突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第14話 休日

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第14話 休日

ホウツフェイン方面へと進軍する解放軍はゲーペン撃破後、帝国軍を蹴散らし、いよいよ首都奪還は目の前まで迫っていた。
しかし兵の疲れも見えており、ナツメは全軍の行軍を停止、兵に僅かな休暇を与えるのだった。



***




 「休暇ねぇ」

ベースキャンプとして、いくつかの都市の奪還に成功した解放軍は充分休養を取るには申し分ないだろう。
しかし、俺は休暇をどう過ごすか……それが問題だった。

ニア
 「にー、お兄ちゃんと一緒にいれば充分静養〜……」

ニアは俺の腰に寝転んで微睡んでいる。
最近ニアは無理をしている気もして不安だったが、こうやって休んで快調に向かえばいいんだが。

ベルモット
 「にゃ〜、一緒に飲むかにゃ〜? ほい」

ベルモットは同じ部屋で今日も安酒を煽って酔っているようだ。
一人酒は寂しいの、グラスは複数用意しており、グラスを掲げて誘ってくるが俺は手振りで遠慮しておく。
「にゃ〜」とベルモットは寂しそうに鳴くが、やがて一人でチビチビと飲み始めた。

しかしウチって訳あり部隊だから基本ホウツフェインに居場所なんてない。
地元の兵士なら故郷に帰ったりも出来るだろうが、外人部隊ってこういう時辛いよな。


 「ベルモットって素面に戻ることはあるのか?」

俺はふと普段あまり気にしなかった素面時の事を聞く。
ベルモットは素面だと、凄く普通の女の子で、少し臆病すぎる生来さえあった。
ところが少しでも酒を飲めばあっという間に酔いどれ姉ちゃんの完成だ。
最も、意識は明瞭としているし、酔っていると言うのは実は正しくないのかもしれない。

ベルモット
 「にゃ〜、彼女は臆病だから〜……」

ニア
 「彼女? 変なの」


 (二重人格である自覚はあるのか?)

ベルモットは素面の自分を認識しているようだが、素面の彼女は殆ど酔ったベルモットを認知していない。
まるで素面の彼女の方が後付けの人格のようなアンバランスさだ。

ベルモット
 「アタシがお酒を知ったのは18歳の時だったにゃ、寒い北部の生まれでにゃ? お酒で身体を温める習慣があったんだ」

ベルモットはグラスを傾けると、少しだけ昔話を語り出す。
それは彼女なりに辛い歩みだったのだろう。

ベルモット
 「素面の彼女はとても弱くて、いつもいじめられてたにゃ、そんなある日彼女が暴行されて、レイプされそうになった時だったにゃ、丁度お酒で酔わせて犯すつもりだったんだろうニャー、そこでアタシは目覚め、一升瓶を掴んでレイプしようとした男共滅多打ちにしたにゃ!」

ニア
 「当然の報いね」


 「アグレッシブだな、おい」

ベルモットはケラケラ笑うと、安酒を少しだけ含む。
だが、彼女は直ぐに少しだけ顔を暗くした。

ベルモット
 「だけど、それ以来素面の彼女は怖れられるようになったにゃ、オマケにレイプされた時の記憶がこびりついてまともに男の顔も見られないほど心を壊されたんだにゃ〜」


 「そうか……それで初めて会った時、俺を見て異様に怯えていたんだな……」

ベルモット
 「そ〜れ以来もう飲んだくれ! 気が付けばアタシが主導権を握って、今に至る〜、終了〜にゃ♪」

ベルモットはそう言ってケタケタ笑った。
だが、俺は今の彼女は素面の彼女の防衛本能ではないかと思った。
素面の彼女は無意識に酔ったベルモットに頼っているように思う。
それこそ素面の彼女が消え失せるまで、でもそれは自己否定だ。
心が壊れた結果の危機回避でしかない。

ベルモット
 「にゃはは……こんな自堕落なお姉ちゃんじゃ、駄目だよにゃ〜……」

彼女自身自覚しているんじゃないか?
仮初めの自分がいつかは素面の彼女に戻らないといけない事を。

ベルモット
 「茂君も飲もうにゃ〜♪ お酒は体調管理にも必要なのにゃ〜♪」

ベルモットはそう言うと相変わらず安酒をチビチビ飲んでいる。
彼女の場合能力の維持にはアルコールを摂取し続けないといけない。
基本何もしないでもアルコールは蒸発するためだ。
現在は明らかにバスト100cmを越え安心のド爆乳に成長している。
アレを維持するのはそれなりに大変という事か。


 「昼間から酔うつもりはない」

ベルモット
 「にゃー、付き合い悪いにゃー」

ベルモットはそう言うとグラスを一気に煽った。
正直ベルモットに酒で付き合える奴なんているのかって思うが、やはり一人酒は寂しいのだろう。
まぁ独り身の寂しさは俺にも分かる所はある。
会社の愚痴聞いてくれる友人がいるだけでも結構救われたからな。


 「そういや、美柑と伊吹は?」

ベルモット
 「街に出て行ったにゃ〜、今頃女子会じゃないかにゃ? にゃ〜誘われなかったにゃ〜……」

ベルモットはまた項垂れる。
多分だが別にベルモットを誘わなかったんじゃなくて、何か二人で目的があったんじゃないかな。

ニア
 「に〜、ベルモットどっか行って、お酒臭い」

ベルモット
 「ひ、非道いにゃ! ここまでされる謂われはないにゃ!」

ニアは起き上がると、寝ぼけ眼を擦り、大きなあくびをした。
流石にアルコール臭がキツくて眠れなかったようだ。

ナギー
 「茂さん、少しい良いかな?」


 「珍しい来客だ、一体何?」

突然独立部隊の詰め所に現れたのはナギさんだった。
ナギさんは部屋内のアルコール臭にしかめっ面をしたが、俺の前に来ると本題を出す。

ナギー
 「実は近くに湖があってな……その、暇なら一緒に来てくれないか?」


 「ん? それってデート?」

ナギー
 「で、デート!? あ、いや……その、一度君と話をしたくて、ね?」

声を裏返らせる程驚くナギさんだが、自分の中で何かを整理したのか彼女は顔を紅くしてそう言った。
なんか普段はお姉さんみたいに思ってたけど、なんだかんだで同い年だからしおらしくされると後輩のようにさえ見えるな。

ニア
 「に〜、お兄ちゃんデート?」

ニアが少し嫌そうな顔をした。
俺がナギさんに連れて行かれるのが嫌って感じかな。
だが、それよりもニアはベルモットを気にしており、単純にベルモットと二人っきりになるのが嫌そうだ。
つーか、本当にベルモットって人望ないよな。
まぁ四六時中飲んで寝てしてたら、職も男も見つからんわな。


 「良いですよ、ニアもこい」

ニア
 「に〜♪」

ベルモット
 「にゃ〜、アタシは誘ってくれないのかにゃ〜……?」

ニア
 「ベルモットはお留守番」

「にゃ〜」というベルモットの断末魔が聞こえつつも、俺達3人は出かけるのだった。



***



ナギさんが案内してくれたのはホウツフェイン王国の南東部にある、地元では有名な湖畔だった。
かつてはデートスポットとして有名らしく、観光用のボートの貸し出しも行っているようだ。

ニア
 「に〜、綺麗なところ」


 「お〜、大きな湖だな〜」

とりあえず風光明媚というところかな。
こういう場所、美柑は好きそうだな。

ナギー
 「昔はな、ここは多くのポケモンで賑わっていたんだ」

ニア
 「今は静かだね」

ニアの言う通り、今は観光地にはなっていないようだ。
まぁ俺としては静かな方が良いので、これで良いんだがな。
どうも俺は賑やかな所は苦手だ。

ナギー
 「少し歩こうか……」


 「ん……」

俺達は湖の周囲をゆっくりと歩き出す。
水面に風が吹くと、ニアは髪を押さえる。
ナギさんは風を追うように空を見上げた。

ナギー
 「ふふ、昔騎士学校の学生だった時、よくここに誘われてな」

ニア
 「ナギー、モテモテ?」

ナギー
 「いや、誘ってくれたのはいつも女子でな……内心複雑だったよ」

そう言うとナギさんは苦笑した。
あぁ、なんとなく分かるわ。
ナギさんどう考えても女性にモテるタイプだもんな。
学生時代となると相当のお姉様っぷりを発揮したことだろう。

ニア
 「女性にモテるの?」

ニアは不思議に思ったのか、首を傾げた。
まぁニアもナギさん位の年齢になったら、男前な女性になってモテそうだがな。


 「まぁ誰しも時に非生産的な事をするものだ」

俺はとりあえずニアにそう説明する。

ニア
 「に〜、私はお兄ちゃんの子供が欲しい」


 「そりゃ生産的だな!?」

ナギー
 「ははっ、ニアらしいな」

ニアは突拍子もないが、かなり家族を求める願望が強い。
度々願望を口にしているためか、ナギさんも微笑ましく見ているが、ニアはムッとナギさんを睨んで、俺の腕に抱きついてくる。

ニア
 「本気だもん! 私だってもう子供産めるもん……」


 「おい……ニア?」

ニアは顔を俯かせると身体を震えさせた。
ニアのやつ最近変というか、妙に焦っている気がしたが今日の様子はおかしい。


 「お前、悩んでるな、お兄ちゃんに言ってみ」

ニア
 「お兄ちゃんが中々レイプしてくれない事とか?」


 「俺は冗談で聞いている訳じゃ……」

ニア
 「睡眠姦でね、お兄ちゃんが私の知らないうちに子供作っちゃうの、そして大きくなったお腹でビックリするの……」」

ナギー
 「な、中々生々しいな……それは」


 「はぁ……お兄ちゃんを舐めるなよ?」

ここまで具体的な妄想に流石にナギさんも顔を引きつらせた。
俺は少しだけ語気を強めると、ニアはビクンと身体を震わせる。


 「戦うのが辛くなったか?」

ニア
 「っ! 辛いわけじゃない……」

ニアの顔が強ばった。
尻尾は小刻みに揺れ、それが俺にその感情の機微を教える。
細かい所は意外と茜に近いのかも知れない。

ニア
 「ただ、悔しいの……ナギーもナツメも凄く強い……私は弱い」

ナギー
 「……私は」


 「そうか、それで子供が欲しいと」

戦場で弱いって言うのはそれだけ死に繋がる。
だからこそ死ぬ前に家族を作りたいんだろう。
ニアが何よりも家族を求めているからこそ、母になりたいという想いが強い。


 「実力の面で見れば、そりゃゾロアだからな、ゾロアークに進化出来ればナツメやナギーにだってそうは負けないさ」

ニア
 「進化……」

ニアにとって、他に人生を選べるチャンスは多くなかった。
ただ戦うところで生を見出して、そして今限界に直面している。
もはや俊敏さを武器にして、強敵と戦うことが力不足に感じているのだろう。
特に雑兵ならいざ知らず、七神将クラスにはベルモットにもゲーペンにも何も出来なかった事を悔やんでいるのか。



 「でもさ、ニアは自分の出来る事を頑張ってるじゃないか、俺もお前を無理させすぎた」

ニア
 「私は頑張ってない……肝心の所はいつもナギーたちが担っている」


 「はぁ……甘えんなニア! お前が歴戦の戦士であるナギさんにいきなり追いつける訳がないだろう!」

俺はいい加減甘やかすだけでは駄目だと判断し、強く叱る。
ニアは身体をビクッと震わし、俺の目を覗き込んだ。
叱られる事に慣れていないのか、ニアは怯えている。
でも、俺だって手加減は出来ない。


 「ニアはニアだ。ナギさんにはなれない。それは傲慢だ」

ニア
 「ひっぐ……でも、私なんて……えぐ、お兄ちゃんの役に……」


 「誰かに無能って言われたのか? なら俺がそいつをぶん殴ってやる! いいか、誰にだって限界があるから役割がある。お前は他には出来ない天才的才能があるだろうが」

ニア
 「ふ、うえぇぇぇん……! 私、私ぃ……!」

ニアの涙腺が決壊した。
正直俺もニアを戦士として評価していたかも知れない所は反省している。
しかしニアはそれ以前に年端のいかない子供なんだ。
俺が本気で怒ると泣いてしまうし、怖いんだ。


 「……ニア、お兄ちゃんはニアに一杯感謝してんだぞ、いつも危険な偵察任務を任せて本当にすまない」

正直、ニアの不安は俺の責任でもある。
俺はせめてニアの頭を撫でた。

ニア
 「お兄ちゃん……」


 「……すまん」

ナギー
 「二人とも……船、乗らないか?」

ナギさんはじっと聞いていたようだが、そう言うと俺の手を引っ張った。


 「ちょ、ナギさん!?」

ナギさんは無言で走り出す。
冷静に考えてさっきのニアの吐露を聞いて、何も感じない訳がない。
それでもナギさんは黙って聞いていた。

ナギー
 「ほら、乗った乗った!」

ナギさんは無人のボートに乗り込むと、戸惑う俺達を押し込んで、船を出す。

ナギー
 「ははは! 折角の休暇なんだ! 楽しもうじゃないか!」

ニア
 「な、ナギー、テンション変!?」

ナギー
 「ははっ、はぁ〜……すまん。私はこういう時どうすればいいか分からないんだ……」

ナギさんは一時奇妙なハイテンションを見せたが、直ぐに普通に戻った。
どうやら暗い雰囲気を打開するため、本人なりの明るくしようとしたらしい。
結果的には大失敗のようだが、俺は少しだけ笑った。

ニア
 「に〜、ナギー、変なの」


 「そう言うなニア、これはナギさんなりの思いやりなんだぞ?」

ナギー
 「うぅ〜……こういう時どういう顔をすればいいか分からない」

ナギさんは顔を真っ赤にすると、俺を上目遣いに見た。
チクショウ、普段とのギャップで可愛いな!


 「笑えば良いんじゃないですか?」

俺はナギさんから、オールを受け取ると、ゆっくりと漕ぎ出す。

ナギー
 「ニア、私は正直まだ力不足だと思っている……だからニアを導く事が出来そうにない」

ニア
 「ナギーは強いよ、それは間違いない」

ナギー
 「……」

ナギさんは求道者だ。
自らを客観的に捉えて、自己評価が出来る。
だが、彼女が何を見捉えて強さを磨くのか俺は知らない。


 「まぁアレだな。ヒステリックになるよりは、この方が精神衛生に良いのは確かだな」

ニア
 「ん〜、お兄ちゃんここ誰もいないね」


 「ん? まぁ戦時だからなぁ」

今でこそ解放軍の勢力圏だが、ちょっと前まで帝国軍の勢力下だったのだ。
それだけにまだこの周辺は完全に安全とは言えない。
しかしそれを確認したニアは、そっと俺の上に跨がってくる。


 「ちょっと? これどういう事ですか?」

ニア
 「お兄ちゃん、セックスしよ?」

ナギー
 「ちょ、ちょっと待て!? 私の目の前でそれを言うか!?」

ニアさんはすでにパンツに手を掛けてらっしゃる?
ナギさんは顔を真っ赤にして止めようとするが、ニアはナギさんの方を振り返ると、勝ち誇ったような顔で。

ニア
 「何か問題? 私はお兄ちゃんを愛しているもん、だからここで愛し合うの」

ナギー
 「な、なななな……!」

ニア
 「ナギーは関係ないでしょ?」

ナギー
 「わ、私だって茂さんが大好きなんだーっ!」

そう言うと顔を真っ赤にしたナギさんが俺の体を抱えて、飛び上がった。


 「……は?」

ニア
 「あ、ずるい!?」

ナギー
 「うわぁぁん! 私だって好きなんだからなぁ〜!?」

ナギさんは俺を落とさないように両手で抱えると、あっという間にボートが遠ざかる。
電光石火の早業に流石のニアもボートの上でポカンとしていた……。



***



ナギー
 「はぁ、はぁ」

湖の近くに森がある。
気候の穏やかなこの中部地方は現在秋である。
とはいえ、まだ過ごしやすく森の中は程よく心地良い。


 「いや、程よく人目につかない場所、よく知ってましたね」

ナギー
 「はぁ、はぁ……!」

所で今ナギさんは肩で息をしているが、これは決して疲れているわけじゃない。

ナギー
 「はぁ、はぁ! わ、私だって子作り出来るんだからな!」

本人は茹で蛸ばりに顔を真っ赤にしてもう目はグルグル回っていた。
要するにエロ妄想が暴走している状況なのだ。
ナギさんは屈むと俺を木に押し付け、ファスナーに手を掛ける。

ナギー
 「こ、ここ、ここに茂さんのアレが……!」


 「ナギさん、それ以上暴走すなら俺も容赦しないぞ?」

最も容赦しないと言っても、このままナギさんの口にぶち込んで、無理矢理動かすとかそう言うことじゃないんで悪しからず。


 「○乗南拳! ぬーん!」

俺はとりあえずナギさんの頭部にチョップ(ダメージS)を打ち込む。

ナギー
 「ぐふ!?」

ナギさんは後頭部にチョップを食らうと悶絶した。

ナギー
 「わ、私は一体……?」

ナギさんは目をパチクリさせると、正気を取り戻した。


 (このまま流れに任せないのが正解だったよな?)



***



ツキ
 「姫さま、お疲れのようですな」

ナツメイト
 「……はぁ」

全軍に僅かではあるが休日を与えたその日、それでも非常時に備えて休めない者もいる。
そしてそれは自分も含まれる。
私は宛がわれた屋敷のベッドに倒れ込んだ。
ベッドはとても柔らかく、羽毛が私を包む。
この別荘もベッドも宛がってくれたのはずっと、私の帰還を待ってくれたホウツフェインの国民たちであった。
このまま泥のように眠りたいが、生憎眠くもないので眠れない。
こういう鬱な気分の時は茂様にナデナデ抱っこして欲しいが、生憎今はその気力さえない。

ゲーペンの死後からずっと気分が優れないのだ。
それは、帝国兵が戦う理由を考えてしまった為だ。
これまで帝国から国を取り返す事だけを考えて、相手のことなんて気にかけなかった。
だが同郷の者と敵対した時、不覚にも揺らいでしまった。
そもそも帝国は豊かさを求めて、極寒の北部から南下してきたと聞いている。
彼らの豊かさへの渇望は想像以上に凄まじく、それが侵略戦争であり、私たちは奪われた。
今それを取り戻そうという段階で、こうまで戦意が揺らぐのは大問題だ。
それを気取られない為にも休暇を用意したが、それは私自身への言い訳。

ツキ
 「この老、幼少より姫さまには仕えてきましたが、姫さまは老の想像を上回る程ご立派になられました」

ナツメイト
 「そうかしら? 私はまだ未熟ですわ、ツキの支えがないと潰れてしまいます」

ツキ
 「無論老はこの一生姫さまに捧げる身、しかし姫さまが頑張れたのはあの男の影響も大きいことでしょう」

それは茂様の事だろう。
ツキは言葉では茂様を罵るけど、本当の所は感謝している。
私も茂様のお陰でここまで頑張れたのは本当だ。
でも今更茂様がここまで協力してくれたのは何故だろう?
茂様は家族を探すという最も重大な戦いがある。
伊吹さんに美柑さん、そしてまだ見ない茜さんに保美香さんだっけ。
彼は解放軍から離れて家族を探すのに専念する方が正しい筈だ。
にも関わらずここまで支えてくれた。

ナツメイト
 「教えてツキ、私は茂様に報いる事が出来るかしら?」

ツキ
 「恋とは、とても一途なものですな」

ナツメイト
 「え?」

ツキは突然恋なんて言うと、ベッドの近くの椅子に座った。
その時のツキは人生を話すかのようだった。

ツキ
 「何も老は木の股から生まれた訳ではございません。姫さまの恋もご理解しております。あの男に報いたいのであれば勝ちなさい。そして戦いを終えるのです。それこそがあの男の求める所でしょう」

ナツメイト
 「戦いを終わらせる……」

それはもうすぐかも知れないし、まだかかるかも知れない。
戦いを終えれば、私は女王として国民を統べなければいけない。
それは辛苦を耐え抜いた国民たちの悲願であり、私の願いだ。
でもそれは益々茂様が遠のく行為。
でも仕方ないのかも知れない。
茂様は帝国が憎い訳でも、戦争が好きな人でもない。
あの人は私の事をずっと心配してくれている。
でもそれはいつか終わること。
その幻想を……私は終わらせたくない。

ツキ
 「今はお眠りなされ、大抵はこの老にお任せを」

ナツメイト
 「……お願いするわ」

私はゆっくりと目を閉じた。
戦うことは責務であり、例え相手がなんであれ、自分は王女として兵を指揮せねばならない。
例え兵士達が死んでも、それを踏み台にして進むのだ。
あまりにも鬱で、あまりにも陰湿。
何故こんな愚かな事を繰り返さなければいけないのか……私の前にあるのは悪夢なのだろうか。



***



伊吹
 「本当にそれって保美香なのかな〜」

私は休暇を活かして、街へと出かけた。
本当は美柑と久し振りに旧友を深める為だったんだけど、何とも興味深い情報を得たのだ。

美柑
 「カイナ川を北上して、北部に入る所にあるフリズ雪山に居を構える山賊の情報かぁ……」

それは北部と中央部をはっきりと別ける雪山の情報だ。
そこでは最近幾つかの部族を一纏めにして、解放軍にも帝国軍にも無視できない大勢力を作ったリーダーがいるという情報だ。
そしてそのリーダーが見たことのないポケモンで、髪の毛が自由自在に動く女だと言うのだ。

伊吹
 「敢えて茂君を探すため〜、世界を飛び回るんじゃなくて〜、勢力を拡大しながら〜、部下を使って情報を集めるのは〜、保美香らしくない〜?」

美柑
 「保美香さんって、主殿が関わるとなりふり構わないけど、そこまでに至る最速を構築する人ですからねぇ」

とりあえず情報からはウツロイド娘としか思えない。
そしてこの世界には一個体も存在しないと思われる新種のポケモンとまで言われれば、もう保美香としか考えられない。

美柑
 「どうします? とりあえず迎えに行きますか?」

伊吹
 「少し危険かも〜、それに茂君に教えたら〜……」

勿論茂君にも伝えないといけないと思う。
でも、大事な決戦前に茂君に伝えちゃうと、きっと茂君は凄く困ると思う。
保美香に一刻も早く会いたいだろうし、でもきっとナツメちゃんを支えるため我慢すると思う。
ナツメちゃんってやっぱり何処か危なっかしいていうか、茂君的にも放っておけないよね。

美柑
 「じゃあこれは、次の決戦終了後という事で」

伊吹
 「うん〜、これは重大な問題だからねぇ〜」

それにしても、茜は何処にいるんだろう?
イーブイ種はそこまで珍しくない事もあって、そっくりさんも多く特に探すのに苦労している。
ていうか、あれだけコミュ障の子が無事なのかの方が心配だ。



***



茂たちが休暇を楽しんでいる頃、帝国では。

ギーグ
 「このままでは中央が取り返されるのは時間の問題ですぞ!? 各戦線とも苦戦し、防衛ラインは後退、特にホウツフェイン方面は最終防衛ラインを突破されているのです!」

カリン
 「だから全軍の指揮を貴様にくれてやっているだろう?」

私は喧しく落ちつかないギーグにうんざりしながら、紅茶を嗜む。
うむ、抽出温度もよく、良い香りだ。

ギーグ
 「ですから皇帝陛下に直々の士気高揚をお願いしたいのです!」

カリン
 「各戦線の七神将では荷が重いか?」

ギーグ
 「ゲーペンは戦死、ジョー、ディクタス、トウガは健在ですが戦線の維持は難しいようです……有事に備えてワンク将軍とキッサ将軍はこちらに配備していますがこのままでは……」

ふむ、いかな一騎当千を持ってしても、純粋な物量戦には対応しきれんか。
唯一物量戦に対応出来るゲーペンが失われたのは痛いな。

カリン
 「やはり、伝説のポケモントレーナーこそが、我が帝国の鬼門となろう」

ギーグ
 「なればこそ! 今すぐにでも抹殺を! もはや皇帝陛下自らをぶつける以外は!」

カリン
 「ふ、放っておいても奴はここに来る。伝説を成すためにな」

そう、それは約束された運命。
そして私が乗り越えなければいけない神話。
私の前に現れるであろう神話の乙女を殺し、伝説に終止符を打つ。

カリン
 「おい、おかわりを頼む」

私は紅茶を飲み終えると、暗がりに佇むメイドに紅茶を注ぐよう命令した。
メイドはピンと立った茶色い耳に筆のような大きな尻尾を持ったイーブイ種の少女だった。
つい最近まではメイド長のコンルにやらせていたが、どうしてコイツは中々やる。
少女はとても大人しく、この城に住むようになって3カ月……今だ誰かに心を開いた風にも思えない不思議な子だった。
確か、茜という名前だったか。


 「陛下……どうぞ」

ティーポッドから注がれる紅茶はとても上出来な代物だ。
最初この城に空から降ってきた時は随分騒がしくなったが、今では教育の賜物でメイドとして申し分ない子に育った。
紅茶を淹れるのにも慣れたようで、今では中々気に入っている。

カリン
 「ふふふ、伝説のポケモントレーナーさえ、始末できれば帝国は勝てるよ」

だが、それは私以外には不可能。
そしてその時はまだ来ていない。

ギーグ
 (この方は本当に中央部の豊かな資源を惜しくないのか……! 本当にこの方に従っていて帝国は勝てるのか……?)

カリン
 「ギーグ、不安か?」

私は射貫くような目線でギーグを見る。
それだけでギーグは睨まれたように思えたのだろう、後ろに一歩下がって狼狽えた。
私はただ微笑を浮かべる。

ギーグ
 「わ、私は帝国に尽くしましょう……だからこそ!」

カリン
 「ああ、分かっているよ、支えてくれれば帝国は勝つよ」

これでもギーグの事は評価している。
市政はギーグに一任しており、政治の才能は高い。
あわよくば皇帝になりたいという野心も悪くない。
だが、残念ながら私が皇帝である以上、ギーグは宰相以上にはなれないがな。

カリン
 「茜、ベッドの用意を」


 「……」(コクリ)

私はもう休む事にする。
茜は一瞥すると、とたとたと足早に私の私室に向かった。
茜は私が唯一身の回りにいることを許した女だ。
それ故に茜は完璧に仕込まれている。
今なら態度以外は何所に出しても恥のないメイドだろう。

ギーグ
 「皇帝陛下! まだ話しは!」

カリン
 「だから貴様に任せると言っていよう。なんなら全軍を増援に向かわせるか?」

ギーグ
 「いえ、それでは雪山の山賊どもへの対策が薄くなります……」

カリン
 「だろうな、アイツらは中々侮れん……話しはここまでだ。私は疲れた」

ギーグは今不信感を持っているだろう。
唇を噛みながら私を見送る。
しかし、私はイチイチ雑兵を相手にする気はない。
重要なのは神話の乙女だけだ。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第14話 休日 完

第15話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/07(日) 23:18 )