突然始まるポケモン娘と○○○する物語





小説トップ
第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第12話 華は凜と咲く

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第12話 華は凜と咲く


 「ふぅ……近くに街があって良かった」

ベルモットとの戦い、そして美柑との再会は最悪だった。
何せ俺以外壊滅状態で、全員に酔いの状態異常がついたような物だ。
しかも捕虜がいるわけで、それも昏睡状態で殊更に厄介だった。
幸い街にたどり着いた俺は、現地の宿屋の懇意もあり、全員を泊める事に成功する。

ニア
 「に〜、お兄ちゃん……お水ちょうだい」

俺はニアにコップに入った水を渡すと、ニアは頭を抑えながら飲んだ。
既に酔いは過ぎたが、その後に待っていたのは二日酔いだ。
それを体感した事のない者は地獄を見ている事だろう。

美柑
 「あの……主殿、野暮かと思うのですが、その女性方は?」

美柑も凄まじく気分が悪いのだろう、顔を顰めながらニアとナギさんを指した。
確かに説明しないと誤解招くよな。


 「えと、翼を持った美人さんがナギさん、んでこっちの小さいのがニア」

美柑
 「現地妻とその連れ子?」


 「うわ、懐かしいわ〜君のそういうデリカシーのない言葉! そりゃお兄ちゃん呼びはやばいのは分かるけどさ、下僕にしてとか言った君の方がアウトだからね!」

ナギー
 「……何が何だか思い出せない」

一方あまり二日酔いしていないのか、ナギさんだけは正常だったが、彼女は彼女で酔っている間の記憶がないらしい。

ナギー
 「七神将と相対した辺りまでは覚えているのだが……なぜ、そのベルモットが倒れているのだ?」

そりゃ、アンタが倒したんでしょうが。
とは言っても本人の記憶にないのでは説明のしようがない。

ナギー
 「そして……なにか小さくなってないか?」

そう、そしてそれも問題だった。
全身を燃やされたベルモットはそれだけでも重傷なのに、非道い事に胸が美柑と同レベルに萎んでしまった。
これはあまりにも不憫でどうすりゃいいのか本当に涙を禁じ得ない。

美柑
 「なんか、貧乳を馬鹿にされた気がする……」

伊吹
 「それにしても、丸火傷した割には綺麗だねぇ」

ベルモットは重傷と言ったが、見た目の上では火傷の跡もなく綺麗な物だった。
恐らく潤いボディの特性であることが原因だと思うが、全身のアルコールが気化したのだろう。
それは深刻なダメージと見るべきだ。

ナギー
 「しかし、七神将を捕虜なんて、お手柄というレベルではないが……縛らなくても大丈夫か?」

イマイチ良く分からんが、ルウム戦役で○ビルを捕虜にした黒い○連星位の金星なのかな?
それと、拘束についてだが、それは敢えてしなかった。
理由は2つあるが、1つはシャワーズ種は自身を液化出来るから無駄だと言うこと。
もう1つは、そういった行為でベルモットに不信感を持って欲しくないという事。

ベルモット
 「ん……?」

そうこうしているとベッドで寝かされていたベルモットが目を覚ます。
俺たちは一応警戒するが、眠たそうに眼を擦りながら起きたベルモットはキョトンとしていた。

ベルモット
 「あの……ここは何処ですか?」


 「あ?」

美柑
 「猫被ってる? それとも?」

そこにいたのはベルモットだが、ベルモットじゃない。
まるで清純な乙女のように胸元に手を当て、不安そうに周囲を眺める。


 「おい、あの戦い……」

ベルモット
 「ひ!? 男の人!?」

……俺が何したって言うのさ。
ベルモットは俺を見ると涙目になって怯える。
ほんの半日前戦った酔いどれ姉ちゃんとは180度キャラが変わっている。

ナギー
 「失礼するが、貴方は帝国軍七神将の一人で間違いないか?」

ナギさんは、なるべく優しい声で聞くが、それでもこの女性は怖いのだろう。
ガタガタしながら、後ろに下がっていく。

ベルモット
 「帝国? わ、私はただの下町の娘で……」

ニア
 「悪いけど、猿芝居なら」

そう言ってニアは短刀を取り出した。
ベルモットは更にヒィ!? と悲鳴を上げる。
何だか可哀想だが、聞かない訳にもいかないからな。


 「お前の名は?」

ベルモット
 「べ、ベルモット……」


 「俺たちと戦った経験は?」

ベルモット
 「あ、あるはずがありません!」

……2重人格を疑うべきか。
それとも記憶喪失と見るべきか。
とりあえず、何聞いても無駄そうだが、そんな時彼女が呟いた。

ベルモット
 「お酒……お酒を呑んだとき現れる彼女なら何か知っているかもしれないけど……」

伊吹
 「……お酒?」



***



約10分後、とりあえず安酒を買ってきて俺はベルモットと二人で飲んだ。
相手の方の変化は直ぐに起きる。

ベルモット
 「ンにゃ〜、復活にゃ〜、やっぱりお酒は命の泉湧くにゃ〜」

びっくりする位、あっという間に豹変してしまった。
素面の彼女と今の彼女は180度位キャラ違いすぎだろ。
因みに気付いた事だが、彼女お酒を飲むと少し胸が膨らんでいた。
と言っても戦っていた時の爆乳ボディにはほど遠く、今は精々Bといった所か。
自身のアルコール濃度が高くなれば胸が膨らむ特異体質?

美柑
 「……偽乳で喜ぶべきか、そんなのと比べないといけない自分を悲しむべきか」

酒を飲む度少しずつ膨らむベルモットにやはり美柑は複雑な思いを抱いている模様。

ベルモット
 「いやぁ、お酒までいただけるなんて、アタシラッキーにゃ」

ベルモットは本当に至福のように安酒を煽った。
俺は流石に粗悪な酒にしかめっ面になるが、ベルモットは質は気にしないらしい。
日本ではこのクラスの粗悪品はそうお目にかかれないから、逆に日本の酒が思い出される。


 「不味い、日本酒が恋しくなるな」

ベルモット
 「何それ? 呑んでみたいにゃ!」

ナギー
 「尋問を先にさせてくれないか? 帝国七神将で問題ないな?」

ナギさんはこんな時でも真面目に職務を全うしようとする。
ベルモットはお酒を飲みながらもしっかりと答えた。

ベルモット
 「そうにゃ、海の二つ名もちのベルモットにゃ」

とりあえず、素面と違いこっちはちゃんと記憶があるらしい。
飲酒する事で人格が切り替わるって素面の彼女からしたら堪ったもんじゃないよな。

ベルモット
 「いやいや、それにしても伝説のポケモントレーナーも酒がいけるとは、嬉しいにゃ♪」


 「そんなに強くはないけどな、それよりこっちの質問に答えてくれるよな?」

ベルモット
 「にゃはは、答えるけど、あんまり難しい事は知らないにゃよ?」

ベルモットはもう戦う意思もなく、素直に話す気があるようだ。
俺たちは幾つか質問するが、有益な情報はあまり多くなかった。
例えば、伝説のポケモントレーナーを狙っている理由は、帝国の宰相ギーグが独断で行っているという事。
ベルモットは外様将軍で、主だった作戦に携わってはいないと言うこと。
後は精々七神将の面々の情報が得られた位か。


 (……トウガ、アイツ七神将クラスの敵だったのかよ)

最初に戦ったシュバルゴのトウガ、あれを逃がした事が英断だったか、自問はしたがもしかしたらあのままやっていたら俺とナツメは死んでいたかも。

伊吹
 「う〜ん、帝国のお偉いさんって〜、どれくらい知ってる〜?」

ベルモット
 「皇帝陛下に宰相のギーグ、一軍に匹敵する私兵団をもつワンク将軍とキッサ将軍位かにゃ?」

ナギー
 「この中部地域を統括している者は?」

ベルモット
 「多分エレキブルのマーチスにゃ、あんまり良くは知らないけど、中々策士という話にゃ」

マーチス、それがこの中部地域で戦うべき大将か。
解放軍は現在も中部奪還を目指している。
一先ず敵将が分かっただけ行幸か。

ベルモット
 「ねえ……どうしてアタシを拘束しないにゃ?」


 「してもどうせ縄抜け出来るだろう、それに必要なさそうだしな」

俺は不味い酒をチビチビ飲みながら言う。
実際ベルモットに敵意はないようだ、寧ろフレンドリー過ぎて困る位。

ベルモット
 「ベルモットこのままじゃ帝国に帰れないにゃ……もう嫌にゃー! これ以上職失ったら、一生喪女の気がするにゃー!」

ブッ! 俺含め何人かが吹いた。
喪女を気にするって初めて見たわ。
だが人ごとではないナギーさんも目が泳いでいるようだ。
処女をカミングアウトしただけに、ナギさんも危ういと言えば危ういからな。

ベルモット
 「お願いにゃ! もう肉便器でも性欲処理係でもいいから雇ってにゃ!」


 「子供がいる前でそういうこと言うの止めろ! なに、そんなに失職を恐れるんだ? 」

ベルモット
 「アタシ29歳、今年で30にゃ……結婚してない事も馬鹿にされるのに、その上無職だと、男も近寄ってこないにゃ……!」

俺より大分年上か。
現代日本なら30でも独身の女性って普通な気がするけど、こっちだと違うのだろうか?
見ると凄く思い当たる節があるのかナギさんまで頭を抱えていた。

ナギー
 「私はまだ23……私はまだ23……」

ニア
 「普通なら18歳までには結婚しているし、20までには子供いるけどね」

ベルモット
 「ぐは!? 平均なんてウンザリにゃ! 女は若さがすべてじゃないにゃ!」

ニアによると、こっちの世界では早いと14歳で嫁入りすることもあるらしく、29というのは相対的にかなり絶望的ラインであるというのが分かる。
男性に限ってはそういう事はないようだが、やはり中世的価値観がこの世界にもあるようだな。

伊吹
 「ふ〜ん、結局さ〜、殿方を満足させれば〜、年齢なんて〜関係なくない〜?」

それはウチの最高齢(人間年齢25歳)の伊吹の意見だった。
確かに若い子より、ある程度大人の方が俺としては結婚しやすいと思うな。
変に気を遣わなくて良さそうだし、そういう意味なら年上もありかもしれないな。

ベルモット
 「は……あ、あ!」

ベルモットは伊吹の言葉に深い衝撃と感銘を受けたようだ。
女としての魅力があれば年齢なんて関係ないってのは、男目線でも分かる話だ。

ベルモット
 「ポケモントレーナーさん、アタシ抱いて良いにゃ♪」


 「抱かんわ!」

美柑
 「破廉恥です……」

突然何を思ったのかベルモットがすり寄ってくる。
どうやらベルモットは相当瀬戸際にいることは正しいようだ。
七神将と言っても半数は外様で正規の帝国軍人ではない。
そういう意味では切られる時はあっさりなのだろう。
一応捕虜の内は帝国軍人として扱われるが、それを相手は口封じするか、救出するか分からんもんな。


 「ベルモット、さんって付けた方が良いか」

ベルモット
 「別に呼び捨てで構わないにゃ」


 「じゃベルモット、とりあえず俺と来るか? 俺は一応独立部隊のある程度の権利を持っているから、そっちが望むなら捕虜ではなく、仲間として扱ってやれるんだが」

俺は正直かなり甘い提案をしていると思う。
実際確かに人事権は持っているが七神将を完全に匿えるかは疑問だ。
それでも捕虜よりは確実に待遇は良いと思う。
特に捕虜としてだと、本部に渡したら、ベルモットを理解している奴が一人もいなくなる。
それなら、多少危険でもウチで匿うべきだろう。


 「ま……何処までフォロー出来るか分からんが、少なくとも帝国に義理を尽くす理由がないなら悪くないと思うんだが」

俺が一通り説明すると、ベルモットはぷるぷると震えている。
何か変な事を言ったかと思うと、ベルモットは突然土下座する。

ベルモット
 「ご主人様、結婚してくださいにゃ! 」


 「色々飛躍しすぎだ!」



***




 「それじゃ、南部に帰るか」

ベルモットを匿って、一日。
ぐっすり休ませて貰うと、朝には全員元気だった。
ベルモットも今じゃ胸もG位の大きさに戻ったようで、当分は大丈夫だろう。
馬も疲労回復した事だろうし、ここからはあまりいざこざは起こしたくないから、基本迂回コースを使う事になる。

ナギー
 「その前に街で、物資を補給しよう」

伊吹
 「そうだね〜、最低限しか残ってない〜、からね〜」

そう言えば、馬の負担を減らすため、荷物は途中で捨てたんだった。


 「でも、あんまり動くと帝国に気付かれないか?」

一応安全な街を選んだとはいえ、ここも今じゃ帝国領に違いはない。
帝国兵の巡回が薄い所を狙っているとはいえ、旅の物資を持つと一気に目立たないか不安だ。

ベルモット
 「だったら、アタシに任せてにゃ、買い出しなら出来るにゃ!」

ナギー
 「不安だ……私もついて行こう」

伊吹
 「アタシも腕力はあるから〜、手伝う〜♪」


 「なら、残りは馬車で待つか」

こうして、三人は買い物に、残り三人は待機組となった。



***



美柑
 「えと……なんですか?」

ニア
 「……」

ニアは美柑に興味があるのか、ジロジロと見てくる事に違和感を覚えていた。
美柑としては、主殿に色々聞きたい事が、あくまで主殿のポケモンであると自粛している。
しかし、気になるのは向こうも同じ、色々と出自も見た目も目立つポケモンなのだからニアも興味があるのだろう。

美柑
 「そう言えば、まだじっくりと自己紹介は出来ていませんでしたね。ボクは美柑、ギルガルドの美柑。主殿とは主従関係にあります」

ニア
 「ニア、ゾロアのニア……」

一応美柑を無視しているわけではないが、随分淡白な受け答えだった。
美柑は流石に苦笑を浮かべる。
容姿は比較的茜に近いが、茜と決定的に違うと思えるのは無口の意味の違い。
茜は本当に口下手のコミュ症だから、本質的には暗い子じゃないものの、無口に見えてしまう。
一方でこのニアは、同じ無口でも性格は大人しく余所余所しい。
気に入った相手には随分馴れ馴れしくなれるから、ニアの方がまだ社交性はマシと言えるか。

美柑
 「そう言えば、主殿をお兄さんと呼ぶのは何故でしょうか?」

答えてくれるかな、正直会話を成立出来るか怪しい相手だが、ニアはその話題は嫌いではないのか食いついた。

ニア
 「暖かくてほわほわしてて……だからお兄ちゃんなの」

主殿の話題となると、少女は随分穏やかな表情で笑うなと思った。
恐らく本当に主殿が好きで、家族愛に飢えているのかもしれない。

ニア
 「お前は、お兄ちゃんの何?」

美柑
 「何ってだから主従関係と……」

質問を逆に返された美柑は戸惑った。
しかし、ニアが聞きたいのはそうじゃない。

ニア
 「主従って、やっぱりご奉仕とかしているの? 胸は無理そうだけど口でとかなら……」

美柑
 「ちょ、ちょっと待ってください! 一体何の話ですか!」

ニアが聞きたいのは、美柑の正確な立ち位置だ。
随分貧相な身なりだが、主従関係というからには美柑は茂の所有物となる
……というのは人生経験だ。
スラムの更に下の世界で生まれ育ったニアは、何の力もなく、親に見捨てられた子供の末路を多く知っている。
利用出来るなら、まだニアのように助かる可能性もあるが、そうでないものは奴隷として調教され、売りに出されるのがまだ運の良い方。
ニアから見て美柑はお世辞に男性を満足させられる女には見えないし、かといってまだ正常な主従関係と言うものを理解いていない。
スラムにおいて主従関係は概ね肉体関係だと言える。
そこがどうも美柑とは食い違うのだ。

美柑
 「べ、別に……あ、ある、主殿がっ、求めてくるなら……ボクは拒みませんが……」

美柑は性知識に疎いとはいえ、ないわけでは無い。
ニアのイメージする主従関係が何となく理解出来て、エロ妄想で頭がパンクしていた。
無論美柑は健全な主従関係を望んでいるのも事実だが、所有物として無茶苦茶にされたいという葛藤がないわけでもなかった。

ニア
 「てっきりお兄ちゃんが家族って言ってたから、伊吹のような人かと思ってた」

家族……ニアが強く憧れるその言葉に、美柑は考えた。
確かに、自分たちは家族として茂にも認められている。
でも、美柑は初めから家族ではない。
結果的に家族になれたが、当初求めていたのは確かに騎士道的主従関係だったはず。
今では家族としての愛情が働いているが、それは何を意味するのだろう。

美柑
 「貴方は、主殿の家族になりたいんですね?」

ニア
 「……うん」

ニアはコクリと頷いた。

ニア
 「出来れば孕ませセックスで当てて、ママになりたい」

美柑
 「……」

ニアの家族とは、既に主殿と結婚を前提にして子供もいる事のようだった。
あらゆる意味で価値観の違う相手に美柑は開いた口が塞がらない。



***




 「さてと、ただ待っていると言うのも暇なものか」

俺は街の入り口の馬車置き場で、ナギーさんたちの帰りを待っていた。
しかしそんな直ぐに終わるわけもなく、荷台を覗いても美柑とニアが何やら談笑しており、いきなり男が入るのも憚られる。
美柑にとってニアは数少ない年下だからな、茜はあんな性格だったから美柑がしっかりお姉さん出来るといいが。


 「失礼、そこの御方」


 「え? 俺?」

ふと、後ろを振り向くと随分とスタイルの良い和風美人さんがそこにいた。
着流しのような風流な格好の胸元からは胸があふれ出ており、まずそこに目が行ってしまうのは男のSa・Gaか。
全身も色白で、銀髪が肩まで綺麗に伸びている。
そして温和な紅い目と、頭から生える黒い鎌のような角から相手の種族が分かった。


 「えと、何か困ったことでも?」

この美人の和風姉ちゃんはアブソルだった。
豪奢ではないが、白い肌を強調するかのような紅い着流しは花魁を思わせる。
そのままなら格好に不釣り合いな胸元の性で俺の股間が魔界塔士してしまうだろうが、生憎その腰からぶら下げられた物騒な代物のお陰で冷静さを保てた。



 (時代劇で見る刀より大きい……太刀って奴か?)

アブソルの腰の帯に刺さった鞘は俺が見てきた武器の中では最大級。
反りがあり、普通の刀なら刃渡り70センチ前後だが、これは90センチはあるか?
そんな人をぶった切って、あまりある物騒な代物を持ったねーちゃんに冷やかす勇気はないわな。

アブソル
 「ありがとう、宿屋を探しているのだけれど、場所は分かるかしら?」

しかし、そういう危機感とは裏腹にこの銀髪美人は随分温和なしゃべり方だった。
恐らく見た目ほど物騒な人物ではないのだろう。
女性が一人で出歩くにしても、ちとあの大きな刀は物騒過ぎるが、まぁアレのお陰で下手な男は近寄らんか。

アブソル
 「随分、これが気になってるのね?」

あまりにも刀の方に目が行ってたのか、女性は刀の柄を持ち上げた。
少し抜くと、美しい鋼の光沢が本物であることを教えてくれる。


 「女性にしては物騒だと思って」

アブソルの女性はそれを聞くとクスリと笑った。

アブソル
 「ふふ、一人旅だと危険もあるから」

あくまでも自衛用、そんな感じの振る舞いだが。
女性の目はそれ程笑っておらず、既に何人もの血も吸ってますといった感じだが、まさかな。


 「えーと、宿屋ってここからだと説明しにくいな」

俺は訪ねられた宿屋を紹介しようとするが、それなりに大きな街では裏通りに宿屋があることも珍しくない。
実際一泊した宿屋もそういう裏通りの店だった。


 「高い店なら、このまま真っ直ぐ進めば大通り沿いにあったはずだけど」

アブソル
 「ふふ、ねぇ案内してくれない?」

そう言うと銀髪美人は、そのたわわな胸を俺に押し付けてくる。
流石に見知らぬ女性にそういうスキンシップは戸惑うが、幸い伊吹のお陰でデカいのには慣れている。


 「まぁ、途中までなら」

俺がそう言うと「やった♪」と女性はその場でピョンと跳ねた。
ちょ、着流しでそういう上下運動すると……と、警告を思いながら口にはせず、つい見てしまう。
たわわな胸ははみ出すことはなかったが扇情的である。
狙ってやってるなら恐ろしいが、天然なら股間がやばい。

アブソル
 「おにいさん、はやくはやく」

女性は結構力が強く、胸を押し当てたまま街へと俺を引っ張っていく。
結構年上なのかと思ったが、もしかして年下かな?
女性に年齢を聞くほど俺も無礼じゃないが、やはり第一印象が年上に見えた性か、行動にギャップがある。


 「えと、裏通りに安くて、そこそこ良い宿屋があるんですけどね」

アブソル
 「うんうん」

女性は俺の言葉に嬉しそうに相槌を打つ。
……なんか、こういう人懐っこいの、嫌いじゃないけど戸惑うな。
特に相手の雰囲気が余計にそう感じさせるんだろうけど、実際にはそれ以上に妙な感じはある。

アブソル
 「ねぇ、君の名前は?」


 「え? 常葉茂だけど?」

突然、彼女は下から俺の顔を覗き込む。
俺は思わずドキっとするが、女性はイタズラするような笑みをただ浮かべていた。

アブソル
 「私の名前は――」

ベルモット
 「皇帝……陛下?」

ドサリ、荷物のどっさり入った袋を地面に落としたベルモットたちが目の前にいた。
皇帝陛下……一瞬その言葉の意味が分からなかったが、直ぐに答えは見つかった。

アブソル
 「……ベルモットか、随分楽しそうではないか」

それは、俺の腕に抱きついていた美人さんだった。
俺の体からスルリと離れると、温和な笑みは消え、冷酷なしゃべり方でベルモットを睨みつける。
ベルモットはそれだけで、ガタガタと震えていた。

ベルモット
 「ど、どうして皇帝陛下が城の外にいるにゃ?」

アブソル
 「それを言うなら貴様がどうして敵の元にいる?」

ベルモットが危険を感じて構えた。
しかしアブソルが速い……速すぎる!
アブソルが刀を抜くまでコンマ何秒だ?
そしてベルベットを真っ二つにするまで……。


 「ベルベットー!」

俺はいきなりの惨事に叫んだ。
ベルモットの上半身が宙を舞う。
誰でも分かる呆気ない死に方。
しかし、ベルモットの身体がばしゃりと水に変わって地面を跳ねる。
そのまま水は後方でベルモットの形になる。

ベルモット
 「死ぬところだったにゃ……」

瞬間的に自分を溶かして難を逃れたようで、俺はホッとした。
しかし問題はこいつ、皇帝だ。

ナギー
 「こ、これが皇帝……、まるで見えなかった……」

伊吹
 (これ不味いね、なんとか打開策を見つけないと!)

圧倒的、圧倒的な強さでナギさん程の騎士でも怯え、震えてさせていた。
かくいう俺も震えが止まらない。
最も、これは色んな感情がない交ぜになった結果だが。


 「アンタ……俺を騙して接近してきたのかよ」

アブソル
 「心外だな、騙したのは事実だが軽蔑されるような事をした覚えはないが?」


 「妙に際どい格好をしたり、胸当ててきたり、計画だとしたら恐ろしいと思ったが、まさかその通りとはな」

アブソル
 「ふふ、それは君がそれだけ魅力的だからだよ」

アブソルは刀を鞘に戻して、俺と向き合う。
それはナギさんたちに背を向ける行為だが、ナギさんたちはそれでも動けない。
「賢明だ」と、そう言ってアブソルは俺に言う。

アブソル
 「まず先に自己紹介しよう、私はカリン。アーソル帝国初代皇帝だ」


 「……やっぱり皇帝なんだな。ならなんで俺に手を出さなかった? お前ら俺を殺したいんじゃないのかよ!?」

俺も詳しくは分からないが、帝国が七神将っていうのを動かしてでも俺を殺したいって言うのは知っている。
だが、カリンはその大きな胸を両腕で持ち上げると、やれやれといった風に首を横に振った。

カリン
 「伝説のポケモントレーナーよ、その隣に相応しき神話の乙女とはもう巡り会ったかな?」


 「は? なんだよそれは?」

伝説のポケモントレーナーの伝承の一節、そこには確かに世界を変えるほどの乙女の記述がある。
だが、そんなものに出会った覚えはないし、いるとも思えなかった。
しかし、カリンはそれを聞くとガッカリしたように首を振る。

カリン
 「だからだよ……君は既に伝説の乙女と出会っていた……なのに君はそれを理解していない」


 「おい、俺の質問に答えてないぞ!」

全く意味の分からない事を言うカリンに俺は苛立ちを募る。
しかしカリンは微笑を浮かべると俺に近づき、そして唇を奪った。

カリン
 「んん……殺せないのさ、君は誰にも殺せない。例えこの私でもな」

俺は奪われた唇を手で隠す。
そして一歩退いて言葉を続ける。


 「訳分からねぇ、アンタ程の腕なら今この瞬間だって不可能じゃないはず」

カリン
 「伝説のポケモントレーナーは一種の異能生存体だ、その役割、乙女を神話の乙女に進化させ、隣に抱くまで死ぬことはありえない。常識では語れんよ」


 「オカルトだな……」

だが、そうでなければ説明がつかない事も多かったんじゃないか?
俺がナツメを助けなければトウガにナツメは殺されていたかもしれない。
もし俺がナギさんを助けに行かなければ、ナギさんは処刑されていたかもしれない。
もし、ウオンシに行かなければ、ニアは今も絶望の淵にいて、死んでいたのかもしれない。
一歩間違えれば皆死ぬ、俺のこれまではその連続だった。

カリン
 「だから今日は挨拶だよ、ありがとう優しくしてくれて」

カリンはそう言うと裏道に消えていった。
カリンの強いプレッシャーに晒されていたナギさんたちは、カリンがいなくなると力無く地面にへたり込んだ。

ナギー
 「アレが皇帝……恐怖の前に動けなかった」


 「アブソルの特性プレッシャーだろう。ナギさんたちが動けなかったのは」

俺は人間だから無事だったのか、その感覚以上のプレッシャーはなかった。
しかし、ナギさんたちの様子を見るにポケモンには恐ろしい重圧をかけるようだな。

伊吹
 「でも、神話の乙女だっけ〜? どうして、あんな事聞いたんだろう〜?」

ベルモット
 「うーん……ハッ!? もしかしてアタシが神話の乙女にゃ!?」

ナギー
 「飛躍しすぎだろう、ベルモット。大体29で乙女というのは」

ベルモット
 「大丈夫にゃ! 心は何時でもJKにゃ!」

俺は段々正常になっていく皆を他所に皇帝カリンの事を考える。


 (本当にアイツが皇帝なのか?)

確かに噂通りの理不尽な強さには思えた。
でも、悪逆の王というには些か疑問がある。


 (あの温和な笑顔も演技だってのかよ……女って怖いな)

一瞬俺はカリンを好きだと思った瞬間があった。
下心は否定出来ないけど、彼女が楽しそうに喋っている時は俺も好きになってたと思う。
もしベルモットが現れなかったら、正体も明かさずただエロい銀髪美人ねーちゃんで終わってたのかな。
だが、詰まるところ真実は俺の前であの演技をしたカリンにしか分からない。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第12話 華は凜と咲く 完

第13話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/06(土) 11:02 )