが防がれていた。
その間にも、山の下では戦火が広がっている。
ルザミーネさんの集めた情報では、当初一般市民に対しては横暴に振る舞わなかったっPKM連合は、多国籍軍の攻撃に対して、報復として周囲の民族浄化を開始した。
当初300名と思われたPKM連合は、初戦の勝利、そして対立する人間とPKMの溝がPKM連合に参加するPKMの数を大きく膨れ上がらせた。
果たしてこの泥沼化しつつある戦争がどのような結果を迎えるのか……それは誰にも分からない。
***
凪
「見つけたぞ! あそこはどうだ!?」
結局入口の捜索は1週間に及んだ。
結局使えそうな入口を見つけたのは隣の山あった。
基地は予想外に広く大きい。
そして、どうやら組織はこの基地を放棄しつあるようだった。
保美香
「……滑走路」
華凛
「小型機程度なら、発進できそうだな」
そこは隠されたようにあった滑走路だった。
既にそこに航空機はないようだが、余程慌てていたのか色んな物が散乱している。
或いは、PKM連合がこの辺りにも出没して、荒らしたのかもしれない。
私たちは警戒しながら捜索を続けると、突然扉が開く音がした。
茂
「保美香!」
保美香
「っ!?」
それはどれ程待ち焦がれた声だろうか。
わたくしは直ぐさまその声の方を振り向いた。
そこには手術衣のような物を着込んだだんな様がいた。
保美香
「だんな様? だんな様ー!」
わたくしはだんな様の胸に飛び込み涙する。
これ程嬉しい事はない。
だんな様はそんなわたくしを優しく抱きかかえてくれる。
この暖かさ、間違いなくだんな様だ。
茜
「皆……」
だんな様の後ろからは美柑や伊吹、そして茜がいた。
私は茜に向き直ると。
保美香
「茜……今は何も問いません。あなたが何者であろうと」
正直、茜が何者なのか、わたくしには分からない。
ただ、それでもわたくしとは別の方法でだんな様を守りたかったのだと信じたい。
実際だんな様は元気なようで、この結果だけは本当に嬉しい。
保美香
(だんな様、この保美香……これからも必ずだんな様をお守りします!)
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第18話 異変 Side保美香 完
第19話に続く。