第17話 新たなる旅立ち、保美香を求めて
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第17話 新たなる旅立ち、保美香を求めて
茂
「つまりそのフリズ雪山に保美香がいると?」
それはホウツフェイン方面の戦争が終結してしばらく経った頃。
既に城下街の復旧作業も始められ、俺もそれに従事していた時だった。
美柑
「ずっと黙っていた事は謝ります。ですが落ち着いてからの方が良いかと思いました」
茂
「保美香……いや、美柑は悪くない。実際戦時に教えられてもどうしようもなかったしな」
俺は久しく会えていない保美香の顔を思い出す。
昔はずっと保美香に甘えっぱなしだったが、今はどんな顔して会えば良いのかな。
伊吹
「それで〜、出発なんだけど〜」
茂
「1日待てるか?」
俺は1日時間を貰いたい。
まずこれから保美香を探しに行くのは、もう解放軍の目的には合わない。
解放軍はあくまで祖国奪還の為に戦い、そしてだからこそ高潔に戦い抜いたナツメを俺は支えてきた。
しかし、その大願が達成すれば俺の解放軍参加の動機もなくなる。
後は停戦協定でも報復戦争でも好きにすればいいが、そこまで俺がこの世界に関わる義理はない。
ただ、世話になった人たちに別れの挨拶はしておきたい。
茂
「なぁ……お前たちはこれからどうしたい?」
俺はふと、不毛にも思えるその疑問を二人に投げかけた。
二人は特に迷うこともなく。
美柑
「僕たちは主殿の仰せのままに」
伊吹
「そうだよ茂君〜。まだ見ぬ未開の地を目指すも〜、大地に根を降ろすのも〜、アタシたちは一緒でしょ〜?」
茂
「時々お前らから、俺は主体性を奪ってんじゃないかって怖くなるわ」
こいつらが俺に絶対的な忠誠を誓う理由は分からない。
例え聞いても俺だからとしか言わないし、こいつらには何か秘密があるんだろうか?
あるいは俺に秘密があるのか?
美柑
「では、明日朝一番ということで」
そうして、俺は皆にお別れをしなければならないのだった。
***
ニア
「養子縁組?」
エーリアス
「そうです、本当はもっと早くに話を切り出したかったのですが」
復興作業の中、私は特に出来る事もなく、ただ暇をしているとどういう訳かエーリアスがやってきた。
彼は突然私を養子にしたいと言ってきたのだ。
ニア
「……分からない。なんで私?」
エーリアス
「簡単な理由ですよ、貴方は救われなければならない」
ニア
「変なの、別に不幸じゃないし」
多分エーリアスは私がゾロアだから言っているんだと思う。
そこからは愛情とかじゃなくて、本当に同情のような物を感じてしまうが、生憎同情されるほど不幸じゃない。
エーリアス
「それは戦争が貴方の価値を上げたからですよ、平和になれば迫害はまた始まる」
ニア
「何それ、大罪のゾロアークに掛けてるの?」
この世界におけるゾロア種の迫害は、そのルーツを古代に存在したある王国のゾロアークに由来するという。
古代のゾロアークは優秀な戦士だったという、だけどある日ゾロアークは王国を裏切り、王国をその幻影能力で恐怖に陥れ、そしてゾロアークは討伐された。
その歴史から今日までゾロア種は原罪の血を持つポケモンって言われる。
そんなクソみたいな歴史に振り回されるのは、冗談ではないけど、でもそんな馬鹿な話なんて私には関係ない。
ニア
「養子の件は遠慮するわ、嬉しくない訳じゃないけど……」
私は確かに家族を求めた。
パパやママも欲しいと思ったが、それは叶わないと思っていた。
だからこそ養子の件は嬉しい。
けれど、今の私はママになりたい。
大好きな人と結婚して、子供を一杯作って優しいママになる。
だからこそ、私は不幸じゃない。
茂
「あ、ニアとエーリアスさん?」
ニア
「お兄ちゃん?」
突然、お兄ちゃんがやってきた。
こんな時間にどうしたんだろう。
でも嬉しいから抱きついちゃえ。
エーリアス
「ニアさん、とりあえずあの件は保留していてください。それでは私はここでお暇致しますから」
ニア
「ん、それでお兄ちゃん何の用?」
私はエーリアスに一瞥すると、直ぐにお兄ちゃんの方を振り向く。
かなり身長差があって、抱きつくのも大変だけどお兄ちゃんは優しく抱きしめてくれた。
茂
「実はな……」
***
ナギー
「……ここも駄目か」
復興に急ぐ中、私はある人を探しに城下を歩いていた。
探していたのは喧嘩別れしてそれっきりの親父だ。
私は騎士の部門の家柄ではなく、市政からの出だった。
まだ普通の女性より少し男勝りだった頃、騎士になりたい私は、そんな過酷な場所ではなく、普通の女として嫁げと親父と大喧嘩して縁を切ったのが8年前だった。
その後騎士養成学校で剣と教養を鍛え、若くして親衛隊に選出されて部隊長になり、姫さまの剣術指南役にもなって忙しさに包まれ、親父の事はすっかり頭になかった。
母親は丁度その頃に亡くなって、一人っ子だったから何処かで再婚でもしたか、寂しく独り身かと思ったがその足取りは結局掴めなかった。
ベルモット
「まぁまぁ、落ち込まないでにゃ〜」
ナギー
「別に落ち込んではいない。ただクソ親父だったが、それでも親だったからな、一応立派になった娘の顔を見せたかったが」
私は丁度酒飲みだった親父行きつけの店で休憩をしようと思うと、そこには偶々ベルモットもおり、彼女の酒盛りに付き合うことにしたのだ。
ベルモット
「まぁ私も29にもなって結婚してない穀潰し扱いされたしにゃ 〜、両親に顔見せ出来ないにゃ〜」
ナギー
「ぐ……23ってかなりピンチだよな」
この世界では平均18歳で結婚し、20歳なら子供がいるのが普通だ。
同級生も結婚している人ばっかりで、剣にうつつを抜かして女としての時期を失い、内心は結構焦っている。
ただでさえ青春は男臭い騎士団で女性の不利を覆すため、一時も手を抜けなかったし、騎士団の最高位の親衛隊に出世したら、ますます恋愛から遠ざかった。
それでも当時は楽しかったし、家柄のない私では求婚される事もなかった。
ベルモット
「まぁ、もう焦っても無駄なだけかもしれないしにゃ〜」
ナギー
「無駄って……」
益々凹んでしまう。
気がつけば婚活談義になってしまったが、もうそれでも良い気がした。
茂
「お、ベルモットとナギさん発見」
ナギー
「え?」
酒場の入り口に目を向けると、そこには茂さんがいた。
茂さんは私たちを見つけると、近寄ってくる。
ナギー
(あ、私身だしなみ大丈夫? 寝癖とか、羽根の手入れとか!)
茂
「何やってんのナギさん」
私は急に顔が真っ赤になると、慌てて自分の容姿を気にする自分に不審がる茂さんに頭まで逆上せたようだった。
なんで恋バナしている時に現れるんだろう。
好きな人が現れたら意識するに決まってるのに!
ベルモット
「にゃはは〜、それで飲んだくれに何か用かにゃ〜」
茂
「ああ、実はな」
***
ナツメイト
「……!」
王国の復旧作業は急ピッチで進められた。
私も本来ならば王女が現場で復興に携わるべきではなかったが、自分の力を平和に利用したいと、参加していた。
サイコキネシスで、瓦礫を除去し、建材搬入する。
細かい作業は大工に任せるしかないけど、私でも復興の手立てになれるっていうことを嬉しく思う。
茂
「……ようナツメ」
俺は、最後にナツメを選んだ。
ナツメは俺がこの世界で最初に出会ったポケモン娘で、一番手が焼けて、一番助けたいと思った相手。
でも、それはもうここまでだ。
これからナツメは俺無しでやっていかないといけない。
俺自身まだ保美香と再会した後の事は分かっていない。
でも多分その先はこっちには帰ってこないだろう。
俺は北部を目指すと思う。
どの道帝国にはカリンがいる。
アイツは俺と神話の乙女とかいうのが目的だ。
なら、こっちから向かうのが最も早く……そして、それがこの長い旅の終結を意味している気がした。
ナツメイト
「一体どうしたのですか茂様?」
ナツメは俺の心を読心出来る。
もし全てが分かるなら伝える必要もないだろうが、これは口で伝えないとな。
茂
「ナツメ、今までありがとう。そしてさようなら」
ナツメイト
「……え?」
ナツメはあまりにも唐突な別れに本当に驚いているようだった。
そしてその別れは必然であり、ただ少し早かっただけなのはナツメも理解している。
ナツメイト
「そう、ですね……異邦人である茂様を拘束なんて私には出来ない……」
茂
「あんまりにも急だとは思うけど、俺も家族を探さないといけないんだ」
ようやく足取りの掴めた保美香に一刻も早く会いたいというのは本音だ。
これからは俺も解放軍の手伝いはしないし、代わりに手伝って欲しいとも思わない。
後は異邦人である俺たちの問題だ。
ナツメイト
「一つ、教えて貰ってもいいですか?」
茂
「何を?」
俺はなるべく優しくしようと思った。
ナツメがどんな事を聞いても、真面目に答えよう。
ナツメイト
「私は貴方の役に立てましたか?」
茂
「そりゃ勿論な。お前の便宜がなければ俺は何にも出来なかったろう。そりゃ感謝してるよ」
ナツメイト
「そうではなく、異邦人常葉茂にとって、私は役に立ちましたか?」
ナツメが聞いている事は少し違うようだった。
ナツメは解放軍の常葉茂ではなく、訳も分からず異世界に飛ばされた異邦人としての俺に聞いているんだ。
あくまでも異世界人としての俺は……。
茂
「やっぱり感謝している。だってお前が助けてくれなきゃトウガに俺って殺されていたろうし、それに、これからワガママ出来るのもお前のお陰。役に立ったに決まってるよ」
それは打算抜きの答えだ。
俺が感情的に異邦人としての振る舞いを考えると、それ程良い答えは出ない。
だから多分長いものには巻かれろっていう社畜精神で解放軍に在籍していただけだ。
でも、それを抜いちゃうと、俺が家族を見つけるのは不可能だったし、やっぱりナツメとの出会いは大きい。
茂
「ナツメ、本当にありがとうな。これは異邦人としての俺の感謝だ」
この世界でなんだかんだで俺は馴染んだと思う。
きっと周りもこの世界の住人と認めてくれた事だろう。
しかし、やっぱり俺は異邦人だ。
今でもあの現代日本に帰りたい。
こっちに比べてクソ忙しくて、俺の才能なんてなんの役にも立たない、クソみたいな世界だが、あそこは俺の故郷だ。
保美香も茜も見つけて絶対に帰る……それは俺の動機になるだろう。
ナツメイト
「私は……ホウツフェインの王女ナツメイトは感謝しています」
茂
「ま、お互い支えあってここまで来たからな」
俺はこれまでの事を考えた。
全ては偶然であり、奇跡である。
ここまで生き残れた事も、そしてあの戦いの日々も、それは礎だ。
茂
「俺は行くよ、俺の旅はまだ終わってないらしいからな」
俺は振り返る。
街は茜色に染まっている。
俺の旅は、訳の分かんない偶然から、ここまでやってきた。
それは朝日が昇り、閨が落ちるように。
ナツメイト
「茂様……っ」
茂
「ん?」
名残惜しそうに、そして押し殺した声でナツメは俺を呼び止めた。
だが、ナツメは逡巡したのち。
ナツメイト
「いえ、なんでもありません」
茂
「……そうか」
俺はそれを聞くと、その場を離れる。
とりあえず明日の準備をしないとな。
***
朝、日が一番に昇る頃俺たちは外気に触れていた。
伊吹
「ふあ〜……」
伊吹は大きなあくびをする。
それ位朝早く俺たちは出発することを選んだのだ。
あんまりゆっくりしていると、かえって行くのが辛くなる。
茂
「お前たちは、挨拶とか済ましたのか?」
美柑
「ボクはそもそもそういう相手もいませんし、それにボクも異邦人に違いはありません。あんまり親しくしたら後が辛いですよ」
伊吹
「私は逆だな〜、皆とお別れ〜、泣いちゃった〜……」
両者別れのスタンスは真逆のようだ。
必要以上には絡まないという美柑と、必要以上に友好の和を広げた伊吹。
どちらが正しいかなんて分からないもんな。
茂
「それじゃ、行くか」
俺たちは荷物を纏めると、真っ直ぐ北を目指す。
正確には北西を目指す事になるが、今頃北部は止むことのない吹雪の中だという。
俺たちは防寒対策もしっかりして、極寒の帝国領に向かうのだ。
?
「そこの御方、剣士のご要望はないかい? こう見えても百人力だぞ」
茂
「え?」
まるで道を塞ぐように、そしてそれは俺たちの行動を読んでいた行為。
美柑
「ナギさん! それに!」
ニア
「私も家族、なら家族を探すのは当然」
茂
「ニア……」
ナツメイト
「異邦人として、私も貴方に力を尽くします。どうか私たちの力使って下さい!」
茂
「ナツメ……!」
三人だ、この世界で最も俺が頼りにし、そして助けたいと思った三人がいた。
ナギー
「一応私の覚悟を伝える。昨日辞職届けを出してきた!」
茂
「辞職って……」
ナギー
「うむ、これで私はもう騎士でもなんでもない。プータローだな!」
ワッッハッハと笑っているが、笑い事じゃないだろう……。
どうも社畜の性で辞めるまでは至ってなかったため、そのとんでもなさが染みる。
しかし、そうなるとナツメは?
ナツメイト
「私はただ、純粋に貴方を助けたい、貴方が私に思ってくれた逆のことをしたいんです!」
それは、俺とは大分違う事情だ。
俺は何も失うものがなかったからこそ、それが出来た。
でもナツメは失うものが多すぎる。
ナギさんのように簡単に割り切れる問題じゃない。
ナツメイト
「王女ナツメイトならここで止まったかもしれません、ですが私はただの少女ナツメとして、貴方と供に進みます」
伊吹
「茂君〜、ナツメちゃんも覚悟しているよ〜?」
茂
「あーもう! このお人好しどもめ!」
俺は頭を掻くと、もうそれ以上は何も言わず歩き出す。
茂
「俺は普通には生きられん男だ、それでもいいならついてこい!」
ニア
「に〜、頑張る」
ナギー
「ふふ、任せてくれたまえ」
ナツメ
「はい! 何所までもついて行きます!」
予想外に増えた5人のポケモン娘たち……もし、これにさえ意味があるのなら、それは何なんだろう。
だが、俺は考えるより進もう。
何所まで進めば答えがあるのか分からないが、もしかしたら答えなんてないのかも知れないが、それでも得られる物はあるはずだ。
***
カリン
「ふふふ、どうやら伝説のポケモントレーナー一行はこちらに出向いてくれるそうだぞ」
ここは皇帝の寝室。
私は白い着物の寝間着に着替え、ベッドで横たわる。
私の傍にはいつもメイドが一人いた。
そのメイドは私に敬意を払っているのか、払っていないのか分からない女だ。
だが、私に物怖じしないのはこいつだけだから、こいつは傍に置いてある。
カリン
「おい茜、少しは主人を敬ったらどうだ?」
茜はピクリと耳を震わせると、言葉を紡ぐ。
喜怒哀楽を失ったような少女でも、心はあるから僅かな機微で様子は分かる。
茜
「私のご主人様は一人です。陛下ではありません」
カリン
「ははは、これだから貴様は面白い。私に全く忠誠心を持たないのだからな」
普通の者なら、畏れ多くてそんな口など聞けない。
それでもこの女は主人という言葉に反応し、前の主人に忠義を尽くすのだ。
カリン
「そこまで想う主人とはどのような男だったのだ?」
私は茜に主人の事を聞くと、また茜は耳を揺らせ、尻尾を振る。
感情が顔より尻尾と耳に出る女だな。
茜
「ご主人様は私に愛を下さいました、私の危機に身体を張って護ってくれました。私を家族だと言ってくれました……」
茜の主人を語る時の顔はとても穏やかで至福の顔だ。
いまも本当の主人に会えず、胸を痛めているのだろう。
きっと想い出の中の茜は幸せなのだろうな。
カリン
(ふふ、少し面白くない話だがな)
茜の主に対する想いの強さは、反比例するように私の憎悪になる。
茜には伝えていないが、伝説のポケモントレーナーは茂だ。
きっと教えれば取り乱す事だろうが、だから私は教えない。
これは身勝手な茂への復讐だ。
向こうからすれば正に筋違いだろうが、それでもこれ位の腹いせはある。
カリン
「茜、もっと近くに寄れ」
茜
「はい……」
私はベッドに茜を呼ぶと、茜を捕まえて胸に抱き寄せる。
カリン
「ふふふ、こう見えてもバスト109だぞ、苦しいか?」
茜
「……!」
茜が胸に顔を埋めてジタバタ藻掻くが、力は当然私が上だ。
そのままでは結局脱出出来ないと諦めたのか、動かなくなる。
やがて少し力を緩めると、茜は顔を上げた。
茜
「楽しいですか?」
カリン
「ああ、楽しいね。今は貴様を独占しているのだ。こんなに愉快な事はない」
それは少し歪んだ愉悦だ。
茜が誰の女であるか知っているからこそ、茜を私の物に出来るのが楽しい。
茜には悪いと思うが、私のささやかな反発のダシになって貰おう。
カリン
「茜は処女か? いっそこの場で散らしてみるか?」
茜
「噛みますよ」
おっと、茜を本気で怒らせたようだ。
こいつは私にカケラも忠誠心がないから、噛むと言ったら本当に噛むだろう。
それで一生お嫁に行けなくなっても困るからな、冗談はここまでにしよう。
カリン
「貴様の主人に対する忠誠心は尊敬に値するよ……このまま抱いて寝てもいいか?」
茜
「困ります。メイドの仕事に差し支えが」
カリン
「仕方がない」
私は茜を解放すると、茜はベッドから降りてメイド服の裾を払った。
相変わらず茜は私に敬意を持っているのか、持っていないのか分からんな。
カリン
(茜はエサだ、茂は茜を求めてここに来る)
そう、これは誰にも理解されない私の復讐。
***
ビュゥゥゥ……。
フリズ雪山。
標高3000メートル級の山々が連なる連山であり、この山があるからこそバイオームは、北部の寒冷地方と中部の温暖湿潤気候に分かれていると言える。
今俺たちは黙々と雪山を登っていた。
伊吹
「うぅ〜、針葉樹が密集してて歩きにくいぃ〜」
ナツメ
「ですが木々のお陰で風はマシですよ」
茂
「これが登山の正規ルートなのか?」
ナギー
「いや、正規のルートはもう少し西側だ、しかしあちらは荒天時は危険すぎるし、何より山賊に出会う可能性が高い」
山賊……今回目的は一応ソレだ。
この周辺の山賊を統一して、一代勢力に築き上げた謎の女ポケモン。
その身体特徴から俺たちは保美香だと断定し、山賊のアジトを探しているのだ。
ナギー
「それにしても運が悪い。山に入った途端に吹雪とはな」
ニア
「にー、寒い」
雪山は今吹雪いている事もあり、気温は零下を下回っているだろう。
しかし、これでも北部ならまだマシだと言えるらしい。
そもそもフリズ雪山の南側は針葉樹林帯、生物がギリギリ住めるバイオームだ。
一方で北側は不毛の大地となる。
俺たちは山越えと、保美香の捜索を行っているのだ。
茂
(それにしても、なんで保美香の奴はこんなところに留まったのかね」
ザクザクザク。
茂たち登山隊が針葉樹林生い茂る斜面を登った後、そこには二人の目があった。
ツンベアー
「クク……旅行者か? カモだぜ?」
ユキノオー
「お、お頭に知られたら、取られちゃう」
ツンベアー
「だからこそ俺たちでいただきよぉ! 身ぐるみ剥いで、女どもはレイプして埋めりゃいい!」
雪の中で辛抱強く獲物を待った二人は茂一行のストーキングを開始する。
氷ポケモンだからこそ、この地に適応し、帝国をも難儀させる山賊ども。
しかし知らない事は恐ろしい。
彼らが、そのお頭にも匹敵する集団である事を。
***
針葉樹林帯は標高が上がっていくにつれ、分布を減らしていく。
既に目の前は大分吹雪にやられ、進むこともままならない。
だが、その状況は好機であり、俺たちは歩みを止めた。
美柑
「やっとですね……」
ナギー
「ああ……そうだな」
ナギさんは手頃な石を手に取ると前方に投げる。
吹雪で視界の悪い中、その石はボスっと雪にめり込んだ。
一見すると無意味な行為だが。
ナギー
「いい加減出てきたらどうだ?」
ナギさんがそう言うと、石の下から雪が盛り上がっていく。
そして雪が地面に落ちると、そこには2メートルを越す大男がいた。
ツンベアー
「ぬぅぅ! 何故分かったぁ!?」
それは一見すると辺境の野獣か牙一族という感じの男だった。
口から氷の牙が生えており、氷タイプのポケモンツンベアーだと分かる。
ナギー
「我々をずっと付け狙っていたようだが……生憎勘の良い方がいてな」
ナツメ
「ついでに言うと、もう一人いますね」
そう言うとナツメは後ろを振り向いた。
そこには木に擬態した妙に太った男がいた。
ナツメはサーナイトだ。
特に感情という物には機敏で、例え完璧に潜伏してもその感情の動きから場所を特定する。
まして周囲に殆ど生物のいない環境では探すのも容易だ。
ユキノオー
「ば、バレてるぅ〜、こ、こいつら手強いぞぉ」
ツンベアー
「馬鹿! 女ばかりだぞ、山賊が山で負けて堪るか!」
ニア
「舐められてるね」
ナギー
「こういう輩はお仕置きが必要そうだな」
美柑
「じゃ、後ろはボクが相手しますね」
ここは進路の前方を塞ぐツンベアーにナギさんが、後ろのユキノオーには美柑が当たる。
ナギー
「茂さん、号令願えるか?」
茂
「(敵の)命を大事に」
ナギー
「ふ! 任された!」
ナギさんは抜刀すると、ツンベアーに向かう。
しかし相手のツンベアーは相当デカいな、何気に大丈夫かな?
なんてナギさんを心配するが、まぁ杞憂だろうな。
ツンベアー
「ぬぅぅ、見せてやろう! この雪山で鍛えた爪からなる技、熊爪(ユウソウ)拳!」
ナギー
「ほう、武術の類いか、珍しいな」
ツンベアーはゆらりと幻惑するように動くと、その暴力的な爪をちらつかせる。
ナギさんは特に動じることもなく、その動きに集中した。
ツンベアー
「イヤー!」
ツンベアーが動く!
その爪がナギさんの顔面を捉え、襲いかかる!
だが、ナギさんは最小の動きでそれを回避。
ツンベアー
「ふはは! この俺の爪は鉄をも切り裂く! 止まった瞬間あの世行きよぉ!」
○山流かよ、と心の中で突っ込んでおく。
しかし豪腕巨軀に見合わない俊敏さに驚かされるが、あのツンベアー『雪掻き』の特性だな、なるほど寒冷地に適応した山賊らしい。
ナギー
「ほう、人体は鍛えると鉄をも切り裂けるのか!」
ツンベアー
「ふはは! そろそろ疲れてきたんじゃないかーっ!?」
どう考えても大きな動きをしているのはツンベアーであり、それでナギさんの体力切れを狙っているなら大した奴だが、その猛攻も涼しい顔して避けるナギさんにはどう見ても通じてない。
ナギー
「ふ、鉄をか……しかし!」
ふと、ナギさんが剣を納剣し、代わりに脇差しとして挿していた短刀を抜いた!
それは透明な刃で、まるで氷のような儚ささえあるが、ツンベアーの爪を容易に刃の腹で受け止めた。
ナギー
「このエアームドの抜け羽根より鍛えられし剣は鉄を切り裂くどころでは済まんぞ?」
ツンベアー
「ぬ、ぬぅぅぅ!」
ツンベアーの動きが鈍った。
容易く捌くその技量、装備の違いで力を見せつけるナギさんにツンベアーも得体の知れない恐怖を覚えたのだろう。
ツンベアー
「う、うおおおお!」
ナギー
「殺しはしないが、相応に痛い目は見て貰うぞ!」
ツンベアーが爪を大きく振りかぶった。
その爪を上からナギさんに叩きつける。
しかしナギさんを捉えるには至らない。
ナギさんは大きく跳躍すると、2メートルを優に超える大男の頭上を取った。
ナギー
「はぁ!」
短刀を逆刃に持ち替え、その脳天に叩き込む。
ツンベアー
「べあ!?」
変な断末魔を上げて、脳天を揺らされ、ぶっ倒れるツンベアー。
終わってみたら誰も殺さないクリーンな拳(笑)だったな。
茂
「さて、こっちは終わったが美柑は?」
俺は美柑の方を振り返ると。
美柑
「痛い?」
ユキノオー
「痛い痛い痛い!」
美柑
「助かりたい?」
ユキノオー
「助かりたい助かりたい!」
美柑
「駄目だね」
ユキノオー
「えぎー!?」
後ろを振り返ると、美柑の3倍は体重のありそうな巨漢デブのユキノオーが可哀想な位蹂躙されている。
相手の後ろを取って腕を逆間接に決めながら拷問していた。
見る限り全身既に打撲だらけなんだが、相当一方的な戦いだったようだ。
まぁ氷草のユキノオーが鋼タイプと戦うこと自体、無謀なんだが。
茂
「もういい、そこまで! ぶっ倒したら保美香の事を聞けないだろう!」
美柑
「だそうです。運が良かったですね」
俺は戦闘を停止させると、美柑は相手のホールドを外した。
ユキノオーはその巨体を地面に転ばし、動かなかった。
茂
「アンタたち、この地域の山賊をまとめ上げたポケモンに会わせてくれないか?」
ユキノオー
「お、お頭に?」
ある程度痛めつけると従順だった。
このままアジトに案内して貰えば、保美香との再会もそう遠くなさそうだ。
ナツメ
「……あの、茂様。とても言いづらいのですが」
茂
「どうした?」
ナツメ
「私たち……囲まれています」
?
「うううー!」
それは狼の遠吠えのようで、しかし狼にしては低い音程の遠吠え。
?
「ううー!」
「おおーう!」
やがて、遠吠えが一つ一つ増えていく。
まるで包囲して、相手の恐怖心を煽るように。
俺たちは自然と集合し、固まって警戒をする。
やがて、山賊の本隊がざっと目視で見積もって50人は集まったようだ。
最も吹雪で視界は悪く、実際の数は分からない。
茂
「出来れば会話で済まないかね?」
ナギー
「帝国を困らせる一団だからな、戦術規模で見れば軍と言っても過言ではないだろう」
随分嫌な情報だった。
少なくとも辺境の野獣みたいな奴らが俺たちの為に群れで来たってんなら、かなり分が悪くないか?
茂
「しゃーない、ちょっと本気で相手してもいいぞ」
俺のその言葉に、全員が頷く。
それは技の使用を許可するということだった。
ナギー
「集団戦なら狙いをつけなくてもいいのは楽だな!」
ナギさんが羽ばたいた。
大きな翼を広げ、周囲に熱風を撒き散らす。
周囲の吹雪を吹き飛ばし、大地を溶かしてその周囲の視界がクリーンになる。
そこには大小様々なポケモン達が俺たちを取り囲んでいた。
茂
「まるで華山○狼拳だな」
山賊だけに統一感はなく、それこそ珠玉混玉の様子だった。
さて、これって保美香までたどり着けるよな?
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第17話 新たなる旅立ち、保美香を求めて 完
第18話に続く。