第5話 暗殺者の覚醒
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第5話 暗殺者の覚醒
茂
「くう……久し振りに早起きしたなぁ」
俺は宿の外に出ると、大きく伸びをした。
時間は6時、出発は8時ということでシュウは馬車の用意に入っている。
つまり2時間は暇な訳だ。
これは2時間もあるか、それとも2時間しかないと見るべきかは微妙なんだよな。
茂
「茜たちを本気で捜すなら絶対時間が足らん」
そもそもこの街は広すぎる。
こんな大きな街で特定の探し人を見つけるなんて普通じゃないよな。
しかもいない可能性の方が高いし。
さて、そういう訳であんまり難しく考えずにラジオ体操でもしていると、視界に見慣れたイーブイ娘の姿が見えた。
茂
「ニア……?」
そこにいたのは確かにニアだ。
ニアは無言でこちらに近づいてくる。
茂
「なんだ? 朝飯が欲しいのか? 少しならやれるけどな」
ニア
「……」
妙だ、ニアの無表情は昨日と何も変わらないが、同じ無表情でも今は昨日と違う。
何か、陰鬱というか……昨日感じた茜に近い無表情じゃない。
茂
「ニア?」
ニアが俺の目の前までやってきた。
俺は懐から干し肉を取り出していた。
だが、その油断は俺を死地に送る。
ニアの右手が動いた。
一瞬見えたそれは光り輝くなにかだ。
何かが首に迫った!
***
ズルズキン
「へっへっへ、よく分からねぇが男一人殺して金貨10枚。こんな美味い仕事はねぇ。しかも例え失敗しても俺にはダメージはない」
ズルズキンの悪巧みはこうだ。
元々得体の知れない相手だが、殺しの依頼を受けたズルズキンは、怪しいと思いながらも金貨10枚に目を眩ませた。
しかし、得体の知れない依頼をただで受けるほど馬鹿ではなく保険を掛けたのだ。
それがニアだ、この街では特に最下層にいるゾロアの娘。
ゾロア種はその特性により、この世界では迫害の対象となっている。
それはあまりに得体の知れない力に不信と恐怖を覚えたからだ。
だからこそ、そんなニアをズルズキンは仕込んだ。
今やニアはズルズキンの言いなりだ。
今頃既に仕事は終わっているだろう、そんな風に楽観視していると。
?
「アーアー、ドーモ、殺害は出来ましたか?」
ズルズキン
「な、なんだテメェは!?」
突然仕事の事と思われる事を言った男を見た瞬間、ズルズキンは身を竦ませた。
そこに立っていたのは全身を拘束具のような黒タイツで覆い、目を糸で縫合して開かないようにして、更にチャックで出来た口をこれまた入念に縫合したポケモンだった。
あまりのおぞましさにズルズキンの身の毛が弥立つ。
?
「アー、申し訳ありません。自己紹介がまだでしたねー。ドーモ、ジュペッタのボーロンです、エー」
ズルズキン
「ア、アイエ……」
ズルズキンはこの変態極まりない男にただ呆然とするしかなかった。
例えジュペッタとしてもここまで不気味な物なのか、それは底知れない恐怖だった。
ボーロン
「で、殺害の方は、エー」
ズルズキン
「あ、ああ! それなら今頃終わっているはずだぜ!」
ズルズキンはあまりの事態に未だ戸惑いを隠せないが、相手がビジネスの相手と分かれば、気丈さを奮い立てた。
ボーロン
「ホー? はず、とは?」
ボーロンが迫る度に、ズルズキンは一歩後ろに下がる。
いくら見ても不気味さが拭えない。
出来るならさっさと報酬を貰ってとんずらしたかった。
しかし曖昧な答えにボーロンは追求する。
ズルズキン
「ぞ、ゾロアの小娘に暗殺させた! アイツは俺の命令ならなんでも聞く!暗殺だって楽勝だ!」
ゾロア、その名前を聞いてボーロンは反応した。
ボーロン
「ホー、あのゾロア、原罪の血、騙すという事に賭けては世界一の種族ですか、エー」
ズルズキン
「ああ、だからターゲットに近づく事も容易だ……ところで報酬の件なんだが」
ボーロン
「報酬?」
ズルズキン
「金貨10枚の約束だぞ!」
金に異常な執着を見せるズルズキンにボーロンは思い出したように相づちを打つ。
ボーロン
「アー、そうでしたねー。では、報酬を、エー」
やっとビジネスが終わる。
こんな不気味な奴二度と御免だと、ズルズキンは安堵した。
ボーロンはズルズキンに近寄ると、懐から。
ドス!
ズルズキン
「え?」
ボーロンが手を出した時、報酬を受け取ろうとしたズルズキンの手に何かが刺さっていた。
一瞬ズルズキンは何が起きたのか分からなかった。
それはボーロンの畳針だった。
その長く鋭利な針が容易にズルズキンの掌を貫通していた。
ズルズキン
「ぎ、ギヤァー!?」
それは遅すぎる悲鳴だった。
畳針を突き刺したボーロンは見えぬ表情の奥で愉悦に震えていた。
ボーロン
「アーイイ! 貴方、いい悲鳴です、もっと聞かせて欲しい!」
更に10本、ボーロンの両手に挟まれた畳針がズルズキンを襲う。
ズルズキンは目を潰され、両腕、両足、胴体に畳針が貫通していく。
さながらハリネズミのオブジェでも作るが如くボーロンはズルズキンに畳針を突き刺していった。
ズルズキン
「ぎゃ、ギャアー!!? な、何で俺がこんな目に……!?」
ズルズキンは既に両手両足の腱を破壊され、惨めに逃げることさえ許されず、この理不尽を呪った。
しかしボーロンはそれさえ身に余る幸福感で身じろぎさせた。
ボーロン
「貴方中々いいですねー、生命力、イイー! わたくしね、呪いが好物なのです、エー。だから一杯恨んでください、エー」
ズルズキン
「う……え……あ」
しかし身体に40本ほど針を刺された辺りでズルズキンの反応は鈍くなっていく。
多少のダメージならば脱皮で回復できる程耐久力のあるポケモンでも、陰湿にちまちまと針を刺され続け、遂に命の灯火が消えようとしていた。
ズルズキンはなぜ自分がこんな目に遭わないといけないのか理解出来なかった。
今までゾロアの小娘を顎で使い、人生を自分なりに楽しんでいただけだ。
だが、その答えがあるのなら、それは因果応報。
やがてその意味さえ解せずに、ズルズキンは、死んだ。
ボーロン
「アーアー、死んでしまいましたかー、でも良かったです。最高にエクスタシー! 貴方の呪いでわたくしビンビンです! エー」
やがて、異様な興奮感に包まれていたボーロンもかつてズルズキンだった物に見飽きると、次のターゲットを目指した。
次の狙いはゾロアの娘。
ああ、次はどんな声で鳴いてくれるのか、このサイコパスはそれだけを考える。
***
空気が静止していた。
俺の時間がどこかに吹き飛んだのは間違いないだろう。
だが、時間が戻ってきた時、俺はまだ生きていた。
茂
「ニア……お前暗殺者だったのか?」
今も首に突きつけられた白刃。
目に止まらない不意打ちで放たれた短刀の一撃は完全に俺の首を刎ねていた筈だ。
にもかかわらずその白刃は寸前で止まったのだ。
茂
「でも、暗殺者って、震えた身体で務まるのかな?」
ニアの身体は震えていた。
俯いた顔からは何も見えず、ただ刃が突きつけられている。
俺は刃を押しのけようとするが、ニアはそれを拒むように力を込める。
結果刃は俺の薄皮一枚の所に留まった。
ニアは俺を殺しに来た。
でも殺せなかった、それがこの震えだ。
きっと今ニアの中で葛藤があるのだろう。
そこからはただ、哀しみしか感じなかった。
茂
「辛いなら、泣いてもいいんだぞ?」
俺は優しくニアの頬を撫でた。
その言葉を聞くと、ニアは大粒の涙を零した。
ニア
「えぐ……う、アアアアアアア!」
泣いた、あまりにもそれは幼い涙だった。
白刃が地面に落ちた。
今そこにいるのは暗殺者ニアではない、ただの女の子のニアだった。
俺はニアを抱きしめた。
ニアは俺の胸の中で何時までも泣いた。
茂
「よしよし、俺はお前の味方だ。いくらでも泣いていいんだぞ、俺がついてる」
ニア
「えぐ! ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」
ニアは泣き泣きながら何度も何度も謝った。
俺はその度にその頭を優しく撫でる。
この子はやっぱり茜に似ている、だからなんとなく対応の仕方が分かった。
俺は茜の親父のような立場だ、ならこの子の親父のような物にもなれるんじゃないか?
ニア
「私、お兄ちゃんが好き! 大好き! だから出来ない……」
それは誰に対する言葉だろうか。
まるでそれは神への謝罪に思えた。
俺は地面に落ちた白刃を見る。
それはドスと呼ばれる奴だ。
茂
「一体何があったんだ、昨日はこんな事なかったろ」
ニア
「め、命令されたの……お兄ちゃんを殺せって」
茂
(命令された……暗殺をか)
しかしこれは偶然か?
暗殺者ならこの子である必要性がない。
俺を暗殺するとなると帝国しか思い浮かばない。
なら、それこそ暗殺者なんてごまんといるんじゃないのか?
ボーロン
「アーアー? あれー? なんで生きてるんでしょうか? エー」
茂
「うわ!? キンモッ!」
ニア
「ッ!」
思わず某重巡洋艦みたいな事を言ってしまう。
だ、目の前に現れたのはそれ位筆舌に尽くしがたい化け物だったのだ。
まず身長は俺と同じ位、その上で全身タイツの上から拘束具が無数に張り付いている。
はっきり言ってエキセントリックとかサイケデリックとか、そんなレベルじゃすまない。
目と口も糸で縫合しており、辛うじて口のチャックでなんのポケモンかは分かった。
ボーロン
「ドーモ、初めまして、ボーロンです。エー」
ニア
「こいつ……お兄ちゃんを狙ってる?」
ニアは俺から離れるとキッとボーロンを睨んだ。
ボーロンは見えているのか正確にニアの方を向くと。
ボーロン
「アーアー、もしかして、貴方がゾロアさんですか?」
茂
「ゾロア?」
俺は不思議に思ってニアを見た。
ニアは意を決してその姿を変え始めた。
ニアの身体が蜃気楼のように揺らめくと、イーブイの姿が消えて、ゾロアの姿がその場に現れる。
ニアのその姿はボサボサの黒い髪に一部だけ紅いメッシュが入っている。
同様に体格に比べ大きなキツネのような尻尾も黒い。
身長は150センチ弱、顔はまだ童顔で茜と同様の幼さが出ている。
そして。
茂
(くそ、結構胸あったのか)
イリュージョンしている時は普通に貧乳のイーブイだったのに、イリュージョン恐るべし。
ニア
「この醜い姿が私の正体……幻滅したでしょ、お兄ちゃん」
ニアはその自嘲的な声は本当に俺に見せたくなかったようだ。
あるいは贖罪のつもりで姿を見せたのかも知れない。
茂
「俺と同じ髪色だな、奇遇じゃないか!」
ニア
「……え?」
俺はここで本人の気概を認める訳にはいかない。
こういう子が当たり前に被害者になるって言うのは我慢ならん!
俺はなるべく笑わせるつもりで、語った。
茂
「ほら、俺はさ。別にゾロアだからってニアが嫌いにゃならんよ」
ニア
「でもイーブイの方が好きなんでしょ?」
茂
「そ、それはそれで好きだが……あーもう! 俺はニアが好きだって言ってんだ!」
もうまどろっこしくて俺はニアに想いをぶつけた。
あまりにも直球過ぎたか、ニアはキツネ耳をピンと立てて頬を真っ赤にした。
ボーロン
「あの……ちょっとこっちいいですかー? エー」
おっと随分律儀に待っていてくれたみたいだ。
もしかして意外に悪い奴じゃない?
まぁ、絶対あり得んだろうけどな!
茂
「信じたくはないが、お前も帝国兵なのか?」
ボーロン
「エー、そうです、エー。帝国軍特殊任務部隊、暗殺者ですね、エー」
やはり帝国軍か。
帝国め……こんな変態暗殺者抱えて、人事部大丈夫か?
ニア
「暗殺者……!」
ボーロン
「エーエー、当然知られた以上貴方も死んで貰いますので、あしからず、エー」
ボーロン狙いは当然俺を殺すこと。
意外と俺のことがもうここまで知られている事が驚きだが、しかし俺の所在がバレている?
俺はその状況下で冷静に考える。
なぜ、物質の入手に来た先で暗殺者がいるのか。
それは完全に俺の動きを察知したやつにしか出来ない。
それってどういうことだ?
ニア
「お兄ちゃんはやらせない!」
ニアは足下に落ちていたドスを手にとり構えた。
その仕草は拙く、一抹の不安を覚える。
ボーロン
「エー、貴方は活きが良さそう。早速鳴いて貰いましょう!」
ボーロンはそう言うとどこからともなく何かぶっとい針を取り出した。
もしかして畳針か?
ボーロンはそれを指に挟むと、投げた!
茂
「よけろ、ニア!」
ニア
「うん!」
ボーロンは目にもとまらぬ投擲を見せてくれる。
しかし全く意表を突いた技ではない。
これで何処が暗殺者なのか、俺は二人の動きを見ながら冷静に分析した。
ボーロン
「うーん。良くない。良くないですねー。貴方、危険です」
茂
「!」
突然ヘイトを無視してボーロンが俺を見た。
まるでニアと戦いながら戦力分析でもしていたように。
ボーロン
「貴方、気付いていない? 自分の高い分析力、采配。エー、危険な才能です」
ニア
「余所見を!」
ニアが飛びかかり、ボーロンに斬りかかる。
俺の時と違い迷いのない動きは震えもない。
だが、俺からすればそれは迂闊だった。
茂
「身を捻ろ!」
ニア
「ッ!?」
直後、脇見をしていたにも関わらずボーロンはニアの腹を針で裂いていた。
なんとか俺の声に反応したニアは空中にも関わらず、身を捻って直撃は避けていた。
茂
「迂闊に飛び込むな、回避出来なくなるぞ」
ニア
「ご、ごめんなさい」
俺はニアの無事を確認するとひとまず安堵した。
しかし問題はボーロンだ。
ギャグみたいな見た目とは裏腹にかなり戦闘力が高い。
そして見た目に反して冷静だ。
俺のことをまるで全て見透かしたかのようだ。
茂
(俺の才能?)
そう言えば、何度か感じたことがあった。
突然時間が鈍化した気がして、その間に凄く思考が纏まる。
まるで今も俯瞰視点で戦場を見ているような感覚だった。
ボーロン
「わたくし、任務失敗出来ない、これ凄く痛いけど……仕方ない」
そう言ってボーロンは右手でクルクルと針を回す。
針が光の反射で幻惑効果を上げる中国拳法ってのは聞いたことがあるが。
俺は相手の動きを見逃さないように注視するが、相手はその上をいった。
ドス!
それは誰に向けられた針でもない。
ボーロンは自分の胸に針を刺したのだ!
ニア
「こいつ……突然なんで……」
ニアが不思議がる。
しかし俺は冗談じゃなかった。
茂
「ぐああああああああ!?」
俺は全身を苛む激痛に地面を転がった。
俺は当然これを知っている。
食らうのは初めてだが、こんなにやばいとは。
ニア
「お兄ちゃん!? しっかりして!」
ボーロン
「もう手遅れでーす……わたくしも凄く痛いけど、これは相手に死の呪いを与える呪術です。エー」
茂
(こいつ……技が使えるのか……!?)
これは間違いなく呪い。
ゴーストタイプ以外が使えば自分の素早さを犠牲に防御と攻撃を上げるが、ゴーストが使えば相手に絶大な継続ダメージを与える。
ゲームなら交換すれば終わりだが、現実ではそうはいかない。
茂
「聞けニア……! あの技は自分の体力も見た目以上に失っているはず、アイツを倒すなら今だ……!」
ニア
「でも……お兄ちゃんが!」
茂
「推測だが、戦闘終了、つまりアイツを倒せば呪いは消える……!」
ボーロン
「その通りですねー、でも、今までそれを出来た者はいない。エーハイ」
ニア
「……分かったお兄ちゃん」
ニアは立ち上がった。
ギュッとドスを握ったニアはボーロンを睨む。
ボーロン
「おお、怖い。でもやられない。その男殺さないと怖いもの」
ボーロンはそう言うとだばだばと情けない走り方で逃げ出した。
ニア
「逃がすか!」
***
私はあの変態を追いかけた。
変態は見かけによらず素早い。
でも、確かに相手の動きは鈍っていた。
私はお兄ちゃんの無事を祈りながら変態に急接近する。
ニア
「はぁ!」
キィン!
私は地面すれすれを走り、下半身を切りに掛かるが変態は針を使って防御する。
しかしこの間合い、取った。
私は直ぐさま連撃を仕掛ける。
ボーロン
「あー、いい憎しみですねー、エクスタシーして絶頂してしまいそう!」
ニア
「黙れ変態!」
三連撃、胴体を切りつけるが変態は最小限の動きでダメージを抑えた。
更にそのカウンターで針が私の肩を襲う。
ニア
「アアッ!?」
左肩に刺さった。
その瞬間、変態の愉悦の表情が見て取れた。
変態は確かに私より強い。
でも……それがどうした。
ボーロン
「あはは、やっぱり良い鳴き声! 実にイイ!」
ニア
「だま、れ!」
ボーロン
「アイエ?」
私はこいつが憎い。
でも、それ以上にお兄ちゃんの無事を想う力が、私を奮い立たせる。
普通にやったら技量差は覆せない!
私は水平に短刀を振るった。
当然変態はこれを皮の一枚を切らせる程度に避ける……筈だった。
ドス!
ボーロン
「アイエ?」
通った!
変態はなぜ自分の肩に刃がつき立っているのか理解できていない。
だが、直ぐにダメージが変態を襲う。
私は刃を抜いた。
ボーロン
「アイエェェェ!? ナンデ!? ナンデ肩に!?」
ニア
「お前は強い……でもお前は殺す、これは絶対だ」
ボーロン
「ア、アイエェェェ!? た、助けてー!?」
変態は肩から血を吹き出しながら醜く逃げ出した。
私はアイツを殺すという確定事項を持って自分を暗殺者に昇華させる。
私はイリュージョンを使い、周囲に溶け込みながら追った。
***
ボーロン
(あ、あり得ない! わたくしがこんなダメージを受けるなんて! アイツ、イリュージョンで自分の攻撃を『偽装』した! 腹部はイリュージョンだった!)
ザク!
ボーロン
「え?」
わたくしは突然足の痛みを覚えた。
気が付くと足の腱がばっさりと斬られている。
その激痛は気を失い、痛みで何が起きたのか理解できない。
しかし、目の前の空間がゆがむ。
まるで光学迷彩を纏ったように、そのシルエットが徐々に浮かび上がった。
そこにいたのは自分を本気で殺しに来た冷酷な暗殺者だった。
ニア
「無様だね、変態」
ゾロアだった。
この悪魔のような存在は徐々に自分の命を刈り取りにきている。
ボーロン
「な、何故です!? 貴方がわたくしを襲う! 理由が分かりません!」
わたくしは必死に命乞いした。
このままではあの男を殺せないばかりか、自分が死んでしまう!
だけど、この冷徹な暗殺者は。
ニア
「簡単だ、お兄ちゃんは私の全て、貴方はお兄ちゃんを殺そうとした。だから殺す」
それはあまりに冷酷な目だった。
そして後悔した。
あの男が導き、自分がこの少女を本物の暗殺者に覚醒させてしまった事を。
ザッシュウ!!
それはあまりにも鮮やかだった。
少女の短刀がわたくしの心の臓を正確に貫いた。
少女が短刀を引き抜くと、血が噴き出して止まらない。
ボーロン
「ジ、エンドですねー、エー」
***
茂
「う……?」
俺は気が付いたら激痛で気を失っていたらしい。
気が付いたら周囲に人だかりが出来ている。
ニア
「お兄ちゃん、気が付いた……?」
茂
「ニア……?」
顔を上げると優しく微笑んだニアがいた。
ああ、なんか柔らかくて暖かい感じがすると思ったらニアが膝枕してくれていたのか。
茂
「て……なんで膝枕!?」
俺は慌ててニアから離れる。
しかし、途端に身体がふらついた。
ニア
「お兄ちゃん、まだ安静にしてないと」
そう言うとニアはその豊満な胸で俺を包んだ。
その、嬉しいんだけど。
茂
「皆見てますよ?」
よっぽど変な光景だったのか野次馬が一杯いるのだ。
凄く恥ずかしいのだが、当のニアは。
ニア
「関係ない。お兄ちゃんの事好きだもん」
茂
(……この子、本当はこういう子だったんだな)
俺は改めてニアと言う人物を知った。
ニアは茜に似ているようで似てない。
やっぱり、別人なんだなぁ〜。
突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第5話 暗殺者の覚醒 完
第6話に続く。