突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第7話 家族の行方

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第7話 家族の行方


 「うー」


 「……?」

朝、いつものように静かに日が昇り気温が上がっていく。
そんな中、目を覚ましたのは謎の声が聞こえたためだ。
それはくぐもった女の声、敢えて言うなら幽霊的な?
眠りながら目線を動かすが、部屋に誰かがいる様子はない。

だが、懐で何かが動くのを感じた。
俺は掛け布団を退けると。

ニア
 「ぬー」

ニアがいた。
俺は一瞬、寝る部屋を間違えたかと疑ったが、俺の私物があり、ここが俺の部屋であると分かる。
となると、間違いなく間違えたのはニアの方だ。
ニアはまだ精神的幼さが残っており、たまにこういう事がある。
だが、今回は嫌な予感がした。
何故ならニアが寝ぼけてズボンに手を掛けているのだ。
これを見られたらどう思われるか……考えたくない。

ナツメイト
 「おはようございます、茂様!」


 「あ……」

丁度ニアを剥がそうとしたその時、ナツメイトが俺の起床を察知してか、俺のコテージに入ってきた。
その時ニアはまだズボンに手を掛けている段階だった。

ナツメイト
 「……え?」

突然ナツメの目線は俺の股間に注目がいく。
如何にもこれからすることを割と連想できる状況にナツメの思考が追いついていない。

ポクポクポク、チーン!

ナツメイト
 「カレーライス!」


 「なにがだー!?」

パタン!

ナツメが突然倒れた。
その顔は真っ赤で、エロ耐性0なのか、知恵熱で倒れたようだ。

ニア
 「にー、何?」

ナツメが倒れた辺りで騒がしくなってきたことでニアも目を覚ました。
丁度入れ替わる感じで、俺がナツメを介抱しようとすると。

ニア
 「……寝込みを襲っている最中?」


 「介抱しようとしただだけなのに……」

そんな、間の悪い一日の始まりだった。



***



午前8時、今日もいつも通り始まるのか、そんな風に考えていると拠点にある人物が現れた。
それは大本営からの使者で、遂に命令が下ったのだ。
この拠点に移って半月程が経って、初めての慌ただしさがやってこようとしていた。

ツキ
 「諸君、一部の者は既に承知していると思うが、大本営より指令が届いた!」

作戦司令室に集合した20あまりの隊員たち、その代表としてツキじいさんが説明を始めた。
ついに来た指令に一層ざわめきは増す。

ナツメイト
 「皆さん、静粛に」

ナツメが周囲に注意を促すと、ツキじいさんは指令の内容を説明する。

ツキ
 「我々に下った命令は二つ、一つはナル・ミオンデ要塞の攻略」

その名前を聞いて、一部の隊員が響めいた。

ナギー
 「この南部地域最大拠点じゃないか、我々では手に余るどころじゃないぞ?」

俺が自分で集めて情報では帝国は雪の降る北方にある。
一方で温暖な南方に属するこちらは帝国からはかなり遠い位置にある。
そこでこの南方地域に、兵力を集中出来る拠点を帝国は築いた。
それがナル・ミオンデ要塞。
推定兵力2万人 。
大砲の数40門。
城門4つを持つ、近代的な要塞だ。

ナギさんの言葉ももっともで有り、とても30人未満のこの拠点で対応できる要塞じゃないぞ。
しかしそれが分からないほどナツメやツキが愚かな訳でもない。

ツキ
 「無論我々に任せられたのは先行偵察だ。だが先行偵察といえど危険に違いはない。しかしこの要塞を突破できれば帝国の勢力は北方に後退するのは間違いない」

ナツメイト
 「我々の祖国奪還するためには、この南部平定は不可欠です」

ナツメも想いは祖国にあるのだろう。
司令室の机に置いた手は強く握られており、誰よりも帰りたいという想いが伝わる。
ここにいるのは殆どナツメの故郷、大陸中央にあるホウツフェイン王国出身者だ。
今や中央は帝国の強い勢力下にあり、中央に進軍することすらままならない。
ナギーさんが捕まった撤退戦もこの南部へと後退する事になったのだ。

ニア
 「それで……もう一つは?」

ツキ
 「うむ、もう一つの指令はここから近くにスロカ村という村がある。そこで相次ぐ帝国兵の消失と、謎の隕石の調査が指令の内容だ」

ナギー
 「隕石? あの、空から降ってくる?」

そっちは随分とオカルトな話のようだな。
そもそも帝国兵の消失っていうのも謎だが、隕石って関係があるのか?

ナツメイト
 「この指令は我々の拠点が最も近いことから、我々に指令が下りました。危険は前者よりは少ないと思います」

ツキ
 「さて、では部隊の編成だが……」

ナギー
 「多少危険かもしれないが、空からの偵察なら私に任せてもらえないか?」

ニア
 「潜入調査なら、任せて」

ナギーとニアが偵察任務の方に志願した。
どちらが危険かと言えば、やはり要塞の方だ。
特に先行偵察ということは、後方の支援もあまり期待できない。
言ってみれば強行偵察という事だろう。

ナツメイト
 「茂様はどう思います?」


 「そうだな……俺は」


***



北方……、南部が夏の時期、この地域は僅かな雪解けの時期を意味している。
大地が芽吹き、生命の逞しさが謳歌される中、そんな大自然の中心に帝国の首都アノークはあった。
アーソル帝国首都は楕円形の形をしている。
皇帝の住む居城から南部に延びるように城下町が広がり、それは上空から見れば卵のような形に見えるだろう。
その居城に、あのナツメイトと茂の活躍により撤退したトウガがいた。

男性将軍
 「ガッハッハ! トウガよ、帰ってきたか!」

トウガ
 「ワンク将軍ですか」

皇帝への報告に急ぐトウガを止めたのは同じ将軍のワンクだった。
ワンクは4本腕の異形が目立つカイリキーだった。
その体は筋骨隆々であり、無数の傷は歴戦の戦士を思わせる。
帝国きっての武闘派と言えば、ハリー将軍とワンク将軍と言われる程の武闘派だ。
既に齢50を迎えている筈だが、その皺も弱さを示しているようには思えない。

ワンク
 「随分と南部はホットなようじゃのう?」

ホット、というと勿論反乱軍の動きのことだろう。
ワンクはハリーとは義兄弟の契りを結んだ仲故に、ハリーが捕縛されたとなると黙ってはいられないのだろう。

トウガ
 「熱すぎて、火傷するかもしれませんよ?」

ワンク
 「ガッハッハ! それこそ根性が滾るというもの!」

女性将軍
 「暑苦しいわね、この筋肉ダルマは……」

そこにいつからいたのか、そっと現れたのはキッサ将軍だった。
キッサはユキメノコであり、そこにいるだけで周囲の温度を下げてしまう。
性格もワンクと正反対のダウナー系、常に虚無感を漂わせていた。

ワンク
 「なんじゃ、おぬしとて帝国将軍だろう、戦に心躍らんのか?」

キッサ
 「戦争なんて興味ないわ、ボーロンもいなくなったし、つまんない……」

キッサはあの呪いによって茂を苦しめた特殊任務部隊きっての呪術暗殺者ボーロンの上司だった。
帝国内でもあまりいい目で見られない特殊任務部隊だが、キッサには家族のような物だった。

トウガは二人の様子を見て、微笑を浮かべた。
ハリーとボーロン、ある意味でトウガはその二人と線で繋がっていたからだ。

トウガ
 「皇帝への報告がありますので、失礼します」

トウガはそう言うと通路を進んだ。
大きな荘厳な装飾が施された両開きの扉を開くと、そこに玉座に座る皇帝の姿があった。

皇帝は女性だった。
まだ年若き皇帝アブソルであり、美しい銀髪の奥から禍禍しい黒い鎌のような角が生えている。
しかし見た目から想像できないプレッシャーがトウガを襲った。
皇帝カリン、一代にしてこの大帝国を築き、今や全土を統一せんとする。
その冷たい眼差しがトウガを見定めると、トウガは平伏した。

カリン
 「よくぞ帰った、トウガよ」

皇帝の脇には実質的な執務を取り仕切る宰相のギーグがいた。
齢既に70になろうかという老齢のドンカラスだが、今だ権力に固執する俗物だ。

ギーグ
 「それで、報告を聞こうか」

トウガ
 「は! 南部では反乱軍の動きが活発化しています。近々大規模反攻作戦も計画されている模様です。また諜報員を用いて伝説のポケモントレーナーについても調査を行いました」

伝説のポケモントレーナー、その言葉に皇帝が珍しく興味を示した。
伝説では確か、伝説の乙女と手を繋ぎ、世界を救済するという。
それはつまり、帝国を滅ぼす存在、そして自分を殺す存在だという事だ。
自分の天敵のような存在に興味が湧かない訳がない。

カリン
 「それで、実在するのか?」

トウガ
 「結論から言いますと、実在するでしょう」

ギーグ
 「なんと……」

ギーグはその言葉に驚愕する。
しかし皇帝は寧ろ楽しそうでさえあった。
この帝国に皇帝より強い者はいない。
弱者は強者によって淘汰される。
その原初の理念に従い帝国はここまで大きくなった。
そんな中、弱者の中から生まれた伝説がどれ程の物か俄然興味が湧く。

カリン
 「何者だ?」

トウガ
 「名を常葉茂、亡国の王女ナツメイトと共に反乱軍に与しています。私は諜報員を用いてある実験をしました」

それはハリー将軍に情報を意図的にリークして、ワザとポケモントレーナーにぶつける実験。
そしてもう一つは暗殺者ボーロンを用いて、対象の呪殺。
しかしどちらも予想を上回る結果を出した。
単純に見ればハリー将軍が遅れをとるはずはなく、そしてボーロンが暗殺に失敗するなどあり得ない。
この二つの結果は、伝説を裏付けるに充分な力だと言える。

カリン
 「ふ、あははは! 運命力に護られているか、面白い!」

恐らく何か神がかった物に護られてでもいなければ、茂はとうに死んでいる。
逆に言えば、伝説が達成されるまで茂は誰にも殺せないのだ。
皇帝はその安っぽい弱者の伝説など信じていなかった。
だが、現実に現れたのならこれ程面白いことはない。
それを打ち砕いてこそ、自分の治世はあるのだ。

カリン
 「報告ご苦労。ところで腕の方は治らないのか?」

トウガの左腕、そこには痛々しく包帯とギプスがあった。
ナツメイトとの戦いの負傷で左腕はまだ動かなかった。

トウガ
 「はい。まぁ、時期に治ります」

トウガの身体は鋼鉄で出来た外骨格で構成されているが、可動部分に限っては装甲で覆われておらず、その弱点を突かれたのだ。
肩の腱を痛め、左肩から下が動かない。
だが、そのダメージを高いものとは思わなかった。
この怪我のお陰でポケモントレーナーの力の一端を見れたし、諜報によってその後の顛末も知れた。
この怪我は寧ろ安いとさえ言える。

ギーグ
 「ご苦労、もう下がって良いぞ」

トウガ
 「は、失礼します」

トウガは頭を上げると後ろに下がり、退室した。

ギーグ
 「武勇に秀で、知略にも長ける。にも関わらず不気味な程欲がない……」

カリン
 「ふふ、だが有能だ」

ギーグはそこを危惧しているのだ。
有能過ぎるそれは、野心に繋がる。
しかしカリンにとっては便利な駒だ、どの道、力で屈服させる以外皇帝に抗う手段はない。

カリン
 「おい、紅茶を持て」

カリンはそう言うと、影に待機していた眼鏡を掛けたメイドが現れる。
メイド長のコンルだ、その後ろにはまだ不慣れなメイドが見ている。

メイド長
 「失礼します、いい? 見ているのよ?」

メイド長、たしかコンルと言ったか。
マニューラという種族で、この寒い北方地域ではそれ程珍しいポケモンではない。
だが、マニューラと言えば、冷酷で狩りを得意とする戦闘集団であった。
種族全体が小柄な傾向にあるが、コンルは身長150弱、身体は少し太いが全体的にスマートで胸は寧ろ巨乳だ。
戦士としてなら騎士にもなれそうだが、なぜメイドになったのだろうな。

カリン
 「コンルだったな、新人の育成ご苦労」

コンル
 「いえ、これもメイドの仕事ですので」

ギーグ
 「陛下……あの娘、本当に身近に置くので?」

ギーグが危惧しているのは、未だ影から出てこず、ただ寡黙にコンルの手際を観察するメイドの少女だ。
少女が現れたのは半月前、その少女は無口で無愛想だった。



***




 「ナギさんとニアは共同で偵察に出るべきだ」

ナツメイト
 「では、ナギーを隊長に偵察部隊を編成してください」

ナギー
 「了解です!」

ニア
 「にー、任せて!」

俺なんかが決めていいのか戸惑うが、文句を言う奴はいなかった。
なんでこんなに信頼されているのか、正直分からんがこれは責任が問われるな。

ツキ
 「次にスロカ村の調査の方だが」


 「そっちは俺が行こうか」

俺は調査の方に志願した。
危険は少なそうと言うが、少なくとも安全とも言い切れないだろう。
でも、何故かそっちは大丈夫な気がした。
というか、そっちに行かないといけない気さえするんだよな。

ツキ
 「……まぁ良いだろう。ただ飯食わせる訳にもいかんし」


 (じいさんの中で俺の評価ってどうなってんだろう?)

ナギさん救出の貢献で前より口うるささは減ったが、だからといって認められた訳でもなさそうだ。
まぁでも志願が認められて何よりだ。

ナツメイト
 「では、茂様は私と一緒に調査に来てください」


 「一緒に?」

ちょっと意外な言葉に俺は首を傾げた。
ナツメって一応ナンバー1だし、ここに待機するべきじゃないのか?

ナツメイト
 「実はスロカ村って、反帝国運動が活発なんです。私たちともコンタクトをとってて、今回会談をすることになっているんです」

会談……か。
そりゃ代表者はナツメじゃないと駄目か。

ツキ
 「では、1時間後に作戦開始!」

ナギー
 「よし、各員装備の点検怠るな!」

ナツメイト
 「馬車の用意を!」

拠点はかつてないほど、慌ただしさを増す。
今はまだ水面の波紋に過ぎないが、これがミリタリーバランスを崩すのかもしれない。
俺は部外者だからか、そこまで気分が高まったりはしないが、ナツメイトたちを助けることに意味はあるはずだ。



***



拠点ではあちこちでポケモン達が走り回る。
半分はナギさんが連れて行く偵察隊。
機動性を重視して、大半を飛行タイプで揃えており、飛べない者は空輸することで目的地に運ぶようだ。
ジェットもまだ万全ではない筈だが、偵察隊に入ったようだな。

一方こっちは少ないものだ。
俺とナツメ、それに護衛の3人。
合わせて5人となる。


 「それにしても隕石って……いつの間に落ちたんだ?」

ナツメイト
 「正確には隕石群という話ですよ?」

それって英語で言うとメテオスォーム、多分ランダムで5つの土地がレベル1になるな、大抵自分の領地に当たる奴だ。
現実的にはメテオとかローカストとかサブサイドで充分とか言わない。


 「なおさら目撃されなかったのが不思議でならん」

宇宙人とかが侵略でもしてきたんじゃないかと疑ってしまうな。
それとも実は第2世界(?)から来た宇宙船とか?

ナツメイト
 「兎に角、会談に急ぎましょう」

馬車を走らせて30分。
スロカ村は、特に特産業もない寂しい村だ。
住民も100名あまりで、女子供や老人が多い。
やはりこの時代はこういった村でも過酷なようだった。

そして、隕石調査の前にナツメは村の村長と会談に臨む。

ナツメイト
 「つまり反乱軍に加わりたいと?」

村長
 「その通りです、この村にも重い重税はのしかかり生活は苦しくなる一方、村の者たちも我慢は限界なのです」

ナツメイト
 「しかし、見たところ女子供も多く、とても戦えるとは」

村人
 「なんでもします! 何なら家事とかでも良いんです!」


 (熱意は評価するが、現実は知らないタイプか)

村人から英雄になったのって現実じゃ豊臣秀吉とかジャンヌ・ダルクとかだけど、そう言うのって一握りに過ぎないんだよな。
高杉晋作の奇兵隊だって、何でもありの混成部隊だけど、正規兵だって混ざってた。
けど、ここの人たちは本気で鍬とかフォークで戦う気なのかよ。


 (ま、俺が口出し出来ることでもないか)

でも、出来ることなら辞めて欲しいのも事実。
後方支援だって、敵に襲撃される恐れはある。
現実の戦争でもそうやって非戦闘員は死んでいってるのだ。
無関係を決め込む方が生き残る確率は高い。
彼らは決して勝ち組になりたいとか、成り上がりたいなんて思ってないのだ。

ナツメイト
 「……分かりました、当面は支援の方をお任せします」

村長
 「おお、ありがとうございます」

村民
 「少ないけど、村の野菜も持って行ってください!」

ナツメイト
 「あ、ありがとうございます。それでですけど、最近この周辺で帝国兵が消えるという噂は?」

村長
 「ああ、それでしたら事実です。ですが我々がした訳ではありません」

村長の話は、この村にやってくる監督役が次々と村に到着する前に消えるということだ。
もう半月近く、帝国兵は村に現れていないらしい。
半月……て、俺がこの世界に召喚された頃か。


 「俺は隕石調査の方をするわ」

ナツメイト
 「一応気をつけて」

俺はナツメの後ろから小言でそう言うと、村を跡にした。
村の街道をしばらく進むと、丘陵地帯になっており、その道のど真ん中に夥しい数のクレーターが大小様々30個はあった。

あり得ない被害だ。
普通こんだけ被害があれば、こっちだって気付く筈。
ということは天然で出来た訳じゃない。
もしかしてポケモンの技か……なんて思っていると、空が真っ暗になった。


 「へ?」

俺が上を見上げた時、そこにあったのはおっぱいだった。
何を言ってるのか分からないと思うが、兎に角おっぱいが降ってきたのだ!


 「茂くん〜!! 会いたかったよぉ〜!」


 「ふが!? ふがが!?」(その声は伊吹!?)

そう、これは懐かしきマシュマロを超えたワールドクラスの柔らかさ!
つまり伊吹のデカパイなのだ!
俺は窒息しそうなのでおっぱいから脱出した。


 「お前、こんな近くにいたのかよ……」

俺はずっと皆を捜していた。
デカい街にも行って、必死に捜したんだ。
時にこの世界にはいないんじゃないか、全く別の世界に飛ばされたんじゃないかと不安に思った。
でも、こうやって再会できたんだ。

伊吹
 「ふぇ〜〜ん、本当に良かったよぉ〜、茂君と再会できて〜」

伊吹は俺に思いっきり抱きつくと大粒の涙を流して泣いた。
俺が泣きたくなるほど、辛い中それは伊吹も同じだったようだ。
そしてそれは今も美柑に保美香、そして茜が同じ思いをしている。
だが、これで希望的観測に過ぎなかった再会が現実の物となった。
後は3人だ。


 「それにしても、このクレーターまさかと思うが」

伊吹
 「うん、アタシの『流星群』〜」

やっぱりか。
天然の隕石なら火球を確認出来る筈だが、そんな事は出来なかった。
つまり、空間から隕石群を降らせる。
ドラゴンタイプ最強の技はおぞましい破壊力を地面に刻み込んでいた。

伊吹
 「うえぇ〜〜ん! 涙が止まらないよぉ〜!」


 (それにしても、こんな泣き虫が、地形を変えるレベルの破壊をするって怖いな)

逆説的にこれって現実のマンションを全壊出来るって事じゃないのか?
優しい子にこれ程の事をさせた現実が、ただただ恐ろしい。

伊吹
 「グスン! 茂くんは〜、アレからどうしてたの〜?」


 「俺か……そうだな」

俺はアレから自分の身に起きたこと。
そして今何をやっているかを伊吹に教えた。

伊吹
 「そっか〜、反乱軍に。意外だな〜、争い事嫌いそうなのに〜」


 「実際嫌いだよ、基本的には事なかれ主義だし……でも、成り行きだよ」

伊吹
 「……アタシも成り行きなんだ〜。あそこ〜、スロカ村に落ちてきた縁で助けちゃってね〜、それで〜村の人たちに〜、傷ついて欲しくなくて〜、戦っちゃったんだ〜……」

その顔はとても哀しみに満ちていた。
恐らく誰よりも優しい伊吹は、暴力が大っ嫌いなんだろう。
だからこそ帝国の理不尽も許せなかった。
結果、最終手段とも言える暴力に打って出たのだろう。
一体何体の帝国兵を倒したのだろう。
きっとその帝国兵一人一人の安否も気遣ったに違いない。


 「消えた帝国兵はどうしたんだ?」

伊吹
 「助かった人は遠くに捨てた〜……運が良ければ助かっていると思う〜。運が悪かった人は〜……」

伊吹立ち上がるとフラフラと丘の下に行く。
そこには。


 「お前、これ……墓、か?」

そこは注意しなければ見向きもしない目立たない場所だった。
そこには土を掘り返した後と、墓碑と献花された花があった。
伊吹はその場所でしゃがむと手を合わせて冥福を祈った。

伊吹
 「運の悪かった人は皆〜、ここに埋めたの〜。でも〜、可哀想だから〜、毎日花を〜……」

運の悪かった、つまり死んだ帝国兵。
きっと救いようのない悪党も混ざっていただろう。
それでも彼女は冥福を祈った。
まるで今の伊吹は本物の聖女にように思えた。


 (これが保美香をも超える600族のポケモンか……)

中身は誰よりも優しい、きっと平和な世界では虫も殺せない、大人しい子だったろう。
でも、この過酷な世界は彼女にも戦うことを要求した。
俺はそれが悔しくて堪らない。
確かに伊吹は戦える強者かもしれないが、彼女は一度だってそれを望んだのか?
ヌメルゴンの最初の形態、ヌメラは最弱のドラゴンと言われるポケモンだ。
その弱さを知っているから、理不尽な暴力も知っているのだろう。
この世に神がいるなら、なんてサディスティックなんだろうな。
俺は信心深くないが、この時だけは神を恨むことにした。



***



ナツメイト
 「それでは、貴方が隕石と帝国兵の消失の原因ですか?」

俺と伊吹は村に帰ると事情を説明した。
そうしなければ、ナツメは事件を探る事になるし、それを俺は良しとはしない。
伊吹も誰かに背負って欲しくて戦った訳じゃないし、墓は安らかであって欲しいのだ。

伊吹
 「茂君の〜家族の伊吹で〜す♪」

ナツメイト
 「まぁ、家族!」


 「……説明していなかったが、俺は離ればなれになった家族をずっと捜していた。まだ一人だがやっと見つかったんだ」

ナツメイト
 「家族はあと何人?」


 「3人、イーブイの茜、ギルガルドの美柑、ウツロイドの保美香だ」

ナツメはそれを聞くと、勝手に泣き出した。
きっと俺に同情したためだろう。
だが、ナツメにその涙の余裕はないはずだ。
俺が事情を説明しなかったのも余計な心配を掛けないためだ。

ナツメイト
 「絶対見つけましょう! 家族は大事です!」


 「ああ、絶対に全員見つけ出す!」

そして帰るんだ……あの懐かしい日々に。



突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第7話 家族の行方 完

第8話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/04(木) 10:49 )