突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第6話 非日常の現実

突ポ娘シリーズ 第1作 常葉茂と茜編


突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第6話 非日常の現実

真莉愛
 「ターゲットを取り逃がした?」

夜……もう日付を跨ごうかという時間帯に私はある廃工場に来ていた。
そこには完全武装した自衛隊員が10名はいるだろうか。

真莉愛
 (PKMの保護とは言うけど……それが必ずしも丸く収まるとは限らないのよね)

私たちはPKM対策班の仕事は『保護』と『対処』だ。
既に防弾ベスト、ガスマスク、更にアサルトライフルで完全武装した自衛官の様子から分かるように今回は『対処』事案だ。
私は一応穏健派という派閥に属する、出来れば穏便に保護したいところだが、少しでも対処が遅れればどんな想定外の事態を招くか分からない。


 「……マスター、どうやら対象は我々に気付いて逃げたようです」

私の後ろ、正確には影の中に私が保護するPKMがいる。
ダークライの愛紗(アイシャ)、私が最初に保護した女の子であり、私と共に戦う事を誓ってくれた大切な娘だ。

事件は15時32分まで遡る。
ある一匹のPKMがゲートから出現、その保護を取り扱った人たちは抵抗に遭い、負傷した。
この時点で上は『保護』から『対処』に切り替えた。
PKM対策部には3段階の状況がある。
まずは対話によって行う『保護』の段階。
それが不可能だと、抵抗を無力化させる第2段階『対処』だ。
殆どの場合は対処の段階で決着がつく。
余程のことがない限り、PKM単体で国家権力と戦えるほどの力はないからだ。

そして私が最も恐れるのは第3段階『抹消』だ。
第3段階では内閣府から特定災獣対策本部が設立され、情報統制と現地の強制退去が行われる。
まぁ……『抹消』まで至った事案は一つもないが、万が一その段階まで進めばこの世界に『ゴジラ』が現れたのと同じなのだ。
人類の災厄に対し、人は全力で抗わないといけない。
例えお互いがそれを望まなくても、理解のすれ違いがそうなる可能性もある。

真莉愛
 「貴方で無力化出来なかったって……どういう事なの?」

愛紗
 「私のダークホールは命中しました……ですが眠らなかったんです」

眠らない……それは『不眠』あるいは『絶対眠り』の特性が考えられる。
殆どの事案が『対処』で留まっているのは愛紗の功績が大きい。
大抵のPKMは眠れば無力化される、その間に適切な方法で拘束すれば問題ないからだ。
だが、今回に限り愛紗の手に余った。
他にも2人のPKMが対処に当たったが、それもやはり手が足りない。

私は廃工場の上を見た。
そこには普通の太さではない糸が無数に垂れている。

真莉愛
 「……日が明けるまでに決着を付けるわよ、日が明けて万が一『抹消』までいったらもう怪獣対策と変わらなくなる……それだけは絶対阻止するの!」

愛紗
 「イエス、マイマスター」

愛紗は頷くと闇の中に潜航する。
怪獣映画は見る分には楽しいけど、現実には必要のない存在だ。
ただ一匹でも怪獣が現れれば、国家は転覆しかねない。
少なくとも全ての怪獣になる可能性がある物は文字通り消されるだろう。
そう……今朝出会った茜ちゃんや、ポケにゃんの娘たちまで可能性があるだけで消されかねない。

諜報官
 「御影さん、今回の事件ロシアとアメリカ、それに中国が動いているようです」

私と同じ格好をした諜報官は部署は違うが、この国のエージェントであることには違いない。
外務省の内調はこの事件が日本だけの問題ではないという。
PKMは世界中に出現しているが、どういう訳か日本国内で異常なほどゲートの出現が多い。
例えば遠く離れたアメリカではPKMの出現は推定で100件に満たない程度。
一方で日本は既に600人もPKMが出現している。
それ故に情報統制はされているが、PKMを狙う各国の諜報機関や、PKMを新たな奴隷として売り飛ばしたい闇バイヤーでこの国は溢れかえっている。
国内でさえアウシュビッツのユダヤ人虐殺の再来になりかねないのに、他の国では軍事的にも価値の高いPKMは喉から手が出るほど欲しい訳だ。

真莉愛
 「……そっちは対人部隊で対処して、マンイーター部隊なら可能でしょ?」

諜報官
 「PKMだけで対処する気ですか?」

真莉愛
 「国民感情的には人的損害はそれだけで内閣支持率の低下を招くもの、そういう意味では最適でしょ?」

言ってて虚しくなるが、果たしてこの国に何人その行く末の興亡を見据えているだろう。
多くの人間は今が好ければ、未来なんてどうでもいい。
結局私たちの戦いは今日も普通でしたを作る戦いだ。



***




 「く……ぅ! やっと復旧したぁ」

俺は運営会社に復旧の連絡を入れると、帰る準備をしていた。
スマホを見ると深夜23時32分、走れば終電間に合うかも。
それにしてもエンジニアの仕事ってキツいんだよな。
特にサーバーメンテできる人間ってウチだと俺くらいだし、万が一にもサーバー落ちたら地獄だ。
既にオフィスは真っ暗で、階段を使ってビルを降りていく。


 「……とりあえず終わった連絡はしたし、晩飯どうするか」

俺は既に晩飯の用意は入らないと連絡しておいた。
とりあえず何とか電車に間に合えば、向こうのコンビニで弁当でも買えばいいだろう。

最後の戸締まりも終えて、俺は駅へと軽く走り出す。
深夜の街並みはビル街となると流石に薄暗い。
それでもコンビニや飲食店の灯りが街を照らしている。
この世界に完全な闇はないのかもしれない。
そして駅へとたどり着くと俺は時間を見た。


 「よし終電に間に合……何故だぁぁぁー!?」

俺は電光掲示板を見て世紀末石油王ばりの絶叫をしてしまった。
電光掲示板には事故につき、運行中止とある。
つまり電車は利用出来ないと……実際幾らか戸惑いの声が出ているが、工事が終了するまで利用は出来ないと、渋々駅を出て行く。


 「とりあえず選択肢は3つ」

一つは歩いて帰る。
時間は掛かるわ、疲れるわで出来れば選びたくない。
んで2つ目がタクシーを拾う。
金は掛かるが確実だ。
そして駅前には確実にタクシーが止まって……。


 「いねぇー!? 全車無しってなんのイジメだよ!?」

……最悪のことにタクシーが全部出張っているようだ。
恐らく電車が止まった影響だよな。
待っていたらタクシーが集まってくるかもしれないが、とりあえず2つ目の選択肢は除外。

さて3つ目はもうこの辺りで泊まると言うことだ。
もう深夜だし、カプセルホテルがあればそこでいい。
何ならマンガ喫茶かカラオケ店にでも行くか。
これが一番現実的だよな。


 「外泊、連絡しないとな」

俺は適当な店を探しながら、スマホを弄くる。
今日はこっちに泊まる……と。


 「ん……あれ?」

俺はスマホから目を離し、薄暗い闇を見た。
本来なら歓楽街沿いに出来る単なる闇だ。
だが、時としてその局所的に出来た闇が気になる。
例えばそこに蹲る女性がいたりしたら。


 「て、うおい!? 大丈夫か!?」

俺は闇へと近づく。
闇の中には女性が苦しそうにしていた。
だが、それが人間でないのは殆ど目の前にたどり着いてやっと分かった。


 「はぁ、はぁ……あああ!」

それがPKMだと分かる距離にたどり着いたときには、女性の手が俺の首を捉えていた。


 「ぐっ!?」

女性
 「はぁ、はぁ! お前! 何者だ! ここは何所なんだ!?」


 (あれ? この人よく見ると……)

女性の目は虫のように白目がない。
美しい顔立ちだが、その目から異形さはでている。
紫と黄色のストライプ模様の脚が腰から4本生えており、アラクネに見えるが骨格は異なるようだ。
黒いライダースーツのような物を着て、一見グラマラスで美しいが、その実態は傷だらけだった。


 「あの、とりあえず首……」

ドサッ!

女性の握力が唐突に落ちた。
それは単純に女性が解放してくれた訳じゃない。
単純に女性が弱っているんだ。


 「げほ……大丈夫か? 何があったか知らんが見て見ぬ振りも出来ん。俺でよければ力になるぞ?」

女性
 「はぁ、はぁ……何故そう優しくするの?」


 「優しくって……こんなの普通だよ!」

とりあえず先ずは治療が必要か?


 「よし! ドラッグストア発見! ちょっと待ってて!」

俺は急いでドラッグストアに駆け込んだ。



***



ドラッグストアで買ってきたのは医療品と食べられる物。
俺はまず女性の手当を始めた。
改めて女性の全身を見ると傷だらけだから、消毒して包帯を巻いていく。

女性
 「うう……!」


 「染みるけど、ごめんな……でも、ちゃんと治療しないと痕がのこるかも知れないし」

俺は粗方女性の治療を終えると、飲み物を差し出す。

女性
 「その……ありがとう」

完全な黒目はイマイチ感情が読み取れない。
だが、治療を終えると女性は既に興奮状態も脱しており、今は穏やかだった。
会ったときは殺されるかと思ったが、実際は人間の首でも簡単に折りそうだが、そうしなかった。
つまり根本的には優しい女性のようだ。


 「俺は茂、君は?」

女性
 「アリアドス……それ以外はない」

女性は人間に直すと20代位だと思う。
アリアドス、それは蜘蛛型のポケモンで、毒虫タイプのポケモン娘。
一見アラクネのような6本足に見えるが、腰の前の脚は動くようだが、腰の後ろの脚は偽物の脚のようだ。

腰の辺りは大人らしく豊満で腹のように見え、そして腰の細いくびれは虫タイプらしい。
つまり客観的に見て超美人!


 「そうかぁ……とりあえずこれからどうするべきかな」

とりあえずアリアドスの治療も終わり、食事も終えると深夜1時を迎えていた。
アリアドスは名前もないし、ここが何処かさえ分かっていない。
つまり未発見のPKMと思われる。
とすると警察に連絡するのが義務な訳だけど、問題はアリアドスの方だな。
とりあえず俺には心を開いてくれたみたいだけど、最初の様子から察するに、人間不信の可能性は高い。
ていうか明らかに受けた傷が最近過ぎるし、もしかして電車の事故とこの娘は関係しているのかも。


 『見つけた』


 「は?」

突然、闇から女性の声が聞こえた。
闇の中から紅い瞳が浮かび上がる。
それが何か……それを判断する時間はなかった。

アリアドス
 「またお前か!?」

その瞬間、俺の体は空を飛んでいた。
アリアドスが俺の体を抱き寄せると糸を出して直ぐさま上に退避したのだ。


 「わお!? スパイダーマン!?」

即アリアドスが出した糸はテナントの天井から生えた避雷針に絡まり、俺たちは天井にたどり着く。
さながら女性版スパイダーマンのアリアドスは次の移動先を検討しているようだ。


 「もしかしてさっきのに襲われて怪我したのか!?」

さっきのは一体何だったんだろうか?
声からして女性の様だったが、一瞬紅い瞳を見ただけで詳細が分からない。
闇の中から現れるポケモンって事はゴーストタイプか?
しかしそうなるとゲンガー等が思い浮かぶが、何で襲われているんだ?

アリアドス
 「アイツら訳も分からない内に襲ってきたんだ!」


 「ちょっと待て! らって複数かよ!?」

兎に角遠くに逃げる、アリアドスは次から次へと糸を出して飛び回る。
つか、俺も一緒に逃げているけどこれってどうなんだ?
なんか嫌な予感がしまくる訳だが。


 「とりあえず隠れよう! そして警察に保護を求めよう!」

アリアドス
 「信用出来るの?」


 「そこまでは分からん。だが俺が何とかする!」



***




 「……」

私は入口でご主人様の帰りを待ち続けた。
ご主人様は結局帰ってこれないそうだ。
それでも、もしかしたらひょっこり帰ってくるかも知れない。
だから真っ暗闇の玄関で私は待ち続ける。
その分帰ってきたら一杯ご主人様を労おう。
そして一杯頭を撫でて貰おう。
……だから無事帰ってきて欲しい。

保美香
 「茜、そこで待っていても今夜中には帰ってきませんわ」


 「……」

後ろから心配して保美香が現れた。
私は少しだけそちらを見るとまた玄関の方を向く。

保美香
 「貴方がだんな様と1日でも会えないのをそんなに焦燥するとは知りませんでした。ですがそのために風邪を引いてはだんな様が悲しみますわよ?」

……焦燥。
ご主人様が帰ってこない……それに寂しさを感じない訳がない。
ご主人様と離ればなれになった異世界での半年間、その間に華凛さんやセローラ、メイド長等、色んな人達のお陰で気は紛れたがそれでも、ご主人様への寂しさを忘れた日はない。

保美香
 「せめてお部屋で待ちませんこと?」


 「……」

私は何も言わない、態度で示す。
私はここでご主人様の帰りを待つ、それが一番自分の痛みを和らげてくれる。

保美香
 「はぁ……分かりました。毛布持ってきますわ……。最近の貴方は気丈に成長してたから忘れていましたわ、貴方が最もだんな様への依存が強いこと」

気丈でいられるのは、いつも通りの日常があるから。
それが一度でも崩れれば、自分が自分でなくなる。
私という本質は外にも出られない弱々しかったあの頃から何も変わっていない。
私はご主人様の奴隷で充分で、ご主人様に見捨てられたくない卑しいポケモンだ。
怖いんだ、ご主人様がふと私を捨てること。
捨てられてからじゃ遅い、その前出来ること全てご主人様に尽くさないといけない。
そうしないと悔やんでも悔やみきれない。

保美香
 「風邪だけは引かないように……ね?」

保美香は毛布を持ってくると肩から掛けてきた。
この時期の夜は殊の外寒い。
寒さには慣れているけど、毛布は暖かかった。



***




 「……とりあえず捲いたかな?」

俺たちはとある倉庫街に侵入するとなんとか一息ついた。
時間を確認すると……ぐは、深夜2時っすか。
家に連絡をいれるべきか考えたが、流石に丑三つ時なので止めておく。
とりあえず警察に連絡はしておいた。
一応これで近隣の警察署から警官が来てくれる筈だけど、問題は時間だよな。
謎の追跡者は未だに正体分からず、今も捜索されている可能性が高い。
俺の目的は速やかにアリアドスを警察に引き渡して安全を確保すること。
流石に相手も国家権力に保護されたアリアドスを襲撃はできんだろう。
ここまで耐えきれば一応勝ちという事だ。

アリアドス
 「……貴方って不思議ね」


 「え?」

深夜でテンションもおかしくないそりそうな時間にアリアドスと二人っきりだと、こっちも変になりそうだが、向こうも俺が変だと感じているらしい。

アリアドス
 「……分からない。突然この世界に飛ばされて、姿は人間みたいになるし……それなのに貴方は私を助けようとしてくれる……」


 「ああ、それな。俺も経験あるから分かる。まぁ困ったらお互い様って事で」

俺も正直異世界に飛んだ先にナツメがいたのはスゲー運が良かったと思う。
もし全く別の場所、それこそ戦場のど真ん中とかだったら知り合いも作れないまま死んでたかも知れない。
要するに俺は運が良くて、アリアドスは運が悪い。


 「よし、ならこう考えよう。お前はご都合主義のヒーローに助けられたって!」

アリアドス
 「ヒーロー? くすっ……おかしいわ、全然弱っちいのに」


 「だからって強い奴だけが助ける権利を持っているか? 弱っちい奴は誰も助けちゃ駄目か?」

アリアドス
 「……ありがとう」

アリアドスは頬を赤らめると小さくそう呟いて、そっぽを向いた。
人間離れした美貌に、身体能力は人間にとって純粋に驚異である。
それこそライオンや熊なんて目じゃない力を持つのがポケモンだ。
でも心の本質は人間と変わらない、寧ろ人間より毒気がない分ポケモン娘は純粋で脆い様にさえ思えるんだ。
このアリアドスにも必要なのはこうやって傍にいることだと思う。


 「ふあ……! 眠い……明日も仕事なのになぁ」

アリアドス
 「良かったら私の体を使って? 枕くらいにはなれると思うわ」

そう言うとアリアドスは太ももを差し出す。
おお、これは伝説の膝枕ではないか!


 「いやいい……それよりアリアドスは眠くないのか?」

アリアドス
 「私は眠らなくても平気だから」

……そういやアリアドスの特性って不眠だっけ。
眠らないで済むのって不眠症にはならないのかな?
それでなくとも夜は寂しそうだ。

アリアドス
 「……! こっち!」

アリアドスが何か……足音のような物に気付くと直ぐさま天井に糸を垂らして俺ごと天井に張り付く。
わざわざ落ちないようにアリアドスサイズの蜘蛛の巣を張り巡らせるとそこに着地した。


 「鉛筆の太さの蜘蛛の糸があればジャンボジェット機さえ止めるって聞いたが……マジっぽいな」

俺の体重を支えた蜘蛛の巣はハンモックのようにしなるが、落ちるような不安定さはない。
俺とアリアドスは蜘蛛の巣の上から下を覗くが、どうやら外が騒がしい様子なのだ。



***



真莉愛
 「ここで間違いないの?」

愛紗
 「はい……ただ不確定事項があります」

倉庫街の外にはアリアドスを包囲する完全武装した自衛官の姿が多くある。
更に中央には真莉愛と傍に従者のように佇む愛紗、茂の縁も所縁もない所で事態は大きく動いている。
勿論一般人に過ぎない茂では全容を理解しろという方が難しいんだが。

愛紗
 「幸い向こうは監視カメラも気にせず飛び回ってくれましたから追跡は簡単でした……しかしどうも民間人が捕まっているみたいで……


真莉愛
 「最悪の事態じゃない……民間人が巻き込まれないよう早期解決を目指してたのに……」

真莉愛には実に頭の痛い事態だ。
民間時が巻き込まれれば、銃器なんて絶対使えない。
スナイパーライフルでの狙撃もPKMに通用するか不確定、中には銃弾を摘まむようなPKMも確認されている以上、そもそも最も望ましいのは飽和射撃だ。
その手が事実上使えなくなった事は最悪だ。
民間人を殺傷したとなると、内閣不信任決議は間違いなく進む。
それどころか、各国の諜報員の侵入を許す事態になりかねない。
PKM保護を日本に任せられないと国連決議でも通ればそれこそ日本はPKMの売り買い市場と化してしまうだろう。

真莉愛
 「絶対に民間人は無傷で取り返す! PKMも無力化するの!」

愛綾
 「ですが……立体的な場所では機動性の低いアリアドスでも、蜘蛛の巣を這い巡らせ信じられない立体機動を発揮します……PKMだけで取り押さえるには」

……そう手が足りない。
例え鍛えた自衛官でもそれは無理、必然的に同格のPKMに任せるしかない訳だけど、地の利は相手にありか。

真莉愛
 「ああもう! サーチライト点灯!」



***




 「うお!? 眩しっ!?」

突然倉庫の隙間から光りが零れる。
外に何かがいるのは分かっていたが、これが異常事態なのは俺でも分かる。

真莉愛
 『PKMに告ぐ! 大人しく投降しなさい! そして民間人を巻き込まないで!』

拡声器から女性の声が響いた。
それは紛れもない警告だ。
俺は顔を青くしてアリアドスを見る。


 「アリアドス……これって」

アリアドス
 「奴らだ……有無言わず私を攻撃してきた!」

アリアドスが強い敵意を向ける。
やばいよやばいよ……○川哲朗じゃないけどやばいよ。
民間人って間違いなく俺だよな?
それに投降って……。


 「アリアドス……俺の手を繋げ」

アリアドス
 「え?」

俺はその柔らかな美しい手をギュッと握る。
うん、やっぱりこの子は護らないと。


 「お前のことは絶対護る……俺の手を絶対離すな」

アリアドス
 「……うん」

俺たちは蜘蛛の巣から降りる。
そして倉庫の扉を開きにいく。

……くそ、怖いな。
開けたら有無言わさず銃撃されないよな?
最悪俺は肉の壁になってもアリアドスを護る。


 (弱っちいか……そりゃ俺だってオールマイトみたいな力があれば笑って切り抜けるさ、でも普通の人間にはそんなの)

マンガやアニメの世界だから笑っていられることも、現実では起きて欲しくない。
銃撃戦なんて一生巻き込まれたくないし、人生は平穏が一番だ。
それでも弱っちくても何かを成し遂げたいという想いは強い奴と何も変わらない。

アリアドス
 「貴方、手震えているわ」


 「ごめんな、俺はお前を見捨てられるほど薄情には出来てないらしい……手に届く範囲ぐらいなんとかしたいんだ!」

今も俺の手はアリアドスの手を握って暖かい。
この暖かさを絶対護らないといけないんだ。

ギィィ!

俺は覚悟を決めて倉庫の扉を開いた。
直後車のヘッドライトよりも強い光が網膜を襲った。
俺は強烈な光に目を細めながら握った左手は離さず、右手は上に上げる。


 「俺たちは争うつもりはない! 今ここにはアリアドスを保護するために警察が来ている! それでもアリアドスを襲うなら!」

直後だった。

警察官
 「……あの、これはどういう事態で?」

真莉愛
 「サーチライトの出力落として」

光が弱くなった。
俺は事態が直ぐには飲み込めず。
ただ拡声器を持った女性の隣の警察官を見た。

警察官
 「えーと、PKMの保護に来たんですけど、貴方が通報者ですか?」


 「そ、そうです! この娘アリアドスを保護してください! 全身も怪我しているし! 出来れば病院にも!」

真莉愛
 「ふ……あっはっは! なによこれ!?」

突如拡声器を持った女性が笑いこげる。
何事か全員が戸惑っていると彼女の言葉は続いた。

真莉愛
 「これの何所が対話不可能よ!? 彼は全然対話出来てるじゃない! 自衛隊は即時撤収!」


 「……え!? 自衛隊!?」



…… 時として事態は個人ではどうにもならない局面を迎える。
問題の原因は何所にあるのか、そんな物は既に形骸化していて優しいアリアドス一人を巡って今夜は多くの人間が右往左往してしまった。
それはまるでバタフライエフェクトのように最初は些細だったに違いない。
でも結果として蝶の羽ばたきはいつか暴風雨になる……今回はそんな事件だった。

真莉愛
 「本当に御免なさい! 初動における接触でそちらに誤解を与えた事謝罪します!」

自衛隊が速やかに撤収したあと、救急車を待つ俺たちはようやく事態を把握するに至った。

15時20分、ゲートを通じて召喚されたアリアドスは見たこともない世界、訳の分からない自分の身体に戸惑っていた。
15時32分、接触を図った二名のPKM対策班は不用意に彼女に触れたことで、反撃に遭い、アリアドスは逃走したのだ。

アリアドス
 「……本当に怖かったのよ? 知らない世界で怪しい人達に腕を捕まれたんだから」

真莉愛
 「その点はこちらの不手際と謝罪しかありません。必ずこのような事態を再び招かないよう再教育を施しますので」

そして16時40分。
対策が『保護』から『対処』に切り替わると、PKMで構成された対策部隊がアリアドスを攻撃。
アリアドスはなんとか退けるも、誰も信用出来る物がない中で、逃走が続く。
23時58分、俺はボロボロのアリアドスと遭遇し……そして現在に至る。

アリアドス
 「はぁ……まぁいいわ。お陰でこんな素敵な人に出会えたんだし」

アリアドスはそう言うと俺の腕に抱きついてきた。


 「ちょっとアリアドス?」

アリアドス
 「一つだけお願い……私に名前を頂戴、貴方とお別れする前にそれだけ欲しいの」


 「名前……分かった。それじゃ杏(あんず)ってどうだ?」


 「杏……ありがとう、この名前一生大切にするわ」

杏は金銀世界におけるセキチクジムのジムリーダーから頂いた。
俺は杏の頭を何となくだが優しく撫でた。
杏は驚いた様子だがやがて優しく微笑む。
最初は異形に見えた白目のない瞳も、気がつけば可愛らしく思える。
まぁ吊り橋効果って奴だろうけど、俺と杏はそれだけ仲良くなったんだな。

……やがて救急車がやってくると杏は病院へと運ばれていく。
最後に俺はこの御影真莉愛さんと二人っきりになった。


 「杏のこと……絶対よろしくお願いします!」

真莉愛
 「常葉さん……私こそ貴方に謝らないといけないわ。貴方は立派よ、どんなPKM相手でもああやって受け入れるでしょう……でも今の私たちでは貴方のような人に負担を与えることしか出来ない」


 「……今回初めて知りました。PKMの保護って過酷なんですね」

真莉愛
 「そうね、何せ相手は未知の存在、全ての人間が貴方のように偏見や畏怖を無くせる訳じゃない……それでも私たちはやるしかない」

PKMが確認され、そしてその存在を隠し通せなくなり日本政府がPKMの存在を発表して4カ月間……テレビでは世界全体で1000を越えるPKMが召喚されているという。
PKMは親しき隣人なのか、恐るべき侵略者なのか。
この世界に今日もPKMは召喚されている……その事を俺たちはもっと深く考えないといけない。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第6話 非日常の現実 完

第7話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/20(土) 21:56 )