突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第14話 11月21日

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第14話 11月21日


11月21日、この日は特別な日である。


 「ご主人様の誕生日……!」

私はカレンダーを見ながら、その日を楽しみに待っている。
私たちPKMには誕生日は分からないけど、ご主人様には大切な一日だ。
だから、私たちが一杯お祝いする。

保美香
 「茜ったら上機嫌ね」

美柑
 「いつも以上に尻尾を振っていますもんね」


 「だって、ご主人様の大切な日だもん。一杯お祝いしてあげたくて」

皆呆れかえっているが、お祝いしたいという気持ちは同じはず。
既に日付は明日が誕生日なのだ。


 「一杯買い物しないと」

保美香
 「明日でいいですわよ、前日からお祝いしそうな勢いですわね」

伊吹
 「でも〜、ご主人様に楽しんで貰いたいのは同じだもんね〜」

私が普段ご主人様にしてあげられる事は少ない。
これは、数少ない私たちがご主人様に恩返し出来るイベントなのだ。



***




 「……クシュン!」

大城
 「なんだ、風邪か?」

俺は会社で突然くしゃみしてしまった。
隣の大城は風邪を疑ったが、熱はないし、何かが鼻に詰まったのだろう。


 「うーむ、噂でもされたかな」

大城
 「噂ねぇ、そう言えば常葉って明日誕生日だっけ?」


 「そう言えば……」

今月に入ってから茜がカレンダーを見てソワソワしていた事を思い出した。
どうやら茜は俺の誕生日を楽しみにしていたようだ。
まぁ数少ない家族のイベントだからな、明日は保美香もご馳走だろうな。

大城
 「茜ちゃんたちの誕生日プレゼントってなんだろうな」


 「さぁな、美味しい晩ご飯があるだけで充分だが」

大城
 「夢がねぇな。そこはプレゼントは私ってのが定番だろ! そして今夜は眠らせ無いぞ、グハハとベッドに押し倒してだな!」


 「エロ脳乙」

相変わらず、大城のエロ談義に俺はいつも通り突っ込む。
とはいえ、何人か本当にやりかねないのが恐ろしい。
特に華凛辺りは自分にリボンを巻いて本気でやりそうだ。
正直家族から欲しいものなんてないんだが、アイツらからしたら初めて俺を対象とした記念日なんだよな。
張り切るにしても空回りはしない事を祈る。

大城
 「それにしても今年でお互い24歳か」


 「そろそろ肉体の衰えも出始めたか?」

大城はしみじみ言うので、俺は少し冗談じみたことを言うと大城も苦笑した。

大城
 「そうそう、白髪も目立ってきたしな!」


 「俺は筋力落ちた」

どうしたって高校生の頃の元気がないのは確かだ。
ただそれでも、この若さで泣き言言っても始まらないからな。
40代でも若々しい人はいるし、まだ20代前半、アドバンテージを活かさないとな。

大城
 「いい加減俺も……身の振り方を考えないといけないのかな」

ここ最近、大城の悩みと言えばそれだろう。
PKMにしろ恋人にしろ、大城はそれに憧れを抱いている。
望むならPKMと恋人みたいになればいいと思うが、大城は奥手だからなぁ。
それに未だに他人と同棲生活に拒否感を持っているみたいだし、PKMのハードルは高いか。


 「俺も無理には勧められないけど、一度PKMの保護管理センターに行ってみないか?」

大城
 「……そうだな、考慮してみる」


 「なんだったら夏川なら、かなり詳細に教えてくれると思うぞ」

大城は今、それなりに今後を考えている。
俺ほど平穏暢気に過ごしている訳じゃなく、転職とかも考えているかもしれない。
特に俺がこの一年で茜たちのお陰でここまで変われた、それは大城にとっては寂しかったのかもしれない。
俺にとって茜たちは、俺に生きる動機や働く力を与えてくれたことを感謝している。
もし、茜が現れなかったら今もクソ詰まんない顔して働いていただろう。
毎日酒でストレスをごまかし、仕事に嫌になって、鬱になって自殺していたかもしれない。
ifでしかないが、そういうifが大城にもあるのかも知れない。
願わくば、大城には運命の人を見つけて欲しいな。



***



仕事終了後、暗くなりつつある会社を定時で退社した俺は駅へと向かう中で、見慣れた顔を見つけた。


 「上戸さん?」

何やら上戸さんが困っている様子だった。
上戸さんは見慣れない白人男性と会話している様子だが、どうもコミュニケーションが取れていない?
俺はゆっくり後ろから近づくと会話が聞こえてくる。

白人男性
 「ですから、この辺りにPKMの喫茶店があると聞いたのですが……」

紅理朱
 「あ、あの……えーと」


 「?」

白人男性が探しているのはPKMの喫茶店らしいな。
となると、恐らくポケにゃんかと予想されるが。


 「失礼、PKMの喫茶店ならポケにゃんかと思いますが、ポケにゃんはここから二駅程離れた所ですよ」

俺はPKM関係に詳しくない上戸さんに助け船を出すように横から首を突っ込む。
白人男性はポケにゃんの名前を聞いて顔を明るくした。

白人男性
 「オー、ありがとう! そうか、場所を間違えたのか!」


 「ポケにゃんは結構見つけづらい場所にありますから、えーとですね」

俺はスマホの地図アプリを開いて、なるべく分かりやすいように説明する。
白人男性は説明を理解すると、大喜びで俺の手を握った。

白人男性
 「ありがとう! 行ってみるよ!」

白人男性は説明に満足すると走って行ってしまった。
俺は改めて上戸さんに向き直ると、上戸さんは驚いた顔をしていた。

紅理朱
 「すごいね」


 「何が? 場所さえ知っていれば説明は簡単だよ」

紅理朱
 「あの人、ラテン語かな? 英語ならなんとかだけど……」


 「は? 綺麗な日本語だったが?」

少なくとも、あそこまで綺麗に日本語を使える人はルザミーネさん位しか知らないな。
日本に旅行に来ていたみたいだし、会話レベル位出来て当然だと思うが。
しかし、どうも上戸さんと何か会話が成り立っていない気がした。

紅理朱
 「変なの……あ、それより助けてくれてありがとう御座います!」


 「いいよいいよ、上戸さんPKMに疎そうだしね」

紅理朱
 「私どうも好きになれないというか……興味がないんですよね」


 「実際そういう人は多いと思うぞ」

まだまだ社会の関心は薄いと思う。
PKMがニュースのトップを飾ることなんて殆どないし、都市部ではPKMの数自体が少なくて、人口密集地では目立たないし、ようはマイナーなスポーツ選手は名前も知らないのと同じだと思う。

それでも少しずつ改善はしていると思うんだ。
PKMのホストは少しずつ増え、PKMの待遇が変わればいつか、普通に過ごす時が来ると思う。
今はまだ偏見の方が強いかもしれないけど、人が偏見を無くせる時は永遠に来ないだろうし、どれだけ薄らげられるかだよな。

紅理朱
 「常葉さんって、PKMが好きなんですね」


 「少なくとも嫌いじゃない、だが全てのPKMが好きなんかじゃない」

よく勘違いされるが、俺はPKMと人間を区別していないだけで、PKMが好きなんじゃない。
俺が好きなのは、茜たちやハニーさんのような、人として好意を持てる奴らだけだ。
顔も知らんPKMの事なんて好きとも嫌いとも言えるわけがない。

紅理朱
 「そうなんだ、そう言えばあの外国の人、何処に行こうとしていたの?」


 「PKMがコスプレしながら働いているポケにゃんだな」

紅理朱
 「コスプレしているの?」


 「普段はメイド喫茶、たまーに別のコスプレも」

知っている人にはとても有名な店だが、知らない人にはとことんマイナーな店だからな、上戸さんが知らないのも無理はない。
ただ、ネットで調べるとそこそこ検索にヒットするし、さっきのような外国人もわざわざくる位だから、需要はあるのだろう。
改めて、労働法の改正でPKMも労働する権利を得られれば、そういう店も爆発的に増えるだろうに。

紅理朱
 「あ、私こっちですから」

駅に向かって暫く歩くと、彼女は途中で道を違える。
どうやら、電車移動じゃないみたいだな。
俺は彼女に別れを告げると駅のホームに向かうことにする。


 「それじゃ、お疲れ様!」

紅理朱
 「はい、お疲れ様です」

俺はそれっきり上戸さんと別れ、電車の待つホームへと向かった。
駅はいつも通り混雑している、この時間は帰宅ラッシュだから、ここだけは辛いな。

アナウンス
 『まもなく、電車が到着します』

俺が乗るのは普通電車。
列の流れに乗って、俺は電車の中へと流れ込む。
暫くすると電車は発車した。


 (……ハニーさん、いつも同じ場所にいたっけ)

俺はふと、電車の中でハニーさんのことを思い出す。
彼女はいつも行動にルーチンワークを持っている人だった。
決まって電車の中でも同じ場所に立っていたことを、混雑する電車の中から思い出す。
まぁ、普段ハニーさんが乗る時間はもっと空いてる時間帯なんだが。


 (そう言えばあの白人男性、何でポケにゃん興味を持ったのかな)

お国柄というか、アメリカ人なんかだと差別意識もなくて、フレンドリーに考えられるのかな。
日本人には拒否感みたいな物があるが、元から他民族な国ならまた違うのだろうか。
もしそうだとしたら日本が一番PKMの出現が多いってのは皮肉だよな。
アメリカならそれこそ、○パイダーマンみたいなものなんだろう。
異能を敬うか畏れるか、残念ながら日本の場合は畏れている感じが俺でも分かる。
PKMには確かに人智を越えた力があるのだから、恐れられるし、同時に欲する者もいる。
人間の世界が超人社会にはなりえない以上、力を持ったPKMには辛いのかな。


 「お……と、次で到着か」

気が付けば、刻一刻と家へと近づいている。
欠伸が出るほど変わらない日常、俺は目的の駅に着くと、降りて帰路についた。



***



美柑
 「あーー! やられた!」

伊吹
 「んふふ〜、上がり〜♪」


 「むぅ……」

華凛
 「なるほど」


 「……」

ご主人様の帰りを待つ中、私たちはUNOで遊んでいた。
ただし私と保美香を省いてだけど。
保美香は晩ご飯の用意で忙しいから、私は運が強くて皆に嫌われているから。
仕方がないので皆のゲームを観戦しているけど、先ほど伊吹が上がった。
UNOは少しルールがややこしいけど、初挑戦の凪と華凛もやりながら覚えているみたい。

華凛
 「とりあえずドロー2」


 「私もドロー2」

美柑
 「更にドロー2!」

華凛
 「からのリバース」

美柑
 「ギャース! 6枚ドロー!?」

美柑は保美香ほど取り立てて運が良いわけじゃない。
ただ大富豪に比べても、妨害系の多いUNOだと、直情型の美柑は不利かもしれない。
実際、絵札カードを直ぐ使い切り、更に相手の手札を読んでない所がある。
これでどうして戦いになると、そんなに頭が回るんだろう。
不思議に思っていると、凪が上がって、華凛が上がる。
つまり負けたのは美柑だ。
因みにメタな話だが、2019年5月時点で、ドロー系の重ねが禁止な事が公式から発表されたけど、これまだ前年だからね!


 「ふふ、とりあえず私の勝ちみたいだな」

華凛
 「たかが1回ではないか」

美柑
 「クソ〜、次は負けませんよ!」


 (退屈……)

ゲームは参加できないとつまらない。
私は運だけはすごく良いから、こういうゲームには参加させて貰えないからなぁ。


 「ただいまー!」


 「!」

私は飛び上がるように、立ち上がると急いでご主人様の元に向かった。
私の大切なご主人様、どうか今日もナデナデして。



***



11月21日、誕生日当日。

保美香
 「さてさて、今日は頑張らないといけませんねぇ」


 「うん、私も手伝うから」

私たちはご主人様の誕生日という事で、お祝いの品々を作るため、朝から保美香と一緒に買い物にでた。
今日は小物も含めて、皆でご主人様の誕生日を良い物にしようと努力に努めた。


 「誕生日と言えばケーキ、ケーキも自作するの?」

保美香
 「当然ですわ、だからとっても忙しいかしら」

保美香は本当に何でも作って見せる。
今回は何を用意するのかな。
ご主人様はお酒が好きっていう事は知っているけど、他はあんまり聞いた覚えがない。
ご主人様自身好き嫌いが少ないんだよね。


 「保美香、お酒チョコって作れる?」

保美香
 「それ程手間も掛かりませんわよ、それがどうしたのかしら?」


 「私、作ってプレゼントしたい」

私が作りたいと言うと保美香は「うーん」と首を捻る。

保美香
 「他ならぬ茜の頼み、良いでしょう、手伝いますわ!」


 「うん、頑張る」

私は料理はそこまで得意じゃないけど、それでもご主人様に喜んでもらいたいから頑張る。
時間は10時、ご主人様が帰ってくる前に全部終わらせないと。



***



カタカタカタ!

キーボードを叩く音がいつものようにオフィスに響く。
年末まで後1カ月というこの時期は流石に忙しくなってきている。
隣では、大城が「ん……!」と背を伸ばした。

大城
 「っはぁ! 昼休憩まであと少しか」

画面の端にはもうすぐ正午を指す時間だという事が分かる。
基本的に仕事時間は静かな物だ、大城も改めてまたキーボードを打つ。

大城
 「なぁ常葉」


 「どうした?」

大城
 「……いや、止めとく」


 「?」

俺は首を傾げる。
大城は一体何を言おうとしたんだろう。
俺も流石に追及するのもアレかと思い、何も言わないが時々横で働く大城を見る。
大城の働きはいつもと変わらない、そういう意味では何か悪いことなのか類推出来ない。

やがて、時間は昼休憩に入った。

大城
 「よっしゃ! さーて、昼飯昼飯!」

大城は席を立つと、早速昼飯を買いにいく。
いつも通りならコンビニで買うか、外食で済ましてくるだろう。
俺は鞄から弁当箱を取り出すと、休憩室に向かった。

いつも通り、仕事のキリが良くなった者から、昼休憩に入っていく。
俺はいつも通り部屋の隅で昼ご飯を頂く事にした。

夏川
 「おー、相変わらず保美香ちゃんのお弁当は流石ですな」


 「あん? 夏川もう買ってきたのか?」

普段は弁当を持参しない夏川だったが、今日は珍しく何かを持っているようだった。
夏川は俺の正面の席に座ると、サンドイッチを取り出す。

夏川
 「今日は良い店を見つけたのだよ」


 「良い店?」

夏川
 「PKMがご主人と一緒にパン屋をやっているお店があるのだよ、そこでサンドイッチを買ってきた」

相変わらず、夏川はPKMに熱中しているな。
サンドイッチはなんの変哲もない普通のものだ。
実にありふれた品物だが、そこにPKMが関われば迷わず食いつくのがPKMマニアたる夏川だよな。


 「それで、お目当てのPKMはどんな子だったんだ?」

夏川
 「タブンネのPKM、名前は福というみたいだね、左手の薬指に指輪してた」


 「お前人妻にも欲情するんか!?」

夏川
 「そこはそこ! 何でもご主人脱サラしてパン屋を始めたみたいだな、そのご主人を献身的に支える福さん、構図としては最高だよな!」


 「脱サラねぇ……」

俺は弁当の唐揚げを頬張り、そういう生き方している人もいるのかと感心した。
確かに指輪をプレゼントするほどPKMを愛しているのなら、サラリーマンより個人経営の方が一緒にいられる時間も長いもんな。

夏川
 「常葉も脱サラしてみる?」


 「その勇気があれば、とうにしていたと思うわ」

脱サラして何が出来るって気もするが、弁当屋でもなんでもやってみれば、なんとかなったかもしれない。
でも、流石に生活が不安定になる部分が怖くて、脱サラする勇気はないわ。


 「逆に聞くが、夏川なら同じ条件なら脱サラしたか?」

夏川
 「モチのロン! ただ……その相手は中々決まらない」

夏川はこの会社では間違いなく最もPKMを愛する男。
即決で言う辺り流石だが、それ故にポンとペットを決めるようにはいかないか。
実際夏川にとっては、運命を左右する選択だけに本当に慎重だ。

夏川
 「結婚指輪まで用意するなんて憧れるよねぇ……はぁ、早く運命のPKMを見つけたい」


 「PKMとの重婚は許されるのだろうか?」

結婚する気はないが、一応意識はしてしまう。
何せウチには6人もPKMがいるから、割と貞操の危機を感じる程度には、皆の欲求は分かっている。
茜や保美香、華凛は明らかに狙っているし、凪も酒の席では結婚願望があることを吐露している。
勿論美柑や伊吹も狙っていない訳ではないだろう。
更にセローラやたまに杏も怪しい雰囲気出すから、油断できない。

夏川
 「因みに戸籍上の結婚は出来ないんだよねぇ、所謂事実婚?」

大城
 「結婚か……」

夏川
 「おー、相変わらずカップ麺とおにぎり」

暫くすると外から大城もコンビニで買ってきたであろう昼飯を持ってきた。
結婚というワードは大城にとって、決して無視は出来ない物だろう。
大城は俺の隣に座ると、カップ麺が出来るのを待つ。

大城
 「ふぅん、今日は唐揚げ弁当なんだ」


 「やらんぞ」

大城
 「堅いこと言うなよ」

大城が俺の弁当の具材を奪おうとするのは日常茶飯事だ。
故にこのようなやりとりも普通で、大城も無理に取ろうとはしない。

大城
 「あれ、夏川はサンドイッチ?」

夏川
 「ふふふ、良い店を見つけたのだよ」


 (大城の奴、結局さっき何を言おうとしたんだ?)

俺は昼前の事を思い出すが、今は特にそんな事を言い出す雰囲気でもない。
夏川は俺に話した経緯をそのまま大城に語る。
大城は時々相づちを打ちながら聞いていた。
俺はその間に弁当を食べ終え、二人の様子をそっと覗う。



***



保美香
 「一杯買いましたわね」


 「うん、ご主人様喜んでくれるかな?」

保美香
 「きっと喜んでくれますわ」

わたくしたちはいつものように商店街で必要な物を買い、そして買えない物はスーパーマーケットなどを利用しながらも買い揃えると、帰り道では両手に大量の荷物を持つ事態になっていた。
今回は大盤振る舞いもしている、普段は倹約しながらだけど今日は物もそれなりを揃えた。

保美香
 「茜、重さは大丈夫かしら?」


 「ん……ちょっと辛いけど、大丈夫」

普段はわたくしは一人で運ぶのだけれど、今回は両手で余る量で、必然的に茜も両手が埋まっている。
わたくしより体格もパワーもない茜はより辛いだろうけど、笑っていた。


 「これは、幸せの重さ……でしょ?」

保美香
 「あらあら、言いますわね」

わたくしがいつも口癖のように歌っていた、幸せの重さ、茜が覚えていたとは意外ですわ。
重くて大変でも、それは想い人に喜んでもらう事は幸せだ。

保美香
 「うふふ、茜も日に日にしっかりしてきましたわね」


 「まだまだ、もっと学ぶことは一杯ある」

保美香
 「人生日々勉強と言いますからね」

かくいうわたくしだって勉強することばかり。
無駄に長生きしたとは思いたくないけれど、学ぶという事に終わりはない。


 「これでい……ッ!?」

保美香
 「ん? どうしました?」

突然茜が足を止めた。
私は後ろを振り返ると、茜は目を見開いて呆然と立っていた。


 「保美香?」

保美香
 「あらあら、一体どうしました? わたくしに何か?」


 「……今何日?」

保美香
 「は? 11月21日ですわよ、どうしましたの? この日を一番楽しみにしていたのは茜でしょうに」

なんだか茜の様子がおかしい。
茜は目だけをキョロキョロ動かし、その目は収縮しており、汗もかいている。

保美香
 「もしかして身体の具合が悪いのでは!?」


 「……そう、問題ないわ」

茜は何かに納得すると、再び歩き出した。
わたくしは不安に思いながらも、茜と一緒に帰路につく。
その顔に笑みが消えている事、ただその僅かな異変に不安を覚えながら……。



***



美柑
 「よーし、リボンはこんな感じで大丈夫でしょうか?」

保美香
 「ふんふんふ〜ん♪」

華凛
 「内装は……こんな感じか?」

家の中は騒然としていた。
今日はご主人様の誕生日、帰ってくる前に全ての準備を終えないといけない。

保美香
 「茜、今のうちに作りましょうか?」


 「? 何の事?」

保美香
 「何の事って……貴方だんな様にお酒チョコをプレゼントしたいと言っていたじゃないですか」


 「あぁ、うん……そうだったね」

伊吹
 「? 茜ちゃん〜、なにか変じゃない〜?」


 「そうか? いつも通り物静かだと思うが……」

華凛
 「……」

私はエプロンを着ると、まずはチョコを湯煎で融かす作業から始める。
お酒はブランデーがいいだろう、ジュレ状にしてチョコで包み、冷凍庫で冷やせば完成だ。

保美香
 「まずは、あら? 茜もしかして作り方分かってます?」


 「最低限だけど」

保美香は私の手際に驚いたようだが、生憎私には保美香ほどの知識も技術もない。
だから結局は保美香の指南を受ける事になる。


 「チョコは市販のミルクチョコレートで良いよね?」

保美香
 「そうですね、茜には作業工程を考えてその方が良いでしょう」

ミルクチョコレートなら予め味も整ってて丁度良い。
業務用のブラックチョコレートから作ると、砂糖やミルクで調整しないといけないから、慣れていないと難しい。

保美香
 「折角ですから、生チョコ風でいきますか!」

保美香はテーブルに置いてあるケーキ用の材料から生クリームを取り出すと、そう言った。


 「大丈夫?」

保美香
 「問題ないですわ、わたくしが監修する訳ですし」

保美香はなんだか楽しそうだ。
思えば、保美香は何をするにしても楽しんでいる気がする。
私は今楽しんでいるだろうか、ただ作業のように思っていないだろうか……。

保美香
 「さて、お酒の方は……」


 「ウイスキーはどう?」

保美香
 「悪くはありませんが、ストックがあったかしら?」

華凛
 「ふふふ、ならばこれはどうだ! 大吟醸!」

ドン! と華凛はテーブルに日本酒の一升瓶を置く。
そう言えば、華凛って日本酒好きだったわね。
しかし、保美香はそれに難色を示し。

保美香
 「赤ワインと白ワインで2種類作りましょう」


 「ん、保美香に任せる」

華凛
 「くっ、日本酒だってチョコにしても良いだろうに……」

華凛は早々に却下されると悔しそうに戻った。
私はそのまま、鍋の様子を確認する。
だが、その時私はある気配に反応し、無意識に手刀を振るった。

セローラ
 「今日も良いおっぱいで……たわば!?」

私が無意識に放った手刀はいつも通り音もなく後ろからおっぱいを揉もうとするセローラの首を的確に捉えた。

セローラ
 「流し斬りが完全にはいったのに……ガク!」

セローラはそう言うと倒れた。

華凛
 「アバロンのダニが一匹減ったな」


 「そんな事を言ってる場合か! 頸椎に直撃したぞ!?」

伊吹
 「とりあえず〜、こっちで介抱〜」

突然のセローラの登場、そして即青い顔をして痙攣したままセローラはリビングで介抱される事態になった。

美柑
 「偶然の一撃ですよね? 下手すれば死んでましたよ?」


 「ごめん……」

私は自分がやり過ぎた事に後悔した。
でも、不用意に後ろから接近するセローラも悪いでしょう。
セローラはもう手遅れかもしれないけど、相応の報い受けるべき。

保美香
 「やれやれ、まぁセローラにはお灸を据えたと思っておきましょう」


 (それにしても、どうしてセローラが?)



***



大城
 「そう言えば、ハッピーバースディだな常葉」


 「ん……今更だな」

そろそろ仕事終わりという頃、突然思い出したように大城は言った。
俺はもう24歳になってしまったかという感じしかしないが、まぁ嬉しくない訳ではない。

紅理朱
 「え? 常葉さん、今日が誕生日なんですか?」


 「ん、また一歩おじさんに近づいた訳です」

紅理朱
 「おじさんって……まだまだ若いじゃないですか」

夏川
 「そうそう、まだまだ働き盛りでしょ!」

気が付いたら、俺の周りに人が集まってきたな。
もう終業5分前であり、上司も見て見ぬ振りである。

女性社員
 「常葉さん、誕生日おめでとうございます!」

男性社員
 「おめでとう!」


 「どーも」

毎年の事だが、比較的人間関係の良好なウチは、結構こうやって誕生日を祝ったりする。
とはいえ、今年はいつもより多い気がするな……。

大城
 「で、茜ちゃんたちは何をプレゼントするんだ?」


 「知らん」

夏川
 「彼女たちは熱烈ラブ勢だからなぁ、やはり下のお口では……」

紅理朱
 「え、えと……そういう関係なんですか?」

……それにしても毎度毎度迷惑なのは、社員一同俺をエロい人扱いすることだよな。
まぁそりゃPKMとはいえハーレム状態で、誰にも手を出していないなんて、疑われても仕方がないが、本当にまだなんだよ。
とは言っても夏川の意見も冗談に聞こえない。

大城
 「終業時間か……それじゃ独り身は先に帰らせてもらいまーす!」

夏川
 「俺も今日の分は終わったし、サクッと帰るかな」

紅理朱
 「あ、それじゃお疲れさまです常葉さん!」


 「おー、また明日なー」

皆仕事を終えると、順次タイムカードを切って、退社していく。
俺は保美香たちに少し遅れて帰ってくるよう言われていたので、少しだけ残業して時間を潰すことにした。


 (そういや、以前は残業ばっかりだったっけ)

ふと、俺は今年1年を振り返ると、上半期は正に奴隷のように働いていた。
それが茜と出会って以降の下半期は随分環境も変わった。
厄介だったパワハラ上司が消えた事も大きいが、やっぱり俺自身が変わったんだろうな。
思えば奇妙な感覚だ、酒に溺れて面白くもない仕事の残業を何時間もやらされ愚痴ばっかり言っていた駄目人間が、ここまで更生出来たなんて、まるで奇跡だよな。
茜たちが俺を変えたのは間違いない、それも俺は良い方向だと思っている。
このまま年末を越えて、来年、再来年とアイツらと一緒に過ごせる事を俺は切に願う。



***



午後7時、普段より少し遅く帰った俺は、真っ暗な空を見上げた。
11月下旬の空は寒く、天気は曇っている。
仄かにクリスマスを目前としたムードが街にはあり、まだ浮かれるには気の早いものだ。


 「……アイツら、どんな誕生日を迎えさせてくれるのやら」

そうこうしていると、俺はマンションへと辿り着く。
マンションの灯りを見ると、やっぱり安心するな。
ゆっくり階段を昇り、自分の部屋へと進んでいく。
そして、玄関の扉を開くと。


 「たっだいまー!」

バタバタバタ!

いつものように茜が駆け寄る。
茜は俺を見つけると直ぐさま懐に飛び込み抱きついてきた。


 「ご主人様、お帰りなさい」


 「おう? なんだかいつもより大胆だな」

いつもなら目の前で尻尾を振っている位だが、今日は抱きつくなんて誕生日だからサービスなのだろうか?
茜を連れて、リビングに向かうと、俺を迎えたのはクラッカーだった。

パン! パンパン!

美柑
 「主殿、誕生日おめでとう御座います!」

伊吹
 「お〜めでと〜!」


 「24歳、私より一つ上になってしまったな!」

クラッカーを鳴らして迎えてくれたのはいつものメンバーだ。
リビングを見渡すと、お誕生日会と言うには随分気合の入った内装が施されていた。
それは、それだけ本人たちが俺を祝おうとしている証拠だろう。

保美香
 「お帰りなさいませ、だんな様。今日は腕を振るってディナーをご用意させて頂きました」

ダイニングキッチンにはいつもより数段豪華な夕飯が支度されていた。
どうやら言葉通り保美香の本気も感じ取れるな。


 「とりあえず、着替えたら晩餐にしようか」



***



今日の晩餐はとても豪勢な物だった。
普段どちらかというと倹約家の保美香も、自慢するほど贅沢に物を選んだみたいだな。
晩餐も終えると、保美香は全ての皿を除けて、ホールケーキを出してきた。

一同
 「おめでとーう ずーっとずーっと元気にーガーンバってーねー」


 「24歳か・・・・ほんと、元気だねー、俺は……つかMF10歳以上誕生日ネタかよ」

探検利用すると余裕で○ィノが8歳まで生きた事思い出すわ。
つか、それご主人様の祝い方としてどうなのか。


 「ご主人様、これ……プレゼント」

お祝いの歌が終わると、茜が透明な袋に入ったなにかをプレゼントしてくれた。
それはチョコレートのようだ。


 「ありがとう、茜」


 「お酒チョコです。それぞれ赤ワインと白ワインを使用しています」

ほぅ、手の込んだプレゼントだな。
チョコは市販のそれとは違うみたいで、チョコ自体生チョコなのかな?

華凛
 「ふふ、私たちは皆で協議した結果、プレゼントは操ということにした」


 「だ、誰か一人ご指名いただければ、今夜は……」

伊吹
 「勿論全員一緒でも良いけどね〜」

美柑
 「……主殿が選ばれるのなら」


 「誰も攻略したくない、全員そっとしておこう」

保美香
 「せつなさ炸裂!」

等と、賑やかに誕生日は進む。
流石にケーキにはロウソクは立っていなかったが、綺麗に切り分けて皆で食べた。
イチゴのショートケーキ、甘い物はそれ程好きじゃないんだが、それも配慮してくれたらしい。


 「しかし、皆本当にありがとう」


 「ご主人様?」

俺は俺の腰に座る茜の頭を優しく撫でると、周囲を見渡してもう一度言う。


 「俺がこの半年、いや異世界も含めると一年かな……ここまで頑張れたのは間違いなく皆のお陰だ、ありがとう」

保美香
 「それはわたくしもですわ、だんな様」

華凛
 「寧ろダーリンがいなければ私はどうなっていたか分からないよ」

伊吹
 「感謝はお互い様だよ〜、ここにいる皆茂君が必要だし〜、茂君も必要って事でしょ〜?」

俺はこの皆を本当に家族だと思っている。
家族で助け合い、困難も共にした……。
これを俺は誇りに思う。

ダダダダッ!

保美香
 「? 外が騒がしいですわね」

突然だった、玄関側から足音がいくつも響いた。


 「ご主人様……」


 「茜?」

俺は俺の腕の裾を握る茜を見ると、その顔は青く震えていた。
それはまるで出会った頃のような反応で、俺は茜の腕を掴む。
その直後……!

ドガァァン!


 「なっ!?」

それは、なんの冗談だろうか。
そんな事が起きるなんて、誰が想像できるんだ。
大きな爆発音と共にドアが内側に吹き飛び、煙が一気にリビングまで雪崩れ込み、視界が奪われる。

美柑
 「一体なにが!?」


 「くっ!? 茂さん!」

ドカドカドカ!

大きな足音が煙の中を進む。
俺は咳き込みながら、なんとか部屋の奥へと進んだ。
やがて、煙も落ち着くと、俺はそれが何を現しているか一瞬分からなかった。

ジャキ!

そこにいたのは全身を真っ黒なコンバットスーツに身を包み、顔も特殊なゴーグルとガスマスクで統一した異常な集団だった。
素早くリビングに展開した謎の集団は一斉に所謂アサルトライフルとかいう物を向けてくる。

保美香
 「く! このような狼藉! 命は惜しくないようですわね!」

保美香が吼えた、同様に華凛や美柑も戦意を高める。
だが、予想もしない所からその気概は奪われる。


 「皆駄目っ!」


 「あ、茜……?」


 「だめ……抵抗しちゃだめ、抵抗したらご主人様が死ぬ……」

ぱちぱちぱち!

玄関の方からだった。
吹き飛んだ玄関を悠々越えて、拍手を持って同じような格好の女性が入ってきた。


 『賢明ナ判断、結構結構!』

伊吹
 「ボイスチェンジャー?」

その声は機械的に作られた声だった。
女性は顔を黒いライダーヘルメットのような物で覆っており、それが女性本人の声か、それとも別の人物の声をスピーカーから出しているのか分からない。
ただ、相手は本気だという事は分かった。
向けられるアサルトライフルの銃口、冗談抜きに爆発物で吹き飛ばされた玄関扉、それらは近隣住民が気付かなければおかしい物だ。
だが、異変を嗅ぎつける者は誰も現れない。
単に恐ろしくて現れないにしても、警察に連絡だってしても良いはずだ。

にも関わらずこの大胆な襲撃、余程の用意と自信があったのだろう。


 「なぜ……? どうして……? 失敗したの? また間違えた?」


 「茜……?」

なんだかさっきから茜の様子がおかしい。
まるでこの事態を予見していたかのような表情、その上で何もかも終わりだというかのような絶望した顔をして頭を抱えた。
一方、他の皆はそれぞれ銃口に対して動けずにいる。

保美香
 「銃弾ごときでわたくしは止められませんわよ」

華凛
 「同感だ、一撃で組伏してやる」

伊吹
 「だめ……誰かが動いたら茂君が守れない〜」

伊吹は後ろを見ると、紅いレーザーがベランダから延びている事を示す。
少なくともそのレーザーポインタは3点俺の頭部を狙っている。
前方に五人、後ろに狙撃手三人? ふざけた戦力じゃないか。


 「……一体なんのつもりだ? まさか誕生日会のサプライズゲストって訳じゃないよな?」


 『茂君デ良カッタカナ? 我々ノ目的ハ君ダヨ』


 「俺? おいおい……俺はしがないサラリーマンだぞ?」


 『今年8月28日カラ9月3日マデノ6日間、君ハ何処二居タノカナ?』


 「……っ!?」

こいつ、なんでその日のことを知っているんだ!?
その空白の6日間、表向きは休暇を取って旅行に行っていた事になっている。
だが、現実にはゲートに飲み込まれ、異世界の戦争に巻き込まれた。
そこから帰ってきたのが9月3日……!


 『クク……ソノ反応、間違イナイヨウダ……げーとノ鍵!』


 (く……最悪だ!)

俺は御影さんに釘を刺されていた事を思い出す。
ゲートの研究は世界中で行われているという。
その全ての研究機関が、正しく人類普遍のために使おうという者ばかりではない。
だからこそ、ゲートから出てきた俺は最も貴重なモルモットだと教えられた。
だが、俺だって自分の事を話した事なんてない。
知っているのはここにいる6人と御影さんだけの筈だ。
無論茜たちや御影さんが誰かに漏らしたなんて考えられない。


 『悪イコトハ言ワナイ、協力シテ頂ケレバ、君タチノ命ハ保証シヨウ』


 「保証だ? この銃口を見て信用しろってのか?」


 『……一応君ニハ敬意ヲ払ッテイルツモリダヨ?』

ジャキ!

中央の女性がハンドガンを俺に向けた。
それは俺の生死不問を現しているのだろう。


 「お願いご主人様……従って」


 「茜、お前変だぞ?」

茜はガタガタと震えながら言った。
その目に涙を貯めて、その感情はない交ぜで分からない。


 「分からないの……どうすればご主人様を救えるか、何度も試したのに、何度やっても駄目だった……!」

保美香
 「茜……何を言っているの?」


 「失敗した、失敗したの……また失敗したの……!」


 「……く、分かった」

俺はその場で両手を上げる。


 『アリガトウ! デハ君一人デ此方ヘ!』

俺はただ従うしかなかった。
茜の不思議な反応、そして四面楚歌の状態。
冗談抜きに、選択肢を間違えたら死ぬんだろうな。


 『拘束シロ』

パシ!


 「ぐっ!?」

中央の女がハンドガンのトリガーを引いた。
それは見かけこそ物騒だが、実際はモデルガンだったらしく、発射されたのは弾丸じゃない。
麻酔銃、俺は首元に麻酔を打ち込まれ、急速に意識を失った―――。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第14話 11月21日 完

第15話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/11(土) 11:21 )