第17話 終末への加速
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第17話 終末への加速
ガシャーン!
11月21日、あの忌まわしき日に全て狂ってしまったのか。
だんな様が囚われ、茜が投降し、混乱する中わたくしたちはベランダのガラスを破って、外へと脱出した。
ガガガガガ!
アサルトライフルの斉射をかわし、スナイパーライフルの射角から逃れ、暗い闇へとわたくしたちは姿を暗ます。
保美香
「逃げれたのは……?」
バサァ!
上空から飛来するのは凪、どうやら凪を撃墜出来るほどの対空装備はなかったようだ。
一方で、茂みの中から現れたのは華凛だ。
華凛は屈辱に唇を噛んだ。
凪
「これだけか……伊吹はともかく、美柑も捕まったか」
華凛
「忌々しい……! 腸をぶちまけてやる!」
保美香
「その腹立たしさ、同意しますが今は落ち着きなさい」
わたくしも華凛と同様の激情を秘めている。
本当ならば、あの場にいた賊全て、その場で血祭りに上げたかった。
だが、それが出来ないからこうしてわたくしたちは逃げたのだ。
凪
「これからどうする? 奪い返すか?」
保美香
「出来るとは思えません」
華凛
「嫌に弱気だな、根拠は?」
保美香
「相手の蛮行、その大胆な行為をさせる裏付けが読めません……下手に表に出れば返り討ちにあう可能性も否定は出来ないかしら」
我ながら弱気な発言だと思う。
でも、正直自分の感情だけで動くには動揺しすぎている。
(茜
「私はご主人様以外は何も要らない。貴方達がご主人様の邪魔になるなら、私は……!」)
茜の投降する際の言葉が未だに脳裏に張り付いて忘れられない。
あれが……あれが本当に茜だったの?
直前までの茜はだんな様の誕生日を祝うために精一杯頑張っていた。
確かに茜はだんな様一筋の子だったけれど、あそこまで冷酷非情な顔になれる子だったかしら?
このモヤモヤが、わたくしの戦意を躊躇わせる。
わたくしの中で、茜が敵か味方か分からない内は、下手に動けばそれだけ隙を晒すだろう。
特に明確に敵だった場合、わたくしたちは恐らく勝てない。
理由もなく、わたくしは茜を恐れていたのだ。
凪
「見失うのだけは不味い……私は奴らの動きを監視する」
華凛
「……ほとぼりが冷めたら、得物を取り返すか」
華凛も少しは頭の熱が取れたらしい。
がむしゃらに逃げたから、現在位置が不明だがまだそれほど遠くにはきていない筈だ。
保美香
「それにしても……相手の狙いはだんな様だったかしら、一体どういうこと?」
華凛
「さぁな。だが私たちにとっては何が何でも取り返すべき大切な存在ではないか?」
わたくしは頷いた。
華凛の言うとおり、だんな様がなんであろうとだんな様に尽くす事がわたくしの喜び。
だんな様の行く手を阻むならば、その全てを祓うのがわたくし。
ガサッ。
その時、突然真っ暗な茂みの奥から誰かが近づいてきた。
私たちは警戒感を顕わにして、その人物の姿を確認した。
そしてそこにいたのは……。
ルザミーネ
「敵じゃないわよ、警戒を解いて」
保美香
「ルザミーネさん!?」
それは予想だにしない人物だった。
なぜ、ルザミーネさんが茂みの奥に隠れていたのか、しかしそんな推測も待たずに、彼女は言った。
ルザミーネ
「取引しない? 私は狙われているの。貴方たちは私を守り、私は貴方達に常葉さんの身柄を奪還する」
華凛
「……いきなり過ぎて読めんぞ?」
ルザミーネ
「鈍いわね……貴方達を襲った組織に私も命を狙われているって言ってるの! 私はこの国の内情を監視するエージェントなの!」
保美香
「取引に応じるとしても、だんな様の奪還……実際どうするのですか?」
ルザミーネさんの様子、格好もいつものようにセレブな格好をしているが、木の枝や葉っぱが絡みつき、表情も切迫しているのが分かる。
だが、彼女は取引に掛かったと判断したのか、スマートフォンを取り出した。
ルザミーネ
「これなにかしら?」
ルザミーネさんが取り出したスマートフォンには地図アプリが映されていた。
赤い光点が地図上を走っている。
ルザミーネ
「こっそり、常葉さんに発信器取り付けていたのよね〜。どうするの?」
華凛
「! それさえあれば見失わない!?」
保美香
「嘘でないならば、ですがね」
生憎人間は嘘をつく生き物だ。
私がルザミーネさんを信じるかは、材料が全く足りない。
ルザミーネ
「重要なのは、常葉さんじゃないかしら? 応じる? 応じない?」
華凛
「藁にも縋るか……」
保美香
「……致し方ありません」
わたくしは取引に応じる態度を見せると、ルザミーネさんはニコリと笑った。
よく見ると冷や汗をかいているのが分かる。
ルザミーネ
「ありがとう。正直言ってPKM相手に取引するのは心臓に悪いわ」
華凛
「ふっ、心の臓、その鼓動を止めることなど容易いからな」
わたくしたちとルザミーネさんは、対等に見えて対等ではない。
取引に応じなければ、そもそも彼女の意見は通らないし、なんならスマートフォンを取り出した時点で、それを力ずくで奪うことも可能だったのだ。
ルザミーネ
「あなたたちが、どちらかというと純朴な方で助かったわ」
保美香
「それにしても……だんな様は何処へ向かっているのかしら?」
光点は地図上を時速40キロ前後で進んでいる。
都市部ではなく、山間部を目指しているようだが。
ルザミーネ
「そんな事より……!」
ルザミーネさんがスマートフォンの電源を落とす。
そしてその視線の先に警戒感を顕わにした。
華凛
「黒服? 敵か?」
数人、格好こそ襲撃してきた特殊部隊風の奴らとは違うが、何かを探すように茂みの近くを彷徨いている。
一見すれば、一般人のようにも見えるが、夜間でありながらサングラスを揃って付ける集団は変質者以外の何物でも無い。
華凛
「……とりあえず倒せば分かるか?」
華凛は「はぁ……」と溜息をつく、その直後。
***
凪
「……よもや、こんな事態になるとはな」
襲撃から1時間、襲撃者たちはマンションから撤収していた。
生憎我が家は玄関の扉が吹っ飛んでおり、中も凄惨な光景だが、一先ず準備が必要だ。
華凛
「……全く、暗殺者も所詮リクルートされただけの末端か」
あの後、華凛は暗殺者を文字通り瞬殺して、保美香が拷問した結果、ただ雇われただけの傭兵だった。
ルザミーネ曰く、成功しても暗殺され、失敗してもリスクのない安全な駒とのこと。
保美香
「皆さん、準備が出来たら外へ」
外にはルザミーネがレンタルした赤い車が止まってある。
ルザミーネ曰く、レンタル会社から借りるのが一番セキュリティー的にも安全とのこと。
後で調べた結果だが、しっかりルザミーネさんの自家用車には爆弾が仕掛けられており、暗殺対象に含まれているという話は事実だったようだ。
凪
「それにしても、これだけの事があって、警察も動かなければ、マンション内で騒ぎもないのはどういうことだ?」
華凛
「どうやら眠らされていたようだが……」
周囲一帯は、まるで無人地帯のように静かだった。
それはどうやら襲撃者たちが事前に細工した結果のようだが。
まぁお陰でこうやって充分な準備が出来る訳だが。
凪
「……再びこれを着込む事になるとはな」
私は再び騎士に戻るときが来たのかもしれない。
鎧を身に纏い、鞘に剣と脇差しを差すと、かつての自分に戻る。
一方で華凛も大業物を携え、準備万端のようだ。
保美香
「……スマートフォンは、通信障害か。役に立たないですわね」
茂さんから渡されていた格安スマホは機能不全を起こしていた。
一方でルザミーネのスマートフォンは正常に機能していたようだし、一般用は徹底的にブロックされているようだ。
そういう意味ではルザミーネは我々にはない力がある。
凪
「……行くか!」
華凛
「何処の愚か者か知らんが、我々を敵に回したこと後悔させようか」
保美香
「だんな様……どうかご無事で」
***
ブゥゥ……!
ルザミーネ
「レンタルカーだから排気量ないわね」
準備が整ったわたくしたちは前部席のわたくし保美香、後部座席の華凛と凪が座っていた。
この日、マンションの周辺、駅前辺りまで街は沈黙し、時が静止していたかのようだった。
大規模なテロとも言えるこの惨状に、警察さえも沈黙していた。
保美香
「……その組織の規模、そして行動力は独立国家の一都市を沈黙させる程という事ですか」
ルザミーネ
「組織については、分からない事だらけよ……だけど分からない事を繋いでいけば、答えは見えてきたわ」
ルザミーネさんが語ったのはどれも憶測の近い。
だけどルザミーネさんは、その知識を総動員し答えを導こうとする。
ルザミーネ
「秘密結社フリーメイソン、黄金の夜明け。古代ローマより続く鷲の一族、世界の支配者たちによる300人委員会……一見すれば全て無関係の組織にも思えるけど……実際には一つの組織」
華凛
「一つ一つならば荒唐無稽な裏組織に過ぎないが、それは組織を巧妙に隠すため……か」
ルザミーネ
「一般人にはマスメディアを使って、適度に煽り、その存在性を希薄化させる。まぁ常套手段よ」
凪
「それほどの巨大組織がどうして茂さんを狙うためにここまで大規模なテロを……」
ルザミーネ
「貴方達はそこまで警戒していなかったみたいだけど、常葉茂は多くの組織にマークされていたわ」
保美香
「理由が分かりません」
ルザミーネ
「……興味深いのは、PKM保護法成立以前からPKMと共に過ごしていた事かしら」
保美香
(……世界線の変動前の事かしら)
あの異世界での出来事以前、その前からわたくしたちは存在している。
それはこの世界線でも同じ筈、ただ不確定な事が多い。
その不明な部分が裏の組織から注目されているのか。
ルザミーネ
「……これ、山の中ね」
レンタルカーを走らせ、次第に都会を離れたわたくしたちは、車の数も少ない山道を通っていた。
だが、山道と言っても公道に過ぎない、このまま進んでも決して目的地には辿り着かないだろう。
ルザミーネ
「可能な限り近づきたいけど、レンタルカーでは無茶はでき……?」
華凛
「? どうした、急に言葉を詰まらせて」
ルザミーネ
「皆……急いで車出て!」
ルザミーネさんはそう言うと迷わずドアを開けて外に飛び出した。
私たちは少し遅れて車を飛び出すと、何かが高速飛翔するのを見た。
ドォォン!!
車が爆発し、上部部分が真上に爆炎を上げて吹っ飛ぶ。
何事か、そんな事を考える暇も無く次はきた。
ルザミーネ
「短距離誘導ミサイルよ!」
華凛
「ち……熱い歓迎だな! 辻斬り……二の式船斬り!」
華凛は外に転がると、その大業物を抜く。
一つの技極めた末、その技は飛ぶ斬撃となりミサイルを竹のように切り裂いた。
凪
「エアスラッシュ!」
ドォォォン!
空中に爆炎が三つ上がる。
ミサイルはその場であっさり排除されると、わたくしは手で埃を払った。
保美香
「……で、ルザミーネさん。この熱烈歓迎は?」
ルザミーネ
「……逆探知されちゃった♪」
年甲斐もなく茶目っ気を出すルザミーネさん。
彼女は直ぐにスマートフォンをその場で破壊した。
ルザミーネ
「ある意味、あなた達味方にして正解だったわ。誘導ミサイル程度ではお金の無駄ね」
PKMが時に戦術兵器扱いされることがある。
凪や華凛は正しく戦術級の力があるし、伊吹の流星群は戦略兵器クラスの力がある。
華凛
「さて……早速足を失った訳だが」
凪
「ある程度方角が分かれば飛んで案内出来るが……」
保美香
「対空砲の歓迎は避けるべきですわ、無理せず獣道を登りましょう」
ルザミーネのスマートフォンが逆探知されたならば、すでにだんな様を取り返そうと我々が来たことは通抜けだろう。
ならばミサイルなど前菜に過ぎない。
これから更に熱い歓迎があると見るべきですわね。
***
華凛
「ち……地道に山登りか」
凪
「私のように翼が引っかからないよう気を付けないといけないより、マシだろう」
保美香
「はいはい、そこまでかしら。ルザミーネさん、方角的には正しいかしら?」
ルザミーネ
「工作員でもないから、正しい事は言えないけれど、大雑把には合っている筈よ。だからこそ迎撃された訳だし」
夜間、月だけが闇を照らす中、わたくしたちは人の通らない獣道を進み、だんな様を拉致した組織の拠点を目指した。
保美香
「ルザミーネさん。発信器は気付かれたと思っていいのですね?」
ルザミーネ
「でしょうね。問題はそれがどの時点でなのかだけど」
凪
「もしかしたら、当てずっぽうに進んでいる可能性も?」
当然、その可能性は考える。
発信器にどの時点で気付いたかで、今もだんな様が身につけている可能性も、すでに取り外されて全く無関係の山に廃棄された可能性もある。
ただ、ルザミーネは少なくとも外れではないと思っているようだ。
ミサイルによる迎撃が最たる証拠と考えているようだが、そもそもあのミサイル……自衛隊も在日米軍も感知していないのか?
4発も正体不明の高速飛翔体がこの周囲を飛び交ったのだ。
組織の力が、米軍や自衛隊さえ掌握しているなら、あの程度はやりたい放題だろう。
バルバルバル……!
凪
「……風切り音?」
夜の閨に葉を落とす木々が震える。
その独特の風切り音はヘリコプターの物だと分かる。
ルザミーネ
「……AH-64D? やば……!」
キュイイイ……!
低空飛行する攻撃ヘリコプター、揚力を得るためのローター音に混ざって、機首下部に装備されたチェーンガンが空転を始めた。
保美香
「当たったらPKMでも死にますわよ!?」
ガガガガガガ!!!
攻撃ヘリコプターが放つのは、30mmチェーンガンと見られる。
夜にも関わらず、そのサーチは正確で木々をなぎ払い、わたくしたちを狙う。
凪
「ちぃ……! 墜ちろ!」
凪は事やたらと喧しい攻撃ヘリコプターに対し、苛立ちを募り、風を集める。
逆巻く風を身に纏うと、凪はそれ攻撃ヘリコプターへと解き放った!
凪
「暴風!」
局所的な大型台風に匹敵する風が、攻撃ヘリコプターを襲う。
攻撃ヘリコプターのその強固な装甲は暴風程度ではビクともしない、だがローター別だ。
特にこれは自然風ではなく、凪が操る生きた風だ。
最も相手の弱い部位に風は集中し、テールローターを破壊した!
保美香
「パワージェム!」
攻撃ヘリコプターが制御不能に陥り、その場で回転する中、わたくしはヘリの真下に回ると、パワージェムを放つ!
パワージェムは銃撃程の威力はない、だがズシリとくる重さの一撃はベコベコとヘリの装甲を凹ませ、破壊する。
その幾つかはメインローターに巻き込まれ、遂に攻撃ヘリコプターは墜落した。
ドォォォン!
攻撃ヘリコプターが木々をなぎ倒し、山の斜面を滑って途中で止まった。
すでに大破状態で、これ以上の攻撃は必要なさそうですね。
ルザミーネ
「……呆れればいいのか、頼もしく思うべきか……あの怪物ヘリを数分で撃墜」
保美香
「中々手こずりましたが、まだPKM対策をした戦術や兵器が存在しないウチはそれ程驚異でもありませんわ」
華凛
「それにしても、アパッチか……赤外線と暗視センサー、科学が部分的に我々を上回るのも事実か」
凪
「そうだな、今回は相性が良かった方だろうな」
この面子でもあの攻撃ヘリコプターを一撃で撃墜する火力はなかったし、敵を先に発見したのは相手側だ。
PKMに対する有効的な戦術さえ、得られれば既存兵器でも充分やれるのかもしれない。
華凛
「とはいえ、ピカチュウ一匹いれば、あのヘリ為す術もなく墜ちたろうな」
華凛は改めて無残な姿になった攻撃ヘリコプターを見て、苦笑した。
確かに電気タイプなら、電気制御の塊であるAH-64など、電磁波だけでも故障する可能性があるし、雷を喰らえば為す術もなかったろう。
ルザミーネ
「そうね……特にアレ無人ヘリみたいだし」
凪
「冷静に考えれば熱風の方が有効だったか?」
保美香
「少なくとも赤外線誘導システムの天敵ですからね、誘導ミサイルに誘爆でもすれば即死でしたでしょうね」
こちらとしても、実際兵器との戦闘なんて初めてだ。
そういう意味では、お互い分からん殺しをしていたと言える。
ヘリを鋼タイプ考えれば、炎攻撃が有効なのは事実だろう。
実質攻撃ヘリコプターは鋼飛行タイプだと思えばいい。
保美香
「……で、攻撃ヘリは山の上から飛来しましたわね?」
ルザミーネ
「少なくとも、ヘリを出撃できるだけのヘリポートか、滑走路でもあるのか」
凪
「……空から見れば分かるだろう! もう飛ぶのは危険など聞かんからな!」
凪はそう言うと、その場から飛び上がった。
華凛
「こちらが、索敵もままならぬのに、相手には筒抜けでは、隠密行動するだけ無駄だからな」
華凛も改めて着物を着付け直し、大業物を腰に差し直し、歩き出す。
保美香
「時間を掛ければ、それだけだんな様を危険に晒す……やむを得ませんわね」
わたくし達は兎に角山頂を目指す。
夜間故に、こちらは目視に頼って怪しい物を探すのは骨が折れるが、それでも熟さなければならない。
***
凪
(静かな空だ……都会の喧騒など嘘のようだな)
私は山の上を飛んでいる。
周囲に光はなく、空には月が浮かぶ。
これ程心地いい夜間飛行は久し振りだ。
だが、それを優雅にさせてくれる時間は無いらしい。
凪
(こうも殺気が渦巻けば、獣も息を潜める……華凛ではないが、無粋だと思う!)
私は数多の戦場を駆け抜けた。
その中で私は戦場を生き残るための嗅覚を得た。
それは得体の知れないプレッシャーを私に教えてくれる。
そして、膨れ上がる殺気が牙を剥いてきた!
凪
「何かが光った!?」
上空から地上を監視する私は、木々の隙間から反射する光を目撃する。
その直後!
ダダダダ!!!
爆炎はない、閃光もない。
それは科学ではない。
ただ、氷柱とでも評すべき無数の氷塊がガトリングのように連続で発射された。
私は急旋回を行い、その無数に放たれる攻撃を回避する。
凪
(ち!? 相手の正体はなんだ!?)
暗闇の中から何十秒も放ち続けられる『つららばり』、それは間違いなくPKMの技だった!
私は攻撃を回避するのが精一杯で、まるで自動追尾するガトリングガンのような攻撃に防戦一方だった。
何とか地上の敵の正体を知ろうとするが、木々は敵に味方するように、その正体を隠す。
凪
(地形効果を良く理解している! 防衛戦に慣れた手練れか!?)
***
華凛
「このざらつく感じ……慣れたくないものだ……戦場の風とはな」
保美香
「正面! ち……!」
私は腰の大業物の柄に手をかける。
相手はそれ程闘気を隠せるタイプではないらしい。
保美香は直ぐさまパワージェムの発射態勢に入る。
同時に風上の相手も動き出す!
保美香
「パワージェム!」
?
「種爆弾っ!」
頭上から種爆弾、それを保美香はパワージェムで迎撃する。
攻撃はやや相手が上回った。
種爆弾のエネルギーは煙のようになって私たちを包む。
保美香
「ち!? 草タイプか!?」
保美香は直ぐさま、毒のエネルギーを集める。
相手が純粋な草タイプなら毒は有効だ。
だが、相手の正体が知れん内は危険だ。
?
「っ!」
攻撃仕掛けてきた何かは宙を跳んだ。
木々を蹴り、保美香の頭上をとると、そのシルエットが月夜に浮かび上がる!
?
「マッハパンチッ!」
そのシルエットは、キノコのような傘を被った小柄な少女のシルエットだった。
恐らく茜程度の身長だろう。
だが、頭上から急降下するその少女の腕が……伸びる!
保美香
「ガッ!?」
保美香はベノムショックの発動に失敗した。
少女の拳は予想外のリーチを誇り、保美香は上から顔面を殴られ、血が地面を染めた。
華凛
「それみたことか。相手の正体も分からん内から手を出すからだ」
私は保美香を下がらせると、少女を見た。
キノコの笠を着た小さな少女、しかしその表情は闘志を持ち、大きな尻尾には先端に胞子が玉となって付く。
華凛
「確か……キノガッサで正しかったかな?」
帝国軍の中で見た覚えがあるが、正直良く覚えていない。
元々帝国軍は混成軍だったから、土着のポケモン以外も多く、北部に住まないポケモンにはイマイチ疎くなる。
キノガッサ
「お前たちを……主の命に従い排除する!」
華凛
「良かろう、我が大刀に敵うか、力を見せてみろ!」
ルザミーネ
「キノガッサ……? 危険よ! 相手は格闘タイプ!」
保美香
「……悔しいですが、華凛の実力はわたくしより上……余計な心配は止めなさい」
華凛
「ふ……そう言うことだ」
私は微笑を浮かべる。
ルザミーネはポケモンについてどの程度知っているのか知らないが、私より知識があるのは事実だろう。
だが、彼我の戦力差を見るには目が足りんな。
華凛
「一応名を聞こう、私は華凛、アブソルの華凛」
キノガッサ
「06……ナンバー06!」
キノガッサが構える!
拳を握り、その場で右ストレートを振るう!
その腕は見た目のリーチは150あるかどうか……しかし実際のリーチは3メートル!
キィン!
華凛
「クク、面白い……中々のパワーだ!」
私は鉄の鞘で拳を払ったが、予想外に身体を持っていかれる。
思ったよりも馬鹿力らしい。
華凛
(私の最大リーチが精々2メートルそこそこ、素手でありながらリーチ負けしているとはな)
キノガッサ……06だったか、奴はその場でステップを踏み、間合いを計る。
華凛
「はぁ!」
まぁ相手には文句を言っても仕方がない。
私は踏み込み、大刀を相手の顔面に振るう。
ブォン!
切っ先は触れずとも斬るだけの切れ味を誇る。
相手が達人か、超達人か……!
06
「ッ!」
達人なら数ミリ頭をずらして回避する、しかしそれでは切っ先から発する真空刃は回避できない。
では、超達人ならどうするか?
06は拳で私の振った刀身の腹を殴って僅かにずらした!
私は体勢を崩し、太刀筋は大きく上に逸らされる。
華凛
(超達人かっ!)
私はその動きを見て、相手の格を確信する。
逆に相手は私のギリギリの攻撃を見切り、私の無駄な動きを見逃さないだろう。
06
「ふっ!」
06の後ろ回し蹴り、それは私の頭部や胴体を狙う攻撃ではなかった。
狙いは私の右手、大刀を握る指だ!
華凛
「ぐぅ!?」
ガシャン!
右手に激痛が走る。
私は思わず大刀を落としてしまう。
私の右手は赤く染まり、出血していた。
ルザミーネ
「ちょ! ここでやられたら!」
ルザミーネの悲鳴のような声が嫌なほど頭に響く。
私は今興奮状態でエンドルフィンを多く分泌している事だろう。
その性か、今私はピンチだとは思わなかった。
06の次の動きは大きく腰を落とした。
全身のバネを使った大技スカイアッパーだろう。
貰えば顔面を砕かれるのは必至か。
06
「……終わりだ!」
華凛
「ふっ」
相手は勝利を確信している事だろう。
私は何故か自然に笑っていた。
こいつは強い、これ程の達人がいるとは世界は広いな……。
だが、私がいつ負けた!
ザシュウ!!
06のスカイアッパーは私の顎を正確に狙っていた。
鮮血は夜闇を染めた、ルザミーネの悲鳴が後ろから聞こえた。
だが……苦痛に戦慄いたのは。
06
「うああああああっ!?」
06の右腕は縦に切り裂かれ、大量の血が踊る。
私は返り血を浴びながら、笑みを浮かべる。
華凛
「私は辻斬りに全てを捧げ、絶対の技に昇華させた事に自負と誇りがある……だから賞賛するよ、私に『サイコカッター』を使わせたこと!」
スカイアッパーが私を捉える刹那、私は自分のプライドを投げ捨てた。
相手の伸びる拳に合わせて、鎌のように曲がった角はサイコカッターのエネルギーを纏い、カウンターで切り裂いたのだ。
私が皇帝カリンのままであったならば、絶対に辻斬り以外使わなかったろう。
だが、私がするべきはダーリンの障害となる者全てを、斬る事だ。
そのために出し惜しみするほど愚かではない。
06
「か……はっ!?」
ゲシ!
私は少女の頭を踏みつける。
血を吐く程のダメージを受けた少女の身体からは抵抗がない。
華凛
「介錯が必要か?」
06
「……く」
06の目は諦めてはいなかった。
どう考えても頭を踏みつけたこの状況は大手だ。
私は刀に頼っただけの剣士ではない、爪でも殺せる。
華凛
「……くだらん。眠っていろ!」
私は06の頭を踏み抜いた。
06は大きく血を吐き、意識を失う。
華凛
(とはいえ……ち、これでは大刀を握れんか)
私は壊された右手を恨めしく見る。
戦術レベルでは勝ったが、戦局は不利かも知れんな……。
***
凪
「ちぃ……!」
私は闇の中に隠れた謎の存在に手こずっていた。
一定距離に近づいた標的に止むことの無いつららばりで射撃してくる相手に、空中から向かうのは無謀かもしれない。
とはいえ、相手のつららばりはこちらを正確にエイムする射撃精度はないらしい。
射程も精々500メートル、対鳥ポケモンを想定した対空迎撃システムといった所か。
凪
(アレをどうにかしないことには制空権は得られない……か)
射程で言えば相手の方が上、だが相手の印象は固定砲台のように思える。
暴風白兵戦モードで一気に懐に入れば、討ち取れるかもしれないが、懐に入るまでが問題だ。
凪
「……この緊張感、ジョーや華凛と戦った時のそれとは違うな」
強敵と戦うときは決まって、冷や汗が流れる。
自分はどこまでやれるのか?
これは自分との戦いだ。
凪
(せめて指輪が……メガストーンが反応してくれれば)
左手の薬指にはメガストーンの填められた指輪がある。
今はただの指輪、そもそも今でも何故メガ進化出来たのか分からない。
恐らく茂さんだけがメガストーンを扱えるのだろうけれど、今の私には力が足りない事に歯がゆさを覚える。
凪
「今の私に出来るのは……」
私はどんどん高度を上げる。
高度4000メートル、真上には月が大きく私を照らす。
凪
(ジョー……お前の戦術、使わせて貰うぞ!)
私はその場で暴風白兵戦モードを発動し、風を身体に纏う。
この高度では冷や汗は凍る。
極寒の低気圧中、私は大きく息を吸い込み急降下した!
凪
(ジョーの最も得意な戦術は高度1万メートルからの急降下奇襲……鳥ポケモンとしては最高速度も旋回性能も低いジョーは必然的にこの一撃必殺に行き着いた)
かつて戦った宿敵の技を思い出し、それを実践する。
真上を取られた相手は慌ててつららばりで対空迎撃をしてきたが、やはりエイム精度が悪い。
マッハを超える私はつららばりの弾幕の中を突き抜け、高度1km前後で相手の姿を捉えた!
凪
「はぁ!」
私は剣を敵に投げつける!
その瞬間、僅かではあるが弾幕が止んだ。
私はその隙を逃さない!
凪
「取ったぁ!」
私は脇差しを両手で握る!
急速に迫る相手の姿、それは巨大な貝の甲殻を背負ったパルシェン娘。
パルシェン娘は慌てて、殻を閉じる。
殻を閉じた時のパルシェンはナパーム弾でも傷一つつかないと言うが……!
凪
「ハァァァ!」
私は全力で振り抜いた。
その時、私の手にはまるで斬るときの抵抗はなかった。
地面に着地すると、風が爆ぜて暴風白兵戦モードは解除される。
パルシェン娘
「ば、かな……私の殻をいとも容易く……!?」
私の脇差しには血が滴っていた。
エアームドの抜け羽根より精錬せしこの一刀は、パルシェン娘の殻さえいとも容易く切り裂いたのだ。
ズシャァ!
血の華を咲かせるように、パルシェン娘は一撃で絶命した。
凪
「ナパーム弾でさえ弾く防御力と優れた射撃能力……並の航空兵器ならば、一方的に勝てたかも知れないが……これはポケモンの戦いだ」
私は血を拭い、装備を整えていると風下から保美香たちが合流してきた。
保美香
「無事だったようですね」
凪
「なんとかな、紙一重だったよ」
つららばり一発でも被弾していれば、私はその一撃で撃墜され、無数のつららばりを受けて、死んでいただろう。
そういう意味ではノーダメージで勝つか、何も出来ず死ぬかしか選択肢はなかった。
あのパルシェン娘は間違いなく手練れであった。
凪
「そっちは……ダメージがあったようだな」
私は華凛の手を見て驚く。
華凛ほど達人が、利き手をやられるなんて余程の相手でないと出来る訳がない。
そして剣士にそのダメージは致命的だ。
華凛
「なに……戦闘が出来ないほどじゃない」
凪
「しかし無視できるダメージではないぞ」
ルザミーネ
「あなた達……承服しないかもしれないけど、撤退の考慮も必要かもしれないわよ」
保美香
「撤退……」
保美香が心底難しい顔をして悩んでいる。
我々はまだ戦えるが、ダメージを無視は出来ない。
そして保美香はそのあやふやな問題を見極めようとしているのだ。
保美香
「ルザミーネさん、だんな様はどういう事をされるのでしょうか?」
ルザミーネ
「掠った際の状況を顧みると、傷一つ付ける訳には行かない程重要だったようね……とすると、暫くは丁重に扱われるでしょうね」
ルザミーネの言葉を聞いて、保美香は更に唸った。
そしてそのまま数秒黙考すると。
保美香
「……撤退しましょう。態勢を整えなければいけません」
凪
「なに!? 茂さんは良いと言うのか!?」
華凛
「私なら問題はない、このまま取り返すべきだ!」
保美香
「落ち着きなさい! だんな様は必ず万全の状態で迎える必要があります! あなた達の傷ついた姿を見てもだんな様は喜びません!」
華凛
「……っ!」
保美香は強い声でそう言うと、私たちは怯んだ。
確かに、少し戦闘で精神が高揚しすぎているかもしれない。
些か冷静さを欠いている状態で、冷静にならなければならないか。
何よりも、茂さんはボロボロで助けても喜ばないのは確か、か。
保美香
「必ずだんな様取り返します……! ただし、全員無事でです!」
凪
「……わかった、従おう。私には指揮官としての才能はないからな」
華凛
「……確かに、良い女ならば、無傷でダーリンを助けないとな」
ルザミーネ
「……戻るのね? なら……とりあえず街まで下りましょうか」
ここから戻るとなると、登り切るより大変そうだが流石に追撃はしてこないだろう。
凪
「私がルザミーネを麓まで運ぼう」
保美香
「ならば、わたくしが華凛を運びます……ここからなら30分もあれば麓の街まで下りられるでしょう」
私たちは撤退を決めると、その後は素早く動いた。
幸いにも追撃される事はなく、その日はビジネスホテルに泊まり、攻略の対策を考えるのだった。
***
翌日、ルザミーネは忙しそうに街を走り回った。
一方でわたくしたちは、華凛の治療を行い、ルザミーネの情報を待った。
保美香
「はぁ……」
わたくしはあるカフェでショーガラスの外を見ながら溜息を付く。
本当なら直ぐにでも助けにいきたいのに、それが出来ない歯がゆさがある。
窓の外は、いつもと変わらない。
そう、何も変わらず平穏そのものなのだ。
保美香
「だんな様が今もどんな目に合っているかも分からないのに……」
苛立つ感覚は、わたくしではどうにもならない。
逆恨みに等しい感情なのに、平穏な街の風景を見てどうしてもその感情を抑えられない。
だが、暴れた所で解決なんてする訳もないし、それが余計に自分にストレスを与える。
ガシャン!
保美香
「?」
大きな音がした。
音の方向を見たら、自転車が横転しているのが目撃出来る。
どうやら大きな音の正体は自転車が横転した音だったようだ。
この表参道で?
よく見ると、それは人身事故だった。
自転車には中年の男が、そしてぶつかった相手は猫耳の少女だった。
中年
「気を付けろや!」
猫娘
「ご、ごめんなさい」
猫娘の方は紫のカールした髪の子だった。
どう考えても、悪いのは自転車の方だ、ここは自転車に乗ったまま走行していい場所じゃない。
にも関わらず中年の高圧的な態度に押され、猫娘の方はただ平謝り状態だった。
保美香
(嫌な気分にさせてくれるな……!)
わたくしはそんな、街の小さな事件にも苛立ちを募らせてしまう。
所詮はショーウインドウの先で起きた事故でしかない。
幸いにも、どちらも無事のようで中年は自転車を引きずって去って行く。
猫娘……恐らくチョロネコの少女は立ち上がるととぼとぼ歩き出した。
少女はミニスカートだったため、すりむいた膝元が痛痛しく映る。
保美香
「……はぁ」
もう一度溜息、わたくしは直ぐに会計を終えると少女の後を追った。
***
保美香
「そこのPKM!」
会計を終えて、カフェを出ると猫娘の少女は50メートルほど先にいた。
私は直ぐに追いかけると、猫娘は驚いたように振り向いた。
一見すると私はPKMには見えない容姿をしている。
その上、ウツロイドは珍しいポケモンだといえ、チョロネコの少女は人間に見咎められたと思ったのだろう。
保美香
「わたくしもPKMですわ、それより貴方膝を擦りむいていますわね」
チョロネコ娘
「お、お姉さんは……?」
私はチョロネコ娘の手を引っ張ると、少し脇にそれた公園で彼女の治療を始める。
偶然だが、華凛の手当に使った医療品を持っていたため、速やかに水で傷口を洗い流し、消毒して包帯を巻いた。
保美香
「大袈裟かもしれませんが、これで大丈夫でしょう」
チョロネコ娘
「ありがとう触手のお姉さん。私は紫音っていうの、お姉さんは?」
保美香
「保美香ですわ、お嬢さん」
チョロネコ娘、紫音はそれなりに身なりもいい。
恐らく保護責任者の愛情をたっぷり受けた事だろう。
毛並みもよく、これ程上等なチョロネコ娘はそうはいないだろう。
『恩返し』を覚えていればかなりの威力がありそうですわね。
保美香
「それにしても世も末です。明らかに悪いのは人通りの多い表参道で自転車に乗ったあの男の方だというのに、貴方は謝ってばかり」
紫音
「仕方ないよ……PKMだもん」
保美香
「それを笠にして弱者ぶるのは気に入りませんわね、貴方保護責任者は?」
紫音
「病院に入院しているの……」
保美香
「病院? 何か重い病気にでも?」
紫音
「ううん! もうすぐ退院するんだ、だから病院に行くところなの!」
紫音は保護責任者の話をする時はとても晴れやかな笑顔だった。
聞かずとも、その仲は推し量れますわね。
保美香
「保護責任者さん、大切にしてあげなさい」
紫音
「うん! 私に名前をくれた大切なご主人様だもんね♪」
わたくしは、紫音の頭を撫でると、ゆっくりと起き上がった。
紫音はもう大丈夫だろう。
こんな幸せそうな少女を迎えた保護責任者はきっと幸せ者だ。
紫音
「お姉さん、治療ありがとうね! もう行くよ!」
保美香
「ええ、お気を付けて」
わたくしは手を振って見送ると、紫音は尻尾をブンブン振って道に戻る。
わたくしは姿が見えなくなるともう一度溜息をついた。
保美香
「わたくしは何をしているのでしょう……だんな様は今も行方知らずだというのに」
あの少女は、明るく眩しかった。
それはまるで少し前のわたくしたちと同じだった。
けどもあの日……11月21日に全ては奪われた。
一瞬、あの少女に不幸が降りれば、そんな悪い感情を覚え、わたくしは直ぐに首を横に振って否定した。
保美香
(馬鹿馬鹿しい……妬んだところで何が変わるわけでもあるまい……だんな様を救い出せば、全ては解決するんだから!)
そう、狂ったのがだんな様がいないためならば、全ての障害を取り除いてもう一度だんな様と暮らせばいい。
保美香
「そろそろ合流地点に向かいましょう」
***
ザワザワ、ザワザワ!
保美香
(気のせいかしら? なんだか騒がしいわね)
紫音と別れてから、表参道を歩いていると、何故かいつもより騒がしかったのだ。
騒がしい理由は直ぐに分かった。
凪
「保美香、ここにいたのか。なんだか凄いことになっているみたいだぞ?」
騒ぎに気付いた時、凪はわたくしを発見し、駆け寄ってきた。
わたくしたちは、街中に設置されて巨大なテレビモニターから、当の問題を知る。
街頭モニターでは、緊急ニュースが読み上げられていた。
ニュースキャスター
『現在中国重慶でPKMによる暴動が起きています! 現地は中国当局によって立ち寄る事は出来ず、住民の安否も心配されます!』
一般人
「おいおい、暴動だってよ……見ろよ、火の海じゃん」
保美香
「……なんてこと」
暴動? アレが暴動というレベル?
街頭モニターには小さな枠の中に中国の現場映像が遠景から撮影されている。
そこは重慶の工業団地のようで、至る所から火の手が上がり、時折マグマのような物が高く噴き上がっていた。
それはまるで天災だ、突然重慶に火山が生まれたような物。
キャスターは淡々と言葉を続ける。
ニュースキャスター
『中国ではPKMを奴隷として扱う闇組織も指摘されており、当局も厳しく規制してはおりますが、この問題の表面化は我が国でも危惧されますね』
凪
「最悪だな……しかしどんなポケモンが暴れたらああなるんだ?」
保美香
「……グラードン、いやヒードランかしら? いずれにしてもPKMの風辺りが悪くなるのは間違いないですわね」
既に街頭モニターの前に集まる一般人にも、凪を見てヒソヒソ話す者も現れている。
次は我が身かと、それを対岸の火事とは割り切れない者たちにとっては、PKMそのものが嫌悪の対象となりえる。
保美香
「……行きますわよ、ルザミーネと合流します」
凪
「あ、ああ……」
凪は中国の出来事に相当動揺しているようだ。
凪は闘争心こそ高いが、悪意には弱い所がある。
今すぐ直接どうこうされる事は日本ではないでしょうが、見られる目が変わるのは確実。
保美香
(本当にイライラしますわね……、こんな空気、さっさとだんな様を取り戻して解消するに限りますわ!)
突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第17話 終末への加速 完
第18話に続く。