突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第8話 ネガティブ


突然始まるポケモン娘と同居する物語

第8話 ネガティブ



美柑
「はっ、はっ……!」

朝5時、ボクの朝の日課が始まる。
まずは町内をランニング。
流石にこの時間から走って人は少ないが、この時間でも新聞配達とは出くわすこともある。

美柑
 (以前出会ったござる口調の人は凄かったな)

何が凄いって、身体能力もだけど(通常新聞配達は自転車かバイクなのにその人は走って)、何より胸だった。
ニンジャみたいな人だったけど、また出会うかな?

カラス
 「カーカー!」

後この時間帯から既に喧しいのはカラスだ。
山から下りてきたのか、既に電柱に乗って煩く鳴いている。
気のせいか、見られているような気もして電線に羽根を降ろしたカラスを見ると、目が合った気がした。
存在の希薄化により、ボクの事は普通の人なら気づかない位だけど、野生の動物は違う。

美柑
 (ボクって動物にはあんまり好かれないんだよねぇ)

犬に吠えられることなんてよくあるし、カラスに背中の剣を狙われている気がして穏やかになれない。
たまに猫にすら殺気を感じるから困る。
ただ、荒事なら問題はない。
天下泰平の世なら無用の力も身を守るだけなら活かしようはある。

急勾配を走り抜け、太陽の日差しを浴びる真夏の朝、既に街には活動の火が点りつつある。

美柑
 「……ふぅ」

町内を一周すると、ボクは足を止めた。
この姿になる前はこういうトレーニングはしたことがない。
ギルガルドは霊体であり、無機質なポケモンだ。
有機質の身体は不具合もあるが、今の自分によく馴染んでいる。

美柑
 「部屋は……あそこだから」

ボクはマンションの敷地内から4階の部屋を探す。
この時間帯なら流石に出歩く人もおらず、ボクは本気を見せられる。

美柑
 「たぁっ!」

ジャンプ、と言っても生物的なジャンプじゃない。
物体を通過して、4階バルコニーに着地すると、目の前には常葉と書いた表札がある。
ボクは玄関を開くことなく通過すると小さな声で。

美柑
 「ただいま帰りました」

中は当然薄暗く朝日は入るものの、それでも朝5時に違いはない。
キッチンには既に目を覚ましていた保美香さんの姿があった。

保美香
 「うん……やっぱり自分の味が一番ですわ」

キッチンでは薄明かりの中、保美香さんが主殿のお弁当作りに勤しんでいる。
丁度、スープを作っていたようで、小皿に盛り付けると、そっと口に含ませて満足そうに頷いていた。

美柑
 「試食ですか?」

ボクは近づくと鍋の中身を覗き込む。
見慣れない色と匂いがしたが、猛烈に食欲をそそる。

保美香
 「あら、お帰りなさいかしら」

美柑
 「なんですかそれ」

保美香
 「オニオンスープかしら」

オニオンスープ、言葉とは裏腹に非常に食欲そそる良い匂いに思わず腹の音が鳴った。

保美香
 「あらら、一杯だけですわよ?」

保美香さんはボクの腹の音にクスクス笑うと一杯だけ試食を許してくれる。
ラッキーと、ボクは有り難く頂いた。

保美香
 「コンソメに黒胡椒、仕上げに粉チーズで完成かしら」

ベースは溶けて半固形化しているタマネギで、それにコンソメを溶かして、黒胡椒をほんの僅かに散らす。
試食段階ではチーズは付いていないが、非常に優しい味だった。

美柑
 「保美香さんも、無事復帰ですね」

保美香
 「改めて自分の天才ぷりを思い知りましたわ」

そう言って「フッ」と前髪を搔きあげる。
それは以前のボクの卵焼きの事を含めて言っているのだろうか。
自分の料理だと正統すぎて食べられないと、あえて自分の見た事もない料理で物を食べる訓練した保美香さんは、今では自分の料理も食べられるようになった。
というか、一ヶ月夕食の僅かな食事しか食べず、よく持った物だと思う。
ボクだと多分1週間で倒れる気がする。

美柑
 「あれからちゃんと一緒にご飯を食べるようになったし、いい傾向ですよ」

保美香
 「同じ無機質系なのに、なんの疑念も抱かず食べられる貴方が羨ましかったですわ」

そう、ボクは食べるという事に疑念はなかった。
だから逆に保美香さんの苦しみを理解できなかったと言える。

保美香
 「丁度良いですわ、美柑もキッチンに入りなさい」

美柑
 「ぴやぁ? 手伝えばいいんですか?」

保美香
 「手伝いというより教授ですわ。と言っても基本中の基本ですが」

ボクは保美香さんはから渡されたエプロンを着衣すると、火元に四角いフライパンが出てくる。

保美香
 「卵焼きの正しい作り方を教えますわ」

……余程不味かったのだろうか。
保美香さんのお料理講座が始まってしまった。

保美香
 「まず、油は少し多めに敷きます」

美柑
 「多めってこれくらい?」

多めとか少なめって大嫌いだ。
そもそも普通が料理しない人間には分からないのに、何を基準にして多めなのか?
とりあえず大さじ一杯位の油をフライパンに敷くと、油の良い匂いが立ちこめる。

保美香
 「浸かるくらいで構いませんよ」

美柑
 「そんなに?」

ボクは保美香さんの指示に従い、油がフライパン一面に薄く油膜を作るほど注ぐと、保美香さんが止める。
ちょっとビックリだが、これで油の準備は完了だ。

保美香
 「次に卵を4個ボウルに開け、水150ml、和風の顆粒だしを少々」

美柑
 「えーと」

言われるがまま、作業を行っていく。
そのまま卵をかき混ぜると熱したフライパンに流し込んだ。

保美香
 「卵液は7割程度流し込み、手前側からひっくり返します」

その際無理せず菜箸を推奨された。
なんだかボクが作った時とは前提から違いすぎる。

保美香
 「残りを空いたスペースに流し込み、同様の手順で巻いていきます」

美柑
 「……出来た!」

それは、以前とは驚くべき程違っていた。
完璧とは言い難いが、これをボクが作れたという事が衝撃的である。
最後に成形して、まな板の上で粗熱を取ったら完成だ。
それを保美香さんが丁寧に切り分けると、口に運んだ。

保美香
「あむ、だんな様のお弁当には基準を満たしませんが、素人なら上出来ですわね」

かなり綺麗に作れた方だと思うが、それでも保美香さんの基準は厳しかった。
まぁ完全に保美香さんの命令通り作っただけだし、美しさという意味でも当然保美香さんには適わない。

美柑
 「ボクも食べていいですか?」

保美香
 「食べ過ぎなければ、かしら」

その後、保美香さんはどこ吹く風と卵を食べる僕を他所にお弁当から朝ご飯に至るまでを全て熟していく。
改めて見てみると、芸術的な美しさで保美香さんの作業には無駄が一切ない。
自身を天才だと称した事は驕りではなく本当だ。

保美香
 「……? どうしたのかしら?」

美柑
 「え?」

保美香
 「なんだか楽しそう……というか、こういう事に興味を示さなかった貴方がじっと見ているから」

美柑
 「ああ、なんだか見入っちゃって」

ボクには多分保美香さん程の料理人としての才能はない。
それでも、知らなかった事を知るというのは楽しい。
実際、見ることも勉強だというのなら、正に保美香さんは最高の教材だった。

保美香
 「ふふ、その気があるならこれからも教えて差し上げますわよ?」

保美香さんもそう言うのは満更でもないらしい。
このまま頑張ればそれなりの料理人にはなれるのだろうか。

保美香
 「美柑の良いところは、なんにでも努力出来る事ですわね。まぁそれ故に天才と凡人の差も現れる訳ですが」

美柑
 「結構、保美香さんってボクには辛辣ですよね」

主殿は当然として、茜さんや伊吹さんにも敬意を払っている気がするのになんだか不平等じゃないだろうか。

保美香
 (どうも、出来の悪い妹って感じがして、馴れ馴れしくなるのですよね)

……どうも、やっぱりボクって威厳がないのかな?



***




 「おはよう」

美柑
 「あ、おはようございます主殿」

午前7時、主殿の起床時間だ。
今日は茜さんが起こしに行ったのか、お腹にべったり抱きついての登場だ。
改めて親子のような二人であり、羨ま……ではなく微笑ましい。


 「今日は……洋食か」


 「ご飯ご飯♪」

主殿から離れて真っ先に着席する茜さん、相変わらずの食欲である。


 「はいはい。では皆さん手を合わせて頂きます」

最後に主殿が着席して、主殿の号令と共に食事が始まる。


 「白ご飯じゃなくてパンって……よくまぁこんな手間の掛かった事を」

保美香
 「そんなことございませんわ。これでも楽しくやらせて頂いていますもの」

今はしっかり着席して食べる保美香さん。
今日はじっくり見ていたけど、確かに保美香さんはきっとああいう家庭的な事が好きなんだろうと思う。


 「パン、ヒタヒタするの?」

茜さんは保美香さんがパンをスープに浸すのを見て気になるようだ。

保美香
 「ライ麦パンですので少しパサつきます。ジャムやチーズも良いですが水分を持たせるだけでも食べやすいかしら」

そう言って口に運ぶ。
何気ないが作法がしっかりしているというか保美香さんだけ食べ方が何か違う。


 「お前の雑学ってまじ、どこから来るんだよ」

呆れるというか尊敬するというか、主殿の目線が保美香さんに向かう。
ただし主殿はジャム派であった。

伊吹
 「ずず……このスープ美味しいねぇ〜」

保美香
 「伊吹さん、口喧しくはしませんが、音を立てるのは洋食ではマナー違反ですわ」


 「細けぇ事はいいだろ、公の場じゃねぇんだし」

保美香
 「は、出過ぎた事申し訳ございませんわ」


 「ご馳走様」

そう言って気が付いたら食べ終えていたのは茜さんだった。
相変わらず早食いである。
ボクも急いで食べ終えるが、アレには勝てる気がしない。


 「さってと、時間もあるから俺も行くかね」

そう言ったのは主殿だ。
いつものように気怠そうにネクタイを直すと、バッグを持って立ち上がる。


 「! ご主人様」

茜さんはあらゆる用事よりも優先するのはこの見送りだ。
尻尾を振って主殿を玄関まで追いかける。


 「おう、いつも通り見送りか」


 「ん、いってらっしゃい」


 「おう、行ってきます!」

これもいつもの光景だ、いつものように頭を撫でると主殿の出社が始まる。
これで茜さんも今日はご機嫌だ。
風切り音を出しかねない勢いで腰の尻尾が全力で振られている。

美柑
 「ちょっと出かけてきます」

伊吹
 「あれぇ〜? 朝練には早くない〜?」

まだチビチビ食べている伊吹さんを他所にボクは主殿を追いかけるように玄関を出て行く。
急げばまだ間に合うはずである。



美柑
 「あの、主殿!」

マンションのエントランスを出た時点で追いついた。
主殿は振り返ると驚いた様子で足を止める。


 「なんだ? もしかして忘れ物か!?」

美柑
 「あ……いえ、そうではなく、その」

ボクはなんとなく気まずく、言葉が中々出てこない。
主殿は首を傾げて訝しんだ。


 「? 一体なんだ?」

美柑
 「……その、駅まででいいので付いて行っても良いですか?」

……ボクは頑張って言葉をひねり出してもこれが限界だ。
主殿に自分の得意なことを一杯捧げられる保美香さんや主殿の寵愛を一身に受ける茜さんが羨ましくない訳がない。
でも、何か共通の話題があるわけでもないし、ボクの得意なことなんて役にたつ機会がない。
こうやって二人っきりにならないと接点すら生まれない気がした。


 「まぁ良い、駅までな」

美柑
 「は、はい!」

こうしてほんの十数分間の二人っきりの時間が作れた。


 「美柑って普段この時間は何しているんだ?」

美柑
 「あ、ボクはまず素振り200回を5セット、その後軽めのジョギングをしています!」


 「うぇ……体育会系だなぁ」

見るからにげんなりした姿を見せる主殿。
主殿は身長はある、ガタイそのものは良い。

美柑
 「主殿は何かしていることはないんですか?」


 「学生時代ならバスケットをしていたが、社会人にそんな余裕あるわけないからな……」

お陰で腹がな、と腹を擦る主殿。

美柑
 「あ、それがビール腹という奴ですか!」


 「美柑、俺はそこまで太ったつもりはない!」

美柑
 「ぴやぁ? 何か変なこと言いました?」


 (……こいつ天然で毒吐くよなぁ)

なんだか怒ったと思ったら呆れた顔をされた。
気が付くと人だかりが増えてくる。
もう少しで駅なんだと気が付く。


 「どうする、ホームまで来るのか?」

美柑
 「いえ……ボクはここで充分です」


 「そうか」

駅へと向かう主殿。
まだだ、あれを聞かないと。

美柑
 「あの!」

ホームへと進む中、もう一度主殿に振り返って貰った。
これ以上主殿に迷惑はかけられない。


 「? どうした?」

美柑
 「その……」


 「?」

美柑
 「い、いってらっしゃい!」


 「! ああ、行ってきます!」

ボクは手を振りながら極力笑顔で主殿を見送る。
その内心でボクは舌を噛んだ。

美柑
 (聞けるわけないよね……)

どんどん主殿の背中が小さくなっていく。
やがて主殿は喧噪に巻き込まれるように消えていった。

美柑
 (ボクって必要ですか……なんて聞けるはずないよ)

それは自分自身に対する評価だった。
もし聞いていたらどうなっていただろう。
主殿に必要ないと言われたらこんな風に笑ってられないよね。



***



美柑
 (必要か……必要でないか)

自分自身意味のない行為だと自覚してはいる。
しかし、元からネガティブ思考の自分では他人が思うより余程深刻だ。
これが伊吹さんなら、多分何も意識しないだろう。
いつもポジティブで人生を楽しんでいる感じがこっちにも伝わってくる人だから、きっとこんな疑問さえ抱かない。

美柑
 (誰かに相談するべきなのかな……)

でも、誰に相談すれば良いのだろう。
保美香さんなら、聞いてくれるだろうか……でも馬鹿にされるだけかもしれない。
茜さんならどうか、真面目に取り合ってくれるのかも分からない。
伊吹さんはそもそも会話が成立するのか?

美柑
 (駄目だ、そもそもネガティブ過ぎて誰にも相談出来る内容じゃない)

ボクは結局、いつも通り思考をそこで止まらせる。
劣等感なんてのは誰でも持っている物だと思う。
ただ、ボクの場合他の人より少し多いだけだ。
身長なんてのは直ぐには解決できないし、性格ももってのほかだ。

美柑
 「はぁ……」

深いため息が零れた。
キィ……とブランコが揺れる。
ボクは家の近くの公園で一人愚痴っていた訳だ。
これから朝の訓練をしないとなんだけど、今はやる気が出ない。
そもそも、有事に備えて身体を鍛えてもその有事が来ないなら意味がない。

少年
 「お兄ちゃん、そこで何してるの?」

美柑
 「! ボクは男の子じゃない!」

突然だった。
小学生低学年位の男の子がまじまじとボクを見ている。

少年
 「えー、ボクなんて変じゃん!」

美柑
 「うぐ……そういう事言う」

随分ずけずけとした生意気な少年だ。
見るとサッカーボールを抱えている。
サッカー少年なのか、しかしこんな小さな公園では満足には遊べないだろう。

美柑
 「少年、サッカーをしたいなら他を当たったらどう?」

しかし少年はボールを抱えると。

少年
 「この辺り、遊べる場所ないもん……」

そう言うと少年は俯いてしまう。
そう言えば聞いたことがある。
最近は子供が遊べる場所がどんどん減っているって。

美柑
 「そうか……世知辛いなぁ」

少年
 「お兄ちゃん、どうかしたの?」

美柑
 「……お姉ちゃんです。以後お姉ちゃんと言うように!」

少年
 「貧乳の癖に〜」

美柑
 「くっ!」

随分増せた事を言ってくる。
そりゃ身長も胸もないさ、でも年上相手にはもう少し礼節を持って欲しい。

少年
 「えい!」

サッカー少年はボールを地面に落とすと壁キックを始めた。
元々猫の額のような公園で、存在する意味があるのか分からない程誰も寄りつかない公園では思いっきりボールを蹴ることも出来ない。

美柑
 「楽しい?」

少年
 「別に……でも、ここしかないし」

少年も辛いのだな。
隣町まで行けば、サッカーも出来る大きな空き地があるが、少年には遠いだろう。
多分近隣の子供だろうけど、友達はいないのだろうか?

美柑
 「君、友達は?」

少年
 「……いない」

それを聞くと少年は暗い顔をした。

少年
 「俺、引っ越してきたばかりだから」

美柑
 「引っ越し……」

考えて見れば今は夏休み時期、引っ越してきたと言うことは二学期までは宙ぶらりんな訳だ。
なるほど、それならますます少年の遊び場がないのも事実。

美柑
 「よし。ならせめて可哀想な少年にお姉ちゃんが遊び友達になってあげよう!」

少年
 「えー? やだよ、恥ずかしいもん」

ほほう、恥ずかしいとな。
散々男の子扱いしておきながら、いざ女の子と遊ぶのは恥ずかしいと。
典型的な男の子ですなぁ。

美柑
 「ボクは美柑だ、君の名は?」

少年
 「……光輝、新央光輝(しんおうこうき)」

美柑
 「光輝君か、良い名前を貰いましたね」

光輝
 「そんなの分かんない」

少年は自己紹介が余程照れくさいのだろう、ずっと頬を掻いている。
多分女の子の扱い方が分からないのだろう。

美柑
 「よし、ボクが相手だ!」

そう言うと狭い公園の中でボクはサッカーボールを奪い取る。

光輝
 「あ!」

美柑
 「ふふ、取り返せるかな?」

ボクはボールを足で踏んで止めると、手で光輝君を挑発する。

光輝
 「よーし!」

光輝君は果敢に挑んでくるが、身体能力においてはボクは人間の比ではない。
ボールの扱い方には慣れていないが、そう易々とはとらせない。

美柑
 「光輝君、中々やりますな!」

光輝
 「お姉ちゃんこそ!」

ようやくお姉ちゃんと呼んでくれた。
狭い故に大した技は使えないが、少年は楽しいのだろう、全力で笑っていた。
そんな楽しい時間は過ぎ去るのも早い。



美柑
 「おっと、もうこんな時間だ……」

気が付けば正午を迎えていた。
少年もボクもすっかり無我夢中だった。

美柑
 「光輝君、今日はここまでだね」

光輝
 「うん……」

少年はやはり物足りないのだろう。
何分全力で遊ぶにも物足りない場所だ、仕方のないこと。

光輝
 「お姉ちゃん!」

美柑
 「うん?」

公園を出ようとすると、少年が呼び止める。
ボクはゆっくりと振り返った。

光輝
 「また遊んでよね!」

美柑
 「勿論です」

それ聞くと少年はパッと明るくなった。
不安が一杯の新天地で、友もおらず、遊ぶ場所もない。
少年には不安しかなく、そしてだからこそボクは希望なんだろう。

美柑
 (アレ……これって)

そこでボクはあること気が付いた。
ボクが必要とされている?
ああ、そうか。
必要にされるってこんな簡単な事だったんだな。

ずっとボクは誰かの必要になれるように頑張ってきたけど、それは違ってた。
ボクは光輝君に必要とされたくて、遊んだわけじゃない。
必要されるって、自分から望む事じゃないんだ。

美柑
 「また明日!」

ボクはそう言うと少年と別れた。



***



この時期夜が更けるのが遅い。
18時30分、まだ太陽は沈みきっていなかった。
そんな斜陽の中、人混みからあの方は現れた。


 「アレ……美柑?」

美柑
 「主殿、待っていました」

主殿が駅から出てくると私は笑顔で迎える。
これが茜さんなら早速抱きついていたことだろう。
流石にボクには気恥ずかしいのでそこまでは出来ない。


 「……美柑、良いことでもあったか?」

美柑
 「はい。主殿が今日も無事でした」

なんて半分嗜虐的な事を言うが、良いことがあったのは本当だ。
ずっと悩んでいた事の答えが分かったのだ。

美柑
 「一緒に帰りましょう」


 「そうだな」

ボクたちは歩調を合わせると、二人並んで帰路に着く。
他愛もない会話を交えながら、ボクは今朝聞きそびれた事を聞いた。

美柑
 「主殿、ボクは必要でしょうか?」

それを聞いた主殿はキョトンとしていた。
そして少し時間をかけて微笑みを浮かべると。


 「当たり前だろ、何言ってんだお前」

さも、当然と。
そうか、やっぱり簡単なんだな。
こんな馬鹿みたいな事を考えていたのってやっぱりボクだけだよね。

美柑
 「主殿、大好きです」


 「いきなり愛の告白かよ」

美柑
 「まぁそう捉えても構いませんが」

実際好きだという意味では間違ってはいない。
これからも主殿の傍にはいたい、それが女として尽くせと言うのならそうしよう。



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第8話 ネガティブ 完

第9話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/02/03(日) 17:27 )