第22話 ナギーの意思、神話の囁き
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第22話 ナギーの意思、神話の囁き
これは、なんなんだろう―――。
空は茜色で、大地は草原が何所までも広がる。
教会の廃墟だろうか、私はウェディングドレスを着てそこに佇んでいた。
結婚式だというのなら、あまりにも儚く、そして物悲しい。
それはあまりにも現実離れして、だけど幻想だというにはリアル過ぎる。
まるでこの世界にたった一人、生き残ったのが私だけのような感覚。
これは一体なんなのか。
まるで演劇でも見るかのような感覚……。
身体が自然と歩き出し、廃屋の教会を抜けると、目の前には誰かが立っていた。
残念ながら逆光で相手の顔は分からないが、それでもその人が笑顔で手を差し伸べてくれているのが理解できた。
私は彼に手の伸ばした―――。
ナギー
「………え?」
気が付けば、私はテントの天井に手を伸ばしていた。
私はしばらく現実感を掴めず、あの妙にリアルな夢に耽っていた。
ナツメ
「あら、ナギーったら、どうしたの?」
ナギー
「あ……」
やっと現実に帰ってこれたのは、姫さまがテントに入ってきた時だ。
私はゆっくりと起き上がると、テントに光りが入ってきていた。
ナツメ
「ウフフ、ナギーがお寝坊なんて、珍しいわね」
ナギー
「ね、寝坊?」
私は慌てて、用意を始めた。
気が付けば、日が昇っており、最後まで目を覚まさなかったのは私だった。
年長の規範としてはあまりにも情けなく、私は急いでテントを出る。
ナギー
「すまない! 寝過ごし……!」
私はテントを出た瞬間、言葉を詰まらせてしまった。
それは、朝日の逆光を浴びる茂さんを見てしまったからだ。
茂
「ナギさんにしては珍しいな、今日も頼むぜ?」
ナギー
「え……あ、ああっ! 任せてくれ!」
私は茂さんの顔を真面に見れなかった。
それはまるで夢の続きのように甘く微睡んで、狂おしい程愛おしく茂さんを見てしまう。
自分がおかしくなったのか、世界がおかしくなったのか、まるで茂さんが運命の人のように思えてしまい、これまで抱いていた感情が、別の感情に塗り替えられたように思う。
ナギー
(く……茂さんの事が好き……なんていつもと変わらないだろう……なのにこの感覚ってなに?)
胸が高鳴って、正常な判断が出来るか分からない。
茂さんは少なくとも、いつも通り皆にテキパキと指示を出しているが、特に変な様子はない。
ナギー
(ああもう! 夢に惑わされるな!)
私はあまりにも浮ついた自分に渇を入れる。
既にテントの撤去が始まっており、私はその手伝いを始める。
伊吹
「ナギちゃん〜、様子が変だけど〜、大丈夫〜?」
ナギー
「年甲斐もなく、夢に惑わされました……」
伊吹さんは、いつも皆を見ている。
私の事も、心配そうにして相談に乗ってくれる。
私は伊吹さん程大人にはなれないのだろうか。
少なくともこれが『恋』だというのならあまりにも遅すぎる。
伊吹
「夢〜……て?」
ナギー
「不思議な夢でした……茂さんと結婚式を上げるかのような夢……」
まだ、夢の中で手を差し伸べてくれた男性が茂さんかは分からない。
ただ、現実で茂さんを見てしまうと、アレも茂さんだと思ってしまった。
あまりに初心すぎる感情に自分自身情けない。
伊吹
「へぇ〜、結婚式かぁ〜、そう言えば考えた事なかったなぁ〜」
私はふと、伊吹さんたちの事が気になった。
私に比べて、家族というだけに茂さんと伊吹さんたちには壁のような物を感じない。
でも、保美香や美柑も、本当に茂さんが好きなんだと私でも分かる。
ならば、思わないのか……茂さんの特別な存在になりたいとは?
ナギー
「伊吹さんは結婚はしたいとは思わないのですか?」
伊吹
「うーん。わからない〜。だって〜、もうそれ以上の関係って感じだから〜」
それ以上の関係?
ああ、何となく分かる気がした。
伊吹さんたちは、既に家族なのだ……好きという感情も恋ではなく、愛なんだ。
だから結婚式なんて儀式は伊吹さんには無意味で、それだけ通じ合っているんだ。
伊吹
「結婚式って〜、永遠の約束だからねぇ〜、あたしたちって〜、ある意味もう約束済みなんだよね〜……」
ナギー
「それは……?」
伊吹
「ある意味では呪い……かな〜? 祝福の呪い〜……」
ナギー
(祝福なのに、呪い?)
正直、茂さんの事、そしてその家族のことはまるで知らない。
そもそも茂さんがなんというポケモンであるかも知らないのだ。
茂さんは頑なに自分がなんというポケモンかは分からないと言っているし、実際新種の可能性は高い。
だが、そもそも茂さんはポケモンなのか?
もしかすれば、神そのものなのではないだろうか。
神がこの世界を救うために、この世界に降臨したというなら辻褄も合う。
しかし、我々の考える神からは茂さんはあまりにも遠い存在だ。
そう考えると、益々茂さんとその家族には謎だらけだ。
その真相も最後の家族、茜というイーブイの少女を迎えれば、分かるのだろうか?
伊吹
「ヨイショ〜、さ〜て、テントも畳んだし〜、出発だねぇ〜」
保美香
「お疲れなさい、はい……コーヒー」
伊吹
「あ、ありがと〜♪」
テントを片付けて、ソリに積載すると、温かいホットコーヒーが振る舞われた。
保美香は私の分も用意してくれたらしく、有り難く受け取る。
伊吹
「うぅ〜、ブラック苦い〜……」
保美香
「我慢しなさい。砂糖や牛乳は貴重品なんだから。ナギーは大丈夫かしら?」
ナギー
「大丈夫だ、眠気も覚めて丁度良い」
伊吹さんは苦い物が苦手なのか、何度も顔を顰めて飲む。
私は慣れているし、コーヒーの抽出も良く出来ている、それ程苦もせず飲みきった。
既に隊は出発の準備を済ませている。
私はコーヒーのカップを保美香に返すと、荷物を持って茂さんの元に向かう。
茂
「ナギさん、寝癖」
ナギー
「ひゃ!? よ、よさないか……恥ずかしい」
私は茂さんの隣に立って、荷物から地図を取り出していると、茂さんは私の頭を撫でた。
私はまだ恥ずかしさが残っているらしく、そういった仕草一つとっても自分に何か影響を与えてるのが分かる。
私はフードを被ると、茂さんから顔を隠した。
茂
「やっぱりなんか変だぞ。そんなに寝坊で慌てているのか?」
ナギー
「と、当然だろう……子供じゃないんだから」
本当はそうじゃないが、そう言うと茂さんは納得してくれた。
うぅ……特別茂さんが好きって感情は変わらないけど、何故か意識してしまう。
ナギー
「もう行こう! さぁ!」
茂
「そうだな……皆、出発するぞ!」
美柑
「了解です!」
ニア
「に〜、今日も元気」
既に皆準備を済ませてある。
私ははぁ……と、息を吐くと気を整える。
白い息は直ぐに凍り、今日も寒いと実感する。
地図を広げると私は、茂さんに道を示した。
***
茂
「ふぅ……道が狭いって、やっぱりなんか圧迫感あるな」
その日の正午過ぎ、俺たちは予定通り、二つの山に挟まれた峡谷を進んでいた。
そこは道幅は場所によって変わるが、狭いところだと2メートルもない事もある。
今は道幅が10メートル程の比較的広い場所だが、生憎そこで俺たちは足を止めていた。
ナツメ
「前方に200、左右にも50ずつでしょうか?」
ナツメの索敵能力は正に神がかっている。
電子戦に至っていないこの時代なら、最高性能のレーダーだと言えるだろう。
だからこそ、会敵前に準備出来る訳だが。
保美香
「一人50ですか、とりあえずわたくしは左翼を担当しましょう」
美柑
「じゃあ、ボクは右翼を担当します」
茂
「お前ら50人も捌ける自信はあるのか?」
俺はあまりにもあっけらかんと自分の戦いを決める二人にそれを問う。
しかし、二人は曇りない笑顔だった。
保美香
「愚問ですわ、何なら200でも倒して見せますわよ?」
美柑
「出来ることなら主殿には心配ではなく、応援が欲しいですね」
茂
「二人とも……分かった。必ず無事戻ってこい、信用しているぞ!」
保美香
「あはは! ご主人様にそう言われれば百人力ですわ! 出撃しますかしら!」
まずは保美香が飛び出す。
その姿はやっぱりエイリアン的だが、頼もしい家族だ。
美柑
「勝利の栄光を主殿に!」
続いて美柑も出撃する。
美柑は山を飛び跳ねるように登っていった。
さて、残るは正面だが。
ニア
「私が先行して偵察してこようか?」
茂
「いや、奇襲をかけるぞ!」
俺もあの二人に見習い、ここは強気に行くことにする。
そうだ、アイツらが100を担ってくれるなら、俺たちで200は余裕だ。
ならば進めばいい、ここには七神将にも勝るとも劣らない豪傑ばかりなのだから。
***
帝国兵
「な、なんだ!? まさか奇襲か!?」
ナギー
「はぁ!」
茂さんの決定後、私はいの一番に切り込んだ。
まずこちらに気付かなかった帝国兵を一刃で屠り、次に向かう。
ここは一本道だが、見通しは悪い。
故に全速力での奇襲は成功して、敵は混乱している。
帝国兵
「くそ! 相手は一人! なめらーー!?」
槍を持った帝国兵が私に突撃する。
しかし、直後に首から血を吹いて倒れた。
ニア
「やっぱり多いね」
ニアは帝国兵を後ろから暗殺すると、イリュージョンを解いて私の横に立った。
当然だな、我々は事実上100を仕留める気で行かないとならない。
後ろには伊吹さんと姫さまが控えるが、二人も基本的には茂さんの護衛。
特に攻撃に手心を加えてしまう姫さまは奇襲に合っていない。
ナギー
「さぁ行くぞ帝国兵ども!」
ニア
「とりあえず50だね」
私たちは帝国兵の群れの中に飛び込んだ。
彼らはそれ程練度も高くないのか、それ程連携をしてくる様子がない。
それどころか戸惑ってさえいる。
それはおそらく左右の挟撃部隊が現れないからだろうが、たった7人に対してこの様では雑兵も良いところだ。
これならば南部や中部で戦った帝国兵の方が骨があると言える。
ナギー
(しかし、七神将でも駄目なら数で押す? いくらなんでも短絡的すぎる)
私は敵の作戦に妙な感覚を覚えた。
あまりにも雑な作戦、既に我々が一騎当千級であると知らない筈はないが。
ナギー
「ッ!? アレは!?」
***
俺の戦いは至ってシンプルだ。
鳥ポケモンの多くは自ずと空中戦を好む。
しかし空中と言っても戦場は異なる。
殆どのポケモンは精々対流圏でも高度4千メートルが限界だろう。
だが、俺は高度1万メートルでも活動できる。
つまり普通の鳥ポケモンならば俺の上を取ることは不可能。
そしてこの雲さえ昇らない高高度の空気中から獲物に一気に急降下する。
俺はスピードでは他のポケモンに劣ることもあるが、パワーはある。
故に急降下から一気にその落下スピードを利用して対象を仕留める、これが最もシンプルな鳥ポケモンの狩りだ。
俺の戦いは狩りと変わらない、ただ獲物の首を刈り取るのみ。
ジョー
「お前に恨みはない……だから苦しまず殺してやろう」
俺は目標を見定めた。
落下速度はマッハに迫る中、対象となる茂に一直線に落下する。
そして右腕に装備した鉄の爪を構える。
その首……いただ――。
***
ナギー
「させるかーっ!!!」
私はこの戦い方を知っている。
鳥ポケモンといえど高度4千mを越えて普通に戦えるポケモンはそうはいない。
だからこそ奴は鳥ポケモン相手に頭上をとって戦える。
事実、我がナギー隊は精鋭のピジョン達で固められていたにもかかわらず、為す術なく壊滅した。
私は部下たちの助けで、なんとか命を繋いだが、コイツに負けたことは、ただ普通に負けた事より大きい。
ガッキィィィン!!!
ジョー
「ッ……貴様」
私は全力で急降下するムクホークに剣を振るう。
奴は鉄の爪で咄嗟に受け止めた。
上空400メートル程度での迎撃だったが、なんとか茂さんへの奇襲を防いだ。
ナギー
「ジョー、貴様だけは!」
私たちは大きな翼を広げて、降下に備える。
地面の直前で揚力を得ると、私たちは山と山を向かい合って対峙した。
今下には茂さんがいる。
茂
「どうしたナギさん!」
茂さんが心配そうに叫んだ。
私はその声を聞くが、視線はジョーから外さない。
コイツは躊躇いなく茂さんを殺しに来る。
雑兵もただの足止め、ただこの奇襲を成功させる布石だ。
ジョー
「ち……貴様を先に仕留める必要があるか」
ナギー
「簡単に……いくと思うなよ!」
私は全速力で身体ごとジョーにぶつかりに行く。
私より二回りは大きく、その丸太のような太い腕は私の首より太いだろう。
だがスピードは私が上だ。
奴は鉄の爪で私の剣を受け止めるが、私は連撃で相手を責め立てる。
飛ばさせなければ、コイツは高高度の利点は使えない!
ジョー
「ふ!」
ナギー
「がっ!?」
それは一瞬だった。
私は連続攻撃で反撃の隙は与えていない筈だった。
しかし奴は、鉄の爪で剣を受け止めると同時に膝蹴りを私の腹部に叩き込んできた。
ジョー
「通常鳥ポケモンの身体は飛行するため軽い、だからこそヒット&アウェイが求められる……」
ぐ……腹部の激痛に顔を歪め、その基本を忘れた自分を悔やむ。
だが、常識捕らわれていてはコイツには絶対勝てない。
ジョー
「ふん!」
ジョーは跪く私に容赦のない爪の一撃を振り降ろす!
私は芋虫のように転がりながら距離を離した。
茂
「ナギさん大丈夫か!?」
茂さんは後ろで私を心配してくれている。
全く我ながら情けない。
無茶をするなと言われて、それを破って無茶をし、無事を祈られて、それを裏切る。
全く……情けなくて仕方がないよ。
ナギー
「私の部下の仇……討たねばならんと、そう思っていた」
ジョー
「?」
ナギー
「しかし今は復讐ではない、義憤で立たねばならない!」
既に無茶と無事の二つの約束を破った私だが、それでも私は茂さんの騎士だ!
茂さんに私の生き甲斐を捧げる!
茂
「……ナギさん、俺は貴方を一番信頼している……だから勝て!」
ナギー
「ッ!? ああ、勝つさ! 絶対に!」
それはまるで保美香たちが受けた激励だった。
それはあまりにも心許ないが、それでも最大限私を奮い立たせる言葉だった。
信頼されている事、それだけで私は強くなれる。
茂さんのために戦える!
ナギー
(済まない亡き英霊たちよ……私は君たちのための復讐ではなく、一人の男のために殉じる事を選んだのだ!)
私は暴風を身に纏う。
地上では竜巻が吹き荒れ、私は小型の嵐を身に纏った形だ。
強敵相手に私が編み出した暴風の変化形、白兵戦用モデル!
ナギー
「はぁ!!」
ジョー
「なに!?」
私は一瞬でジョーの懐に飛び込むと、剣を振るう。
ジョーはそれさえも爪で止めるが、剣から迸る真空波がジョーの身体を切り裂く。
私は一瞬で、再び距離を離す。
ジョー
「スピードもパワーも上がっている? それに風の刃を身に纏っているのか?」
ナギー
「思い知るがいい! かつて貴様に無残に負けた私が、今度は貴様を無残に倒す!」
私は遠くから剣を振るう。
剣先からは真空波が飛び、それはエアスラッシュとなってジョーを襲う。
ジョー
「ち!?」
ジョーは飛び上がり、エアスラッシュはジョーの足を切り裂く。
完全に切断する事は出来ないが、それでも奴の足を動かなくするだけのダメージを与えたはず。
私は再び空中戦でジョーに襲いかかる!
ジョー
「舐めるな!」
ジョーの翼が硬質化する!
それはメタリックなカラーとなって翼を鋼に変える。
『鋼の翼』が、私の剣を弾いた。
ナギー
「くぅ!?」
パワーはやはり向こうに分がある。
弾き飛ばされた私は暴風の力をコントロールするのに精一杯で追撃できず、ジョーは更に上空に飛ぶ。
ナギー
「くそ! 高高度には持ち込ませない!」
限界高度を超えれば、相手が有利なのは歴然。
ピジョットの身体でも高度1万メートルでは気圧に耐えられない。
だが、奴は普通のムクホークより遙かに強靱な身体でその低気圧に耐えられる。
しかし、奴はある程度上空に到達すると、そこで動きを止めた。
ジョー
「……この技はリスクがある……故にこの高さが必要だ」
ナギー
「なんだ? 奴が風に纏われて……!」
それは僅かな予兆だった。
奴が風の塊になった瞬間、それは風の矢となって私に急降下してくる。
『ブレイブバード』、あまりのスピードに自らの身体さえ傷付ける技だ。
だが、それだけに威力は凄まじい。
ナギー
「く!」
私は逃げるか、打ち合うか……ほんの一瞬迷いを見せてしまう。
しかし、茂さんの言葉を思い出した時、そんな迷いは一瞬で消え去った。
ナギー
「私の全力! 食らえぇぇぇ!」
私は暴風を一つの塊に凝縮する。
それを剣先に集め、ジョーに放った!
それは究極の風同士の激突。
ブレイブバードと暴風がぶつかると、音速を越えた真空波が無尽蔵に飛び回り、周囲の大気を吹き飛ばす。
ナギー
(く……このままでは私は!)
私は自分自身でさえ制御出来ない大気の乱れに飲み込まれてしまう。
目の前にはジョーが見えた。
既に気絶しているのか、それはとても弱々しかった。
だが、このままでは私も同じように死ぬだろう。
鳥ポケモンといえど、高高度からの自由落下は死だ。
そして自分の意識が飛び始めている事に気付く。
ナギー
(ここ……まで、か……)
直後……私は雨の降る丘に立っていた。
それはあまりにも物悲しく、そして私のウェディングドレスはずぶ濡れになっている。
心までが鬱になるその光景……しかし私は笑っていた。
何故なら隣には私の手を紡いでくれる男性がいるのだから。
男性を見ると、空にぽっかりと穴が開き、光が私たちを包み込む。
それは正に神話の光景。
神話の乙女は、恋をしている。
ナギー
「っ!?」
それはほんの一瞬の夢だった。
直ぐさま現実に戻った私は急いで翼を広げて、落下に備える。
しかし、その時目に前を横切る存在に気が付く。
ジョーだ、気絶しているのか、ボロボロで、自由落下をしている。
このままではミンチは確実だ。
ナギー
「ち!」
私は舌打ちをする。
本来なら死んで当然の仇だが、だからといってみすみす見殺しには出来ない。
私はジョーに取りつき、滑空の姿勢に入る。
ジョーの身体は重く、私では辛いが滑空ならなんとかなるだろう。
やがて、戦場が俯瞰出来る高さになると、戦場の様子は見て取れた。
既に両翼も正面も壊滅しており、我々の完全勝利である。
ジョー
「う……? 貴様……」
ナギー
「動くなよ、着陸するぞ!」
ジョーが目を覚ましたときには既に高度は100mを割っている。
私は着陸の姿勢に移ると、戦場から少し離れた場所に着陸した。
その際ジョーも翼を広げて揚力を作り、着陸は難なく成功する。
ジョー
「何故助けた?」
ナギー
「さぁな、戦っているときは殺す気だったが、終わってみると殺意等欠片も残っていない」
私はジョーを降ろすと、ジョーは地面に倒れる。
元々のダメージに加えて、ブレイブバードなんて無茶まですれば当然だろう。
私は剣を鞘に納めるとジョーに背中を見せる。
ジョー
「……あくまで始末しないか」
ナギー
「まだ茂さんを狙うなら、その度止める。それだけだ」
私は翼を広げると大空に飛び立つ。
茂さんを探すと、私は彼の前に着陸を試みる。
その中で、もう一度あの夢を思い出した。
どんな時でも私の手を離さなかった男性……アレはやはり?
ナギー
(分からない……アレはやはり茂さんだったのか?)
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第22話 ナギーの意思、神話の囁き 完
第23話に続く。