突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第24話 私が私である理由

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第24話 私が私である理由


 「茜!」

俺は茜を目撃すると、雪の温泉街をがむしゃらに走った。
途中誰かが静止する声が聞こえた気がしたが、ここで茜を見失う訳には行いかない。
もしかしたら俺を捜すために帝国から脱出してきたのかも知れないし、何よりこの千載一遇のチャンス、必ず手にしないといけない。


 「茜! いるなら返事してくれ! 茜ーっ!」

俺は茜に対して声を張り上げた。
多くの通行人が奇妙な顔をするが、俺は気にしない。
ただ、大切な者を求めているだけだ。


 「ご主人様……?」

道の奥から、忘れるはずの無い少女は現れた。
その瞳、その声……忘れない。


 「茜……お前」


 「ご主人様、ごめんなさい……」


 「何謝っているんだよ、お前が謝ることなんて何にもないだろう?」

それより、俺は嬉しすぎた。
目の間にいるには間違いなく茜なのだ。


 「ここにいるより皆の元に行こう。保美香たちも会いたがっているんだぞ」

俺は茜に手を伸ばす。
しかし、茜は一歩後ろに退いて俺の手を拒む。


 「ごめんなさい……ご主人様、私はご主人様の敵になったの……今は陛下の方が大切なの」


 「え……? どういうことだよ……?」

訳が分からない。
なんであの茜が俺の敵に……?
俺は手を伸ばしたまま固まってしまう。
正直事態が飲み込めない。


 「ねぇ、もし私のことが好きなら、今ここで死んでくれる?」


 「茜……そんな事を言う奴じゃなかっただろ……?」

俺は絶望しかなかった。
茜が裏切ったとか、そういうのじゃなくて、単純に俺の死を望む?
どうしてこれを受け止めろって言うんだよ。
ここまで頑張ってきたこと全て無駄なのか……?

しかし、茜は俺の反応を見ると踵を返した。


 「ご主人様、着いてきて」

茜が小走りに走り出す。
俺はもうがむしゃらだった。
ただ、茜を追いかける。
正直、自分が正常じゃないって何処かで自覚していたと思う。
でも、そこにいる茜に何も違和感を覚えなかった。
視覚も聴覚も嗅覚も記憶さえも、それを茜だと認めたんだ。
ただ、感情だけが茜を否定していた。


 「もういいよ」

茜が人気の少ない場所まで来ると足を止めた。
直後、何かが俺を拘束した。


 「ぐっ!?」

俺を拘束したのは黒ずくめの男だった。
その格好は既に何度も見覚えのある。
帝国軍特殊部隊のポケモンだ。

黒ずくめ
 「目標の拘束に成功」

コマタナ
 「ふん、今なら殺せるんじゃないか?」

サワムラー
 「止めておけ、出来ないから捕縛命令が出たんだぞ」

ダルマッカ
 「無理をすれば運命力に俺たちが殺される、か」


 (こいつら!?)

黒ずくめ以外の格好は私服であり、帝国兵のようだが、容姿はあくまでも私服警官のようである。
それぞれ、特徴的なポケモン故容姿は分かりやすいが……。


 (抵抗しても、容易に無力化だろうな)

それより抵抗する気が起きない。
茜はそこまでして、俺は消したいのか?
俺が茜に何をしたってんだよ。

ニア
 「……お前ら!」



***



お兄ちゃんが大きな声を上げて、宿屋を出た直後だった。
私はお兄ちゃんが気になって追いかけると、そこにはメイド服の少女、そして4人お兄ちゃんを取り囲むポケモンがいた。
私は怒りの形相で正面から向かい合う。

サワムラー
 「は! 噂のゾロアかよ! 幻影も纏わず正面から来るとは良い度胸だぜ!」

サワムラーは雪が降るほど寒いにもかかわらず半袖短パンだった。
そして私を発見すると独特の構えを見せる。
両腕を頭部を守るように上げて、片膝を持ち上げる。

特殊部隊
 「優先事項は常葉茂の誘拐だ、俺は任務を優先する」

ニア
 「させると思うか!」

私は短刀を構え、黒ずくめに跳びかかる。

サワムラー
 「シェラァー! 無視してんじゃねぇぞ!」

しかし、恐るべき踏み込みで、サワムラーは回し蹴りを放ち、私は吹き飛ばされた。

特殊部隊
 「離脱する」

ニア
 「く!? お兄ちゃん!!」

常葉茂
 「………」

私はお兄ちゃんを見た。
お兄ちゃんは無力化はされていない、でも抵抗の様子さえ見せず、目の前で連れていかれてしまった。
私は憤怒する……こいつら全員殺す!

コマタナ
 「さて、同じ短刀使い同士楽しませて貰おうか!」

ダルマッカ
 「ディクタス、お前も協力するのだろうな?」

ダルマッカがイーブイの少女に呼びかけた時だった。
イーブイの少女はグニャグニャと形を変えると、全く没個性な少年に変貌する。

ニア
 (!? イリュージョンじゃない!?)

それは幻影なんてレベルじゃない。
本物の変身、性別どころかDNAすら変貌させてしまう。

ディクタス
 「僕は誰? 茜じゃないのに、茜の哀しい気持ちで一杯だった……僕は誰?」

コマタナ
 「ち……相変わらず訳の分からない奴だぜ」

ダルマッカ
 「無理もない、人格レベルでコピーするのだ、自我は他者をコピーするたびに薄れる……今じゃ本当の自分さえ知らんだろうさ」

ディクタス
 「ゾロア……」

ニア
 「っ!?」

ディクタスと呼ばれたポケモンは私を見ると、また変身を行った。
その姿はご丁寧に私だ。
服装や装備すらコピーするらしく、私と鏡映しでそこに存在している。

サワムラー
 「は! どうせ変身するなら俺にすれば良いだろうによ! 俺ならこんなガキ一人で充分だぜ!」

ダルマッカ
 「ふん、ワンクの私兵はどいつもこいつもガラが悪い」

コマタナ
 「そう言うな、俺たちは中々戦えず鬱憤が溜まっているのさ」

ワンクの私兵……それは充分な情報だけど、ここで役に立つかは判断できない。
それよりも大問題は4対1という数的不利。
その上相手の一人は私だ。

コマタナ
 「それじゃ、俺からいくぜ!」

ガシャコン!

コマタナの身体は異常改造されたサイボーグのようだ。
その最大の特徴は両腕の短いブレードだろう。
折り畳みナイフのように展開出来るらしく、レンジは私とほぼ同一のようだった。

ニア
 「邪魔を、するな!」

私は一刻も早くお兄ちゃんを追いかけないといけない。
私に突撃してくるコマタナの刀を回避し、その頭部を踏ん付ける。

コマタナ
 「こいつ! 俺を踏み台にした!?」

サワムラー
 「チェイサー!」

コマタナを踏み台に高く跳躍した私にサワムラーは上をとった。
脚部がバネのようなっており、単身での高い跳躍を活かし、後ろ回し蹴りを放った。
サワムラーは私の顔面を砕いたと、確信する。
しかし幻影は触感すら騙す、サワムラーの蹴りは実際は私の頭一つ上を通過。
幻影は部分的な幻覚を見せる事も可能だ。
そのままサワムラーも抜けると、今度はダルマッカ。

ダルマッカ
 「貴様のような奴にはこういうのがシンプルに良いだろう!」

ダルマッカは身体を膨らませると、火の玉を吐いた。
それは大した威力はないが、私に着火すると一気に燃え広がる。
このままじゃ衣服を燃やされてしまうと、私は雪の中に飛び込んだ。
威力はないけど、衣類程度なら『やきつくす』か。

ニア
 「く……」

体高が低く、コンパクトな攻撃が厄介なコマタナ。
更に攻撃が一撃必殺な威力を持つサワムラー。
そして厄介な援護攻撃をしてくるダルマッカ。
一人一人なら問題ないが、纏めて相手をすると手が足りない。
それこそ、こいつら無視してお兄ちゃんを追いかけたいのに、それさえ叶わない。

ディクタス
 「悔しい私? 分かるよ……私もお兄ちゃんが大好きだもん」

ニア
 「私の顔でお兄ちゃんって言うな……!」

私は変身したディクタスに斬りかかる。
しか、ディクタスもまた同じ速度同じ力で斬撃を放った。
全く同じ力は、お互いの攻撃を相殺する。
思考すら同一ならお互いの手は良く分かるか。

コマタナ
 「ち……しぶとい奴め」

コマタナは再び刃を構えて、にじり寄ってくる。
更に独特のステップを刻むサワムラーに、一定以上は近寄らないダルマッカ。
正面には私が立ち塞がり、囲まれた。

ニア
 「……!」

私は短刀を構える。
どこから攻撃が来ても、短刀で捌く。
でも、このままじゃジリ貧だ……。


 「全く四人で少女一人をいたぶる等、随分楽しそうじゃのう!」

突然、聞き覚えのない渋い男の声がした。
全員がそちらを振り向くと、初老のノクタスがいた。
しかし初老と言えど、身体は鍛え抜かれており、更に2メートル近い長躯は威圧感さえある。

サワムラー
 「まさかハリー将軍!?」

コマタナ
 「ワンク将軍の義兄弟のか!?」

ニア
 「ハリー将軍?」

そう言えば聞いたことがある。
元帝国軍の将軍で、今はエーリアス直属の独立部隊に属していたはず。
なんで、北部にいるのか分からないが、少なくとも味方にはなってくれるようだ。

ベルモット
 「にゃはは♪ ニアっち大丈夫かにゃ〜?」

トウガ
 「ふむ、多数に無勢ならば仕方がないか」

更に別の場所からベルモットとトウガも現れた。
これはどういうことだ?
ここにいるはずのない人たちがここにいる。
それはまるで最終幕を見届けに現れたように。

ハリー
 「さぁて! 楽しい乱闘の開始じゃなぁ!」



***



それは本当に入れ違いのようなタイミングだった。
その町は間違いなく恐怖で包まれていただろう。
なにせ町の外には1万の兵が待機していたのだから。

エーリアス
 「やぁやぁ、お久しぶりですね!」

惚けた温和な笑みを浮かべるが、その中身は苛烈なタカ派の男エーリアスは自分の配下1万をもって、帝国へと進軍していたのだ。
そしてケダシの町で再会を果たした。

ナツメ
 「エーリアスさん、貴方があの兵を?」

エーリアス
 「ええ、住民を怖がらせた事は申し訳なく思っていますが、帝国を滅ぼすには今を持ってあり得ませんから」

ナギー
 (……元解放軍とはいえ、この男と純粋に付き合えるか疑問だな……)

ナツメ
 「あの、私たちは……」

エーリアス
 「分かっていますよ、あなた方はあなた方の道を進めば良い」



***



ハリー
 「さぁ! 楽しい乱闘の開始じゃなぁ!」

サワムラー
 「く……どうしてアンタが俺たちに拳を向ける!?」

ハリー
 「かぁー! 眠たい事を言う奴じゃのぅ! ワシらは殴りたい奴を殴る! それだけのシンプルな物じゃろうが!」

サワムラー
 「この、狂人め!」

サワムラーは鞭のようにしなる右足でハイキックを仕掛ける。
ワシはダッキングでサワムラーの懐に入る。
奴のムエタイは強靱な足腰が武器。
一方でワシはボクシング、超近距離戦こそ本領!

ハリー
 「は! そうよ! ワシはバーサーカー! 狂戦士こそ本望!」

ドゴォ!

ワシのリバーブローはサワムラーの体をくの字に折り曲げる。
吐かなかったのは見事だが、確実にあばらは持って行っただろう。

サワムラー
 「な、めるなぁーっ!」

サワムラーのかかと落とし、ワシは左腕でブロックするがブロックごと頭部に衝撃が走る。

サワムラー
 「俺の特性は柔軟! ボディの攻撃で倒せると思うな!」

ハリー
 「ち……そういうことか」

ワシは口の中の血を吐くと、左拳は目の前、右の拳は腰まで下げる。
それはあからさまな右アッパーカットの構え。
だが、相手は格闘ポケモンならこの誘いに乗らずにはいられないだろう。
何故なら一撃必殺のムエタイの技を極めたなら、このがら空きの右を蹴らずにはいられないだろう。

サワムラー
 「く……シェラァー!」

ハリー
 「!」

サワムラーの右ハイキック!
ワシはそれにカウンターを合わせるため、一歩前に踏み込む必要がある。
だが、踏み込んだときサワムラーは蹴りを途中で止めた。
フェイントだった、直ぐさまサワムラーはクリンチにかかる。
しかしそれはボクシングのクリンチに非ず。
頭部を両腕でロックし、ひたすら膝を打ち込む!

サワムラー
 「ふはは! テメェ見てぇな戦闘狂にそんなリスクある戦い出来るかよ! 膝地獄だぁ−!」

サワムラーの膝の一撃は重たい。
確かにその一撃が一撃必殺の威力を秘めている事は分かる。
だが……!

ドゴォ!

ワシは拳一つ分の隙間からサワムラーにリバーブローを放つ。
再びくの字に曲がるサワムラー。

サワムラー
 「だから内蔵殺しは俺には!?」

それは、攻撃と言うよりはこの一撃の布石だった。

ハリー
 「これだけの隙間があれば充分よ!」

リバーブローでお互いに空いた隙間は大きい。
ワシは右足を踏み込む。
右の拳に草の力を集め、アッパーカットを放つ!

サワムラー
 「ば!?」

スローモーションで見ればサワムラーの顔は半分ぐらい歪んだであろう。
マウスピースも無しにヘビー級の右アッパーを受ければ容易に人体は変形する。
更にニードルアームでの補正付きじゃ。

サワムラーは一撃で気絶……あるいは死んで雪のマットに崩れ落ちた。

ハリー
 「かっかっか! 文句なしのノックアウトじゃな!」



***



コマタナ
 「元七神将、海のベルモットだと……?」

ベルモット
 「にゃはは、今はしがない解放軍の犬にゃ」

相手のコマタナはニアと同じくらい小型。
恐らく射程距離も同じくらいか。
流石にニア程素早くもないと思うけどにゃ。

コマタナ
 「くそ! その体ナマスみてぇに切り刻んでやる!」

コマタナはアタシに身体から生えた刃を振るう。
それはX字にアタシを切り裂く。
しかし、水は切れない。
シャワーズ種の身体は水に同化出来るほど近い。
つまり、コマタナにはアタシを倒せないにゃ。

ベルモット
 「にゃ〜、優しくしてあげるからじっとしてるにゃ」

アタシはコマタナを抱擁する。
爆乳のおっぱいはコマタナを飲み込み、コマタナはアタシの中で溺れている。

コマタナ
 「! !」

コマタナの口から大きな気泡が零れた。
アルコールの海に溺れたコマタナはやがて意識を失う。
私はコマタナを離すと、彼は白目を剥いたまま雪の上に倒れた。

ベルモット
 「普通の水なら直ぐに蘇生すれば助かるだろうけど、急性アルコール中毒は恐ろしいにゃ〜」

アタシの身体は今は97%くらいがアルコール。
コマタナの身体は今や既にアルコールの気化熱で凍っている。
残念ながら死んだであろうにゃ。



***



ダルマッカ
 「何故だ? 何故トウガ殿が帝国に牙を剥く!?」

トウガ
 「私は私の信じる帝国のために戦っている。今や皇帝と宰相ギーグの傀儡となった帝国に正義はない」

俺は、槍を構えた。
まだ装甲も完全に癒えてはおらず、左腕はギプスで固定する有様だが、右腕は問題なく動く。

トウガ
 「もはや皇帝とギーグの私物と化した帝国に刃を立てる事に抵抗はない!」

ダルマッカは俺の威圧感に押されたのだろう。
身体は萎縮し、腰は震えている。

ダルマッカ
 「あ、アンタは炎に弱い! コイツを食らえば一溜まりもないだろう!?」

一体何がダルマッカを動かすのかは分からない。
だが、恐怖で縛られた兵が強いとは思わない。
欲望でも、かつての強い意志の元戦った帝国兵の誇りは既にないのだろう。
ダルマッカは大きく息を吸い込むと、炎を吐き出す。
俺は構わず突撃した。
炎は俺に着弾すると、大きく燃え広がる。
威力は見た目に比べて弱いが、それでも俺に効くか。
しかし止まらない。

ダルマッカ
 「やった! ちょくげ……っ!?」

ドス!

炎の中を突っ切った俺は槍でダルマッカの心臓を貫いた。
本来は馬上槍、このように使うには大きすぎる槍は、ダルマッカを串刺しにする。

トウガ
 「信念なき炎で私を倒せると思ったか? その代償は重かったな」

あくまでも戦う意志を見せないなら、見逃すつもりだった。
だが逃げれば皇帝に殺されるとでも思ったのだろう。
だからこそ信念もないまま、ただ恐怖で戦い死んだ。
これが……今の帝国の現実か……。
俺はダルマッカの焼けるほど熱い血を浴びる。
確か、ダルマッカの体温は600度だったか……蒸気の伴う血は、大地を染め上げるだろう。



***



ニア&ディクタス
 「「はぁ!」」

キィン!

気持ち悪いほどシンクロした動き、声も意志も同じなのか、私たちの戦いはずっと拮抗していた。

ニア
 「はぁ、はぁ」

自分と戦う事がこんなに気持ち悪いとは思わなかった。
私と同じように肩で息して、そして私と同じようにそれでも諦めない。

ニア
 「ねぇ……どうしてお前は戦うの?」

ディクタス
 「私はニアだから、お前を殺せば、お兄ちゃんと一緒なれる」

ニア
 「それが、戦う理由……!?」

コイツは紛れもなく私なんだ。
既にディクタスという自我は極限まで薄くなっている。
でも私は一人しかいない。
だからその席を奪い合う。
私がお兄ちゃんが好きなように、こいつもお兄ちゃんが好きなんだ。

ニア
 「私は家族が欲しい」

ディクタス
 「私は子供が欲しい、三人くらい」

ニア
 「お兄ちゃんと結婚して」

ディクタス
 「子供たちを愛して」

ニア&ディクタス
 「「そして、老いていく」」

……ここまで、ここまで私と同一でディクタスの自我は何所にあるの?
もし私が死んでディクタスが私になれば、ディクタスが一生お兄ちゃんと一緒になるのかも知れない。
でも、それは私の幸せでディクタスの幸せなの?

……それは、なんだか哀しい事だった。
結局のところ、私のイリュージョンも彼の変身も演じている事に違いはない。
でも、私は化かしてでも、手に入れる幸せはあると思う。
きっと私も無意識でお兄ちゃんに嘘をついたりしてると思う。
でも、コイツは全てが真実で、嘘だ。
私の想いを完璧に理解しているけど、私の言えない真実を語ることも出来るけど、やっぱり虚構なんだ。

ニア
 「お前、哀しい奴だね」

ディクタス
 「どうして泣くの?」

ニア
 「だって、お前が私になっても、お前は私じゃない……身体も心も同じでも、魂は違うもの」

あるいは、こいつがギリギリ元のメタモンに戻れるのは魂が自分を導いてくれるからか。
そうでなければ一度変身したら二度とメタモンに戻ることは出来ないだろう。
どんなに自我を薄くしても、自分がそこに存在するからメタモンに戻れる。
でもそれって、完璧に私にはなれないって事。

ニア
 「だから……貴方は私にはなれない。私には勝てない」

ディクタス
 「私はニア、そうじゃなければなんなの?」

私は突っ込んだ。
私の連続攻撃は全て、ディクタスに相殺される。
でも構わない、ならばもっとスピードを上げて打ち込む。

ニア
 「貴方はディクタスって自我に縛られている! だから自分が分からない!」

ディクタス
 「ディクタス、私はディク……!」

ドス!

相手の防御が緩んだ瞬間だった。
私の一撃がディクタスの心臓に突き刺さる。
ディクタスが自我に捕らわれていたからこそ、この結果は招かれた。
ディクタスは徐々に私の姿からぼやけた人間の像に変わっていく。
そう……メタモンとしての貴方なのね。

ディクタス
 「ディクタス……私はディクタ……ス」

ディクタスは後ろに倒れる。
私は肩で息をしながら見届けた。

ニア
 「……貴方が自分に拘ったの……少しだけ分かるわ」

ゾロアも化ける事が生きる道だった。
全く違う誰かに変身して、怯えて暮らしてきた。
でも……ディクタスと私の違いは、ゾロアとしての私を認めてくれる沢山の人がいたこと。
お兄ちゃんやナツメやナギーの前で、私は演じる必要がなかった。
だから私は自分が誰かを問う必要がない。
誰もが私をゾロアのニアと認めてくれるのだから。

ニア
 「さようなら」

私はこの哀れなメタモンにそれだけを言って残した。
私はまだ止まれない、お兄ちゃんを助けないといけないから。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第24話 私が私である理由 完

第25話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/09(火) 23:32 )