突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第15話 狡猾な罠を乗り越えて

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第15話 狡猾な罠を乗り越えて

エーリアス
 「各戦線の調子は?」

中部戦線が帝国を押して3週間、苦戦しながらも述べ12万軍を動員した解放軍は、各戦線を突破している状態にある。
だが、何所も戦線の決着には至らない。
もしこれ以上長期化すれば最悪の場合、補給線の崩壊に繋がる恐れもあるため楽観視は出来ない。
生産能力では帝国が上なのだから、なるべく短期決戦を仕掛けたい。

ビート
 「でも、帝国もフリズ雪山の山賊に補給線を荒らされて厳しいらしいですよ」

私の前に立っていたのはホルビーのビートと言う諜報官だ。
元は何所の所属かも分からない程ぐちゃぐちゃの経歴を持ち、帝国と解放軍のダブルスパイといった所の男だ。

エーリアス
 「ふふ、一応こちらに運は向いているという事かな?」

ビート
 「それはアンタにって事? それとも解放軍にとって?」

ビートは中々読めない、優秀な諜報官だ。
だが、ビートでも私は読めないだろう。
解放軍に誰も私を理解している者はいない。

エーリアス
 「さて、ご想像に任せます。少なくとも打倒帝国に関しては本気ですので」

ビート
  「……アンタ、意図的に戦争を長期化させる気じゃないよな?」

エーリアス
 「変なことを、そんな事をして何のメリットがあるんです?」

ビート
 「……まぁいい。戦線としてはトウジョウ方面軍が特に苦戦しているな、逆にホウツフェイン方面は最も善戦している。帝国もホウツフェイン方面は放棄したと見て良いだろう」

エーリアス
 「その分が他の戦線に飛び火する可能性がありますか」

ビート
 「どうかな、元々帝国は愛国心じゃなくて実利で動く奴ばっかりだからな……美味い汁が吸えないとなると解放軍に媚を売る奴らもいるだろうぜ」

エーリアス
 「やはり恐怖政治は駄目だ、それでは忠誠心は育たない……絶対的なカリスマ、そうナツメイト王女のようなカリスマこそ忠誠心を育てる」

ビート
 「まぁ、帝国も皇帝が出てくれば変わるぜ、皇帝だけは力の信望者のカリスマだからな」

最も絶対に動かないだろうが、とビートは付け加える。
帝国を一代で築き上げ、全土統一の手前まで勢力を拡大した長は、さして中部戦線には興味がないようだ。
恐らく興味は常葉茂に集中している。
彼が自らの場所にたどり着くのを楽しみに待っているのだろう。

ビート
 「それじゃ、俺はそろそろもう一人の雇い主の方に戻るぜ」

エーリアス
 「トウガさんですか、彼にも宜しくお願いしますよ」

ビート
 「旦那は親帝国だ、宜しくなんて伝えられる訳ないだろう!」

帝国七神将トウガ。
敵なのは確かだが、彼はある意味私の味方でもある。
当面この戦争は帝国と解放軍の全面戦争だが、既に戦後を見据えているのはほんの一部だけ。



***



ホウツフェイン王国首都サイユウは戦場の舞台になっていた。
城下は大乱戦に晒され、城内も既に戦闘が始まっているようだ。
そんな中、城下街の中腹で、俺はあんまり思い出したくない敵と遭遇してしまった。

クリスト
 「相変わらず鬱陶しいしぶとさだな」

イミア
 「そうでないと、殺し甲斐がない」

抑揚のないフラットな喋り。
全身を黒ずくめで覆い、ドクロのマスクを被ったその無個性さは見忘れる訳がない。
長身細身、ヤミラミのクリスト。
低身で中性的な弟、ゴーストのイミア。
この二人にはナル・ミオンデ要塞で苦戦を強いられたからな。

ナギー
 「全く相変わらず、茂さん狙いか」

ニア
 「お兄ちゃんはやらせない」

美柑
 「それにしても不気味ですね……」

こっちは、ほぼ俺から離れないニアと美柑、そしてわざわざ駆けつけてくれたナギさん。
伊吹とベルモットは後方待機で、ナツメは既に城内に入った頃だろう。
戦力差は大きく、帝国が陥落するのは時間の問題だ。


 「お前らも執念深いな……」

クリスト
 「戦の勝ちはくれてやる……だが、貴様の首は貰う……!」

クリストから滲み出る闘気。
そのフラットな様子からすれば、随分異端と言える怒気だ。


 「なら、今回も俺の勝ちだな」

クリスト
 「ほざけ!」

クリストが腕を振るう。
ディスクが孤を描いて空を切る。

イミア
 「女、僕の蛇剣はどうした?」

ナギー
 「ああ、あれは実に興味深かった。私のコレクションに加えてるよ!」

イミアは新たに中東の曲刀シャムシールに似た武器を装備している。
これまたこの世界では珍しい装備で、ナギさんとイミアが衝突する。
単純な自力はナギさんだが、今回もなにか変わったネタを仕込んでいる可能性もあるからな、油断は出来ん。

美柑
 「主殿、後退して下さい。あっちの長身はボクが相手をします。ニアは主殿を護って!」

ニア
 「わかった」

今回のオーダーは前衛がナギさんと美柑、後衛がニアと俺になった。
ナツメと美柑が入れ替わった形になったが、既にクリストに関してはネタバレしている訳で、この戦いは以前ほど厳しくならないと踏んでいる。

キィン!


 「正面頼むぞニア!」

俺は剣を盾にディスクを弾き返す。
追撃で来るはずのディスクはニアに任せ、鉄壁の布陣を組み立てる。

キィン!

ニア
 「……意外に単調な技だね」

ニアも正面から来るディスクを容易く叩き落とした。
クリストは建物の屋根の上から相変わらず表情の読めない様子を見せる。
一方何度も剣を打ち合っているのはナギさんとイミアだ。
現状は一進一退でややナギさんが押しているように見えるが、イミアも半月刀の丸みを活かした防御技術で、ナギさんの致命打を防いでいる。

ナギー
 「ふ! 帝国でも惜しいな君は! 剣の才覚は良いぞ! 」

イミア
 「むかつく奴……上から目線で」


 (相変わらずあっちは長引きそうだな……なら先にクリストから倒すべきか)

クリストは概ね遠距離攻撃に専念して、自分は安全な場所から離れる事はない。
だが、今回は防衛戦を想定した城塞内部ではなく、あくまで市街地。
両脇は密集した赤煉瓦の民家で、隠れる場所はいくらでもある。


 「とりあえず攻撃の届かない場所に行くぞ!」

ニア
 「うん、わかった」

美柑は既にクリストに向かっているし、俺たちも隙を見て加勢すれば一気にこの兄弟は崩れる。
俺たちは申し訳ないが、近くの民家に飛び込んだ。


 「……まぁ中まではディスクも飛んでこんよな」

もしかしたらそんな曲芸投法も見せてくるかもしれないが、少なくとも命中させるのは難しいだろう。
相手側からすればこっちは見えないのだから、飛び道具は特に使いづらい。

ニア
 「お兄ちゃん……やっぱり変だと思わない? 」


 「変って……クリストの事か?」

ニアは安全な場所という事で、武器を下ろしコクリと頷いた。
正直言えば、一度破られた技を更に条件の悪い場所で使うのは愚行だと思う。
確かに冷静沈着で確実に獲物を仕留めにかかる奴らしくないとは思った。
てっきり弟同様新武器引っ提げてくると思ったんだが。


 「買い被り過ぎたのかも知れんな……」

前回の大苦戦の時に比べて、こちらも七神将と戦ったりレベルアップしているのだから、単純にこちらが強くなっただけな気もする。
そしてそんな楽観視があったから俺は、クリストの本当の恐ろしさを忘れていた。

ニア
 「? お兄ちゃん……テーブルに飲み物が放置されてるよ」

それは突然部屋の内装にニアが気付いた。
部屋は二階建てで1階はキッチンになっているらしく、テーブルにグラスに注がれたワインが放置されていた。


 「戦場になる前に急いで避難したんだろ……それにしても赤ワインか?」

それは正確にはブラッディマリーと呼ばれるトマトをブレンドしたカクテルだが、その時それ単体に意味があるなんて俺は思わなかった。
ただ、その家は妙に違和感が目立つと言えば目立つんだよな。


 「なにか小綺麗過ぎる? まるでショールームみたいな……」

その時、俺はなにかを踏ん付けた。
咄嗟に足下を見ると、なにか透明なワイヤーのような物が落ちていて、直後カチリという音がした。

ニア
 「伏せてお兄ちゃん!!」

その瞬間、食器置き場の隙間から矢が三本飛来する!
俺は咄嗟にしゃがみこんで矢を回避した。
そして俺はここにきて、この戦場の大きな意味に気が付いた。
そして同時に!

ドォォォン!

美柑
 「わぁぁぁぁぁっ!?」

爆発音と共に美柑が民家の入り口前に落ちてきた。
咄嗟に着地際受け身を取っていたが、どうやら苦戦を強いられているようだ。


 「まさか街自体をブービートラップにしやがったのか!?」



***



クリスト
 「この一角に貴様を呼び込んだ事にそろそろ気付いたかな、だが一度見たトラップは忘れられない。そしてそれが疑心暗鬼となって戦場をコントロールする」

俺が陣を築くに当たって、四方400メートルの区画は全て、住民の立ち退き後、戦術フィールドに再構築した。
僅か0.2mmの透明なワイヤーを述べ総延長40kmに渡って張り巡らせたこの区画は敵を抹殺するための固有結界だといっていい。

美柑
 「くそぅ……ゴーストタイプでも爆発は無効化出来ないもんな」

相手のギルガルドはかなりの手練れだ、どうやら正攻法だけではなく搦め手も熟せる類いらしく、俺と似た思考をしているのかも知れない。
だからこそ、相手がこちらに接近するとき、爆弾のトラップに誘導したが、平然と難を逃れた。

美柑
 (まさか屋外に透明なワイヤーが電線ケーブルみたいに張り巡らされているなんて……)

クリスト
 「ふ!」

俺はディスクをギルガルドに向けて投擲する。
当然ギルガルドはキングシールドで正面の攻撃を防ぎに行くが、それは読みが甘い。
ディスクはギルガルドの脇をすり抜け、その後ろのワイヤーを切断した。

美柑
 「やば!?」

突如、民家の壁を突き破って飛来するスパイクボール。
ギルガルドは咄嗟に盾をそちらに向けて、弾き地面を芋虫のように転がった。

美柑
 「くそ……これじゃまともに動けないぞ」

無論動く場所はちゃんとある。
大通りには基本的にトラップはないから、イミアたちが剣戟を繰り返す分には問題ない。
当然こちらは人数差を覆さなければならないため、イミアにはあのピジョットを引きつけ続けて貰う必要がある。

ナギー
 (ち……! トラップを意識すると尚更戦い辛いな……!)

イミア
 「動きが鈍ったね、怖いのかい?」

ナギー
 「っ! だが貴様の振れる範囲は安全圏だろう!」

イミアは本当に良くやってくれている。
本来イミアは決して前衛向きではない。
我々キッサ将軍指揮下の特殊部隊は皆普通の任務を主眼とはしない。
それでもイミアは俺に戦いやすいように振る舞ってくれる。

クリスト
 「こちらも時間が惜しい……常葉茂、覚悟して貰う」



***




 「そーろそーろ」

カチリ!


 「退避ーっ!」

カカカカカカカッ!

差し詰め俺を抹殺するために拵えた家。
どれだけ慎重に進んでも、罠のスイッチを押してしまう。
俺達がその場から飛び退くと、元いた場所には矢が6本突き刺さった。
ただ、流石にこちらの動態予測を含めたトラップはなさそうで、慎重にいけばなんとかなる。

ニア
 「もうこの家倒壊させた方が速くない?」


 「さらっと恐ろしい事を言う。流石に誰の持ち家かも分からん所解体するわけにもいかないだろう」

まぁ戦争ってそういう個人の価値観が簡単に棄てられる舞台ってのは理解しているけど、やはり可能な限りそれはやめたい。

ニア
 「どうせ解体でもしないとポケモンも住めないと思うけど」


 「……確かに」

そりゃ家主が帰ってきて、いきなりナイフが飛んできて、「あぁ もし さいしょから やりなおす ことが できれば なんとか なるのに」、な状況になったら取り返しがつかないからな。


 「ざんねん!! わたしの ぼうけんは これで おわってしまった!! しないように気をつけないとな」

等と往年ADVネタを入れつつ、なんとか屋上を目指しているが、外では今も美柑がクリストを引きつけてくれている筈だ。
俺たちは一刻も速く屋根の上までたどり着く必要がある。

ニア
 「ねぇ、火災を起こしたら、どうなると思う?」


 「それ、無差別にトラップ発動するし、家が密集しているから都市型大火災発生するから洒落にならん!」

確かに燃やせば、トラップも一網打尽だろうが、あまり火災対策をしていない都市設計のようで延焼は確実であり、街は火の海と化すぞ。


 「解体って言っても建設重機がある訳ないし、ショートソードとかで解体は無理だぞ」

ニア
 「に〜……面倒くさい」

ああ、そりゃ面倒だ。
何せ家に入って30分、今だ2階階段までしか突破していない。
あと何個トラップがあるのか?
またどういう方向性のトラップか分からない内は迂闊に進めないのだ。


 「兎に角慎重にトラップを解除しながらだな」

ニア
 「解除って言っても全部発動させているだけだけど……に?」

ふと、ニアが上を見上げた。
上は当然屋内なので天井があるだけだが、なにかパラパラと降ってきていた。


 「えーと……これって?」

ニア
 「急いで1階!」

それはトラップ発動の前兆だった。
ニアと一緒に階段を戻ると天井が崩壊した。
あわや押しつぶされる所であり、階段部分が無事なまま、その家は事実上全壊した。

ニア
 「わぁ……お空綺麗ー」


 「ボケとる場合か! あの野郎無茶苦茶しやがる」

結局天井部が崩壊した結果、その衝撃で2階の床まで崩れて家はスクラップになった。
俺たちはなんとか難を逃れたが、結局地べたを行くしかないようだ。

美柑
 「主殿、無事ですか−!」


 「ああ、なんとかな!」

美柑も今だ地べたでクリストの相手をせざるを得ないらしく、埃と煤で汚れた姿を見せている。
クソ……楽どころか大苦戦じゃねぇか。



***



クリスト
 「ち……押しつぶされなかったか」

トラップの発動はなにも相手が発動させるばかりではない。
こちらで発動させるトラップもある。
例えば幾つかのトラップは俺の足下のワイヤーと連動しており、発動すると千切れる。
そうすると、こちら側でもどのトラップが発動したか理解出来る。
ならば逆説的にトラップの発動場所から相手の位置を特定して、適切なトラップを扱えるのだ。

クリスト
 (予想外と言えば、このギルガルドもだ)

追い返すだけなら容易いが、仕留めるとなるとかなり厄介な相手である。
特にあのキングシールドは絶対的な堅牢さでトラップを防いでいる。
やはり簡単には勝たせてくれない。

クリスト
 「はっきり言って我々の目的は常葉茂の抹殺でしかない。そちらが退くのであれば追いもしないが?」

美柑
 「冗談は止めてくださいよ。従者が主殿を放って逃げるなんて、給料泥棒も良いところです。まっ、貰ってないんですけどね」

当然か、相手はそれだけ常葉茂に全幅の信頼を寄せている。
だが、それは我々も同じ事。
キッサ将軍に捧げた命、常葉茂を抹殺するのに消費されるのなら悔いはない。

美柑
 「それより、もう少し正々堂々戦いません? 流石にこれは一方的というか」

クリスト
 「断る、そもそも我々ゴーストタイプにそれは筋を通さんだろう?」

ギルガルド……確か美柑とか言ったか。
戦場で意外なほど軽口を叩けるのはそれだけ場数を踏んだ証か。
だが、決して戦意は衰えない。
こちらは無傷で相手は消耗している段階にも関わらず、こうも有利に傾いたように感じないのは、あの自信に満ちあふれた顔の性か。

美柑
 「うーん、やっぱり駄目か。どうも策を弄するのは苦手だな」

ゴーストタイプにあるまじき事を言う美柑、戦い方は正に対極だな。
一方で俺はもう一つの戦場で戦っているイミアを見る。
イミアの方も流石に疲れてきたのか、敵のピジョットに押されているが、同様に向こうも疲れている。
防戦一方を任せるのは忍びないが、勝たなければ報われん。

美柑
 「ところで何故お面を被っているのでしょうか? それ言っちゃ悪いけど前が見えづらくありません?」

クリスト
 「問題ない、余計なお世話と言っておこう」

俺は再びディスクを構える。
これ自体では一生決定打は作れまい。
だからこそ、虚を突く戦い方が必要だ。
そしてそれがゴーストタイプらしいと言えるのだろう。

クリスト
 「はぁ!」



***



美柑
 「ちぃ!」

経験則からボクはディスクには自分から突っ込む。
相手のディスクは必ずしもボクへの攻撃とは限らない。
下手にトラップを発動されて不意を突かれたら致命傷もあり得る。
ならば被害の予想しやすいディスクを受ける方がマシだ。
それにボクにはキングシールドがある。
ボクの魂の結晶とも言えるキングシールド、並大抵の攻撃では破壊できず、逆に破壊されればボクの死を意味する、生きる上で一蓮托生の存在だ。
だからこそ盾を信じてボクのキングシールドを突き出す。

キィン!

美柑
 「このまま突っ込……っ!?」

ボクは一発目のディスクを弾き飛ばす。
そしてそのまま相手の懐に飛び込む!
しかし、そう思って行動した刹那、二発目のディスクが既に飛来していた。

美柑
 「くっ!?」

何度やっても出鼻を挫かれる。
ボクはシールドを維持して二発目も弾き、再び駆ける……が。
 
ドォォォン!

美柑
 「くはっ!?」

ディスクが爆発した。
ボクはシールドで一度弾いたディスクがそのまま頭の上で爆発したのを確認した。

それは普通のディスクではなく、爆薬が僅かに使われたディスクだった。

幸い小規模爆発で、ディスクに金属片なども含まれていなかったから、致命傷にはなっていないがそれでもダメージに手を着いてしまう。

クリスト
 「それが過信だ、シールドの絶対性を信じすぎて攻撃の本質を見誤る。ゴーストタイプ、化かしてなんぼだよ」

美柑
 「く……はぁ、はぁ」

ボクは再び立ち上がる。
大丈夫、盾と剣は傷一つない。
ならば、ボクの魂にはまだ傷一つない!

クリスト
 「虚を突き、実を得る……君にはまだ老練さが足りないな」

美柑
 「け、結構痛いところで……」


 「美柑、こっち来い!」

美柑
 「! はい主殿!」

ボクは主殿に呼ばれて倒壊した建物の裏に回り込む。
正直状況は良くない、主殿にはなにか策があるのだろうか?



***




 「美柑、ダメージは大丈夫か?」

美柑
 「全然、と言いたい所ですが、実際は少し辛いです」


 「実はお前に頼みたい事があるんだが……」



………。




 「よし、それじゃ頼むぜ!」

俺は美柑にある作戦を説明すると、大通りに出てクリストと対峙する。
クリストは少し意外そうな様子を見せたが、俺が出てきた事は好都合と思っていることだろう。
無論俺一人では身を守るのも限界だから、兎に角必死で逃げ回るしかない。

クリスト
 「……なる程、つまりあのギルガルド娘を俺の奇襲に回したか……しかしそれはこっちにも好都合、貴様を殺せば目標達成だからな」


 「そうだな、こりゃ我慢比べだ」

俺が表に出ると、2階建ての民家の屋根に陣取るクリストに近づけない。
その上俺自身が集中攻撃されるから、これは一種の賭けだ。

クリスト
 「いくぞ……!」

クリストが同時に二枚投げた。
それはどちらも弧を描いて左右から飛来する。
更にクリストはもう二枚を真っ直ぐ投げた。


 「ちょ、いつもより本気!?」

クリスト
 「のこのこ一人で出てきた慢心を呪え!」

それは俺にはとても防げそうにない同時発射数。
絶体絶命だが、回避する方法はある。
当たる瞬間、俺は垂直にジャンプした。
ただしそれは4メートル近い大ジャンプだ。

クリスト
 「なに!? そんな身体能力は報告には……は!?」

4枚のディスクは虚しく宙を切る。
俺は鮮やかに回避して、地面に着地した。
さて、流石にバレたかな?

クリスト
 「貴様、常葉茂ではないな!」

俺……いや、私は立ち上がると、その姿を変化させる。
私の元のゾロアの姿を晒すと、あっかんべぇをした。

ニア
 「やーいやーい、騙されてる」

本当のお兄ちゃんは今も美柑さんと一緒。
本当は役割遂行までお兄ちゃんの振りをするつもりだったけど、思ったより速くバレちゃった。

クリスト
 「ならば常葉茂は……な!?」

突然の地鳴りにクリストはぐらついて手を地面につけた。
そしてそれはこっちの作戦の成功を意味している。



***




 「よーし、美柑アイアンヘッド! ガンガン壊せ!」

俺はニアに俺の振りをして貰っている間、クリストの真下の民家に潜入した。
ここで俺と美柑はまずトラップを解除して、その上で建物の解体を始めた。

美柑
 「ああ、主殿に命令されてる! これって最高ー!」

それにしても流石美柑、俺の下僕志望だけに、特別嬉しそうに俺の命令を聞いてくれる。
力も弾むのか、盾で次々と壁や柱を粉砕していく。
やがて、耐久の限界値を迎えると、俺と美柑は外に脱出した。

そして僅かに数秒で、建物の振動は限界を越えて、遂に倒壊した!

クリスト
 「うおお!?」

これは逆転の発想だ。
クリストを倒すため、屋根の上に登るのではなく、奴を地上に引きずり降ろす!
実際意表を突けたようで、作戦は成功した。
俺は美柑、ニアと共にクリストを包囲した。

ニア
 「形勢逆転だね」

美柑
 「あ〜♪ 主殿に命令されて建物壊すのってカタルシス♪」


 「ま、チェックメイトって奴だな」

取り囲まれたクリスト、相棒のイミアは今もナギさんに足止めされている。
遂に決着だ。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第15話 狡猾な罠を乗り越えて 完

第16話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/08(月) 10:19 )