突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第二部 突然始まるポケモン娘と旅をする物語
第3話 ナギー

突然始まるポケモン娘と旅をする物語

第3話 ナギー


 「ども、ジェットさん、元気?」

ジェット
 「貴方はあの時の……」

診療所に入ると、既に処置は終えたようで、甲冑を脱ぎ、包帯を巻いたジェットさんがベッドに横たわっていた。


 「常葉茂だ、訳あってこの軍に協力している。俺が欲しいのは情報だ、ナギさんってのはどういう状況でどこにいる?」

俺は多少相手を睨みつけたかもしれないが、あくまでも部外者の俺には出来ることは少ない。
まして相手は俺を簡単に信じられるだろうか、ジェットさんは俯くと、やがて静かに語り出した。

ジェット
 「隊長は敗戦濃厚のなか、殿を務め、撤退戦を成功に収めました……しかし帝国は隊長を生け捕りにしたのです。隊長の実力は帝国にも一目置かれ、帝国に力を貸すよう強要されたようですが、頑なに拒み、ついに処刑されることに」


 「処刑ってのは何処で行われる?」

ジェット
 「ここより南方、シメジの村で……」

俺は拝借した地図で場所を指して貰うと、かなり近くにある事が分かる。

ジェット
 「お願いだ! 隊長を救ってくれ! そのためなら俺はどうなってもいい!」

ジェットさんは俺の身体を掴むと、そう必死に懇願した。
だが、俺はあくまでも冷静に判断し、首を横に振る。


 「下手な事は言わん方が良い、経験則だがろくな事がないぞ」

相手はかなり若い兵士である事が分かる。
人生経験なら俺の方が上だろう。
俺は地図を持つと診療所を出た。
その際、助けるなんて無責任な約束はしない。


 「あくまで俺が行うのは偵察、だ」

そう言葉にして自分の行動を定める。
断じて自分は死んでも構わないから動くのではない。
最も責任から遠い位置にいるから行うのだ。



***



ナツメイト
 「どうして皆分かってくれないの……?」

私は誰もいない司令室で涙した。
私は断じてお飾りじゃない。
皆は私を象徴にして戦争の正当性を持とうとしているのかも知れないけど、私は戦ってみせる。
死ぬために戦うんじゃない。
でも、もし伝説のポケモントレーナーが存在するなら、私が神話の乙女になりたい。

ナツメイト
 「茂様の馬鹿……どうして分かってくれないの?」

茂様が伝説のポケモントレーナーなのは疑わない。
謎めいた彼こそが間違いなく救世主となる。
でも、だったらなぜ助ける事を否定するのか。
もしかしたら私は全て勘違いしている?
あの時、たまたま1回まぐれで勝てた事を勘違いしている?
違う……! あの時私の中で世界が変わった!
この人と一緒なら世界を救えると本気で思ったんだ!

だからこそ……あの人にだけは否定して欲しくなかった。

ナツメイト
 「茂様……え? 茂様?」

私は司令所の窓から茂様を見た。
茂様は地図を持って拠点から出ていこうとしている。

ナツメイト
 「どうして……まさか!?」

まさか、あの人は迷惑を掛けまいと、一人でナギーを助ける気じゃ!?
私は慌ててテレポートした。



***



ナツメイト
 「茂様!」


 「ファ!?」

突然目の前にナツメイトが現れた。
決して前方不注意じゃない。
テレポートして来たんだ。
ナツメイトはムッと口角を上げると、両手を腰に当てる。
ちょっと巨乳だからといって強調してからに!

ナツメイト
 「茂様、地図を持って何処へお出かけでしょうか?」

声は穏やかだがナツメイトの奴、完全に怒ってるな。
さて……どう説明するか。

ナツメイト
 「因みに読心しますから、嘘ついても無駄ですよ」


 (ぐ……流石エスパータイプ!)

初代エスパー1強の帝国を築いたのは伊達じゃないな。
俺は観念すると、正直に言うことにした。


 「分かった、言う! シメジの村だよ」

ナツメイト
 「ナギーを助けに行くのですね!?」

ナツメイトは目を大きく輝かせると、身を乗り出した。
俺はそのまま前のめりに倒れてきそうなナツメイトに両手を突き出し止め、あくまでも現実的な目的を言う。


 「あくまで偵察だ」

俺一人でそんな大それた事が出来る訳がない。
俺に出来ることは偵察が限界だ。
それもあくまで素人の範囲。
しかし、こんな話を知っているか?
ノルマンディー上陸作戦を成功に導いたスパイの話。

ガルポというスペイン人はナチスドイツとイギリス連合の二重スパイだった。
彼はどちらの出身でもない孤独なスパイだったが、数々の功績によりドイツから鉄十字賞を、イギリスからナイトの爵位を受けるに至った。
そんな彼は決して軍人ではない。
義憤に満ちた民間人だったのだ。

決してKGBだのMI6だのが優劣を決めるのではない。
民間人でも出来る範囲で戦果は上げれるという事だ。


 「助けるにも詳細情報が必要さ、つまり助けるための下見」

ナツメイト
 「う〜……助けられるなら助けるに越した事ないのに」

しかしナツメイト不満そうに頬を膨らませる。
そんな簡単にいくならもうとっくに誰かが助けているだろう。
出来ない事を出来るようにするってのは簡単じゃない。


 「そういやテレポート使えたのな」

ナツメイト
 「あ、はい。正確には思い出した、ですけど」


 「思い出した?」

ナツメイト
 「私たちポケモンが技を使わなくなってもう何百年も経ちます、皆自分たちが技を使えた事を忘れてしまったんです」


 「だから、森を通って逃げていたのか」

テレポートが使えるなら、ゲームのケーシィよろしく捕まえるのも一苦労の筈だからな。
しかし、待てよ?
だったら技を使えるナツメイトってかなり重要な存在じゃないか?
俺はナツメイトをジーと見ると、ナツメイトは照れくさそうに体をモジモジさせる。

ナツメイト
 「えと、なんでしょうか?」

俺はイマイチ頼りないナツメイトを見るが、今目の前にいるのは戦術級兵器同然のポケモン娘なのではないか?
もしかしたら俺は彼女を過小評価し過ぎているのかもしれない。


 「シメジの村の近くにテレポートできるか?」

ナツメイト
 「近くですか?」


 「中に突然現れたら、怪しまれるからな」

ナツメイト
 「やってみます!」

ナツメイトは目を閉じ、精神を集中する。
そして一瞬で空間を削りとるように俺とナツメイトが飛んだ。



***



一瞬の浮遊感。
俺は一瞬の間に違う場所に立っていた。
そこは村から300メートルほど離れた丘の上だ。
丁度見晴らしの良い場所で、村が一望できる。


 「木造の民家が20軒ほど、奥に大きな建物があるな」

ナツメイト
 「村長宅でないでしょうか?」

なるほど、村の一番偉い奴が良いところに住むのは基本だな。
まぁ小さいけれどこれも権力構造の縮図か。


 「村の様子……ここからじゃよくわからないな」

ナツメイト
 「それじゃ、潜入ですね!」


 (随分ワクワクした顔だな)

きっと立派に役に立てる事を誇らしく思っているのだろう。
何故か茜を思い出すな。
戦術級のポケモン娘なのに不安しか覚えないから、そこが茜に似ていて心配してしまうのかも。

ナツメイト
 「行きましょう茂様!」


 「ああ」



………。



潜入した村は外を出歩く村人も殆ど見当たらなかった。
だが、強制退去をくらったとかいうより、誰も外に出たくない……といった感じか。
悪い点を上げるなら自分たちは目立つという事、良い点を上げれば人の目が少ない……か。


 「処刑が執行された後って事はないよな?」

俺はなるべく村の死角を移動しながら半ば自分に問答するようにそう尋ねた。
ナツメイトは顔を真っ青にして。

ナツメイト
 「そ、そんなこと……!」


 「そこにいるのは誰だ?」


 (やばい、村人か、帝国兵か?)

俺は咄嗟に声のした方を見た。
最悪の場合一目散に逃げるつもりだ。


 「あんたたち、村の人間じゃないな」

そこにいたのは茶色い兎のような耳をした少年だった。
身長は俺に比べて相当低いが、少なくともそれがこの少年の種族として小さいかは分からない。
種の多様性が多いと、どこまで人間の感覚が当てはまるか不明だからな。
服装は異世界基準がわからんので何とも言えんが、旅人のように思える質素な物だ。

ナツメイト
 「貴方は?」

少年
 「なに、同じような者だろうさ」

どうやら、村人でも帝国兵でもないらしい。
同じ、と言うことは反帝国だと思われるが。

少年
 「俺の名はビート、この耳が指すようにホルビーさ!」

妙に爽やかな少年は兎の耳を持ったホルビー男だ。
ナツメイトは速攻で信じようとするが、俺はと言うと信じて良いものか分からない。


 「常葉茂、ポケモンとしてはわからん」

ナツメイト
 「えと、ナツメイトです。サーナイト」

ナツメイトの名を聞くとビートは驚いた顔をした。

ビート
 「ほう、こんな辺鄙な村にあの反帝国の長様が!」

ナツメイトとしては、あまり名が目立ちすぎるのは好まないのだろう。
実際ビートの視線も物好きを見る目だ。
俺はあまり長い会話は好まない、こういう時は単刀直入にいこう。


 「ここでナギという人物が処刑されると聞いたんだが、そっちでは何か掴んでいるか?」

ビート
 「ああ、あのねーちゃんか。事実らしいがなんでこんな辺鄙な村でなんだろうな……」

ナツメイト
 「何処に捕まっているか分かりませんか!?」

ビート
 「おいおい、アンタら、なんも情報ないのかよ」

流石に色々聞きすぎたか、ビートは呆れたように言った。
まぁ、まだ調べ初めて間もないからな。
諜報ってのもこうやって他人から集めるのも基本だ。

ビート
 「しょうがない、まぁこっちも収穫あったし、教えよう」


 (収穫? 姫さんの事か?)

ビート
 「この村、実は地下がある。あの町長宅の地下にお望みの騎士は捕まっているよ」

ナツメイト
 「地下……」


 「………」

情報を確かな物と仮定しよう。
地下となると、それ以上潜入は難しそうだな。
だが、この男は何処まで潜入していて、どこまで掴んでいるのか。
不自然なほど、正確に情報を掴んでいる気がして、俺は怪しんだのだ。

だが、もし全て本当なら、どう見る?
単純に優れたエージェントとみるべきか?
それとも……?


 「最後に聞きたい、アンタの所属は?」

ビート
 「反帝国、自由の翼だよ」

ナツメイト
 「自由の翼……ですか?」


 (心の臓を捧げよ? まさかな……)

ビート
 「まぁ反帝国なんて大小合わせたら200はある、知らんのも無理ないな!」

……これまた判断の難しい情報だな。
迷いなく自分の所属を言った物の、組織の実態は分からない。
せめてナツメイトが知っていれば、確定もとれたのだが。

ビート
 「もし本当に助けたいなら、急いだ方が良いぜ、執行は近いからな!」


 「ちょっと待てよ、執行日を知っているのか?」

ビート
 「ああ、後2時間って所だな」


 (おいおい、時間無さ過ぎだろう!)

言葉を聞いたナツメイトは迷わず突撃しようとするが、俺はそれを慌てて止めた。
幸い力に関しては俺以下らしく止めることは簡単だった。

ビート
 「俺はもう行く、それじゃ健闘祈るぜ!」

そう言うとビートは村を出て行くようだった。
俺はナツメイトを羽交い締めにしたまま、ビートを最後まで見た。


 (単なるお人好しの諜報員か、それともとんでもない大どんでん返しがあるのか……)

やっぱり話が美味すぎるんだよな。
捕まっている場所、執行される時間。
不自然なほど程、キッチリ揃った情報は、疑ったら全部崩壊するだろう。

ナツメイト
 「お願いします、行かせてください!」


 「落ち着け姫さん、迷わず敵陣に突っ込むな!」

いくら戦術級とはいえ、この暴走娘の性格はなんとかならんのか。


 「まずは建物の様子を偵察だ、突入するかはそれ次第だ」

俺はナツメイトを離すと、捕まっている町長宅に向かう。
なるべく、隠れるように動きながら中を調べるが、妙に人影がない。
駐屯している兵士は少ないようで、こっち側のVIPを警護しているには微妙な戦力だな。

ナツメイト
 「突入すれば、突破出来ませんか?」


 (……地下を無視すれば可能だろう)

ナツメイトが使えるのは最低でもサイコキネシスとテレポート、奥までたどり着ければ、即トンズラすれば良い。


 「ここから突入を判断するのは早計だな」

俺は内部に想定される戦力が分からない以上、手を出すのは危険と判断した。
ナツメイトも、納得はいっていないようだが踏みとどまってくれた。
いくらナツメイトに、この世界の者の大半が使えない技が使えるとはいえ、あのトウガがもしも掃いて捨てるレベルの雑兵なら、ナツメイトを頼った戦術はなんの価値もないだろう。
そんな危険にナツメイトを付き合わせる事が、俺は自分で許せない。


 (俺に戦える力があるなら、こんなに悩まないのにな)

個人で出来る範囲、それを越えたら待っているのは死だけ。

ナツメイト
 「! 誰か出てきますよ!」


 「隠れろ!」

俺は館から離れて、茂みに隠れる。
しばらくすると、正門が開いた。
中から出てきたのは甲冑を身に纏って、種族もよく特定できない兵士が二人だった。

兵士A
「配置転換だってな」

兵士B
 「処刑って今日だろ? それなのにあの女の周囲から目を離して良いのかね?」

兵士A
 「上からの命令だし、俺たち末端じゃ考えても仕方ないよ」

兵士達のたわいない雑談。
しかし、その中に妙なキーワードがあったな。
配置転換、妙に兵士の人数が少ないのはそのためか。
しかし兵士達の疑問も最も。
これじゃ、奪い返してくださいって言ってるみたいじゃないか。


 (それこそ罠……と、見るべきだが)

問題は罠の程度だ。
相手が自分のレベルで罠を組んでいるのなら多分、裏をかける。

ナツメイト
 「もしかして中に誰もいないんじゃないでしょうか?」


 「誰もって事はないと思うが、まぁ少ないだろうな」

とはいえ、どう考えても罠だろう?
その点をビートに聞きたかった所だが、もういない以上仕方がない。


 「俺が危ないと感じたら直ぐにでも逃げることを約束しろ」

ナツメイト
 「え? それって」


 「例え目の前で救えそうな状況でも、俺が駄目だといったら逃げろと言っているんだ」

俺は極めて冷酷な事を言っているだろう。
だが、ゲームならギリギリの負けでも許されるが、現実は違う。
俺はナツメイトは知っているが、ナギっていう騎士の事は知らない。
流石の俺も知らない騎士様に命を掛けられるほど狂人じゃない。

ナツメイト
 「……分かりました。茂様に従います」

ナツメイトは俯いて、暗い顔浮かばせながら承諾する。
あぁ、つくづく俺、ナツメイトの好感度下げているよな。
でも、嫌われようがこいつを殺す訳にはいかない。
俺と違ってこいつはこの世界に必要な奴だろう。


 「窓から侵入するぞ」

俺は少し自分が嫌になりながらも、まずやるべき事を行う。
まずは安全の確認、窓の奥に誰もいないのを確認し、次に窓の戸締まりを確認する。
まぁ、閉まっていてもナツメイトなら造作もないだろうが。


 「行けるな、よし」

俺は窓が開いている事を確認すると中に侵入する。
中は思ったより近代的な西洋建築であり、明かりはついておらず薄暗い。


 「問題は、地下室が何処にあるか」

索敵も忘れず、更に見取り図も無しに捜索ってのは難儀だな。
どっかの諜報員ならダンボールで潜入しちまうんだろうが、流石にこの世界にゃそもそもダンボールが無いか。

ナツメイト
 「こっちは大丈夫そうです」

ナツメイトは館の奥を探す。
ある程度、館を捜索しているとやはり気づくが、人がいない。
少ないじゃない、いないのだ。


 「これで罠じゃなきゃなんなんだよ」

ナツメイト
 「でも罠だとしてもあざと過ぎません?」

俺たちの意見を纏めると、俺はある一つの結論を手に入れる。
しかし、それはあまりにもご都合主義というか……。


 「敵に裏切り者がいる……それも部隊配置を変更できる高官が?」

言ってて一番無茶苦茶だな。
流石にそんな地位の高い人物が、裏切るってなると相応の理由があるはずだ。
それとも俺は何か見落としているのか?
……正直自信がないな。
見落としている可能性は高いか。

ナツメイト
 「あ、ここ、地下に繋がっているみたいです」

幾つか部屋を探すと、地下に続く階段を見つけた。
なんだかんだ言ってたが、もうここまで来ると乗り切るしかない。


 「俺が行く、姫さんは後ろを警戒しててくれ」

ナツメイト
 「分かりました」

俺が先頭で、ナツメイトは後ろ、慎重に地下へと進んでいく。
地下は石窟であり、薄暗いが明かりがついていた。
足音は細心の注意を払っているが、どうしても完全には消せない。
だが、階段の終わりが見えた頃、それも杞憂なのか簡易的な牢屋が見えた。


 「そこに、誰かいるのか……?」

疲れた女性の声だ。
こっちは気配を消しているのに向こうは気づいているらしい。

ナツメイト
 「ナギー!」

ナツメイトが声を聞くと牢屋に走り込んだ。
俺も後ろに続き、周囲を警戒するがやはり誰もいない。
俺は仕方なく牢屋の方を見ると、そこには痩せ細った女性の姿があった。

ナツメイト
 「ナギー……無事で良かった」

ナギー
 「姫さま……どうして貴方が……」

常葉茂
 「この姫さん、アンタを助けるのに我を忘れるもんでな」

結構制御するのは大変だったんだ。
意外に後先考えないから、ヒヤヒヤさせられっぱなしだった。
ナギーと呼ばれる女性は俺を見ると訝しむように。

ナギー
 「君は誰だ?」

ナツメイト
 「あ、この方は茂様! 私に力を貸してくれているの!」

常葉茂
 「訳あってな、あんまり危険な事に首は突っ込みたくないが、これも縁だ」

俺は自己紹介は中途半端に終え、牢屋の様子を見る。
流石に鍵は掛かっているらしく、一筋縄ではいかなさそうだ。

ナツメイト
 「茂様、任せてください!」

ナツメイトが集中を始めると、牢がガタガタと揺れ始める。
サイコキネシスで牢が無理矢理こじ開けられたのだ。
こういう所がやはり戦術級と言える部分だろうな。

ナギー
 「姫さま……その力は!」

ナツメイト
 「技よ、茂様のお陰で思い出したの」

ナギさんは驚いた顔をしたが、しかしポケモンとしての本能か、それ程取り乱した様子もない。


 「立てるか、無理なら手を貸すが?」

ナギー
 「い、いや……大丈夫だ」

牢屋の奥に入るとようやくナギさんの全身が見える。
美しく茶色い毛並みのロングヘアに、背中に大きな翼を持つ。
ジェットより更に大きな翼……恐らくピジョットなのだろう。
ナギさんは立ち上がるがフラフラで、見るに見かねて俺は肩を貸した。
身長は170位か、飛ぶためか体は細っている以上に軽いように思える。

ナギー
 「済まない、青年」


 「無理することが偉い事じゃない、俺の教訓」

俺はナギさんに肩を貸して来た道を戻る。
今度はナツメイトが前方を警戒して進む。
ナツメイトは前方を警戒しながら久し振りに再会したナギさんに懐かしむように喋りだす。

ナツメイト
 「王都が陥落するあの時、貴方が居なければ私の命はなかったわ」

ナギー
 「それが親衛隊の勤めですから……」

ナツメイトとナギさん、二人には俺には分からない積もった話があるのだろう。
気持ちナツメイトもナギさんも嬉しそうだ。
本当はもっと水入らずで話せる状況の方が望ましいのだが、今は敵地同然だからな、急いで出ないといけない。

ナツメイト
 「もうすぐ出口……っ!?」

1階の正門前に出た時だ。
正門がひとりでに開いた。
館に入り込む光の眩しさに目を眩ませていると、外に一団が見えた。


 「がっはっは! ちゃんとネズミが食いついてくれて嬉しいぞ!」

随分豪快な笑い声。
光に慣れて、ようやく全貌が分かるとそこには全身をスパイクアーマーで包んだ大柄な初老の男が立っていた。
違う、甲冑は着ているがそれのトゲは鎧じゃない。
2メートルはあろうかという大柄で筋骨隆々のノクタス男だ。
その周囲には種族の分からない統一感のない雑多な兵士達が剣を構えてこちらを睨んでいる。


 「やっぱり罠か……!」

まぁ予想通りではあった。
だが、予想以上じゃないだけマシか。

ナツメイト
 「茂様、任せてください!」

既に技を使いこなせるナツメイトは自信満々だ。
しかし果たして頼っても良いものか?
俺の中で時間が鈍化するみたいに、思考が巡る。

ノクタス
 「がっはっは! 威勢の良い小娘だ! だがワシの目的は貴様ら反乱軍の住み家を突き止めること! そのためにわざと餌を撒いて待っていたのだ!」


 (なるほど、つまりジェットの時点で罠は完成していたか)

ジェットが死なない程度に傷ついていたのは、はじめから誘導するためだった訳だ。
そしてナギさんは、初めから誘導するための極上の餌。
さしずめゴキブリホイホイに摑まったようなものか。

ナツメイト
 「仲間を売るつもりなどありません!」

ノクタス
 「そうか! ならばその後ろの二人は殺して貴様を餌としよう!」

ナギー
 「くっ……姫さま、相手をしてはなりません!」

ボロボロのナギさんはナツメイトを止めようと前に出たがるが、俺はそれを抑える。
ナギさんの貧弱さはナツメイト以上で、今じゃ自立して立つこともままならない。

ナツメイト
 「大丈夫、私は強くなったわ!」

ナツメイトが精神を集中させる。
強行突破する気だ。
しか、そこで俺の鈍化した時間は戻った。


 「駄目だ! そいつは悪タイプだ!」

ナツメイト
 「え!?」

ナツメイトがサイコキネシスをノクタス男に放つが、ノクタス男は眉一つ動かさない。
それどころか、ナツメイトの反応を許さない動きでナツメイトの懐に迫る。

ノクタス
 「温いな小娘! まるでなっていない!」

ドスッ!

ナツメイト
 「あぐっ!?」

ノクタス男はナツメイトの懐に入るとボディーブローを放った。
ナツメイトの身体がくの字に曲がると、地面に膝をついた。

ノクタス
 「がっはっは! 後ろの二人の方がまだ賢明なようだ!」

ナツメイトが一瞬でやられた。
正直この状況は最悪だな。
ナツメイトだけなら逃がせるかも知れないが、俺とナギさんはやっぱりやばいか。


 (姫さん、テレポートで逃げろ)

ナツメイト
 『駄目! それじゃ茂様を危険に晒してしまう!』

こっちは元々この世界に召喚された時点で危険だっつーの。
それに算段がないわけじゃない。


 (言っとくが、俺は妥協しているわけじゃないぞ、全員無事に帰るためだ)

ナツメイト
 『それってどういう?』


 「ナギさん、アンタも技を使えるんだろう? 暴風、あるいはエアスラッシュ? 見せてくれ!」

俺は肩を貸したナギさんにはっきり言って無茶振りを言っている。
だが、もう賭けるならここしかない。
技が使えるポケモンと使えないポケモンではその差は歴然だ。
だからナギさんに賭けるしかない!

ナギー
 「ふ、君は無茶を言う……だがやってみよう!」

ナギはフラフラの身体を動かすと、翼を大きく広げた。
翼長4メートルには達しそうな大きな翼、そして風が巻き起こる。

ノクタス
 「なに……これは!?」

ナギー
 「分かる、不思議だが使い方が分かるぞ!」

ナギの言葉に力がこもる。
風がやがて大きく膨らむと、館が大きくきしみ始めた。


 「やれ! ぶっ放せー!」

俺は一気に駆けた。
目指すはナツメイト!

ナギー
 「くらえー!」

風は既に台風の域に入った。
暴風が吹き荒れ、ノクタス男の後ろの兵士達さえ巻き込む。
俺はナツメイトを抱きしめ、地面に倒れ込んだ。

ノクタス
 「ぬ、ぬわぁー!?」

ノクタス男の身体が宙を舞った。
館より遙か上、10メートルは飛ばされる。
そのまま地面に激突すると、兵士達は皆動かなくなった。

ノクタス
 「ば、馬鹿な……死に損ないに何故これ程の力が……!」

常葉茂
 「アンタはエスパー技を無効にするように、飛行タイプは弱点なのさ」

俺はゆっくりと立ち上がると、土埃に塗れた身体を払う。
ナギをけしかけて、ナツメイトを巻き込むのは流石に気が引けたからな。
ノクタスは俺を見ると驚愕した顔で。

ノクタス
 「貴様……ただ者ではなかった……か」

ノクタス男はそれっきり動かなくなった。
正直寧ろ一撃で意識を奪えなかったのは誤算だと言える。

ナギー
 「はぁ……はぁ……!」


 「済まないナギさん! 立っているのもやっとなアンタに働かせて!」

俺は直ぐさまナギさんに駆け寄ると身体を貸す。
しかしナギさんは。

ナギー
 「何を言う、寧ろ感謝だ……この力を引き出してくれたのは君なのだから」

そう言うと彼女は気絶するように、俺の体に力無く倒れ込む。
しかしその表情には微笑みがあった。



………。



ビート
 「ふむ、ハリー将軍は敗れたか、ダシにしたのは悪かったけど、これで確定だな」

村から300メートル程離れた丘の上で一連の騒動を見ていたビートはゆっくりと立ち上がる。

ビート
 「まぁ旦那の言った通りになったかね」

そしてビートはそのまま村を立ち去った。
その少年のような顔には喜怒哀楽がない。
まるで茂達と面していたときとは真逆の顔がそこにはあった。



Re:突然始まるポケモン娘と旅をする物語


第3話 ナギー 完

第4話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/04/02(火) 10:44 )