突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第26話 集う仲間たち

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第26話 集う仲間たち

セローラ
 「という訳で、監禁されても何それ美味しいの? セローラちゃんでーっす!」


 「なるほど、分からん!」

何がという訳なのか、俺の目の前にはメイド服を来たセローラというポケモンが現れた。
壁抜け出来る点といい、瞳のランタンの火のような光といい、ランプラーのようだ。
胸は……普通だな、ロリでも巨乳でもない普通のメイドってなんの価値があるんだろうか。
キャラが濃い以外に見るべき点がないというのはある意味貴重か?


 「とりあえずメイドって事は、茜の事を知っているのか?」

セローラ
 「まぁ解雇直前のメイドだけどね〜、それよりお兄さん私の好み〜♪ ねぇねぇ処女メイドを雇う気ない? 初日から中出しOKだよ?」


 「もう間に合ってるわ! 後さり気ない処女アピールは女の品位を損なうから止めておけ!」

セローラ
 「チェ、折角助けてあげようかなって思ってたのに、素っ気ないの!」

セローラという少女は、どうもテンションが明るすぎる。
ランプラーだけに明るくってか、と思うがどうもあんまり気分を損ねるのは良くないだろうか。
とはいえメイドは既に保美香がいるし、更に茜までジョブチェンジしているからなぁ。
俺は別に処女信仰者じゃないし、魅力が薄い。


 「因みに助けるって、鍵あるのか?」

現在俺の状況は鉄格子の中で更に四肢を鉄の鎖で拘束されている状態だ。
一体何個鍵が必要なのか。
しかしセローラはキョトンとした顔で。

セローラ
 「アタシの煉獄で鉄なんか融かすよ!」


 「殺す気かー! 煉獄なんて使われたら魂も残らん!」

そう言えばランプラーって魂を燃料に火を燃やすポケモンだっけ……俺の魂狙われてる?


 「もう俺はいいから! 茜を助けてくれ! アイツならこの状況をなんとか出来るんだ!」

セローラ
 「茜ちゃんが? 分かった! 茜ちゃんの処女を奪うまでは魂も救われないもんね!」


 「頼む……真面目にやってくれ……」

流石に突っ込み一辺倒はそろそろ疲れてきた。
俺はぐったりとしても、セローラの元気さは、自分がロートルだと実感させられる。
実際はまだ23だが、向こうは精々14〜5歳位だろうし、若さには勝てん。
セローラは手をぐるぐる回すとやる気を実らせる。
テンションで瞳の炎もかわるのか、今は少し強めに燃えていた。

セローラ
 「待っててね茜ちゃん! 今行くからねー!」



***




 「今セローラの不吉な欲望を垣間見た気がする」

私はセローラたちとは違う場所で監禁された。
地下牢の一角みたいだけど、ご主人様みたいに拘束されなかったのは救いかもしれない。
でも、私じゃどんなに暴れても鉄格子は破壊できないし、どうにも出来ない。
そんな時セローラのセクハラを思い出すなんて、どうかしてるよね。


 「セローラ……」

セローラ
 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!」


 「きゃあ!?」

突然後ろの壁からセローラが本当に飛び出してきた。
そしていつものように私の後ろに回ると、胸を鷲づかみにしてくる。

セローラ
 「ああ、もうひん剥いておっぱいペロペロしたい!」


 「それしたら絶交だから、ついでに噛みつくから」

セローラ
 「いやーん! 効果は抜群だ!」

流石にセローラも冗談では済まなくなるセクハラはしてこないと思うが、状況が状況だけにセローラに処女を奪われる可能性は否定できない。
改めて日頃の行いは重要だと思うの、だってセローラは信じられない。

セローラ
 「あ、そうだ! ご主人様に茜ちゃんを助けるように命令されたんだった」


 「ご主人様?」

セローラがご主人様なんて言葉を使うのは初めてだ。
例え雇用上カリンさんがご主人様でもそういう言葉を使うところを見たことがない。
何だか嫌な予感がする……聞いてみると。


 「ご主人様って誰?」

セローラ
 「えーとシゲル様だっけ? 彼結構好みだし、セックスする時は優しくしてくれそうよねぇ〜」

……予想通り、セローラの言うご主人様は、私のご主人様だ。
本当に満更でもないのか、腰をくねらせるセローラが普通に危険に思えた。

セローラ
 「もう絶対処女を貰ってもらうんだから〜♪」


 「絶対阻止するから、それよりどうやって助けてくれるの?」

セローラ
 「そりゃ勿論」

セローラに絶対ご主人様はやらないと誓った私は助ける方法を聞くと、セローラの瞳が青く燃え始めた。
やばい、セローラの炎が1000度を越えた証だ。
そしてその状態で何をするかといえば!

セローラ
 「闇の炎に抱かれて消えろ! 魔神『煉獄』殺!」

セローラの両手から凄まじい熱量が零れるとそれを壁に放った。
壁は大きく爆ぜて、大穴が開く。
セローラは鉄格子を無視して、後ろの壁の方を破壊してしまった。
ただ、どの辺が魔神で、どの辺が殺なのか分からない普通の煉獄だったのが疑問だった。


 「今の何?」

セローラ
 「なんか中二の神様が降ってきたみたいな? 多分グリリバの仕業」

グリリバって誰だろう?
そんなことはともかく、壁には大穴が開き、その先がある。
そして、爆発音を聞いた看守たちがこちらに向かっている足音が聞こえた。

セローラ
 「さぁ、ご主人様を救うよ!」


 「……少し釈然としないけど」

私は立ち上がると、体の埃を払う。
穴の向こうにもまた、鉄格子が見える。
でも、その先にご主人様がいる!



***



帝国首都アノーク、その南部に広がる広大な平原には今2万に昇る兵が集まっていた。
それは最終決戦と言うには残り少ない、物悲しい規模の戦いでしかないのかも知れないが、これが戦争の終わりなんだと……解放軍も帝国軍でさえも感じ取っていたであろう。
もはや、これ以上戦い続ける国力は両者にはなく、文字通り不毛な戦争は終局へと加速度的に進んでいる。

エーリアス
 「全体………止まれ!」

解放軍指揮官はオオタチ種のエーリアス。
解放軍としては僅かな1万の兵であるが、未だ中部戦線が終結していない現在においてこれ程の数を集めることは尋常ではなかったであろう。

ワンク
 「ほお、見事な横一文字陣形! 指揮官はエーリアスとやらか! 相手にとって不足無し!! 全軍前へ!」

対するはカイリキーのワンク将軍率いる帝国軍。
その数は解放軍を上回る1万5千。
最盛期から考えると、国防戦力としては恐ろしく少ない。
しかし、それだけに精兵な兵士も多く、特に部隊の中核を担うワンク将軍の私兵集団は七神将には劣る物の、それぞれ対面での戦いなら充分過ぎる戦力たちだ。
だが、解放軍も劣ってはいない。
帝国に強い憎しみ、恨みを持つ者たちは、負ければ後のないこの最終戦に志願した。
彼らが望むのは帝国を滅ぼす事であり、それは戦争の最も愚かな部分の象徴でもあった。
だが、それだけに彼らの士気高く、七神将クラスの戦略ポケモンでもいなければ、この圧倒的戦意を挫くことは出来ないだろう。

ハリー
 「のぅ、エーリアスよ……この戦、ワシに先陣を切らせよ!」

エーリアス
 「敵の大将はワンク将軍と聞きますが」

エーリアスが警戒するのは、ハリーがワンクとは義兄弟という事だ。
かつて帝国でハリー将軍は二つ鬼の巨人とも呼ばれ、義兄弟の弟である。
兄であるワンクに対して、何も思わない訳もなく、それをエーリアスは警戒した。

ハリー
 「だからこそよ! 相手がワンクだからワシがいくのよ!」

エーリアス
 「戦えるのですか?」

ハリー
 「愚問よな! 所詮我らは戦鬼! 戦場あれば、そこで戦うのみ! そんなことはワンクとて分かっておろうよ!」

ハリー将軍は結局のところ、迷わずワンク将軍の元へと突っ切るだろう。
それならば、何所で運用しようがこの狂犬が黙っている訳がない。

エーリアス
 「良いでしょう、先陣を任せます」

ハリー
 「は! ならばこの戦、勝たせてやろう!」

エーリアス
 「我々の目的はこの野戦の勝利ではないですよ?」

エーリアスはそう言うと陣形の端端を見る。
既に各所には帝国へと潜入するナツメ、ナギー、ニア、保美香、美柑、伊吹。
それぞれ一カ所には集まらず、各自散らばっており、作戦開始と同時に帝国首都の最奥に座するフウカゲツ城へと潜入する。
それはもう強行軍という他なく、他に援護を貰える機会もなく、個別に潜入を果たし、茂の救出、そして皇帝の打倒を目指す事になる。



ナツメ
 (この最後の戦いを王女ナツメイトとしてではなく、貴方を愛した一人のサーナイトとして戦えることを感謝します)



伊吹
 (出来ることなら止めたい……でもそれは個では無理で、それでもそんな個が集まり群にならないといけない……願わくばお互い禍根が残らないよう祈るしか……)



ニア
 (もしも神様がいるなら、どうか私ではなく、お兄ちゃんを守ってください。私に神の祝福は要りません。その分を必要な人に分け与えてください)



美柑
 (ボクがすべき事は、主殿の敵を全て打ち倒すこと、皇帝はボクが倒す……!)



保美香
 (だんな様……私はまだ正常でしょうか? いつか私は狂うのではないか……時々恐ろしく思います。でも、今だけは私の力を出し惜しみしません。どうかご無事で)



ナギー
 (何だか力が湧く気がする……それはこの神々の神話を作った文字通り神の意思なのか? 私に神話の乙女の責務を果たせと言うのか? ならば余計だ……この戦いは私自身で切り抜けてみせる! 神話に踊らされる気はない!)



ベルモット
 「只今1700にゃ!」

エーリアス
 「全軍、突撃!」


ワンク
 「来たか! ワシに続けぇ!」


「「「おおおおおおおっ!!!」」」


両軍の鬨の声が雪原を震わせた。
今両雄は激突する!



***




 「なんだ……振動?」

それは突然だった。
城自体が地響きを上げるような地鳴り。
なにかあったのか……なんて思っていると正面の鉄格子の向こう側の檻房が赤熱している。

ドガァァン!

セローラ
 「ヒィィィト、エンドォ!」

壁が爆砕すると、その衝撃で普通に爆砕した破片が俺にまで降り注ぐ。
俺はその壁の向こうに見えたメイド少女に全力で抗議する!


 「ちょ、こんなのっておかしいですよ! セローラさん!」

明らかにオーバー火力で壁を爆砕していたら城だって揺れるよ!
ていうかよく地盤崩落しないなと、感心するぜ!

セローラ
 「小僧が言うこと! じゃなくて、茜連れてきたよ!」

壁の向こうからはセローラに続き、茜がついてくる。
茜は俺を発見すると急いで檻まで近づいてきた。


 「ご主人様、必ず助けますから!」

セローラ
 「茜どいて! 鉄格子もぶっ飛ばすから!」


 「やめろ! 死なないことと9割死んでるけど生きてるって、多分後者選ばれるから止めろ!」

セローラ
 「大丈夫、逃げ回れば死にはしないよ!」


 「逃げられないから!」

俺は全身を拘束する鎖でアピールする。
茜がはぁ、とため息をついており、普段お疲れなのが垣間見れた。


 「セローラ、黙ってて」

セローラ
 「サーセン!」

茜が少し怖い顔をすると、セローラはあんまり反省しているとは思えないごめんなさいをした。
しかしようやく脱出できるな。


 「茜、イーブイZを持て」


 「はい……」

茜は懐から菱形の石を取り出す。
それは確かにゲームで見たZストーンそのものだ。
ならば、俺に使えるのか……いや、疑問は無意味か!


 「茜、イーブイZを使うぞ!」

セローラ
 「今こそ皇帝陛下より託された勝利の鍵を使うときだぁぁ!」

ちょっと脇が煩いけど、もう無視することにする。


 「ナインエボルブースト!」

セローラ
 「発動! 承! 認!」

思わずプログラムデバイスをリリーブしそうだが、それよりも茜の様子だ。


 (来てる……9つの力が私に集まっている)

ベルベット
 『センターは譲れにゃい!』


 (なんかアクの濃い人が見えた気がするけど気のせい)


 (ドヤ顔のベルモットが目に浮かぶなぁ……)

なんであの技シャワーズが中央だったんだろう。
結構突っ込みどころがあるが、このZ技で彼女の能力は飛躍的に上昇したはずだ。


 「……いきます」

茜はオーラのような何かを身に纏うと、鉄格子を両手で掴んだ。
そのまま、しばらく震えると、鉄格子は外側にひしゃげてしまう。

セローラ
 「ワーオ! 北斗? 反動で命縮めたりしないよね?」

あまりの変貌振りにセローラもビックリだが、俺もビックリだよ。
ナインエボルブーストすげぇな。
まぁ一瞬の剛力を得る○活孔ではないので安心の……はず。


 「この鎖、邪魔」

そう言うと事もなげ拘束していた腕輪も脚輪も根こそぎ破壊していく。
改めてポケモン娘の規格外っぷりを再確認したわ。


 「よーし、久し振りに体動かせるわ」

俺は全ての拘束具が破壊されると、立ち上がって体の感触を確かめる。
正直全身が凝って痛いが、直ぐに動く分には問題なさそうだ。

ドタドタドタ!


 「ち……もうご到着か」

俺が自由になったのも束の間、大量の足音が近づいてきた。
それは俺の脱走を阻止せんとする帝国兵たちだった。

セローラ
 「面倒! 煉獄を食らいなさい!」

低命中な技でも、狭い場所なら外す心配もない。
セローラは瞳の炎を燃やして、両手を掲げるが……しか何も起きなかった。


 「因みに煉獄はここまで何回使った?」

セローラ
 「確か5回?」


 「阿呆かー! PP切れだ!」

そうこうしている間にも10人近くの帝国兵が俺たちの道を塞ぎにやってきた。

帝国兵
 「こ、ここは通さん!」

もはややけっぱちで声も裏返っているが、健気に通さないらしい。
まぁそりゃ、あれだけ伝説のポケモントレーナーを過剰に恐れていた連中だ。
向こうからしたら大魔王が復活した気分だろうな。


 「茜? まだいけるか?」


 「このくらいの人数なら」

ひっ、という帝国兵の悲鳴が聞こえた。
なんか俺たちの方が悪党っぽくなってない?

セローラ
 「とりあえずバニデスの刑?」


 「何で帝国なのに○ダルマーモードがあったんだろうなぁ?」

帝国兵は既に及び腰。
もう少し脅せば、蜘蛛の子を散らすように逃げるかも知れないが。


 「……よいしょ」

それは茜にあるまじき力業だった。
適当に近くの鉄格子を蹴り砕くと、手頃な鉄棒として装備した。
とりあえず桃白○白紛いな事をしでかす茜に敵がドン引きした。


 (全ステ2段階アップ怖え……純粋なパワーでも美柑や伊吹越えてる?)

茜はイーブイとしてもそんなに強い子じゃなかった。
美柑や保美香に比べたら、虫も殺せない子だとばかり思っていただけに、この変化に戸惑う。
でも守られてばっかりだった子も、本当は俺を護りたいって勇気はあったんだ。
今その勇気が実ったって事だろうな。


 「ご主人様、ご命令を」


 「まぁ殺さない程度に」


 「分かりました。手加減は致します」

そう言った瞬間だった。
一番目の前にいた帝国兵が牢獄の檻をひゃげて蹲っていた。

帝国兵
 「……え」

セローラ
 「は?」

誰も理解出来なかった。
気が付けば棒を振り終わった様子の茜だけが鮮烈に目に映り、何をしたのか想像するしかなかった。


 (素早さも2段階アップなんだよなぁ……)

その馬鹿力、それを揮うに値する耐久力、銃弾すら見て回避する動体視力に運動性。
全てが超次元に至った茜はもはや誰にも止められない。

帝国兵
 「アイエエエ! ば、化け物だぁ!?」

一番後ろの帝国兵が逃げ出すと、その後は雪崩式だった。
死にたくないと、我先に監獄を抜け出していく。


 「障害の排除は完了しました、ご主人様」


 「お、お見事」

ここまでギャップの激しい事はないだろう。
ただのロリ巨乳ケモミミメイドが、地獄の戦士になったような物だ。
多分本気ならフェイタリティだったんだろうなぁ。

セローラ
 「……今の茜ちゃんにおっぱいペロペロしたら多分殺される……だが、やらずにはいられない!」


 「お前は無理に死地を歩もうとするな!」

なんか隣で険しい顔をしていたセローラは、既にセクハラの態勢に移っており、俺はなんとか羽交い締めにした。
やがて、上階の灯りが零れる辺り、看守室の辺りまで進むと、一人だけ逃げていない男がいた。

ローブシン
 「わしは、この監獄の獄長シジマーである!」

まるで上階への階段を護るように立ち塞がったのはローブシンであった。
その最大の特徴はなんと言っても両手で持ったコンクリートの柱。
約2メートルはあるコンクリートの柱をくるりと掌で回転して見せる。
しかしローブシンは力に頼らず技でそれを扱うという。
とはいえ筋骨隆々の体はそれ自体凶器と考えるべきか。


 「邪魔しないで」

シジマー
 「ふふふ、小娘、メイドの分際でワシに楯突こっ!?」

茜の先制攻撃、鉄棒がシジマーの側頭部を殴打した。
なんというか容赦のなさは、結構えげつないと感じてしまう。
しかし、シジマーはそれでも倒れるどころか、ニヤリと笑った。

シジマー
 「ふ、さしもの鉄棒もワシの前ではひしゃげおるて!」

なんと茜の鉄の棒は90度曲がっていた。
恐るべし耐久力を見せるシジマーに、茜は棒を放り棄てた。


 「では本気でいきます」

シジマー
 「なに……? ばっ!?」

茜は『電光石火』の動きでシジマーの顎を蹴り飛ばす。
更に首筋に『噛みつく』。

シジマー
 「グワー!? こ、小娘ェ!」

しかしシジマーは倒れない。
両手のコンクリートを振り回して、茜を叩きにいく。

ゴォォン!

コンクリートがぶつかり合い、破砕するも茜は既に天井近くに跳んでいた。
そして『つぶらな瞳』がローブシンを捉える。


 「これが私の『とっておき』です」

あくまでも声は茜のそれだ。
ニアより抑揚がなく、深窓の令嬢を想起させるような声。
だが、2メートルを超えるローブシンでさえ、今の彼女の敵ではなかった。



***



「「「おおおおおおおお!」」」


両軍の関の声は、怒濤となって戦場を制圧する。
そして今、最凶の男たちが対峙した。


ワンク
 「久しいのうハリー!」

ハリー
 「ふふ、お主とこうして見えるとは、奇妙な縁よな」

かつて義兄弟という契りを結んだ二人。
しかし戦を求めるその様は正にバーサーカー。
例え義兄弟と言えど、手心など全く加えないであろう。
この二人には拳で語る以外必要なし!

ワンク
 「どぉれ、それじゃ勝負といくかぁ!」

ワンクはカイリキーという4本腕のポケモン。
肩の二本腕は指を開き、レスリングの構え、しかし通常の腕はボクシングのように拳を固める。
この四本の腕からの圧倒的な連撃こそが、ワンクの神髄。
ワンクは態勢を低くしてハリーに接近!
しかしハリーも負けてはいない!
更に態勢を低くして、ダッキングから懐に踏み込み!
そして低空姿勢からのアッパーカット! ワンクの顎が跳ね上がる。
しかしその瞳を見よ! ワンクの目は全く死んでいない!
ギョロリと動く視線は正確にハリーを捉えている。

ワンク
 「らぁぁぁあ!」

ワンクの右拳がハリーの頭部を殴打!
そのまま振り下ろされる左右の連打がハリーを襲う!

ワンク
 「ふはははは! どうじゃ! ワシの連撃は!」

ハリーは動く事が出来ない!
ただでくの坊のように殴られ続け、顔面が血だらけに染まっていく。
しかしハリーは見ていた。
その両の拳に草のエネルギーが集約する!
そして、そのリズミカルなワンクの乱雑な拳に、遂に交錯する拳があった!

ハリー
 「ぜぇりゃぁぁ!」

ワンクの左の打ち下ろしをスウェーで回避、そして右の打ち下ろしにカウンター!
ニードルアームがワンクの顔面を凹ませる!
そのまま体ごと振り切ると、ワンクの体は宙に浮いた!
そのまま一回転! ワンクの大きな体が地面を揺らす!

ハリー
 「はぁ、はぁ!」

しかしハリーとて、無事では済んでいない。
ヘビー級のパンチを何度も受けたのだ、顔面は血だらけで口の中も切っている事だろう。

ワンク
 「ぐふ……やるようになったの……!」

ハリー
 「ぐはは、ワシとて、死地を歩いてきた……それこそ貴様の倍はな!」

ワンクは血を舐め、ゆっくりと立ち上がる。
かなりの高ダメージだが、ワンクの表情は笑っている。
それは、この戦鬼たちが、最高に楽しんでいる証。
見ろ、この両者の狂気の笑顔!
正に死を賭けた戦こそ至福という狂戦士の境地!

ハリー
 「さぁ続けようではないか! この最高の戦を!」

ワンク
 「おう! 望むところよぉ!」



***



ナツメ
 「なんとか潜入出来ました……私は何番目なのかしら?」

私は乱戦の最中をくぐり抜け、なんとか城内に入ることには成功した。
でも、その途中で誰とも会うことは出来ず、自分が最初なのか最後なのか分からない。
もし最後なら急がないといけないけど、最初なら直ぐにでも茂様をお迎えしないといけない。
とりあえず、私は周囲の生体反応を探ってみよう。
私は人の感情を探るのは得意だけど、でも識別は苦手だ。
とりあえず動体反応を探す。

ナツメ
 「え? 目の前?」

私は2階に上る大広間にいた。
そして階段の上に誰かがいた。
それをゆっくり目で追うと。

キッサ
 「うふ、ウフフ……ようこそ、私のパーティーへ」

そこにはまるで雪女のような女性が立っていた。
しかし、私はその表情……というより感情に恐怖する。

ナツメ
 (な、なにこの人……怨念で出来ているの?)

その表情は憎悪と狂気で歪んでいた。
そして感情はあまりにもどす黒く、吐き気がした。
この人は既に真面な感情をもっていない。

キッサ
 「私はキッサ……あの女はどこ?」

ナツメ
 「何の事……?」

キッサ
 「どこっ!?」

衝撃波が、周囲に飛び散った気がした。
この女性は既に怨念と憎悪で何も見えていないんじゃないかって気がした。
それ位彼女はお化け染みている。

保美香
 「あらあら? 妙な所に迷い込んだみたいですわ」

後ろから保美香さんが現れた。
その瞬間、キッサという女性は大きく口の口角を歪めた。

キッサ
 「保美香〜……!」

保美香
 「あらら? 何処かで会ったことありましたかしら?」

保美香さんは、随分惚けているのか、笑顔で首を傾げる。
少なくともこの固体化しそうな程の憎悪を浴びて平然としていられる保美香さんの豪胆さには驚かされる。

保美香
 「ま、わざわざ拾った命を安売りするお馬鹿さんなんて覚える価値ありませんわ」

キッサ
 「ふふ……、アーハッハ! いいわ! それでこそ殺し甲斐があるもの!」

伊吹
 「あれれ〜、なんか気味悪い所に来ちゃった〜」

ナツメ
 (伊吹さんもきた!)

キッサ
 「ウフフ、パーティーですもの、途中参加もOKよ」

徐々にここに何かが集まっている。
それは霊気と呼べる不気味な何か。
まるで空間が歪められる。

キッサ
 「さぁ! ではそろそろ開演しましょう! 楽しいパーティーを!」

その瞬間、かけ声に合わせてか、四方八方から黒ずくめのポケモンたちが現れる。
その数、42!
それらが周囲を取り囲んだ。

キッサ
 「さぁ魅せましょう! 『森の呪い』を! さぁ始めましょう! 『ハロウィン』を!」

ナツメ
 「なに……この気持ち悪さ」

保美香
 「草タイプとゴーストタイプを付与してきた?」

伊吹
 「うう……少し不味いかも」

キッサの掛け声と同時に、周囲は不気味な空間に歪められた。
まるでお化けの森のハロウィンとも言うべき様相で、この空間にポケモンは皆草霊タイプを得てしまう。

キッサ
 「さぁ私の可愛い子供たち、この者らの皮を引き裂き、腸を抉り、心の臓をもぎ取り、魂を食らえ!」

黒ずくめたちは一斉に武器を構える。
それは剣だったり、鎌だったり、ノコギリなんて物もある。
そんな不気味な連中が一斉に襲いかかってきた!

保美香
 「ち……鬱陶しい!」

私たちはこの多勢を相手にしなければいけない。
保美香さんはパワージェムを周囲に放ち、私はサイコキネシスで応戦する。
伊吹さんは肉弾戦で応戦を始めた。

ナツメ
 「数が……多すぎる!」

保美香
 「それでもやるのですわ!」

伊吹
 「皆無事に帰るんだから〜!」

キッサ
 「ふふ、いいわよ私の愛する子供たち、今褒美をあげるわ」

私は戦いながら、危険を感情を感じて察知する。
これにより不意打ちにも直ぐ対応して、安全を確保するが、上階で高みの見物を決め込むキッサに不穏な気配を感じた。

キッサ
 「この吹雪、何所まで耐えられるかしら!?」

それはキッサの吹雪だ。
彼女を中心に冷たい冷気が大広間に瞬く間に広がる。

ナツメ
 「くぅ!?」

私はサイコキネシスの応用で、サイコバリアを形成して、ダメージを軽減するが、草タイプの性か予想以上に動きが鈍い。
更にドラゴンタイプの伊吹さんはなんとか耐えているが、片膝をついてしまう。
しかし問題はこちらだけではない。
あまりにも無差別に放たれた森の呪いは敵にまで有効であり、一人、また一人と黒ずくめが倒れていった。

ナツメ
 「貴方正気なの!? 味方まで巻き込むなんて!」

キッサ
 「この子たちは、私に魂まで捧げた子たち、これは喜びなの、貴方達を道連れに出来るなら喜んで死んでくれるわ!」

それは正しく狂気だった。
子らと呼ぶ黒ずくめたちに感情は全くの無であり、まるで魂を抜かれたようなのだ。
故に呻き声一つあげずに倒れ、苦しむ姿もない。
ただ、キッサの都合のいい道具たちなのだ。

だが、それに憤慨する者がいた。

美柑
 「ふざけるな……魂まで愚弄するかぁ!」

それはキッサの真後ろからの奇襲だった。
美柑さんの渾身のシャドークローがキッサの背中を切り裂く!

キッサ
 「か……は?」

キッサの体が崩れる。
口から血を吐いて、紅いカーペットを汚した。

美柑
 「命を奪い……魂まで汚して何が楽しい!?」

美柑さんは激怒している。
同じゴーストタイプとして、魂の扱い方に憤慨しているんだ。

キッサ
 「ウフフ……我らゴーストタイプは恐れられる存在、魂まで冒涜し、死さえ超越する!」

キッサの身体が宙に浮いた。
彼女は致命打を受けた筈なのに、まだ諦めていない。
まさかとは思うが……彼女は既に魂を……?

美柑
 「魂を凍らせたのか、外道め」

キッサ
 「貴方はどうしてそんな魂を持っているの!? それを頂戴!」

キッサのシャドーボールは美柑さんを襲う。
しかしそれはキングシールドの前には無意味だろう。
しかし、既に激怒した美柑さんは違った。

美柑
 「ふざけるなぁ!」

美柑さんはキングシールドを地面に放り捨てた。
そしてソードを両手で持つとシャドーボールを一閃する。

美柑
 「ボクはクソみたいな帝国兵も何度も見てきた……でもお前は最悪だ!」

キッサ
 「何を!? そんな物褒め言葉よ!」

キッサは今度は吹雪を放つ。
シールドのない今の状態では致命傷になりかねない。
しかしキッサの下から悪の波動がキッサを襲い、キッサは吹雪に失敗して墜落した。

ナツメ
 「この感覚は……!」

不可視の空間は歪みを見せると、一人の少女を映し出す。

ニア
 「皆大丈夫?」

保美香
 「ニア……貴方も来たのね」

伊吹
 「うぅ……寒いけど、なんとかなりそう?」

今度はこっちがキッサを取り囲む番だ。
私たちはキッサを取り囲み、キッサは逃げ場を失う。
それでも笑顔は全く失っていない。

ナツメ
 「投降しなさい、もう無意味よ」

私はあくまでも投降を促した。
はっきり言って甘いとは思う……だけど、やっぱり命が失われるのは哀しい。
例え既に魂さえ凍り付かせて不死性を得た儚い存在だとしてもだ。

キッサ
 「うふ、ウフフ……まだ私は出来ることがあるわよ」

美柑
 「何を?」

私はキッサの雰囲気に物凄く嫌な物を感じた。
既に周囲から森の呪いの気配もハロウィンの気配も消え去った後、彼女がしようとしているのは!

キッサ
 「最後の華! 咲かせましょう!」

ナツメ
 「皆、離れて!」

キッサの身体が光り輝く。
それは本来ユキメノコでは使えない大爆発の予兆だった。
恐らく自らの魂を爆発させる事で、無理矢理それを使おうとしている。
でもそれは、本来なら自爆しても助かる可能性はあるにもかかわらず、それを捨てた究極の捨て身技。
このままではキッサの魂の爆発に巻き込まれる!


 「茜、噛みつく!」

しかし爆発の瞬間、誰もがその声の方を見た。
そこには皆が探した愛しい人の姿があったのだ。


 「がぶ!」

茜と呼ばれる少女は爆発の瞬間キッサの首元に噛みついて、キッサを怯ませた。

美柑
 「はぁ!」

更にその追い打ちで、美柑はキッサの首をシャドークローで切り落とす。

キッサ
 「そ、ん……な」

ドサリ、キッサの細い身体が大広間に倒れる。
既に血も凍っているのか、キッサの体は冷たくなっている。

美柑
 「……哀れみはしないよ」

美柑はそう言ってキッサに一瞥した。
そして私たちは会いたかったあの人に集まるのだった。

ナツメ
 「茂様! よくぞ無事で!」

保美香
 「茜……貴方その格好どうしたの?」


 「色々あったんです」


 「皆も元気そうだな!」

茂様は私たちを眺めると嬉しそうだった。
きっと離ればなれでも、私たちのことを心配してくれていたんだと思う。
そして、茂様の最後の家族、茜さんとも合流出来た。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第26話 集う仲間たち 完

第27話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/10(水) 14:34 )