第25話 最終決戦、収束する意思
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第25話 最終決戦、収束する意思
常葉茂誘拐のその後。
エーリアスは兵1万を持って挙兵。
その中には元帝国軍のハリーやベルモットの姿もあり、更にトウガまで姿を現す。
しかし、ニアの奮戦も虚しく、七神将の一人ディクタスを仕留めるも、常葉茂を取り返すには至らなかった。
ガタンガタン、ガタン!
馬車に揺られ、帝国へと急ぐ解放軍とナツメたち。
ナツメ
「つまり、私たちに茂様を取り返し、皇帝を討てと?」
エーリアス
「そこまでは言っていません。我々は兵1万を用いて表に出てくる帝国兵の相手をします」
ナギー
「その隙に皇帝の居城に潜入して、茂さんと茜を救出、そして可能なら皇帝を……か」
美柑
「そもそもどうして帝国は主殿を連れ去ったんでしょう?」
保美香
「まだ私もよく把握していないのですが、確か伝説のポケモントレーナーでしたっけ……それと関係しているのかしら?」
ナギー
「伝説のポケモントレーナー……神話の乙女と手を紡ぎ、世界を救済せん……か」
エーリアス
「その点なんですが、恐らく茂さんは神話の達成まで絶対に殺せません」
ニア
「それって不死身って事?」
エーリアス
「厳密には死亡するその時まで不死であるから、条件付きの不死と言えますか」
ナギー
(でも、それには神話の乙女がいる)
私は夢の内容を思い出す。
一つ目は雨の降る草原にウエディングドレスの私が一人。
二つ目は廃墟と化した教会でウェディングドレスを着た私と、私に手を差し出す茂さん。
三つ目は雨の降る中、手を繋ぐ私と茂さん、そこに光が差し出す。
それは世界が私たちを祝福するように。
……もし本当に私が神話の乙女なら、茂さんは私を求めているのだろうか?
エーリアス
「神話に関しては私も調べてみました。そうしたら神話と関係するアイテムも出てきたのです」
伊吹
「指輪〜? なんだか不思議な宝石〜」
エーリアスは袋から一つの指輪を取り出した。
それには虹色に輝く不思議な宝石が嵌められていた。
エーリアス
「伝承ではかつて神話の乙女が使っていたとされる指輪です。どういう品なのかは分かりませんが、これは貴女方に譲るべきでしょう」
ナツメ
「……あ、私だと指の大きさが」
姫さまは指輪を受け取ると、自分の薬指の嵌めようとするが、大きくてぶかぶかだ。
ニア
「に〜、私もだ」
ニアはさらに手が小さい。
当然指輪はニアにも嵌まらず、それは私に渡ってくる。
美柑
「ナギさんは?」
ナギー
「……ピッタリだな、左手の薬指に」
……複雑な気分だが、神話の乙女の所持品という指輪は薬指にピッタリ嵌まった。
皆はおお〜と感嘆の声を出すが、同じ位の指なら確実に入ると思うが。
保美香
「まるでガラスの靴ですわね」
ナギー
「なんだそれは?」
美柑
「童話ですよ、このガラスの靴をピッタリ履ける者はシンデレラだっていう」
保美香
「ま、同じ足のサイズならシンデレラ以外も履けそうですが、ここは童話ですからね」
なる程、正しくこの指輪はその童話と同じだな。
私以外にもピッタリな者は探せばいるだろう。
でも私であることが重要なのか。
エーリアス
「帝国への攻撃は明日17:00より開始。皆さんは正面の敵とは戦わず内部に侵入して、目的の達成を!」
ナツメ
「……忙しくなりますね」
保美香
「眠れる時に眠るべきですわ……皆さん明日のために英気を養いましょう」
ナギー
「……そうだな」
明日……全てに終わりを告げる。
果たして本当に私は神話の乙女なのか?
それとも突然妄想を信じる変人にでもなってしまったのか。
全ては明日応えよう。
***
カリン
「茂を捕縛するなど聞いていないぞ? どういう事だ?」
ギーグ
「お言葉ですが皇帝陛下、作戦の全権は私が持っていますので、これも作戦の内です」
私は今回の作戦は知らされていなかった。
あくまでもジョーに殺害させる作戦だと聞いて、その裏で茜に変身させたディクタスを用いて茂の捕縛等知らなかった。
あくまでも私は彼らに強敵を差し向け、レベルアップさせるのが目的だったが、ギーグは違うと言える。
ギーグ
「良いですか、ここまでの数々の失敗……それは間違いなく伝説のポケモントレーナーを侮った事です! ですが伝説のポケモントレーナーも殺すことは出来ずとも四肢をもぎ取って、幽閉するくらいは出来ます」
カリン
「貴様……! 私を怒らせたいか?」
ギーグ
「異な事を仰いますな! 茂は貴方の敵でありますよ? まるであの男の女であるような反応では困ります!」
カリン
「っ! ……分かっている」
私は刀に手を触れるまで至っていた。
しかし、ギーグは私を上回った。
言葉で私を負かし、私の正当性を奪う。
ギーグ
「安心召されよ、私も鬼ではないので、そこまではしません……最も地下牢に幽閉位はしますがね」
カリン
「……当然だな、それより表の解放軍はどうする?」
ギーグ
「ワンク将軍に迎撃させましょう、兵は1万程と聞きますし、こちらの兵力は1万5千……まぁ地の利もありますし、勝てますよ」
正面きっての会戦なら数も地理も有利。
ならば、普通の兵法なら勝ち目はあるだろう。
だが、ギーグの狙いは何所だ?
既にギーグは独自の動きを見せて暴走している。
この場で粛清する事は簡単だが、それでは意味はない。
カリン
「……ふん。この戦いが終われば、お前を皇帝にしてやる……終わったら好きにしろ」
ギーグ
「はは! 必ず勝ちましょう!」
私は元から別に権力に興味があった訳じゃない。
皇帝になったのも、過酷であらくれ者が多い北部では、カリスマが必要だったからにすぎない。
政治の面でもギーグは有能だ。
停戦後の交渉もギーグなら上手く運ぶだろう。
私はただ戦うだけだ。
カリン
「疲れた……何かあれば寝室にこい」
ギーグ
「は、良い眠りを、皇帝陛下」
私は一人、寝室に向かう。
謁見の間の裏には寝室に繋がる通路があり、通路を通ると寝室だ。
寝室は大きなダブルベッドがあるだけのシンプルな寝室だ。
茜
「陛下、御布団の準備がまだ……」
寝室に入ると、ベッドを調えている茜がいた。
多分相当慌てていたのだろう。
茜は忠誠心こそないが、仕事は真面目で、健気な姿からメイドたちのアイドルだ。
ある意味で皇帝としてではなく、カリンとして付き合える分気楽な相手だと言える。
カリン
「構わん。もう眠る……あ、いや……これは伝えるべきか」
私は逡巡したが、ここまで来て茜に嘘をつき続ける訳にはいかないと感じた。
丁度胸元に茜に渡すべき物もあった事だし、茂の事を教えることにした。
カリン
「常葉茂……お前にご主人様は今はここの地下牢にいる」
茜
「え……? なんの冗談、ですか?」
ふ、当然の報いか。
これまで茜を何度冗談でからかってきたことか。
今のもあまりにも突拍子もなく、ただの冗談と思われたのだろう。
しかし茜の表情は険しい。
茜
「冗談でも、ご主人様をダシにした冗談は許せません」
カリン
「冗談ではないとしたら?」
今度は茜の顔が凍り付いた。
普段無表情な奴だが、茂が関わるとコロコロ表情を変える。
今は、私の言が嘘ではないと分かったのだろう。
カリン
「お前にこれを渡そう。イーブイZというアイテムだが、使い方は分からん。イーブイ一族が使うことで真価を発揮するらしいが」
私は胸元から、少し大きめの原石の欠片のような石を取り出すと、茜に手渡す。
茜はそれを受け取ると深刻そうな顔で。
茜
「私、カリンさんが好きです。きっとご主人様とも仲良くなれます……」
カリン
「ああ、私も女としては彼が好きだよ、勿論茜もだ」
茜
「なら一緒に逃げましょう! もう戦いなんて止めて! ご主人様もきっと受け入れて……カリンさん?」
茜が不思議そうな顔を浮かべた。
私は涙を流していた、決して痛いからとか苦しいからじゃない。
それでも茜は心配そうに駆け寄ってくる。
それは私には勿体なくて嬉しすぎる言葉だ。
もし、1年早く茂が現れていれば、私は喜んで帝国なんて棄てて茜と一緒に放浪でもなんでもしていただろう。
だからこそ、遅すぎた……。
カリン
「茜、私は逃げられない……知っているかい? 魔王からは絶対に逃げられないそうだ……でもそれって……魔王も絶対に勇者から逃げられないんだよ」
私は終生魔王として語り継がれるだろう。
私はそれだけの殺戮を繰り返し、そして覇道と称して多くの民を巻き添えに大戦争を起こした。
許されざる大罪であり、それは歴史で語られるほどの悪人だということ。
私の命令一つで、一体何十万人が命を落としたのか分からない。
つまり、私のために死んだ奴らの顔さえ分からないほど、私は殺したんだ。
茜
「カリンさん……」
カリン
「……っ! 分を弁えろメイド風情が! 皇帝の前であるぞ!」
私はまだ皇帝だ。
涙を拭くと、高圧的に茜にプレッシャーを放つ。
茜は尻尾を震わせるが、しかし顔は気丈なままだ。
例え皇帝の本気を見せても、茜の心を折ることは絶対に出来ない。
それは茜の強さだ。
茜
「陛下……私は陛下と友人以上の関係になりたかった」
カリン
「煩い! もう行け! お前の主は地下牢だ! 取り戻せ!」
茜は一歩後ろに下がると、ただ頭を垂れた。
その後は一目散に寝室を出て行く。
そうだ……それでいい。
私は一人でも戦うと決意したんだ。
カリン
(絶対に神話の乙女を殺す! そして神話に終わりを告げる!)
人類に必要なのは神話などではない、人の話こそが紡ぐべき物語なのだ。
***
茜
「はぁ、はぁ!」
私はカリンさんの寝室を出ると急いで地下牢に向かう。
私はメイドとして、城で働いていたから城の内部にはそれなりに詳しい。
しかしそれでもメイドの侵入が禁止されているエリアがある。
それが地下牢だ。
故に地下牢にメイドが入ることが許されるか分からない。
でも、強行突破でもなんでもするつもりだ。
セローラ
「ヒャッハー! おっぱいメイドだ−!」
茜
「っ!? 邪魔しないで!」
相変わらず、セローラは私の背中に現れると私の胸を滅茶苦茶に揉んでくる。
だが、今回は遊びじゃない。
私は本気でセローラを見た。
セローラ
「あれ? もしかして私KYだった? 空気読めなかった?」
茜
「……お願い、私は地下牢に行かなきゃいけないの……もうセローラと遊んでられないの」
私はセローラを友人と思って接してきた。
セクハラも面倒だけど受け入れてた。
でも……もう違う。
私はもうメイドとしての外側は棄てないといけないから。
私はご主人様のポケモンだから。
コンル
「セローラまた! 茜……? 泣いてるの?」
茜
「メイド長、セローラ……私、皆にお別れを言わないといけないの
」
セローラ
「え? ちょ、なに? ヘマやらかしたとか? ああ、それなら大丈夫! 私なんて昨日壺割っちゃったけど、解雇なんて食らってないし!」
コンル
「セローラ、少し黙っていなさい。理由を聞かせて貰えるかしら?」
茜
「はい……」
私は地下牢にご主人様がいること。
そして私はそのためにここにいる事を二人に伝えた。
セローラ
「そう、なんだ……でも、地下牢って一部の兵士しか入れない区画でしょ?」
コンル
「そうね……多分入り口で兵士に止められるのが関の山ね、どうする気?」
茜
「押し切ります」
セローラ
「ええー、無茶だよ。茜弱いじゃん」
コンル
「……でも、なんとかしてあげたいわね」
茜
「二人には迷惑かけられません」
私はセローラたちの懇意は嬉しいけど、これはあくまでご主人様と私の問題。
これ以上二人には迷惑はかけられなかった。
コンル
「一つ、作戦思い着いたわ」
茜
「え?」
***
帝国兵
「ん? そこのメイドたち、ここは進入禁止だ」
セローラ
「いやぁ〜、それが皇帝陛下に中にいる囚人に食事を持って行くよう命令されまして〜」
地下牢入り口、私たちは予想通り監獄に続く入り口で二人の看守に止められてしまう。
帝国兵
「そんな命令は聞いていないが」
帝国兵
「一応確認をとってみるか?」
コンル
「あら? 皇帝陛下は既にお眠りに入られましたわ、今起こして無駄な労力を裂かせたとなるとお二方の命は……?」
さり気なくメイド長が脅しをかける。
メイド長はマニューラだから皇帝と同じプレッシャーの使い手、看守たちは事を想像すると、身震いした。
実際カリンさんは必要以上に荒立てる人じゃないが、今は機嫌も悪いだろうし本当にどうなるか分からない。
帝国兵
「分かった……、食事は俺が運ぼう」
セローラ
「いやぁ〜、これは我々が負った命令ですし〜」
帝国兵
「ここはメイドは進入禁止だ、それに運ぶだけなら誰でも……」
セローラ
「いや、だからですねぇ〜」
段々業が煮えてきた。
セローラの炎もメラメラ燃えてきて、イライラも限界を迎えつつある。
セローラはまだランプラーだけど、唯一使える技は『煉獄』のみ。
その火力は凄まじく、直撃を食らえば並のポケモンだと灰も残らない。
問題は命中率が最悪な事だけど、一度放てば火災は免れない。
そうなると、侵入もかくやになってしまう。
私はトレイをさり気なくメイド長に渡す。
コンル
(茜……いくのね?)
茜
(巻き添えみたいになって、本当にごめんなさい)
私はセローラと悶着する看守の隙を見計らって、ダッシュする。
当然不意を突かれた看守は間に合わない。
帝国兵
「あ! 待て貴様!」
セローラ
「let's goイーブイ! 茜行けー!」
セローラはすかさず看守をヘッドロック。
更にコンルさんももう一人の看守の頭部をトレイで殴打していた。
私は二人には感謝してもしきれないだろう。
だから絶対ご主人様に会う。
***
茂
(なんか騒がしいな……)
アレから俺は手足を鎖で繋がれ、臭い地下牢に閉じ込められた。
幸か不幸か、五体無事で、特に身体に異常もなかったが、生きる気力が湧かない。
どうせなら、さっさと殺せばいいのに、どいつもこいつもそんなに運命力って奴が怖いのか、誰も俺に手を出したくないらしい。
だからとりあえず自由を奪ったって事だろうな。
まぁ放っておいても5日もあれば飢え死にするんだろうが、それもどうでもいい。
人生が凄くどうでもよくなったんだ。
茜
「はぁ、はぁ! ご主人様どこ……?」
茂
「茜……?」
何やら外が騒がしいと思ったが、鉄格子の向こうに茜が立っていた。
妙に着慣れたメイド服が気になるが、やはり茜だ。
茜は俺に気付くと、格子に近寄ってくる。
茂
「なんだよ、また死んでくれってか?」
茜
「え? ご主人様?」
茂
「まさかお前が帝国に組してたなんてな……その上皇帝の方がってか……」
は……泣きたくなっても涙も出ない。
いっそ舌でも噛み切ればと思うが、ヘタレな俺にはそういう痛い自殺は無理そうだ。
茂
「……で、何の用だ?」
茜
「助けにきたの! 今外でセローラたちが兵士を抑えて! ご主人様を助けるために!」
茂
「俺を助ける?」
よく聞くと、確かに喧噪の声が外から聞こえた。
茜も必死に鉄格子をどうにかしようとしているが、鍵も無しに破壊なんて無理だ。
茜
「待ってて、絶対助けるから!」
茜は思いっきり助走をつけて、鉄格子に体当たりする。
鉄格子は大きく振動するが、しかしその程度では壊せない。
それでも、茜は諦めなかった。
例え鉄格子が破壊できても、その後には俺の拘束具を破壊しなきゃならないのに、それでも必死に体当たりする。
俺は訳が分からなかった。
俺に死んでくれと言った少女が、今度は身を通して俺を助けるために必死になっている。
一体どっちが本物の茜なんだ?
俺の記憶の中の二人の茜は間違いなく本物だと言っている。
これも本物の茜なら、俺を誘拐した茜も本物?
茂
「もうよせ! 無駄だ! 例え鉄格子を破壊しても、俺の四肢を縛る鉄の鎖がある!」
茜
「無駄じゃないもん……!」
茜は泣いていた。
そりゃそうだ、茜はそんなに強い子じゃない。
美柑や保美香なら余裕で破壊できる鉄格子も茜じゃ無理だし、ああやって体当たりを繰り返せば自分も痛いはずだ。
でも、茜は止まらなかった。
茜
「ご主人様はいつも私を守ってくれた! だから私は恩返しする!」
ガシャァァァン!
鉄格子が激しく振動する。
もしかすれば、もう少し破壊できるかもしれない。
もしかすれば奇跡も起きるかもしれない。
俺は……俺は!
茂
「茜……もういい、良く頑張ったな」
茜
「ご主人様?」
帝国兵
「そこまでだ!」
あと少し、そういう所で帝国兵が押し寄せてきた。
どうやら足止めとやらも限界を迎えたようで、茜は簡単に帝国兵に捕縛されてしまった。
茜
「く……離して!」
茂
「茜! 今は時を待て! 必ず上手くいく時はくる! それまで体力を温存しとけ!」
茜
「ご主人様?」
茂
「いいかそこの兵士ども! 茜に何かあったら、伝説のポケモントレーナーとしてテメェらをぶち殺す!」
俺はなるべく強気に帝国兵を脅しつける。
帝国兵は小心者か、それとも本当に信心深い奴なのか、震えた手つきで茜の手を取ると引っ張った。
帝国兵
「こい! メイドがやって良い事の範疇を越えたのだぞ!」
茜
「……ご主人様、絶対助けるから」
茜は最後まで泣いていた。
それでも俺を助けると、その目は覚悟を秘めていた。
離ればなれになって半年の間、彼女は俺のいない中で成長していたのだ……。
***
茂
「……随分騒がしいな」
茜が連れ去られてから多分1日位が過ぎたと思う。
多分というのは、窓も時計もなく時間の経過が分からないからだ。
良く分からないが、喧噪は地下牢の奥であるここまで聞こえているとなると……。
カリン
「やぁ、久し振り」
茂
「……カリンか、どうした複雑な顔して」
俺は外で何が起きているのか予想していると、突然最も予想外の人物が現れた。
それは皇帝カリンだ。
流石に以前のような着流しではないが、西洋鎧とは少し違う、動きやすそうな漆黒の鎧を着ていた。
カリン
「そういう君は鉄格子の中なのに元気そうだね」
カリンは随分沈んだ顔をしている。
まるで俺がここにいるのが予想外というような表情でもあり、それがまるで罰であるかのようだ。
俺には想像しか出来ないが、やはり俺の誘拐はカリンの思惑とは異なるみたいだな。
カリン
「正直君とはこんな風には再会したくなかった……出来れば敵としてわだかまりなんて作りたくないから……」
茂
「そんなの俺からしたら今更だよ。キスまでした間柄だぜ?」
俺とカリンがまだ他人だった時、未だに理由は分からないが、彼女は身分を隠して俺の前に現れた。
その時の彼女は人懐っこく、そして絶妙に自分のエロさを巧みに扱う女性で、最後には唇を奪われた。
あんな鮮烈な記憶は忘れられる訳もなく、そして俺がカリンに純粋な疑問を持ったのもあれからだ。
カリン
「君はいつもそうだ。私の想いとは真逆をいく」
茂
「真逆……ね。それで皇帝自ら何の用だ?」
俺はここからは皇帝としてカリンを見る。
やっぱり戦いたくないのは今でも本音だが、彼女はそれを良しとはしないだろう。
なら、思いっきりぶつかるしかない。
そしてカリンの本音を引き出す。
カリン
「まずは謝罪だ……君を引き寄せるため茜を利用したこと、そして君を巻き込んだこと」
茂
「茜があんなに元気そうだったのは皇帝のお陰ですね。その点は寧ろ感謝していますよ」
もしも茜が非道い目に遭っていたら……そう考えると言うも気が気でなかった。
でも実際に再会した彼女は、何も変わっていなかった。
寧ろ昔よりしっかりしたようで、安心した。
それはカリンが茜をしっかり保護してくれたお陰だろう。
カリン
「次に、既に気付いていると思うが、外では解放軍が約一万の兵を持って待機している。こちら側は野戦をもって対抗するつもりだ」
茂
「……噂は本当だったか」
ここまでの旅で、僅かだが噂はあった。
解放軍は報復のため、北部へ侵攻していると、流石にそんな余裕はないだろう……そう考えていたが現実らしい。
そして帝国はあくまでも徹底抗戦を選んだか。
野戦決着を選んだ事だけは幸いだ、城下街が戦場になることは避けられた訳だしな。
茂
(でも結局戦争かよ……そこまでして戦う意味ってなんなんだろうな)
俺は正直戦争には辟易している。
それでも大義名分位は理解しているし、帝国の必死の抵抗も理解している。
茂
「休戦ってのは無理なんですか?」
カリン
「それは無理さ、解放軍が振り上げた剣を降ろさなかったように、帝国も休戦は受け入れられない」
やっぱり駄目か、俺はある程度分かっていたことだが、やはり辛いものだ。
カリン
「糾弾しないの?」
茂
「え?」
カリン
「私の命令一つで多くのポケモンが死んだ……そしてこれからも死ぬ」
それは間違いなくカリンの罪の意識。
そうだな……そりゃ戦争なんだから、直接手を出さなくても、その司令官は最終的に責任を問われる。
カリンはもはや、生きても死んでもロクな人生はないだろう。
解放軍からすれば、どれ程惨めな目に合わせて処刑するか分からない。
それだけ解放軍の帝国への恨みは強く、戦争犯罪人に認定されれば、人らしくは扱って貰えないだろう。
もしその末路を想像すれば、俺だったら自殺を選ぶだろうな。
そしてそれは今カリンが思っている事でもあるんだろう。
茂
「正直言って、異邦人の俺にはよく分からん。確かに擁護は出来ないが、責めもしないよ」
カリン
「君は本当に……。最後だ、茜にはイーブイZを持たせている……きっとここを脱出するとき役に立つ」
茂
「イーブイZ!?」
カリン
「やはり君は伝説のポケモントレーナーだ、知っているのね」
イーブイZはイーブイが『とっておき』を覚えている時使えるナインエボルブーストに必要なアイテム。
まさかアイツそんな物持っていたとはな。
カリン
「私の話は以上だ。それでは……後で会おう」
カリンはそれを言うと、地下牢を出て行った。
後で会おうか……それは戦いの約束だ。
……本当にどうしてこうなったんだろうな。
こんな気の進まない戦いは初めてだ。
それでももう俺には本気でぶつかるしかないだろう。
セローラ
「えーと、もう大丈夫?」
茂
「は?」
***
セローラ
「くあ〜、分かっていたけど監禁かぁ」
それはセローラが茂の前に現れる30分前。
地下牢付近で暴行騒ぎを犯したセローラとコンルは牢には入れられなかった物の、城の一室に監禁される事となった。
事の主犯格と判断された茜だけは牢に入れられてると聞くし、二人の不満は最高潮に達していた。
セローラ
「あーもう、こんな問題起こしたら絶対私解雇だし! いっそ煉獄ぶっ放せばよかった!」
コンル
「止めておきなさい、懲戒免職では済まないわよ?」
セローラ
「メイド長は良いですよね〜、多分厳重注意で済むんでしょ?」
コンル
「どうかしら……まぁ降格処分は確実ね」
二人は「はぁ……」とため息をついた。
どの道お先真っ暗感は二人を落胆させる。
セローラ
「あ〜、どうせなら茜ちゃんペロペロしたかったなぁ〜」
コンル
「また破廉恥な事を……そう言えば、貴方いつもどこから茜の後ろに現れていたの?」
ふとした疑問だった。
コンルも重度の茜愛好者だ。
故にストーカー紛いの事も何度もしているが、そう言えばセローラはいつも突然茜の後ろをとっている事に気が付いた。
セローラ
「え? そりゃこうやって壁抜けして〜」
そう言ってセローラはゴーストタイプらしく、部屋の中にあった机をすり抜けてみせる。
コンル
「ねぇ……それって真下に通過したら」
セローラ
「えーと、地下牢?」
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第25話 最終決戦、収束する意思 完
第26話に続く。