突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第10話 美柑を追いかけて

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第10話 美柑を追いかけて


 「やっぱり妙だよな」

南部のミリタリーバランスの一変後、南部から帝国軍は一斉に姿を消していた。
それは、まるで初めからナル・ミオンデ要塞の陥落は想定していたかのようで、各地域でもまともな戦闘は起こっていないと報告が来ている。
そして、それは同様に中央部からの報復部隊の派遣もない事を意味していた。


 「妙だよ……」

俺はもう一度呟いた。
反乱軍……いや、今は解放軍か……はナル・ミオンデ要塞攻略はかき集めるだけかき集めての電撃戦だった。
とても周囲の帝国軍を頭から抑える戦力なんて無かった。
数で勝る帝国軍が、戦いを選ばず、また中央部の兵力も動きがないことは大変不可解だ。

ナギー
 「兵站が確保出来なかった、というところが詰まるところではないか?」

さて、そんな事を考えていたのはミオンデ要塞の改修工事も進む、2週間程が経ってからだった。
要塞戦の終結後は本当に慌ただしくて、正直前後不覚の部分がある。
まず褒章授与がナツメと、そしてその旗下部隊全員に与えられて、その授与式があった。
敵司令官を撃破したのは名実共にナツメだから、ナツメに関してはまぁ分かる。
だがその下30人の部隊としての授与は個人的厄介だった。
何せ珍しい物だから、揉みくちゃにされるのだ……俺が。
元から慣れているナギさんはともかく、ニアは速攻で逃げたし、伊吹も元々珍しいヌメルゴンということもあり、やたら触られていた。
今じゃ、ナツメは解放軍の旗印として充分な存在だと言える。
これから迫る中央部奪還作戦は、元々解放軍の大半が中央部出身だったこともあり悲願だと言えた。

一度世界の地理と歴史の構造も見てみよう。
この大陸は帝国の首都のある厳寒の北部、温暖で最も住みやすく、それ故に多くの国家を育んだ中央部、熱帯気味の気候でそれほど文明も進んでいない南部だ。
中央部は無論ナツメやナギさんの出身地、彼女たちの悲願は推して余る。
そして、軍事的には土地生産能力が高く、また主要都市の多い中央部の奪還は打算的にも意味がある。
何のかんの、南部は生産力が低い土地が多く、また人口も多いとは言えない。
特に中央部から何十万人も疎開してきたことで、南部の生産力はとても追いつかず、多くが飢えていったという。
つまり中央部奪還は、単に祖国奪回だけでなく、経済的、生産能力的にも帝国を追い詰める事を意味する。

帝国の存在する北部はそれこそ南部以上に過酷な土地だ。
故に帝国の国力は実のところそれ程ではない。
南部でこれまでどちらにも就かなかった日和見主義者たちが親解放軍側に移った事で、露骨に帝国と解放軍の兵力は変わった。
今や帝国の兵力はあまりにも少ない。
それでも、かつて帝国は電撃作戦で中央部に進軍し、そこにあったであろういくつもの軍を叩き潰して、現在の地位を築いた。
その精兵ぶりは解放軍より質が高いのは間違いない。

そして、褒章授与が終わったら、部隊配置の変更だ。
ナツメは一組織の長から一軍の将にまで昇った。
ホウツフェイン王国の唯一の王族の生き残りであり、元々のシンパの援助もあって、彼女は収まるところに収まった感はある。
もうこれからは前線に出ることもないだろう。
ナギさんも200名近くになる精鋭部隊を任される事になり、もう昔ほど気軽に会える相手ではなくなった。
相変わらずほぼフリーなのはニアと伊吹位か。
もっとも伊吹も本気で医療知識を修めたいのか、最近頻繁に病院に行っていた。
ツキじいさんはナツメの補佐に忙しいし、ジェットはナギさんの元で頑張っている。
俺はというと……大本営への部隊配置の話も出てきたが、断った。
ナツメは俺が安全な場所に異動なら嬉しいと喜んでいたが、俺はそこまで軍師として優秀じゃない。
少なくとも万軍を扱い、戦後処理の激務にも務めるエーリアスに比べれば、俺は末端で充分だ。
精々俺が出来た権限は家族を守ること位だった。
大本営からすると伊吹はそれこその喉から手が出るほど欲しい人材だったが、それは俺を敵に回すという事でもあり、唯一俺の存在が伊吹を守れたと、これは素直に安堵した。
現在はナツメを後ろ盾とした独立部隊にニアや伊吹と共に所属する事になった。



***



エーリアス
 「少しよろしいですか?」

日毎に暑くなるこの頃、要塞の片隅にいた俺に予想外の来客があった。
それは解放軍トップ陣を務めるオオタチのエーリアスだった。


 「何か用ですか?」

相手は見た目こそ大学生位に見えるが、仮にも大将だ。
言ってみれば超エリート官僚って奴で、俺は半ば無意識に敬語を使っていた。
正直言えば、俺はこの人のことはそんなに好きじゃない。
なんだかんだで有能だが、タカ派で知られる人だし眼鏡の奥で何考えているか分からない目が好きになれない原因だ。

エーリアス
 「噂で聞いたのですが、茂さんは行方不明の家族を探しているのですね?」


 「……まぁ」

噂ってどこだよ……突っ込みたくなるが、飲み込んだ。
どうせ諜報員でもそこかしこに忍ばせているんだろうが、腹が読めないな。

エーリアス
 「家族……良いですよね、家族って」


 「……エーリアスさんの家族は?」

エーリアスは外壁にもたれ掛かると、空を眺めた。
今日は天気も良く、城塞の隅では洗濯物が風に揺られている。

エーリアス
 「いえ……、戦争で皆いなくなりました……」


 「あ……、そうですか」

俺は聞いちゃいけなかったかと、罰を悪くすると、エーリアスは笑う。

エーリアス
 「気にしないでください、それよりもこれを見ていただきたいのですが」

エーリアスはそう言うと一枚の羊皮紙を渡してくる。
そこには人物画が描かれており、そこにはボーイッシュなギルガルド娘が描かれた。


 「な!? まさかこの娘は!?」

俺は驚愕した。
そのギルガルド娘は正に俺が求めた家族ではないのか!?
それを見てエーリアスは何かを確信して言った。

エーリアス
 「その子、今中部地方で帝国軍相手に大暴れしているようですよ」


 「中部地方で?」

エーリアス
 「そう、早い方が良いのでは?」

エーリアスはそう言うと去って行った。
アイツ……イマイチ分からんが良い奴なのか?
それとも何らかのメリットがエーリアスにあるのか?

ナギー
 「おっ、茂君。そんな所でどうしたんだ?」

そこに今度はナギさんはがやってくる。
俺は羊皮紙を握りしめると。


 「ナギさん、手を貸してくれ!」



***



俺達はナル・ミオンデ城塞から出撃した。
馬車を走らせて、北上する。
エーリアスからもたらされたのは美柑の情報だった。
アイツは俺が家族を捜している事をどこからか知ったらしく、突然教えてきたのだ。
ギルガルドは北部で僅かに見られる程度で、この大陸では激レアなポケモンだという。
絶望的な胸、ボーイッシュな風貌、そしてやたら腕の立つという噂は間違いなく美柑だ。
美柑は中央部を転々として、帝国兵を叩きのめし、現地では帝国兵を恐れさせる存在らしい。
俺は馬車を動かして今、危険承知で中央部に向かっていた。
馬車には協力を頼んだナギさんの他に、同じく家族を心配する伊吹にニアも載っていた。


 「ところで今更なんだけど、ナギさん来てくれて良かったんですか?」

ナギー
 「本当に今更だな! 君には貸しがあるからな! 部隊はジェットに任せた!」

そうは言うが、実際のところ理由は美柑ではないだろうか?
この人は刀剣マニアだから、剣そのもののポケモン娘に興味を抱いても不思議じゃない。
それにしてもジェットさんって、何気にナギさんの元部下の中では今じゃ最古参らしく、それなりに力はあったんだな。
昔はもっと優秀な親衛隊はいたようだが、やはり戦争で殆どがいなくなったようだ。
つーか、この話はナギさん自身一歩間違えていたら処刑されていただけに笑えない。

ニア
 「に〜、お兄ちゃんは私一人でも大丈夫なのに」

伊吹
 「アタシも〜、微力ながら〜、お助けするよ〜」

まぁ……この中で一番強いのは伊吹だったりするんだがな。
問題は美柑は俺たちの情報を手に入れていないみたいで、現在地が分からないと言うことか。
今も中央部で各地を転戦しているらしいが、見つけるには現地で情報収集するしかない。

伊吹
 「でも〜、どうして〜、美柑はそんな遠い所に〜、出現したのかな〜?」

確かに俺と伊吹に比べて遠いのは謎と言えば謎だった。
まぁそんな事を言ったら保美香と茜なんて消息すら分からないし、こればっかりは法則性があるのかも分からん。

伊吹
 「それにゲートも〜、どうして〜現れたんだろう〜?」

伊吹は実はとても頭の良い子だ。
情報処理能力はもしかしたら保美香以上かもしれず、アインシュタイン的な天才のようだ。
ゲート、保美香も呟いていたが俺たちを吸い込んだあの穴が一番の謎と言えば謎だよな。


 「帰れる算段ってあると思うか?」

伊吹はそれを聞いて黙考した。
正直伊吹でもそこは分からんか。

伊吹
 「恐らくだけど〜、同じ条件を整えれば〜、もう一度ゲートが〜、出現する可能性はあるかも〜……でも、確証は得られないなぁ〜」

そして帰れるかも分からないと、伊吹は付け加えた。
……正直俺は帰れるなら帰りたいけど、皆と一緒なのが一番大事だし、美柑を加えて、保美香と茜を見つけたら、別にこの世界で暮らしても構わないと思っている。


 「そんときゃ、皆で家でも買って、この世界で死んでいくまでだな」

伊吹
 「エンディングノート〜みたい〜」

伊吹はそんな事を言うが、そんなに老いた考えかな?
かなり内輪な会話になったが、ナギさんはその話を聞いて何かを考えているようだった。

ナギー
 「……もし、君が家族を全員見つけて、そしてそのゲートやらが現れなかったら、私と暮らさないか?」


 「え……?」

俺はナギさんの言葉に思わず返す言葉が出なかった。
一緒に暮らそうって……それって。

ナギー
 「す、すまない! 忘れてくれ……」

ナギさんも自分の言葉の意味を理解したのか、顔を真っ赤にすると忘れろという。
とはいえ、忘れろと言われても難しいだろう。


 (プロポーズされたの、初めてだぞ)

あまりの気恥ずさ、俺も黙るしかなかったが……しかし冷静に考える。
茜達はどういう想いで、俺と一緒に暮らしていたんだろう。
もし誰かを選ばないといけない時、彼女たちはどうするのだろう?
俺もいつか結婚して、親父になるってのは理解している。
でもその花嫁を俺は選ぶことが出来るのか?
少なくとも、今の俺には無理だな。

ニア
 「に〜、私もお兄ちゃんと一緒が良い」


 「そうだな、俺もニアはまだ心配だからなぁ」

俺はそう言うとニアの頭を撫でた。
ニアは目を細めると猫のように喜んだ。
出来るならニアと一緒にいたいとは思う。
ある意味でこいつも俺の娘みたいなものだからな。


 (ナツメはどうなんだろうな……?)

ふと、ナツメが思い出される。
あの出会ったばかりの頃はやたらベタベタしてきて、恋に恋する娘だったナツメは、結果的にだが今は距離がある。
俺と一日顔を合わせないだけでストレスを溜めていた彼女だが、王女としての重責は想像以上に重いのか、もう気軽な存在ではないのかもしれない。

ナツメイト
 『私も茂様一筋ですわ! 寧ろ誘拐して愛の逃避行を!』


 「ファ!?」

俺は何か頭の中にナツメの声が響いた気がした。
皆俺の奇声に心配な顔をするが、俺は後ろを振り返った。
もうナル・ミオンデ要塞は見えない。
あいつ、あんな遠くからでも俺を捕捉した?
正直確信はなかった。
あの1回以降ナツメの声は聞こえないし、幻聴だったのかも。

ナギー
 「さて、そろそろ中央部に入るな……風が変わった」


 「そう言えば、少し肌寒いな……」

明らかに気候が変化しているのだ。
それは秋口の日本に似た空気感だ。
よく風景を見てみると、群生する植物も変化しつつあるようだ。

伊吹
 「こ〜すると〜、暖かいよぉ〜」

伊吹はもはや恒例、後ろから抱きつくとおっぱいを背中に押し当ててくる。
もはや慣れたが、これは暖かいというより、暑い!

ニア
 「私も人肌が恋しい」

更に脇からニアまで抱きついてくる。
ニアはただでさえケモナーだから余計に暑い。


 「二人とも……」

俺は剥がそうと思うが、ふと横を見ると何だかナギさんも様子が変だ。

ナギー
 「わ、私も肌を重ねても……」


 「お前ら10秒待ってやるから、さっさと離れろ」

俺はドスの効いた声で二人を遠慮なく引き剥がす。
ナギさんは正気に戻ったのか、また顔を真っ赤にして首を振った。
もしかして、ダイレクトにエロ妄想を一番持っているのはナギさんなのか?
ナツメは一切エロ耐性なし、伊吹はそもそも羞恥心がない。
ニアは不明だが、それ程エロ関係はない。
それに対してナギさんは結構妄想は激しいようだな。
もしかしたらもう彼女の中では俺と家庭を築いているのかなぁ?
まぁ妄想を現実にする勇気はないらしいが。



***



ナツメイト
 (はぁ……)

私が突然ため息を放った理由は2つある。
一つは茂様と二人っきりに全然なれなくてフラストレーションが溜まっているということ。
しかも茂様が私抜きでイチャイチャしているビジョンが脳に映ると、もはや禿げそうだ。
ていうかリア充爆発しろ……ていうか私もリア充になりたい!

とまぁ、ここまでは完全に私情の縺れ。
もう一つの理由が、今いる場所の空気にある。

将軍A
 「今すぐにでも兵を中央に差し向けるべきだ!」

将軍B
 「そうは言うが、兵站はどうするのだ!?」

エーリアス
 「皆さん、あまり熱くならず」

エーリアスさんがなるべく優しく諭すが、熱くなった親父どもは一向に止まらない。
今は今後の行動に関しての、会議の最中だった。
これまでは私は家柄は良くても実績のない小娘。
王家を支援してくださった南部のシンパの方々のお陰でやってこれたが、今は大本営のお偉いさんと共に作戦会議に参加できるに至った。

でも……私とエーリアスさんを除き、ここにいるのはじじいばかり。
それも中央で政治の中枢にいた官僚や、無能な指揮で必要以上の大敗に導いた将軍様など、悪い意味で大物ばかり。
しかも、かつてと違い解放軍として、各々の国のお偉いさんが集まった結果、一向に意見も纏まらない……まるで子供の喧嘩を繰り返しているのだ。

将軍C
 「ふん、これだからイッシュウの者は……!」

将軍A
 「なにを、トンカーの無能が!」

ナツメイト
 「いい加減にしてください! ここは解放軍です、かつての遺恨を持ち込まないでください!」

ここの将軍達は、まるで現実を理解していない。
今や個々の国々では帝国には勝てず、だからこそ解放軍の旗印に集まったというのの、結局は旧態依然とした物の考え。

エーリアス
 「えーこほん! 静粛に。皆さんあの敗戦をお忘れですか? 1年前、突如進軍してきた帝国に我々は連携をとらず、ただ長年の確執を持ち込みで、そして敗れた」

将軍達
 「……」

エーリアス
 「あの戦い、数で勝るこちらに対して相手の兵力は20分の1でした。ですが帝国の高度な技術、そしてよく鍛えられた兵士達……最後に、あの一騎当千の怪物ども!」

将軍達はその名を聞いて響めく。
そう、誰も忘れられない。
あの人智を越えた怪物たち。

ナツメイト
 「帝国七神将……!」



***



帝国首都アノークにある皇帝の居城にはある一連の集団が集まっていた。

ワンク
 「がっはっは! ワシら七神将が集まるのはいつ以来じゃ?」

キッサ
 「確か、1年前じゃないかしら……?」

南部が奪還され、中央部にも火が移らんとしているこの日、かつて一人で千の兵を打倒した文字通りの一騎当千の者たち、七神将は集まっている。
円卓を取り囲むのは異形の四本腕を持ち、鎧の上からでも筋肉がはち切れんばかりの初老ワンク、闘(Figh)の二つ名を与えられている。
更に雪女を思わせるダウナーな女性キッサ、魔(Wiz)の二つ名を持つ。

ワンク
 「で……おぬし誰じゃっけ?」

ワンクが差したのはこれといって何の特徴もない、特徴がないことが特徴とでも言うべき少年だった。
一見すると兵士にさえも見えない。

少年
 「僕って誰だっけ? ねぇ誰か覚えてる?」

ワンク
 「そのしゃべり……ディクタスか」

ディクタス
 「ふふ、名前なんて意味がない、見た目なんて意味がない……」

ディクタスと呼ばれた極めて異質な少年は隠(Stel)の二つ名を持つ。

更に隣、優雅な翼を蓄えた美丈夫はムクホークのジョー。
極めて無口だが、空中戦では敵はいないと言われる程の手練れで、二つ名は空(Fly)を頂く。

オクタンの男
 「くく……相変わらず皆しみったれてるなぁ」

奇妙なゴーグルを頭に被った中年の男はオクタンのゲーベン。
あらゆる火器に精通し、そして超遠距離狙撃を得意とする砲(Gun)の二つ名を与えられた男だ。

更にちびちびとお酒を飲む女がいる。
見た目はディクタス並に幼いが、それに見合わぬ爆乳を持つシャワーズのベルモット、海(Mari)の二つ名持ち。
そしてここにいる中では最後、最も新しく騎(Knig)の二つ名を頂いたトウガだ。

トウガ
 「しかし全員が集まるという事は何か重大なことが?」

トウガは負傷した左腕回し、完治したことを確認すると周囲に伺った。
しかし、この集まりを七神将の誰も知らないのだ。

ギーグ
 「おぬし等を集めたのはワシだ」

最後に現れたのは宰相を務めるドンカラスのギーグ。
ギーグは解放軍の動きに危機を察して急ぎ七神将を集めたのだ。

ベルモット
 「にゃ〜、なんか重要な話にゃ〜?」

ベルモットは既に一升瓶一つを開けた状態のようで、その口からは酒気が零れた。
その臭いにギーグは顔を顰めるが、言葉を続ける。

ギーグ
 「言わずもがな、お主たちを呼んだのは他でもない……反乱軍、それも伝説のポケモンとレーナーについてだ!」

トウガ
 「伝説のポケモントレーナー、茂についてですか」

その名前を聞いたとき、七神将と言えども、それを茶化す者はいなかった。
ある者はその名に闘志を燃やし、ある者は憎悪を滾らせる。
いずれにせよ、帝国には最も驚異的な名前だと言える。

ギーグ
 「陛下は全く取り合おうとしないが、伝説の通りなら驚異そのもの、ならばこそとワシはおぬし等を招聘した」

ワンク
 「なるほど、つまりその首をワシらにとってこいと!」

ゲーベン
 「くく……なら、俺に任せな。一発で脳天に風穴開けてやるぜ」

キッサ
 「私がやっても良いけど?」

七神将、それぞれ思いは違うだろうが、伝説のポケモントレーナーを抹殺することに異存はないようだ。
問題は誰が行くかだが、その時ポチャンと水が跳ねる音がした。
全員がある席を注目すると、一人既にいない。
それは海の七神将ベルモットだった。



***



コンル
 「……陛下、失礼致します」

カリン
 「うむ」

メイド長のコンルは今日も後ろにあの無愛想な少女を連れて、寝室に入った。
皇帝カリンは真っ白な胸元が開いた和服のような服を着て、ゆったりしている。
コンルは腰に刺さって女性物としては大きな剣を差している事に気付いた。

コンル
 「陛下? その格好は?」

カリン
 「ふ、少し物見遊山でも行おうかとな」

少女
 「物見遊山……」

少女が珍しく口を開いた。
その事にカリンは驚いた。
何せこの少女、兎に角無愛想で無口なのだ。
皇帝を前にして敬意も払わない、ただその厚顔不遜な姿をカリンは気に入っていた。

カリン
 「コンル、奴は使い物になるか?」

コンル
 「ああ見えて根は真面目です。メイドたちにもよく可愛がられており、技能の習熟も速いです」

カリンはそれを聞くと、「ふむ」と顎に手を当てて考える。

カリン
 「よし、そこの小娘、明日から私のベッドルームメイドを任せる」

カリンがそう言うと、少女はおろかコンルまでが驚いた。

コンル
 「お、お言葉ですが彼女はまだ、そのような責務は……!」

カリン
 「一通り出来るのだろう? ならば問題あるまい……それより私はこれからお忍びで出るからな、後は任せるぞ?」

コンル
 「ご、護衛も無しですか?」

カリンは胸を両腕で真上に持ち上げると、自信を見せて言う。

カリン
 「私は皇帝だぞ? 私を殺せる者などこの世にはおらんよ」

カリンはそう言うと、少女の脇を越えて部屋を出る。
少女はじっとカリンの背中を見た。

カリン
 (ふふ……さて、今からなら間に合うかな?)



***




 「で、情報収集だけど」

中央部に入ってから、近くの街で情報収集をした俺たち。
早速美柑と覚しきポケモンの情報は手に入った。
今はどうも北部を目指して進んでいると言う話で、見つけるにはかなり奥まで進まないといけないようだ。

ナギー
 「幸い我々は馬車を使っているし、追いつくのは難しくないだろう。情報でも恐らく帝国の本拠地を目指していると見て間違いない」

ニア
 「でも、帝国の勢力圏だから危険に違いはない」


 「流石に検問に引っかかるか」

俺たちはこれからどう進むか吟味する。
地元に詳しいナギーさんはある程度美柑の進路に予想はついているようだが、今どこにいるか正確に分からないのが問題だ。

ナギー
 「やはり安全を期すため、危険な場所は迂回すべきだろう」

ニア
 「でも、それだと間に合わないかもしれないよ。強行突破の方が良い」


 (どちらに意見を採用するべきか?)



***



美柑
 「この大河を北上すれば、帝国の心臓部か」

ボクは相次ぐ帝国軍の横暴に堪えかねて、帝国兵を叩いていった。
しかしそれは戦略的に見れば大して意味のない戦い。
あくまでも中枢を叩かなければ、ボクの戦いに意味はないのだ。

美柑
 「主殿を捜すことも重要だけど、明確な悪を放っておくなんてボクには出来ない」

ボク自身、正義を語るのは烏滸がましいかもしれない。
何故なら今まで多くの命を斬ってきた。
果たしてこんな血塗られたボクは主殿を護る剣として的確だろうか。
それでも、例え呪いをこの身に溜め込もうとも、怨念の連鎖を断ち切る必要がある。
ゴーストタイプが言うのも変な話だけど、ボクの罪は地獄で清算しよう。

帝国兵
 「見つけたぞ賞金首!」

美柑
 「またか」

恐らくボクを追ってきたのだろう。
騎馬兵が4騎、ボクを取り囲むように展開する。
ボクがこの世界に召喚されてから、ボクは少々無節操に暴れた性か、帝国に賞金を掛けられてしまった。
それ以来、ずっとどこにいても帝国兵に襲われる日々だ。
もっとも、それはボクには丁度良く、周囲の害虫を駆除する意味があった。

美柑
 「死にたい奴から来て」

ボクは冷酷な目で確かめると、4騎の騎兵の動きを見る。
4騎は10メートル程離れた位置から様子を見るように周回した。
時間稼ぎのつもりだろうか?
だが、それならボクも戦い方がある。
ボクは盾を構えながら、最も身近な騎兵に接近する。
騎兵はそれでも距離をとろうと動く。
ボクはその動きに違和感を覚えた。
時間稼ぎは勝つ算段がなければただのジリ貧な戦術だ。
ならば、勝つ気があると言うこと。
ボクは咄嗟に周囲に気を巡らせ、攻撃を予測する。
すると、正面に光る何かを発見した。

ダァン! キィン!

美柑
 「狙撃兵!?」

ボクは咄嗟にキングシールドを構えて事なきを得たが、遠くから銃撃されたのは意外だ。
この世界にも銃は存在するが、そのレベルは低い。
おおよそフリントロック式マスケット銃に相当するものだ。
故に、皆で暮らした向こうに比べたら全然怖くはない。
向こうだとAK47とかだと、流石にボクも蜂の巣だったろう。
だが単発式で威力の低いこの世界の銃ならそこまで怖くない。

ただ、騎兵と組み合わされると厄介だ。

帝国兵
 「思った通り、遠距離戦に対応できないようだな」

相手の一人が勝ち誇った。
ボクは冷静にそれを無視して狙撃兵の数と位置を割り出す。
相手はあくまでも狙撃兵でボクを仕留める気らしく、騎兵は攻撃する気配がない。

美柑
 (もう一発、誘ってみるか)

ボクは両腕をだらりとして、狙撃を誘発させてみる。
すると、直ぐにでも狙撃は来た。
しかし発火装置の性で発射前に位置は知れるし、弾丸も遅い。
ボクは盾で銃弾を弾くと同時に剣を投げた。
剣はボクを狙撃した張本人に正確に突き刺さる。
その瞬間、騎兵たちの顔色が変わったのが分かった。

帝国兵
 「馬鹿め! 狙撃手をやったのは見事だが武器を棄てるとは愚かな!」

騎兵の一人が槍構えて突撃してきた。
その反応の早さは褒められるけど、戦力差を見れないのはマイナス点だ。
ボクは咄嗟に飛び上がり、槍を回避して相手の顔面を盾でぶん殴る。

帝国兵
 「アバ……」

帝国兵の顔面は粉砕、ボクのアイアンヘッドなんだから当然であるが。
騎兵を一人撃破すると、ボクは地面に着地して他を睨みつける。

美柑
 「剣がなければ戦えない? お前らを殺すのに武器なんていらないよ」

そう、あくまでも剣はボクのメインウェポン。
だけど、ボクの戦術はなにも剣だけが全てじゃない。
シールドで行うキングシールドにアイアンヘッド。
自らの爪で切り裂くシャドークロー。
剣で使う技はせいなるつるぎだけだ。

帝国兵
 「……全員で掛かれーっ!」

残り3騎が一斉に突撃してくる。
普通なら、まず騎兵複数に襲われたらひとたまりもない。
でも、これはポケモンバトルだ、その常識は通用しない。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第10話 美柑を追いかけて 完

第11話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/05(金) 22:37 )