突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第7話 保美香の不安

突然始まるポケモン娘と同居する物語

第7話 保美香の不安



保美香
 「ふんふんふんふん♪」

いつものように鼻歌を歌いながら保美香はキッチンに立つ。
お昼ご飯にも手を抜かない保美香の料理を私たちはまだかまだかと待っている。

美柑
 「お腹空きましたぁ……」


 「ご飯ご飯♪」

伊吹
 「保美香〜、キムチもお願いねぇ〜」

兎に角ウチの皆は好き嫌いも様々。
私は好き嫌いはないけど大食漢、はす向かいの電気ネズミ娘程じゃないけど。
美柑は動物性タンパク質を好み、特に鉄分の多いレバーが大好物だ。
そして伊吹は生粋のベジタリアン、巨体に見合わない小食だけど、一番食わず嫌いなのは伊吹かも。

保美香
 「はいはい。お持ち致しますかしら」

そしてそんなワガママオーダーさえも、笑顔で熟すのが我が家のホームキーパー保美香だ。
保美香は家事が大好きで、そして皆の笑顔を見るのがもっと大好きな奉仕を生き甲斐とした少し変わった子。
料理も完成したのか、保美香は大皿を持って来た。

保美香
 「今日のお昼ご飯はニラレバキキムチ焼きそばですわ」

三人
 「「「おぉ」」」

優に四人前はある山盛りの焼きそばに感嘆した。
皆箸を構えると、誰からでもなく食べ始めた。

美柑
 「いつ食べても保美香さんのご飯は全品です♪」

伊吹
 「でもさ〜、どうして〜いつも一緒に食べないの〜?」

伊吹の疑問も最もだが、それはもう日常だった。
誰よりも食べない女性保美香。
唯一席に着くのは晩ご飯の時のみ。
しかしその場でさえ、殆ど口にしている気がしない。

保美香
 「試食でお腹いっぱいですので」

美柑
 「そんな小食なのにあのプロポーション、現実は非情でありますなぁ」


 「でも、それだと伊吹もじゃ」

ベジタリアンでも伊吹は身長もご主人様より上だし、あの乳は超乳である。
もうそこに関しては考えたくないのか、美柑は頭を抱えた。
当人は何のこと? と、まるで理解していないようだけど。

保美香
 「ふふ、平和が一番……で――」

バタン!

突然後ろから大きな音がした。
驚いて後ろを向くと、保美香が倒れていた。

美柑
 「な!? しっかりして下さい保美香さん!」

青い顔をした美柑が保美香を抱きかかえる。
なんだか顔色が悪く、病気のようにも思える。

保美香
 「……ゥ」

微かに反応を返すが保美香の状態は良くないのが丸分かりだった。

伊吹
 「ベッドに運ぶよ〜」

伊吹も流石にこの事態には、普段のほんわかさも隠れ、真剣な表情になる。
伊吹は美柑から保美香を受け取ると、保美香をベッドに連れて行く。
私たちは呆然とするしかなかった。


 「……保美香が倒れた」

その無情な一言が、今の現状を例えていた。



***




 「我々は一人の英雄を失った。それは敗北を意味するのか? 否、始まりなのだ。諸君らの愛してくれた保美香は死んだ。何故だ?」

伊吹
 「いや〜、死んでない死んでない〜」

美柑
 「それより、これからどうするんですか?」

保美香が倒れた後、私たちはそもそも保美香の症状も理解していなかった。
病院に連れて行くべきかもと考えたが我々ポケモン娘が普通の治療を受けられるか分からない。
はっきり言って、保美香に依存しすぎた。

伊吹
 「皆〜、ここは私たちで出来る事するよ〜!」

正直どんよりを越えてお通夜ムードの中、音頭をとったのは伊吹だった。
お姉さんの自覚があるのか、この中で意外な行動力を見せる。
美柑なんて無能丸出しだし、私もさっきから混乱してトンチキな事をしているのに、まさかここで伊吹が頼れるお姉さんになるのか?

伊吹
 「皆〜、普段の保美香を思い出して〜。普段保美香は何している〜?」

そう言われて私達は普段の保美香の様子を思い出した。

美柑
 「ご飯の後は食器を洗っていました!」


 「洗濯物も取り入れてた」

伊吹
 「部屋の掃除も〜日課だねぇ〜」

皆が一様に保美香の動きを想像できた。
保美香は普段からルーチンワークで動いているから、逆にイメージしやすい。
それが分かると後は簡単だった。

伊吹
 「アタシは食器を担当するねぇ〜」


 「私は掃除頑張ります」

美柑
 「じゃあボクは洗濯物ですね」

皆の意見を合わせた。
それぞれが出来る範囲で保美香のしてきたことを体験する。


 「この悲しみを怒りに変えて、立てよ国民よ」

伊吹
 「だから死んでない〜」


***



伊吹
 「洗剤は苦手かもぉ〜」

保美香が倒れた後、アタシたちはてんやわんやだった。
顔を青くして美柑はオタオタするし、茜は茜で相変わらず何考えているか分かりづらい。
ただ、茜も意味不明の行動を見せていたから動揺しているのは確実だろう。
そんな中、アタシはこれでもお姉さんだから、保美香の代わりは無理だけど、アタシなりに頑張ることにした。

伊吹
「それにしても〜、洗う物って〜こんなに多いんだ〜」

あの後食べ終えた大皿を含めても、調理器具は全て洗わないといけない。
水タイプなら任せてのお姉さんだけど、洗剤入りは身体に悪そうで苦手だ。
ただ、そんなこと言っていたら、そもそも水自体が大の苦手の保美香はどうなるんだって話でアタシが泣き言を言うわけにはいかない。

伊吹
 (改めて保美香って凄いねぇ〜、これを片手間で熟していたのかぁ)

思い浮かぶのは保美香の姿。
彼女はよく働く女性だった。
皆が手を合わせても、彼女一人の労働力には見合わないかもしれない。
それほど皆保美香に依存していた。
茂君でさえそうだろう。
だからこそ、誰も今日のような日を想像できなかった。

伊吹
 (でも、妙と言えば妙なんだよね)

想像できなかった、それ自体は事実だけど……それじゃ保美香はどうなんだろう?
自他共に認めるほど保美香は完璧な女性だ。
自らの体調管理を怠るような女性では断じてない。

伊吹
 (だとすると、もしかして……?)

思い当たる事はあった。
確信はとれないけど、保美香が倒れた理由、分かった気がする。

伊吹
 (……ま、早いところ目を覚ましてよ、保美香)



***



美柑
 「ふえぇ……凄い量」

洗濯物を担当したボクは改めて5人分の衣類に絶句する。
改めて保美香さんの一日の作業量は凄まじい。
ボクの自主練より、余程辛いように思えた。

美柑
 (それにしても情けない、ボクは何をしていたんだ)

保美香さんが倒れたとき、ボクはパニックになっていた。
介抱の仕方も知らないし、それ以前に保美香さんの症状が分からなかった。
伊吹さんがいなかったら、本当に何も出来なかったかもしれない。

美柑
 「ボクは戦うために生きた」

しかしそれも泰平の世では無縁の話。
だけどこんなボクでもきっと何か出来る、そう思ったんだ。
初めて主殿を見たとき感動した。
主殿は保美香さんを暴漢から守るためにその身を使ったんだ。
主殿の行動は無謀であったかもしれないが、この人はボクの理想に思えた。
泰平の世では剣が必要でないならば、盾になればいい。

だけど、それがどうだ……ボクはなんの役に立っている?
保美香さんは立派だ。
主殿にだけでなく、ボクたちにまで手を抜かない保美香さんは正しくプロである。
主殿の代行者であり、同時に主殿とは違う彼女の思いがあった。

茜さんも自分自身を顧みず、傘を主殿に届ける大役をこなした。
伊吹さんも、ボクたちの陣頭指揮を今している。
皆立派だ、それに比べてボクはこれじゃただの骨董品だ。

美柑
 (駄目だ、ネガティブに考えるな。兎に角最善を尽くせ!)

ボクは顔をパン! と強く叩くと洗濯物を取り入れていく。
まずは見慣れたボクの服、そして同じく位なのになにか格差を感じる茜さんの服、そして服装からもプロポーションがイメージできる保美香さんの服。
そして伊吹……の。

美柑
 「これ……ブラジャー?」

あまりにも大きなそれは一瞬誤認しかけた。
そう言えば以前おっぱいが擦れて痛いって言ってたから保美香さんが買ってきてたんだ。

美柑
 「うわ……ボクの顔より大きい」

という事は伊吹さんの乳房はボクの頭部より大きい?
正直プロポーションに関しては保美香さん程高望みもしないけど、茜さん位は欲しいと思う。
でも、これは別次元だ。
伊吹さんのスタイルが欲しいかと言えばノーである。
これは羨ましいというよりは退く大きさだ。

そして最後……は。
ボクは正直何故、それを意識したのか分からない。
ただ、それを見るとそれしか見えなかったのだ。

美柑
 「主殿の……パンツ」

正確に言うならトランクスだが、それは無骨で硬いイメージを受ける。
確か保美香はいつも……。
ボクは殆ど無意識にパンツを手に取ると鼻元に近づけた。

美柑
 (あ、洗剤の匂い……)
 「て、何をやっているんだボクはーっ!?」

ボクは慌ててパンツを引き剥がす。

美柑
 「ち、違う! これは保美香さんのルーチンワークの再現であって、ボクにはそんな高度な趣味は……ああああああああ!!」

兎に角、考えるな。
意識すればするほどドツボに嵌まる。
ボクは籠に洗濯物を押し込むと、それ以上は考えなかった。



***



美柑
 「ーーーーーー!!」


 「……?」

ベランダから悲鳴のような絶叫が聞こえてきた。
洗濯物は美柑の担当の筈だけど……。


 「……きっと、大丈夫」

それより問題はこっちだ。
私は現在、不倶戴天の敵と相対していた。
その名は掃除機。
人の尻尾の毛を根こそぎ奪い、不快な音を出す悪魔の機械が私に立ちはだかる!


 「……大丈夫、出来る」

掃除機の動くところは毎回見てきた。
あのうるさい音も、初見よりは大分マシのはず。
私は意を決して掃除機のスイッチを入れる。
掃除機は振動と共にうなり声を上げた。


 「あんまり、暴れないで!」

放っておくと、暴れ出しそうだ。
私はしっかりと掃除機の手綱を握ると、掃除機は不快な音を出しながら仕事を遂行していく。
私からすれば悪魔のような機械だが、掃除機自体は誠実に働く。
頭の中で保美香の掃除の手順を思い出す。


 「……私、頑張る」

ご主人様と二人っきりの頃、私はきっととても手の焼ける子だったんだろう。
でも、保美香が来て、美柑が来て、伊吹が来て環境は変わった。
少しずつ、一歩づつ歩を進めるように、私は成長している。
自分が適応していくのが分かる。

気がつけば、掃除機の音が遠くなっている。
あれ程嫌だった音が、意識しなければ流せるようになっていた。


 「……こんな感じ?」

正直鑑定は保美香頼みだけど、一応に掃除機で掃くと、スイッチを切った。
掃除はこれで終わりじゃないし、この後もまだまだやることはある。
でも、普段これを保美香は一人でやっている。
負担を減らせるなら安い苦労だと思えた。



***



保美香
 「……う?」

気がつけば、白い天井が見えた。
何が起きたのか把握しないといけない。
周囲を見渡すとベッドに寝かされていた。

伊吹
 「あ〜、気がついたんだね〜」

妙に間延びした声、伊吹が近くに座っていた。

保美香
 「気がついた……?」

どういう事か、直前の記憶を呼び覚ます。
確かお昼ご飯を用意して……そして。

保美香
 「そう、倒れたのかしら。今何時でしょうか?」

自分が倒れた、その事実に気が付くと原因を分かりつつも、それを棚に上げる。
しかし、伊吹は真剣な顔を近づけると。

伊吹
 「保美香〜、一応聞くけど〜本当に、食べているの〜?」

保美香
 「……何が言いたいんですの?」

伊吹は珍しく怒ったような表情見せた。
きっとそれは怒ったと言うより心配なんだろうけど、押しの弱い伊吹にしては随分強気だった。

伊吹
 「……試食でお腹一杯って言うけど〜、誰もそれを目撃してないし〜第一、それで本当に足りるのかな〜?」

確信を付いてくる。
理解して遠回りに説明をさせようとしているのか、伊吹の顔はいつもより真剣だ。

保美香
 「……ご想像の通りですわ」

そう、本当は食べていない。
私は食べるという行為に忌避感を感じていた。
それは多分元がウツロイドすぎるのが原因だと思われる。
元のウツロイドが生物と言いがたいポケモンであるが故に、経口摂取に拒否感があるのだ。

伊吹
 「保美香らしくないねぇ〜、茂君に迷惑かける子じゃないでしょう〜?」

だんな様、その顔を思い出したら涙が出てきた。
泣くことが出来る、それこそが今は自分がポケモンと言うより人間である証だった。
自分が純粋なウツロイドならこんな悩みはなかったろうが、だけど人間じゃなければこんなにだんな様に尽くすことも出来なかった。

保美香
 「合わせる顔がありませんわ……」

伊吹
 「ねえ聞いて。アタシは乾燥が大の苦手だし〜、洗剤も苦手ぇ〜。茜なんて苦手だらけだし〜、美柑も自分一人じゃ何も出来ない〜」

保美香
 「何が言いたいんですの?」

伊吹
 「だぁかぁらぁ。苦手でも皆克服してきてるじゃ〜ん」

保美香
 「……っ! つまりわたくしにも克服しろと?」

伊吹
 「少なくとも〜、それが一番〜茂君を悲しませなくてすむかな〜ってぇ」

保美香
 「だんな様……」

そう、いずれだんな様にもバレることは分かっていた。
このままではだんな様を悲しませる。
でも、どうしても……。

伊吹
 「正直〜、アタシたちポケモン娘の問題って〜共有しづらいよねぇ〜、でもさぁ〜、人間的な部分なら、共有出来るって訳〜」

保美香
 「人間の部分、ですか?」

伊吹
 「えーい!」

突然、伊吹がわたくしの口に何かを押し込む。
甘い、初めての味がした。

伊吹
 「吐きそう〜?」

保美香
 「貴方、もう少し行動に脈絡を持って欲しいかしら」

伊吹は実際行動は遅い、しかし言葉程思考や動作は遅くない。
その妙なアンバランスは時折奇怪に見えるのだ。

保美香
 「……美味しい、ですわ」

伊吹
 「良かった〜、お菓子なんだけどねぇ」

保美香
 「……こうやって慣らせと、そう言いたいんですか?」

伊吹
 「多分〜?」

保美香
 「どうして疑問系ですの!」

伊吹の反応はテンションもテンポも違いすぎて対応しづらい。
正直痴呆なんじゃないかと疑いたくもなる。
しかし、彼女のやりたいことは理解できた。

そして、それを熟さないといけないのも分かる。

保美香
 「……分かっていますわ。栄養失調で倒れたなんてだんな様に知られたら無様なんてレベルじゃありませんわ」

第一にだんな様に心配を掛けてはいけない。
第二にだんな様に危害を加える者に容赦はしない。
第三にだんな様の意志をわたくしは尊重しなければならない。

保美香
 「やってやりますかしら……!」

もう恥も外聞もない。
これ以上皆さんに心配を掛けることはだんな様への不徳と同じ。

保美香
 「伊吹さん、お願いがあります」

伊吹
 「何〜?」

誰かにお願いするのは初めてだ。
いつも自分で全て熟してきた。
でも今回だけは駄目だ。



***



そして夜。


 「ただいま〜」

いつものように帰宅。
今日は遅くなり夜9時を迎えていた。
家へと帰ると、その違和感に気がついた。
まず、いつも予知したかのように玄関にいる茜がいないこと。
そして保美香が現れない。


 「なんだこりゃ……保美香?」

保美香
 「あ、だんな様お帰りなさいですわ」


 「ご主人様。お帰りなさい」

ダイニングテーブルに向かうと何故か、保美香を取り囲む茜と美柑と伊吹。
キッチンを見ると壮絶な散乱っぷりから何が起きたのか大体予感できる。
そして保美香が食べさせられているのは。

保美香
 「不味いですわ」


 「……一体何が起きたんだ?」

明らかにできの悪いぐちゃぐちゃの卵焼きを食べる保美香。
なんだかちゃんと保美香が食べている所って初めて見た気がする。

美柑
 「はぅ……卵焼き失敗ですぅ」

作ったのは美柑らしく、あまりの不出来に意気消沈していた。

保美香
 「油挽きました? 焼き加減も滅茶苦茶ですし、こっちの肉じゃがは……まぁ60点をあげますわ」


 「それ、ビーフシチュー……」

こっちは茜が作ったのか。
確かに見てくれは肉じゃがにしては妙だったが、ビーフシチューとはな。

保美香
 「そして、伊吹さん。これはなんですの?」

伊吹
 「え? ○ッグカツだけど?」


 「駄菓子じゃねーか!」

思わず突っ込まずにはいられない。
もはや料理ですらなく、しかしそれが一番美味そうだと言うのだから皮肉としか言いようが無い。


 「……それで、これはなんの騒ぎなんだ?」

俺は半ば呆れて、脱力して皆に聞くと、皆は俺に振り返り。


 「今日は保美香を楽させるデー」

保美香
 「だ、そうですわ」


 「なるほどねぇ」

それでキッチンが壊滅しているのか。


 「一応聞くけど、それ俺も食わないといけないわけ?」

とりあえずそろそろ着替えようかと思うのだが、晩酌にはレベルの高いラインナップである。

保美香
 「申し訳ございませんが、それは全力で阻止しますかしら」

その時の保美香の顔は普段のほんわかではなく本気の目だった。



その時、保美香は少し思い出す。
自分の料理でさえ、まともに食える気はしなかった。
だからこそ、自分が食べる料理を自分の認識の外から持ってきた。
いっそ料理らしくない方が食べられた。
それは当然不味いが、それでも口に入れることは出来た。
自分の料理と他人の料理のギャップが、自分の中の歯車を正確に回し始めたようだ。

保美香
 (考えてみれば、美味しい不味いの判断は出来る……不味い方が忌避感がないとは因果ですわね)



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第7話 保美香の不安 完

第8話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/02/02(土) 15:43 )