突然始まるポケモン娘と○○○する物語 - 第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第8話 ナル・ミオンデ城塞攻略戦

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第8話 ナル・ミオンデ城塞攻略戦

帝国兵A
 「おい、空見ろよ、また飛んでるぜ……」

弓を持った帝国兵はウンザリした顔で空を見上げた。
ここ1週間、この要塞の上を鳥ポケモンが飛び交う。
その度、要塞は警戒態勢に入り、ここ最近まともに眠れちゃいないと、既にストレスは限界に達していた。

帝国兵B
 「くそ、反乱軍の奴ら、本気でここ落とせると思ってんのかよ……」

南部地域中央部に位置するナル・ミオンデ要塞。
ここは南部地域の制圧を目的とした帝国の軍事施設である。
東西南北ほぼ全方位に40門の大砲を備え、更に弩弓と呼ばれる機械仕掛けの弓が所狭しと設置されている。
さながらトーチカとでも呼ぶべき、戦術要塞であり、ここには帝国兵が2万もいるのだ。
ほぼ南方方面軍の全てであり、ここが落とされれば南方の足がかりを失うことになる。
そして、連日飛び交う飛行タイプのポケモンたちは、その存在が飛び交うだけで帝国兵の疲労を蓄積させていく。

帝国兵A
 「くそ、弓で打ち落とせないのか?」

帝国兵B
 「無駄だ、高度がありすぎる」

相次ぐ緊張の連続で兵士達も焦っている。
それは末端だけでなく上層部でも同じだと言うのだ。

帝国兵A
 「ん?」

帝国兵B
 「どうした?」

帝国兵の一人が突然後ろを気にした。
だが、近くには二人しかいない。
当然だ、パトロール時間はまだ後なのだから。

帝国兵A
 「誰か、いた気がするんだが……」

帝国兵B
 「疲れてるんだよ、大体中に侵入しているならとっくに警報が鳴るさ、なんせウチには優秀なレントラーが見張ってんだからな」

帝国兵が指しているのは要塞中央部の塔だ。
そこに常に侵入者に目を光らせるレントラーが控えている。
帝国兵はこの監視網に安心しきっていた。
今だ栄光の落日を信じられない兵士達は巡回を続ける。

そして兵士の一人が気にした場所には彼女はいた。

ニア
 「上にレントラー……」

ニアは周囲に同化するイリュージョンを行いながら、潜入偵察を行っていた。
知るべきは兵士の配置、そして弱点となる部分。

ニア
 (レントラーの暗殺、成功したら褒めて貰えるかな?)

ニアは危険を承知で、更に奥へと潜入を始めた。



***



偵察開始から1週間、ニアの潜入とナギさんたちの航空偵察により、着実に要塞の全容は把握が進んでいた。
そして、この要塞攻略のため、各地から反乱軍が集結しつつあるという報が届いた。


 「大本営のお偉いさんが来る?」

要塞から南方10キロの地点に俺たちは集合していた。
そして刻一刻と迫るナル・ミオンデ攻略作戦は始まろうとしている。

ナツメイト
 「私も詳しくは知らないんですが、この作戦の立案者だと聞きます」

ツキ
 「噂をすれば、お見えになりましたぞ!」

部隊の後方を見ると、男性が一人こちらに向かってきているのが分かった。
眼鏡の似合う、茶色い耳を持つポケモンだった。
多分俺と同じくらいの身長があると思う。
オオタチかな、そのお偉いさん。

オオタチ
 「皆さん初めまして、オオタチのエーリアスと申します」

エーリアスという男は随分温和な笑みを浮かべた男だった。
早速ナツメが対応に向かうが、一体どんな奴なんだろう。

ナツメイト
 「初めまして代表のナツメイトです」

エーリアス
 「噂はかねがね聞いていますよ。なんでも伝説のポケモントレーナーを見つけたとか」


 「それって俺のことか?」

エーリアスは俺を見つけると、直ぐに駆け寄ってきた。
そして温和な笑みで握手を求めてくる。
俺は社交的に握手を返すが。

エーリアス
 「貴方が力を貸してくれること、感謝します! ありがとう!」


 「は、はぁ?」

なんかイメージより押しの強い人のようだ。
エーリアスは俺の手を離すと、周囲を歩きながら作戦を話し始めた。

エーリアス
 「オペレーション・ミリエラ……ここまでたどり着くまで大変時間が掛かりました。ちりぢりの反乱軍を一纏めして集まった1万人弱……」

ナギー
 「1万人、それ程の数が……!」

それは正に要塞の周囲を取り囲むように展開している最中だ。
大本営はそれだけの労力を払って、この作戦を成功させたいのだろう。

エーリアス
 「僕は個人的に期待しているんですよ、あなた方……特に茂さん!」

皆の注目が集まる。
おいおい、不意打ちで俺を差すのやめて欲しいぜ。
エーリアスはその事に関しては構わず話を続ける。

エーリアス
 「伝説のポケモントレーナー、それに従う乙女たち……その力は正にこの作戦の原動力とも言えた……」

ニア
 「……」

ナツメイト
 「私たちが……?」

伊吹
 「〜?」

俺は皆を見た。
ある者は動揺し、ある者は胸を張り、ある者は理解していない。
そんなポケモン娘たちを俺は複雑に思った。
技が使えることは、それだけで戦術級の価値があると言える。
でも、それを戦争のために使わないといけないのは哀しい。

エーリアス
 「えーと、スロカ村で、隕石群を呼んだのはどなたでしょうか?」

伊吹
 「あ、それ〜アタシ〜」

伊吹は自分の事と分かるとはい! と手を上げた。

エーリアス
 「おお、貴方が! もしよろしければ貴方の力を貸して頂けないでしょうか?」

……伊吹に協力、俺はそれに不快感を示す。
本来伊吹を前線になんて出したくない。
それでも、見て見ぬふりは出来ないからと、伊吹は前線にでたが、それでも俺は彼女に戦わせたくない。

エーリアス
 「もう一度、あの隕石をここで見せて頂きたい!」

伊吹
 「え〜、流星群を〜?」


 「嫌なら嫌で良いんだぞ」

俺は伊吹にそう言うが、伊吹はしばらく考えた後。

伊吹
 「アタシの力が役に立つなら〜、頑張るよ〜」

伊吹はそう言って笑った。
きっと心の中は見た目ほど笑っていないはず。
誰一人傷つかない事を誰よりも求めている優しい子なんだから。



***



司令官
 「どういう事だ!? なぜ敵の本隊が見つからん!?」

同時刻、ナル・ミオンデ要塞司令室では怒号が飛び交っていた。
南方方面軍司令官、ゴーリキーのガイラ司令官は、状況にイライラを溜めている。
敵は10kmから20kmに小規模で散開する、長距離散開陣形を築いている。
これの弱点は司令塔の命令が届かなければ、個々は烏合の衆だと言う事。

帝国兵
 「しかし何分ダミーが多く!」

ガイラ
 「それが戦争という物だろうが!」

いくら反乱軍の小隊を叩いたところで、本隊を叩かなければ何の意味もない。
既に反乱軍のオペレーション・ミリエラは開始寸前で有り、帝国軍はこれに打って出ることが出来なかった。
相手の索敵が出来ていない時に例え倍の兵力でも、迂闊に出撃させれば、当然数が嵩む。
敵もそれが狙いであり、故に膠着状態は続く筈だった。

ズドォォォン!!!

突然の大地震、揺れは一瞬だったが、司令部は混乱していた。

ガイラ
 「な、何事だ!?」

帝国兵
 「え、Sフィールド崩壊! 防衛線が崩壊しました!」

ウーウー!

遅すぎるサイレン、敵襲来。
司令官ガイラは愕然とした。
あまりにも一瞬……あまりにも簡単に要塞の一角が突き崩されたのだ。

ガイラ
 「馬鹿な……魔法でも使ったとでも言うのか!?」



***



エーリアス
 「予想通り! 南側は構造欠陥でモロイ!」

エーリアスは伊吹の流星群に大満足だった。
一方、かなりの距離だったこともあり、伊吹はたった一発で肩で息をしていた。

伊吹
 「これ、結構疲れるんだよねぇ〜」


 「お疲れ、後は休んでろ」

伊吹
 「うん〜、そうする〜」

俺は伊吹の肩に手を置くと、伊吹はそのままへたり込んだ。
伊吹は戦略級の活躍をした、もう充分だろう。

エーリアス
 「さぁさぁ! 待ちに待った時が来た! あの歴史的敗戦から1年! 今こそ反逆の時だ!」

エーリアスのテンションも更に高潮していく。
俺は冷静に要塞の方を見た。
ここからでは詳しくは分からない、でも、そこには命がある。

反乱軍兵
 「信号弾確認! 作成開始の合図です!」

エーリアス
 「さぁ! オペレーション・ミリエラ。開始!」

反乱軍
 「「「おおおおお!」」」

信号弾を機に、一斉に各所から鬨の声が聞こえた。
文字通り万軍の戦いが始まったんだ。

ナギー
 「諸君、私に続けー!」

ナギさんはこういう時は果敢だな。
我一番と飛び出すと、騎兵、翼兵が次々と飛び出していく。

ナツメイト
 「茂様は後方に待機を」

ナツメは馬に乗って、最前線に出る気だ。
俺は安全なところにいろと言われるが、皆が危険な目に遭って、安全を貪るのは流石に御免だな。


 「俺はお前を守るため、ここにいるんだ。俺も行く!」

ナツメイト
 「茂様……分かりました! 後ろに!」

俺はナツメの乗っている馬に飛び乗った。
今、戦場は要塞を中心に広がっている。



***



反乱軍
 「「「おおおおおお!」」」

1万にも上る反乱軍は今、要塞の内外で乱戦状態に突入していた。
数においては倍の数を誇る帝国軍だが、それは城内戦では意味がない。
本来ならば野戦で決着をつけるべきところを、それも果たせず帝国軍は内側に敵を呼び込む形になった。
もはや要塞に肉薄した状態では生き残った大砲も弩弓も役には立たない。
更に初めての大規模反抗作戦に反乱軍側の士気は高かった。

異質な帝国兵
 「兄さん、奴はいたかな?」

そんな中、特に戦いには興味を示さず誰かを捜す二人組がいた。
二人とも骸骨のようなマスクを被り、全身を黒ずくめで覆った二人組。
それはどう見ても正規の帝国兵には見えなかった。

兄と呼ばれた方
 「Sフィールドに現れたようだ」


 「ならば、ここにいる意味はないね」

彼らがいたのはEフィールド、個々も既に乱戦状態だが、彼らは敵を見もしていない。
その場から移動を開始すると、帝国兵がそれを見咎めた。

帝国兵
 「おい、そこの特殊部隊の奴ら、どこに行く!? 敵はここにもいるんだぞ!?」

特殊部隊、そう、あのボーマンと同じ特殊任務部隊の隊員。
兄と呼ばれるヤミラミのクリスト、そして弟と呼ばれるゴーストのイミア。
二人は目の見えないマスクを越しに帝国兵を見ると。

クリスト
 「我々は貴下の指揮系統には含まれていない」

イミア
 「我々に命令できるのはキッサ将軍のみである」

帝国兵は愕然とした。
この帝国全体の危機にたいして、あくまでもこいつら私設部隊として動くのだ。
あまりにも軍規を逸脱した行為。
しかし、実際に命令系統から、彼らの行動を制御出来る者はここにはいない。



***



ナギー
 「はぁぁ!」

ナギさんは上空から急降下して、弓を構えた帝国兵の頭部に切り落としの一撃を放つ。
そのスピードから放たれた一撃は兜ごと、帝国兵の頭を割った。
帝国兵がドサリと倒れる。


 「ナギさんの龍○閃決まったぁ!」

ナギー
 「リュウ○イセン? よく分からないが君も気をつけろ!」


 「了解!」

崩壊した南側城門から、俺たちは要塞内へと侵入すると、早速敵兵はぞろぞろと現れた。
しかし、敵兵の練度は低く、ナギさんと子飼いの配下達は敵を次々と撃破していった。
とはいえ、数の差は歴然。
それでも俺は最低限自分の身を守る程度には立ち回って見せた。

ニア
 「お兄ちゃん、大丈夫?」

途中、ニアとも合流して俺たちは要塞深部を目指すことになった。
ニアは1週間の潜入任務で、要塞の指揮配置を充分理解していた。
このまま司令塔に向かい、敵司令官を倒せば、この戦争は俺たちの勝ちだと言えるだろう。

ナツメイト
 「この! 近づけさせません!」

ナツメは俺と離れず近くで超能力を駆使して戦っていた。
俺もナツメの死角からくる相手を押し返し、それをナツメが撃破する。
俺自身の撃破スコアはまだないが、それでもナツメとのタッグは良好だと言えた。
ただ、このままで大丈夫か、不安はある。
まずナツメの超能力は無限じゃない。
弾切れを起こせば、じり貧になる可能性はあるのだ。
俺はどちらかと言うと戦場を俯瞰して、各員の状況を精査に分析するのが仕事と言えるだろうか。

ニア
 「ッ! お兄ちゃん危ない!」


 「何!?」

突然、空から何かが俺を襲う。
それは弓ではない。
何か光を乱反射する円盤状の物体だった。
ニアがそれを短刀で弾くと、円盤は持ち主の元へと帰って行く。
俺たちは円盤の行方を追うと、そこには骸骨の仮面を被った全身黒タイツの男がいた。

クリスト
 「ほう、完全に不意を突いたと思ったが」

妙に線の細い男は、帰ってきた円盤の中心に腕を通すと、円盤がじゃらじゃらと腕で鳴る。
なるほど、ブーメランディスクとかいう武器か。
形状はインドの暗殺武器チャクラムに似ているが、用途は少し異なるようだな。


 「その格好……まさかとは思うがボーマンの敵討ちか?」

クリスト
 「我々に、そのような意思はない。だが貴様にケジメをつけさせるのが目的だ」


 (我々? しまっ!?)

俺は相手の言葉に直ぐ反応したお陰でギリギリ命を拾った。
地面スレスレを高速で踏み込み、首を狙ってきたもう一人の男の剣をなんとか弾く。
最も不意打ちだったため、重心を崩して倒れたのは俺の方だったが。

イミア
 「こいつ……僕の動きを読まれた?」

下から襲ってきたのは上から円盤で狙っている方と同じ格好だが二回り程小さい。
声も少し高く、少年か少女のように思える。

クリスト
 「アンブッシュは一度までだな。自己紹介しよう、ヤミラミのクリストだ」

イミア
 「同じく、ゴーストのイミア」

自己紹介したクリストとイミアは立ち並ぶと、まるで兄弟のようだ。
ニアやナツメはこの二人の執拗な俺への攻撃に壁になるように立つと怒りを顕わにする。

ニア
 「こいつら、お兄ちゃんばかり狙って!」

ナギー
 「ならば我々が相手だな!」

ナツメイト
 「茂様、下がってください!」

三人は相手の思惑をくみ取るとニアとナギさんが前衛、俺を守るようにナツメが中衛に回り、俺は後衛に回された。


 「気をつけろ、そいつら帝国の特殊任務部隊だ、普通じゃないぞ!」

間違いなく系統はボーマンと同じタイプだろう。
幸い性格は全く似ていないようだが、微妙に悪趣味な服装は確実に同じ部隊だ。
言葉を信じるなら、ボーマンの不始末をつけに来たという事か。

ニア
 「こいつら殺す……!」


 「ニア、熱くなるな!」

予想通り、ニアはあの格好の奴らにロクな縁がない。
しかし、相手からすればニアも対象になってもおかしくないが、相手はニアには取り合わないつもりらしい。

クリスト
 「我々は任務を遂行するだけだ、邪魔をするなら始末するだけだ」

任務、あくまでも俺の殺害が目的な訳か。
その過程はどうでもいいとは大した度胸である。

クリスト
 「はっ!」

クリストがディスクを投げる。
円盤は高速回転して、楕円形に旋回して俺を目指す。

それと同時にイミアが直線上に迫るが、これはナギさんが止めた。

ナギー
 (この少年、妙な剣を使っている?)

イミア
 「ちぃ!」

イミアはナギーとの接近戦を嫌がり、バックステップする。
しかし、その際無駄に剣を振るう。
それは、何もない空間に剣を振るっただけにしか見えない。
しかし、ナギさんは苦痛に顔を歪めた。

ナギー
 「剣が……延びた!?」


 「蛇腹剣!?」

それは、ガリアンソードを始祖に持つ架空上の武器だ。
剣の節々が独立してワイヤーで繋がり、手首の動きで剣を蛇のようにしならせる。
その結果、想定外の軌道で蛇腹剣がナギさんの翼を貫いたのだ。

クリスト
 「余所見している場合か?」

大丈夫、メタ的には体感30分でも作中では1分しか経ってないとかよくあるから!
まだ円盤は俺に迫っていない、軽々回避は間に合う……!

俺は回避行動をとった刹那、二枚目の円盤に気が付いた。
クリストは時間差で2枚の円盤を投げたのだ、1枚目は大きく楕円形に、2枚目は真っ直ぐ直線に。
時間差は軌道差でお互いのラインが一致する。
俺はどうすれば助かるかシミュレートするが、駄目だ……回避は無理だ!
どちらかを避ければどちらかが当たる。
はっきり言って万事休す!
……とは言うが、実際はそんなに焦ってはいない。

ナツメイト
 「……いい加減にしてください! あなた方に茂様にどんな恨みがあるか、知りませんが私の前では傷つけさせません!」

ナツメがサイコキネシスを放つと円盤は空中で静止して、そのまま振動すると粉々に砕けた。
俺が割と安心している理由、それはナツメの力があるからだ。
やはりポケモンが技を使えるのは絶対的アドバンテージだ。
何のかんの言っても、武器よりポケモンの技は強い。

クリスト
 「報告書通りだ」

イミア
 「厄介だね、兄さん」

相手は自分の武器が破壊されたにも関わらず、随分冷静である。
こちらもナギさんがダメージを受けたが、程度は軽い。
どっちが有利かと言うとこちらが有利な筈だが。
しかし、冷静に俺は状況を過去と照らし合わせて精査する。
この状況、やはりボーマン戦と似ている。
ならば次にするのは!

クリスト
 「弟よ、頼むぞ」

クリストが再びディスクを投擲する。

イミア
 「任せてよ、兄さん」

イミアが怪しい動きをする。
俺は両者の動きからどちらが危険か比べる。
それはイミア!


 (だけどなんだ!? 何を使った!?)

イミアは何か怪しい動きは見せたが、具体的な効果が無く俺は全く判断できなかった。
恐らく補助技に違いない、それは確信を持てるのにここまで謎の技はなんだ!?

ナツメイト
 「……? 何か……く!」

ナツメが何か感じた?
迫る円盤を次々破壊してこちらからは変化が分からない。


 「どうしたナツメ、何があった?」

ナツメ
 「何か……力が抜けた気が……!」

力が抜ける?
ドレイン技、あるいはナイトヘッドなど?
だがダメージを受けた様子はない。
ダメージじゃないけど、何かが減った……?


 「まさか!? ナツメ、サイコキネシスのPPは!?」

ナツメイト
 「え!?」

俺はサイコキネシスの残りPPを考えた。
ここまでに結構使っており、でもまだ大丈夫だと思っていた。
しかし違った!
相手が使ったのは『恨み』だ!
着実にナツメの力を削いでいたんだ!

クリスト
 「さて、何処まで頑張れるかな?」

クリストの円盤の枚数は残り4枚。
こっちのPPは分からん。
つまり我慢比べだと、負ける可能性があった。

ナギー
 「く……、ニア、茂さんを守りにいけ!」

ニア
 「でも、それだとナギーが……!」

ナギー
 「相手のリーチは変幻自在、どの道ニアでは相性が悪い!」

イミア
 「させると思う?」

イミアの蛇腹剣が二人を襲う。
まるで本物の蛇のように動くそれは二人を翻弄した。
しかし、ナギさんは覚悟を決めると踏み込んだ。

ナギー
 「舐めるなよ少年、私はこれでも剣の達人だぞ」

蛇腹剣をわざと剣に絡ませて、身動きを封じる。
だが、それはナギさんでも変わらない。
お互いの獲物は絡み合いチェーンデスマッチの構図を生み出した。

ニア
 「死んじゃ駄目」

ナギー
 「ふ、当たり前だ!」

ニアがナツメのラインまで後退すると、クリストも思案した。

クリスト
 (……意外と手こずるな、こちらも攻撃できる回数は限られてきた)


 (我慢比べだな……)

相手も攻撃の手が止むと、ラインを変えるように動き、隙を狙ってくる。
ひとまず、相手が戦場で頭上をとっているのは問題だな。
こちらから攻撃が仕掛けにくい。
ニアは白兵戦特化だし、ナツメは相手が悪な性で有効打がない。
つまりこっちは耐えるしかない……これが実に面白くない展開だ。


 (ナツメ、あと何回サイコキネシスを打てる?)

ナツメ
 『多分あと1回』

……てことは、武器破壊は後1回ってところか。
その後は相手の弾幕を回避する展開になるわけだ。


 (全く……実に分の悪い展開だよな)

だが、ある程度推論と実証が揃えば、自ずとやるべき事も定まった。
もう、これしかないわな……。


 「うおお!」

俺は雄叫びを上げて吶喊した。
それは全員が予想外の行動だったろう。
ラインディフェンスで言えば、いきなりラインの方が前進してきたのだ。
当然クリストの行動も精度に欠ける。

クリスト
 「まさか、イミア狙いか!?」


(な、訳がねーだろ!)

珍しく抑揚がなく冷静な相手が動揺した。
イミアをやれば、確かに4対1とこちらが圧倒的有利。
だが、俺がそれを狙っても意表はつけん。
クリストは同時に2枚のディスクを投げた。
相変わらずの楕円と直線の時間差攻撃。
でも、この攻撃には弱点もある。


 (ナツメ、俺のイメージの場所にサイコキネシス!)

ナツメ
 「げ、迎撃は!?」

珍しく声に出して焦ったな。
俺は兎に角前に突っ込む。
ナツメは俺の意志を反映して、俺の目の前にサイコキネシスを放った。
俺はそれを足場にして、飛び上がる!

クリスト
 「なに……!?」

クリストの時間差攻撃は、確かに前後左右に逃げ場のない見事な攻撃だ。
しかし一つ欠点があるのは、上下に全く対応出来ないという事だ。
俺が足場を得て、高い場所で安全に遠距離攻撃を繰り返した相手の制空権を奪った。


 「見よう見真似! ナギさん式龍○閃!」

俺は相手の頭上から剣を両手で持ってクリストを強襲する。
言い方はともかく要は切落、実にシンプルな技だ。

イミア
 「兄さん!」

ザン!

斬った!
俺は剣を振り切って地面に着地するが、着地の衝撃でそのまま地面に崩れた。
ああ、弥彦の気分がよく分かるわ。
だが、後ろによろめくクリストは死んではいない。
ただ……ドクロの仮面が真っ二つに折れて、地面に落ちた。

クリスト
 「……く、想定外だ」


 「ち……仮面の下は美形がテンプレだろうに……!」

クリストは直ぐに顔を隠すが、一瞬見えた素顔はなにか妙だった。
俺は剣を握りしめて、立ち上がりながらそう軽口を叩く。
精神的余裕はこちらにある様に見せないと押し切られる。
クリストは余程顔面を晒すのが嫌なのかそのまま後退する。

クリスト
 「状況が悪い……撤退する」

イミア
 「……了解」

イミアは突如、剣を放棄すると、その場から飛んだ。
元々ゴーストは浮遊の特性があるから飛べて当然なのだろう。
クリストが爆弾のような物を投げると、それは炸裂と同時に白い煙を吹き出して、二人の気配はそのまま消えた。


 「はぁ……はぁ……! はったり成功」

俺は完全に周囲の敵影がなくなると、その場にへたり込んだ。
一先ず勝てたが、もし戦闘続行を選ばれていたら多分死んでたわな。
ピンチな時程不貞不貞しく笑えとはよく言った物だ。

ナギー
 「かなりの強敵だったな……」

ナギさんは戦闘が終わると戦利品の蛇腹剣を拾った。
改めてまじまじ見ると、本人のお気に召したようで。

ナギー
 「強度の問題が未解決のようだが、中々珍品、良いな」

ニア
 「大丈夫? 呪われてない?」

ニアは不安そうにそれを見るが、確かに呪いの装備っぽさはあるわな。
以前呪われただけに、そう言うオカルトも馬鹿に出来ないんだよな。

ナツメイト
 「皆さん、集合してください」

ナツメは皆を集めると、今後の事を話した。

ナツメイト
 「この後、司令部制圧があるわけですが、皆さんダメージもあります」

ナギー
 「私はまだ軽症だがな」

ニア
 「何も問題ない」


 「とりあえずダメージはないな」

全員、戦えない程ではなく、あくまでも消耗したという感じだ。
強いて言うとナギさんが一番ダメージが大きいか。
翼を貫かれて血が染みており、痛々しい。

ナツメイト
 「そこで提案なのですが、誰か一人戦況の報告のため、戻るのはどうでしょう?」


 「確かに、まだ戦闘の音はあちこちからするからな」

状況は恐らく反乱軍有利。
しかし実際のところ分からないのが辛いな。

ナツメイト
 「誰が戻るべきでしょうか?」




突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第8話 ナル・ミオンデ城塞攻略戦 完

第9話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/05(金) 01:17 )