突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第6話 勇気を振り絞って

突然始まるポケモン娘と同居する物語

第6話 勇気を振り絞って



暗い、昏い、薄暗い空。
硝煙のような噎せ返る香りの中、一人また一人と倒れていく。

美柑
 「主殿、ボクは主殿の安心安全だ。任せてくれ」

そう言って盾を構えるボロボロの美柑。
何が起きているのか、街は滅茶苦茶に破壊し尽くされ、夥しい血が辺りを染め上げている。

暗い、昏い、漆黒の闇が世界を包み込む。

伊吹
 「言ったろ〜、アタシは茂君の傍だと幸せだって、茂君がいれば〜不幸だって逃げるさ〜」

明ける太陽、俺は伊吹を抱きかかえていた。
両肩を赤く染め、それが既にもう手遅れだと気づける。
それでも笑顔で、彼女は気丈に振る舞った。

暗い、昏い、世界は何度闇に飲まれたのか。
そこは戦場だ。

保美香
 「ああああああ! だんな様から離れろーーっ!」

怒り狂ったように保美香は敵と戦った。
いくら打ち倒されようとも立ち上がり、絶望に立ち向かう。

暗い、昏い、漆黒が全てをなぎ払った。

そして世界は全てを失った。
全てが滅んだ世界で生きることに絶望して、そしてそれでも終われないことに絶望して。
それでも彼女は光となった世界でただ一人佇む。

少女
 「今度こそ、私は奇跡を……」



***



ジリリリリ!

伊吹
 「茂君〜朝〜朝だよ〜」

……今日は嫌なくらい寝覚めが良かった。
いや、正確には最悪の寝覚めだ。
なんだか胸くそ悪い夢を見てしまった。
アレはなんだ……皆が死んでいく夢?
なんでそんなクソみたいな夢を見なくちゃならないんだ。

伊吹
 「朝だよ〜朝ご飯食べて学校行くよぉ〜」


 「いつから俺たちは学生になった?」

伊吹
 「やっと起きたぁ〜♪」

朝7時、妙に早起きな伊吹が俺を起こしに来たが、彼女では寧ろ眠気を誘う気がする。
いい加減夢のことは忘れるとして、俺はベッドから出た。


 「着替えるから」

伊吹
 「うん」

そう言って上着を脱いでカッターシャツに手を掛ける。

伊吹
 「手伝おうか?」


 「いい……って、なんで居るんだよ!?」

あまりにも自然すぎて気がつかなかったが、伊吹はその場から一切動いておらず、じっと俺の着替えを見ていた。


 「着替えるって言っただろう!」

伊吹
 「だから〜?」


……駄目だ、どうにも話が通じない。
俺もまだ伊吹の事を完全に理解している訳じゃないが、どうも彼女が一番倫理観がズレている気がした。
そもそも伊吹には羞恥心が備わっていない。
俺の着替えを見てもなんとも思わないし、自分の着替えを見られてもなんとも思わないタイプだ。
キャーエッチ〜! なんていうピンクなトラブルは彼女には存在しないのだ。


 「命令だ、出て行け」

伊吹
 「りょ〜か〜い」

だが伊吹も命令なら聞いてくれる。
流石に大人とはいえ、女性に着替えをガン見されて正常じゃいられない。
ああいう天然エロはレベルが高すぎる。


 「……さっさと着替えよう」

着替え終えてリビングに向かうと既に全員揃っていた。
律儀に俺を待っていたらしく、朝食を目の前に全員が待っている。

保美香
 「おはようございます。だんな様」

そう言って恭しく頭を垂れる保美香、彼女だけは座席に座ってはいない。
相変わらず家事を全て任せっきりの保美香には申し訳がない。
朝食も一から丁寧に作られた和食であり、彼女の気遣いが分かる。


 「ご主人様。早く早く」

既に腹ぺこの茜はさっさと食べたくてうずうずしている。


 (……やっぱりそうだよな)

夢の最後に出てきた少女は茜にしか見えなかったが、茜じゃなかった。
この目の前の少女はあんなシリアスなキャラじゃない。

美柑
 「主殿、ボクも腹ぺこです〜」


 「分かった分かった」

こいつらの律儀な所は俺を一々待っているという事だ。
正直おのおの勝手に食べればいいものを、それでも俺の着席を待つ。


 「それでは皆さん、お手を合わせて頂きます」

俺の号令を聞くと腹ぺこ軍団が一斉に動いた。
茜と美柑は特によく食べる。
流石に量は茜の方が食うが、普段から身体を鍛えているだけに美柑もよく食べる。
一方マイペースに漬物をポリポリ頂く伊吹は非常にゆっくりだ。
体格から考えれば小食な伊吹はそれでも食べ終えるのに30分はかかる。
そして例によって食べていないのは保美香だ。
保美香はいつも試食で済ましてしまう。
本人の性分だから仕方がないのだろうが、たまには朝ご飯を一緒に食べたいよな。

伊吹
 「……うーん♪ アタシはこのお漬物さえあれば何もいらないよぉ〜♪」

伊吹は本当に美味しそうに漬物を食べると、まるで食レポをしている芸能人のように頬を綻ばせた。
あまりに美味そうに食べるものだから、俺たちもつい漬物をポリポリ頂く。
うん美味い、流石保美香よな。
とはいえ、特段いつもと変わりは無いが。

美柑
 「伊吹さんは、そんな大きな身体なのにどうしてお漬物だけで満足できるのでしょうか」


 「草食動物がデカいのは基本だよな」

恐らく実際には雑食なのだろうが、元のヌメルゴン自体『そうしょく』の特性を持つくらいだ、生粋のベジタリアンと言えよう。
そういう点で言えば美柑なんて元のギルガルドからすればよく食べるもんだ。


 (ただし栄養は剣と盾に行く)

美柑が常に手放さない剣と盾。
ある意味美柑の本体だろうな。


 「ご馳走様」

保美香
 「はい。お粗末様でした」

案の定一番最初に食べ終えたのは茜だ。
早食いで大食いな彼女の食べる勢いは誰も勝てん。
食べ終えた茜は直ぐさまテレビの前に行った。
朝の定番、特撮番組に最近は熱中している。


 「ご馳走さん」

俺もキリの良い所で食べ終えると、食器を片づける。
既にこれからやること山積みの保美香に負担を掛けられないからな。


 「少し早いけど、それじゃ行ってくるわ」

保美香
 「はい、だんな様お気をつけて」

俺はネクタイを締めて、バッグの中身を確認する。
既に頭の方は平常運転だ。


 「ご主人様、行ってらっしゃい」

俺が玄関に差し掛かると慌てて茜がやってきた。
茜が絶対に欠かせないのはこの出勤時と帰宅時の出迎えだ。
俺は茜の頭に手を置くと、その頭を優しく撫でる。
そうすると茜気持ちよさそうに目を細めて、尻尾を振る。


 「はい、行ってきます」

いつもの光景、俺は茜の頭から手を離すと出社した。



***



テレビ
 『本日の午後は一部地域で天気急変、大荒れの天気となる模様ですので、お出かけの際は必ず傘のご用意を――』


 「……傘」

ご主人様がお仕事に行ってから、テレビでは天気予報をやっていた。
私は外を見たけど、外は明るく今の所降りそうにない。
保美香も鼻歌混じりに洗濯物を干しているし、どうなんだろう。

伊吹
 「ん〜? どうしたの〜?」


 「……雨」

小さく、それだけ呟くと伊吹は「ああ」と、納得した。

伊吹
 「こりゃ〜、大きいの来る臭いだね〜」

伊吹は水分のある場所を嗅ぎ分ける能力に優れる。
湿度はある方が好むし、自然とそういう場所に移動する。
つまり彼女は降ると予言したのだ。

さて、ご主人様は傘を持っていたか?
思い出すが、玄関では持っていなかった。


 「……!」

そうなると連想されるのはご主人様の姿だ。
傘がないとずぶ濡れになってしまう。
ずぶ濡れになると風邪を引く。
つまり傘がないとご主人様が困る。
そうして私が出した結論はこうだ。

ご主人様に傘を届けないと!

私は伊吹に何も言わず、すかさず走ると大きな傘を手に取って玄関を出た。



***



伊吹
 「……あるぇ〜?」

アタシが茜ちゃんと二三会話をしたと思ったら出て行った……。
一体何のため?
確か、茜ちゃんは傘を持っていったみたいだけど。

美柑
 「……茜さんがいないようですが、何処へ?」

そこへ入れ違うように帰ってきた汗だくの美柑だった。
美柑は毎日朝にジョギングをしてくる。
さっきも食事後直ぐに走りに行って、丁度茜ちゃんとすれ違いになったみたい。

伊吹
 「……え〜と、傘持って〜、出て行った?」

美柑
 「……は? 外って……あの茜さんが!?」

アタシはまだこの家の事情を全て把握しているわけじゃない。
だから最初美柑の驚きが理解できなかった。
しかし、美柑は顔を青くすると、アタシも流石に不味かったのかな、と思う。

伊吹
 「え〜と、丸投げ〜?」

美柑さんは直ぐさま玄関を出て行った。
アタシは何もしてあげられそうになくて、ただ心の中でごめんねと言った。



***



美柑
 「全くなんて無茶な!」

ボクは伊吹さんからある程度状況を掴むと(彼女の説明は要点が省かれすぎて分かりづらい)茜さんの捜索にでた。
保美香さんに相談するべきかと考えたが、彼女の手を煩わせるのも忍びない。
連れ戻すだけなら簡単の筈だ。
対人恐怖症の彼女が外に出たならば、直ぐに動けなくなるからだ。
何故外に出たのかが分からないが、直ぐ連れ戻せば問題は起きないだろう。

やがて、街に向かう方の道でやや大きめの傘を持った茜さんを発見した。
彼女が家から出たことも驚きだが、彼女がこんなに遠くまでやってこれたのも驚きだ。

美柑
 (……一体何してるんだろう、傘?)

上を見上げるが、飛行機が青空に映える快晴だ。
傘とは無縁に思えるが、彼女がそんな無駄のために危険を冒せるとは思えない。
とすると、傘は自分用ではなく、主殿のためか。

美柑
 「兎に角! 茜さん! 待ってください!」

ボクが後ろから追いかけると茜さんは気がついた。
振り返った彼女はどうして美柑がという顔だ。

美柑
 「待ってください! 全く……主殿に傘を届けようなんて無茶ですよ!」


 「大丈夫、できる」

なんの根拠か。
呆れてしまうが、こうなると茜さんはまず曲げない。
主殿には全力でデレるが、意外とそれ以外には意地っ張りだったりする。

「……第一茜さんは主殿の勤め先分かるのですか?」

ピタリ、足を止めた。
やっぱり、そこまで考えてなかったか。
多分いつも主殿は駅に向かっていたから、とりあえず駅に向かえばいいとでも思っているのだろう。
そもそも主殿はそこから電車を使って更に移動するのに、この人は何処まで頭に入っているのか。


 「……ご主人様に傘届けないと」

美柑
 「だからと言って、それが茜さんでなくてもいいでしょう?」

そう言うと、涙目になりながら嫌々した。
大した主殿への懐きっぷりである。
レベルが上がったら即エーフィに進化するんじゃないだろうか。

美柑
 「……兎に角一度戻りましょう。場所も分からないのにどうする気ですか」


 「……知ってる」

美柑
 「はい、それダウトー」

分かりやすい嘘だ。
しかしなまじ強情になると、絶対に曲げないから困る。

美柑
 「はぁ……どうなっても知りませんよ?」

ボクがそう言うと彼女はずいずいと突き進んでいく。
ボクはある程度距離が離れると……念のため彼女の尾行を開始した。

美柑
 (……蹲るような事になったら絶対連れ戻しますからね!)

茜さん身体はずっと震えていた。
ちょっと前まで外に10分もいられなかったんだから、彼女のトラウマは重度のものだ。
それがちっぽけな勇気を出して、頑張っている部分はボクも評価するけど。
……兎に角絶対に守らなくちゃ!



***




 (ご主人様)

私はご主人様との思い出を一つ一つ思い出す。
電話の仕方を教えてもらった。
確かその時にご主人様はどこにいるか教えてくれた。
具体的な場所までは分からないけど、それでもご主人様の臭いが連れて行ってくれる。

やがて、駅前に近づくと人通りが増えてくる。
車も徐々に増えてきて危ない。
時折直ぐ傍を車が通って、私は身体を震えさせた。
怖い……人の目が何故これ程恐ろしく見えるのか自分自身分からない。
自分の耳に尻尾は特によく目立つみたいで、目線はよく集まった。
訳の分からないまま路頭を迷った日を思い出した。
何故ご主人様にあれだけ安心感を得て、逆にこれ程他の人間が恐ろしく見えるのか?


 (駄目……! 傘届けるの!)

恐怖が私を支配する。
訳の分からないトラウマ、それこそが矮小な自分自身。
だけど、私はご主人様の事を想う。

私は竦みそうになる足に力を入れた。
大丈夫、歩ける。
私はご主人様に近づいている。



***



保美香
 「茜と美柑が?」

わたくしは洗濯を終えると、随分とイレギュラーなことが起こったらしい。
茜がだんな様に傘を届けに出て行って、そして美柑が連れ戻しに行った。

保美香
 「ミイラ取りがミイラになりましたわね」

伊吹
 「それなんデスカーン?」

伊吹の微妙なギャグは無視する。
まずヒエラルキーから美柑が茜を止められるわけがないし、茜が美柑に従うはずがない。
わたくしにだけは茜も従ってくれますが、それは積み重ねの差ですからね。

保美香
 「……伊吹にはお留守番頼みますわ」

わたくしは外出用の私服に着替えると、念のために必要そうな物は揃えておく。
伊吹はのんびり屋だが、思考速度に関しては寧ろ速いと思われる。
ただ常識が欠けているから、それを教えるのが課題ですわね。

伊吹
「りょ〜か〜い」

それと念のために、私は電話の受話器を手に取った。



***


美柑
 「むむ……結構頑張るな」

駅前にたどり着いた茜さんは、途中何度か足を止めたが、それでも意思を曲げずに頑張っている。
途中道に迷ったようだが、しばらくすると駅には入らず高架下を進んでいく。

美柑
 「……大丈夫かなぁ」

保美香
 「わたくしからしたら貴方の方が心配ですわね」

突然ボクの後ろに色白の外人モデルみたいな人が現れた!
よく見たら保美香さんな訳だが、私は不意打ち登場に素っ頓狂な声を上げてしまう。

美柑
 「ぴぃや!?」

保美香
 「あら、可愛い鳴き声かしら」

尾行を続けるボクを後ろから追跡していたのは保美香だった。
ボクはゴーストタイプだから、存在感を薄くする事ができる。
それでも生粋のゴーストタイプじゃないから、存在を消せる程じゃないけど、意識を遠ざける位はできる。
それなのにこうも簡単に後ろとられるなんて……。

保美香
 「そんなんじゃ刀○男子にはなれませんわね」

美柑
 「あんな稀代の名刀たちと肩並べるとか無茶振りですから!」

アレは長いもので数百年の歴史を持つような名刀達の擬人化だ。
あんな凄い剣たちの仲間入りは夢だけど……。

美柑
 「……後、ボクは♀だからどちらかというと刀剣乙女だし」

……て、そういうこと言い合ってる場合じゃない。

美柑
 「保美香さん、茜さんが」

保美香
 「委細承知かしら。でも……もう少し信頼しませんこと?」

保美香さんの目線は心配とは少し違った。
彼女は茜さんを見逃さない距離を保つと静かに語り出す。

保美香
 「だんな様もそうですけど、茜に対して過保護ですわね。あの子はこんな程度では挫けない強い芯の持ち主ですわ」

美柑
 「でも、引っ越しの時……」

保美香
 「……甘えられる場所では全力で甘える。それでも甘えられない場所では一人でやっていけますわ」

……正直茜さんのことは保美香さんが一番よく知っているから、これ以上はボクには反論は出せない。

保美香
 「それに臭いだけには頼らず、だんな様の所に近づいてますわね」

確かに、一度彼女は駅前で止まった。
そこで臭いの行方が分からなくなったんだろう。
だから大雑把に目安をつけて高架下を歩き出したのだ。
主殿の新しい気配が見つかるまで進む気だろう。

保美香
 「……わたくしたちに出来る事は精々悪い虫から茜を守ることかしら」

美柑
 「分かりました」

なんだかんだで、茜さんは目立つし、ここは治安が完璧じゃない。
高架下は表通りと違って人通りも少なく、それだけに治安は不安定。
今の所見られているだけなら、なんとか踏ん張っているが、声を掛けられたら一瞬で気丈さも崩壊するかもしれない。
それ位、茜さんは薄氷の上を進んでいる筈だ。



***




 「ん〜……!」

17時、既に夕刻で天気が徐々に悪くなっていた。
俺は溜まった仕事を片づけて一息ついた。
正直今の俺は茜の事で頭が一杯だ。
アイツが俺に傘を届けるために向かったと保美香から電話が来たとき、血の気が引く思いがした。
幸い、美柑も付いているという事だがそれでも、途中で動けなくなるんじゃないかとか、悪い人間に声を掛けられたらどうしようとか心配事が一向になくならない。

大城
 「雨、降ってきたなぁ」

隣で大城は空を見上げるとそう呟いた。
ウインドウのガラスを雨が叩く。
傘を用意していなかった勢から小さな悲鳴が聞こえた。


 (大丈夫かなぁ?)



***



保美香
 「……最悪ですわ!」

もう少しでだんな様の勤め先にたどり着くという所で雨は降り始めた。
私は岩タイプ、雨程度ではへこたれないがそれでも嫌なものは嫌だ。
それよりも最悪なのは、洗濯物を取り入れてないということ。
こればかりは伊吹を信用するしかなく、もはやこの失態は全て自分が受ける覚悟だ。

美柑
 「茜さん、迷ってますね」

雨に困ったのは茜もだ。
しかし茜は傘を持っているから使えば問題はない。
だが茜が傘を使うことはなかった。
傘はあくまでだんな様のためであり、自分が使うわけにはいかない……そう考えているのだろう。


 「……!」

意を決したのか茜は駆け出す。
途中に後生大事にする傘を何故使わないか不審に思う者もいたが、彼女は傘を差すことはなかった。



***



すっかり暗くなった。
急いで仕事を終わらせて、ほぼ最速でタイムカードを切った俺はビルの入口で見知った顔を見つける。


 「……! ご主人様」


 「茜!」

ビルの中に入ればいいものを、茜は外で待っていた。
外の軒では完全には風雨は防げないだろうに。


 「あの、ご主人様、これ」

大事に抱えていた傘は俺の傘だった。
茜は傘を使うこともなく、ただ待っていたのか。


 「茜! どうしてこんな無茶した」

俺が少し怒気を見せると茜はビクっと怯える。
こんなにか弱いのに、こんなに儚いのに。
それでもどうして頑張れたのか。


 「だって、雨……ご主人様、傘」

言葉が足りない。
涙がこぼれて、茜はまともに喋れていない。
俺は今朝のように茜の頭に手を置いた。
そして手で頭の雨を払って。


 「たく、一緒に帰るぞ」

俺は傘を開くと無理矢理茜を手繰り寄せた。
茜は驚いた顔をしたが、やがて穏やかな笑顔で相合い傘の中に入る。


 「ごめん、なさい」

今回は自分の無茶も理解したのだろう。

それでもこれまでの大冒険を考えればそこまで強くは怒れない。
あえてはっきり言えば、俺が過保護なのも問題だろう。
本当は素直に褒めるべきなんだろうが、どうにも心配が勝ってしまった。


 「よく、その……頑張ったな」

正直最っ高に自分らしくない。
なんだこれ、娘の前で素直になれない不器用親父かよ。
しかし身体を密着させた茜は俺の顔を見上げると、笑っていた。

なんだか、今日の茜は少し違うように見える。
どう違うのか、具体的には答えは出ないが強いて言うなら。


 (女を意識するか)

子供じゃない、一人の女性として意識してしまう。
彼女の時々見せるその顔は嫌が応にも胸を高揚させた。



***



ガタンゴトン、ガタンゴトン。

電車の座れる席を見つけるとなんとか茜を座らせた。
奇異の目が当然茜を襲うが、それを許す俺じゃない。
たまに死んだ魚の目と言われる目つきの悪さはここで役に立った。
疲れたのか、茜も眠ってしまいそれでも彼女は俺の手を離さなかった。



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第6話 勇気を振り絞って 完

第7話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/02/01(金) 21:22 )