突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第2話 這い寄るのは混沌か、ポケモン娘か

突然始まるポケモン娘と同居する物語





 「あーもう。課長爆発しろ」

茜が居座って1週間が経った。
それまで想定していたような異常事態は特になく、茜も家に引き籠もっているからか、生活に何も問題はなかった。
問題があるとすれば相変わらず自分自身の事ばかり、今日も会社の愚痴を言っては出社している。


 (何かあれば茜になんとか電話の使い方は習得させたし、なんとかなるはずだ)

そのイーブイ娘こと茜だが、あいつは俺以上にコミュ症かつ駄目人間だった。
一体これまでどうやって生きてきたのか、野性味溢れる彼女は文明の利器を全く理解しない。
正直言えば、一人で置いておくことがこれ程心配な事はない。


 「とはいって、会社を休むわけにもいかんし、社会人は辛いぜ」

早速溜息が零れるが、これはまだ電車に乗る前だ。
通勤ラッシュで更にストレスがマッハになることをげんなりしながら、俺はホームに向かった。



***




 「………」

静かだ、静かな世界。
ご主人様がいない世界はとても静寂で、私は薄ら明るい部屋の中心で三角座りしていた。
ご主人様が仕事に行ったらいつもこうやってご主人様を待つのが私の役目。
ご主人様の帰りは遅いけど、私は寂しくて潰れそうだけど、我慢する。
散乱した紙袋や洗濯物、ご主人様は片付けない人だからどうしても増えていく。
それさえ、私にはどうすることも出来ない、ただ無力だ。


 「ご主人様の匂い……」

部屋の中に染みこんだ生活臭、それはご主人様の匂いで私はそれだけが安心に繋がる。
時々外からガタゴトと音がすると、理由も分からない恐怖が私を襲い、私は更に縮こまった。


 「私は誰……?」

私には『生き物』が持つべき当たり前の記憶がない。
気が付けばこの世界にいて、以前の世界ではどうやって生きてきたのか、それがあまりにも無味乾燥している。
ただ、私の中では標になったのはご主人様の存在。
ご主人様だけが私の希望……私が誰だっていい……ご主人様に愛されるなら。


 (これでいいのかな……)

だけど、私はご主人様に愛される資格があるの?
私はご主人様になにもしてあげられない。
お仕事を手伝うことも、家の片付けも、美味しい料理も、なにも出来ない。
ただ、存在価値のない私を……自分自身鬱屈に思う。
そう……変わりたい……!

その時だった。

リビングの中心で空間に穴が開いた。
ワームホールによって繋がれた異世界からなにかが迫り出してきた。
その穴はどこか見覚えのある。
そして、懐かしい雰囲気があった。
そして穴から迫り出してきた者が自身と同質であると理解できた。


 「あらぁ〜? ここはどこかしら?」

『それ』は穴から完全に出てくると、穴は自然と消滅し、気がつけば自分と『それ』しか部屋には残っていない。


 「あら? 貴女はどなたかしら?」

『それ』は真っ白の帽子を被り、白いワンピースを着た女性の姿をしていた。
身長も自分に比べると随分大きく、ご主人様と同じくらいあるかもしれない。
スタイルも私と違い胸も大きく、腰もくびれている。
長いブロンドの髪が腰近くまであり、ゆらゆらと揺らめいた。
しかし、ふわふわと地面から浮いており、実際には天井スレスレから自分を見下ろしていた。


 「私は茜……です」

謎の女性
 「アカネ? あららぁ? 『契約』しているのね? という事はクンクン」

そう言うと『それ』は鼻を動かすようになにかを感知していた。
実際には生きているように動く腰まで伸びた『髪の毛』が、なにかを感知しているようだ。
あくまでも人間風の動きに『置き換えられた』ポケモンであると理解できる。
でも……何故? どうして私は『ソレ』がポケモンだと理解できた?
どうして、何がどのように置換されたか、どうして理解できるの?

謎の女性
 「はぁ……噎せ返るオスの匂い……貴女の主はだんな様なのねぇ?」


 (……なにか、理解できない事言ってた気がする)

頬に手を当て、肌を上気させるその姿は私の思考を遥かに越えている気がする。
謎の女性は直ぐに表情を笑顔に戻すと、私に向き直った。

謎の女性
 「だんな様は一体どこかしら?」


 「……お仕事」

謎の女性
 「あらら? それなら待たせて頂きましょうかしら?」

そう言うと彼女は恭しく着地すると正座で腰掛けた。
その身振りには自分とは桁違いの文明の香りがする。
あえて言うなら、これが大人の女性なのだろう。

謎の女性
「とはいえ何もせず待っているというのも退屈かしら? 部屋の案内をお願い出来ない?」


 「……えと」

そう言われても、自分自身どうすればいいのかよく分からない。
このワンルームにはリビングにキッチンとバスルーム、そして個室が二つある。
一つは物置で、ご主人様は実質リビングで寝るから個室はご主人様から借りている状態。

謎の女性
 「うーん? どうも貴女とコミュニケーション取るのは難しそうかしら?」

彼女の髪の毛がざわつく。
ゆらりと狙いを定めたように一斉に毛先が私に向く。
女性の温和な顔とは対照的なある種、異形な行為。

謎の女性
 「『同調』すれば分かるかしら?」

言葉の意味が理解できない。
温和な女性の言葉はまるで別の星の生物の言葉のように聞こえる。
やがて自分が身動きを取れない事に気づくと、髪の毛が目の前に迫り……止まった。

謎の女性
 「……なんて。冗談かしら?」

髪の毛はストンと地面に落ちると、女性の元に戻って行った。
危険な感じはしない、だけど同時に安全な感じもしない女性だった。
ただ……この女性は、私の転機になる気がした。



***




 「……うーん」

俺はモニターを前に背伸びをする。
黙々と仕事を熟す職場は、キーボードを叩く音が中心で少々眠気を誘うのが適わん。

大城
 「やべ、眠い」

夏川
 「春眠暁を覚えず」


 「お前ら、寝るな。あと季節は初夏だ」

俺は大城の頭を小突くと、大城も頭をブンブン振った。

大城
 「ちょっとコーヒー貰ってくるわ」


 「俺の分も頼むわ」

俺は漠然と仕事を熟すが、今日はいつもより仕事が少ない。
と、安心した所にドカッと残業用意するのがウチのクソ課長だから油断できねぇんだがな!
大城を待つ中、ひたすらサーバアップデートで時間を潰させられ、プログラムミス一つ許されねぇんだから、給料は良いけど苛酷だぜ。


 (茜の事を考えると……俺も少ししっかりしねぇとな)

俺の貯金残高は結構貯まっている。
一人だと言うほど使い込む理由がなければ、大半は食費と居酒屋で消えるから、貯まる方が早い。
とりあえず家に帰ったら、ゴミだけでも捨てないとな。

大城
 「ほれ、常葉」


 「サンキュー、苦っ」

大城は初夏だっつーのに、ホットでブラックコーヒー持ってきやがった。
仕方がないので飲むが、まぁ空調で26度に固定された職場ではこれでも構わんか。

夏川
 「俺、この仕事終わったら二次嫁と結婚するんだ……」

大城
 「夏川、それは死亡フラグだ!?」


 「結婚したいとか、意味が分からん」

俺は他人が結婚するのは別に止めんが、自分が結婚するのはご免だ。
誰かを愛するっていうのが億劫になって、イチイチ嫁の事を気に掛けられるほど俺は出来ちゃいない。
結局孤独の方が気楽で、刹那に生きる方が負担が少ない。

大城
 「常葉ってタンパクだよなぁ、俺だってまだ結婚は……て思うが、それでも結婚したら変わると思うぜ?」

大城は俺よりは結婚願望がある。
とはいえお互い23歳、女性ならともかく男性ではまだ早いだろう。



***



今日の帰りは珍しく早くなった。
仕事がいつもより少なく、定時退社出来たからだ。
あのクソ課長もなぜか今日は残業用意しなかったな……。
なんだかんだで労基法の残業規定とかもあるし、そのうちまとめて休暇取れとか言われそうだ。

というわけでまだ明るいうちに家に帰れる。
今日は茜も連れて外食でもしようかと考える。


 「そう言えば、茜が外に出るの見たことがないな」

茜は極端に自分のテリトリーから離れようとしない雰囲気があった。
単に臆病だから、というよりもっと大きな意味があるのか分からないが兎に角マンションの外には出ない。
単なる引きこもりならそれでいいんだが、なまじもはや現実から乖離したポケモン娘故にどんな無茶ぶりがあるか分からない。
それこそ宇宙の法則が乱れる! とか言われても困るわけで。

そうこうしているとマンションにたどり着いた。
まぁ、茜に限ってそんな壮大なフラグはないだろうと思うわけだが、これって親心なのか?
よく分からないまま階段を上って部屋の前までたどり着くと、異変に気がついた。


 (馬鹿なっ!? 給湯器が動いている!? それにこの匂いはっ!?)

ガスが使われるとガスメーターが動く。
外部から中の様子が分かる手段の一つだ。
少なくとも風呂を沸かしているのは確実で有り、更に何かいい匂いがするのだ。

いずれにせよ、文明の力をフルに使っている事が分かる。


 (し、しかし! まともに電話の応対も出来ない茜にそんな事が出来る筈がない! 断言しよう! 茜には不可能だと!)

だとすると当然考えられるのは外部の人間だ。
正直人付き合いが壊滅級な俺は近隣住民など誰一人知らんが、もし何かの事情で茜が応対しているなら招き入れている可能性はある。
幸い茜の人畜無害っぷりはほぼ敵を作る事はないだろう。
寧ろあのつぶらな瞳にノックアウトされる可能性の方が高い。


 「……ただい」

意を決してドアを開く。
そこにいたのは茜……ともう一人。

謎の女性
 「あら、だんな様お帰りなさいませ」


 「だ、誰だ貴様はっ!?」

俺は想定外の美人女性に奇声を上げた。
そこにいたのはブロンドの金髪美人女性だった。
部屋の中だというのに帽子を被り、白いワンピースを着た大人の女性……それが今、包丁を握っている!?



***



謎の女性
 「……ただ待っているというのも退屈なものですわね」

時刻は午前10時を迎えていた。
まだご主人様が帰ってくるには大分掛かる。
ご主人様はいつも20時ほどで帰ってくる。
いつもは退屈な時間だ。

謎の女性
 「さてと」

何をする気なのか、女性は立ち上がると何かを探し始めた。


 「なに、しているの?」

謎の女性
 「今後の事も考慮して、お掃除でも始めようかしらと」

そう言うと掃除機を発見した彼女はこれ幸いと、いとも簡単に電源を入れてしまった。
コードレスタイプの掃除機はけたたましい音(私この音嫌い)を鳴らしてゴミを吸い込み始める。
見えない所にも埃が溜まっており、彼女は楽しそうに鼻歌を歌いながら手際よく掃除を始めた。

謎の女性
 「もしよろしければ、雑巾の用意をお願い出来ますかしら?」


 「雑巾……」

あったかな……部屋の中を探すとキッチンにそれらしき物を発見する。

謎の女性
 「バケツに水もお願いしますかしら」

彼女は優秀だ、それこそ自分を遙かに超えて、ご主人様寄りかもしれない。
みっちり2時間掃除を終えると部屋は見違えるほど綺麗になっていた。
更に彼女は勝手に衣服の清掃を開始して、更に冷蔵庫を確認した彼女は包丁を手に取った。
その姿、まごう事無き完璧なメイドのそれだった。

そしてご主人様は帰ってきた。



***



謎の女性
 「あらら? 申し訳ございませんだんな様。わたくしウツロイドと呼ばれるポケモンですわ」

メイド服でこそないが、そこにいたのは完璧にメイドのオーラを纏った女だった。
自らをウツロイドと呼んだ女性は包丁をまな板に置くと恭しく頭を垂れた。
ウツロイド……UB01。
確かにその姿はウツロイドを連想させるが、ウツロイドが少女を連想するのなら、この女性は大人の女性だった。


「ウツロイド娘……しばらく何もなかったのになんで……?」

ウツロイド娘
 「あ、込み入ったお話はお食事の後でよろしいでしょうかしら?」

そのウツロイド娘はさも当然のように包丁を手に取ると包丁を豆腐に入れてそれを鍋に注ぐ。
それは味噌汁……ではなく。


 「と、豚汁だと!?」

この女相当できる!
素人なら味噌汁もまともには作れない。
茜など恐ろしくて包丁など論外だ。
だがこのウツロイド娘は、それすら飛び越えて豚汁を作っている!


 「ご主人様、早く中」

やがて待ちくたびれた茜は催促するように俺の手を引っ張って中に迎える。
そこで俺は更に驚く事態に遭遇する。


 「な、なんじゃこりゃーっ!?」

そこは別の世界だった。
勿論冗談ではあるが、ある意味では冗談ではなかった。


 「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……今までの世界の解像度がアナログテレビから4kハイデフに変わっていた。何を言っているのか俺にも分からねぇが超スピードとかそんなチャチなもんじゃねぇ……もっと恐ろしい片鱗を味わったぜ……!」


 「???」

ウツロイド娘
 「ああ、だんな様。部屋が汚れていたとお見受け致しましたので、失礼ながら綺麗にさせて頂きました」

綺麗にする……うん、その言葉で間違ってはいないんだ。
問題はだ、それが大晦日の大掃除でもやらないレベルで綺麗になっていることが問題なのだ。


 「たった一日で?」

ウツロイド娘
 「ああ、それとだんな様。お風呂の方お入りくださいませ」

なんか、茜とは別ベクトルに凄い人来たなぁ……。
素直に開いた口が閉じなかった。



***



カポーン。

そんな効果音、実際家庭用の風呂場で聞いたことはないが、取りあえず脳内に響いた。
もはやここは自分の部屋であり、そして自分の部屋ではない。
もしかして世界線を越えてしまったんじゃないかと思う。
まぁ冗談抜きに世界線を越えてきたんじゃないかと思うポケモン娘が二人もこの家には居るわけだが。

……取りあえず今は風呂場で頭を落ち着かせる。

ウツロイド娘
 「あの、だんな様?」


 「その声は、ウツロイド娘か」

風呂場の曇りガラスの付いた扉にシルエットが浮かぶ。
何か用だろうか?

ウツロイド娘
 「良ければお背中流ししますわ」


 「……は!?」

そう言うとウツロイド娘は扉を開く。
服を着たままのようだが、風呂場に入ろうと。


 「ストーップ!! 何!? デリヘル!? 後で怖い人くるの!?」

ウツロイド娘
 「デリヘル? 怖い人かしら?」

分かってないようだ。
恐らく単なる善意。
正直嬉しいが、流石に不味いと思う。


 「あの、着替えだけ用意して出て行って貰います?」

ウツロイド娘
 「あらあら? 畏まりましたわ。ごめんあそばせ」

そう言うと彼女は一歩後ろに下がる。

ウツロイド娘
 「……正直言って、この身体ならそこまで問題はないとは思うのですが、やはり水は怖いものですわね」

そして扉は閉められた。
それは意外に思える言葉だった。
ウツロイドは岩タイプであり、その体はガラスに似たケイ素由来で出来ていると思われる。
当然水は大っ嫌いなのだろう。

だが、それは反対から考えたらどうなる?
水が嫌い、それこそ天敵ともいえるのにそれを理解した上でここに来るというのは?


 (……勇気出すってタダじゃないよな)

勿論あのウツロイド娘の事をよく知っているわけじゃない。
打算で動いているのかもしれないが、それにしたってじゃあメリットはなんだ?
そのメリットはデメリットを上回るのか?


 (ポケモン娘の考える事ってよく分からん)



***



風呂から上がると着替えはきちんと畳まれていた。
余程几帳面な性格なのか、整理にも本人の性格が表れているようだ。
俺はなるべく手早く着替えるとバスルームを出た。
すでに食事の用意を終えたのか、いい匂いが部屋中に広がっている。

ウツロイド娘
 「お待たせしました。だんな様」

テーブルには既に和食を中心に並んでいた。
茜は見たこともない理路整然とした、それこそ芸術的なその光景に目を輝かせた。
気のせいかお茶碗に盛られたお米すらレベルアップしているように思える。
……というか。


 「あれ? なんでお茶碗もお箸も分かったんだ?」

茜の席には茜用(元はスペア)のお茶碗が、俺の方は俺のお茶碗。
あまり積極的に自炊しないにも関わらず合っている。

保美香
 「それはヒミツかしら♪」

そう言ってウインクして人差し指を口元に当てる。
そして、料理は二人分しかなかった。


 「ウツロイド娘は食わないのか?」

ウツロイド娘
 「もう食べましたかしら」

そう言うとウツロイドはキッチンから離れた。
試食でお腹いっぱいというやつか?
俺は対して疑問にも思わなかったが、我慢できない茜が俺の服を引っ張る。


 「ご主人様」


 「ああ、もう食べていいぞ」

茜は俺が許可を出すと一気に食べ始めた。
茜は早食いだ、習性なのか知らないが食べられるときに蓄える本能なのか兎に角よく食べる。
俺もご飯をゆっくり口に運んだ。


 「……お店の味だ」

ウツロイド娘
 「炊飯ジャーでも、炊くときに顆粒タイプの和風出汁を使えば簡単かしら」


 「この豚肉美味しい……」

ウツロイド娘
 「豚の生姜焼きはビタミン豊富、これからの夏バテシーズンには最適かしら」


 (完璧超人か、コイツは?)

なぜ、冷蔵庫の少ない中身でここまでの事が出来るのか皆目謎だ。
正直これだけのスキルがあればどこでだって生きていけるんじゃないかと思う。

ウツロイド娘
 「……つきましては、だんな様。このウツロイドを家政婦として雇っては戴けないでしょうか?」


 「………」

正直言うと、家政婦としては100点所か120点の域だ。
彼女自身もここまでの行動は全てこのためのポイント稼ぎなんだろう。
こんな人が家政婦に来てくれるならこんなに嬉しい事はない。
でも、本当にいいのか?


 「正直言ってだ。ウツロイド娘なら大富豪の元にでも行けば大成功するんじゃないかって思う」

ウツロイド娘
 「そうですね。自惚れになりますが社交性はあるつもりかしら」

だからこそ。


 「俺の名前は常葉茂。こんな雇い主でいいのか」

ウツロイド娘
 「寧ろ捨てられるのは屈辱ですわね」

だったら。


 「これから宜しくお願いします」

俺はウツロイド娘に頭を垂れた。
正直ウツロイド娘の得体は知れないが、でも逆に考える。
異邦人である彼女自身は何も恐ろしくないのか?
絶対にそんな事はないだろう。

人は未知の怪物を恐れる。
だが未知の怪物は何も恐れない豪傑なのか?
そんな事はないだろう。
異邦で生きるのは地獄のような物だ。
それはウツロイドには特に引っかかる筈だ。
ウルトラホールから現れるUBはそれ単体が害悪ではない。
寧ろウツロイド娘は被害者とでも言うべき立場だろう。

ウツロイド娘
 「それでですね。わたくしに名前を授けては……」


 「保美香(ほみか)、でいいか?」

ウツロイド娘は珍しく驚いたように目を瞬いた。
まさかもう用意されていたとは思わなかったのだろう。
だが、こちらとしては想定していた。

保美香
 「保美香……契約完了かしら?」

そう言うと手を口に当てて、安堵したように微笑んだ。
茜と保美香、なにゆえ2人もポケモン娘が俺の前に現れたのか分からない。
ただ一つ分かったことがある。
1度目は偶然だが2度目は必然だ。

そして――三度目も遠からず来るのだろう。
それは、ある意味確信であった。



***



――その夜。


 「ウフッ、ウフフ……」


 「……?」

リビングで寝ていた俺は違和感を感じた。
体が重い、そして声が聞こえた。
うっすらと目を開けるとそこには保美香がいた。

保美香
 「ああ、だんな様わたくし幸せですわ♪ 今から保美香はだんな様と『同調』して、神経を流れる電気信号を相互循環、一緒に絶頂を迎えるのですわ」

……やばい、保美香が何を言っているのか分からない。
微かに見えた保美香の顔は温和なそれではなく、艶やかで頬を紅潮させ、アヘっている。
髪の毛がざわざわと蠢き俺の体を這う。


 (……そう言えばウツロイドって神経毒で)

保美香
 「ああ、挿入してしまいますわ。だんな様とピー(自主規制)してイキますかしら」

取りあえず絶体絶命なのは理解できた。
体は……動く。
俺はそれを確認すると保美香の髪の毛を強く握り混む。

保美香
 「ひぃあっ!?」

軽くイッたらしい、俺の腰に馬乗りになった保美香の体が痙攣する。


 「……まさかと思ったが、髪の毛がウツロイドの触手って訳か」

保美香
 「そ、そんなだんな様起きて……ヒゥ!?」


 「なら髪の毛には神経が詰まっている訳だ?」

ウツロイドは人間と同化して身も守る習性があるらしい。
それ自体はウツロイドの自衛手段に過ぎないだろう。
問題はこいつに場合。


 「それで、これは一体どういう状況な訳?」

保美香
 「……よ、夜這いかしら?」

それはご褒美……じゃない!


 「初日で夜這いする変態メイドか貴様はー!」

保美香
 「ああっ、駄目! 今触手強く握られたら!」

保美香の身体が海老のように跳ねる。

保美香
 「ーーーー(自主規制)!!!!?」

深夜3時、保美香の艶美な叫声が木霊した。



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第2話 這い寄るのは混沌か、ポケモン娘か 完

第3話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/01/28(月) 15:09 )