突然始まるポケモン娘と○○○する物語





小説トップ
第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第16話 異変 Side茂

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第16話 異変 Side茂


真っ白い空間。
そこはまるで、全く別次元の世界かのような違和感のある部屋。

美柑
 (……捕まってどれ位経っただろうか……)

あの悪夢のような1日、11月21日の事件から既に2週間は経った気がする。
あの日……主殿が捕まり茜さんが投降した後、ボクたちは二手に別れた。
ボクと伊吹さんは捕まり、保美香さん凪さん華凛さんは窓を割りその場から逃亡した。
その際銃撃戦になったが、まぁあの歴戦の三人なら問題もないだろう。

そしてボクたちは眠らされ、この場所に来た。

美柑
 (霊体化出来ないし、技も使えない……この中にあってはギルガルドであるボクも人間と変わらない)

ボクも流石にただで捕まるほど、甘っちょろくない。
それなりにこの場所から脱出しようと努力はしてみたけど、流石にそう簡単にはいかない。

美柑
 (せめてボクの半身がこの場にあればまだもう少し抵抗出来たと思うんだけどなぁ)

流石にあの日、誕生日という事もあり、剣と盾は部屋に置きっぱなしだった。
何となく半身は近くにある気がするけど、この状態でやっぱり能力半減だからなぁ。

美柑
 (となると、頼りは保美香さんたち……)

保美香さんたちもただ、単純に主殿たちを掠わせる程愚かじゃないだろう。
恐らくこの施設の攻略を考えているはず。
問題は、ボクたちを掠った組織の力……それ保美香さんたちの力を上回ったなら……ボクたちは絶体絶命だということか。

美柑
 「兎に角、中でも出来る事を探さないと」

ボクは他人に全てを委ねる趣味はない。



***




 (……)

実験は既に何日経ったか分からない。
ただ、いつものように俺は機器に身体を拘束され、ただモーターの駆動音だけが耳に残る。
機器は俺の何かを感知し、その度のジ、ジと音がする。
ゲートと俺の因果関係は正直よく分からない。
果たして組織はその因果関係を突き止めているのか?
どの道籠の鳥、俺にはなるべく従順に見せて、少しでも出し抜く隙を見つけるだけ。

だが……最近、なんか様子がおかしいんだよな。


 (あのシルエット男の登場頻度が減った気がするんだよな)

やがて、機器は駆動音を下げ、俺の拘束を外す。


 「く……! なぁここスポーツジムみたいなのないのか? 最近身体が鈍って仕方ないんだが」

俺は何処ともなく呟くが、しかし今回は声が返ってこない。
代わりにドアが開き、俺の移動を促してくる。
何処にカメラがあるのか知らないが、24時間モニターされているみたいだし、純粋に飽きたのか?
それが異変か、怠惰な対応なのか今は判然としない。
だが……いつもの部屋に戻ると、異変でないかと思い始める。


 「いつもの美味くも不味くもないレーションが無い?」

実験の終わりにはいつも、レーションがベッドの上に落ちていたんだが、今日に限りない。


 (これが異変ならどうする? そもそもこの施設に何が起きた?)

真っ白い部屋に、真っ白な汚れのないベッド。
徹底的に色を奪う処理が施され、一見すると一切の凹凸のない四角い箱の内側。
しかし実際にはベッドの正面には壁一面がディスプレイになっており、天井は全面が白い光を放つ、そしてディスプレイの隣には一見すると壁にしか見えないが、上下にスライドするとドアがある。
それ以外にも恐らく、ベッドの下には昇降装置、更にベッドの脇にはレーションと水入りペッドボトルを出す配膳装置が存在する筈だ。

恐らくそれ以外にも、一見なにも無いこの部屋の裏側には相当数の機器があると見て間違いない。


 (チャンスか……ピンチか?)

出し抜くには最高のチャンスにも思える。
でも、同時にこれはそれを誘導するブラフの恐れだってある。
だが……、それ以上に恐ろしいピンチがある。


 「これ、空調止まったら死ぬよな……?」

最も最悪のパターンが、これである。
何らかの異変でこの施設が放棄されたとしたら、いつまで空調が機能するか分からん。
少なくともこの施設、恐らくだが地表に存在はしないだろう。
予想としては地下ではないかと思うが、もしそうなら空調が止まったら完全にアウト。
それ以外にも電灯を維持する電力がなくなったら、窓のないこの施設は一気に暗闇になるだろう。


 (どうせ、非常電源とか備えているのだろうが……少なくともチャンスでありピンチだろうな)

俺は開きっぱなしで閉じていないドアを見る。
こうなれば、なるようになれだ!
俺は走った!
ドアを走り抜け、通路を通り抜けると、いつもの実験区画に入る。

問題はここだ。


 (どうする? セローラのいる区画は分かっている。セローラから行くか?)

セローラがいるのはこの区画と通路一つ挟んだ先にある。
だがこの部屋は正方形の箱の形、少なくとも後2つ通路がある可能性はないか?


 (茜は何処にいる!? 少なくともこの真っ白な視覚障害空間はそれ程広くない可能性がある)

施設の全貌が分からない中、ある意味で地雷原を歩くような感覚。
踊らされているのか、それとも本当に異変が起きているのか……!


 「茜ーっ!! 誰かいないのかーっ!!?」

俺は危険性は覚悟でその場で叫ぶ。
防音性は高そうだが、そんな事はもう関係ない。
兎に角出来ることをする、それがどう変わるか分からないが、今は事態を動かす時だ!


 「誰かーっ!」



***



美柑
 「っ!? 今……主殿の声が聞こえたような?」

ボクは主殿の声が何処からか聞こえた気がした。
気のせいかもかもしれないけど、ボクは僅かな可能性でも無視はしない。

美柑
 「こんのぉ!」

ボクは立ち上がると、声の方向に思いっきり身体でぶつかる!
攻撃種族値150からのぶちかましは部屋を震動させる。
技が使えれば、もっと効率よく部屋をぶち壊せそうだけど、兎に角ボクも出来ることをやるだけだ!

美柑
 「主殿ーっ!! ボクが! 絶対に! 助けますーっ!!!」

ガゴォォン!!!



***



ガゴォォン……!


 「……! なに、この音は……?」

私は小さな部屋で、ただ虚無的に過ごしていた。
時折検査もされたが、組織は私よりご主人様にご執心らしい。
私はただ、無力だった。
ご主人様を守りたい一心だったのに、それは悉く予期できない世界線変動に阻まれた。
もう疲れたよ……でも、それでも私は生きている。


 「ねぇ、そこにいるんでしょ?」

私は虚空に対して語りかける。
この世界にではない、別次元のレイヤーに存在する事象に対してだ。


 「私は最後まで戦うよ、だから止めないで」

虚空からは何も返ってこない。
これハタから見れば奇妙な独り言だろう。
だけど次元の先の存在は応えた。

ウィン!

私を監禁するドアが上にスライドする。
私はゆっくり立ち上がると、部屋を出た。


 「ありがとう……そしていつも御免なさい」

私はただ、敷かれたレールの上を進しかない。
私の進む道はただ独りでに開かれる。
所謂サービスだろう、でも後のことは分からない。


 (私には未来は見えない……ただ、それでも進しかない)



***




 「な、なんだ?」

突然、何処からか大きな音が響いたと思うと、それまで閉じていた全てのドアが無造作に開いた。
俺は突然のバグ染みた動作に戸惑っていると、バタバタと足音が近づいていた。

美柑
 「主殿ーっ!!! ご無事でしたか−!!!?」


 「美柑!!」

足音の正体は美柑だった。
長い通路の先、そこから全速力で美柑が駆け寄ってくる。


 「美柑、お前も捕まっていたんだな」

美柑
 「はぁ、はぁ。はい、他にも茜さんと伊吹さんが捕まっているはずです」

美柑俺の前で止まると、余程急いだのだろう、肩で息をしていた。
美柑はどうやら、俺より有益な情報を持っているみたいだな。


 「ご主人様が眠らされた後、保美香さんと凪さん華凛さんはその場から逃げました」

伊吹
 「あはは〜、とうちゃ〜く」

話していると、軽やかなステップで伊吹もここに集まる。
後はいないのは茜だけか。


 「二人とも、茜は見なかったか?」

伊吹
 「ん〜、皆バラバラだったし〜、部屋から一本道だったんだよねぇ〜」

美柑
 「ボクも同じでした、見てはいません」


 「……それじゃ、この異常事態は何か知っていることは?」

二人は首を横に振った。
どうやら、誰もこの事態を把握している訳じゃないみたいだな。

伊吹
 「茂君〜、やっぱり耳に入れるべきだと思ったから言うけど〜、茜ちゃん……多分あの子普通じゃない〜……」

美柑
 「ええ、確かに茜さん……絶対おかしいんですよ、何がって言うと、上手く説明出来ないんですけど……」


 (茜……)

茜の様子は確かに何かおかしかった。
失敗という言葉が何を意味していたのか分からないが、彼女がやはり何か握っているのか?


 「兎に角、まずは脱出を目指そう……この先にセローラもいる。恐らくだがその先に出口に繋がる道があるはずだ」

一体この施設に何が起きているのか、俺には分からない。
それどころか、そもそもこの施設の意味そのものを俺たちは知らない。
だが、進むしかないのなら、それを躊躇う余裕はない。
兎に角まずはセローラを回収しよう。



***



セローラ
 「一体……、何が起きているの?」

私は研究棟に閉じ込められたまま、何日も過ぎていた。
最初は謎の薬物や変なアイテムを投与されていたが、次第にそれも無くなり、私はただのモルモットと化していた。
しかしそれも終わりを告げようとしていた。
突然、一生開かないと思われた扉が独りでに開いたのだ。
最初は遂に廃棄処分が決まったのかと怯えたが、扉からは誰も現れなかった。
だが、私はその先に進む勇気を出せず、縮こまっていると、扉の先から誰かがやってきた。


 「セローラ?」

セローラ
 「茜ちゃん……? 茜ちゃん!」

それは紛れもなく茜ちゃんだった。
私は茜ちゃんを見つけると無造作に抱きついた。
シャンデラに進化したことで、私は茜ちゃんよりずっと大きくなったせいで、上から覆い被さるようになったが、それでも茜ちゃんは優しく背中に手を回してくれた。


 「セローラ、もう大丈夫だから」

セローラ
 「うぅ〜……! こ、怖かったよぉ〜!」

茜ちゃんは小さくても私よりずっとしっかりしていた。
私は駄目だ、恐怖に足が竦んで何も出来なかった。
ずっと悪夢だった、いっそ死を選べばずっと楽だったかもしれないけど、その勇気もなかった。
茜ちゃんはこんな私に優しくしてくれる。


 「ご主人様……?」

ふと、茜ちゃんが顔を横に向けた。
直後複数の足音が近づいてきた。



***




 「セローラ! 助けにきたぞ!」

美柑
 「雰囲気が変わった? ガラス! 猪口才!」

セローラがいる研究棟は普通に無骨な施設だ。
丁度、此方からだと、透明なガラスで阻まれる。
美柑は速度を上げ、飛び込む!

美柑
 「イヤー! グワーッ!?」

○ァイナルファイトよろしく、跳び蹴りでガラスを破壊しようとする美柑だったが、美柑はあえなくガラスに弾かれる。


 「いや、普通に考えて防弾ガラス以上の強度あるだろ常考」

美柑
 「○イは……○ォークリンデのガラス蹴破っていたからいけると思ったのに……」

伊吹
 「あはは〜、○イは人間じゃないんだよ〜。……多分」

とりあえず、脇に中へと入る通路がある。
俺は美柑を起こすと、研究室に入った。


 「ご主人様……」

セローラ
 「うわーん! ご主人様〜っ!」

中にはセローラの他にも茜もいた。
セローラは俺を発見すると、真っ先に俺の胸に飛び込んできて、大泣きする。
シャンデラに進化して随分身体は大人びたが、中身は変わらず少女のままのようだ。
一方、本来なら一番最初に抱きついてきそうな茜はその場で俺を眺めるだけだった。


 「茜……お前は茜なんだよな?」


 「そうです。私はただのイーブイ、茜です」

茜は普段から表情からは読めない奴だ。
だが、それでも付き合いが長くなれば、細やかな変化でその違いが分かるようになる。
だが、今の茜は微妙に分からなかった。
確かに茜なんだが、まるで違う世界からやってきたかのような絶妙な違和感がある。


 「皆、とりあえずここを脱出しよう!」

美柑
 「了解! 何があるか分かりませんから先頭はボクにお任せを!」

伊吹
 「とりあえずこの施設の実情も出来れば調べたいねぇ〜」

セローラ
 「うぅ〜、怖いけど絶対脱出するんだからぁ〜!」

俺たちは全員集まると、この未知の施設からの脱出を進める。



***




 「それにしても……全く人がいない」

施設からの脱出を進める俺たちは、迷路のように複雑な構造を持つ施設に苦戦していた。
何度も階段を昇ったり降りたり、正しい道さえ分からず無駄に時間だけが過ぎそうだが、そこまでに誰もが気付いた事を呟いてしまう。

美柑
 「……確かに、警備兵が見当たらないんですよね」

セローラ
 「そう言えば……私の実験も、全部機械で研究者なんて立ち会わなかった」

伊吹
 「ハイテクの極致だけど〜……なーんか引っかかる〜……」


 「表の世界でも、完全無人化した施設ってチラホラ聞くけど、それでもメンテナンスフリーとはいかないだろ? 反乱に対する警備兵もいない。データを確認する研究員もいない、施設を維持する整備員もいない……どうなってんだ?」


 「……放棄せざるを得なかった。それも私たちを放って……」

相変わらず物静かな茜だが、彼女が発言すると全員が茜を見た。


 「……予想だけど」

最後にそう付け加えて。

伊吹
 「即急に施設を出払うなら〜、施設の電源位落としそうだけど〜」

美柑
 「それすら出来ない異常事態とか?」

セローラ
 「うーん、セローラちゃん難しい事は本当に分からないけど、そもそも本当に人なんていたのかな?」


 「セローラはガチで無人運営の施設だって思うわけか?」

セローラ
 「うーん、正確に言うと……遠隔操作で運営していたんじゃないかな?」


 「遠隔操作?」


 「……可能性はあるな」

謎のシルエット男、当初はこの施設の責任者かなんかだと思ったが、そもそも顔すら見えない奴がここにいるとは限らない。
現代の表の通信技術だって、地球と木星まで通信を繋げる位だからな。
となると、通信障害か何かが起きて、この施設が暴走状態に陥った?
それでも常駐戦力がないのはおかしい。
一体全体何が起きているのか。


 「そう言えば、皆そろそろ技とか使えないのか?」

俺たちが隔離されていた区画では、PKMの能力は厳しく制限されていた。
だが、大分昇ってきた事で、環境は薄暗くコンクリートと鋼材で作られた、無骨な施設に移っていた。

美柑
 「ん〜……あ! 使えます! 半身の位置が分かる!」

セローラ
 「あ、本当だ。鬼火使える」

今までそれこそ何週間も使えなかったせいか、皆使えること自体忘れていたようだが、制限区画は越えたらしい。
美柑は今まで丸腰だったが、半身の気配を察知すると直ぐさま壁抜けして行った。

伊吹
 「どうする〜? 流星群で吹き飛ばす〜?」


 「生き埋めになる可能性もあるし、止めておこう」

伊吹の本気流星群はそれこそ、攻城兵器として運用可能なレベルだが、その分威力調整し辛い。
ここの全容が分からない間は迂闊に使えないだろう。

セローラ
 「とりあえず、ひたすら昇って、空を目指しましょうか? ここが何処なのかも大雑把に見たいですし」


 「ああ、頼む。でも危ないと思ったら迷わず逃げろよ」

セローラ
 「そこは安心してください、セローラちゃんはチキンなんで、逃げますよ脱兎の如く」


 「鶏なのに兎?」

セローラは幽体の身体を利用して、天井を無視して昇って行った。
俺たちははぐれる訳にも行かないので、暫くその場で待機する。


 「それにしても、とりあえず安心出来たのは、皆無事だった事だよな」

伊吹
 「それが不思議なんだよね〜、結局あの小さな部屋に押し込められて〜、そこから何もされてないし〜」


 「用途としては、単なる人質だったんじゃ?」


 「……その割に妙なのは、セローラには会わされたのに、お前たちにはなかった」

「うーむ」と、全く解決しない謎に頭を悩ませてると、何処からか激しい震動が此方に迫っていた。


 「地震?」

伊吹
 「違う〜、これは〜!」

ドォォォン!

直後、近くの壁が粉砕された。
粉塵を撒き散らす大穴から現れたのは美柑だった。


 「……美柑、お前なんで壁を壊しながら戻ってきた?」

美柑
 「あ〜、なんかすっごい入り組んでて鬱陶しくなったもので」

壁の向こうはそこも通路のようで、正しく深部に入り込むにはこの迷宮の攻略が必要という事か。
最もこっちはその深部から脱出しようとしている訳だが。

セローラ
 「ごっ主人様〜! ここから6階層位上が地表見たいです!」


 「まじか……この迷宮6階層も昇らないといけないのかよ……」

そうすると、俺たちがいた場所は相当地下ってことになるのか。
だがそうなると、こんな面倒な迷宮を一々通って眠った俺たちを搬送したのか?
いや、それはないな……第一それでは外敵対策としては良くても、深部で起きたトラブルや、物資搬入に問題があるはずだ。


 「美柑、セローラ。恐らくだが物資搬入用のリフトかエレベーターがあるはずだ、見なかったか?」

セローラ
 「えと……私は良く周りを見ていなかったので……」

美柑
 「……もしかしたら」

美柑は何か思い当たる節があるらしい。

美柑
 「主殿、ついてきてください!」

美柑はそう言うと、穴の中へと飛び込む。
壁もへったくれもなく破壊された先へと進むと、やがて俺たちは大きな空洞に出た。

セローラ
 「うわ〜、吹き抜け」

天井から光は差さないが、巨大な縦穴が施設を貫いていた。

美柑
 「ここ、もしかしたら地上まで直通だったりしませんかね?」

伊吹
 「ん〜、外装が剥き出し〜、リフトとしたら、相当巨大な物も運べそうだね〜……」


 「ご主人様、階段がある」

茜は俺の服の裾を引っ張ると、落下防止用フェンスの先を指差した。
この辺りはライトも弱く、所々が薄暗くなっており、注意しなければ見落としていただろう。


 「……行くぞ」

俺たちはちょっとづつ変わる施設の雰囲気に、この施設の謎を深める。
縦穴の周辺にらせん階段があり、階段はまるで工事現場に臨時に設置されたかのように無骨な物で、その周囲全体の雰囲気はまるで鉱山採掘基地の中のようだ。

カツンカツン。

鋼材をただ組み立てたかのような階段は足音が妙に響く。
空洞内に音が反響するのが原因だろう。
だが、ただ黙々と階段を昇っても、地表には確実に近づいている。

そして、地表付近に出た時、何かの気配を感じた!


 「気をつけろ! 誰かいる!?」

階段を昇り終えると、雰囲気は急に整備された軍事基地のような雰囲気に変わった。
一応俺たちは地表に出たのだろうが、そこで気配に気が付いたのだ。

美柑
 「敵ならボクが!」

セローラ
 「あーもう! やけっぱち! こうなりゃPPが無くなるまで撃ち尽くしてやりますよ!」


 「待って! この感じ……」

非常口、そう書かれた出口の先、重い鋼鉄製の扉がギギィと音を立てて開く。
俺たちは扉から吹く風を久方ぶりに思いっきり浴びる。
そして視界が広がった。
非常口を出た俺たちは、その惨状よりまず先に、そこにいた人物に気が付いた。


 「保美香!」

保美香
 「だんな様? だんな様ー!」


 「何!? 茂さん!?」

華凛
 「ダーリン!」

そこは、空港のようにも見えた。
周囲を鬱蒼とした森に包まれて、辛うじて小型の輸送機程度なら出発出来そうな滑走路が一本だけある。
ただし、そこに飛行機はない。
代わりに無残に潰された機械や銃がその場に散らばり、施設が受けたダメージは小さくないようだ。


 「皆……」

保美香
 「茜……今は何も問いません。あなたが何者であろうと」


 「……」

空港内を探索していたと思われた保美香たちは、本物のようだ。
ここで一体何があったのか、
分からないが、保美香たちの格好は汚れており、ある程度何があったか察する事が出来る。


 「とりあえず、脱出しよう。そもそもここは何処だ?」

俺は小さな滑走路を歩く。


 「あ! 茂さん! 今は!?」

滑走路は小さいが、そこは森に囲まれても見晴らしは良かった。
どうやら山の上にあったらしく、滑走路ギリギリからは周囲を一望できた。
だが……俺はそこまでこの異変にどうして気が付かなかった?

時間は夜なのに、星すら瞬かない程明るく朱に照らされた空。
眼下には……空を明るく照らすほど、火を吹き上げる都市の姿があった……。


 「は……? こりゃ、なんの、冗談だ?」

保美香
 「だんな様、聞いてください! 貴方が誘拐されて半月……戦争が始まってしまったのです……!」

華凛
 「今世界は混沌としている……最悪だが、今街へ下りるのは危険だ」

悪夢……そう誰もが形容するだろう光景が広がる。
目の前の街も、その先もずっと火の手は広がり、冬だというのに寧ろ熱い。
それは……火の七日間の始まりなのか……。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第16話 異変 Side茂 完

第17話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/14(火) 21:08 )