突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第8話 ハロウィンと平和な日々

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第8話 ハロウィンと平和な日々


セローラ
 「あーかーねーちゃーん!」

セローラが絵梨花の所にやってきてからというもの、彼女は今日もウチに(無断で)遊びにくる。


 「……お仕事大丈夫なの?」

とりあえず何度も壁抜けして奇襲をかけるセローラにはウンザリだが、止めようもないので甘んじて受ける。
セローラは至福の顔で私の胸を背中側から弄った。

セローラ
 「いや〜、奥様が身重って言っても、後は旦那様がいるだけで、平日は暇なんですよぉ〜」

保美香
 「まぁ、ちゃんと掃除していますの? やることなんて探せば幾らでもありますわよ?」

そう言って台所から現れたのは保美香だ、保美香は大の綺麗好きで掃除は特に念入りだ。
今は台所の掃除中で、それも終わったのか手を拭いてリビングにやってくる。

セローラ
 「自分の出来る範囲でやりくりする、それが長続きの秘訣ですよ〜」

保美香
 「貴方、どうも真面目さが感じられないですわ」

何でも完璧に熟す保美香と、まぁまぁ適当に手を抜いて疲れを見せないセローラ、性質が正反対だけどセローラは不祥事を起こしたことないし、やっぱりメイドのプロだと思う。

保美香
 「大体貴方いつも茜の胸ばかり責めてますけど、何故なのかしら?」

セローラ
 「茜ちゃんのおっぱいはポケモン界の至宝……いくら揉んでもその弾力は衰えず、無力なロリ巨乳程至高の物はない……♪」

もはや悦に入って、精神を何処かに飛ばしてしまったセローラは顔までふやけさせて、私の胸を乱暴に揉む。
巨乳ならなんでも良いのかと言えば、ロリ巨乳を好むセローラも、抵抗されて反撃されないギリギリは見極めているようだ。
まぁ反撃しても懲りないから、面倒くさくなってしないだけだけど。

保美香
 「そう言えば明日にはハロウィンですわね」


 「仮装大賞?」

セローラ
 「デ・テ・テ・テ・テ……チーン! 6点!」

保美香
 「……日本のハロウィンもそこまで手は込んでいないでしょう、精々コスプレ位で」

コスプレと言えば、華凛がレイヤーデビューを目指してコスを作っていたっけ。
来月からポケにゃんも通常営業でハロウィンイベントは10月で終わりみたい。
世間では1ヶ月も前からハロウィンが開催されたり、日本人の気の早さはビックリだ。

セローラ
 「で、茜ちゃんはどんなコスを着るの?」


 「とりあえず汚物は消毒されたくなかったら、いい加減胸を揉むの止めなさい」

セローラ
 「ええー、後1時間〜」

保美香
 「あんまり舐めた事言うと、海馬に電極ぶっさしてビリビリしますわよ?」

セローラ
 「え!? それ本気かネタか分からないよ、クリスティーヌ!」

保美香
 「あーもう! 鬱陶しい!」

保美香は強引にセローラを引き剥がした。
セローラ自体はか弱いから、ご主人様でも簡単に引き剥がせるけど、兎に角しつこいのがネックだ。
それでもそんなに悪い子じゃないのが困りもの。

保美香
 「冗談抜きに性的暴行罪で警察に届けた方が良いですわよ?」

セローラ
 「それ洒落にならない! 人生終わっちゃうよ!?」

住んでた世界の価値観の違い、向こうでは許されても、この世界では許されない事もある。
セローラも大分この世界に慣れたみたいだけど、今更性癖も変えられないか。


 「無理矢理レイプされる辛さ、セローラは思い知るべきだと思う」

セローラ
 「あん♪ でも、ご主人様とならそういうプレイも全然オーケー♪」

保美香
 「駄目だコイツ……早くなんとかしないと」

そんな風に今日も平凡に過ぎている。
毎日平穏で事件なんて殆どない、今回はそんな短編回です。



***




 「ハロウィンか」

世間はすでにハロウィンで一色、とはいえ平日だから社会人は何も変わらない。
もはやケルト信仰何それ美味しいの? な日本のハロウィンだが社内まで染まると流石にどうかと思う。

大城
 「キャンディーでも食べてりゃ良いんだから、まぁ少し平時より楽しいイベントって所だな」

隣のデスクで働く大城はデスクの横に設置されたカボチャ風の瓶からキャンディーを取り出し、口に入れる。
ウチの会社は無駄に季節感を出そうとするから、すでにオフィスはハロウィン会場だ。
俺は呆れながらも、まぁモチベ向上には役に立っているのかと思っておく。

夏川
 「パンプジン娘……良いなぁ」


 「おい、夏川何見てんだ?」

俺は正面の奥で働く夏川を見る。
とりあえずウチで真面目に仕事してる奴少なすぎません?
大城も適当なところでサボってるし、俺も隙を見て休むべきか……。

夏川
 「Vチューバーって知ってる?」

大城
 「バーチャルアイドルだよな、AKBよりフォロワー多いって話題だっけ」

夏川
 「それのPKM版、ようつべなら人種なんて関係ないからな、PKMの歌ってみた、踊ってみた見てみろよ、凄いんだぜ!?」

なる程、夏川が見ていたのはPKM関連の動画か。
夏川は多分ウチの会社だと一番PKMに対して拒否感が薄い。
とはいえ、夏川もまだまだ実際にホストになるより、見ている側のようだ。
つーか、PKMの近況は俺より詳しいんだよな。

夏川
 「つか、常葉もさ、PKMのPチューバーのプロデューサーやったら? 俺茜ちゃんとかが歌ってみたとかしたら絶対フォロワーになるわ」


 「そう言うのって好きじゃねぇ」

大城
 「なる程ー、好きな子は束縛したいタイプかぁ」

夏川
 「何? 緊縛プレイ?」


 「……お前たち、平和だよな」

呆れて物も言えん。
考え方は様々だろうが、あんまり茜たちが目立つのもいい気がしない。
普通にPKMに悪意をもつ人間の標的にもなり得るし、それでなくとも偏執的なファンが現れないとも限らない。
世の中こいつら程平和なら何も問題ないんだろうが、この世の中はそんなに平和じゃないと知っている。
PKMは常に曖昧な状況に置かれている、それはPKMの意思を無視して、各国がしのぎを削っている。
俺自身詳しくは知らないが、御影さんは相当に危機感を持っていた。
そして俺自身が更に危険だというんだから笑えない。

大城
 「そういや、茜ちゃんたちってハロウィンするの?」


 「……聞いてないんだよな」

夏川
 「時はPKM世紀元年、何事も参加してみるものだぜ!」


 「……一応お菓子買って帰るべきか」

大城
 「え? ハロウィンって性的悪戯をして貰うイベントだろ?」


 「どこのエロゲーだよ」

夏川
 「全くけしからんですな! 7Pともなるとやはり争奪戦!?」


 「馬鹿言ってないでさっさと仕事終わらせろ!」

俺はそう言って残りの少し仕事を進めていく。
正直争奪戦という意味なら間違ってないんだよなぁ。
華凛とか露骨に狙ってくるし、保美香も自重しないしおまけに茜もそれを望んでいる節がある。

夏川
 「あ〜、この子も良いなぁ」

大城
 「所で夏川ってPKMと結婚したいと思う?」

夏川
 「出来るならしたいかなぁ〜、でもそのためには一生を共にしたい子を見つけないといけないんだよね」


 「……」

一生を共にする……か。
俺は果たして出来るだろうか。
いつか茜たちに愛想を尽かされるんじゃないか。
俺は彼女たちにとって愛すべき対象になっているのか?
もしもっといい人が見つかれば……。

夏川
 「やっぱりホストになる問題ってさ、そのPKMと一生を共にしないといけないって事だと思うんだ」

大城
 「そりゃ、向こうだって急に捨てられたら、ただでさえ不安な異世界なんだから、やり場もないよな」

夏川
 「でも現状ではPKMって、ペットに近いと思ってる人もいるんだよね。確かにお互いを知らないと必ずしも共に暮らす事に息苦しさを感じないとは限らない。どちらもが相手をリスペクトすることが重要なんだ」

大城
 「そのいう点は常葉はすげぇよな」

夏川
 「俺も常葉は尊敬できる。なにせあの6人と暮らしていけるんだから」


 「……別に凄くねぇよ、寧ろ俺が見捨てられないか不安な位だ」

大城
 「捨てられるって、あの子たちお前にベタ惚れじゃん」

……俺はそれ以上は会話には加わらない。
確かに茜たちは皆俺のことを愛してくれていると思う。
だけど、その感情が何時まで続くかなんて分からない。
もしかしたら俺の方が冷めてしまうかもしれないし、一時の感情は信用できない。
結婚が面倒だ……それ自体は何も変わっていない。
今でも結婚をしたいとは思わない。
それは結婚しても俺が愛し続けられるか不安なんだ。


 (俺自身はやっぱり昔のコミュ障な俺とそれほど変わってないのかも)

結局一生信用できる物が得られないと、俺は臆病なままなのかもしれない。
でもこんな事茜たちに聞かれたら、やっぱり怒るかな。



***




 「トリックオアトリート、日本的に言えばお菓子くれなきゃ悪戯するぞ……な訳だが」

10月末、念のためにお菓子は用意した。
仕事終わりに色々買って帰ると、家の玄関でいつものように茜は出迎えてくれた。
ただし、仮装した茜な訳だが。


 「トリックオアトリート、なお、お菓子は精液で代用可」


 「……虫歯に気をつけろよ」

俺はスーパーで買ったハロウィン用のお菓子詰め合わせを茜に渡す。
茜は尻尾を強く振って喜びを表すと、お菓子袋を持って部屋へと戻る。


 「ただいま」

俺は疲れた身体をリビングまで運ぶと、茜以外も仮装している人物を発見する。
まず伊吹、際どい水着のコスプレでコウモリの羽根から悪魔の仮装のようだ。
伊吹は俺を発見すると、嬉しそうに抱きついてきた。

伊吹
 「トリックオアトリート〜♪ サキュバスは〜、性的ご奉仕を要求するの〜♪」


 「サキュバスはウチにはいりません! 飴ちゃんあげるからそれで満足して」

俺は伊吹の口に会社で貰ったキャンディーを突っ込む。
伊吹は口をもぐもぐさせると。

伊吹
 「……まぁ今日はこれで良いか〜」

割とすんなり諦めてくれたな。

保美香
 「全く皆さん、疲れただんな様をあまり困らせては駄目ですよ?」

そう言ってキッチンから現れた保美香は頭から角が生えている。
……一応彼女なりの仮装なんだろうか?


 「突っ込んだ方が良い?」

保美香
 「こ、子供じゃないですから、結構ですわ」

美柑
 「乗り気じゃないから妥協で角付けただけですもんねぇ」

やはり参加する気がないのか美柑もまた、リビングで寛ぐ様は普通だった。


 「ご主人様、お菓子くれたから一杯ご奉仕する」

そう言ってお菓子を自室に置いてきた茜は早速いつもの格好に着替えて現れる。
茜は俺のバッグを持つと、尻尾をパタパタ、やる気を見せた。


 「……とりあえず着替える」

俺はいい加減、部屋に入るとゆっくり息をついた。
社会人にとって祭日でもないハロウィンは辛い。
世の中はハロウィンで盛り上がっているけど、学生の行事だよな。
俺は着換えて、荷物を気怠げにベッドに投げるとリビングに戻る。
キッチンを見ると、保美香が忙しそうに配膳を進めていた。


 「凪と華凛が見当たらないけど」

俺はリビングを見渡すが、二人いないことに気付く。

美柑
 「今日はポケにゃんでパーティーをするらしく、帰りは遅くなるそうですよ」

保美香
 「晩ご飯も頂いていくようですので、気にしなくてもいいかと」


 「ああ、仕事の付き合いか……面倒くさいんだよなぁ」

俺は毎年年末にする忘年会を思い出す。
懇意にする相手もいないのに、上司に酌をしないといけないし、そもそも一人が気楽な俺はパーティーとか好きじゃない。

伊吹
 「ああ〜、茂君が黄昏れている〜」

保美香
 「お可哀想に、だんな様を過酷な現代社会が苛む!」

なんか言われたい放題だが、現実は実際過酷だからなぁ。
まぁ俺ほどの社畜になれば、結局平常運転でいっちまうんだが。


 「ご主人様、肩揉もうか? それとも……」


 「そうだな、とりあえず一緒にご飯食べよう」

俺はそう言うと着席する。
すでに目の前には色とりどりの料理が並んでいる。
カボチャ料理は勿論のこと、今回はロシア料理だろうか、ボルシチがある。

保美香
 「それでは皆さん、御飯ですわよー!」

待ってました、そう言わんばかりに腹を空かした美柑と伊吹もテーブルに着いた。
すかさず自分の席に着席する茜も見ながら、俺はゆっくり着席すると、やや賑やかな晩餐は始まった。



***



住宅街の一角で経営するメイドコスプレ喫茶ポケにゃんは自宅兼用である。
2階がPKMの生活する場所になっており、今回は1階の奥でハロウィンイベント終了後のパーティーを開いていた。


 「あら、華凛ちゃんってもしかしていける口?」

華凛
 「こう見えても、酒には強い」


 (ヒカルさんは分かるとして、華凛も強いのか)

私はパーティーに出席しながら手近にあったフライドチキンを頂きながら、華凛を見る。
ヒカルさんは見た目通り日本酒を飲み、華凛も一気に呷る。

華凛
 「良いものだな、我が国の物と比べても喉越しがいい」


 「ふふ、貴方のいた世界ではお酒造りは盛んなの?」

華凛
 「我が国は、常冬の国で、酒は身体を暖めるのにいい、しかしこれ程透き通った酒は見たことがない」

希望
 「あう〜、お酒臭いですぅ〜……」

お酒に強い者もいる一方で、弱い者もいる。
希望(のぞみ)がその代表格で、匂いだけでテーブルに突っ伏している。


 「団子は大丈夫なのか?」

この家で最年少のニャスパーの団子は無表情で御飯をチビチビ食べているが、私の質問には首を傾げるのみだった。

流花
 「えーと、お水お水」

ドラミドロの流花は慌ててコップに水を注ぐと、それを希望に渡す。
希望はお水を飲んで、アルコールに耐えた。

星火
 「アルコールなんて火力でぶっ飛ばせばなくなるよ!」

華凛
 「風味まで消し飛ばす気か、しかし弱ったな……希望が匂いで駄目なタイプとは」


 「うーん、いつもより度数の高いお酒だからかしら?」

希望も普段はここまで酷くないのか、ヒカルさんも首を傾げた。
まぁPKMも様々だ、私なんて気が付いたら記憶が飛ぶから、基本的に飲酒は控えている。
飲んでいるのもヒカルさんと華凛のみで、団子はオレンジジュースをストローで飲む位で様々だ。


 「もぐもぐ、ママの料理美味しい♪」

ある意味団子以上に我が道を行っているのはミミッキュの照か。
ミミッキュの習性か、ピカチュウの布袋を頭に被り、その素顔は分からない。
だが、非常にのんびり屋で、いつもこんな風に楽しんでいる。
ここで仕事することもう2カ月、流石に皆の事も分かってきた。
ジグザグマの希望は頑張り屋だけど甘えん坊、皆からも好かれるタイプである。
団子は感情を表に表さない茜に似たタイプ、本当の意味で無表情だ。
流花はこの中では一番身長が高くお姉さん、だけどどこかおどおどしていて臆病、どうしても見た目が野暮ったくなるのもドラミドロのPKM故か。
星火は明るくハキハキした体育会系、若干頭の悪い言動もするが、ムードメーカーだ。
そしてこんな個性的なPKMにママと呼ばれ、慕われている金剛寺晃はそんな皆を優しく見守る。

星火
 「いや〜、ハロウィンイベント大変だったねぇ」

流花
 「うん、特に華凛ちゃんと凪ちゃんは今じゃ人気二強だよね……」


 「私なんてまだ至らない。不徳の致す所です」

華凛
 「ふん、真面目ちゃんめ、褒められたのだから素直に受け取ればいいだろう?」

華凛はすでに出来上がっているのだろうか、頬を上気させてこっちを見ながらニヤニヤしている。
華凛は私から見ても、凄いと思う。
接客なんてまともにしたことない事は私と同じなのに、同じ努力をしても私より上を行く。
お客からの華凛の人気は高く、華凛目当てにくる常連客までいる。
一方で私目当てに来てくれる客もいるが、女性客が多く、客層で言えば男性客が圧倒的に多いポケにゃんではやはり華凛には勝てないだろう。
華凛は自信家だが、驕れる者ではない。
天才型だが、努力家だ……一代で帝国を築いた英傑が、凡百の兵に過ぎない私と違うのは仕方がないが……。

団子
 「にゃ〜、凪、はい」


 「え?」

突然だった。
団子が私の口に何かを放り込んでくる。
私は口の中の物を確かめると、ミートボールだろうか?

団子
 「凪、難しい顔してたにゃ」

希望
 「パーティーですから、楽しみましょう?」

……どうやら顔に出ていたらしい。
流石に団子を心配させるほど深刻に考えていたのは問題だった。
私は仕事のことは忘れて、その場にあった水を一気に呷る……が。

流花
 「あっ、それ清酒」


 「っ!!?」

それは流花が自分用に用意していたお酒だった!
私は自分の迂闊を呪う。


 (なんでこの国の酒は無色透明なんだ!? 水と見分けつかんだろう!?)

日本酒はその美しさから三大銘酒に数えられる訳だが、今回はそれが裏目に出た。
まぁ、でもコップ一杯分飲んだ……程度……で。


 (気のせいか? ベルモットが小躍りしている気がする)

私の意識が無くなったのは、30分後の事だった。



***



11月の初め、休みを頂いたダークライの愛紗はアリアドスの杏と共に街を練り歩いていた。
時刻は12時、そろそろ何処かでお昼御飯にしようかなんて呟いている時だった。


 「なんか、愛紗ってこうやって歩くこと少ないわよね」

愛紗
 「……私の移動は闇の中を進む物だから、昼間は普段はマスターの影に潜んでいるから」

愛紗は普段いつも真莉愛の傍を離れようとしない。
とはいえそれでは愛紗もいつも神経を使わせてしまうと、たまにこうやって外に出される。
今までは一人でいることが多かったけど、今は杏がよく一緒にいる。
杏とは最初こそ敵対し、そして反目することもあったけど、杏はとても面倒見が良い。
多少私生活がズボラな所があるけど、そこだけは注意しても治りそうにないのが玉に瑕か。


 「結構気になるんだけど、闇の中ってどんな感じなの? 寒いの?」

愛紗
 「闇の中は暑くも寒くもないわ、感覚で言えば歩く感じはしないわね、自らを気体にして移動する感じかしら?」

正直闇と同化する感覚はダークライ特有過ぎて説明しづらい。
杏からしたら楽とか快適なのか知りたいんだろうけど、移動は歩くより楽なのは確かだ。
その性で身体は細く、肉弾戦は苦手だ。
その点杏は全身を使う事が多いから、身体のプロポーションもいいよね。
私は種族特徴で腰のくびれが凄いが、筋肉はあまりない。
それに対して筋肉がしっかりしている杏の肉体美は羨ましい。


 「あら? 何かしら」

杏は突然足を止めると、道の遠くを凝視する。
なんだか人だかりが出来ているみたいだった。



***



星火
 「レディース! アンド! ジェントルメン! 遂にナンバー1メイドを決めるときが来たーっ!」

そこはメイドコスプレ喫茶ポケにゃん。
ハロウィンイベントも終わったかと思うと、早速新たなイベントが始まっていた。
PKM専門メイドコスプレ喫茶店として経営を初めて3カ月、今ポケにゃんは通常の運営は行っていない。
テーブルが殆ど取り払われ、予選を勝ち残った最後の2人が、最後のお題目に挑もうとしとしている。

星火
 「それじゃ、ここに来ている人に説明ってのも無粋だけど、晴れて決勝まで残った二人をご紹介! まずは説明不要! その巨大な双丘は簡単には触らせてくれないが、エロさはナンバー1! 意外に気立てもよい華凛選手!」

ワァァァァァァ!

観客の歓声が上がる。
50人程度であるが、この日のために集まったポケにゃんのファンや野次馬たちが華凛を注目する。

華凛
 「ふ、まぁ良い女なら当然の結果だな」

華凛は緊張もなく、余裕の笑みを浮かべ、その重たい胸を両腕で持ち上げる。
その仕草がワザと見せているようにも思えるが、実際は単に重い胸を一度持ち上げて姿勢を正しているだけなんだが、そういう仕草でも客を受けさせるのだから侮れない。

星火
 「対するは女性に大人気! それとない気遣いのよさから着々人気を集める凪選手!」

ワァァァァァァ!


 (……こんな私だが、ここまで来れたか)

私は歓声に応える。
女性の黄色い嬌声も聞こえてくるが、昔からこういう事は多かったから慣れている。

星火
 「最後の審査対象は料理! 作るものの発表は店長から!」

ホールの奥に長机を設置して審査委員長を務めるのは金剛寺晃店長。
店長はホワイトボードを掲示すると、そこにはオムライスと書かれている。


 「オムライスは、メイド喫茶の基本よ。それだけにオムライスに求められる技術は高レベルよ」

星火
 「オムライスー! ポケにゃんでも最も好まれる洋食の王道! さぁ両選手には目の前でオムライスを作ってください!」


 (……オムライスか、予想通りではあったな)

私は目の前に置かれた仮設のキッチン、ある程度材料から答えは分かっていた。
私は隣を見ると、同じく調理器具と向かいあう華凛はやはり余裕だ。
料理スキルはほぼ五分、決して華凛が絶対有利ではない。
それに私には……!



***



保美香
 「―――オムライスを学びたい?」

それは1週間程前の事だった。
華凛に比べて接客スキルで劣っている私はポケにゃんの代名詞でもあるオムライスを習得するため、保美香を頼ったのだ。

保美香
 「言ってはなんですが、オムライスは難しいですよ、もっと簡単な料理から挑戦された方が……」


 「頼む! たった一つでいい! 誇れる物が欲しいんだ!」

私は頭を下げて頼み込むと、凪ははぁ……とため息をつく。

保美香
 「また華凛への負けず嫌い? 良いでしょう、そのかわり私は妥協を許しませんよ?」



***




 (アレから1週間……ひたすらオムライスを練習し続けてきた!


私はこの日を予見し、只管オムライスを試食し、今や味も見た目も完璧である。
流石に幅広いレパートリーからなら華凛の勝ちかもしれないが、喫茶店で出されるメニューなんて限られている!
この勝負は私の勝ちだ!

華凛
 「ふんふんふ〜ん♪」


 (なん……だと!?)

私は鼻歌を歌いながらオムライスを作る華凛を見た。
華凛は何とも美しく卵をフライパンで半熟成型する。
その技は誰が見ても洋食の達人のようではないか!?

星火
 「オムライスでなんと言っても重要なのは卵! 両者をどう見ますか店長!」


 「そうね、凪ちゃんはとても丁寧で性格が表れた感じかしら、一方で華凛ちゃんは独創的、とても面白いオムライスになりそうね」

星火
 「なるほど! これは盛り付けるまで結果は分かりませんね!」

チキンライスの用意が出来ると、いよいよ卵をチキンライスの山に掛ける時、この瞬間が最も難しい。
卵が均一でなくては綺麗にならないし、薄いと破けてしまう。
私はあくまでもスタンダードに熟すつもりだ。
しかし華凛はここで。

華凛
 「美味しくなーれ♪ 美味しくなーれ♪」

星火
 「こ、これは〜! メイド喫茶伝家の宝刀、美味しくなーれ! これを目の前でされたらご主人様もイチコロだ!」



***


観客
 「「「ワァァァァァァァァ!」」」


 「凄い大歓声、うーん、見えない」

杏はポケにゃんの前に出来た人だかりから奥を見ようとするが、凄い人混みでよく分からない。
ただマイクを使っているのか実況は聞こえていた。

星火
 『おーと! 凪選手も美味しくなーれを開始!』

愛紗
 「凄い盛り上がりね」


 「オムライス食べたくなってきた」

時間は午後1時前、お腹も空いてきたのは確かだ。
とはいえポケにゃんは今営業してないし、近くに飲食店がない。

愛紗
 「人数多すぎて、試食は期待出来ないわね」


 「うー、まぁ終わるまで待ってましょう!」

杏の何が突然オムライスに執着させたのか分からないが、店内はクライマックスに盛り上がっている。
私は店内で忙しく動き回るメイドポケモンたちを見ると、少しだけその姿に羨ましく思えた。
もし私が別のマスターに引き取られていたら、きっと今とは全然違う生活をしていたに違いない。
今のマスターの下での生活は嫌いじゃないけど、同時に平和にドタバタ出来るのが時々羨ましい。


 「平和が一番かぁ」

愛紗
 「電話は二番?」


 「三時のおやつは○明堂ね」



***



そしてその日の終わり。


 「で……どっちが勝ったんだ?」

華凛
 「見た目点は私の勝ち」


 「味は私が上だった」

晩飯時、二人がメイド喫茶で勝負をすることは事前に聞いていたが、その内容は知らない。
だから、酒のつまみに二人の話を聞くのは悪くない。
俺は結果を問うと、二人は苦笑を浮かべながら。


 「……引き分けだ、魅せる事に関しては流石華凛だよ」

華凛
 「ふふ、だが味はやはり凪の方が上手だった。毎日オムライスを作っていたものな」

美柑
 「それで今日の晩ご飯はオムライスなんですね」

テーブルに並ぶ黄色い山、それは保美香が作ったオムライスだ。
料理に関して保美香の技術は素晴らしい、一朝一夕では凪や華凛でも追いつけないだろう。


 「食は万里を通ず」

そう言ってすでに2つ目のオムライスを食べる茜も大満足だ。
茜は好き嫌いが無い子だが、オムライスは特に気に入ったようだな。
美柑も流石の食べっぷりに苦笑している。

伊吹
 「うふふ〜、引き分けならどっちも1位だよ〜」

華凛
 「まぁいいさ、白黒ならいつかダーリンに付けて貰う」


 「そうだな、茂さんが決めるなら私も納得しよう」


 「機会あればな」

俺は笑い合う家族たちを見て、今日も平和だと思う。
すでにPKMは様々な方面から日本の社会に溶け込みつつある。
それは増え続けるPKMからすれば当然の結果だろう。
インターネットで活躍し出すPKMアイドルたちや、お手伝い、或いは奉仕という形でボランティアに参加するPKM、世界はそれほど歪んでもいなければ、普通に生活していれば笑顔でいられるのかも、俺はそう思う。



***




 「DV?」

それを聞いた杏は嫌な顔を顕わにした。
御影真莉愛は仕事が終わり、家に帰ると真莉愛をマスターと仰ぐ4人のPKMたちがいつものように出迎える。
彼女たちはとある高級マンションに住んでおり、真莉愛は書斎で未だ幾つかの書類と格闘しているのだ。

真莉愛
 「そう、虐待行為……」

真莉愛は憂鬱げに書類の中に埋もれる。
PKMは際限なく増え続け、それに応じてホストの数も増えている。
ホストの数が増えること、それ自体は喜ばしいし、実際PKMの数に対してまだまだ足りない。
だが、政府はホストの選定基準を少し焦っているのかもしれない。
ホストの選定は年齢や職業、経歴等を調べて決めるが、実際のところそれらが全ての善悪を別けられる訳じゃない。

真莉愛
 「幾つか報告があるのよ、ホストからのPKMへの虐待」

PKMへの暴力行為は原則的に禁止されている。
とはいえ、まだ刑法としては新しすぎて、今後PKM関連の刑事事件は増え続けるだろう。

赤毛の女性
 「許せねぇ! そういう根性座ってねぇ野郎は俺がとっちめてやるよ!」

そうやって燃える拳を打ち付け、怒りを顕わにするのはゴウカザルのほむら、ほむらは気性も激しくPKM保護問題が対処に切り替わった時一番槍として突っ込む子だ。
性格も男っぽく、普段からスポーツジムで身体を鍛えており、女性的というよりは男性的。
赤い短髪も怒りに煽られて燃え上がる。

大きな石を持った少女
 「馬鹿ね、PKMが人間を攻撃したらそれ以上の大問題よ」

部屋の隅で物静か、と言うか普段は殆ど動かない少女がほむらに突っ込む。
見た目こそ小さな少女だが、石を含めて総重量108kgのミカルゲのポケモン娘、名前は白(しろ)という。
白は見た目で言えばオカルト少女そのもの、黒いワンピースを来て、ボサボサのワカメヘヤーは、正に日本的な幽霊のようだ。
常に重たい石を抱えているが、本人は苦にする様子もない

真莉愛
 「……PKMへの暴行に対して私たちって保健所になっている筈なのに、実際逮捕できたのは僅か3件……現行犯逮捕以外に捕まえようがないんだもんね……」

真莉愛はふと、蹲った中で要注意とされているPKMの写真が写っていた。
それは駅で撮影された写真、全身に包帯を巻いたビークインだった。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第8話 ハロウィンと平和な日々 完

第9話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/05/05(日) 11:48 )