突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第7話 絶対無敵迷惑純情メイド!

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第7話 絶対無敵迷惑純情メイド登場!

10月中旬、鯖落ちから杏の騒動……あれから2週間が経った。
今や本格的に街はハロウィンに染まっている。
気温も冬型に変わってきたし、ようやく冬到来といった感じ。


 「たく……何時まで経っても仕事が減らない」

俺はビルの外で弁当を買いにいく。
今日に限って保美香の弁当を持っていく忘れたのだ。
普段なら手渡しなのだが、今日に限って彼女も忙しく、こんな小さなアクシデントのなっちまった。
まぁ昔はいつも近くのコンビニで済ましていたからな。
今でも趣味が少ない性で、あまり金を消費することもないし、コンビニ弁当なんて当たり前だった。


 (でも、忙しさは変わらないけど職場環境は少し改善したよな)

というのも、こっちの世界ではパワハラ上司が退職していたのだ。
というかアイツ、遅かれ速かれ訴えられていたと思うから、何も同情する余地はないが、直接引導を渡せなかったのは悔やまれる。
オマケに居なくなった理由を聞いたら、誰かがパワハラを社長に報告したとのこと……十中八九俺と思われるが、生憎その記憶がないんだよな。


 「まぁ、環境に文句言っても仕方がないし……プログラマー不足だもんなぁ」

そんな愚痴を言いながらコンビニに入る。

真莉愛
 「からあげクン下さい」

店員
 「ウチは○ァミマだ」

……2週間ほど前に会ったPKM保護対策の御影さんだった。
相変わらず黒いスーツにグラサンと微妙に怪しい。
俺は関わる必要もないので、店の奥に向かう。

真莉愛
 「え!? 無視!? お姉さん泣いちゃうよ!?」

……向こうはこっちに気付いていたらしい。
うーむ、ステルスアクションってむずいよな。


 「どーも、お久しぶりです」

俺は軽く会釈を行う。
この人、一応そこそこのお偉いさんみたい何だが、普段何所にいるんだろう。
とりあえず霞が関とかにいそうなイメージはあるよな。

真莉愛
 「いや〜、もしかして君もコンビニで弁当済ますタイプ? 最近のコンビニ弁当や惣菜って美味しいよねぇ」


 「まぁ最近はスーパーとかより栄養価もしっかりしているし、ヘルシーですよね」

……おかしい。
御影さんと俺ってこういう日常会話するタイプだったっけ?
というかそもそも、名刺貰った程度で、殆ど接点ないはずだけど。
後、俺は普段は保美香の弁当で済ますから、そこまでコンビニは利用しない。

真莉愛
 「うんうん、女性としてはね……ウエストは気になるのよね……全くPKMってのはどいつもこいつも超美人だから理不尽だわ」

愛紗
 「……マスターはそういう風に私を見てたんですか?」

突然御影さんの影から一匹のPKMが現れた。
俺と同じくらいの身長の御影さんと比べるとかなり小さい、恐らく150センチ程か。
白い髪が波うって肩まで伸びている。
そして驚きなのがそのボンッキュッボンぷりだ。
正確には異常に細いウェスト。
純黒のドレスに身を包んだ様は腰がまるでコルセットで矯正している様にさえ見えるほど細い。
にも関わらず大きな胸はやはり人間の域を越えていた。
そしてもう一つ、異常に細い足……というかポケモン娘だと脚を出しているのがデフォルトなんだな……と気付くダークライ娘のようだ。

真莉愛
 「あら聞いてた? いやね〜、別に愛紗の事を名指しにしたわけじゃ」


 (アイシャか……大地の剣取りに行ったら死ねなくなるな)

……久し振りに心の中で突っ込んだ気がする。
多分由来にロマンシングなネタはないと思うが。

真莉愛
 「あ、紹介するわ。この子は愛紗、結構恥ずかしがり屋でね、普段は隠れているんだけど」

愛紗
 「愛紗です……マスターのお世話になっています」

愛紗という娘は丁寧にスカートの裾を広げ優雅にお辞儀する。
結構浮世離れした娘だが、そんなに悪い印象はなかった。
まぁ悪い印象ってダークライってラスボス担当率が妙に高い性なんだろうけどな。


 「どうも常葉茂です、愛紗さん。そう言えばあれから杏はどうなりました?」


 「え? 呼んだ?」


 「て、後ろ!?」

突然後ろの商品棚から杏が出てきた。
その手にはお菓子が大量に抱え込まれている。

真莉愛
 「またそんなにお菓子ばっかり選んで……」


 「いや〜この世界って食べ物が豊富で良いよね〜、美味しい物も一杯あるし」

真莉愛
 「はぁ……杏は私が責任持って保護責任者となりました。本当は杏も常葉さんが良かったかと思いますが、こちらも強制は出来ませんし……」


 「そうか……御影さんが」

俺は杏の笑顔を見て安堵した。
正直保護責任者として名乗り出るべきか考えたが、それは真っ先に御影さんがしてくれたようだ。
現在は怪我もないみたいだし、何より杏の笑顔が現在の環境を物語っている。


 「でも、案外こんなに早く再会出来るなんてね」


 「俺の方こそすまない、今まで会いに行かず」


 「いいわよ。貴方に迷惑かけたくないし、それに機会見て伺うつもりだったもの、お礼もしたかったし」


 「お礼って……それほどの事はしてないだろ」

俺は杏を助けたのは純粋な善意だったと思う。
純粋にあの時の杏は必死で、放置してはいけないと思った。
だからこそ、会いにいかなかった事を俺は悔やんでいる。
正直、杏の保護責任者になるか迷ったんだ。
ウチは家族も多いし、杏の居場所を作ってやれるか不安だった。
しかしホームページを見ても杏が収容所にいる情報もなかったし、どうすることも出来なかった。
まさか御影さんが保護責任者になっていた事は驚いたが、それは良かったと思う。
もし変な人が保護責任者になっていたらと思うと気が気じゃなかったからな。

真莉愛
 「……杏、積もった話は後にしましょう。常葉さんのお昼時間が無くなっちゃうわ」

愛紗
 「マスターもお仕事に早く戻ってください、書類が溜まってます」

真莉愛
 「あはは……お昼ご飯の後でね」

どうやら御影さんも暇そうに見えて、仕事に追われているみたいだな。
PKM関係って法律も厄介だし、審査なんかも書類を通すから結構面倒なのかも。
それでなくても何所に現れるか分からないPKMの事で見回りも欠かさないだろう。


 「それじゃ、後でね〜」

杏はそう言うとまた商品棚の向こうに隠れてしまう。
俺は大人しく弁当コーナーに向かうと、安い弁当と豚汁を付けてレジへと並んだ。
既に会計を終えた御影さんはニコニコ顔でコイコイと手を招いている。
どうやら、まだ解放してはくれんようだ。



***



真莉愛
 「実は貴方とはじっくり腹を割って話したかったのよね」


 「なんで俺と何ですか?」

俺たちは近くの公園のベンチで昼ご飯を取ることにした。
俺は普通の唐揚げ弁当、御影さんはガパオライスにサラダを付けているようだ。
そして愛紗さんは惣菜パンを小さな口でもぐもぐ食べ、杏はスナック菓子で本気で済ます気らしい。

愛紗
 「杏……もっとマシなもの食べないと虫歯になっちゃうわ」


 「良いじゃん、虫タイプはお菓子大好きなのよ。てか愛紗こそパン一つって……栄養失調でぶっ倒れるわよ」

真莉愛
 「はいはい、貴方達喧嘩しないの……ほらサラダあげるから野菜食べなさい」

御影さんがそう言って杏に渡そうとしたのは野菜スティックだ。
しかし露骨に杏は嫌悪感を見せる。


 「蜘蛛は肉食動物なんですー、野菜なんて食べる必要ないじゃん」


 「杏……今は人間みたいなもんだ、俺の唐揚げも一個やるからちゃんと食べる」

俺はそう諭すように強く言うと、杏はその白目のない真っ黒な目で真剣に俺を見た。
その顔は何気ないが御影さんたちへの対応とは違う物だった。


 「……茂が命令してくれたら、食べるわ」


 「あん? 命令って……」


 「それか、食べさせて?」

少しだけ妖艶に、身体をくねらせ顔を近づける。
俺は少し身を離して、野菜スティックを手に取ると杏の口に差し出す。


 「ほら、ちゃんと食べなさい」


 「ん……分かったわマスター」

杏は野菜スティックをポリポリと食べる。
なんか食べ方が少しエロいが、俺は掴んだ指が杏に食べられる前に手を離す。
それより今俺のことをマスターって言った?


 「なぁ……杏、今俺のことをマスターって言ったか?」


 「立場的には真莉愛がマスターだけど、しょうがないじゃない……茂はゴッドファーザーだもの、ポケモンにとって命名者の命令は絶対だもの」


 「……契約?」

俺はかつて伊吹が命名を契約と言い、保美香が契約完了という言葉を使った事を思い出した。
そしてポケモンのある仕様を思い出す。
ポケモンの命名が出来るのは同一のIDを持つトレーナーにしか出来ない。
そして、命名者は例えレベル100の伝説のポケモンでさえ、命令に逆らうことは絶対にない。

それって……もしかして俺はかなり迂闊な事をしたのか?
ポケモンの命名権利を俺が持っているということは、杏の支配権を俺が所有していることになる。
それは逆説的には御影さんに杏が従わない可能性があるということ。


 「御影さん……俺とんでもない事をしたのかも、ポケモンの命名って子供とかペットに名前を付ける位のイメージだったけど……PKMにとっては運命を左右するレベルだったのかも」

真莉愛
 「確かに杏は反抗的だけど心配は要らないと思うわ、杏はそれでも私に従ってくれるもの」


 「そうよ、そりゃどっちに従うかって言ったら茂だけど……真莉愛もちゃんとマスターと認めているもの」


 「……野菜、ちゃんと食べろよ」


 「マスターの命令であれば」

御影さんの前ではあれ程嫌がった野菜スティックも俺の命令であれば、大人しく食べ出す杏に俺はやはり恐怖を覚える。
ポケモン娘たちがやけに隷属的だと思った事はある。
でもそれはなんだかんだで俺を信頼して、忠誠心のような物だと思った。
でも……少し距離を置いた位置にいる杏で初めて分かった。
茜も保美香も美柑も伊吹も、俺に意見する事はあっても、俺の意見を否定した事は一度もない。
命名者はそれだけで絶対的な支配権を得るということか。
でもそれじゃまるでポケモン娘は奉仕種族だとでも言うのか?

確かにゲームでも自分のポケモンなら自傷技になんの躊躇も躊躇いもない。
でもそれはポケモンの感情や倫理観をねじ曲げた命令でも通すということ。
なのに彼女たちはそれに不満は恐怖はないんだろうか。

真莉愛
 「やっぱり貴方はPKMを本当に愛しているのね……じゃなきゃそんな悲しい顔は出来ないわ」


 「俺はそこまで器用じゃないですよ、全てのPKMを愛せるほど器量もありません」

真莉愛
 「ううん、そうじゃなくて……貴方今6人のPKMを保護しているでしょう? 調べさせて貰ったけど幸せね……そんな貴方が杏を気に掛けない訳がない……そしてそれはこれからも増え続けるでしょ?」

……俺は何も言えなかった。
実際どうなんだろう……そりゃ同じ状況がもう一度あれば絶対助けていると思う。
勿論もっと賢く立ち回りたいが、それでも俺は自分の出来る範囲でやるしかない。
だから……言葉には出来なかった。

真莉愛
 「あ、ちょっと待って……」

御影さんの携帯が震えていた。
直ぐさま仕事人の顔に戻った御影さんは電話の応対にでた。

真莉愛
 「揺らぎの確認……え? あ、はい……正確な座標は?」


 「……? なーんか空気が揺れてる?」

それは常人には理解できない物だった。
ポリポリと野菜スティックを食べる杏だけが、その微細な揺れを知覚していたのだ。

だが……その振動の原因は俺でもすぐ理解できた。


 「御影さん! 目の前!」

知覚できない程小さな振動は時空震動である。
曲がりなりにも時間も空間も因果律さえねじ曲げて、世界を変容させる。

……ゲートが開いたのだ。

真莉愛
 「は!? 目の前ぇ!?」

それを俺を吸い込んだゲートと同じ物だった。
ただ俺を吸い込んでくる様子はない。
逆に何かが迫り出してきた。

真莉愛
 「あーもう目の前で!?」


 「あれ? コイツって……」

ゲートから吐き出されてきたのはメイド服を着た少女だった。
そのメイド服と、普通すぎる胸には見覚えがある。


 「もしかして……セローラ……か?」

それは帝国の中で茜と一緒に過ごし、そして俺を助けてくれた少女。
彼女はゲートから完全に吐き出されると、ゆっくりと大きな瞳を開ける。
その瞳にはランプの火のような光が宿っている。

セローラ
 「ここ、は……?」

何やらぼんやりしている。


 「セローラ、この指を見ろ、何本だ?」

俺は親指以外の指を立てる、彼女の意識を確認するためだ。
彼女はぼんやりとしながらその瞳で指を追う。

セローラ
 「4本……あれ? ご主人様?」

段々セローラの意識がはっきりしてきた。
ようやく指から俺の顔に意識が移り、俺の顔を認識したようだ。

セローラ
 「あれ? ニアっち? メイド長は!? なんでご主人様が目の前に!? まさか○ろう小説の主人公にでもなった!?」


 「落ち着け、お前の世界に○ろう小説はないだろ!」

……間違いない、セローラだ。
やたら茜にセクハラしていた少女そのものだ。
しかし、それは俺達以外には怪訝な物だった。

真莉愛
 「君……知り合いなの? どうして……」


 「あ……いや、その〜」

俺は呆然とする御影さんから目を逸らす。
なんて説明すれば良いものか。
異世界に飛ばされて出会って、そして帰ってきた……と素直に説明してもいいのか?
なんにせよ疑いの目は晴らさないといけない。

セローラ
 「なんかよく分からないけど……私はセローラ、地球は狙われている!」


 「オイコラ! これ以上のカオスにするな!」

兎に角問題児セローラの登場、どうなる俺!?



***



セローラ
 「ご主人様、ん、はぁ…あ。熱い……熱くて太い……手で触れたら火傷しちゃうよぉ……だからお口でしますね…ん、ちゅぷ……ぷはあ……ああん、お汁でてきたぁ」


 「……セローラよぉ」

セローラ
 「ん……ちゅく、なんれふかぁ? ごひゅじんしゃま?」


 「どうしておでんのちくわウインナーでそんなにエロく食べられるんだよぉ!?」

セローラが現れてから、まず彼女の説明をしようと思ったが、彼女はお腹を空かしていたので、コンビニに連れて行き、食べたい物を尋ねると、おでんに興味を示したのだ。
そこでおでんを3品ほど買って公園に帰ると、彼女は先ほどのような言葉を口にしながらおでんを頬張ったのだ。
……とりあえず俺のアレを咥えたセローラをイメージした奴がいたら御免なさい。

セローラ
 「ご主人様の美味しいよぉ……臭いで頭クラクラしちゃう」


 「お願い、普通に食べてください、後俺は金を出しただけだから!」


 「……なによ小娘、フェラチオで気を引こうっての? だったら私はパイズリしちゃうんだから」


 「杏も冗談に乗らないで!」

真莉愛
 「あらあら大胆ね、見られたら色々と不味いから早く済ましなさいよ?」


 「御影さん、貴方も良識ある大人なら静止しろぉ!」

愛紗
 「あの……お茶飲んで落ち着いてください」


 「はぁ、はぁ。ありがとうございます」

……なんで俺は疲れなきゃいけないんだろう。
全員がフルにボケてくるから愛紗さんだけが癒やしになってる。
元々本心の読めない所がある御影さんに、何かが化学反応起こしたのか、杏が拍車を掛けて、セローラをボケさせる。
今日だけ絶対遵守の○アスが欲しいと思ったわ。
前回散々命令するの怖いって言ったが、前言撤回……命令でもしないとぶっ倒れるまでこいつらボケるな。


 「それでアンタ茂にとってのなんなの?」

セローラ
 「ふ、よくぞ聞いてくれまっしたーっ! ご主人様大好き! ご主人様専用肉奴隷のセローラちゃんでーっす!」


 「はい、ダウトー」

そんな事実ありません。
第一俺はセローラのご主人になった覚えもありませんし、肉奴隷も完全にコイツの願望じゃないか!

真莉愛
 「あーうん、まぁ本人たちがそれで良いなら、法律的には問題ないわけだけど、青姦は流石にねぇ?」


 「御影さん! セローラが言ってるの嘘だから! 俺そんな趣味ないし!」


 「そうよねぇ? 茂は外でするより中でする方が好みよね?」

愛紗
 「……〜〜〜!」

駄目だ! 杏はまるで懲りないし、想像だけで愛紗さんは顔を真っ赤にしてしまう。
あれか? 既にデウスエクスマキナでもいないと収拾できんのか?
改めてセローラだけは不味い、コイツさえいなければ普通だったのに、コイツが顕現してから俺のストレスがマッハだ!

真莉愛
 「はいはい! これ以上常葉さんを困らせるのは止めましょう、私も冗談が過ぎたわね」


 「私は別に冗談で言った訳じゃないんだけどね……愛紗、今日のズリネタ手に入って良かったわね?」

愛紗
 「そ、そんなはしたない事する訳ないじゃない!」

わお、珍しく愛紗さんが大声出して慌てた。
ということは……いや詮索は止めよう。

セローラ
 「そうよね〜、一度ご主人様の体験したらもう指で満足なんて出来ないわぁ」

愛紗
 「指じゃ……〜〜〜!? し、しません! 絶対しません!」


 「いい加減にしろセローラ、怒るぞ」

セローラ
 「アッハイ、調子に乗りました」

大体こいつ男の経験あるのか?
確か城では処女って言ってた気がするんだが。

真莉愛
 「しかし世界間移動……理論上可能と言われているけど、人間がゲートに入って帰ってこれるなんて」


 (……正直帰ってきたは正しくないが)

俺がいた世界はここほど混沌としていなかった。
ポケモン娘が大っぴらに歩くなんて出来なかったし、そもそもこんなにいるはずがない。
だからここは似ているけど違う世界。
それでも俺はこうして存在している。
別の世界から来た俺が、何故かこの世界の俺となった。

真莉愛
 「信じなきゃ説明がつかないもんね……でもそうすると」

御影さんにはやはり信じがたいようだ。
しかし否定は全てセローラが無効にしてしまう。
俺とセローラの関係性が、その矛盾を許さない。

真莉愛
 「常葉さん、一つ忠告です。貴方がゲートから生還した事は絶対に秘密にしてください」


 「別に誰かに話したりなんかしませんけど、絶対ですか?」

真莉愛
 「詳しい事は言えませんが、今各国はゲートの研究をしています、世界中の誰もがゲートによる無秩序な混沌を歓迎している訳じゃない。制御を試みている機関は日本にだってあります……そんな中で成功例である貴方が知れれば、格好のモルモットです」


 (ゲートの研究……俺がモルモット?)

……確かに常識的に考えても、ゲートを研究する奴らがいるのは理解できる。
なんとしてもゲートの制御方法さえ分かれば、これ以上ゲートが開かないようにだって出来る。
人類の大半はゲートを歓迎していない、出来ればずっと平穏であって欲しいのだ。
だが……俺はこんな所で変な洞察力を発揮していた。
御影さんが言っているのは、そんな風潮の中で真逆の発想を持つ者たち。
即ちゲートを支配しようと試みている奴らがいるという事か。
ゲートを支配し、自由に世界間移動が可能になれば、時は多元世紀を迎えるだろう。
この世界からPKMを追い出すことも、丸ごと違う世界に入植する事も可能だろう。
それは資源問題や宗教問題すら解決するかもしれない。
だが……逆にゲートを支配した者たちが都合の悪い物を追い出す道具にすれば?
ゲートを使って一国を丸ごと次元転位させる事も可能かもしれない。
都合の悪い人物をゲートに放り込めば、二度とそいつは帰ってこないかもしれない。

ゲートの支配を多くの人は都合の良い未来として捉えるかも知れないが、御影さんは明らかに逆だ。
ゲートの支配はよくあるディストピアの始まりを意味すると捉えているのだろう。


 「口外しませんよ……俺だって自分の身が可愛い」

真莉愛
 「理解力が高いと助かるわ」

御影さんはギャグとシリアスの温度差が分かりやすい人だ。
普段はおちゃらけているが、シリアスに決める時は口調まで硬くなる。
気付いているのか知らないが、少し洞察力があれば、大抵の人でも冗談か本気か区別出来るだろう。
今はどちらかというとギャグ寄り、これ以上難しい話をしたくないんだろう。

真莉愛
 「それじゃそろそろセローラちゃんの護送をしようかしら」

御影さんのお仕事は本来この世界に現れるPKMの保護だ。
そういう意味では例え訳ありでも例外は許されない。
本来なら感情を交える事なく、護送するべきだが、今回は例外だと言えるだろう。

セローラ
 「事情は飲み込めました……けど、ご主人様が選んでくれないと、違う人に操を捧げないといけないんでしょ?」

真莉愛
 「PKMの保護と責任は両者の同意が必要だから、気に入らなければ、保護申請を蹴ってもいいのよ?」

一応重要な点だが、PKMにも最低限マスターを選ぶ権利はある。
とはいえお見合いのような確認であり、充分かと言えば、不十分だと思う。
ほんの数十分会話した程度で、お互いを理解できる訳もなく、全てのPKMが大切にされているか分からないのだ。
無論そこは御影さんたちを信用するしかない。
最低限二十歳以上の年齢制限、そして経歴の確認等、幾つかの基準をクリア出来なければそもそも保護責任を全う出来ないとして不合格になる。

一方PKMも状況次第だが、護送が遅れて先に自分のパートナーを選んでしまった時はどうするのか?
杏の場合全て了承の上で今の関係になった。
一方で、未成年と契約してしまった場合、その未成年は保護責任者にはなれない。
勿論未成年なら親がいるはずだが、その親が反対すればどうなる?
PKMにとっては恐らく世界よりも契約者を選ぶだろう。
実は現状の法律って相当危うい。

セローラ
 「もうこの場でご主人様を保護責任者として登録出来ないんですか?」

真莉愛
 「御免なさい、その前に身体検査に、環境適応能力の確認と、一般生活のレクチャーとまぁ……やらなきゃいけない事一杯あってね?」

……聞いただけでウンザリするな。
見ると杏まで心底嫌な顔をしており、やはり相当面倒臭いのだろう。


 「私勉強嫌い……当たり前のことばかり聞かれるし、日本の法律覚えたり、あれ合格しなきゃそもそも保護可能リストに登録されないとか……茂のために頑張ったけど、二度と勉強したくない」

……杏は最初、かなり野性味が溢れていた。
つまり人間社会を殆ど知らないポケモンだったのだろう。
普通なら10年以上掛けて、一般教養や常識を身につけるがPKMは同じ教育が必要だと言える。
セローラなら殆ど問題ないだろうが、杏の場合地獄の猛勉強だったのだろうな。

セローラ
 「……はぁ、分かりました。その代わり絶対ご主人様にお仕えするんだから!」


 「分かったよ……必ず迎えに行く、その変わり御影さんの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」

セローラ
 (ぬふふ……約束ゲットだぜい、ご主人様の所には茜ちゃんがいる……はぁ早くおっぱい揉み揉みしたい!)

……なんか凄い邪な気を感じるが、気のせいだろう。
俺はセローラを任せると、暫くして護送車が公園に現れる。

真莉愛
 「愛紗と杏は好きにしていなさい……私は彼女を護送したらオフィスに戻るから」

愛紗
 「畏まりましたマスター」


 「自由にしていいなら茂の傍にいようかしら?」


 「……やば、昼休憩とっくに終わってる!?」

冷静に考えて当然だが、昼休憩の1時間なんてあっという間だ。
既に時刻は2時を迎えており、俺は顔を青くした。

真莉愛
 「ああ、その件なら心配入らないわ、既に貴方の会社には内閣府から貴方を借りていると通告がでているから」

……は? 内閣府?
そういやおかしい事に一切帰ってくるよう催促の連絡がなかった。
その性で時間が分からなかったんだが、この人かなり権力ある?

真莉愛
 「いや、実際PKM保護のお手伝いさせちゃった訳だし、以前にも『対処』レベルの問題の解決にも貢献させちゃったし、もう官房長官とか頭上がらないよ?」

そう言えば、自衛隊に銃を向けられるという嬉しくない事件を思い出した。
この人自衛隊の指揮権すら持っているみたいだし、何気に大臣を顎で使える立場なのかな?
そりゃ、そういう人なら俺のいる会社位どうにでもなるんだろうなぁ。

真莉愛
 「それじゃ、お互いお仕事頑張りましょ?」

トラックのような護送車の荷台を後ろから開くと御影さんとセローラが乗り込む。
中にはやたら大きくて重たそうな石を抱えたPKMらしき少女がいるようだが、目を合わせる事もなく扉は締まり、護送車は発進した。
俺は……呆然とそれを見送ると頭を仕事に切り替えてオフィスに戻った。



***



大城
 「常葉! お前どんだけPKMと縁あるんだよ!? 保護に協力させてるから、お借りしますって国の人が来たぞ!?」


 「そんなアナログな手段で……?」

俺が帰ってくるとオフィスは大騒ぎだ。
俺は6人もPKMを抱えている変人扱いだから、余計に有名なのだ。
しかも保護に協力(偶然なんだけど)って、一般人なら絶対機会のない事だけに皆興味深々のようだ。

女性社員
 「それで後ろのPKMが保護した子?」

……後ろ、そう俺の後ろでは白目のない瞳がキョロキョロオフィスを眺めている。
お世辞に言っても超美人、脚が6本あるとか気にならない程の美人に嫌が応にも皆の視線が集まっている。


 「へぇ? ここが茂の職場……ごちゃごちゃして狭いわねぇ。あ、初めまして杏です。茂様に名を頂き、こうしてお世話をさせて頂いております」

そう言ってぺこりと杏は恭しく頭を垂れた。
その瞬間どっとオフィスが湧いた。

夏川
 「お世話!? こんな美人に!? 羨まし過ぎる!」

大城
 「常葉! お前はハーレムでも築く気か!?」

女性社員
 「もしかしてあっちのお世話もしているのかな? きゃー!」


 「……お前ら平和だよな」

俺のお陰でこの会社ではPKMに対しての忌諱感は薄い。
それでもPKMが怖いというイメージを持つ社員も多いし、いっそPKMを知ってもらうには丁度良いかと、杏の社会見学を許可したが……皆ハジケすぎだ。
これでどうして皆保護責任者にならないんだろう。
まぁ杏ほどの美人もそうはいないが、単純にいちゃラブしたいだけなら、結構悪くないと思うんだけど。


 「大城、お前PKMに興味はあるんだよな?」

大城
 「まぁな、でも保護責任者ってなると、日常を共にするんだろ? それってプライバシーがないわけだし、なんか良く知らない相手と過ごすのって怖いじゃん」

……そうか、確かにその通りだな。
保美香は俺のパンツの臭いを嗅ぐ変態だし、茜や伊吹なんて気が付いたら人のベッドに潜り込んでいる事さえある。
それって俺が茜と出会う前の状況を想起させる。
もし茜と出会う前の俺だったらきっと保護責任者になるのを同様の理由で嫌がったと思う。
大城でもペットなら良いと思うが、知的生命体であるPKMだと別だろう。
ホームステイのそれに近い訳だが、異文化の人を迎え入れるのは勇気のいる事だ。
俺が結婚を面倒だと思ったように、一人が気楽な奴らにはPKMは眺めているだけで充分。


 「ねぇ茂、お仕事している所見せてよ」


 「良いけど邪魔するな、いいな?」

女性社員
 「きゃ〜! 亭主関白ね!」

男性社員
 「くそう! 夜だってああやって命令してるんだろうな!」


 (面倒くさいから突っ込まんけど、杏はうちの子じゃない)

俺はパソコンの前に座って、キーボードを構える。
俺の仕事はセキュリティの管理、業務委託されたサーバーの点検だ。
万が一ウイルスに侵入されたら仮想通貨のアレみたいな被害が出かねない。
無論アレの場合は自分たちでサーバー管理しているし、うちのような子会社じゃそんなデカい所の仕事は来ないが、ハッキングの恐れはあるからなぁ。


 「凄ーい、蜘蛛より正確で10本も同時に使えるんだ!」

杏は俺の後ろで俺のキーボード捌きを見て関心していた。


 「タイピング検定1級舐めんなよ」

大城
 「何気に常葉のタイピングスピードは凄いからな、俺でも準1級なのに、こいつタイピングミスも殆どないし」


 「なるほど、だから社畜なのね!」

オフィスの空気が一瞬凍り付いた。
かく言う俺も一瞬指が止まってしまう。

女性社員
 「そうよね……私たち社畜よね」

男性社員
 「常葉の奴、特にパワハラにも屈しなかった伝説級社畜だもん……」

……結構この会社、社畜マインドが育っているよな。
新人が居つく確率の低いと言われる業界だけど、給料だけは良いし、居つくと抜け出せなくなる。
資格取ると給料上がるし、気が付けば全く退職する気もないのに愚痴だけ言ってる事態になるのよね。
まぁ結局仕事するんですけどね。

大城
 「PKMって補助金制度あるだろ、あれ利用したら仕事しなくても良いんじゃないのか?」


 「大城、今の年金制度見てそれ言える? いつ補助金なんて無くなるか分かんないのに頼れる訳ねぇだろ」

あんな物は年金と一緒だ。
確かに月200万給付される、生活する分には何も問題はない。
でも来年にはなくなっているかも知れない制度に頼る気はないんだよな。
これも結局社畜マインドかも知れんが、安定した仕事がないと怖くて生きていけんわ。


 「現状では私って働いたらいけないのよねぇ?」

大城
 「あれっしょ? 労働保険とかの加入が出来ないとかいう奴」


 「ついでに言うと納税もな、日本国民じゃないからそのままだと不法労働になっちまう」


 「まぁお手伝いって形でボランティアなら問題ないみたいだけど」

確かにそのグレーゾーンを利用している店を俺は知っている。
厳密に言えば、愛紗さんもPKM保護のエージェント。
今は杏も含めてお手伝いなのだろうが、ゆくゆくは立派な仕事になるのだろうか。


 (先のことは分からんわな)

大城
 「所で杏さん? 常葉の奴って性欲凄いの?」


 「お前何を!?」


 「ああ〜、それはもう隙あれば入れてくるもの」

一部の男性社員が股間を抑え、女性社員から悲鳴が聞こえた。
無論杏の発言は真っ赤な嘘だ。
だが、ここで俺が否定しても、それを納得させる材料がなければ、杏の発言は本当になってしまう。


 「皆信じるな!? 真っ赤な嘘だから!」

夏川
 「いいや! あり得ないね! けしからんぞ! もっとやれ!」

女性社員
 「もしかして不能だったり?」

男性社員
 「いずれにせよハーレム作ってやがる不届き者が、犯ってない筈はねぇ!」

……俺の普段の信用ってどうなってんだ?
そりゃ男性目線でも草食系男子でも杏みたいな美人に囲まれればムラムラだってすると思う。
でも本当に俺はやってない!
なんか気がついたら俺のデスクの下に杏が潜り込んだがそれでもやってないから!


 「なに? 隠れんぼ?」

結構長身の方である杏が机の下に隠れたら狭いと思うが、身体が柔らかいのか器用に収まった。


 「とりあえずフェラでご奉仕しようかなと……痛い!?」


 「嘘を本当にしようとするな……!」

俺は杏に蹴りを入れる、そのままズボンのチャックに手をかけるし、PKMにそんな事させられる訳ないだろう。
法律上、合意の上ならPKMとのセックスは認められている。
これをよく強姦OKと勘違いしている奴がいるが、レイプや暴行は犯罪です。
だからフェラは一応OKなんだが……オフィスでやる理由が分かりません!


 「俺は邪魔をするなと言った筈だが?」


 「邪魔するつもりではなく、奉仕のつもりだったのだけれど……痛い!」

今度は杏がデスクに頭をぶつけた。


 「もういい、命令だ……そこからでて休憩室でお茶でも飲んでいなさい」


 「ご命令ならば、マイマスター」

命令という言葉は彼女を従順にする。
多分杏は命令されるのが好きなんだろう。
それはやはり御影さんが仮のマスターで、俺が彼女にとって本当のマスターだから、寂しいのかも知れない。
俺に命令して貰えば、彼女は厳粛にそれを守り、そして嬉しそうだ。
俺が奉仕種族と例えた理由……それは依存による安心感の確保。
……そしてそれがPKMにとっては救いなのかも。



***




 「それじゃ行くか茜」


 「うん、セローラ元気にしてるかな?」

あれから1週間、公式にセローラが保護リストに載った後日、俺は茜を連れて収容所に向かうのだった。
ウチの家族でセローラと直接面識があるのは茜と華凛だが、流石に華凛もメイドの一人一人を全て把握している訳ではなく、特に一般メイドに過ぎないセローラでは仕方なかった。
という訳で、最初から会いたがっていた茜を連れてセローラに会いに行こう。



***



絵梨花
 「あれ、常葉君?」

マンションを出ると、入口に彼女はいた。
旧玉虫絵梨花、今は結婚して百代(はくたい)絵梨花を名乗った妊娠3ヶ月目の女性。


 「えと、今は百代さんって呼ぶべきかな?」

絵梨花
 「ふふ、それだと夫と区別つかないから絵梨花で良いわよ?」

そう言って彼女は俺に屈託のない笑顔を向けるが、俺は顔を逸らすことしか出来ない。
何故なら俺は彼女と共有する記憶なんて何一つ持っておらず、彼女の見せる好意が気まずいのだ。
彼女は俺を元彼として見ている事だろう。
時折見せる仕草も明らかにそれ以上を感じさせる。
しかし、俺には何もないのだ……ただ嘘を重ねるしかない。

絵梨花
 「茜ちゃんこんにちは」


 「こんにちは、です」


 「あれ? 茜知っているのか?」


 「何度か挨拶したことある……」

それは意外な接点だった。
しかし百代さん……いや絵梨花さんと言うべきか、は1階に住んでいる以上このマンションの住民と顔を合わせる機会は多いはずだ。
実際俺も何度か顔を合わせる事はあるし、それは茜でも珍しくないのかも知れない。

絵梨花
 「やっぱり常葉君の所の子だったんだね」


 「えと、ウチで保護している茜って言います、他にもいるんですけど、もしかして会ってる?」

絵梨花
 「うん、時々保美香さんとはお話しするし、華凛ちゃんと凪ちゃんが一緒に出て行くのもよく見るし、美柑ちゃんや伊吹ちゃんともたまに会話するかな?」

……全員知られてるんすね。
俺はその意外な事実に頭を抱えた。

絵梨花
 「このマンションでPKM保護者って常葉君だけだもんね……そりゃ気付くよ」


 「隠してたつもりもないけど……アイツら目立つしなぁ」

ある意味プライバシーに問題がある気もする。
全員目立つとはいえ、つぶさに観察されているんだなぁ。

絵梨花
 「所で、お二人は仲良く何所にお出かけなの?」


 「PKM保護管理センターに行こうかと」

絵梨花
 「え!? まだファミリー増やすの!?」

……やっぱりそうなるよなぁ。
多分日本にウチより多くPKMを保護している家庭はないと思う。
それでもこれが俺だし、別にPKMを囲ってエロいことしている訳じゃないしな。
健全な方なんだけど、やっぱり世間的には違うのだろうか。


 「絵梨花は何所に出かけるの?」

そう言えば、絵梨花さんもお出かけする格好だった。
偶然出かける者同士マンションの入口で会った訳だ。
絵梨花さんはふふっと微笑むと。

絵梨花
 「PKM保護管理センターへ、ね?」



***



なんだか彼女と同じ場所を目指す事って2回目になると妙な感じだと俺は思った。
一回目は同じマンションに住んでいた事が判明した時。
そして2回目は同じく実際にPKMと顔を合わせる保護管理センターだ。

電車で地方へ行き、専用のシャトルバスで山中へと向かう。
PKMの保護収容所は正確な場所は伏せられている。
富士山の麓の樹海とも、くたびれた山村だとも言われてる場所で、多くのPKMが暮らしていると言う。
杏に聞いた話では廃校を利用しているそうだが……。

絵梨花
 「ねぇ保護管理センターってどんな所なの?」


 「行けば分かるよ」

正直保護管理センターの事を聞かれても俺には答えられない。
何せ、記憶もないに気がついたら全員保護登録されているんだぜ?
何があってそうなったのか分からないが、実は実際に登録に行くのは初めてなのだ。


 「山の中だねぇ」

絵梨花
 「衛星写真も無いんだって、PKMを保護するのにここまでする必要があるのかな?」

あるんだろうな、PKMを取り囲む環境は必ずしも良いものじゃない。
理由は幾つかあるだろうが隔離するのも、先ずはPKMが暴走してもここなら大した被害もないだろう。
そして、ここならばPKMを狙う存在を迎撃も容易なのだろう。


 「止まるみたい」

バスがゆっくりと停止する。
バスを降りると白い新築の大きな建物が目の前に聳えている。


 「無駄に大きくないですか?」


 「まぁ見かけにお金掛けないといけないって事だろ、民間事業じゃないからな」

絵梨花
 「とりあえず入口に向かおう?」

まぁ箱の大きさなんてどうでもいい。
どうせ航空写真用の偽装とかの意味もあるんだろうし、目立つ方が都合が良い事もあるんだろう。
そして、中に入るとそこもまた真っ白なタイルに白い天井と、病院を思わせる作りだった。
暫く中を見回していると、建物の奥から係員が足音を響かせて寄ってきた。
しかしこの係員がどう見ても……。

真莉愛
 「ヤッホー、待ってたわよ常葉さん!」


 「御影さんの普段の仕事が分からん……」

ある時は暴走するPKMを鎮圧して、ある時はオフィスで書類整理、ある時外を巡回している。
とりあえず休んでいるように見えないよなぁ。

真莉愛
 「えと、そちらは今回初めて保護責任者に登録された百代絵梨花さんですね? わたくし今回のプランナーを務めます御影真莉愛と申します」

絵梨花
 「はぁ、初心者なので、宜しくお願いします」

絵梨花さんは呆気にとられていた。
そもそもこういう雰囲気が一般的に慣れる物ではない。
しかも場合によってはここでホストとしてPKMを迎え入れる訳だからな。

真莉愛
 「因みに、どのようなPKMをご希望でしょうか?」

絵梨花
 「その、私出産を控えているので出来れば一緒に子供を看てくれる子がいれば、と」


 「赤ちゃん……」


 (茜も興味あるのな)

茜も年頃の女の子、大きなお腹には興味もあるし、いずれ母になるイメージもあるのだろう。
絵梨花さんも同様にこれから本格的に身重になると考えると、本来なら父親がケアするべきだが、PKMに負担を軽減して欲しいと言うのも分かる。
情操教育としてペットを飼うという話もあるし、PKM次第だが優秀なベビーシッターにもなり得るだろう。

真莉愛
 「なるほど、因みに公式サイトはご覧になられたでしょうか?」

PKM保護情報は公式ホームページで確認できる。
事前にここで確認しておけば、今日の面会もスムーズに行えるだろう。
まぁ俺は初めから知り合いを迎えにきただけだから、そもそもそんなにアレコレ考える必要もないが。

絵梨花
 「幾つか……そのチェックも入れたんですけど」

真莉愛
 「それではこのタブレット端末に面会を希望するPKMをご指定ください」

絵梨花
 「はい……えっと」

絵梨花さんは御影さんにタブレットを手渡されると、顔写真付きの一覧からタップ操作で面会希望リストにチェックを入れていく。
やがて5人ほどチェックすると、絵梨花さんはタブレットを御影さんに返す。

真莉愛
 「……! この子は……」

御影さんが何やら驚いた様子で俺を見てきた。
俺は何の事か分からず首を傾げる。

真莉愛
 「えと……それでは準備ができ次第始めますので、待合室でお待ちください」

絵梨花
 「分かりました」

真莉愛
 「次は常葉さんですけど……」

御影さんは何故か密着するほど接近してくる。
まるで絵梨花さんに聞かれたくないかのように小声で俺の耳元で囁いた。

真莉愛
 「あの人、セローラちゃんにチェック入れてるわ」


 「!? バッティングした……? その場合どうなるんすか?」

真莉愛
 「セローラちゃんがどちらを選ぶかね……勿論百代さんがセローラちゃんをご指名しなければ意味ないんだけど」


 「………」

……同じPKMを指名するという事態、それは珍しいがあり得る。
まだ確率20%だが、もし絵梨花さんがセローラを指名するなら、アイツは選ばないといけない。
あくまで保護者は一人、勿論セローラは俺たち二人を拒否する事も可能。


 「ねぇ、私も面会出来るの?」

真莉愛
 「え? ああ……保護者同伴なら問題ないわよ」

茜もセローラに会いたくてついてきた。
なんだかんだで茜とセローラは仲よさそうに見えたし、実際助けたいのだろう。
収容所の生活がどんなものか分からないが、少なくとも俺も約束してセローラには入って貰った。
そして約束通り迎えに来たのだ。

真莉愛
 「あ、準備が整ったみたいですので百代さんには面会室に移ってもらいます」

絵梨花
 「宜しくお願いします」

いよいよ面会が始まる。
実際に顔を合わせて、短い会話と印象だけで決めちまうお見合い結婚みたいだが、ここでPKMと保護者の運命は決まってしまう。
現状では出て行く数より増える数の方が多い。
より長く滞在するPKMの心理はどういう物なのだろうか。



***



面会室は拘置所のそれを思わせる。
中に立会人こそいないが、監視カメラによる撮影、そして防弾ガラス越しに人間とPKMが向かい合う。

セローラ
 「ヒャッハー茜ちゃーん! おっぱい揉ませろー!」


 「言っておくけどこの国では犯罪だから、訴えるよ? そして高額で勝つよ?」

早速茜を発見すると壁抜けしてでも跳びかかろうとするセローラを、茜は酷薄な瞳で追い返した。
あまりの変貌振りに絶望したのか、セローラは背中を壁につけ語り出す。

セローラ
 「あの女の目……養豚場のブタでもみるかのように冷たい目だ。残酷な目だ…。かわいそうだけどあしたの朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね! って感じの!」


 「……そんなに酷い顔した覚えはない」

茜も結構ショックだったようだ。
耳がシュンと垂れて落ち込んでいる。
やはり立ち回りはセローラが上か。


 「セローラ、とりあえず元気そうだな」

セローラ
 「まぁ三食きっちり食べさせてくれるし、寝床も暖かいと至れり尽くせりね。でも何よりも茜ちゃんが入れば元気百倍!」


 「その辺りで少し話があるんだがな……」

正直、俺は迷っている。
だが、これは俺が決めた事、それを今から彼女に伝える。


 「この後、百代絵梨花さんって言う人と面会予定のはずだ」

セローラ
 「え? どうしてそれを?」


 「もし絵梨花さんがセローラを指名したなら、受けてくれないか?」


 「ご主人様?」


 「勝手な事を言っているのは分かる。だけどセローラは最低限メイドとしての知識もある。これから身重になる絵梨花さんを支えて欲しい」

セローラ
 「一つ聞いて良いですか? その人はご主人様とはどういう……?」

それは、俺にとってどういう意味か。
元恋人と答えるのが正解なのか、それともただの知り合いとするべきか。
これ程不思議なお願いはセローラでさえ、お茶を濁さず聞いてくる。


 「同じマンションに住んでいる顔見知り……それ以上の関係ではないな」

俺はそう言い切った。
やはり俺の中で絵梨花さんが特別だと言う事はない。
向こうにとっては特別でも、俺にとってはその限りじゃない。
セローラは口元に手を当てると、じっと俺の目を見た。

セローラ
 「私……魂の濁りが見えるんです、今のご主人様は少し濁ってます……嘘をつくんですね」


 「嘘……俺が?」

セローラ
 「良いです。無茶苦茶澄んだ魂の持ち主なんてまずいないし、それで普通です。でもご主人様がそんな態度じゃメイドもはいとは言えませんよ」


 「そう、か」

俺はある程度は諦めよう。
そもそも確かにこれは勝手な話だからな。
こいつは俺がなるという約束でここにいる。
それがなければ、こいつは公園で暴れてでも俺といる権利を主張しただろう。

セローラ
 「条件は二つ! まず絵梨花さんという人が私を求めるか! 求めるならば受け入れましょう! でもご主人様はご主人様ですから! 私が貴方を好きだって決めた事は絶対曲げられないんです!」


 「……それ、プロポーズ?」

言ってて恥ずかしくなったのかセローラが顔を真っ赤にした。
そう言えば茜はこいつを純情だと評したことを思い出す。
好きという感情には真っ直ぐで、感情のコントロールは下手気味。
それがセローラなんだな。

セローラ
 「……コホン、そもそも絵梨花さんが私を求めなければどうするんです?」


 「責任とって俺がお前を迎えるよ」

セローラ
 「それ……どっちにしろ私にメリットしかないし……」

顔を真っ赤に染めて、目線を逸らしたセローラが小さく呟く。
俺自身別にセローラが嫌いじゃない。
セローラが家の環境を嫌わなければ何の問題もないのだ。

『面会時間終了です、速やかに退室してください』

放送が流れる。
俺は席を立つと最後にセローラを見た。
セローラは今もまだ真っ赤になってモジモジしている。
それがセローラの本質だと理解した。


 「じゃ、後でね」

セローラ
 「おっぱい揉み揉みの刑は外せないんだから」


 「無事出てきたらね」

俺たちそう言い合って退室した。



***



絵梨花さんの面会終了は夕方になっていた。
俺はセローラの決断を待つため、のんびり待っていた。
そして終わったとき、俺の横には茜しかいなかった。
何故ならそれは……。

絵梨花
 「よろしくね、セローラちゃん!」

セローラ
 「畏まりました奥様、このセローラ、必ずお役にたって見せますわ」

絵梨花さんの隣にはセローラが立っている。
古風なメイド服に身を包んだ、普通の少女。
絵梨花さんと比べても取り立てて大きくもなく、横にならべば姉妹のようにさえ見える。

セローラ
 「奥様、少しだけお時間頂きますわ」

絵梨花
 「え?」

セローラが入口の辺りで待っていた俺の元にやってきた。
セローラはその大きな瞳で俺の目を覗き込む。

セローラ
 「ちゅ……。貴女のこと好きなんだから」

セローラが背伸びをして俺の首筋にキスをした。
これは彼女なりの反抗だと思う。
本来なら俺が正式なホストになるはずだったのを、俺が蹴った形だ、それでもセローラは俺の意見を受け入れてくれた。
それは純粋に好意による物だろう。
セローラはそれっきり絵梨花の傍を離れようとはしなかった。
決して絵梨花に無茶はさせず、猫を被って接する。
選ばれなければ意味はない、だからセローラでもあれ位は熟せる。
そうでなければ、不真面目メイドのセローラがメイド業が長続きする訳がないのだから。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第7話 絶対無敵迷惑純情メイド登場! 完
第8話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/22(月) 12:10 )