突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第19話 トウガの信念

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第19話 トウガの信念


 「茜が帝国に?」

保美香
 「はい、確かにジョーというムクホークの男がそう言ってました」

ガタッ!

その名を聞いて大きく反応する者がいた。
あまりの衝撃だったのか顔色を変えたのはナギさんだった。

ナギー
 「ムクホークのジョー……!」

ナギさんは、その顔に恐怖と強い憎悪のような物を滲ませた。
まるで親の敵の名でも聞いたような顔に嫌が応もなく心配する皆。

ニア
 「ナギー、大丈夫?」

ナギー
 「大丈夫だ、まさかここで聞くことになるなんて思わなかったのでな……」


 「その顔、知っているんだよな」

ナギー
 「……はい。帝国七神将の一人ジョー……かつて帝国の侵略の際、私は直接相対しました」

ナツメ
 「そんな……それじゃあナギーは……」

ナギー
 「完膚なきまでに敗れました……そして私は多くの仲間を失った」

それは本人にとってあまりにも辛い過去だったろう。
きっと、何も出来ず仲間の死だけを見て自分は生き残ってしまったのだろう。
その顔からは悔しさが滲み出て、その当時の厳しさが分かる。

ナギー
 「アイツだけは私が倒す……! それが亡き仲間たちへの鎮魂歌になるはず!」

それは少なからず恨みも籠もっているだろう。
その姿はどこか不安を覚えるが、俺には何もしてやれない。
過去を知らぬ俺には、過去に引きずられたナギーさんに何も言えないのだ。


 「……しかし、どうしてカリンの奴、俺たちに茜の居場所を教えるんだ?」

保美香
 「恐らくですが、挑発ではないかと」

伊吹
 「そうだね〜、それって取り返してみろって事だし〜」

……本当にそれだけだろうか?
アイツは伝説のポケモントレーナーと神話の乙女に執着していた。
まるで神話の乙女を憎悪するように。


 (やはり伝説の否定……そのために決着をつけたがっているのか?)

俺自身、特にカリンを恨む理由はない。
それどころか、アイツが何者か分からないんだ。
本当にカリンは世間一般の言う悪逆の王なのか?
俺にはそうは思えなかった。
寧ろカリンは何かに駆り立てられているようにしか思えないのだ。


 「……兎に角俺たちは茜を取り返さないといけない」

美柑
 「当然!」

保美香
 「あの子を見捨てるほど、落ちぶれていませんからね」

俺たちは全員頷く、まずは一つの目的を達成しよう。
まずは茜を助け出す事、そして皇帝カリンと決着をつけよう。
例えそれが対話で終わらなくても。



***



ジョー
 「帰還しました」

カリン
 「ご苦労、七神将も残り5人。大切に使いたい所だからな」

トウガ
 (……本当にそうなのか?)

中部戦線にいた七神将含む、帝国の一部は急遽帝国へと帰還した。
今や中部戦線は防衛線をトウジョウ地方に戦力を集中させる事で、なんとか完全な陥落を防いでいる。
しかし、補給ラインの寸断、更に不可解な転戦命令。

トウガ
 (皇帝陛下は……本当に大陸の統一をする気はあるのか?)

ディクタス
 「それで、僕たちはどうすれば良いの?」

カリン
 「お前たちには、伝説のポケモントレーナーの討伐に専念して貰う」

ワンク
 「かっかっか! それは実に愉快そうな戦になりそうだな!」

ワンク将軍は笑っているが、実際笑い事ではないぞ。
このカリンの命令で、キッサは重傷を負って療養中。
更に悪いことに解放軍の一部が帝国本土を目指し、進軍を開始したという情報もある。

トウガ
 「皇帝陛下、失礼かと存じ上げますが、ギーグ殿は?」

俺は全権を任された筈の宰相ギーグについて尋ねる。
元々ギーグは政治には向いているが、軍事にはそれほど向いていない。
だが、少なくとも中部戦線を放棄してまで伝説のポケモントレーナーを狙う理由はなんだ?
それをギーグも承知なのか?

カリン
 「ギーグも、この戦略は認めてくれたよ。どの道帝国が生き残るには伝説のポケモントレーナー抹殺しかない」

トウガ
 (……確かに神話通りなら、そうなのかも知れないな)

だが、神話には謎も多い。
伝説のポケモントレーナー、選ばれし神話の乙女と手を紡ぎ、世界を救済せん。
この僅かな詩文、全てが正しく伝えているとは考えづらい。
ギーグも七神将を使ってまでの抹殺は、その恐怖の裏返しだ。
しかし、皇帝陛下はどうか?
まるで崩壊していく様を楽しんでいるかのようではないか。

トウガ
 「ならば、私に茂の抹殺指令を」

ワンク
 「おい、そろそろワシにも戦わせろ!」

カリン
 「……良かろう、トウガに命令する。伝説のポケモントレーナーの首を取ってくるがいい」

トウガ
 「……は!」

俺は皇帝陛下の命令を聞くと、早速出撃に向かう。
俺はこの戦いで、帝国の行く末を見届けよう。
もし皇帝に本当に常葉茂の死を求めているのなら、それを叶え再び帝国の栄華を取り戻すだけ。

トウガ
 (……しかしもしも、皇帝の真意が他にあるなら……)



***




 「……」

お城は今日も慌ただしい。
メイドのお仕事をするようになってもう何日経ったのかな。
今日もご主人様の事を考えていると……。


 「あっかにゃーん!」


 「ッ!?」

突然後ろから何かに抱きつかれた。
それはこの城で働く先輩メイドのセローラだった。
セローラはランプラーというポケモンで、テンションが上がると瞳が燃え上がる霊炎の女の子だ。


 「セローラ、邪魔」

セローラは私と年齢が近い事もあり、仲は良かった。
ただ身長は一回り私より大きく、胸は私より一回り小さい。
いわゆる普通の少女体型なのだ。

セローラ
 「んふふ〜、相変わらず茜ちゃんはふわふわですなぁ〜♪」


 「あ、やめ……ん」

セローラは私の尻尾の付け根を弄くり、更に頭の耳に息を吹きかけてくる。
私はくすぐったさに身じろぎするが、セローラは離してくれない。

セローラ
 「もうこんな可愛い子が空から降ってくるなんて、神様は粋な事してくれるよぉ♪」


 「それ、関係、ない……!」

私がこの世界に召喚されたのは偶然だ。
ご主人様を救うべく、一緒にゲートに飛び込んだけど、ご主人様とははぐれ、私はこのお城に降った……それだけだ。

セローラ
 「んふふ〜♪ このままもっとかげッ!?」

ゴォン!

突然、鈍い金属音がした。
私が後ろを振り返ると、銀のトレイを持った巨乳眼鏡がいた。
私を熱心に教育してくれたメイド長のコンルだ。

コンル
 「セローラ、またサボって何をしているの?」

セローラ
 「あ……あはは、メイド長、これは親睦を深めるためといいますか」

コンルはいつものようにセローラに詰め寄ると怒気を強めた。
コンルはこの城で働くメイド全ての指揮を任されるメイド長だ。
コンルはメイドの中では一番年齢の高い27歳。
長身とはいかないが、マニューラ種としてはそこそこ大きい160センチの良くも悪くも大人の女性だった。

コンル
 「セローラ、直ぐに仕事に戻りなさい!」

セローラ
 「りょ、了〜解!」

セローラは私から離れると、足早に通路を去った。
セローラは少しサボり癖のある不真面目なメイドだから、いつもああやって私にちょっかいかけてくる。
あの子いつも不意打ちだから本当に辞めてほしい。

コンル
 「茜、貴方も嫌なら引き剥がしなさい」


 「……はい」

一方コンルは物凄く真面目な人だ。
いつも地味な眼鏡の奥にはキリッとしたつり目があり、その視線だけでメイドたちを萎縮させる。
極力自身の特性が外に出ないよう努めているが、どうしてもプレッシャーが漏れてしまい、あまりメイド長は周囲からは好まれていない。

まぁ実際は小動物に嫌われて落ち込む位豆腐メンタルな人なんだけど。

コンル
 「とにかく、どうしても言うなら助けを呼びなさい」


 「……」(コクリ)

私が頭を下げると、メイド長もそれ以上はなにも言わず、仕事に戻った。
私は自分の服の乱れを正すと清掃作業に戻った。



***



 「……呆れるほどになにもねぇなぁ」

山賊たちと別れを告げ、帝国の首都カノーアを目指す俺たち一行。
皮肉なことに空は満点の青空で、永遠に続くかのように思える雪原が明るく照らされている。

保美香
 「半年近く北部地域で過ごしましたが、本当に快晴なのって珍しいですわ」

通常緯度が高いと、太陽の日光照射が減り、高緯度は寒冷化して雲が生成される。
その関係上、実はシベリアとか北極って雲が厚いんだよな。
まぁ地球とこの世界が同じメカニズムとは限らないが、貴重な快晴に違いはないだろう。
そしてこれ程快晴だと感じるのは暑さだ。

ニア
 「にー、汗が止まらない」

美柑
 「防寒対策バッチリですからねぇ」

この地域は昼でも零下を下回る事も珍しくない寒冷地域だ。
故に防寒着は完全装備であり、それぞれの格好は南極探検家のようであった。

伊吹
 「う〜、重い〜」

それとは別に、過酷なのは旅に必要な物資の確保だ。
大きなソリで物資を運び、南極点を目指す冒険家のように、俺たちはただ北を目指す。

ナギー
 「貰った地図によれば、後5時間も歩けば、小さな町に着くはずだが」

それは山賊たちに貰った北部の地図。
昔交易していた頃と同じなら、今も地図と同じ場所にあるはずだ。
ナギさんはコンパスを持ちながら地図と見比べる。

ナツメ
 「それにしても、帝国の人たちはこんな過酷な環境に住んでいたのですね」

中部は今頃秋だ。
それに対してこっちはもう冬に入っている。
それだけ北部は過酷であり、中部は豊かさの象徴なのだ。
北部の人間が何故に侵略戦争に至ってまで中部を求めたのかが、何となく分かるな。


 「それにしてもなにもない……」

いい加減黙々と歩くのも辟易している。
一応後ろを振り向けば、フリズ雪山はまだ見える範囲。
まぁそれも後1時間も歩けば、大気に霞んで見えなくなるのだろう。
広大な平野が一面を彩る極寒の北部、その過酷さは想像を絶する。

ナギー
 「確か聞いた話では、北部も夏場は雪解けで緑豊かな地になると聞いた事があるな」

ナツメ
 「夏場なら小川が流れていたりするのかしら?」

保美香
 「まぁ夏場なんて来年まで来ないですけどね」

はぁ……結構げんなりする話だな。
せめて馬車でもあればと思うが、雪原に馬がいるはずもないし、この場合は犬ぞりか。
まぁ犬まで含めたら大所帯になりすぎるが。

伊吹
 「ん〜……クンクン、水の匂いだ〜!」

一番後ろで美柑と一緒にソリを引いていた伊吹が水の匂いを見つけたと、騒ぎ出す。
一番先頭を歩いていた俺は振り返ると、既に伊吹は美柑を引きずりながら、猛スピードでソリごと俺を追い抜いて駆けていく。

伊吹
 「川だ〜!」

美柑
 「と、止まってぇ〜!?」

ニア
 「……行っちゃった」


 「休憩だな……」

そこから伊吹を追うこと約1km、本当に清流の流れる川を発見した。
後から追いついた時には伊吹は顔を小川に突っ込んで水を飲んでいた。
一方でソリに引きずられた美柑はソリの上でぜぇはぁ肩で息をしていた。

ナツメ
 「綺麗な小川……」


 「よし、ここで休憩しよう」

俺は荷物をそこで降ろすと、水筒を取り出す。
旅の基本は補給出来るところで補給だからな。


 「皆も水筒を補充しろよ」

俺は川に近づくと、まず水質を見る。
川は流れが速く、水深は70センチ程。
周囲は草が茂り、その色艶から健康であると理解する。

伊吹
 「雪解け水で〜出来た小川は美味しいねぇ〜」

まぁ、伊吹の様子を見る限り、補充に問題はなさそうだ。


 「それで、今どの辺りですか?」

ナギー
 「うーむ、恐らくリシエ湖近辺だと思うが……」

俺は隣に立ったナギさんの横から地図を見ると、湖から延びる川が分かる。
恐らくこの川は下流位と睨んでいるようだ。
この北部に対して土地勘のない俺達は、常に地図から現在地を確認しなければならない。

ニア
 「ねぇ……なんで川は凍らないの?」


 「多分、気温だな。日差しで氷が溶けて下流に流れる……それで今日限定で小川になったのだろう」

恐らく真冬になると、もう二度と見れない初冬限定の現象だろう。

ナギー
 「一度上空から確認してみよう」

ナギさんは重い荷物を降ろすと、翼を広げて上空に飛び立つ。
鳥ポケモンの存在ってデカいよなぁ。
空を飛ぶってやっぱり必須の秘伝技だったな。

やがて、その周囲を旋回しながら飛び回ったナギさんは降りてくる。
上空から地図と照らしあわせて、現在地を特定する。

ナギー
 「……多分ここだ」

ナギさんが地図に点を打ったのはリシエ湖から5km下流の地域だった。

ナギー
 「このまま北上すれば黒い森に入る……そこで問題がある」

ナツメ
 「問題ですか?」

ナギー
 「一つに今日の目標チェックポイントから、大分進路が西にズレている事が分かった。そこでプランとしては森を突破して、最短ルートで軌道修正するルートと、それを大きく迂回するルートだ」

ナギさんの説明なら、まず森を突破するルートは最速で、予定通り目的地にたどり着ける可能性は高い。
だが何分森の勝手を知らない我々が真っ直ぐ進めるか分からないという事だ。
で、プラン2は森を迂回するルート。
こっちは安全だが時間がかかる、目的地に着くのは相当遅れる覚悟が必要だ。

ナギー
 「私としては迂回を推奨する」

ニア
 「でも夜になったら遭難する危険性もあるし、森を突破した方が良くない?」


 (どちらにもメリットとデメリットがある……)

どの道、各地点で補給を行わないと帝国までは持たない。
故に全てのチェックポイントは通過しなければならないのならどうする?



***



トウガ
 「……これだけか」

俺は出撃前に準備をしていた。
現在伝説のポケモントレーナー一行は、カノーア帝国を目指して北上している。
皇帝の命令はその伝説のポケモントレーナーの抹殺。
とはいえ俺一人でそれを成すのが容易でない事は承知している。
すでに破れた七神将は3人もいるように、もはや個人でどうにか出来る相手ではない。

兵士
 「トウガ様、申し訳ございません……現在何分物資にも困窮しており、供与できる物はこれだけしか」

兵士が申し訳なさそうに見せたのは、武器の数々だ。
しかし、それらは何れも旧式のものばかりで、中には投石器なんていうものまで混じっていた。

トウガ
 (ふ……これは相当のジャイアントキリングが必要らしいな)

俺は思わず苦笑してしまう。
果たして俺の槍が伝説のポケモントレーナーに届くだろうか?

兵士
 「あの、トウガ様! 我々もトウガ様の戦いにお加えください!」

トウガ
 「駄目だ、今や帝国は存亡の危機、一兵士たりとも無駄には出来ん!」

兵士
 「し、しかし満足な戦力もなく、しかも単独で戦うなど!?」

俺の目の前にいるのはまだ若いコドラの青年だった。
彼の目は純粋で美しく、こういった若者こそが帝国の未来を支えるものだと確信している。

コドラ
 「トウガ様は英雄です! トウガ様こそが帝国を導くのに相応しいと我々は信じています!」

トウガ
 「聞き捨てならんな! それは皇帝陛下への侮辱ともとれるぞ!?」

俺は強く睨みつけると、兵士は萎縮した。
だが、俺自身嬉しくない訳ではない。
まだ俺は帝国の行き先を計りかねている。
もし正しく理想の道へと歩むならや俺は喜んで命を捧げよう。

少女
 「あ、トウガ様だ〜♪」

俺を発見し、嬉しそうに手を振っていたのはユキワラシの少女だった。
俺はなるべく笑顔で手を振った。

ユキワラシ
 「トウガ様〜! またお話し聞かせてね〜!」

トウガ
 「ああ、約束しよう」

ユキワラシの少女はそう言うと、トテトテと足早に走って行った。
俺はその背中を最後まで見届けると。

トウガ
 「この北部はあんな子供が安心して暮らせるようになるまであと少しだ、今はまだ厳しい生活だが」

コドラ
 「我々は耐えます! 栄光のその日まで!」

トウガ
 「そうだな」

……だが、それは本当にいつ来るのだ?
帝国の全土統一は今や、現実不可能なレベルに達している。
それもこれも皇帝陛下の不可解な対応が原因だった。
まるで自らを悪逆の王に仕立て上げ、神話の乙女を出現させるかのようで……。

トウガ
 (まさか神話の乙女が狙い? だとしても何故?)

その答えは本人しか分からないだろう。
兎も角だ、俺は帝国騎士として職務を全うする。
今は疑念は抱くまい、ただ修羅として戦うのみ。

トウガ
 「出撃する!」

俺は巨大な戦車に間違った。
180kgある俺の巨体を引っ張るにはそれだけの馬力が必要になる。
そして俺は投石器を引っ張り、戦地へと向かった。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第19話 トウガの信念 完

第20話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/08(月) 18:47 )