突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第13話 とある平凡な1日

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第13話 とある平凡な1日



 「じゃ、行ってきます」

実にいつも通り俺は今日も家族に行ってきますをして、家を出る。
時は11月、すっかり日本も寒くなりドアを開けると寒気が流れ込む。
俺は防寒具を羽織ると、マンションを出た。

ルザミーネ
 「あら、はぁい♪ 常葉さん」

マンションの入口には、下の階に住んでいるルザミーネさんと遭遇する。
ルザミーネさんは、いつものようにセレブっぽい格好しており、まるでお忍びで出かけるようだ。
俺はルザミーネさんに近づくと軽く挨拶する。


 「どうも、ルザミーネさん、おはようございます」

ルザミーネ
 「今日も仕事? 毎日ご苦労ね」

俺はその言葉に思わず苦笑する。
ルザミーネさんが毎日をどういう風に過ごしているか知らないがこれは俺の平常運転だからな。


 「それが仕事ですから」

ルザミーネ
 「正にワーカーホリックね! 流石過労死の国ね」

流石に俺は沈黙する。
過労死はそのまま英単語に載っている程、日本特有のものだ。
俺自身、オーバーワークに至ってはいないと思うが、毎年過労死は後をたたないからな。
改めてルザミーネさんのような外人に突っ込まれると痛いわな。

ルザミーネ
 「ねぇ、常葉さんは今の仕事を辞めて、自由に生きたいって思ったりはしないのかしら?」


 「……自由に生きたい、そういう風に思わない事もないですが、俺は家族がいますからね」

俺にとって仕事は嫌いじゃないし、これは家族を守るための俺の戦いだと言える。
それになんだかんだ言って毎日、弁当を作って貰って、茜がお出迎えしてくれれば、やる気だって出るさ。
俺には、ただ家庭を守るって事しか出来ない。


 「これから仕事なんで、失礼しますね」

ルザミーネ
 「ええ、ご機嫌よう」

俺はルザミーネさんと別れると、少し早足で駅へと向かう。
ルザミーネさんは、普段人付き合いがいい人だが、人種の違いから結構はっきり物を言ってくる人だ。
決して苦手ではないが、ルザミーネさんって独身らしいし、あまり仲良くしても下手な噂が立ちそうだ。
特にあのマンションは部屋数も多く、世帯向けのマンションだから井戸端会議で格好のネタになりやすい。
一体なんでルザミーネさんみたいな人が、こんな所に住んでいるのか謎だが、何か理由があるのかも知れない。

さて、ルザミーネさんの事より仕事だ。
このままだといつもの時間の電車には間に合わないかもしれないから、少し急ぐ。
街の中心部に近づいていくと、徐々に人だかりが増え、学生やスーツ姿のサラリーマンも増えていった。

女性
 「そこの貴方」


 「はい?」

駅のホームへと向かう途中、突然知らない女性に声を掛けられた。
女性は長身で多分ルザミーネさんと同じくらい、170位か?
雰囲気はとてもルザミーネさんに似た金髪の女性だ。
もしかしてルザミーネさんの家族だったり、と思ってしまうが流石にないか。

女性
 「この辺りに病院がある筈なんだけど、何処かしら?」


 「それでしたら……」

俺は病院のある場所をなるべく分かりやすいように説明した。
女性はうんうんと頷き、要領を得るとニッコリ笑った。

女性
 「ありがとう、分かったわ」


 「いえ、お大事に」

俺はそう言うと、急いで駅のホームへと向かった。
それにしても金髪の白人女性と連続で会うなんて、随分珍しい日だな。
この分だと電車、或いは会社でも何かあるかもしれないな。
まぁ流石にまた金髪女性なんて事はないだろうが、妙な事が起きる時は起きるもんだ。



***




 「おはようございまーす!」

大城
 「おっ、おはようさん!」

俺は仕事場に着くと、挨拶をしていく。
今はまだ仕事時間前だから、皆のんびりしているな。


 「夏川もおはよう」

夏川
 「ああ、おはよう」

俺は自分のデスクに荷物を降ろすと、パソコンにかじりつく夏川の画面を覗き込む。
夏川はこの時間、大体PKM関係の物を見ているはず。
パソコンの画面には、何やら記事が載っていてそれを読んでいるみたいだ。

大城
 「夏川、何見ているんだ?」

夏川
 「んー、PKMのDV問題、前保護責任者の逮捕報道あったよね」


 (……ハニーさんか)

ハニーさんの事件は初めてマスコミが取り上げた問題となり、同時にその責任に対する追及が行われた。
残念ながら報道ではハニーさんのその後は全く扱われず、あくまでも保護責任者の逮捕に集中した。
あれ以来、問題提起が行われ、保護責任者の責任は重く見られるようになった。

夏川
 「虐待が原因かな、海外の報道なんだけどアメリカでPKMが殺されたみたい……」

大城
 「殺されたって……」

夏川
 「PKMの扱いは国ごとにそれぞれだからね、日本は足は遅いけど対応は良い方だよ、中国なんて富裕層のオモチャ扱い、アメリカは自由の国だからね、それだけに命の価値も考えさせられるよ」

情報通の夏川が教えてくれた情報は、俺たちには色々衝撃的な物だった。
度々夏川はPKMの事を教えてくれるが、PKMは世界中に出現している。
だが、日本は突出して出現率が高く、日本から離れるほど出現率は下がる。
件のアメリカでは大体で200人程が出現していると思われる。
全世界では既に1000人は確実に越えていると思われ、その扱いは様々だ。
人類80億に対してPKMの数は全体の0.00000025%に過ぎない。
国内でもその人類とPKMの比率は0.000005%。
まだまだ人類にとってPKMとはそれほど身近でもなく、人類の関心は薄いのだな。

部長
 「皆! 始業前に紹介する事がある!」

始業10分前、部長が職場に現れると、全員の注目が集まる。
部長の隣には知らない女性が立っていた。

部長
 「この時期にって言うのも珍しいが、新しく職場を同じくする人だぞ」

女性
 「上戸紅理朱(うえとくりす)です、この忙しい時期に派遣されてきたのですが、皆さんよろしくお願いします」

部長
 「仕事は、そうだな……紅蓮に任せるか」

紅蓮
 「俺も派遣社員なんやけどな……まぁええわ」

大城
 「この時期にか、来月にはもう年末なのにな」


 「まぁ、派遣なんてそういうもんだろう」

俺たちは一般社員だが、基本給が安く済む派遣業務は何処にでもある。
まぁ俺たちも大して興味を示さず、自分のパソコンに向き合う。

大城
 「それにしても結構若いな」


 「そういう所に興味持つんだな」

俺の隣に座る大城はチラチラ新しい子に目線を向ける。
俺と同期だが、彼女もいないし、結婚の噂もない大城だが興味はあるらしい。

大城
 「まぁお前は茜ちゃんたちに囲まれているから気にならないんだろうが」


 「それとこれは別問題、気になるんなら昼にでも誘ったら?」

大城は結構デリケートな奴だ。
付き合いが少なく、割と消極的。
その癖、一端の欲求は持っているからこんな風にいつも羨ましそうに見ているだけ。

大城
 「むー、止めとく」


 「まぁなんだ、今日は一杯やるか?」

大城
 「そうだな……」

結局大城はこうやって何かを諦めて一緒に酒を飲む仲間だ。
俺たちには、結局代わり映えのない日常が一番なんだろうな。



***




 「さーて、昼ご飯〜」

ある程度仕事も終わり、時刻が12時を迎えると各自昼休憩に移る。
ウチは社員食堂みたいなのはないから、食事の手段は俺のように弁当を持ってきたり、外に食べに行くかとなる。
俺は保美香謹製のお弁当を持つと、休憩所に向かった。
休憩所では、長机が幾つも並んでおり、それぞれ思い思いに利用している。
俺は部屋の奥へと進むと、人気の少ない場所でお昼御飯食べ始める。
大城と夏川は弁当派ではないから、今頃外で食べているか、コンビニで買ってきてやってくるだろう。


 (さてさて、今日は何かな〜)

俺は弁当箱を包む風呂敷を外すと、安っぽい弁当箱を開く。
今日は……西京焼きですか、お魚はサワラかな?
だし巻き卵やほうれん草のお浸しなど、全体的に和風。
保美香はほぼ毎日全く違う料理を入れてくれるから、密かな楽しみだ。
日々の仕事のモチベーションになっているのは間違いないな。

紅理朱
 「あのー、ここで食べても良いでしょうか?」


 「はえ?」

俺は弁当に箸を突き刺していると、突然目の前の席に、今朝方見かけた女性がいた。
上戸さん……だっけか。
上戸さんは典型的な日本人のようで、年齢は少し下位かな?
目が悪いのか眼鏡を掛けており、温和しそうな顔だなと思った。


 「休憩所は、好きに使って大丈夫だよ」

俺はとりあえず仕事を始めて初日の上戸さんになるべく優しく教える。
しかし上戸さんは若干聞いたことが異なったようだ。

紅理朱
 「いえ、この席使っても大丈夫ですか? もし一人が良いなら、他の席に移りますから」


 「ああ、気にしなくても良いよ。俺は大体ここに座っているだけだから……それに」

大城
 「常葉ー! カップ麺だからなんか分けて!」

暫くすると、大城がコンビニ袋を携えてやってきた。
予想通り大城か夏川辺りが来ると思ったが、大城はどかっと俺の隣に座る。

大城
 「おっ、今日は和風なんだ……西京焼きくれ!」


 「ふざけんな、メインディッシュだぞ」

紅理朱
 「よく見ると、とっても良く出来ていますね、ご自身で? それともご結婚を?」

大城
 「あれ、上戸さん?」

紅理朱
 「あ、初めまして上戸紅理朱と言います」

大城
 「あ、俺は大城道理(おおきどうり)」


 「常葉茂」

改めて向こうは俺たちの事を知らないだろう。
俺は簡潔に自己紹介をする。
大城は何気に目を付けていた女性が目の前にいることで、少しテンションを上げているようだ。

大城
 「こいつの弁当は、PKMの保美香ちゃんが作っているんだよ」

紅理朱
 「え? ホストの方なんですか?」

日本の人口が約1億2千万、そのうち約100人位が保護責任者として認められている。
120万人に1人が保護責任者だと考えると、人口100万人都市に1人いるかって位な事が分かる。
大抵知らない人にとっては保護責任者はそこらのアイドルより数が少なく珍しい存在だと言えるだろう。
上戸さんも目撃するのは初めてなのだろう、その驚きは興味というより、純粋な驚愕のようだ。

大城
 「現実で保護責任者やPKMって見たことないもんな、あ……カップ麺が延びちまう」

大城は既に5分以上経ったと思うカップ麺を急いで食べ始める。
カップ麺におにぎりと、生活習慣病が危惧されるな。

紅理朱
 「常葉さんって、PKMが怖くないんですね」


 「……どちらかというと人の方が怖いよ、PKMは純粋で幼いだけだ」

大抵初対面で聞かれる事にPKMが怖くないのかと聞かれるが、はっきり言って俺はその質問が嫌いだ。
どうしてPKMが怖いと感じるのか、それを見ようともしない人達の偏見は随分現実と異なると言える。
PKMは決して人に牙を剥くような存在ではない。
結果としてその事実を歪曲させるのは、やはり人の業だろう。
異なる文明を持つ知的生命体は言いようのない恐怖があるのだろうとは分かるが、触れれば同じなんだと分かる筈だ。

大城
 「なーに、良い子たちだよ、たまーに怖いけどな!」

紅理朱
 「そう、なんですか」


 「……」

俺は弁当を食べ終えると、お茶を一杯飲む。
今日も弁当は美味しかった。
これを作ってくれる保美香は毎日3食大変だろうに、文句も言わず作ってくれる。
寧ろ保美香の場合は喜んでやっているが、ここに俺は愛情がなければ不可能だと思う。
俺に出来ることは、毎日残さず食べて、感謝を述べるだけ。
それでも彼女は不満も漏らさず明日も頑張るのだろう。



***



大城
 「いや〜、常葉と飲むのって久し振りだよなぁ」


 「飲むつっても、長くは付き合わねぇぞ」

仕事終わり、二人でよく行く居酒屋に入ると、俺たちはビールを頼む。
大城は今もライフスタイルに変化がないようで、一気にグビッとビールを呷った。

大城
 「プハ〜! 独り身の楽しみって言ったらこれだよなぁ〜!」


 「まぁウチは一日一杯までだからなぁ〜……」

昔は泥酔する位よく二人で飲んだ物だ、今じゃこっちは酔うほど飲むことは禁止されている。
時々大城の飲みっぷりを羨ましく思うが、まぁ変わっていくのも人間だからな。

大城
 「独り身は自由だからなぁ〜、快適でいい。だけどたまに寂しくも思うよなぁ」


 「大城って、アパートで一人暮らしだったな」

大城はコクリと頷く。
俺と同様家族の援助も貰わず、ただ黙々とその日の糧を得るために働くだけ。
なんのために生きているのか、そう問われれば働くためとさえ、言えそうな日本の社会は俺も一度は嫌になった。
でも茜や保美香、皆に出会った事で、俺は大城とは違い別の生きる目的が出来た。


 「大城って貯金はしている?」

大城
 「100万位かな〜……」


 「100万だと、結婚後を考えると苦しいな」

結婚という言葉を聞いて、大城はジョッキの中身を一気に飲み干す。
やや不機嫌さを顕わにしながら、顔を紅くして愚痴をこぼし出す。

大城
 「結婚とか……することのメリットが分からん。店員さーん、ビール追加ー!」

俺は少しだけビールを飲み、結婚について考える。
確かに俺自身も取り立てて結婚を肯定はしない。
でも誰かと一緒に住む事は理解出来たし、ようは大城に足りないのは愛だよな。


 「とりあえずまぁ、最初は恋人を作る事からだろ?」

大城
 「それは常葉のようにモテる奴だから言える事じゃん」


 「まぁ聞け、世の中相性って奴があるだろう。同じ趣味を持っている奴とか、そういう相手を見つければ自然と生活環境だって充実するさ」

大城
 「相性なぁ〜……」

大城は唸って考える。
お互いまだ若いとはいえ、学生気分じゃいられない。
そろそろ身の振り方を考えても、早くはないだろう。

そのまま、俺はビールをゆっくり飲み、大城はビールを中ジョッキで3杯も飲んで、お開きなった。
大城にとって、案外日々の日常を段々ストレスに感じているのかもな。
かく言う俺も昔はストレス貯めまくったし、そもそもストレス社会って奴か。



***




 「ただいま〜」

ドタドタドタ!

大城と別れた後、少し遅くなったが帰宅する。
真っ先に出迎えたのは茜だった。


 「お帰りなさい、ご主人様」

茜は俺の鞄を受け取ると、尻尾をぶんぶん振り回している。
いつも通り頭を撫でてやると、目を細めて喜ぶ。

保美香
 「お帰りなさいませ、だんな様」


 「すまんな、後から連絡入れて」

家には、帰りが遅くなることを連絡しておいた。
時刻は8時に回っており、流石に皆食べたかな。

保美香
 「飲んできたと聞いておりますので、軽く用意させて頂いておりますので、食卓へ」


 「うん、着替えたら行くわ」

俺はスーツを脱ぎながら自室に向かう。
自分の部屋に向かうには一度リビングを通らないと行けないが、早速絡んで来たのは華凛だった。

華凛
 「ダーリンお帰り♪ お風呂にする? 御飯にする? それとも私?」


 「また古典的ネタを振ってきたな」

美柑
 「お風呂、今は伊吹さんが入ってますから、直ぐには入れませんけど」

家族の様子は既に晩飯後のようだな。
テレビでも見ながら、寛いでいたようだ。
俺は纏わり付く華凛を引っぺがすと自室に入った。


 (ふぅ……、なんだかんだ、家族が多いと大変だよな)

家族もそれぞれ性格も違うものだから、家に帰ったらそれはそれで大変だ。
特に今日は遅くなったから、いつもより暇を持て余している臭いな。
俺はさっさと着替えるとリビングに戻る。

キッチンでは既に保美香が食膳の用意進めている。
リビングでは皆テレビを見ているが、見ているのはドラマのようだな。
やいのやいのと、何人かがドラマについて論じているみたいだが、俺はキッチンにさっさと向かう。

保美香
 「ビールを飲んだ後との事なので、肝臓の事を考えて、ご用意致しました」


 「それは重畳」

俺は御前に盛られた御飯頂く。
飲んできたと言っても、何も食べていないから助かる。

華凛
 「ダーリン」


 「ん?」

突然、華凛が目の前の席に座った。
そして机にドン! と置かれた一升瓶。
俺は一升瓶と華凛を交互に見ると、華凛ニヤリと笑った。

華凛
 「飲みたいなら、私が何時までも付き合うというのに」

つまり、今から付き合えと?

保美香
 「いけません! 華凛も飲酒は程々にしなさい!」

華凛
 「堅いこと言うな、興を削ぐなど不粋」


 「焼酎か」

華凛が盛ってきたのは焼酎のようだ。
俺はビール派だが、華凛は日本酒を好む。
華凛は結構いけるクチだからな、たまに付き合って貰う事もある。
ただ、保美香は自他に厳しい所があるからなぁ。

保美香
 「もう、華凛も若い内からそんな飲酒していたら、いつか痛い目見ますわよ!」

華凛
 「ンフフ、酒の席を楽しめないと人生は楽しめんよ」


 「遺憾ながら同意する」

保美香
 「もう! だんな様まで!」

俺はそうは言いつつも、ちゃんと飲酒はしない。
華凛はコップに酒を注いでチビチビやった。


 「お酒を飲めると楽しいの?」

茜は酒は嗜まないので、残念ながら酒の味は分からない。
とはいえ、流石に俺も茜に酒の付き合いを要求する気は毛頭ない。

華凛
 「うむ、酒は人生の縮図だと言うな」

保美香
 「そんな大袈裟な、茜絶対に飲んではいけませんよ?」


 「……臭いが苦手だけど、ご主人様が喜ぶなら……」


 「そうだな、茜が大きくなったら晩酌に付き合って貰おうか」

とはいえ、その頃になったら俺も初老のおっさんだよな。


 「ウチは酒飲みが少ないからなぁ〜」

美柑は下戸、伊吹直ぐ酔うし、保美香は一切飲まない。
そして凪は直ぐ酔う上に性格変わるからなぁ。
結果的に普通に付き合ってくれるのが華凛しかいない。
これでは少数派に回らざるを得ないわな。

保美香
 「わたくしはなるべく健康でいて貰いたいと……」


 「分かってるよ」

俺派食卓に並んだ品を全て食べ終えると、熱いお茶を頂く。


 「ふぅ、ご馳走様」

保美香
 「お粗末様ですわ」

俺が食べ終えると、それを待っていたかのように保美香が皿を下げていく。
俺はお茶を飲みながら、文字通り一息つく。
華凛はコップの中身を飲みきると、席を立った。

華凛
 「さて、作業を進めないと」


 「冬コミの衣装か、結局なんのコスプレするんだ?」

華凛
 「秘密だ、レイヤーデビューするまではな」

華凛は妖艶に微笑むと、部屋に戻る。
毎日アルバイトに精を出しながら、帰ってきたら衣装をつくるのに精を出している。
華凛ほどの美人なら、確実に話題を集めるだろうな。
それが少し複雑だが、なるべく皆のやりたいことを俺は支援してやりたい。


 「私も何か始めた方が良いかな?」

保美香
 「あら、茜にも遂にやりたい事が出来ましたの?」


 「妊活始めたい」


 「ブッ!?」

思わずお茶を噴き出してしまう。
同様に皿を洗っていた保美香まで皿を落として固まった。

美柑
 「に、妊活ってなんですか!?」


 「妊活って……妊婦活動だろう? それって……それって!?」

途端にギャアギャア騒ぎ出す皆。
妊活って、意味分かって言ってるのかと俺まで動揺した。


 「……お腹張っちゃったかも」

保美香
 「だ、誰の子ですかー!?」


 「俺じゃないよな!? 少なくともヤッた記憶ないぞ!?」


 (冗談なのに……大事になっちゃった……)



***



伊吹
 「ふぃぃ〜、ついつい長湯しちゃった〜」

寒くなったこの時期、尚更お風呂が恋しくなるとついつい長湯しちゃう。
とはいえ、ヌメルゴン娘でも風邪は引くので、湯冷めする前に浴槽を出た。
その後、ドライヤーで長い髪を乾かして、お水でも貰おうとリビングに向かうと、何か喧噪が聞こえた。

美柑
 「妊娠何カ月ですか!?」


 「はわわ……茜が、茜がぁ〜」

保美香
 「白状なさい! 父親は誰ですか!?」

伊吹
 「???」

一体なんの事だろう。
なぜか茜ちゃんが取り囲まれている。
茜ちゃん困っているけど、皆の雰囲気は普通じゃない。
これ、多分だけど、茜ちゃんが地雷踏んだかな?

伊吹
 「ね〜、落ち着いて〜! 事実検証しよう〜!」

アタシはとりあえず、茜ちゃんを守るように輪に入った。


 「助かった……」

伊吹
 「何したの〜?」


 「冗談が冗談じゃなくなった……」

? 兎に角茜ちゃんがやっちゃったらしい。
周囲の驚きようを見たら、何しでかしたのかさっぱり分からないけど、幾つか会話の内容を統合すると、茜が妊娠した?

伊吹
 「ん〜、まだお腹も目立ってないし、病院で検査して貰わないと分からないんじゃない?」


 「くぅ〜……頭痛くなってきた」


 (どうしよう……嘘なのに)

その後、誤解が解けるまで大喧噪は続いた。
嘘が発覚したら、皆疲れた顔していたけど、一番疲れたのは茜ちゃんみたいね。
それにしても妊活かぁ……いつかは始めるのかなぁ。



***




 「久し振りね、ルザミィ」

ルザミーネ
 「来日していたのね……」

夜……私にある来客があった。
その相手は私の世間で通っている名前『ルザミーネ エーテル』ではなく、ルザミィと呼んだ。
それは私の身分と正体を知っているという事を指す。


 「中々良いところに住んでいるのね」

ルザミィ
 「遊びに来た……訳じゃないでしょ。リーリエ」

私は幾つか彼女の偽名の一つを使うと微笑を浮かべた。
リーリエはシルエットだけなら私に似ているが中身は私より上。。
私と性格は大分違うけど、彼女は私以上にスペシャリストのエージェントだ。
今、この国にスパイなんて溢れかえっている。
PKM出現依然、冷戦時期からすでに日本は西側と東側のエージェントの緩衝地帯と化していたが、今は異常だ。
200近くの国と組織が、今この国にスパイを送り込んでいる。
その目的は正にPKMだと言えるが、それは困難な山だ。
日本のセキュリティは大した物よ、PKMを確保するだけでも一苦労、その上でPKMを外に移すのは不可能だと言える。

リーリエ
 「懐かしい名前……まぁいいわ、どうせ次のミッションが終われば名前は変わるんだし」

この女は100の名前は持つ。
現在はフランスで活動していたと思っていたけれど、いつの間にか来日していたみたい。
所属組織はイマイチ不明、というより私以上に多くの組織を渡っていると言える。

リーリエ
 「単刀直入に言うわ、日本を去りなさい」

ルザミーネ
 「日本を? なによ……まるで戦争でも始まるみたいな言い方ね」

リーリエ
 「少なくとも、ある作戦の後、この国にいるスパイは全て処分されるわよ」

私は絶句した。
この女は『処分』と言ったのだ、つまり始末するということ。
俄には信じられないけど、リーリエは虚言で飾る女じゃない。

ルザミーネ
 「何時までに?」

リーリエ
 「11月21日……」

私はカレンダーを見る。
もう来週の話じゃない……!

リーリエ
 「貴方には、11月21日に何が起きるか、分かるかしら?」

ルザミーネ
 (日米露……その3つの組織の作戦ではない)

私は可能な限り彼女の言葉から情報を集める。
少なくとも、リーリエはこの国にいる全てのエージェントを消すと言っているのだ。
それだけの事をするからには、相当大きな力が動いているはず。
だけど、そんな大きな組織なら私の耳に入ってこない訳がない。
恐らく日本政府にも寝耳に水なんじゃないだろうか。

リーリエ
 「警告はしたわ……それじゃ、私はもう行くわ」

ルザミーネ
 「……貴方程の人物が動くほど、PKMが欲しいの?」

私は席を立って背中を見せるリーリエに聞く。
リーリエは足を止めると、少しだけ振り返り。

リーリエ
 「その答えは不正解」

それだけ答えると、彼女は部屋から出ていった。

ルザミーネ
 (PKMじゃないの? まさかゲート? でもゲートを制御する技術はまだ何処にも)

謎は深まる、しかし11月21日……世界は静止するのか……。



***



真莉愛
 「……で、取りこぼしの捕捉は?」

夜も更けて深夜に回る頃、私はアクシデントで飛び起こさせられた。
PKMと言うのは24時間場所も選ばず顕現するものだから、日本中の諜報員を動かしても数が足りない。
そんな訳で特に夜は人手が足りない。
ゲートの出現予測はアバウトだが空間の揺らぎを観測して先回りが出来る。
でも、まだその精度は完全ではないため、時折PKMを取り逃がしてしまう場合がある。
でもPKMが、訳も分からずその辺りを彷徨うだけならそれ程問題にはならない。
今回私が呼ばれたのは、それ以上の問題のためだ。

内調部員
 「恐らく先回りされて連れ去られたかと」

真莉愛
 「連れ去りなら、公安の仕事よ……全く」

スパイはチャンスさえあれば、PKMを狙っている。
特に夜間は人の目が少なく危険だと言える。

真莉愛
 「愛紗、周辺の捜索をお願い」

愛紗
 「イエス、マイマスター」

常に傍の闇に潜む愛紗は、命令を受けると闇の中の潜航した。

内調部員
 「衛星写真ですが、これが顕現時の状況です」

内調部員の一人は数枚の写真を持ってくる。
それは解像度違いの写真で、写真の中央にPKMが写っている。

真莉愛
 「周囲に黒ずくめ……3人か」

内調部員
 「装備だけでは何処の組織か分かりませんね」

真莉愛
 「PKMも眠らされて、袋にでも入れられたら敵わないわね」

こういう事態になると、警察と公安の仕事だ。
私の仕事はPKMの保護だけど、今回は徹夜じゃ済まないか。


 「こういう時って、私らどうすればいい訳?」

真莉愛
 「杏とほむらは自分たちが怪しいと思った者片っ端から、連絡して」

ほむら
 「オーキードーキー!」


 「なら、湾港でも調べてみましょうか!」

杏とほむらは特殊な条件下で高機動を発揮する娘たちだ。
きっと捜索で役に立つ。


 「とりあえず、主要道路には検問所の設置が完了したみたい」

白はノートパソコンを開いて、情報処理を担当してもらう。
すでに陸海空の封鎖は進んでいる。
一先ず、情報待ちね。


 「とりあえず仮眠とって」

真莉愛
 「そうね……後はお願いするわ」

私は内調が使う車の後部座席で眠ることにする。
といっても、何かあれば直ぐ動く。
いつも通りであれば、1〜2時間あれば、割り出せるだろう。



***




 「マスター、起きてマスター!」

真莉愛
 「……っ! 動きあった!?」

後部座席で眠っていると、白が私の身体を揺さぶった。
私は直ぐさま脳を覚醒させると、白はノートパソコンを見せて、説明を始める。


 「PKMを奪取した連中だけど、杏が発見したわ。PKMも無事保護」

白のノートパソコンには幾つものデータが表示されている。
正直目で追うのも大変だけど、その中に湾港内で捕まった三人組のリアルタイム動画が流れている。

真莉愛
 「GPS使える?」


 「問題ない、カーナビで案内できる」

私は後部座席から直ぐハンドルのある前部に移る。
私は直ぐさまエンジンを掛けると、車を走らせた。
カーナビに直ぐにガイドが表示され、私は現場に急行する。

真莉愛
 「それにしても、今何時?」


 「深夜3時、すでに他の地域のメンバーも集まっていると思う」

白は今もノートパソコンを操作して、情報を集めている。
私はバックミラーを少しだけ確認しながら、白に聞く。

真莉愛
 「輸送手段は……潜水艦よね。海自から何か連絡は?」


 「ないです、掃海艇も出ているはずだけど……」

とすると、回収部隊はすでに撤収したかしら。
だけど、これが誘導の可能性はないかしら?
白も忙しそうに他の情報を集めているし、見解は一致している。

真莉愛
 「事件が必ずしも一つとは限らないわね……」


 「……可能性は低いですが、警戒すべきでしょうね」

兎に角先ずは現場に急行する事か。
私は信号を曲がり、湾港エリアに入ると、集中する光を見た。
私はその場に急行すると、車を横滑りさせながら止める。

真莉愛
 「PKMは!?」

現場にはすでに何台もの車が止まっている。
例の三人は糸でグルグル巻きにされており、杏の仕業だと分かる。

愛紗
 「マスター、こっちです」

先に現場についていたらしく、愛紗は私の前に現れると、奥へと先導してくれた。
愛紗が案内した場所では、すでに杏とほむらも一緒にいた。
目の前には毛布を被ったPKMが座っていた。

真莉愛
 「この子?」


 「あの……」

保護された少女は寒さには強くないのか、毛布を深く被り、顔だけ出して私を見る。
どことなくジト目で、まるでそれが自然体であるかのようだ。

真莉愛
 「あ、御免なさい。私は真莉――」


 「あ、そう言うのどうでもいいんで」

真莉愛
 「んな!?」

思わず眉が吊り上がる。
PKMも様々だが、よく見るとこの子怯えた様子もないし、物凄く不貞不貞しい!


 「クルマユみたいよ……」

クルマユ
 「とりあえず包まれる葉っぱが欲しいけど、もう面倒くさいからこれで良いや」

杏も呆れた様子を見せるクルマユは相当生意気な感じがした。
とりあえず何かに包まると落ち着くらしく、そういう生態のPKMなんでしょうね。

真莉愛
 「あー、そうね。私は貴方を保護しにきたの」

クルマユ
 「働きたくないでござる」

真莉愛
 「……連行して」

多かれ少なかれ、PKMの抵抗にあう事はある。
杏とほむらがクルマユの両腕を掴み持ち上げると、かなり小さい事が分かった。
丁度ロズウェル事件の宇宙人の手を掴む二人の男性の図のような感じになり、クルマユがぷらぷらと足を宙に浮かせた。

クルマユ
 「寒い、動きたくない……」

文句ばかりだが、抵抗する様子はない。
結局そのまま運ばれたクルマユは待機していた護送車に放り込まれた。

真莉愛
 「……あの子なら、密輸は簡単だったでしょうね」

愛紗
 「そういう問題ですか?」

深夜という事でテンションは低い。
だが、中々強烈なPKMの出現に私は溜息をついた。
きっと袋にでも詰め込めば、一生自分からは動かなかったでしょうね……。
まぁ一体どういう需要があるか、さっぱり不明だけど……。

内調部員
 「御影さん、とりあえず解決という事でいいでしょうか?」

真莉愛
 「報告書はこっちに回して、尋問の方はそっちに任せるわ」

さて、掠おうとしたPKMはともかく尻尾を出した構成員の尋問まだだ。
ま、尋問と言ってもロクな結果は出ないでしょうけど。


 「多分、構成員はただエージェントを介して雇われた傭兵ですよね」

真莉愛
 「そうでしょうね、リスクがありすぎるもの」

それでも、日本は今やスパイ天国と化している。
公安も活発に動いているけど、いかんせんPKMを狙う組織は多い。
だけどいくら出現率が高いからって、島国である日本から運ぶのは簡単じゃない。
日本政府が恐れるのは、PKMを巡って日本を戦場にすることだ。
馬鹿げているが、PKMはその暴挙を許してでも、世界のパワーバランスを一変させるかも知れない力がある。
もし、伝説級のPKMが出現し、それが世界を破壊できるだけの力があったらどうなるか。
例え歴史に最悪の暴虐を犯した人物と記録されても、それを欲する者は跡を絶たないだろう。
そして伝説級PKMが世界の秩序を作り替えてしまえば、この世界は地獄になるだろう。

真莉愛
 (特にPKMは契約で絶対服従になるからね……)

幸か不幸か、PKMの名前の契約は殆ど知られていない。
組織にもよるだろうけど、PKMと契約をした様子がない所、やはり知らないと見るべきか。
勿論オーナーとなる人物がマスターにならなければならないと言うならば、気安くその場で名付けられないというのもあるが。

真莉愛
 「皆お疲れ様、とりあえず休んで」

愛紗
 「了解」


 「ん、もう少し情報集めたら」

日夜暗闘は繰り広げられる。
時に銃撃戦になることさえあるが、今日まで致命的な事態には至っていない。
でも、今月だけでPKMの顕現はすでに50件……先月が80件だったから年末までに1000を越えるのは確実か。
そして問題なのは、その顕現回数の加速度的増加に私たちが対応しきれなくなってきている。
対応人員も増員しているけど、それは練度に問題もありケアレスミスを誘発するリスクもある。
そしてこの止められないPKMの爆発的増加……それは何を意味するのか。
私たちがしていることは所詮、現場レベルの急凌ぎでしかないのかも知れない……。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第13話 とある平凡な1日 完

第14話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/10(金) 19:52 )