突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第11話七神将ベルモット

突ポ娘シリーズ 第1作 常葉茂と茜編



突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第11話 七神将ベルモット


 「ち……また検問か!」

馬車をひたすら北上させると、幾つか検問とぶつかってきた。
結局別れた意見は強行突破案を採用したのだ。
帝国もまだ中部を完全に平定できている状態ではないらしく、街道沿いは特に警戒が激しい。
商人に偽装することも可能だが、今回は強行突破だ。
そのために必要最低限の荷物以外は棄てて、最高スピードを維持している。

帝国兵
 「そこの馬車、止まれ止まれーっ!」


 「挽かれたくなかったら退けぇぇぇー!」

帝国兵二人が馬車の前に立つ。
だが、俺は馬車を止めなかった。
馬に鞭を入れてスピードを上げる。
そのまま検問所を強行突破する。

帝国兵
 「だ、誰か連絡を! 怪しい馬車が北上中!」

検問所から追撃の手がくる様子はない。
恐らくそれ程警戒の強い場所ではなかったのだろう。

ナギー
 「今回は銃撃もなかったな」

この高速機動中について行けるのナギさんだけ。
故に抵抗にあった時、それはナギさんが対応するが、検問所の装備次第では冷や汗をかくこともあった。
幾つかの検問所ではマスケット銃が標準装備されており、幸い命中精度の低い銃でナギさんは銃撃されたが事なきを得た。
他にも馬を配備されていると、追撃されることもある。
追撃されたら、ニアも戦いに加わり、帝国兵を馬から引き摺りおろす。
それでも肉薄されたら、伊吹の出番だ。
伊吹はゆっくりしているがパワーはあるから、馬車の荷台での戦闘は可能だった。
幸いそこまでに至った機会は少ないが、それでも強行軍故に危機は多かった。

ニア
 「上……くる!」

俺は上を見上げた。
空に三体、飛行ポケモンが飛んでいる。
帝国空挺部隊が襲撃してきたのだ。

ナギー
 (空軍か……あの男はいないようだな)
 「私が打って出る!」


 「無理はするな!」

ナギー
 「分かっているさ!」

ナギさんは翼を大きく広げ、空へと飛び上がる。
俺は馬を止めることなく、ただナギさんの無事を祈った。



***



ナギ
 「……相変わらずの混合部隊か」

私は馬車に併走しながら、敵の編成を見る。
飛行ポケモンは空を飛ぶために通常より軽装であり、ポケモンごとの特徴が表面に出やすい。
相手はヤンヤンマ、ゴルバット、エアームド。
一切統一感がなく、連携が正確にとれるのか疑問に思うが実力主義の帝国では使える者は全て使うからだろう。

ナギー
(驚異はエアームドのみか)

ヤンヤンマは機敏性は高いがドッグファイトを仕掛けるなら危険でも、最高速度を活かした一撃離脱を心がければ問題ない。
ゴルバットも飛行性能は中途半端なポケモンだ。
旋回性や機動性も悪くはないが、決して高次元ではなく静音性に優れたポケモン。
最後にエアームド、スピードは最高速こそあるが、機敏性はない。
しかし飛行ポケモンとしては体重が有り、それだけでパワーの差は大きい。
加えて、表面の鋼の硬度だ。
まず通常の剣で剣の方が先に折れかねない。
加えて鋼鉄の羽根はそれ自体が凶器。
特に抜け落ちた羽根は透明で、簡単な加工で鋼鉄すら切り裂くブレードを造れる。

だが、それ程のポケモンなら何処でも活躍しそうだが、現実はエアームド種の個体は少ない。
故にその神秘性と実用性は謎に包まれていると言える。

ナギー
 「まだ、慣れないが……やってみるか」

私は風を感じる。
それこそ時速数百kmで飛びながら、風の機微を繊細に触り、そして操る。
正直騎士として、この力を使うことに躊躇いもある。
しかし、私がそんな事に拘れば茂さんに必ず危機を呼ぶだろう。

ナギー
 「いくぞ……!」

私は風を掴む!
その風を一気に開放すると、風が吹き荒れた。
超大型のハリケーンのような暴風が飛行ポケモンたちを襲う。

ヤンヤンマ
 「ぐあー!?」

翼をズタズタにされたヤンヤンマがまず墜落する。
次に、ゴルバットも翼をやられ、旋回しながら墜落した。
唯一それに持ちこたえたエアームドだけが、こちらを睨みつける。

ナギー
 「飛行性能が落ちたとは期待できないか」

頬を真空波が通って切り裂かれたようだが、自慢の鋼の身体は取り立ててダメージを受けていない。
こうなると武器の差が出るか。
鋼タイプのポケモンと戦うならクレイモアでも欲しいところだが、そんな業物は今の所持ち合わせていない。
鋼のロングソードは合金だが、鉄としては柔らかい。
斬ると言うより叩くという代物で、鋼のポケモン相手には硬度負けする。

エアームド
 「いくぞ!」

エアームドは槍を構えた。
体重を乗せて、槍を前に突撃する。
槍の先端から衝撃波発生して、単純だが極めて強力な一撃だと分かる。

ナギー
 (回避は……く!)

私は回避は捨てた。
私が回避することは容易だが、そうすると射線には馬車がある。
回避すればエアームドは馬車を破壊するだろう。
そんな事はさせるわけにはいかない!

ナギー
 「うおおおおおっ!」

私は剣を両手で持ち、エアームドの槍にぶつけた。
エアームドは態勢を崩して、攻撃失敗するが、代わりに私も武器を台無しにした。
衝撃波に思いっきりぶつけた性で、剣の表面が砕け、武器として機能しないのだ。

エアームド
 「仕留める!」

エアームドは私に完全にターゲットを絞り、その槍で襲ってくる。
私は必死にその槍使いを回避した。
しかし、攻め手がない中このままではジリ貧だ。

ナギー
 (く……情けない! 私はこの程度か! こんな力で姫さまや茂さんを護ると言うのか!)

エアームド
 「貰った!」

しまった!?
エアームドが私の動きのムラをついて槍を構える。
このままでは心臓を貫かれて死ぬだろう。
諦められない! そう歯を食いしばったその時。

ニア
 「はっ!」

エアームド
 「なっ!?」

それはニアだった。
ニアが馬車から飛来してエアームドと一瞬交差した。
その刹那、薄くなって脱けかけた一枚の羽根が切り落とされた。
エアームドは咄嗟に態勢を崩すが、ニアはそれ所じゃない。

ニア
 「負けるな……!」

ニアが墜落する。
当然だ、どうやって空中戦に参加したのか分からないが、ゾロアは飛べるポケモンじゃない。
そのまま墜落すればニアは無事じゃすまない。
私は一瞬逡巡したが、ニアの負けるなの声が私に覚悟を決めさせた。

ナギー
 「もう、負けてたまるかー!」

私は、自分の中に新たな力を発見する。
その力の正体も理解しないまま放つと、灼熱の熱風がエアームドを襲った。

エアームド
 「ああ……!?」

熱風に鋼の表面がやられて、エアームドが墜落する。
私は第二の技、熱風を思い出したようだ。

ナギー
 「ニアーッ!」

私は一瞬エアームドの撃破で呆然としてしまうが、直ぐにニアを思い出す。
ニアに急降下しながら、ニアを抱きしめると既に馬車が目の前だった。
もはや地面に墜落は確実で有り、例え馬車に飛び込んでも馬車が壊れるだろう。
私はせめてニアを上にして、自分を下にした。
馬車にぶつかる、そう思った時。

伊吹
 「大丈〜夫!」

目の前に伊吹がいた。
伊吹は包み込むように私たちに手を伸ばす。
しかし、そんな事をしても犠牲者が増えるだけだ。
事実伊吹の腕がぐしゃりと潰れて彼女の身体を破壊する……筈だった。

伊吹
 「ふぅ……衝撃吸収成功〜」

ナギー
 「え……!?」

私とニアは無事だった。
だが、私を受け止めた伊吹がぐしゃりとゼリーのように押しつぶされている。

伊吹
 「『とける』の応用で〜、衝撃吸収材になってみました〜♪」


 「流石伊吹! 卵を落としても割れない女!」

ふと、気が付くとニアも平然としており、伊吹も既に人型に戻っている。
馬車も無事で、私はただポケモンの神秘性を痛感した。
上空100mから落下すれば人は死ぬ。
だがポケモンはその限りではない。



***



その少し前。
激戦を見守るニアと伊吹はある打ち合わせをした。

ニア
 「出来る?」

伊吹
 「不可能じゃないけど〜、危険だよ〜?」


 「お前ら何する気だ?」

俺は荷台の二人に呼び抱えるが、二人はそれを無視した。
伊吹がニアの小さな身体を掴むと、ニアも跳びかかるように足をくの字に曲げる。
何をやるか予想が出来たが、それを止める暇はなく伊吹が遠心力を利用してニアを投げる。
ニアも飛ぶ瞬間、伊吹を蹴って大きく飛んだ。


 「て、セルフ人間砲弾!?」

ニアがかっとぶと、上空でエアームドと覚しき相手に一刃入れたのが分かった。
だが、その後が問題だ。


 「おい、着地どうするんだ!?」

このままではニアがマグロになる。
流石に南斗人間砲弾のようにはいくまい。

伊吹
 「私が溶けて〜、なんとかするよ〜」

無茶苦茶だが、伊吹に賭けるしかない。
そして、そこからはナギさんが敵を倒して、ナギさんごと伊吹が受け止めるのだった。



***



パチパチパチ!

夜、馬の疲労もあり、休憩を余儀なくされた俺たちは焚き火を囲んでいた。

ニア
 「火……凄いねナギー」

ナギー
 「しかし、熱風で調整するのは難しいんだぞ?」

これまでは燃料とマッチが必要だったが、ナギさんが熱風を思い出した事で、燃料やマッチが必要なくなった。
だが、確かに熱風はあくまでも焼けるような風でしかない。
それを美味く調整して、枯れ木に火を灯すのは簡単ではないだろう。
熱風調理とかには丁度良いかもしれないが、純粋な炎タイプじゃないからな。


 「それで、ここってどの辺りになるんですか?」

ナギー
 「そうだな、中間といった所だから、やや北よりの辺りか。順調なら明日にはいると思われる地域に入れるだろう」

伊吹
 「でも〜、出会えるかっていったら難しいよねぇ」


 「ある程度当たりをつけて、捜すしかないよな」

美柑の正確な位置は全く分からない。
ただ、街で得た情報では美柑が北に向かっている事を知る。
その事から帝国を目指していると考察し、そのルートを想定しながら探索を行った。
幸い目撃地点から、北部を目指すには大河が縦に流れており、捜索範囲は絞れるということ。
まぁ既に北部に入られたら、もうどうしようもないが。

ナギー
 「そろそろ皆休もう、寝ずの番は私がやろう」


 「いや、ナギさんが一番疲れている筈だ、俺がやろう」

ニア
 「だめ、お兄ちゃん気張りすぎ、夜目に慣れてる私がする」

……意見が見事に一致しないな。
結局夜の番は全員で交代で行うことになった。
野宿であるが故に、警戒は怠れず、しばらく疲労との戦いになりそうだ。



***



美柑
 「ふぅ……大河沿いに行くのが最良って言ってたけど、まぁ水に困らないのはいいよね」

ボクはひたすら大河沿いに北上した。
大河は北上すると氷河に変わる。
その氷河も雪山という源流に飲まれ、山を越えると厳寒の帝国が生まれた土地となる。
ボクが目指しているのは帝国の心臓部、そして皇帝だ。
最も戦争を早期に決着をつけるならトップを落とす。
それでも駄目なら次のトップ。
やがて戦うなんて選択肢がなくなるまでだ。

美柑
 「防寒着着てないけど、大丈夫かな?」

一応ボクは鋼霊タイプだから、普通の人より寒さには強いと思う。
とはいえポケモン娘って色々特殊だからなぁ。

美柑
 「何処かで防寒具が手に入ればいいんだけど……ん?」

ボクはそう言いながら、今日も快晴な空の下を歩いていると突然、道ばたに水溜まりを発見する。
雨も降っていないのになぜ水溜まり……なんて普通に水溜まりに近づくと、ただの水溜まりではないことに気がついた。

美柑
 「ッ!? 何これ臭い! アルコール臭い!」

それは断じて水溜まりではなかった。
強いて言うなら酒溜まり。
あり得ない話だが、そこにはありえない量の酒が溜まっていたのだ。
ボクはあまりのアルコール臭に鼻を摘みながら酒溜まりに顔を覗かせる。
どうにも怪しいが、誰かがここでお酒でも零した?
……て、酒樽零してもこうはならないと思うが。
そんな風に訝しんでいると、水溜まりが独りでに動き出す。

美柑
 「え!? 何!?」

酒溜まりが突然うねって噴き上がり、そしてポケモン娘に変わっていく。
その姿は魚というより人魚のそれで魚の尾のような尻尾を持ち、耳も魚のヒレのような姿。
その姿はシャワーズの人化したポケモンだった。
だが、そんな事よりもその見た目が問題だ!
ボクと同じくらいの身長なのに、あまりにも巨大な山が二つある。
もう茜さんと比べて絶望を味わったボクに何の恨みがあるんだろう。
その胸は明らかに茜さんや保美香さんと比べて大きく、伊吹さんに匹敵していた。
ボクと同じ位の身長で!

シャワーズ
 「にゃはは〜、ちょっと無茶したけど地下水に乗って移動成功〜」

美柑
 「あ、貴方誰ですか!? ていうか酒臭い!」

シャワーズ
 「にゃ? アタシはベルモットにゃ。貴方は〜?」

ベルモットと名乗るシャワーズは凄まじい酒気を帯びている。
呂律が回らないのか、口振りは怪しいが、辛うじて受け答えは出来るようだ。

美柑
 「ぼ、ボクは美柑……」

なんて言うか、酒気が厳しくて近寄りたくない人物だ。
そんなに悪そうな人物には見えないけど、でも危うい人だ。

美柑
 「この辺りは治安も悪いから、女性が一人で酔っていたら危ないですよ?」

まぁ治安の原因は大体帝国兵の性だと思うけど、最初に出会った帝国兵がヒャッハーな相手だったから、こんな無防備な人じゃ犯してくださいって言っているようなもんだ。
流石に捨て置けなくて助けようとするが。

ベルモット
 「にゃ〜? ギルガルドで変わった名前……そうかにゃ〜」

美柑
 「ベルモットさん?」

ボクは何か嫌な予感がして、ベルモットさんから離れた。
そのままそこにいたら危ない、そう感じたのだ。

ベルモット
 「にゃ〜、本当は伝説のポケモントレーナーさんに用があったんにゃけど、一応アタシも帝国の一員だしにゃ〜」

美柑
 「!? 帝国!?」

それは完全に予想から除外した答えではない。
でも、こんな隙だらけの人が帝国のポケモンだとは思っていなかった。

ベルモット
 「気遣ってくれてありがとにゃ、でも賞金首を放置したら色々まずいのにゃ」

美柑
 (シャワーズ、一体どんな攻撃をしてくるか分からないけど、どんな相手だ?)

ベルモットさんは、一切鎧のような物は身に纏っていない。
代わりに白い修道服のような物を着ており、従来の帝国兵とは大分イメージが異なる。
武器もないことから、徒手空拳で戦うのかと予想も出来るが、真相は分からない。
得体がしれないというのは戦いで最も怖い物だ。

ベルモット
 「とりあえず挨拶代わり〜」

ベルモットさんが人差し指を向けてくる。
その指に警戒すると、指から水鉄砲が飛び出した。
しかしあまりにも弱い水量で意表を突かれて顔にぶっかけられるが、オモチャの水鉄砲程度の威力でダメージは全くない。

美柑
 「く……殺しはしませんが、痛い目を見て貰いますよ!?」

ボクはやっぱりこの人が悪い人には思えなかった。
でも、襲ってくる以上戦わないといけない。
とはいえ、全く危険性もないし、どの程度加減するべきか悩んだ。
とりあえず、距離を詰めてアイアンヘッドを狙う。
上手く加減すれば、脳震盪で失神位狙えるはず。

美柑
 「た……あ……あ?」

ボクはベルモットさんに接敵し、頭部殴打を狙うが、その一歩が踏み込めなかった。
それは視界が歪み、身体が泥に浸かったように重い。
視界は二転三転して、ぐちゃぐちゃになり、意識が重くなる。

何が起きたのか、分からない。
ただベルモットさんの笑い声が頭にガンガン響いた。

ベルモット
 「にゃははは! アタシの水鉄砲は威力は大した事ないけど、万が一食らったら皆そうなるにゃ!」

美柑
 「う……く!」

ボクは滅茶苦茶に盾を振り回す。
しかし相手との距離感が掴めなければ、ボクのやっている事は完全に無駄になる。
気持ち悪い……あまり動くと吐き気がして、ボクは気が付くと地面に倒れていた。

ベルモット
 「このベルねえさんのアルコール96%水鉄砲を食らえば、臭いでも酔うにゃ、勿論直接含めば……天国が見えるかにゃ?」

美柑
 「お、おええええ……!」

ボクはその場で吐いてしまう。
胃の中に食べ物はなかったが、胃酸の逆流は最悪に気持ち悪い。
身動きのとれないボクにベルモットさんが近づいてくる。

ベルモット
 「確か貴方って生死不問だっけにゃ? 出来れば殺したくにゃいけど」

美柑
 「う?」

ベルモットさんが身動きのとれないボクの右腕を取った。
何をされているのか分からない。
ただ、このままではまずい気がした。

ベルモット
 「うーん。危ないから縛りたいけど、縄がないにゃ〜」


 「美柑ー!!!」

美柑
 「主……どの?」



***



ナギー
 「北西だ! 1km程の所に二人いる!」


 「そこに美柑が!」

俺たちは朝日が昇る前に出発して、ナギさんが上空から捜索すると、ようやくらしき人物を発見できた。
俺は全力で馬を走らせて、そこに急行する。

伊吹
 「うーん? 二人なら〜、片方は美柑として〜、もう一人はだぁれ〜?」


 「何か嫌な予感がする!」

俺は出来る限り、急ぎそして美柑の無事を祈った。
やがて、目の前に小さな人影が見える。
それが徐々に近づく度、俺の胸は高鳴り、そして危険を報せる。
やがて、それがはっきり見えたとき俺は叫んだ。


 「美柑ー!!!」

ベルモット
 「にゃにゃにゃ!?」

俺は倒れた美柑と、その右腕を掴んだ謎の女性の前に躍り出ると、馬車を止めた。

ナギー
 「はぁ!」

ベルモット
 「あ、危ないにゃ!?」

ナギさんは状況判断で白い修道服みたいな物を着た女性に斬りかかるが、相手は慌てて後ろに飛び退いた。
その隙に俺は美柑を抱き上げ、馬車に戻る。

ベルモット
 「にゃ〜、もしかして伝説のポケモントレーナーかにゃ?」

ナギー
 「そういう貴様は何者だ!」

相手は身長はかなり低いが、凄まじいダイナマイトボディの持ち主で、見た目では特に危険には見えない。
だが、その場に恐ろしい程の酒気が漂っていた。
ニアもこの酒気にやられたのか、意識を朦朧としているようだ。

美柑
 「主様ですら? あいらかっら〜……」


 「お前、いつから酒を楽しむようになったんだよ、嬉しいけど泥酔するとは関心しないな」

美柑
 「身体熱いれすぅ……」

ベルモット
 「にゃ〜、とりあえず自己紹介にゃ、帝国軍七神将の海のベルモットにゃ」

ナギー
 「なに!? 帝国軍七神将だと!?」

ナギさんはその名前を聞くと驚愕した。
しかしナギさん以外にはその言葉の意味を理解している者はいない。


 「七神将って?」

ナギー
 「帝国最強の精兵、その強さは一騎当千……先の大戦において、こちらの敗因の一つには七神将があったという」

ベルモット
 「にゃはは〜、それで自己紹介〜」


 「常葉茂、あんたたちご所望の伝説のポケモントレーナーさ」

ナギー
 「解放軍特殊作戦部隊隊長ナギーだ」

ニア
 「ニア」

伊吹
 「伊吹で〜す」

俺たちはいい加減相手に自己紹介する。
そして武器を構えた。
ナギさんのみ、武器が小剣と心許ないが、相手は丸腰……と油断しない方がいいよな。

ベルモット
 「にゃ〜、それじゃ〜皆さん大道芸をお見せしましょう〜人間ポンプにゃ〜」

ベルモットという爆乳ちゃんは全身から水を吹き出した。
それは俺たちに何を意味しているのか分からないが、ナギさん、ニア、伊吹が浴びてしまう。
因みに俺は後ろにいたから難を逃れた。


 「なんだこれ……くっせぇ!」

それは恐ろしく不味い酒の臭いだ。
何度か飲んだ凄まじく不味い悪酒のそれだ。
ベルモットの放った水鉄砲(?)からした臭いだ。

ニア
 「……ヒック!」


 「……ニア?」

凄いアルコール臭のした水を浴びたニアの様子がおかしい。
顔を真っ赤にして目が据わっていた。

ニア
 「お兄ちゃん……」

ニアはこちらを振り向くと、ふらりふらりとしながら、俺の体に抱きついてきた。
俺はニアの様子を見るが、案の定酔っているみたいだった。

ニア
 「赤ちゃんは何処から来るの?」


 「君のためなら死ねる! じゃなくて子供にはまだ早いです!」

伊吹
 「うふふ〜、良い気持ち〜♪」

見ると伊吹も後ろにコロンと倒れた。
そして狂ったようにけたけたと笑っている。
伊吹は酔うと笑い上戸のようだな。

ベルモット
 「にゃは〜、アタシのアルコール96%の水鉄砲は効くにゃ〜!」


 「スピリタスかよ!? ナギさん!?」

俺は最後の砦ナギさんを見た。
ナギさんは俯いたまま、動かなかったが俺の声を聞くと。

ナギー
 「大丈夫、私は正気に戻った!」

思いっきり顔を真っ赤にして酔っていた。
そしてナギさんは剣を棄てると俺に跳びかかってきた。


 「て、落ち着けナギさん!」

俺は倒れ込んで股間に抱きつくニアの性で身動きがとれず、ナギさんに抱きつかれても動くことも出来ない。
キスするほど顔が近く、酒気はかなりキツい。
俺は打開策を探るが、とりあえずそれどころじゃない。

ナギー
 「茂! 結婚しよう! 家族は何人欲しい? とりあえず私のヴァージン貰ってくれ!」


 「はい色々アウトー!」

つか、恥ずかしいとか言って呼ぶ捨てしなかったのに酔ったら普通に呼び捨てなのな。
ナギさんの場合酔ったら性格変わるタイプか。
後ヴァージンのカミングアウトして色々大丈夫かよ。
これがエロゲーなら多分皆に逆レイプされたのだろうな。

ニア
 「に〜、赤ちゃん欲しい……」


 「こら、ズボンを下ろすな!」

ニアはもはや何考えているのかさっぱりわからん。
意味が分かっているのか無意識なのか、股間に熱い息を当てるのも辞めて欲しい!

ベルモット
 「にゃ〜、アタシも結婚したいにゃ〜!」


 「アンタ敵なのに何言ってんだ!?」

ぜぇはぁ……駄目だ、突っ込みが追いつかない。
こうなりゃ俺一人で戦うしかないのか?


 「くそ、二人とも離れて!」

俺はナギさんとニアを引き剥がすと、剣を持ってベルモットと対峙する。
とりあえず絡め手とはいえ、流石一騎当千の七神将、見事にこっちは壊滅状態だ。
無事なのは俺一人だけ。
既に伊吹は大の字で眠っているし、ニアも生まれたての子鹿のようにぷるぷるしている。
唯一ナギさんだけはふらりふらりと、不安定ながら立っていた。
とはいえ戦力にはならなさそうだ。

ベルモット
 「にゃ〜、個人的にはお兄さんの事気に入ってるにゃ、投降しないかにゃ?」


 「そりゃ巨乳好きの俺からしたら魅力的だけどな、でも帝国に捕まるのはちと遠慮したいな」

帝国はこれまで何度も俺を殺しにきている。
それだけ帝国は伝説のポケモントレーナーが恐ろしいのだろう。
だが、俺が帝国に下れば、俺の身は保証されるかもしれないが、じゃあ美柑たちはどうだ?
特にナギさんや美柑なんて、まず処刑されると思った方がいいだろう。
そんな事俺が絶対させない!

ベルモット
 「残念にゃ〜、じゃあ仕方ないから任務を遂行するにゃ」

ベルモットはそう言うと、マッチを取り出した。
火を灯したマッチを目の前に翳すと、彼女は大きく息を吸う。

ベルモット
 「アタシは特異体質のシャワーズにゃ、普通のシャワーズは水分子に似た構造にゃけど、アタシはアルコールで出来たシャワーズにゃ、だから〜」

ベルモットが口から水鉄砲を放つ。
それはマッチに引火すると燃えたアルコールが火炎放射となる!


 「だぁぁ! シャワーズが疑似火炎放射かよ!?」

俺は咄嗟に回避して難を逃れるが、これは驚異的だ。
直撃すれば、燃えたアルコールが身体に付着して、全身が炎上するだろう。
よく燃えたウォッカで火だるまになったり、延焼の原因になったりするが、スピリタスクラスになると、それ程危険だ。

ナギー
 「……こぉら〜、危ないだろ〜」

ベルモット
 「にゃ〜、大人しく倒れていろにゃ〜、めんどい、そっちのピジョットから燃やすにゃ〜」

ベルモットはこの酔いどれにターゲットを移したようで、ナギさんはそうとも知らずフラフラとベルモットに近づく。
俺は慌てて引き戻そうとするが、ベルモットが早く、疑似火炎放射を放つ。
危ない! 俺がそう言おうとした瞬間、ナギさんはひょいっと回避した。


 「へ?」

ベルモット
 「にゃにゃ!? 運のいい奴にゃ〜!」

もう一度疑似火炎放射、しかしナギさんはまたもやひょいっと回避する。
やがて二回三回と回避して、ベルモットに疲れが見える。

ベルモット
 「な、なんで酔ってるのに的確によけられるにゃ?」


 「そうか……ナギさんの特性って千鳥足だったのか……!」

てっきり鋭い目の特性だと思っていたが、そっちの特性とは思わなかった。
どうやら酔いは混乱と同じ扱いらしい。

ベルモット
 「くぅ……一発でも当たれば勝ちなのにゃ」

ベルモットも負けじとナギさんを狙うが、俺は一か八かナギさんに命令する。


 「ナギさん、熱風!」

ナギー
 「あはは♪ さん付けじゃなくて呼び捨てでいいよ茂〜」

聞こえているのか分からんが、ナギさんは翼を羽ばたかせる。
ベルモットの疑似火炎放射は直前に引火したまま、ナギさんの熱風に押し戻されて、ベルモットに引火した。

ベルモット
 「ぎにゃ〜!?」

ベルモットは 人間松明のようによく燃え盛った。
その体の大半がアルコールで出来ているならよく燃えるはずだ。
水分は燃えないが、アルコールは燃える。
特異体質のシャワーズ特有の弱点だった。


 「せぇの!」

俺は炎の中で苦しむベルモットを大河に飛び込ませた。
流石に水に流されると炎も鎮火される。
その際俺も引火したため大河に飛び込んだが、幸い流れは速くなく、ベルモットを引き上げながら戻った。


 「ベルモット……強敵だったぜ」

なんてある意味皮肉のようだが、実際アルコールの力は怖い。
泥酔すれば立っていることもままならず千の兵士と戦うことも可能だったのかもしれない。
勝因があったとすれば、それは運だろうな。

俺は脇に抱えた気絶したベルモットを見た。
やはり小柄で、とても兵士には見えない。
でも彼女も帝国に従い、俺を狙ってきたようだ。
一体何がそうさせるのだろう。


 「それにしても……」

美柑
 「ぎぼちわるいぃ」

ニア
 「お腹むずむずするのぉ」

伊吹
 「……zzz」

ナギー
 「さぁ茂〜、セックスしよう!」

……とりあえずこの狂乱の状況を誰か収拾してくれ。
全員酷い酔い方をして手がつけられない。
何となく保美香が1日1杯までとアルコールに制限をつけた理由が分かった。

常葉茂
 「酒は飲んでも、呑まれるな!」



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第11話 七神将ベルモット 完

第12話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/05(金) 23:58 )