突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第15話 絶望の序曲

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第15話 絶望の序曲


なんの冗談なんだろう……。
ある日、目に前にポケモン娘が現れて、俺をご主人様と慕い、そして異世界さえ旅をした。
そしていざ帰ってきて見れば、世界は180度違うじゃないか。
一体こんな訳の分からない世界を生み出したのは誰なんだ。
平穏が終わるのはいつも突然だ。
この世界に慣れてきたのも束の間、俺の平穏はあっさり潰された。
それが夢なら、どれ程良いだろう。

……そして、そもそもポケモン娘がこの世に存在すること、それこそが夢なんじゃなかろうか―――。




 「……ッ?」

俺は突然光を感じて目を覚ました。
頭が重く、目線が暫く定まらなかったが、暫くするとその状況を理解した。


 「どこだ、ここ……?」

俺は真っ白い空間にいた。
そこは酷く距離感を失う空間だった。
一応空調の音が聞こえることから、人工物の中だということは分かったが。
自分の格好を見てみると、まるで病院の患者のような格好に着替えさせられていた。


 『お目覚めかね、常葉君』

突然、声が聞こえた。
その一瞬で俺の正面の壁面がモニターに変わり、男のシルエットが映し出される。


 「気分最悪だよ、アンタ誰?」

謎の男
 『ふふふ、この世界の真の支配者だよ』


 (なんだそりゃ? 魔王を名乗るよりタチの悪い中二病か?)

俺が唖然として首を傾げると、シルエットの男は肩を揺らして笑う。

謎の男
 『ふはは、君はフリーメイソンを知っているかな? 300人委員会は? 黄金の夜明けを知っているかな?』


 「幾つか聞いた事あるな……つーか、都市伝説レベルの秘密結社じゃん」

謎の男
 『都市伝説ではないよ、それらは全て一つの組織を現す、だが荒唐無稽過ぎて理解できないのは無理もないがね』

つまりあれだ、この男はこの世界を裏で操る秘密結社の支配者だと言っているのだ。
○ルゴムの世紀王レベルの存在だな。


 「……茜たちは?」

一瞬、俺はアレが現実なのか疑ってしまったが、茜たちは確かに存在する筈だ。
ここが何処で、アレから何日経ったのも分からないがそれまでが嘘ではない事を信じたい。

謎の男
 『約束通り無事だよ』


 「言葉だけじゃどうも信用出来ないんだよな」

謎の男
 『ふふふ』

突然、モニターの左半分の映像が切り替わる。
そこには真っ白な空間で椅子に座る茜が映し出された。


 「茜!!」

謎の男
 『見ての通り無事だよ、全員此方で保護してある』

俺は叫ぶが、茜には届いていないらしくモニターの向こうの茜は無表情に俯いたままだった。
そしてこれはこの秘密結社が彼女たちを拘束している事を意味している。


 「クソが……! 俺は何をすればいいんだよ?」

謎の男
 『部屋の外に出たまえ』

その言葉と同時、部屋の角で真っ白い扉が音を立てて開いた。
俺は扉の方に向かうと、やはり扉の向こうも真っ白い空間で距離感を失わせる作りだった。
輪郭線の存在しない白い空間は、実際にはギミックだらけのようだが、兎に角距離感が掴み辛い。
扉の先は細長い通路のようだが、何処が壁か分からないし、落ち着かない空間だった。
暫く空間を進むと、再び扉が開き、一様に開けた空間に出た。

謎の男
 『中央の椅子に座りたまえ』

謎の男の声が聞こえる。
俺は素直に従うと、手術台のような特殊な椅子に座る。
すると、椅子についた機構が動き出し、俺の両腕両足を拘束して、頭部を機械が覆う。


 「まるで改造手術でもするみたいだな」

謎の男
 『安心したまえ、ただのバイタルチェックだよ』


 (本当かねぇ)

少なくとも両腕は脈拍を測る医療機器に似ている。
頭部を覆う機械からは青いサイバー光が漏れ、何らかのセンサーが取り付けられている。


 (脳波でもチェックするのか?)

暫く俺は動くこともままならず、ただじっとしている事をしか出来ない。
極めて変化の乏しい閉鎖された環境は時間感覚さえも奪っていた。
そして、永遠にも思えた時間感覚は突然外れた拘束具によって解放される。

謎の男
 『健康に異常はないようだ』


 「しかし、こうも気味の悪い空間では精神に異常をきたしてしまうよ」

何処を見ても真っ白、天井まで何メートルあるかも分からない。
ここは正に空間と時間を歪ませた世界に思えて仕方がない。

謎の男
 『ふふふ、所で……異世界から現れるPKMにはある不思議がある、分かるかね?』


 「……さぁな、さっぱり分からん」

謎の男
 『それは言語だよ、世界各国で発見されるPKMは少なくとも会話不可能という例はない』

……言われてみれば確かに不思議だな。
そもそもなんでPKMは日本語を扱える?
そうだ、そもそも俺が異世界に飛ばされた時もナツメたちは未知の言語など使わなかった。

謎の男
 『これを我々は補正だと思っている』


 「補正?」

謎の男
 『そう、異世界から召喚される時、その世界のアカシックレコードに載らない者はこの補正を受けるものと考えている』

補正、それならアメリカのPKMは自然と英語が使えて、日本のPKMは日本語を使える?

謎の男
 『所で、私は何語で話しているかな?』


 「は? そんなの日本語に決まってるじゃないか」

謎の男
 『ははは! おかしな事を! 私はロシア語で話しているのだよ!
?』


 「はぁ!?」

俺は素っ頓狂な声で驚いてしまう。
だが、ある意味で先ほどの補正の説明を当てはめればある意味で理解できる。
俺が異世界に召喚される時、俺はナツメたちの言葉を理解できたのは、紛れもなく補正。
そして俺の言葉も補正によって伝えられる。

(紅理朱
 「あの人、ラテン語かな? 英語ならなんとかだけど……」)

ふと、上戸さんの言葉を思い出した。
俺は綺麗な日本語で話す白人にポケにゃんを紹介した時も、上戸さんは言葉が通じず困っていた。
俺は事もなげに話したが、アレが補正なら納得がいく。

つまり、俺はやはり補正された異世界人ってことか。


 「なるほど補正の存在で俺がゲート通過者だと気付いた訳か」

謎の男
 『ふふふ、元々君はマークされていたのだよ、様々な組織に。ただし補正の存在に気付いたのは我々だけだろうがね』

正直当たり前過ぎて逆に気付かなかった。
思えば、ルザミーネさんとかが、正しい日本語を使っていたとも限らない。
英語は英語として認識するから、文法すら理解しない言語は補正されていたと思うべき。
なら、何処かでその補正を探られていたんだろうな。


 「しかしさぁ、そこまで理解しているのは流石だけど、俺を調べればゲートを操れるってのか?」

謎の男
 『操る……ふふふ、そうだとも。少なくとも君はその重要なキーだろう、何せ伝説のポケモントレーナー』


 「なんでそれを!?」

俺は誰も知らないはずの言葉を使われた事に驚く。
補正はともかくとして、少なくとも異世界で使われた言葉が知られているなんておかしいだろう!?

謎の男
 『サイコメトリーなど、既に旧ソ連でも研究され運用された実績がある、人類にとっては既に得た技術だよ』


 「……」

俺は愕然とした思いに包まれる。
サイコメトリー、そんな超能力が現実に存在し、実用化しているというのか……。
記憶の読心、いつの間にか俺の心は読まれていたなんて、プライバシーもクソもねぇな。

謎の男
 『こう仮定出来ないかね、ゲートにはタイムマシンとしての作用もある、そしてゲートにはある程度の因果律操作作用も存在している』


 「すまん、そんな突拍子もないこと、一介のサラリーマンに理解できる訳ないだろ」

謎の男
 『……まぁいい。確かに説明しても仕方がないだろう』

ゲートにどの程度の価値があるか、ある程度理解しているつもりだったが、タイムマシンだの因果律操作だと、凄まじい言葉が出てきたな。
俺を調べれば、本当にそんな事が操作出来るようになるのか?
少なくとも、俺自身やっぱり普通の人間でしかないと思うんだが、頭の出来が違う奴らは違うと思ってるのかねぇ?

謎の男
 『今日は休みたまえ、明日からは我々に協力してもらおう』


 (協力……ねぇ)

正直言って、何が協力出来るのか分からんが、ロクでもない事に違いはないんだろうなぁ。
とはいえ、茜の映像を見せたという事は、協力しなければ茜たちの無事は保証しないって事だろう。
……結局、今は流されるしかないって事じゃねぇか。


 「とりあえずこの距離感の掴みずらいレイアウトなんとかならないわけ?」

俺は何処ともしれず、発するが返ってくる言葉はない。
……まぁ籠の鳥じゃ、出来ることは知れるか。

俺は、開きっぱなしの扉を進むと、元居た場所に戻る。
すると、ベッドの上に何かが置いていた。


 「レーション? とりあえず食えって事か」

ベッドにあったのは無菌パックに包まれたレーションと水だった。
あまりにも味気ないが、まぁこれでも譲歩して貰っているんだろうな。
その気になれば洗脳だって出来そうな奴らだし、そもそも効率を求めればしそうなものだが、しないって事は出来ない理由があるんだろうな。


 (耐えろよ俺、兎に角情報を集めろ、突破の糸口を見つけ出せ)

俺はレーションを食べ、水で流し込むとベッドに倒れる。
不味くはないが、美味くもない微妙なレーションで腹を満たすと、目を瞑り考える。


 (少なくとも、この部屋だってハイテクなだけで異次元の文明の品なんてことはない。俺が相手しているのも人間でしかない)

兎に角、俺が努めるのは適度に愚鈍に振る舞う事だ。
結局相手も人間でしかない、神になろうとも、することは世界征服でしかない。
ならば、何処かに出し抜く隙間だってあるはずだ。
……希望に縋る、最悪の選択肢だが、絶望なんてしてたまるか。
茜たちを救ってここから脱出しよう。

俺たちは世界を救う勇者でも救世主でもない。
ただ、絶対に平穏を取り戻す……それだけは絶対だ!



***



……常葉茂捕獲の直前。

パシ!


 「ッ!?」


 「ああっ!?」

保美香
 「だんな様に何をした貴様らぁ!!」


 『何眠ッテ貰ッタダケダヨ』

首元に何かを打ち込まれたご主人様は女性に抱きかかえられる。


 『君タチモゴ同行願オウカ』


 「ご同行だと? 巫山戯るな!」

美柑
 「くそ……主殿が人質であることは依然変わらず」

絶体絶命であることは何一つ変わらない。
私は何をやっているのだろう……。
抵抗するだけ無駄だ、私たちは無事でもご主人様はそうじゃない。
もうご主人様に加護はないのだから、それだけ私はリスキーな行動は取れない。

私は素直に歩き出した。

華凛
 「茜!?」


 「私はご主人様以外は何も要らない。貴方達がご主人様の邪魔になるなら、私は……!」

保美香
 「ッ!? 茜、貴方は何者ですか!?」


 「何者……? ただの無能なイーブイだよ、ご主人様を護れるならもうなんだっていいよ」


 『ハッハッハ! 素晴ラシイ忠犬ップリ! 勿論従エバ安全ハ保証スル!』


 (御免なさいご主人様……私はどうすればいいのですか?)

私はある程度進むと、大柄の男たちが私を拘束する。
私は強い力で拘束されながら、保美香たちを見た。
保美香たちの表情は様々だった。
信じられないと言う顔、怒りの顔、哀しみの顔。


 (ご主人様、私はやっぱり間違えたのでしょうか……死ぬ気で抗うべきだったのでしょうか?)

……そこから先、記憶はよく覚えていない。
ただガラスの割れる音や、ライフルの音が微かに耳に残った。
そして、次に目を覚ましたのは真っ白い空間の中でだった。



***




 「……ふぅ」

あれから何日経ったんだろう。
兎に角この施設は人間の五感を奪う作りだった。
時間感覚も、やはり人間は太陽を拝めないと日付も分からない。
まるで宇宙船の中のように、完全に管理された世界は快適で退屈な世界だ。

ただ、やはり鍵は毎日行われる機械による検査だろう。
一見健康チェックのようだが、実際は分かった物じゃない。
どうも、何かを観測しているようだが、シルエットの男はこれを実験だという。

謎の男
 『どうかね、少しは慣れたかな?』


 「まぁね、一体何を観測しているんだ?」

最近毎日聞くようになった声は、相変わらずSound onlyを貫くようで、信用されてるのか信用されてないのか分からん。
ただ、常に監視されているのは確かだろうな。

謎の男
 『所で君はゲートとはどういうものと考えるかね?』


 「どうって……異世界移動を行うワープゲートみたいな物だろう?」

謎の男
 『フハハ、まぁそれも側面としては間違っていないがな、我々はゲートを因果律の修正機と見ている』


 「まずだ、因果律だのなんだのってが難しくて分からん」

謎の男
 『ふむ、ざっくりと言えば君が伝説のポケモントレーナーとしての役目は正に因果律そのものだ』

伝説のポケモントレーナー、混沌する世界を神話の乙女と手を紡ぎ、救済すると神話は語る。
実際は怪しい物だったが、少なくとも神話の乙女の存在は確かに存在していた。
そして俺はその神話を完遂するまで少なくとも絶対無敵の存在だった。
実際は立証不可能な物の、結果で言えばあの世界で俺が死ぬ観測は不可能だと言う事なんだろう。

謎の男
 『君がある一定まで死なないと約束されているのなら、その約束そのものが因果律』


 「つまり因果律によって俺は世界を一つ救うはめになったってのか」

謎の男
 『世界はアカシックレコードに記された通り動く、実に秩序に縛られたディストピアだ。だがゲートはその記された動きとは異なるカオスそのものだ、それはゲートが因果律を操作していると言える』


 「すまん。やっぱり夢物語としか思えん」

例えそうだとしても、どうすればそれを証明できる?
結局ゲート研究して出来るのは、出したり入れたりっていう移動手段でしかないのではないか。
勿論それだけでもタイムマシン的な機能は有するかもしれない。
だが、俺はそんな便利な物とは思えない。

謎の男
 『因みに一つ聞くが、君は8月28日依然の記憶はどうなっている?』


 「どうって……そんなもん」

……俺は言葉に詰まった。
どう答えれば良い?
それは普通に過ごしただけの生活、だが何が普通なのかが分からない。

謎の男
 『君はこの世界では答えられない事が多いだろう? 少なくとも観測の結果、一人が世界に存在できるのは一人まで』


 「……何が言いたい?」

謎の男
 『簡単に言おう、この世界線の常葉茂はゲートによって因果律の上書きによって君に消されたのだ、厳密には上書きだがね』


 「……」

俺は自分の手を見る。
この手は間違いなく俺の手だ。
でも、俺は過去の何を知っている?
いつの間にか消えたパワハラ上司を知っているか?
高校時代付き合っていたらしい百代絵梨花との思い出は存在するか?
答えはノーだ、俺は8月28日以前の記憶は存在しないのと等しい。
細やかな歴史改変が、俺が存在するのに、俺を否定するかのような世界を生み出した。
もし、俺が再びゲートを潜ればこの世界における俺はどうなるんだろうか?
元の世界の俺が帰ってくるのか、それとも俺は消滅するのか。
いずれにしても補正といい、俺自身やっぱり因果律の地平に存在しているのかな。


 「とりあえず俺の存在がアンタらにゲート因果律の存在を確信させたわけか」

謎の男
 『君の記憶は実に興味深いよ、PKMの存在しない世界、それだけでもパラレルワールドはどれ程異なる観測結果を生み出すだろう! 少なくとも君は福音だよ! 君がこの世界に現れなければゲートの事象観測は出来なかった!』


 「俺からしたら最悪だよ。ただ平穏に暮らしたかっただけなのに」

謎の男
 『申し訳ないね、君は世界一価値のある研究素材な物で、君を狙う組織は多かった……所謂争奪戦だったのだよ』


 「くそったれめ! 俺は景品かよ」

結局こいつらに誘拐されなくても、俺の有用性に気付いた他の組織が拉致しただけって言うのかよ。
平穏はどの道ノーフューチャーって事になるよ。


 (くそ……結局ここを脱出出来たとしても、その後は? 安全は? 何も確約できねぇならどうすればいい?)

謎の男
 『所で、ゲートにインやアウトがあるとすれば、当然PKM以外にもこの世界に吸い出された物はある、そう思った事はないかな?」


 「……は?」

謎の男
 『まぁこれに関しては見せた方が早いか、次の部屋に進みたまえ』

駆動音、それと同時にこれまで侵入できなかった部屋の扉が開く。
ゲートから出てくる物はPKMだけではない?
俺はその言葉に妙な胸騒ぎを感じる。
兎に角指定された通り部屋を進むと、俺は初めて雰囲気の違う部屋へと辿り着いた。


 「ここは……?」

そこは今まで居た場所からすれば随分現実味を感じさせる研究所のような部屋だった。
やっぱり施設全てがあんな、SF紛いの空間ではないらしいな。

謎の男
 『正面を見たまえ』

俺は声に従い正面を見る。
その部屋は実験室か何かのようで、透明なガラスの板が、俺のいる場所と部屋の中を隔絶している。
そして部屋の中、怪しげな機器が乱雑に置かれたその部屋の片隅で、よく見ると女性が震えて縮こまっていた。


 「? あの子は? PKMか?」


 「ご、ご主人様……ですか?」


 「え?」

ガラス越しから聞こえた声は、聞き覚えのある声だった。
俺は一瞬耳を疑った。
だって……それは、その声は。


 「セローラ……なのか?」

セローラ
 「ご、ご主人様! わ、わたし……!」

部屋の隅で縮こまっていた女性は俺を発見するとガラス越しに駆け寄る。
その声は間違いなくセローラだった。
だが、俺の目に映る女性は俺の知っているセローラと異なっている。
ロウソクの火のように灯る目は同じだが、身長は大きく伸び、子供とした姿はそこにはない。
俺はこの事態にある予測が生まれた。

謎の男
 『実験結果だが、実に良好であった。PKMは進化をする』


 「闇の石……使ったのか!」

それは紛れもなくシャンデラのPKM、だがセローラはランプラーだった。
セローラの怯えよう、無理やり進化させたかのような怯えようだ。

謎の男
 『ゲートからは様々な品が出てくる。それは闇の石しかり、モンスターボールしかり』


 「……テメェ、セローラのこの怯えよう、一体何をしたらこうなるってんだ……!」

セローラ
 「あ、ああ……ご主人様、わ、わたし……あの日怖い人たちがやってきて……!」


 「セローラ、もういい!」

セローラは余程怖い思いをしたのだろう。
そもそも、セローラはポケモン娘と言っても普通の少女に過ぎない。
そんなセローラにした非道を俺は強く拳を握って怒りを抑える。
ここで怒っても何もならない、ただこの落とし前は忘れない事を誓う。

セローラ
 「い、一体ここは何処なんですか? なんでこんな目に……!」

謎の男
 『ふふ、心配はいらない。暴力は彼女に振るっていないよ。ただ薬物検査は少々したがね』


 「くそが薬物だと!?」

セローラ
 「うぅ……助けて、助けてよぉ」


 「セローラ、お前なら壁抜けや、そもそも煉獄で逃げられたんじゃないのか?」

セローラ
 「無理なんです! この部屋……技も使えないし、壁抜けも出来ないんです!」

謎の男
 『ははは、どうかね我々の技術力。その部屋はモンスターボールに使用されるキャプチャーネットの技術を応用して作られているのだよ。つまり超巨大なモンスターボールとも言えるのだよ』


 (……おいおい、オーバーテクノロジーってのは、何処まで世間に隠されているんだよ!?)

この組織の異常発達した技術、その気持ち悪さは感じていたが、ここまで想像を超えるテクノロジーがあった事を驚く。
だけど、どうしてモンスターボールとか、この世界に存在しないアイテムがこれ程、この組織は確保出来ているんだ?
アイテムの存在は御影さんにも聞いた事がない。
だとすると、アイテムをゲートから手に入れるには何らかの手順が必要と考えるべきか。
だが、そうなると既にその段階まではゲートの制御に成功しているという事になる。


 (成る程、逆に言えばアイテムは取り出せるが、そこで足止めを喰らっていると考えられるな)

逆に考えてみると、目標の達成にはアイテムを抽出できる程度では、意味がない。
それこそPKMクラスを自由自在に出し入れできる制御技術を求めた結果、俺の拉致に繋がったと考えられる。
ということは……俺が捕まった時点でゲートの制御技術は王手に近づいたって事、でもそれはピンチでありチャンスだ。
謎のシルエット男は、少なくとも俺の待遇を悪くはしていない。
つまり、協力なくして悲願の達成は出来ないってことだろう?
じゃあ、何処かで譲歩ラインを引き出せれば、出し抜けるチャンスを作れるかもしれない。


 「おい、セローラは本当に必要なのか? セローラは今身重の百代さんを支える必要があるんだ、返してやってくれないか?」

謎の男
 『ふふふ、あまり調子に乗らないことだ。確かにもうそのPKMに存在価値はないが、だからと言ってこの地の所在を知る者を出すわけにはいかん。出る時はただのタンパク質の塊となった時だ』


 (まぁ当然の答えだな、正直期待しちゃいないが)

俺は頭を高速回転する時は、かなり速いみたいなんだよな。
つってもこういう高速思考に気が付いたのは異世界に飛ばされてからだが。
こういう時は兎に角頭を使うしかない。
この瞬間にも考えている事を覗かれていたら台無しだが、少なくともサイコメトリーはそれほど簡単な物ではないらしい、普段は心を読まれたという節はない。


 「まぁセローラの件は仕方ないな。でもさ、俺が協力してゲート制御の手段を確立出来たら、こんなの形骸だろ? とりあえず協力するからさ、さっさと実験再開しようぜ?」

謎の男
 『ふふふ、その通りだな。いいだろう次のステップに進もうではないか』

相変わらずsound onlyの主だが、相手も人間だ。
それも完璧な超天才って訳でもないだろう。
さて、俺はタヌキでいられるか、ムジナに過ぎないか……勝負だな。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第15話 絶望の序曲 完

第16話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/14(火) 19:42 )