突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第三部 突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語
第1話 歴史改変されてしまった世界

突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語

第1話 歴史改変されてしまった世界


 「だぁぁぁ! 理不尽だぁぁぁぁあっ!」

この現代日本はまさに辺獄といって過言ではないだろう。
日々の楽しみなど、過酷な現代社会は容易に神経を削っていく。
一体この世の何が楽しいのか、これなら賽の河原の方が余程天国ではないか。
この世はまさに地獄、人類は疲れきっている。

……て、壮大な前置きを置いたが、現実はそこまで深刻ではないと思う……ただ、理不尽なんだ。


 「9月3日ってどういうことだよぉぉ! 確かに飛ばされた日は8月28日だったろう!? 空気読んでも9月1日とかよぉぉ!」

カリン
 「ダーリンはなんであんなに焦っているのだ?」

ナギー
 「うむ、しかも暦を気にしているようだが……」

くそう、人の気も知らずにのんびり保美香の入れたお味噌汁を飲んでいるのは異邦人のカリンとナギさんだ。
異世界から帰還したこの日、できるならゆっくり休みたかったが、そうは言ってられないのだ。
何故なら俺が休暇として申請したのは8月31日まで。
旅行自体は28日までだが、余裕もって末まで取っていた。
それはいい、だが今は9月3日なのだ!


 「無断欠勤3日とか洒落になってねぇぇ!!!」


 「ご主人様は社畜だから」

カリン
 「ふむ、よく分からないがダーリンが困っているのなら助けるのがワイフの務めだな」

保美香
 「あらあら、もう正妻気取りですか?」

ナギー
 「……一応私だって選ばれたんだぞ」


 「ほらほら! 家族で喧嘩すんな! バッグの中身良し!」

保美香
 「かなり粗末な物ですが、お弁当も用意致しましたわ」


 「お、サンキュー保美香!」

保美香は普段凄く時間をかけて、弁当を用意してくれるが、今日ばっかりは保美香も時間がなかったはず。
にも関わらず懐かしの弁当箱を用意してくれた。
俺はそれをバッグに仕舞うと。


 「ご主人様、ネクタイ曲がってる」

丁度未だに着替える時間の無かった茜はメイド服のままだ。
彼女はうんと背を伸ばすと俺のネクタイを正してくれた。
うーむ、昔はこんな事してくれなかったのに、良い子に育ってくれた物だ。

美柑
 「主殿、時間7時35分!」


 「よし! 全力で走れば間に合う!」

伊吹
 「行ってらっしゃ〜い〜」


 「行ってきます!」

俺は全ての準備を終えると、マンションを飛び出す。
いざ、出社!



***



カリン
 「それで、どうすればダーリンを助けられる?」

ご主人様が慌ただしく出社した後、のんびりお茶を飲んでいたカリンさんはまだそんな事を言っている。
とりあえずカリンさんとナギーさんにはまず、この世界のルールから説明していかないといけなさそう。

ナギー
 「所でずっと気になっていたのだが、あの黒い板はなんだ?」

保美香
 「それはテレビ……て説明しても分かりませんわね」

美柑
 「とりあえずポチッとな」

美柑がリモコンを手に取ると、テレビの電源が入る。
丁度この時間帯ならスーパー戦隊が……。


 「はっ!? ……あ」

私はこの半年(体感時間)の間に致命的なミスをしていることを思い出した。
それはあまりにも衝撃的で手を地面についてうなだれる。

美柑
 「茜さん、どうしたの!?」


 「8月26日から9月3日までの一週間……1話見逃してる」

それはとても致命的な事だった。
ストーリー物で1話見損なって次の話を見るときの虚無感はなんとも言い表せない。
録画していればよかった……。(泣)

カリン
 「おい……板の中に何かいるぞ?」

ナギー
 「なんなんだこれは? まさか異世界の映像を映しているのか?」

伊吹
 「あはは〜、お約束〜」

全く期待は裏切らないがこっちはそれ所じゃない。
いきなり味方に死者が出てたりしたら、見てない視聴者はちんぷんかんぷんなんだよ。
CMとかはまだ良いよね、再放送の機会いくらでもあるし。

カリン
 「お、おおお!」

保美香
 「テレビを見るときは部屋を明るくして、離れてみてね。かしら」

カリンさんは意外なほど現代社会に興味津々のようで、テレビには食い入って見ていた。
一方でナギさんは奇っ怪な物を見る目だが……幸か不幸か、特撮物(今は某ライダーの時間)のお陰で結構食いついて見ている。
やっぱり特撮は良い、○リキュアもだ。
いくつになっても楽しめる。

保美香
 「さて、新人がテレビに食いついている間に、お洗濯をしますか」

伊吹
 「それだけど〜……なんか〜、妙に部屋が片づいていると思わない〜?」

それは小さな違和感だ。
確かに言われてみれば、旅行から帰って直ぐにゲートに吸い込まれた以上、リビングには旅行の荷物が散逸しているはずなのに、それらは無かった。

美柑
 「言われてみればお風呂場も、片づいているし……」

保美香
 「実はわたくしも気になっていたんですわ……7日も部屋を空けていた筈なのに……埃一つ落ちていない!」

美柑
 「いや、流石にそんな直ぐに埃は……」

保美香
 「甘いですわ! 毎日の掃除を怠れば、奴らは蔓延るのです!」

ナギー
 「なんだ? なんの話だ?」

異邦人であるナギさんには全体的に無意味な話だ。
だが違和感は確実にある。
とりあえず保美香の潔癖症は置いておいてもやっぱり何か違うんだよね。

美柑
 「さてと、それじゃボクも向こうの世界では随分サボっていたし、トレーニング再開しますか!」

伊吹
 「アタシもお散歩する〜♪」

ナギー
 「ふむ、私もこの街の空を飛んでみたい」

ナギさんは既に飛びたくて仕方がない様子だった。
流石にこれは私たちも顔を合わせて悩んでしまう。

保美香
 「あれは、鳥か? 人か? いや、ポケモン娘だ! になるだけでは?」

美柑
 「それだけなら未確認飛行物体で済むけど、確実にフライングヒューマノイドとか、モスマン扱いですよね」

伊吹
 「それどっちもアメリカのUMAだし〜、日本だとあり得ないし〜、何かアメリカの陰謀とかに〜巻き込まれない〜?」


 「在日米軍とかもあるし、F22に迎撃されたり?」

うーむ、やはり現代日本でナギさんは目立ちすぎる。
少なくとも飛行は禁止の方向かな。

保美香
 「ごめんなさい、ナギさん。飛行許可は出せないわ」

ナギー
 「何故だ!? 鳥ポケモンが飛べないなんて……」

美柑
 「こっちじゃ、ポケモン自体が珍しいんですよ、私たちだって隠れ住んでいるような物ですし」

カリン
 「さっきから会話が聞こえているが……じゃあこれは?」

ずっとテレビに釘付けだったカリンさんは、テレビを指差す。
テレビには既にニュース番組に切り替わっていた。

『先日日本政府が発表した、PKMたちの顕現が最高の100件以上に昇ると発表しました。これについて専門家は、ゲートの出現、そしてPKMのゲートからの顕現は加速度的に増加しており、推定では来年までには1000件を越えると予想され、現行の法案では対応しきれないという危惧が』

伊吹
 「なにこれ〜?」

私は絶句した。
テレビに移っていたのは間違いなくポケモン娘。
そしてゲートとという呼称、そして既にそれらに対する法案が可決しているという。

『認可済みの個体は証明カードの所持の義務化がされていますが、現状では混乱を招く恐れもあります。ゲートの発見時は、不用意に近寄らず警察への通報をお願いします』

カリン
 「証明カード……もしかしてこれか?」

カリンさんは胸の谷間から一枚のカードを取り出した。
相変わらず突っ込みどころのある場所に隠すが、今はそれよりカードだ。

カリン
 「お、随分精巧な私の絵があるな」

私たちはカリンさんのカードを見ると、そこには。
PKM認可No.114
個体名 華凛
責任者 常葉 茂
現在住所 ○○○
電話番号
e-mail

と、顔写真付きであった。
それは明らかにあってはならない物。
何故そんな物が存在するのか。

ナギー
 「私も持っていた! 凪?」

ナギさんもやはり懐にカードがある。
そこにはPKM認可No.113 個体名 凪とある。


 「まさか……!」

私は慌てて寝室に向かう。
寝室には私の服がベッドに放置されており、服の上にやはりカードが。

PKM認可No.36
個体名 茜


 「なぜ……そんな物を作った記憶なんて無い」

私はそのカードを手に持ってリビングに戻ると、案の定、皆はカードを持っていた。

保美香
 「認可No.37……初耳ですわ」

美柑
 「ボクは40ですね……当然作った記憶なんてありません」

伊吹
 「42……この矛盾って一体〜……」

皆既に持っている。
まるで夢でも見ているかのようだ。
しかしこんなリアルな夢がある訳がない。
まさか……同じ世界に帰ってきた訳じゃない?

伊吹
 「タイムパラドックスの修正〜?」

美柑
 「どういう事ですか?」

保美香
 「信じがたいけど、歴史改変が起きた際、その矛盾を解消する力ね」

伊吹
 「でも〜、それって普通〜、記憶の改竄もないとおかしいんだけど〜」

……普通に考えれば、これだけ違和感を覚えれば、それは本来とは異なる歴史を辿った世界だと認識する。
でも、それなら記憶だけが過去の世界のままなんてあり得るのだろうか?
歴史が改変されれば、記憶も改変がされるはず。
難しい事は分からないけど、何かが大きく違うみたいだ。



***




 「はぁ、はぁ! すいません無断欠勤で!」

俺は兎に角全速力で会社に向かうと、仕事前の同僚たちはキョトンとした顔で俺を見ていた。
その中、いつも俺の隣で仕事をする同僚の大城が声をかけてくる。

大城
 「お前、確か休み9月6日まで取ってたろう? 寝ぼけたか?」


 「え? 俺は8月31日までの……」

大城がホワイトボードを指差す。
そこには各員のシフトが張られ、俺の欄には6日まで休みとある。


 「あれ? なんで?」

俺がこんな寝ぼけた事を言ったら、同僚たちは大爆笑する。

大城
 「あっはっは! なんだ? お前そんなに社畜だったのか?」

女性社員
 「常葉さんったら、おかしいの!」

……何やら、尋常では無い事だけは俺でも分かった。
どうして俺の休暇は延長されている?
それには何か理由があるはず、でも……そんなの分かるわけが無い。
大城
 「で、休み返上で働くのか?」


 「すまん、帰るわ……」

大城
 「ま! あんなに一杯のPKMと暮らしてたら、苦労も絶えないよな!」

? PKM?
聞いたことのない単語だった。


 「PKMってなんだよ……?」

大城
 「何って、ポケモンに似ているから、政府がつけた呼称だろ? えーと、茜ちゃんに保美香ちゃん、美柑ちゃんに伊吹ちゃん! 紹介してくれたじゃん!」


 (なんで!? なんで大城が茜たちの名前を知っている!?)

俺はずっと茜たちの事は隠してきた。
それは余計な混乱を招かないためであり、彼女たちを護るためでもあった。
でも大城は言った、俺が紹介したと。

大城
 「PKMの保護責任者って、国から給付金も出るとはいえ、恐ろしくてとても責任者なんて無理だよなぁ」

男性社員
 「しかも4人だろ? あんな得体の知れない奴らを4人って、常葉はやっぱり凄いよ!」


 (おいおい、悪夢でも見てんのか?)

こいつら全員茜たちを知っているらしい。
しかし、保護責任者とか、国の給付金とか……まるでポケモン娘の存在が、公に認められているかのような雰囲気じゃねぇか。
一体いつ? なんでそうなった?
く、混乱した頭が治まらない。


 「皆さん、お先に失礼します」

俺は頭を抱えると、会社を出た。
俺はビルを出ると、駅へ向かう途中気になった単語についてインターネットを頼ることにした。


 「とりあえずPKMで検索だな」

俺は某検索エンジンに任せると、検索結果にはPKM 顕現とかPKM 認可なんて言葉が出てくる。
たく……ジョン・タイター位のショックだぜ?


 「とりあえず認可ってのを調べるか」

それはどうやら日本政府が発行する認可制度らしい。
ゲートから顕現する未確認生物PKMは、国の保護対象になっており、通常は警察への通報が義務化されているようだ。
その中でルームメイトとして家族に迎えるのが、認可制度。
本人とPKMの了承を得て、認可されるらしく保護責任者はその身分証明と重要なIDカードが渡される。
そしてPKMも、保護下にあるという証明書がIDカードで発行されるらしい。
茜で調べてみると、保護責任者は俺となっていることが分かる。

そして次に顕現について調べた。
PKMの顕現はゲートと呼称される空間の歪みから現れるらしく、先月には100件以上の顕現報告もあるようだ。
そしてその保護に対する給付金だが、PKMの一般生活への難易度に応じて支払われるようだ。

俺は一応スーツを隅々まで調べると、胸元の内ポケットにIDカードはあった。
当然入手した記憶は無い。
だが、こうやって持っているのは事実だ。
俺はIDカードに書かれたIDを専用のサイトに打つと、パスワードを求められる。
……単純に考えれば。
もし、俺に記憶が無くとも俺がこれを作ったなら、このパスワードにする。
そういうパスワードを入れると、セキュリティを突破した。


 (つまり俺が作ったという証明になったわけだ)

パスワードを知らなくても、よく使うパスワードという物はある。
つまり本人であるならば、忘れていてもその法則性で答えに導けるという訳だ。
さて、俺のマイページには6匹のポケモン娘が表示されている。
それぞれ、茜、保美香、美柑、伊吹、凪、華凛とある。
後ろ二人は間違いなくナギさんとカリンか。
どうしてこの世界に来たばっかりのあの二人まで登録されているのか。
そして気になる給付金だが。


 (はぁ!? 月で200万!? どうなってんだよ日本政府!)

しかし、その破格の高額の裏には、ある思惑が見えた。
俺はある言葉に注目する。

茜 危険度C
保美香 危険度S
美柑 危険度A
伊吹 危険度B
凪 危険度B
華凛 危険度A


 (アイツら、茜たちを得体が知れないとか、俺には無理とか言っていたが……)

これが政府の見解。
ポケモン娘は猛獣と同じであり、常に危険がつきまとう。
つまり命の危険度に対して、給付金という名の補償金を与えるという訳……か。


 (ふざけんなよ! アイツらが危険だと!? ちゃんと見たのかよ! アイツらは危険じゃない!)

俺はスマホを強く握り、その怒りを抑え込む。
冷静になれ、どうせ怒っても何も解決はしない。
俺は改めてPKMについて調べるが、まるでPKMは保健所の動物扱いだ。
流石に保護とあるし、殺処分まではしていないと思うが、一度保護されてしまえば自由は奪われる。
そして保護責任者が現れるまで、PKMたちは保護施設にずっと収容されるようだ。



***



ガタンゴトン、ガタンゴトン!

俺は電車に乗って家へと引き返す途中、ある状況を目撃した。
通勤ラッシュを過ぎただけに、電車内は空いているが、皆ある方向を見てなにかざわついている。
俺はそれを見ると、そこにはまるで蜂を擬人化させたようなポケモン娘が一人立っていた。
その姿は下半身が蜂の巣のような形状をしており、ビークインだと分かる。
しかし乗客たちはそのビークイン娘を醜悪な眼差しで見ているではないか。


 「なぁ、そこのビークイン娘さん、座らないの?」

ビークイン
 「えと、貴方は?」

ビークイン娘は己が声を掛けると、驚いたように小さな返事をした。
まるで人間を恐れるような表情は、かつての茜を想起する。
俺はさすがにいたたまれないため、着席を促したが、彼女は動かなかった。


 「俺は常葉茂、君は?」

ビークイン
 「ご主人様にはハニーと呼ばれています」


 (そりゃまた安直な名前だな……)

ハニーという少女(?)は、とても大人しそうな子だった。
今は買い物帰りなのか、ビニール袋を持っており、立っているのは辛そうだが、彼女はあくまで立っている。


 「今なら空いてるし、とりあえず座ったら?」

ハニー
 「でも……皆さんはきっと嫌な思いをします……だから座れません」

嫌な思いって……それは当然この悪意ある囁きだろう。
確かに蜂の触覚、背中の羽、そして蜂の巣状の下半身は、あまりに人間とは異なる異形だが、この子が嫌な思いをしてまで気遣う必要があるのか?


 「分かった。座らないのは承知したが荷物は俺が持ってやるよ」

俺はそう言うとビニール袋を肩代わりした。
中身は殆ど日常品のようで、ポケモン娘が一般生活に溶け込んでいるのが分かる。

ハニー
 「あの、どうして親切にしてくれるんですか?」


 「俺は別に君を嫌悪する理由なんてないしな、寧ろ君は優しく、助けたいって思えるよ」

ハニー
 「それは……私には勿体ない言葉です」


 「誰かが嫌がるから自分が嫌な思いをするって、人間には中々難しいな、君は実際凄い」

ハニー
 「は、恥ずかしいです……」

ハニーさんは頬を紅くした。
少なくとも性格面では危険性は全くない。
だが見た目の危険性は高く、そう言う意味ではとても損しているな。
これで茜みたいな人畜無害なら気にしないだろうが、ビークインは辛いな。

ハニー
 「あ……着いたようです」


 「それじゃ、荷物は返すよ」

俺はビニール袋をハニーさんに返すと、ハニーさんはホームに降りて、俺に向き直ると頭を垂れた。

ハニー
 「ありがとうございました、このご恩は忘れません」

この子は近年稀に見る良い子だと思うけどな。
だが、よく注目するとハニーの首筋に痣が見えた。
それはまるで首輪の痣、俺はそれを聞こうとしたとき、電車は扉を閉め、発車してしまった。


 (……あの場所に痣って……しかも横筋が……普段首輪でもしているのか?)

冷静に考えると、彼女は妙に人間に怯えていた気がする。
気のせいならいいのだが、なにか事件性があるんじゃないかって勘ぐってしまうな。


 (……俺にどうにか出来る訳じゃないか)

結局、俺と彼女は他人だ。
今日偶々出会っただけの関係。
心配はしても、それで彼女になにか出来る訳じゃ無い。
結局……親切にするのが俺に出来る限界か。

俺はそこで諦めてしまう。
俺には俺で家族の問題は山積みだし、兎に角何が起きたのか調べないとな。



***




 「たく……よく見たらホームもなんか違う気がする」

俺は最寄りの駅のホームに降りると、勘ぐるように周囲を観察する。
流石に記憶上は半年前だし、覚えているか怪しい小物も多いが、可能な限り、記憶を思い出していく。


 「街の方が違和感出やすいかな」

俺は改札を抜けて、駅を出るとバスターミナルがある。
普段ならその脇を通って、住宅街に向かうが、今回は一応街並みにも注目してみる。


 「と言っても……普段から注意深くなんて見ないもんなぁ」

駅前の様子なんて、大体何所でも似ているようなもんだよな。
コンビニ、散髪屋、携帯キャリアショップ、飲食店。
うむ……違和感が無い。


 (うーむ、目に見える違いはそれ程ないって事か)

だとすると、暮らす上では気にしないでも良いくらい些細な変化なのかも。
むしろPKMという形で世界に認められたなら、茜たちにも良いかもしれないな。
アイツらがどういう奴らかは、俺が一番知っている。
保美香なんて、こっちじゃ知り合いだらけだし、きっとそれ程問題じゃ無いのだろう。

……俺も流石に心配しすぎたか。
これ以上は違いを探すのも徒労に終わりそうだし、そろそろ帰るか、なんて思っていると。


 「常葉君?」


 「え?」

それは突然だった。
駅の構内から出ると、突然眼鏡の女性に声を掛けられる。
俺は割と真剣に誰か考えるが、解答は出てこない。
やばい……誰だ?


 「えと、どなたですか?」

女性は多分俺と同じくらいの年齢じゃないかな?
黒い髪をお下げにしていて、眼鏡も地味な丸眼鏡。
体型も日本人的な撫で肩で、胸は少し大きいが、ポケモン娘に比べると大分現実的だ。


 「それ嫌がらせ? 高校では3年間同じクラスだったじゃない」

いや、同じクラスの生徒でもイチイチ顔と名前は覚えていませんよ。
とはいえ……同じクラスで3年間眼鏡の生徒……。


 「玉虫さん?」

玉虫
 「はい正解! なんだ覚えているじゃん……でも性で呼ぶって変だね、付き合っていた時は絵梨花って呼んでくれたのに」


 (ちょっと待て! 付き合った? コミュ障の俺が?)

今でこそ、コミュ力はポケモン娘や異世界召喚を得て、鍛えられたが、高校時代は友達一人いなかったし、女子となんて会話した覚えも無い。
当然玉虫さんの名前なんて覚えてなかったし、そもそもなんの接点もなかったはずだ。

絵梨花
 「ていうか、結局結婚式来てくれなかったよね、メールでも送ったのに」


 (冷静になれよ俺、とりあえず一つ分かった事は俺はリーディング・シュタイナーにでも目覚めたか?)

明らかに辿った歴史が違う。
どうやらこの世界線では俺はそれ程コミュ障でも無ければ、女子と交際出来る程だと?
そりゃビックリだよ……しかもメールって。


 (電話帳に玉虫絵梨花の名があるな……)

俺は一応スマホの電話帳を確認したら、見事にあった。
メールの履歴で見ても、確かに何通もメールが来ている。
全て既読になっており、気が付かなかった。

絵梨花
 「でも、正確にはもう玉虫じゃないからね……」


 「ああ、結婚したって言ってたもんな」

最近は姓を変えないっていうのも聞くが、普通なら夫の姓を名乗るからな。

絵梨花
 「貴方と別れなかったら、きっと今頃常葉絵梨花になってたのに」

そう言うと彼女はクスクス笑った。
俺はなるべく平静を装うが、内心は呆然としていた。


 (……正直その辺りがさっぱり分からん)

そもそもなんで付き合ったのか俺は知らないし、別れた理由も知らない。
だが、彼女は左手の薬指に嵌められた結婚指輪を気にしながらも、俺に上目遣いで見てくる。

絵梨花
 「今からでもよりを戻すなら、不倫しちゃってもいいけど?」

そう言う彼女は小悪魔的に笑っていた。
流石に冗談が過ぎるため、注意しようかと思ったが。

絵梨花
 「なーんてね、流石に常葉君に迷惑だし、私も家庭があるからね」


 「……その方が良いよ、折角結婚したんだし」

絵梨花
 「ついでに言うと、妊娠2カ月なのです」

そう言って腹を擦るが、玉虫さんの腹はそこまで張っておらず、まだ目立つ時期では無いようだ。


 「もしかして玉虫さん、この街に住んでいる?」

絵梨花
 「そうだよ、……て、常葉君も?」

俺はコクリと頷く。
なんの因果か、俺たちは同じ街に住んでいるらしい。


 「因みに家はどっち?」

絵梨花
 「あっちだけど……」

それは俺と同じ帰り道を指していた。
まさかと思うが……。



***



絵梨花
 「同じマンション?」


 「らしいな」

俺は4階、彼女は1階の住民らしい。
いつから住んでいるのか聞いてみるが、どうやら最近引っ越したらしい。
それにしても引っ越しの連絡もしてない俺たちってなんだかなぁ。

絵梨花
 「ふふ、運命なんてあんまり信じて無かったけど、本当にあるのかも」

玉虫さんは少し上機嫌だが、俺はそれに複雑な思いをする。
俺には玉虫さんとの思い出は無い。
玉虫さんが俺にどんな思いを抱いているのか、俺には全く分からないんだ。
説明し辛いが、記憶喪失とも違うわけで、玉虫さんに説明するべきか、迷ったが、俺は結局彼女をそのまま見送った。
つーか、別の世界から来た並行世界の俺ですって、説明してすんなり納得出来る訳もないだろう。
しかも俺はあくまでこの世界の俺らしく、この世界で生きた俺が別に存在するという事もないらしい。


 「どの道誤解はいつか解かないと……」

彼女は明らかに結婚した今でも俺に好意を持っている様子だった。
いくらなんでも妊婦さんとNTRする勇気は俺にはないし、そもそも俺はなんで振ったんだろう……と言ってそれを聞いたら怒られるか、呆れられるかの二択な気がするんだよな。


 「本気で理不尽だ」

俺は4階へと階段を登りながら、ただこの理不尽な世界に意気消沈した。
これが○ュタゲなら、β世界線に戻るための戦いに身を投じるが、こっちには○話レンジ(仮)もタイムリープマシンも無いからな。
あくまでもこの世界の住民として選択しないといけない。


 「はぁ……ただいまー」

俺は四階の自分の家にたどり着くと、扉を開けた。

ドタドタドタ!


 「お帰りなさい、ご主人様」

ああ、懐かしい。
部屋に戻ると直ぐさまワンコの如く尻尾を振って迎えてくれる生活。
俺は茜の頭を撫でると、リビングに向かう。

保美香
 「あら? だんな様、随分お早いお帰りですわね」


 「なんか9月6日まで休暇取ってた……」

それを聞くと、保美香は何かを納得していた。
その様子を見る限り、やっぱり保美香たちも違和感に気付いたんだろうな。

保美香
 「何かおかしな事はありませんでしたか?」


 「もう色々ありすぎて訳分かんない」

休みが延びていること、PKMの存在、更に昔の女とか、俺にどうしろって言うくらい訳分かんないよ。

保美香
 「やはりですか……どうやら同じ世界ですが、違う世界線に迷い込んだようですわね」


 「こういうのって普通にあり得るのか?」

保美香
 「……アローラ地方に似て異なる世界線を繋ぐゲートがあります」

それって確か、月輪の湖と日輪の湖の事か。
確かにあそこには似て異なる平行世界があった。
よくよく考えれば、赤の世界線と緑の世界線はとても似ているが僅かに違う……ゲームのポケモンでは普通なのか。
だとしたらここは別のカートリッジの世界のような物となる。


 (ならもう一度ゲートを通れば、元の世界線に戻れる可能性もある?)

だが……、それは曲がりなりにも、ポケモンたちが認められたこの世界を否定するという事。
加えて恐らくナギさんとカリンの存在は消滅するだろう。
あくまでもたった四人で隠れてひっそり暮らすのか、問題もあるが公に自由を許されたこの世界が良いか。


 「そう言えばカリンは?」

伊吹
 「さっき〜、茂君の部屋に入ったよ〜」

俺の部屋?
カリンはこっちに来てから皇帝としての仮面を棄てたことで、演技する必要がなくなり、結構甘えたがりな女の子に変貌した。
ある意味で、初めて出会ったときのカリンに近く、俺は好感も持ってる。
だが俺のことをダーリンと呼び、俺の正妻になる気満々なんだよな。
まぁ自分が認められて、幸せになる権利を得たんだから多少開放的になるのは仕方がないが。


 「やれやれ、よっぽどこの世界に興味があるんだろうな」

カリンさんもナギさんもこの世界では異邦人だ。
ナギさんはどちらかというと遠慮がちで大人しいが、カリンは逆に積極性を見せている。


 「カリン、入るぞ」

俺は自分の部屋の扉を開く。
すると、カリンは俺のベッドの上に座っていた。
ただし、シーツを顔に押し当てているが。

カリン
 「ダーリンの男らしい臭い……大好き」

……もしかしてオナニー中でしょうか?
つーか、これはどう反応するべき?
俺だって溜まれば抜くし、女性だってオナニー位するだろう。
でもさ、俺の部屋ですること無いだろう?
ここは大人として見て見ぬ振りでもするべきか、それともしっかり叱るべきか。

カリン
 「はぁぁ……ん? ダーリン、帰ったのか?」


 「一体何をしているのでしょうか?」

普通にどうしようかと思っていると、向こうに気付かれてしまう。
俺はとりあえずその行為を尋ねた。

カリン
 「とりあえず、私の臭いをマーキングするべきかと思って、素股を擦りつけていた」


 「カリン、そう言うのはもう少し恥じらいをだな?」

明らかに俺をオカズにしていたと分かる。
そりゃ俺もカリンの自由は認めたいが、やり過ぎはいかんと思うのですよ。
流石にこの様子だと、明日には夜這いされている気がする。
とりあえずシーツは保美香に洗って貰おう。

カリン
 「ところで一つ聞きたいのだけど、いい?」


 「なんだ?」

カリン
 「子供は何人欲しい?」

保美香
 「デデーン、カリン、アウトー!」

突然後ろから怖い顔をした保美香が部屋に入ってくる。
保美香はベッドに近づくと、シーツを煽る。

保美香
 「全くマーキングなど清潔感の無いことを、挙げ句の果てに子供は何人欲しい? わたくしだって欲しいけど、皆空気読んでいるのですよ!?」

カリン
 「ならして貰えばいいだろう? メイドらしくおねだりすればいい、私も保美香ならダーリンとするのを認めよう」


 (あれ? 明らかに俺の権利は無視されてない?)

カリン
 「私は誰かを不幸にしてまで、幸せになりたくはない……ならこのハーレムはむしろ居心地が良いよ、一番になれなくても、私は幸せだ」

保美香
 「このハーレムは少し特殊なだけですわ、だんな様は皆平等に愛してくれていますもの」

カリン
 「違いない……だが、やはり子供は一番に欲しいと思うのは乙女心かな?」

保美香
 「残念ですが、一番は譲れませんわ」

……なんかすげー居心地が悪いんだが。
今まで俺はなんだかんだで、有耶無耶にしていたが、彼女たちは愛されたいんだ。
俺は彼女たちに愛情は持っている。
でも、少しだけ欲張りしたいのも分かる。
……なんて擁護口にしたら、絶対即子作りだよな。
むしろ保美香とカリンになら天国に行けそうだが、さすがにやばい。


 「えーコホン! 諸君、俺は誰とも今は結婚も子作りもする気は無い、気を速くするのは辛抱してくれ」

保美香
 「あ、失礼しましたわだんな様! 今シーツを取り替えますので!」

保美香はよっぽどカッとなっていたのだろう。
今まで保美香をてんてこ舞いにする存在は無く、カリンは初めての存在なのだろう。
故に珍しく感情的になる。
でも、普段から変態志向の保美香でも、普通の子作りを望んでいたのは予想外だった。
保美香も顔を真っ赤にするとシーツを抱えて部屋を出て行く。
嫌が応にもベッドから降ろされたカリンは服を整えると。

カリン
 「ダーリンがそう言うなら従うよ。君に嫌われたくないからね」

カリンは特に愛情に飢えている気がする。
それは恐らく愛を殆ど知らずに思春期を過ぎてしまった性だろう。
家族と呼べるのもカゲツという故人しかいないようだし、誰からも愛された事はなく、そして今のカリンを形成したのだろうな。


 「今はこれで勘弁な」

俺はカリンを少し強めに抱きしめる。
カリンは抵抗する事もなく俺に身体を預けてくれる。
昔よく茜にしてやった事だが、意外とカリンは茜に似ているのかもしれない。

カリン
 「ダーリンは不器用だよ、ここで押し倒せば自分の物に出来るのに」


 「お前も言ったろ、今の関係が心地良いって」

誰かを贔屓すれば、必ず関係に亀裂が生じる。
ハーレムとして捉えると、この関係はある意味で奇跡的なんだろう。
家族内の仲はむしろ良好だし、カリンが少し突出気味だが、それはまだ馴れていないから。
きっとカリンも分かっているから、この奇妙な愛の形を受け入れてくれる。


 「ご褒美はここまで」

俺はカリンから離れるとカリンは少し照れくさそうに、胸を抑えた。

カリン
 「おっぱいをダーリンの胸板で押さえつけられるの……好きかも♪」

……やっぱり、カリン大丈夫かな?
そこそこ強めに抱いたから、伊吹並にデカいカリンの胸は相当圧迫されたはず、言葉にされると恥ずかしすぎる。


 「馬鹿なこと言ってないで、リビングに来い」

俺はそう言うと部屋を出る。
……伊吹だと、こんな事感じた事ないのに、カリンだとなんで恥ずかしいって思うんだろう。
これからも俺はこの新しい家族に馴れないといけないんだな。



突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語


第1話 歴史改変されてしまった世界 完

第2話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/10(水) 17:55 )