第28話
Re:突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第28話
……それは10年以上も過去の話だ。
私は決して裕福とは言えず、親に売られた孤児だった。
しかし身柄を受け取った奴隷商人はその日のうちに野盗に襲われて殺された。
そして私もちっぽけで無意味な人生を終えるはず……だった。
野盗
「ぐはぁ!?」
私の命を助けてくれた人は、通りすがりの剣客だった。
見たことない大きな業物を持って野盗を一瞬で斬殺し、私は生きながらえた。
剣客
「おい坊主、生きてるか?」
カリン
「坊主じゃない……女」
剣客
「ああ? そんな見窄らしい格好していたら分からねぇぜ、名前は?」
カリン
「知らない……売られた子供に名前なんてないよ」
その時の私はまだ弱くて、そして全てに絶望していた。
当時の北部はとても貧しくて治安は最悪だった。
いくつもの寒村で子供の売り買いは行われており、私の価値はその程度だった。
だが、この剣客……カゲツは変わり者だった。
カゲツ
「それじゃ、俺がゴッドファーザーになってやろう! ゲーチスなんてどうだ?」
カリン
「やだ、もっと可愛いのにして」
カゲツ
「お前……結構いい性格してるな、ならカリンってのはどうだ?
俺の国では華に凛と書く……つまり華やかだが凜とした格好良さを持つという事だ!」
カリン
「ごめん、全然分からない。でもなんか響き良いからそれでいい
」
当時の私は全く字も書けず読みも出来ない子供だった。
だからカゲツの意味も、カリンの意味も分からなかった。
でもこの変わり者に引き取られたことは間違いなく運命を変えたんだと思う。
***
カゲツ
「夢を見た?」
カリン
「うん……変な夢なの」
それは私がウエディングドレスを着て、知らない男性と手を繋いだ夢だった。
知らない人だけど、胸はドキドキして、私はその夢の中の人に恋い焦がれた。
カゲツ
「うーむ、もしかすると神話の乙女って奴じゃないか?」
カリン
「なにそれ?」
当時の私は本当に無知だったのだろう。
子供でも知っているという位伝説のポケモントレーナーの神話を知らなかった。
だけど、カゲツに聞いた時、私は胸をときめかせた。
きっとこんな私の前にも素敵な男性が現れてくれる……世界の救済なんて無くても、それだけで素敵な話だった。
カゲツ
「しかしそうすると、俺が伝説のポケモントレーナー?」
カリン
「それはない、夢の男性と全然違うもん」
カゲツは種族の不明な男だったが、30代のおっさんだった。
いつも着流しの上から西洋マントを羽織った姿は物凄く傾いた姿で、世に言えば傾き者だろう。
私はカゲツの事は好きだったけど、それは多分恋では無かったと思う。
***
カァン! コォン!
カゲツ
「おらおら! 腰をいれんか! 足を踏ん張れ!」
カリン
「えぐ……痛いよぉ」
カゲツは流れの剣客であり、決して安寧な生活を送れる男ではなかった。
時には賞金首と殺し合い、時には自分が狙われる。
その中で、生きるための力としてカゲツから剣の修行を受けていた。
でも、カゲツは結構厳しい奴でまだ10にも満たない子供でも容赦なく木刀を振るった。
カゲツ
「いいか? 泣いてたって誰も助けてなんてくれねぇ、所詮この世は弱肉強食、強い奴だけが生き残るんだ」
カゲツは相当腕の立つ男で、だからこそ強者の側に立つことが許された。
私はいつも弱者側だ、弱者にはなんの人権もない。
それでも私はきっと幸運だったんだろう。
カゲツに拾われなかったら、きっともう死んでいた。
カゲツ
「さぁ立て! とっとと強くならねぇと、ずっと痛い目見る気か!?」
カリン
「グスン……やってやるもん」
私は涙を堪えて、カゲツのスパルタ修行に付き合った。
お陰で、歳の割には強くなったと思う。
それでも、まだまだ全然カゲツには一太刀も浴びせれなかった。
***
カゲツ
「テメェら死にてぇ見てえだな!」
そして、最悪の転機は僅か数ヶ月で来てしまった。
私は一人でカゲツに頼まれてお使いをしていた時、ある野盗集団に攫われてしまった。
そいつらは皆カゲツに恨みがある奴ばっかりで、私を狙ったのもカゲツを苦しめるためだった。
カリン
「ひっく、ひっく!」
その当時の私はあまりにも情けなく、泣いていることしか出来なかった。
野盗は私の首にナイフを近づけ、カゲツを脅迫する。
野盗
「テメェには随分辛酸舐められたからなぁ、この娘可愛がってやろうか?」
カゲツ
「止めろ、ぶち殺すぞ!」
カゲツは一切抵抗しなかった。
所詮この世は弱肉強食、それならばなぜ強者として好きにしなかったのだろう。
野盗は殴る蹴るの暴行でカゲツをいたぶる。
しかしカゲツは歯を食いしばって耐え抜いた。
やがてボロ雑巾みたいにされたカゲツに野盗たちは遂にトドメを刺す。
カリン
「いや……嫌ぁーっ!?」
これは悪夢だ。
なんて悪い夢だろうと思う、カゲツは強者だ。
私なんて弱者は無視して野盗を皆殺しにすれば良かったのに。
カゲツ
「く……はは、なんてザマだよカリン。これは強者の俺が選んだ選択だ……」
カゲツは今際の時でさえ、傾いた態度だった。
カゲツは強者の権利として私を選んだのだ。
野盗たちの高笑いが響き、私の中の神話の乙女の力が解放された。
野盗
「ぎゃあ!?」
カゲツの大業物はとても大きくて重たかったけど、その分切れ味は凄くて、惨めに野盗を殺させてくれた。
野盗もまさか、こんな小さな小娘に反撃されるなんて思わなかったのだろう。
私は身体に流れる力に任せて野盗を皆殺しにした。
そしてカゲツのお墓を作って、私は呪いと誓いを立てた。
ああ、私が神話の乙女なら、どうして伝説のポケモントレーナーさんはカゲツを助けてくれなかったんだろう。
神話は所詮幻想で、この世界は正に弱肉強食の理に支配されている。
ならば強者になってやる。
誰も私に逆らえない圧倒的強者になってやる!
そして神話なんて誰も救ってくれないって教えてやる、所詮この世は強者が弱者を踏みにじるだけの世界なんだと!
***
そこから数年かけて、私は心身とも成長して野望のために戦いを始めた。
野盗
「お頭! 変な奴が!」
お頭
「あーん? なんだそのガキは?」
カリン
「選択肢をやろう。この私に屈服するか、死ぬか。選べ」
この当時私は片っ端から野盗にけしかけては、その是非を問うていた。
しかし大体の奴は同じで、私を女として侮る。
お頭
「選択肢は3だ! お前を調教して、娼婦として売り飛ばしてやろう!」
カリン
「そうか、残念だよ。辻斬り、一の式、瞬剣」
キィン!
鞘を叩く音が野盗のアジトに響き渡る。
直後、お頭と呼ばれたポケモンは正中線に真っ二つとなって、悲鳴を上げることも出来ず絶命した。
野盗
「ひぃ!? な、なんだこの化け物は!?」
カリン
「ワタシの名はカリン……さぁどうする?」
***
ハリー
「のう兄弟! 最近妙に勢力を伸ばしている輩がおるのう」
ワンク
「確かカリンとかいうアブソルの女だったか?」
バルキー
「兄者! そ、そいつが今そこに!」
カリン
「ふふ、失礼するよ」
当時のワンクたちは独自の武術集団で、傭兵をしながら戦いを求める酔狂な集団だった。
だが、ワタシにとっては都合の良い相手だ。
ワンク
「ほう若いな! 14といった所か!」
カリン
「二つ頭の鬼とお見受けする。この私と夢を共にする気はないか?
」
ハリー
「夢とな! それは如何様に!?」
カリン
「まずは北部の部族を統一し帝国を築く、そして惰眠を貪り、北部の民を抑圧する中部の国々を滅ぼして、大陸を統一する」
ハリー
「はっはっは! 大きくでたのう! だがそんな夢物語が本当に出来るのか?」
カリン
「夢物語ではない。実際やるのだ」
ワンク
「お主……いい目をしておる! 良かろう、その夢乗ったぞ!」
カリン
「ふふ、夢の先は地獄かも知れないが、覚悟はいいか?」
ハリー
「地獄こそ望み! 地獄の鬼なら楽しい戦も出来ようぞ!」
二つ頭の鬼が傘下に入ってからは順調だった。
北部の部族たちを力で纏め、同時に寒村の者たちの安全を守ることで私はあっという間に帝国の礎を築く事が出来た。
***
ギーグ
「ご覧下さい、皇帝陛下……この荘厳な城、2年の歳月を掛け、遂に完成しましたな。この城の壮観さといえば、中部の王族の城にも引けをとりますまい!」
私が17の時、アーソル帝国首都カノーアが完成した。
20万もの帝国信望者は集まり、それは抑圧された怒りそのものだったと言えよう。
ギーグ
「しかし……城の名前に一切カリン陛下の名前が使われないのはどういうことでしょうか?」
城の名前はフウカゲツ。
それは私が憧れた男の名前からとったものだ。
カリン
「ある風変わりな奴の夢を背負ったのさ、アイツには最強になった夢を見させてやるとしよう」
ギーグ
「はぁ?」
当然ギーグには何も分かるまい。
カゲツ等という男の名前は既に風化して、誰の記憶にもないだろう。
だが構わない、私だけが覚えていればそれでいい。
ギーグ
「では、演説をお願いします」
カリン
「諸君! 我々は遂に中部の俗物共を上回る力を得た! この街、この城こそが諸君たちの力の証である! 我々は何度中部の豊かさに焦がれたことだろう! だが奴らは自らの利権のために今も争い、我々の親書は何度も踏みにじられた事か! 諸君! 我々は今世界を統一するだけの力がある! 今こそ我らの正義を示し、真の支配者は誰か知らしめる時である!」
観衆
「「「帝国万歳! 皇帝陛下万歳!」」」
***
ツキ
「姫さま! ここは危険です! 避難しますぞ!」
ナツメイト
「でもまだお父様が!」
帝国の宣戦布告から、中部への侵攻はあまりにも呆気なかった。
それにはゲーペンを迎えた事で敵を上回る技術革新による装備の違い、そして兵の質の差も大きかったろう。
中部の4王国は、連携すらとらず、帝国は各個撃破してこれらを制圧していった。
最後まで徹底的な抵抗を続けたホウツフェイン王国も、陥落は目の前だった。
カリン
「ホウツフェイン王か?」
ホウエン一七世
「如何にも、ワシがホウツフェイン王国国王ホウエン一七世だ」
カリン
「アーソル帝国皇帝カリンだ」
ホウエン一七世
「ふん! 成り上がりの俗物めが!」
カリン
「ふん、俗物か、それは貴様とて変わらんよ」
私は武王として知られるエルレイドのホウエン王と対峙した。
そこらの雑兵ならどうでもいいが、一国の王ならば、ケジメ必要だ。
故に私は引導を渡す。
カリン
「辻斬り、一の式、瞬剣!」
ガキィン!
ホウエン一七世
「ぬぅ!?」
ホウエン王はその大きなバスタードソードで私の瞬剣を受け止めた、そこは流石武王を名乗るだけのことはある。
その武力は4王国の中でもトップだろう。
だが、教えてやろう。
そんな武王も神話の乙女の前ではゴミ屑同然だと言うことを。
カリン
「辻斬り、終の式、百花繚乱!」
ザシュゥ!!
ホウエン一七世
「な……なんだ今のは……ぐふ!?」
ホウエン王は全身から血を吹き出して、見事な華を咲かせた。
カリン
「所詮この世は弱肉強食……そうだろ、カゲツ」
***
それからも帝国は戦い続けた。
でも、心の奥底では望んでいた伝説のポケモントレーナーが現れる事はなかった。
そして事態は急変する、敵側に伝説のポケモントレーナーが現れたのだ。
神話の乙女はここにいるのに。
それは非道い裏切りだ。
私はただ本当に神話を呪うことしか出来なかった。
それでも、伝説のポケモントレーナー……茂さんは優しくて、私に甘い夢を見させてくれた。
一体私は何者なんだ?
夢の啓示を受けたのに、運命の男性は私の敵として現れた。
私が救済したい世界は、神話に否定された。
ならば、神話なんていらない。
これから人の話が歴史を紡ぐべきなんだ。
***
茂
「そうか……そんな事が」
ナツメ
「そんなのって……酷いよ」
ニア
「何もかもが全て裏目にでた人、か」
カリンの独白は衝撃的だった。
彼女もまた神話の乙女であり、しかし早すぎる覚醒は力だけを彼女に与え、希望を与えてくれる事はなかった。
つまり彼女には初めから絶望しかなかったんだ。
カリン
「哀れと思うか? だが現実なんだよ! もう私は全てを失った! せめて神話を終わらせて、私のような悲劇を二度と起こしたくはない!」
それはあまりにも苦しいカリンの本音だ。
ナツメや伊吹なんて泣いてるし、皆やり場のなさに戸惑っている。
だけど、俺はそれでやっと覚悟を決められた。
茂
「だったらカリン、今からじゃ遅いのか?」
俺はカリンの前に行った。
そしてカリンに問いかけた。
茂
「今からでもカリンを救うのは遅いのか!?」
カリン
「今更だよ……本当に」
茂
「お前も神話の乙女なら、俺たちは確かに手を紡いだ! 俺のファーストキスだって奪ったのはお前だぞ!?」
俺はカリンの手を握った。
そしてカリンを抱き寄せる。
カリンの身体はちっさくて暖かかった。
カリン
「ひぐ、ひっく! 卑怯だよ……こんなの遅すぎる、なのに嬉しくて涙が出るの……」
茂
「だったら俺が止めてやる、お前だって俺の女って事だろ?」
俺はカリンの唇に優しく触れる。
唇と唇が触れ合い、粘液が混ざり合う。
カラン!
カリンがその手に持った刀を落とした。
そうだ、それでいい……もう戦う必要はないんだ。
世界がお前を非難するなら俺は世界とだって戦う。
神話がお前を否定するなら俺がお前を肯定する。
カリン
「愛してる、茂……」
パアン!
乾いた音だった。
その音に最初誰も何が起きたのか分からなかった。
ただ、最初に気付いたのはカリンだった。
カリン
「し、げる……?」
茂
「……あ」
ドサァ!
世界がスローモーションに見えた。
茂さんが糸の切れた人形のように倒れたのだ。
その腹部から大量の血を流して。
カリン
「い、いやぁぁぁぁぁ!?」
ギーグ
「は! やった、やったぞ! 伝説のポケモントレーナーを殺した!」
それはギーグの隠し持っていた短銃での銃撃だった。
密かに機会を伺い続けたギーグはいつか必ず来るであろうチャンスを息を殺して待っていたのだ。
そしてその時は来た。
ニア
「アイツ!」
保美香
「急いでだんな様の手当を!」
ギーグ
「動くな貴様ら! 動けば伝説のポケモントレーナーの命はない!」
ギーグは短銃を茂に向けると、全員静止せざるを得なかった。
ギーグ
「皇帝陛下、いえ元とつけるべきですかな? 安心してくださいこれで帝国はいつでも再び天下を取ることが出来ましょう!」
カリン
「いや、死なないで、私を置いていかないで……お願いぃ」
カリンは放心しており、蹲って動けない茂に覆い被さるようにその生に祈っていた。
もはやギーグ等目に入っていない、それより茂の命なんだ。
ギーグ
「ふーむ、やはり貴方には皇帝は荷が重かったようですな! よろしいならば愛する者同士一緒に逝かせてあげましょう!」
ナギー
「貴様! 皇帝をなんだと思っているのだ!?」
ギーグ
「ふん! 所詮皇帝等アイドルに過ぎん! 死んでもその死は神格化され、より強固に帝国は纏まるだろう!」
茜
「……いい加減にして」
それは、揺らぎだった。
突然空にゲートが開く。
誰もがそれに目をやると一匹のポケモンがこの世界に顕現した。
ニア
「なに……あれ?」
それは赤黒くて、鳥の翼とは違う、奇妙な翼をもったポケモンだった。
ギーグ
「まさか……神が顕現でもしたというのか!?」
茜
「来たのね……イベルタル」
保美香
「イベルタル!? 伝説のポケモンがなぜ!?」
イベルタル
「愚かな命よ、何故抗う?」
それは男性とも女性ともつかない奇妙な声だった。
イベルタルはポケモン娘というには随分ポケモン寄りで、その異形は見るものを恐怖させる。
ギーグ
「わ、ワシを見ている? な、何故じゃ!?」
イベルタル
「死は祝福なり、我は神々の王より使われし者、卑しき者よ、その生を食らおう」
イベルタルが口を開く。
すると何かがギーグから吸い取られた。
それ正に命を奪う技、デスウィングだろうか?
ギーグ
「あば……」
ギーグは物の数秒で老衰死したように干からびて倒れた。
茜
「保美香、美柑、伊吹……ゲートに飛び込みましょう!」
保美香
「だんな様は?」
伊吹
「殆ど賭けだけど〜、もし帰れたなら救急車を呼べば〜間に合うかも〜」
美柑
「なら、決まりですね」
茜たちは周囲がイベルタルに気を取られている間に行動を実行に移した。
保美香
「ちょっと失礼しますわ!」
茂
「うぐ!?」
カリン
「いや! 止めて! 茂さん! 茂さん!」
カリンは茂を引き剥がされそうになると、子供のようにワンワンと泣いた。
だが薄れゆく意識の中、茂はカリンの頭を優しく擦る。
茂
「な、泣くなってカリン、俺の手を」
カリン
「こう?」
俺は意識が朦朧とする中、カリンの手を取った。
こいつらの意図、なんとなくだが理解した。
ナギー
「君たち一体どうする気だ!?」
茜
「帰るんです、帰るべき場所に」
茂
「ナギさんもこっちの手……」
俺は左手をナギさんに握らせた。
こいつらは神話の乙女だ。
なら俺の手は2つあるんだから、二人と紡ぐことだって出来るはずだ。
茂
(さぁ、準備は良いぜ……ゲートって奴!)
突然空に空いたゲートが俺たちを吸い込み始めた。
ゲートの先の世界が必ずしも俺たちの世界とは限らない。
それでも俺たちは行く。
茂
「行け……!」
俺たちは正しく突然の来訪者だった。
ならば最後も突然消え去ろう。
俺たちの突然始まるポケモン娘と旅をする物語……それに一つの終止符を!
ナツメ
「ナギー! 貴方は選ばれたんだもの! 絶対茂様を幸せにしてね!」
ニア
「お兄ちゃん、私忘れないよ、お兄ちゃんのこと、皆のこと!」
ナギー
「皆! 私は絶対茂さんを護る! だから安心してくれ!」
カリン
「私も良いの?」
保美香
「良いも何もすでに吸い込まれている最中! もう手遅れですわ!」
そして俺たちはゲートを越えた。
***
茂
(……なんだろう、とても心地良い)
俺はゲート中で微睡んでいた。
行くときはゲートの中の記憶なんて無かったのに今はあるのかな?
?
「これで良い、後は貴方の生命力が」
茂
(誰か、いる?)
俺はうっすらと目を開けた。
そこには世界樹の枝のような角を持つ女性がいた。
女性
「王をあまり悲しませないでね……」
王? 一体誰のことを言っているのか?
しかし女性は直ぐさま遠い彼方に吹き飛ばされてしまう。
いや、違うな……吹き飛んでいるのは俺たちだ―――。
***
『デーデデン♪ デンデンデンデン♪ テーレッテー♪』
保美香
「う……この音は?」
伊吹
「ふえ〜?」
それは俺のスマートフォンのアラームだ。
随分懐かしい音楽に俺は気怠い身体を起こした。
茂
「なんだ? 7時のアラーム?」
俺はスマートフォンを見ると、確かに7:00という表示があった。
それはつまり同期が出来たという証である。
その証拠といわんばかりに広告メールが大量にやってくる。
茂
「……てことは、帰ってこれた?」
俺は改めて周囲を見渡した。
それは随分懐かしい我が家の姿であった。
保美香
「はっ!? ご主人様、お体は!?」
茂
「え? あ……」
俺は撃たれた腹部を見ると、そこには銃創は無かった。
いや、ちょっと不適切かな。
正確に言うなら、衣服の血さえ無く、傷跡さえ無かった。
美柑
「無傷……ですか?」
伊吹
「もしかして夢でも見てたとか〜」
そんな事はないだろう。
何故なら俺の膝でぐっすり眠る二つの顔があるんだから。
カリン
「スゥ、スゥ」
ナギー
「んん……」
茂
「……やっぱり帰ってきたんだよな」
茜
「ご主人様、お帰りなさい」
Re:突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第28話 「皆、ただいま」 完
第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語 完
第三部に続く。