第13話 ゲーペンを暗殺せよ
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第13話 ゲーペンを暗殺せよ
ナツメイトは作戦室のテントの外で座りこんでいた。
それを偶々立ち寄ったニアは声をかけた。
ニア
「そんな所で何しているの?」
ナツメイト
「ニアさんが羨ましいです。何時でも茂様と一緒、茂様に命を捧げられる」
ニア
「なにそれ、嫉妬?」
ニアは目を細めるとナツメを見下ろす。
今のナツメは余りにも弱く見えて、あまりにも情けない。
ナツメイト
「かもしれません……、だって、もし私がただの平民ならきっと茂様も使ってくれたと思います。でも私が王女だから……」
ニア
「その分いい人生送ったんでしょう? 贅沢だね」
ニアはナツメが好きじゃない。
初めて出会った時みたいに喧嘩はもうしないけど、でも好きじゃない。
あらゆる意味でその人生は正反対。
ニアからすれば全てを奪い、自分を絶望の底に叩き込んだ大元。
ただ、ナツメ自身を個人的には嫌ってはいなかった。
社会が嫌いだと思ったことはある、男はクソ野郎しかいないと思ったこともある。
でも、顔も見たことのない王族なんて知らない。
貧しくても家族がいて、暖かさが欲しいと思ったことは何度もあったが、それは手に入れる最中だ。
茂と出会わなかったら今も絶望していたかもしれないけど、それは茂と出会ったんだからどうでもいい。
ようは人生なんてその時次第なのに、勝手に自分を定義して悲観しているナツメは嫌いだった。
ニア
「自分の好きにやれば良いじゃない。結局ナツメの人生なんだから」
ナツメイト
「随分無責任ですね」
ニア
「無責任だよ、実際。何も責任なんて持ってないんだから」
ナツメイトはニアが冷徹な子だということは知っている。
そして自分に特に辛辣なのも理解している。
多分ニアは自分が嫌いなんだろうとは思っている。
それでもニアは家族をただ求める愛に飢えた子で、本質が優しい子なのを知っているから、ナツメイトは嫌いになれなかった。
意見の相反なんていつもの事、茂を奪い合って喧嘩することもある。
でも、心の中で本当にニアを嫌いになった事はない。
いつもなんだかんだで茂の元で纏まってたし、喧嘩してもそれが致命的じゃなくて仲直りできる喧嘩ならいい。
ナツメイト
「私は茂様のためになりたい……ただそう思っただけなのに」
ニア
「お兄ちゃんは、ナツメの事いつも心配している」
「え?」ナツメイトはこの時初めて顔を上げた。
ニア
「お兄ちゃんはナツメを信頼しているし、きっと好き。でも大切にしたいってそれこそ残酷だよね。かごの鳥は大切にされるけど大空を知らない」
ニアは何故自分がこんなに喋っているんだろうと思った。
今のナツメイトが何やっても駄目で誰も信用できなかった頃の自分に似ていたからだろうか。
だからつい、いつもより多く喋ってしまった。
ナツメイト
「私はかごの鳥……」
ニア
「翼を持つなら飛びたいよね、そのために生まれたんだもの」
ニアはもう時間なので行かないといけない。
でも、何故かナツメを放っておけなかった。
ナツメは嫌いだけど、でもどうでもいい存在じゃない。
お兄ちゃんにベタベタするのは胸がモヤモヤして嬉しくないし、お兄ちゃんがナツメの事考えていたら不安になる。
ニア
「もうすぐ出撃だからもう行く」
ニアは短刀を確認すると、集合場所に向かった。
残ったナツメイトは自分の存在について考える。
最終的に私の人生を決めるのは私。
実際その通りで、そして最も簡単で難しい。
ナツメイト
「……もし私が王女でなければ」
***
時刻0236、帝国軍ベースキャンプ。
茂
「……ここが敵のベースキャンプか」
深夜という事もあり、敵のベースキャンプでは灯りは少なく警備兵も少ない。
ただし、巡回している兵士は皆ライフルを携行しており、迂闊に近寄れない。
更に監視塔からデンリュウがサーチライトの役割担っているらしく、かなり潜入は厄介そうだ。
ナギー
「……ここまで来て言うのもなんなんだが、茂さんが来る必要はないと思うんだが」
お、今更な突っ込みが来たもんだ。
しかし俺はある確信があるのだから問題ない。
茂
「カリンの言葉を信じるなら俺って死ねないらしいぞ」
ニア
「誰その女……」
そう言えばニアと美柑は会ってなかったな。
俺はかいつまんでニアたちにあの時の事を教えた。
ニア
「お兄ちゃん、私だってパイズリとか出来る」
茂
「ニアはどうしてエロネタで対抗しようとするのかな?」
どうも説明が悪かった性か、ニアは微妙に性的な部分でカリンを目の敵にしたようだ。
まぁそんな話は後で、これから作戦開始なのだ。
茂
「じゃ、手はず通り伊吹とベルモット、頼む」
伊吹
「了解〜」
ベルモット
「にゃ〜」
***
ポツポツ……ザァァァ!
帝国兵
「くそ、雨かよ……警備中なのに」
警備中のある帝国兵は空を恨めしく呪っていた。
気が付けば満月は雲に隠れ、今は雨が降っている。
しかも結構強い雨で、帝国兵はウンザリした。
何故なら鎧は着ているが、その帝国兵はヒノアラシのため、水が大嫌いなのだ。
帝国兵
「くそ……ついて……あ、れ……?」
突如帝国兵はその場で倒れた。
なんだか凄く眠くて、動けない。
そしてなんだかもうどうでもよくなってくる。
ああ、夜なんだから眠りたい。
ベルモット
「ンフフ〜、風邪引かないようににゃ〜」
伊吹
「作戦成功〜♪」
私達は作戦が成功するとハイタッチする。
私は雨乞いを行い、雨に混入させたベルモットさんの強烈なアルコールで帝国兵を無差別に眠らせるという作戦は大成功だった。
改めてアルコールの力って凄いねと、私もベルモットさんには感心する。
さて、後はゲーペンの捜索だけど。
***
ナギー
「雨が止んだな、ニアは潜入してくれ、我々が探しやすいよう大立ち回りをする」
ニア
「ん、行ってくる」
ニアが潜入したのを見送ると私は美柑殿と共にサーチライトの元に向かう。
わざとサーチライトに当たることで、ベースキャンプ内は警報が鳴り響く。
警報を聞いた屋内の兵士達が次々現れるなか、私と美柑殿はじっとその場で仁王立ちする。
ナギー
「解放軍のナギーだ、君たちの相手をしにやってきた」
帝国兵A
「あ、あの反乱軍のスーパーエース!?」
帝国兵B
「しかしたった二人でこの人数を相手しようっていうのか!?」
美柑
「だから何? それで君たちが助かるって保証になる?」
帝国兵
「まな板のギルガルド……まさか賞金首の!?」
その言葉に、美柑の殺意が増した。
貧乳まな板と言われるのは大っ嫌いな美柑は剣を構えるのを見て、私も背中を預けるようにして剣を構える。
ナギー
「いざ尋常に」
美柑
「勝負!」
***
ニア
「……いない」
私は夜の闇に紛れながら、ゲーペンと呼ばれるオクタンを探すが中々見つからない。
警報と一緒に外に出た可能性もあるけど、それならばナギーたちが気付いているはず。
だとすると、ぐっすり眠っているか……それとも。
ニア
(灯りがついている少し大きなプレハブ小屋があるんだよね)
如何にも怪しいが、探りを入れてみるか。
私は自分の身体を周囲の環境に同化させ、疑似光学迷彩状態になる。
そしてプレハブ小屋に近づくと。
ゲーペン
「たくうるせぇな……こっちは兵器の調整で忙しいってのに」
居た、プレハブ小屋の中ではターレット式3点カメラを頭に引っかけたオクタンがいた。
小屋の中には見たこともない兵器がたくさん有り、中には兵器なのかさえ分からない物もあった。
ニア
「一人……いける」
私はこの部屋に全く護衛がいない事を確認すると、中へと入ることにする。
もう目の前……後は部屋に入って、首を切り落とすだけ。
しかし、部屋の目の前に立った所で。
ゲーペン
「俺ってよぉ……一人でいる方が好きなんだよなぁ。大好きな兵器弄ってよぉ、それを暗殺者風情が邪魔するってのかぁ?」
ニア
「っ!?」
ゲーペンの雰囲気が変わった。
私は入り口の前で固まる。
直後、危険と思って横に飛び退くと。
ガガガガガ!
ゲーペン
「出てこいやぁ暗殺者! テメェはこのプレハブ周辺に踏み込んだ時点で俺には丸わかりなんだよぉ!」
ドォン!!
ニア
「くう!?」
爆風で吹き飛ばされる。
プレハブ小屋は崩壊した。
相手は室内で大砲を撃ったようだ。
ゲーペン
「超能力者やゴーストでも、実像はある……てめぇらは音の塊!」
ゲーペンは三点ターレットを紅いレンズに変更していた。
紅いレンズからは超音波が観測されている。
それがソナーとなってプレハブ周辺の気配を感じていたのだ。
ゲーペン
「俺は七神将では最弱だ、だが誰よりも俺は力を科学で補正する!」
ゲーペンが倒壊したプレハブの奥から何か物々しい兵器を台車に載せて出てくる。
いや、違う……それは台車までが一部の兵器だ!
ゲーペン
「こいつはまだ未完成も良いところだ、特にエンジンはまだ改良が必要ある……だがてめぇらを仕留めるにはお釣りがくるぜ!」
ニア
「逃げ……!?」
ゲーペンが何やら兵器の機関部から紐を引くと、ドゥルルル! と大きな音がする。
私は兎に角射線から逃れるように逃げた。
ゲーペン
「石油駆動のエンジンからモーターを作動させ、秒間40連発、6連装機関銃で蜂の巣になりやがれぇぇ!!」
キュイイイイイ……機関銃が空転を開始する。
直後、悪夢の超兵器は唸り声を上げた!
***
ドガガガガガ!!
ナギー
「この音はなんだ?」
敵の陽動を開始して、既に20人ほどを切り伏せた頃、私たちは異音を耳にした。
見ると帝国兵も戸惑っており、これが異常事態だと分かる。
帝国兵
「大変だ! ゲーペン様が! あば!?」
直後、何かを伝えに来た兵士が蜂の巣になって爆ぜた。
美柑
「建物の陰に!」
美柑は私の手を引っ張って、建物の裏に隠れた。
帝国兵は混乱して散り散りに逃げるがその都度に帝国兵が巻き込まれて爆ぜていく。
異音は鳴り止むどころか、より大きくなっている。
ナギー
「一体何の冗談だ? 帝国兵がミンチに変わったぞ」
美柑
「何となく予想つきますけどね、バルカン砲でも持ってきたのかな?」
私は建物の影から攻撃の気配を探る。
あちこちで建物が倒壊し、炎上しており、ほんの数分でベースキャンプは悪夢の地に変貌していた。
***
茂
「嘘だろ!? ガトリングでも持ってきたのかよ!?」
俺はなるべく俯瞰できる高い場所で見守っていたが、想定外の事態に恐怖した。
ゲーペンと思われる男が押しているのは重々しい鉄の六連装機関銃。
その夜より黒い砲身が回転すると、密集した帝国兵が巻き添えで死に、建物は次々と蜂の巣にされる。
俺は皆の配置を見た。
伊吹とベルモットは入り口で異変に気付いたようだが動いていない。
美柑とナギさんは何とか建物の裏に隠れているが、敵との位置が近く危険だ。
最も危険なのはニアだ、敵はニアに狙いを定めて乱発し、ニアの逃げ場を奪っていく。
茂
(くそ……俺の性だ! 俺の見積もりが甘かった!)
俺はニアを助けに行きたい。
しかし機関銃の射線に入ることに俺の体は恐怖して動かない。
例え俺が射線に立っても当たらないとか、突然玉詰まりする可能性もある。
俺は誰にも殺せないなら可能な筈だ、しかし……動かない。
俺の体は震えていた。
ニアを助けなきゃ、それだけのために一歩踏み出すが、次が出ない。
それが恐怖だと理解出来たが、それを制御出来ない。
?
「ここは、私に任せてください」
茂
「え?」
突然、横に誰かが立っていた。
俺は振り向いた時には、そこには既に誰もいない。
だが、あの声は……!
***
ガガガガガ!
凄まじい速度で弾き出される鉛玉が逃げ場を奪っていく。
ニア
「くぅ……!」
ちょこまか動けば、なんとか回避出来るが、兎に角動きを止められない。
体力を奪われて、次第に袋小路に追い詰められた。
ゲーペン
「中々すばしっこいガキだぜ、だがここまでみてぇだな」
ニア
「はぁ……はぁ……」
鉛玉が近くを通るだけで、衝撃波が襲い、死を連想させ、余計に消耗している。
一方で相手は的確にこちらを誘導して、徐々に動けない場所に動かされた。
もう、諦めかけた。
お兄ちゃんにもう会えないなんて嫌すぎる。
でも……私には力が足りなかった。
ゲーペン
「ヒャッハー! 死にやがれ!!」
機関銃が回転し、鉛玉が発射される。
私は目を瞑ってしまった。
もう生きることを諦めていた。
未練があるとすれば、お兄ちゃんともっと一緒にいたかった。
というか、家族を作りたかった。
子供は3人くらい欲しい、私は赤ちゃんを抱いて、お兄ちゃんが私を抱いてくれる。
特別な幸福なんて要らない、ただ当たり前の幸福が欲しいだけ。
子供には私のような苦労はかけたくない、一杯の愛を与えて、大切に育てる。
そして、子供たちが大きくなって、結婚していくのをお兄ちゃんと一緒に寂しく見送って、そして老後は孫に囲まれる。
そんな些細な人生設計も、ここまでか。
?
「いつまで目を閉じているんですか?」
ニア
「え?」
気が付けば、私がまだ死んでいない事に気付く。
目を開けると、私の前に女性が立っていた。
服装が白いドレスのような格好で、目元に仮面で隠した女性……というか。
ニア
「ナツメ、なんでここにいるの? 」
ナツメ?
「違うわ! 私は美少女サーナイト、ムーン! 月に代わってお仕置きよ!」
それは、どう見てもナツメだ。
一人だけ作戦からハブられて、うじうじしてたと思ったら下手くそな変装をして助けに現れたのだ。
ゲーペン
「てめぇ……!」
ナツメイト
「あの子はやらせません!」
放たれた銃弾は全て空中で静止していた。
ナツメのサイコキネシスは極めて強力で機関銃の玉でさえ無力化している。
ゲーペン
「ち……だが、テメェが現れたのは好都合だ! ここで決着つけてやらぁ!」
ゲーペンはナツメに何かを投げつけた。
しかしそれさえナツメはサイコキネシスで絡め取る。
しかし四角いそれは、爆薬だ。
そしてゲーペンは直ぐさま腰に差していたリボルバーを抜き、爆薬を打ち抜く。
ドオオオン!!
爆炎がナツメを包み込む。
ゲーペン
「テメェのサイコバリアでは爆炎までは防げねえだろ! 更に42口径なら充分テメェを打ち抜ける!」
ゲーペンが勝ち誇った。
しかし突如、ゲーペンの後ろにあった機関銃がぐしゃりと潰れた。
更に連動するように爆炎が吹き飛んで、そこにはナツメが立っていた。
ナツメイト
「こほ……ビックリしました」
ナツメは煙たそうに咳き込んでおり、無傷ではないようで煤に汚れていた。
だが、その顔は全く恐れもない。
まるで勝ちを確信したかのような顔だった。
ナツメイト
「そこのゾロアの少女、王女様から伝言があります。自分はもうかごの鳥であることをやめます、だそうです」
ニア
「……そう」
どうやらナツメはまだバレていないと思っているみたいだった。
さすがにここで突っ込んだら可哀想な気がして、私は何も言わなかった。
ナツメイト
「さて、もう策は尽きましたか?」
ゲーペン
「ち!」
リボルバーを乱射するゲーペン、しかしナツメは僅かに動いてそれを回避する。
まるで歴戦の兵士のような動きでゲーペンを追い詰めていた。
ゲーペン
「なんで当たらねぇ!? この距離だぞ!」
ナツメイト
「貴方、戦士には向いてませんね。言葉も無駄に多くて情報をばらまくし……本来は前線向きではないのでしょう」
それはナツメイトとゲーペンの圧倒的戦力差だった。
ナツメイト
「貴方は銃に引き金をかける時、殺意がダダ漏れです。例えサイコキネシスの壁を貫通出来る火力があっても、その殺意を読心できる私には当たりません」
ゲーペン
「く……!」
万策尽きた。
ゲーペンは兵器の製造運用は天才的だけど、それを実際戦場で使うなら兵士の方が良い。
彼は技術者であって、斬った張ったする兵士ではない。
こいつの敗因は結局の所、戦士が戦う場所に出てきた事だろう。
戦場の後ろで兵器を正しく運用していれば、それで良かったのだ。
ナツメイト
「これで終わりです……! 月の力よ……ムーンフォース!」
空には満天の月、それが強く輝くと、同調するようにナツメも淡く輝く。
そしてそれはビームとなって、ゲーペンを包み込んだ。
ムーンフォースの余波がビームの粒子となって拡散したとき、そこにはゲーペンの姿はなかった。
ニア
「……消滅した?」
ナツメイト
「逃げられたみたいです」
ムーンフォースの直撃を受ける直前、ゲーペンは逃走を図ったようだ。
恐らくそれさえもナツメ感知しているのだろうがナツメは追う真似はしなかった。
寧ろ私を気遣って、私の元に寄ってくる。
ナツメイト
「ゾロアの少女さん、無事で良かったわ……本当に」
ニア
「それ……まだ続けるの?」
ナツメイト
「さて、何の事か? さぁ茂様……じゃなくて、貴方のおにいさんの下に帰りなさい」
ナツメはそう言うとテレポートで何処かへと消えた。
私は気が付けばボロボロになった身体を労りながらお兄ちゃんの下に向かう。
既に、ナギーたちも撤収を開始しているらしく、私の帰りは少し遅くなるかもしれない。
ニア
(ナツメはやっぱり強い……私そこに嫉妬しているのかな)
私はナツメが嫌いだ。
でも尊敬はしている。
ナツメは凄く強くて、そして凛々しい。
私にはない神々しさがあって、そしてお兄ちゃんを取っていく。
私は弱い……お兄ちゃんは守れなくても、お兄ちゃんのために戦う事は出来ると思った。
でも、それさえ出来ていないんじゃないだろうか?
あの最低のクソ野郎のある言葉が今の自分に反芻する。
テメェは屑だ、自分じゃ何も出来ねぇ。
あの悪夢を少しだけ思い出すと、悔しくて唇を噛む。
ニア
「力が欲しい……!」
***
ナツメイト
「何処へ逃げるのでしょうか?」
私はベースキャンプを放棄して逃げるゲーペンの前にテレポートした。
七神将と呼ばれる程の強敵をみすみす逃がす訳にはいかない。
ゲーペン
「テメェ化け物かよ……」
ナツメイト
「投降すれば、悪いようにはしません」
ゲーペン
「は……ベルモットのようにか? 悪いが俺が帝国にいる理由はそんなに軽くねぇんだよ!」
帝国は混成軍から分かるように、生粋の帝国は生まれは少ない。
何らかの理由があった傭兵や、不遇な貴族や騎士が帝国の母体を形成している。
最たる例が帝国の皇帝だ。
圧倒的な力で混迷していた北部を統一して、帝国を築いたため歴史がなく、そして成り上がりやすい。
そういった野心のある者こそ帝国は魅力的であり、それが1年前の敗戦の理由でもあった。
この人から感じたのは憎しみだった。
ゲーペンから感じるのは王族に対する憎悪?
ゲーペン
「俺は先進化する兵器たちが大好きだった。技術者になって開発に携わり、それまであった技術の革新に努めた……だが奴らは俺を悪魔扱いしやがった! 兵器は防衛にも使える! 高い技術はそれだけで防衛力としても働く! なのに奴らは兵器を恐れた!」
ゲーペンが何処の国での話をしているかは分からない。
でも、回想の中の彼からは兵器への希望、そして裏切られた絶望を感じた。
ゲーペン
「そして俺は国を追われた……もう20年も前……テメェの生まれる前のホウツフェイン王国からな!」
ナツメイト
「え!?」
ゲーペン
「帝国は良かったぜ、兵器を開発すればするほど喜ばれたし、俺の技術を認めてくれた……だが、思い返せば戦いの歴史だよな……気が付けば俺の作り上げた物は侵略兵器ばっかりだったぜ」
ナツメイト
「ゲーペン…… 」
何となく、ゲーペンの気持ちが分かった。
ゲーペンは多分ホウツフェイン王国に忠実に仕えていたんだと思う。
それは侵略の力ではなく、防衛の力。
昔から中部は権力争いが激しく、時には戦争の歴史もあった。
だからこそ国防兵器を作りたかったのだろう。
だが兵器に善悪はない、悪が使えばただの虐殺兵器だ。
ゲーペン
「そういやお前に指摘されたな。つい長話しちまったぜ……あばよ」
ナツメイト
「っ!? 駄目!」
私はゲーペンから諦めの意思を感じた。
それは何をするのか、理解して止めようとするが、彼は自分の頭にリボルバーの銃口を向けた。
ダァン!
乾いた音が月明かりに照らされた草原に響いた。
ドサリと、呆気なくゲーペンは倒れた。
私は止められなかった。
相手の心を読むことに集中しすぎてサイコキネシスが間に合わなかった。
ナツメイト
「これが戦争……」
ゲーペンは自殺した。
彼が最後に考えていたのは昔の希望溢れる技術者時代のようだった。
折しも平和な時期で、彼は平和を破壊する異端者だった。
それが当時の王……私の父の逆鱗に触れたのだろう。
それは巡り巡って私の責任なのだろうか。
だが、同郷の民をこれ以上惨めにしたくない。
私は自然と涙が流れ、そして冥福を祈った。
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第13話 ゲーペンを暗殺せよ 完
第14話に続く。